(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
各基板の各基面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから構成され、両スクロールの前記各ラップ間に形成された膨張室で作動流体を膨張させることにより、前記可動スクロールを公転旋回運動させて動力を回収する膨張部と、該膨張部で回収された動力で前記作動流体を圧縮する低段側の圧縮部とを備え、高段側の圧縮機で圧縮された高圧の前記作動流体を前記膨張部の中心部より吸入するスクロール流体機械において、
前記可動スクロールの背面側に形成された背圧室と、
該背圧室を中心部と外周部とに仕切るシール部材とを備え、
前記背圧室の中心部に前記高圧に保たれた前記作動流体を供給し、前記背圧室の外周部には前記圧縮部の吐出圧力に保たれた前記作動流体を供給することを特徴とするスクロール型流体機械。
前記圧縮部は、前記膨張部の外側における前記両スクロールの前記各ラップ間に形成された圧縮室で前記作動流体を圧縮することを特徴とする請求項1に記載のスクロール型流体機械。
前記可動スクロールの旋回運動に応じて、前記固定スクロールのラップにより前記貫通孔の入口が開閉されることを特徴とすることを特徴とする請求項3に記載のスクロール型流体機械。
前記貫通孔の入口は、前記膨張室内の作動流体が液相線を越えて湿り蒸気領域となった後に閉じられるよう構成したことを特徴とする請求項4に記載のスクロール型流体機械。
前記貫通孔の入口が閉じられたとき、前記背圧室の中心部と外周部とを連通する圧力逃がし路を備えたことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のスクロール型流体機械。
前記可動スクロールの背面に形成された溝により前記圧力逃がし路を構成し、前記シール部材が前記溝の端部を塞いでいる状態では前記背圧室の中心部と外周部は非連通状態となり、前記シール部材が前記溝を跨ぐことで前記溝の両端部が開放され、前記背圧室の中心部と外周部が連通されるよう構成したことを特徴とする請求項6に記載のスクロール型流体機械。
前記シール部材で仕切られる前記背圧室の中心部を、前記可動スクロールの旋回中心から、前記偏心軸部の偏心方向に、前記可動スクロールの旋回半径の1/2ずらしたことを特徴とする請求項3乃至請求項8のうちの何れかに記載のスクロール型流体機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように従来では、可動スクロール110の背圧室168(膨張部102と圧縮部104に対応する全体)が圧縮部104の吐出圧力とされていた。一方、可動スクロール110の基面の中心部には、高段側の圧縮機の吐出圧力が加わる。この圧力の大小関係を
図15に矢印で示す。この図において、矢印の長さは圧力の大きさを示している(以下、同じ)。このように、可動スクロール110に加わる背圧室168からの圧力は全体に比較的低く、基面に加わる圧力は中心部が極めて高い状況となるため、作動流体の漏れが発生し易い可動スクロール110の基板110Aの中央部が、
図16のように撓んでしまう。
【0010】
これを解消するために背圧室168全体に高段側の圧縮機の吐出圧力を供給すると、今度は固定スクロール108と可動スクロール110の基面間の摺動抵抗が増大し、効率が著しく低下してしまう問題があった。
【0011】
これを防止するために、前記特許文献2の如く背圧室168をシール部材で中心部と外周部とに仕切り、中心部に膨張部102の吸込圧力(高圧)を供給し、外周部には膨張部102の吐出圧力を供給する構造が提案されている。
【0012】
しかしながら、膨張部102における膨張過程での圧力変化の特性は、膨張部102に吸い込まれる作動流体の温度によって大きく異なる。
図17は膨張部102の入口における作動流体の温度が+40℃の場合の膨張過程での圧力変化を示し、
図18は膨張部102の入口における作動流体の温度が+20℃の場合の膨張過程での圧力変化を示す。尚、各図において縦軸は圧力、横軸は可動スクロール110が公転旋回するクランク角を示す。また、
図19は
図17の場合の可動スクロール110の基面に加わる圧力と背圧との大小関係を示し、
図20は
図18の場合の可動スクロール110の基面に加わる圧力と背圧との大小関係を示す。
【0013】
これらの図から明らかな如く、膨張部102の入口における作動流体の温度が高い場合(
図17、
図19)、膨張過程の圧力の低下が緩慢となるため、可動スクロール110を固定スクロール108から引き離そうとする力は大きくなる。但し、膨張による動力も大きくなるため、圧縮部104における仕事量は増大する。
【0014】
一方、膨張部102の入口における作動流体の温度が低い場合(
図18、
図20)、膨張過程の圧力は膨張初期に急激に低下するため、可動スクロール110を固定スクロール108から引き離そうとする力は小さくなる。そして、膨張による動力も小さくなるため、圧縮部104における仕事量も減少する。
【0015】
このように、膨張部102における膨張過程での圧力変化の特性が、膨張部の入口における作動流体の温度によって大きく異なるため、特許文献2の如くシール部材により背圧室168を中心部と外周部とに仕切り、中心部に膨張部102の吸込圧力(高圧)を供給し、外周部に膨張部102の吐出圧力を供給するようにした場合、或る作動流体の温度では最適であっても、温度が上昇した場合には背圧が過剰となって摺動損が増大し、逆に低下した場合には背圧が不足して漏れが生じ、何れの場合にも効率の低下を招く。そのため、膨張部102の入口の作動流体温度に対応する調整手段を別途設けなければならなくなる問題があった。
【0016】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、膨張部の入口における作動流体の温度が変化した場合にも、可動スクロールに適切な背圧を印加することが可能なスクロール型流体機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のスクロール型流体機械は、各基板の各基面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから構成され、両スクロールの各ラップ間に形成された膨張室で作動流体を膨張させることにより、可動スクロールを公転旋回運動させて動力を回収する膨張部と、この膨張部で回収された動力で作動流体を圧縮する低段側の圧縮部とを備え、高段側の圧縮機で圧縮された高圧の作動流体を膨張部の中心部より吸入するものであって、可動スクロールの背面側に形成された背圧室と、この背圧室を中心部と外周部とに仕切るシール部材とを備え、背圧室の中心部に高圧に保たれた作動流体を供給し、背圧室の外周部には圧縮部の吐出圧力に保たれた作動流体を供給することを特徴とする。
【0018】
請求項2の発明のスクロール型流体機械は、上記発明において圧縮部は、膨張部の外側における両スクロールの各ラップ間に形成された圧縮室で作動流体を圧縮することを特徴とする。
【0019】
請求項3の発明のスクロール型流体機械は、上記各発明において可動スクロールの背面側より突出するボスと、クランク軸と、このクランク軸の端部に形成され、ボスに摺動且つ回転可能に嵌挿された偏心軸部とを備え、シール部材を偏心軸部の端面に設けて可動スクロールの背面に摺動可能に当接させ、この可動スクロールに形成した貫通孔により高圧に保たれた作動流体を背圧室の中心部に供給することを特徴とする。
【0020】
請求項4の発明のスクロール型流体機械は、上記発明において可動スクロールの旋回運動に応じて、固定スクロールのラップにより貫通孔の入口が開閉されることを特徴とする。
【0021】
請求項5の発明のスクロール型流体機械は、上記発明において貫通孔の入口は、膨張室内の作動流体が液相線を越えて湿り蒸気領域となった後に閉じられるよう構成したことを特徴とする。
【0022】
請求項6の発明のスクロール型流体機械は、請求項4又は請求項5の発明において貫通孔の入口が閉じられたとき、背圧室の中心部と外周部とを連通する圧力逃がし路を備えたことを特徴とする。
【0023】
請求項7の発明のスクロール型流体機械は、上記発明において可動スクロールの背面に形成された溝により圧力逃がし路を構成し、シール部材が溝の端部を塞いでいる状態では背圧室の中心部と外周部は非連通状態となり、シール部材が溝を跨ぐことで溝の両端部が開放され、背圧室の中心部と外周部が連通されるよう構成したことを特徴とする。
【0024】
請求項8の発明のスクロール型流体機械は、請求項3乃至請求項7の発明においてシール部材はリング状を成し、偏心軸部の端面に偏心配置されていることを特徴とする。
【0025】
請求項9の発明のスクロール型流体機械は、請求項3乃至請求項8の発明においてシール部材で仕切られる背圧室の中心部を、可動スクロールの旋回中心から、偏心軸部の偏心方向に、可動スクロールの旋回半径の1/2ずらしたことを特徴とする。
【0026】
請求項10の発明のスクロール型流体機械は、上記各発明において作動流体としては二酸化炭素を使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
前述した如く、各基板の各基面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから構成され、両スクロールの各ラップ間に形成された膨張室で作動流体を膨張させることにより、可動スクロールを公転旋回運動させて動力を回収する膨張部と、この膨張部で回収された動力で作動流体を圧縮する低段側の圧縮部とを備え、高段側の圧縮機で圧縮された高圧の作動流体を膨張部の中心部より吸入するスクロール型流体機械においては、膨張部の入口における作動流体の温度が高い場合、膨張過程の圧力の低下が緩慢となるため、可動スクロールを固定スクロールから引き離そうとする力は大きくなるが、膨張による動力も大きくなるため、圧縮部における仕事量も増大する。逆に、膨張部の入口における作動流体の温度が低い場合は、膨張過程の圧力は膨張初期に急激に低下するため、可動スクロールを固定スクロールから引き離そうとする力は小さくなるが、膨張による動力も小さくなるため、圧縮部における仕事量も減少する。
【0028】
そこで本発明では、可動スクロールの背面側に形成された背圧室を、シール部材により中心部と外周部とに仕切り、背圧室の中心部に高段側の圧縮機で圧縮された高圧に保たれた作動流体を供給し、背圧室の外周部には低段側の圧縮部の吐出圧力に保たれた作動流体を供給するようにしたので、膨張部の入口における作動流体の温度が高い場合は圧縮部の仕事量が増大し、その吐出圧力も高くなって背圧室の外周部に供給される圧力は上昇し、膨張部の入口における作動流体の温度が低い場合は圧縮部の仕事量が減少し、その吐出圧力も低くなって背圧室の外周部に供給される圧力も低下する。
【0029】
即ち、膨張部の入口における作動流体の温度が高く、可動スクロールを固定スクロールから引き離そうとする力が大きくなるときは、背圧室の外周部に供給される圧力が上昇し、膨張部の入口における作動流体の温度が低く、可動スクロールを固定スクロールから引き離そうとする力が小さくなるときは、背圧室の外周部に供給される圧力も低下するようになり、自動的に両者をバランスさせることが可能となる。これにより、別途複雑な調整手段を設けることなく、可動スクロールに背圧を適切に印加して高効率な運転を実現することが可能となる。
【0030】
これは請求項2のような膨張部と圧縮部とが一体化された単板式のスクロール型流体機械において、請求項10の如き二酸化炭素を作動流体として使用する場合に特に有効である。
【0031】
この場合、請求項3の発明の如く、可動スクロールの背面側より突出するボスと、クランク軸と、このクランク軸の端部に形成され、ボスに摺動且つ回転可能に嵌挿された偏心軸部とを備え、シール部材を偏心軸部の端面に設けて可動スクロールの背面に摺動可能に当接させ、この可動スクロールに形成した貫通孔により高圧に保たれた作動流体を背圧室の中心部に供給することにより、背圧室に高圧を供給する構造を著しく簡素化することが可能となる。
【0032】
また、請求項4の発明の如く、可動スクロールの旋回運動に応じて、固定スクロールのラップにより貫通孔の入口が開閉されるようにすることで、可動スクロールの中心部を固定スクロールから引き離そうとする引き離し力が大きくなる状態では、貫通孔の入口を開放して背圧室の中心部に高圧を供給し、可動スクロールの中心部を引き離そうとする力に対抗すると共に、引き離し力が小さくなる状態では、貫通孔の入口を固定スクロールのラップにより閉じて、高圧の供給を停止することが可能となる。
【0033】
これにより、中心部への過剰な背圧印加による固定スクロールへの可動スクロールの過剰な押し付け力の発生を回避し、運転効率の低下を防止することが可能となる。
【0034】
この場合、請求項5の発明の如く貫通孔の入口を、膨張室内の作動流体が液相線を越えて湿り蒸気領域となった後に閉じるようにすることにより、確実に可動スクロールの中心部への引き離し力が小さくなった後に、中心部の背圧を下げることができるようになり、的確なタイミングで背圧室の中心部への高圧印加を停止することが可能となる。
【0035】
また、請求項6の発明の如く貫通孔の入口が閉じられたとき、背圧室の中心部と外周部とを連通する圧力逃がし路を設ければ、背圧室の中心部への高圧印加を停止したことに合わせて中心部と外周部を連通することができるようになる。これにより、中心部の引き離し力が急激に低下するのに合わせて、背圧室の圧力を中心部と外周部で均一化し、過剰な押し付け力の発生を確実に防止することができるようになる。
【0036】
この場合も、請求項7の発明の如く可動スクロールの背面に形成された溝により圧力逃がし路を構成し、シール部材が溝の端部を塞いでいる状態では背圧室の中心部と外周部は非連通状態となり、シール部材が溝を跨ぐことで溝の両端部が開放され、背圧室の中心部と外周部が連通されるよう構成することで、構造の著しい簡素化を図ることが可能となる。
【0037】
また、請求項8の発明の如くシール部材をリング状とした場合に、偏心軸部の端面に偏心配置すれば、偏心軸部の回転に伴ってシール部材が可動スクロールの同じリング状の位置に当接することがなくなり、可動スクロールがシール部材によって摩耗する度合いを低減することができるようになる。
【0038】
更に、請求項9の発明の如くシール部材で仕切られる背圧室の中心部を、可動スクロールの旋回中心から、偏心軸部の偏心方向に、可動スクロールの旋回半径の1/2ずらすことにより、膨張部の膨張室の面積重心位置と、背圧室の中心部の面積重心位置とを合致させることができるようになる。これにより、可動スクロールを転覆させようとするモーメントの発生を効果的に防止することができるようになるものである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0041】
(1)スクロール型流体機械1の構造
図1は、実施例のスクロール型流体機械1の縦断側面図を示している。実施例のスクロール型流体機械1は、例えば、縦置き型単板式の圧縮機一体型膨張機であり、高圧側が超臨界圧力となる二酸化炭素を冷媒(作動流体)として使用したヒートポンプ等の冷凍サイクルRCに用いられる(
図10に示す)。この冷凍サイクルRCの構成については後に詳述するが、図示しない空気調和機やヒートポンプ式給湯機等に組み込まれ、実施例のスクロール型流体機械1は冷媒の圧力によって膨張動作を行う後述する膨張部2と、この膨張部2の膨張動作によって圧縮動作を行う後述する圧縮部4(低段側)とを備えている(
図2)。
【0042】
スクロール型流体機械1はハウジング6を備えている。このハウジング6内には、主として固定スクロール8とこの固定スクロール8に対し公転旋回運動される可動スクロール10とから構成されるスクロールユニット12と、可動スクロール10を公転旋回運動可能に支持するメインフレーム(フレーム)14と、このメインフレーム14の下部軸受部14cに軸受部材18を介して回転可能に軸支されたクランク軸16とが配設されている。
【0043】
ハウジング6は、メインフレーム14の外周部14aと、メインフレーム14の上部を覆うキャップ状のトップシェル20と、メインフレーム14の下部を覆うキャップ状のボトムシェル22とから構成されている。ハウジング6は、トップシェル20とボトムシェル22を、Oリング23を介し、外周部14aを挟み込むようにしてボルト25で互いに締結することにより組み立てられ、外部から内部が密閉されている。密閉されたハウジング6内には、スクロール型流体機械1の作動流体として冷凍サイクルRCから取り込んだ冷媒(二酸化炭素)を圧縮部4にて圧縮した圧力が作用している。
【0044】
トップシェル20には、冷凍サイクルRCから取り込んだ冷媒を膨張部2に吸入する膨張側吸入管24と、膨張部2にて膨張された冷媒を冷凍サイクルRCに向けて吐出する膨張側吐出管26と、圧縮部4にて圧縮された冷媒を冷凍サイクルRCに向けて吐出する圧縮側吐出管28が接続されている。膨張側吸入管24と膨張側吐出管26の端部は、固定スクロール8の基板8a内に形成された膨張側吸入室30と膨張側吐出室32とにそれぞれ開口して連通され、圧縮側吐出管28の端部は、トップシェル20の内側に形成された圧縮側吐出室34に開口して連通されている。
【0045】
また、メインフレーム14の外周部14aには、冷凍サイクルRCから取り込んだ冷媒を圧縮部4に吸入する圧縮側吸入管36が接続され、圧縮側吸入管36の端部は、固定スクロール8の基板8a内に形成された圧縮側吸入室38に開口され、連通されている。
【0046】
一方、ボトムシェル22の内側には潤滑油室40が形成され、この潤滑油室40にはスクロールユニット12を潤滑するための潤滑油が貯留される。圧縮側吸入室38には、固定スクロール8の基板8a及びメインフレーム14を貫通する送油孔62(
図2)が開口され、送油孔62を介して潤滑油室40の潤滑油が圧縮側吸入室38に送油される。
【0047】
また、クランク軸16内には、クランク軸16の軸方向に沿って給油路42が穿設されており、この給油路42の下端は潤滑油室40に開口し、上端はクランク軸16の上端(実施例における端部)の偏心軸部35の上面(実施例における端面)にて、可動スクロール10の後述するボス50内の空間に開口している。但し、この給油路42の上端は、偏心軸部35の上面(実施例における端面)に嵌挿して設けられたリング状のシール部材としてのシールリング48により仕切られた後述する背圧室68の外周部68a側(シールリング48の外側)にて開口しているものとする。このシールリング48は可動スクロール10の公転旋回運動に伴い、基板10aの基面10bとは反対側の面である背面10cに摺動可能に当接する。
【0048】
固定スクロール8はメインフレーム14の外周部14aの内側に固定され、固定スクロール8の基板8aの圧縮側吸入室38よりも固定スクロール8の径方向で若干中心側には後述する圧縮側吐出孔44が貫通して形成されている。圧縮側吐出孔44の圧縮側吐出室34に対する開口部には、冷媒中の潤滑油を分離するオイルセパレータ45が装着されている。
【0049】
可動スクロール10は、メインフレーム14の台座部14bにオルダムリング等の自転阻止機構46を介して自転することなく公転旋回運動可能に支持されている。この自転阻止機構46は台座部14bに嵌挿され、可動スクロール10の公転旋回運動に伴い基板10aの基面10bとは反対側の面である背面10cに摺動可能に通接される。更に、可動スクロール10の背面10cには、偏心軸部35が軸受部材59を介して摺動且つ回動可能に嵌挿される円筒状の前述したボス50が突設されている。尚、偏心軸部35にはボス50の外側に位置するバランスウエイト80が一体に形成されている。
【0050】
ここで、実施形態のスクロールユニット12は、圧縮機一体型膨張機において、一組の固定スクロール8及び可動スクロール10によって冷媒の作動室としての圧縮部4と膨張部2との両方を形成可能な、いわゆる単板式スクロールユニットであり、クランク軸16は、メインフレーム14と共に可動スクロール10を公転旋回運動可能に支持し、このクランク軸16自体も回転駆動される。
【0051】
詳しくは、
図2に示されるように、固定スクロール8の基面8bには、環状の中間仕切り壁(環状壁)52と、環状の外側仕切り壁54とが立設され、中間仕切り壁52と外側仕切り壁54との間には渦巻状の外側固定スクロールラップ(ラップ)56、中間仕切り壁52よりも中心側には渦巻状の内側固定スクロールラップ(ラップ)58がそれぞれ立設されている。
【0052】
固定スクロール8の基板8aには、前述した圧縮側吸入室38が外側仕切り壁54の若干内側の圧縮部4の外周端に形成され、中間仕切り壁52の若干外側の圧縮部4の内周端に圧縮側吐出孔44が形成されている。また、基板8aには、前述した膨張側吐出室32が中間仕切り壁52の若干内側の膨張部2の外周端に形成され、前述した膨張側吸入室30が膨張部2の内周端である中心部に形成されている。更に、基板8aには、外側仕切り壁54の若干外側に環状の油溝60が形成され、油溝60上に設けられた溝幅よりも大きい直径で所定の深さで座ぐり加工を施して形成した凹部の底面に前述した送油孔62が形成されている。
【0053】
一方、
図3に示されるように、可動スクロール10の基面10bには、外側固定スクロールラップ56に噛合う渦巻状の外側可動スクロールラップ(ラップ)64と、内側固定スクロールラップ58に噛合う渦巻状の内側可動スクロールラップ(ラップ)66とが相反する渦巻の方向で立設されている。また、可動スクロール10の基板10aには、内側可動スクロールラップ(ラップ)66の中心側の部分の内側には貫通孔61が形成されている。この貫通孔61の上端(一端)の入口は基面10bにて開口し、膨張側吸入室30に連通する。また、貫通孔61の下端(他端)の出口は可動スクロール10の公転旋回運動中、常に前記シールリング48により仕切られた後述する背圧室68の中心部68b側(シールリング48の内側)にて開口する。
【0054】
上述したスクロールユニット12によれば、中間仕切り壁52よりも内側に膨張部2が形成され、中間仕切り壁52と外側仕切り壁54との間に圧縮部4が形成される。詳しくは、
図1中にて実線矢印で示されるように、膨張側吸入管24から吸入された冷媒は、膨張側吸入室30を経て膨張部2に取り込まれ、各スクロール8、10が互いに協働することによって各ラップ58、66間に形成された膨張室E(
図4。作動室)にて膨張される。膨張室Eは、各スクロール8、10の外周側に向けて移動しながらその容積が増大され、これに伴い可動スクロール10が固定スクロール8の軸心周りに公転旋回運動される。可動スクロール10の公転旋回運動に供した冷媒は、膨張側吐出室32を経て膨張側吐出管26を介しハウジング6外の冷凍サイクルRCに向けて吐出される。
【0055】
一方、圧縮側吸入管36から吸入された冷媒は、圧縮側吸入室38を経て圧縮部4に取り込まれ、上述した膨張室Eでの冷媒の膨張に伴い可動スクロール10が固定スクロール8の軸心周りに公転旋回運動することにより、各スクロール8、10が互いに協働することによって各ラップ56、64間に形成された圧縮室P(
図4。作動室)にて圧縮される。圧縮室Pは、可動スクロール10の公転旋回運動に伴い各スクロール8、10の中心に向けて移動しながらその容積が減少される。そして、圧縮室Pの容積の減少に伴い、高圧にされた冷媒は圧縮側吐出孔44、圧縮側吐出室34を経て圧縮側吐出管28を介し、ハウジング6外の冷凍サイクルRCに向けて吐出される。
【0056】
更に、この過程において
図1中にて点線矢印で示されるように、圧縮側吐出孔44から圧縮側吐出室34に吐出される冷媒は、オイルセパレータ45を通過する際に冷媒中の潤滑油が分離される。冷媒から分離された潤滑油は固定スクロール8の基板8aの外周面に形成される切欠部47とメインフレーム14の内周面との間に形成された油戻路63を経て潤滑油室40に貯留される。潤滑油室40に貯留された潤滑油は、遠心力によって給油路42を上昇し、シールリング48外側のクランク軸16の上端の偏心軸部35の上面から吐出され、偏心軸部35とボス50を潤滑した後に、メインフレーム14の台座部14bと可動スクロール10の背面10cとの間に形成される背圧室68に至る。
【0057】
(1−1)可動スクロール10の背圧
背圧室68では、潤滑油によって自転阻止機構46と台座部14b及び可動スクロール10の背面10cとの摺動部などが潤滑される。また、ハウジング6内は前述した如く圧縮側吐出孔44から圧縮側吐出室34に吐出された圧縮部4の吐出圧力に保たれているので、給油路42を経てシールリング48より外側、即ち、背圧室68の外周部68aにはこの圧縮部4の吐出圧力に保たれた冷媒(作動流体)が潤滑油と共に供給される。従って、背圧室68の外周部68aから可動スクロール10は、圧縮部4の吐出圧力で固定スクロール8に対して押圧付勢されることになる。
【0058】
一方、可動スクロール10の貫通孔61からは、膨張側吸入管24から膨張側吸入室30に吸入された冷媒(後述する高段側の圧縮機70で圧縮された高圧に保たれた冷媒)がシールリング48より内側、即ち、背圧室68の中心部68bに供給される。従って、背圧室68の中心部68bから可動スクロール10は、高段側の圧縮機70で圧縮された高圧で固定スクロール8に対して押圧付勢されることになる。
【0059】
係る背圧室68からの背圧により、固定スクロール8に対する可動スクロール10の円滑な公転旋回運動が可能となる。そして、スクロール型流体機械1では、膨張部2における冷媒の膨張エネルギーによってスクロールユニット12が駆動され、このスクロールユニット12の駆動力により、圧縮部4において冷媒を圧縮する。
【0060】
(1−2)貫通孔61の開閉
図4、
図6は偏心軸部35部分の構造を説明するために拡大したスクロールユニット12部分の縦断側面図、
図8は偏心軸部35の拡大縦断側面図である。また、
図5、
図7は可動スクロール10を透視した(貫通孔61を実線で表示)偏心軸部35の平面図を示している。また、
図9は固定スクロール8及び可動スクロール10の中心部の平断面図である(偏心軸部35側(下側)から見た図)。
【0061】
前述したように、貫通孔61の上端の入口は基面10bにて開口しているが、この入口は、可動スクロール10の公転旋回運動に応じて、固定スクロール8の内側固定スクロールラップ(ラップ)58の先端により開閉される位置に配置されている。
図4はラップ58により開放された状態、
図6は閉鎖された状態である。
【0062】
(1−3)シールリング48の偏心配置
一方、貫通孔61の下端の出口は、シールリング48で仕切られた背圧室68の中心部68bに対応して開口している。この場合、
図5に示すシールリング48の円(リング)の中心X1は、偏心軸部35の軸心X2に一致しておらず、偏心配置されている。従って、偏心軸部35の回転中、シールリング48は可動スクロール10に対して公転旋回することになる。他方、シールリング48は背圧室68を中心部68bと外周部68aとに仕切るために可動スクロール10の背面10cに摺動可能に当接しているが、公転旋回することで、可動スクロール10の同じリング状の位置にシールリング48が当接することがなくなり、可動スクロール10の背面10cがシールリング48によって摩耗し難くなる。
【0063】
このように、シールリング48は可動スクロール10に対して公転旋回するため、このシールリング48に対する貫通孔61の位置も可動スクロール10の公転旋回運動中、変化することになるが、貫通孔61の下端の出口は、必ずシールリング48で仕切られた背圧室68の中心部68bに対応するように配置されている。
【0064】
(1−4)圧力逃がし路81による連通
また、偏心軸部35に対応する位置の可動スクロール10の背面10cには、ラジアル方向に延在する溝78が凹陥形成されており、この溝78内に圧力逃がし路81が構成される。
図5は可動スクロール10を透視してこの溝78を表しているが、前述したようなシールリング48の公転旋回により、その内側(偏心軸部35の軸心側)の端部がシールリング48により塞がれた状態(
図4、
図5)と、シールリング48が溝78を跨ぐ状態(
図6、
図7)とに変化する。
【0065】
シールリング48が溝78を跨いだ状態では、溝78の内側の端部と外側の端部とが開放されるため、その内部の圧力逃がし路81は背圧室68の中心部68bと外周部68aを連通する(
図6、
図7)。一方、シールリング48により溝78の内側の端部が塞がれると、圧力逃がし路81は閉じられ、背圧室68の中心部68bと外周部68aとは非連通状態となる(
図4、
図5)。
【0066】
また、貫通孔61と溝78(圧力逃がし路81)の位置関係は、
図5、
図7に示すように偏心軸部35(軸心X2)に対するシールリング48(中心X1)の偏心方向に延在する線L1上に配置されており、更に、固定スクロール8の内側固定スクロールラップ(ラップ)58の先端により貫通孔61の入口が開放された状態では、
図5の如く溝78の内側の端部がシールリング48により塞がれ、背圧室68の中心部68bと外周部68aとが非連通状態となっており、ラップ58の先端により貫通孔61の入口が閉じられたとき、
図7の如くシールリング47が溝78を跨いで、圧力逃がし路81により背圧室68の中心部68bと外周部68aとが連通されるように構成されている。
【0067】
(1−5)膨張室Eの面積重心位置と背圧室68の中心部68bの面積重心位置
次に、
図8、
図9においてX3は可動スクロール10の旋回中心であり、クランク軸16の軸心と固定スクロール8の内側固定スクロールラップ(ラップ)58の渦巻きの基礎円中心に位置している。また、X4は可動スクロール10の内側可動スクロールラップ(ラップ)66の渦巻きの基礎円中心であり、旋回中心X3から偏心軸部35の偏心方向にずれている。そして、旋回中心X3と可動スクロール10のラップ66の渦巻きの基礎円中心X4との間の距離が可動スクロール10の旋回半径R1となる。
【0068】
そして、中心部の膨張室(
図9にE1で示す中央室)とその外側の膨張室(
図9にE2、E3で示す作動室)を合わせた面積重心の位置は、G1で示すように旋回中心X3から偏心軸部35の偏心方向に、旋回半径R1の1/2ずれた位置になる。
【0069】
そこで、実施例ではシールリング48で仕切られる背圧室68の中心部68bの中心位置X5(即ち、中心部68の面積重心位置)を、
図8に示すように、可動スクロール10の旋回中心X3から、偏心軸部35の偏心方向に、可動スクロール10の旋回半径R1の1/2ずらしている。これにより、膨張部2の膨張室(中央室E1、作動室E2、作動室E3)の面積重心位置G1と、背圧室68の中心部68bの面積重心位置X5とが合致する。これにより、可動スクロール10を転覆させようとするモーメントの発生を効果的に防止することができるようになる。
【0070】
(2)冷凍サイクルRC
次に、
図10は本発明のスクロール型流体機械1を用いた冷凍サイクルRC(実施例)の冷媒回路図を示している。尚、この図では説明のため、スクロール型流体機械1の膨張部2と圧縮部4を分離して示している。スクロール型流体機械1の膨張部2で回収された動力で駆動される圧縮部4は、この冷凍サイクルRCにおいて低段側の圧縮機(低段側の圧縮部)を構成する。この圧縮部4の前述した圧縮側吐出管28は、当該圧縮部4の後段に位置する高段側の圧縮機70の電動機70bで駆動される高段側の圧縮部70aに接続されている。
【0071】
この圧縮部70aの後段には、冷媒を冷却するガスクーラ71が接続されており、ガスクーラ71の出口と蒸発器73の入口間に、スクロール型流体機械1の膨張部2と膨張弁72が並列に接続されている。このガスクーラ71からの冷媒は前述した膨張側吸入管24から膨張部2の膨張側吸入室30に取り込まれる。また、スクロール型流体機械1の膨張部2からは膨張側吐出管26を介して冷媒が蒸発器73に送られる。そして、この蒸発器73から出た冷媒が圧縮側吸入管36からスクロール型流体機械1の圧縮部4に吸い込まれる構成とされている。
【0072】
(3)冷凍サイクルRCの動作
以上の構成で、次にスクロール型流体機械1を含む冷凍サイクルRCの動作を説明する。スクロール型流体機械1の膨張部2が駆動する低段側の圧縮部4で昇圧された中間圧の冷媒(二酸化炭素冷媒)は、圧縮側吐出管28から高段側の圧縮機70に送られ、電動機70bで駆動される圧縮部70aによって更に昇圧され、高圧(超臨界)となる。この高圧の冷媒は超臨界状態のままガスクーラ71で冷却された後、一部は膨張側吸入管24からスクロール型流体機械1の膨張部2に取り込まれ、膨張減圧される。
【0073】
尚、残りの冷媒は膨張弁72に送られて膨張減圧される。この膨張弁72はスクロール型流体機械1の膨張部2を通過する冷媒の流量の調整、及び、起動時における差圧の確保のために設けられているものである。
【0074】
膨張部2において冷媒が等エントロピ的に膨張することによって可動スクロール10が公転旋回運動し、動力が回収される。この可動スクロール10の公転旋回運動によって圧縮部4が低段側の圧縮機として作動することになる。膨張部2で膨張した冷媒は、蒸発器73で加熱された後(或いは、それによって対象を冷却)、圧縮側吸入管36より再びスクロール型流体機械1の圧縮部4に吸引される。
【0075】
図14は、係る冷凍サイクルRCのp−h線図を示している。この図に示すように、ガスクーラ71で熱交換することによって、点Dから点Cまで冷却された冷媒は、スクロール型流体機械1の膨張部2で等エントロピ的に膨張することによって、液相線LLを超えて湿り蒸気領域に入り、点Bとなる。膨張後、蒸発器73で熱交換され、点Bから点Aまで加熱された冷媒は、スクロール型流体機械1の圧縮部4で点Aから点A1まで圧縮された後、高段側の圧縮機70の圧縮部70aで点A1から点Dまで圧縮される。
【0076】
このように、高段側の圧縮機70の圧縮部70aで冷凍サイクルRCの圧縮過程の一部(高段側)を担い、スクロール型流体機械1の圧縮部4で圧縮過程の残り(低段側)を担う。圧縮部4におけるエンタルピ差hA1−hA分の圧縮動力は、膨張部2における回収動力によって賄われることになる。
【0077】
(3−1)背圧室68の中心部68bと外周部68aの背圧
次に、
図11〜
図13を参照しながら、スクロール型流体機械1の可動スクロール10の背圧制御について説明する。前述したように、シールリング48によって仕切られた背圧室68の外周部68aには、圧縮部4の吐出圧力(前述した中間圧)に保たれた冷媒が供給される。一方、シールリング48によって仕切られた背圧室68の中心部68bには、高段側の圧縮機70の圧縮部70aで圧縮された高圧に保たれた冷媒が貫通孔61から供給される。これにより、背圧室68の外周部68aから圧縮部4の吐出圧力で、また、中心部68bからは高段側の圧縮機70で圧縮された高圧で、可動スクロール10は固定スクロール8に対して押圧付勢される。
【0078】
ここで、前述したように、可動スクロール10の基面10bの中心部には、高段側の圧縮機70の吐出圧力が加わり、外側に向かうに従って圧力が低下し、膨張していく。この圧力を
図11に矢印で示す(この図において、矢印の長さは同様に圧力の大きさを示している)。一方、背圧室68においてはその中心部68bに高段側の圧縮機70の吐出圧力(高圧)に保たれた冷媒が供給され、外周部68aには圧縮部4の吐出圧力(中間圧)に保たれた冷媒が供給される。
【0079】
これにより、
図11に示すように可動スクロール10を固定スクロール8から引き離そうとする力(
図11の上側に示す基面10bに加わる力)と、それに対抗して可動スクロール10を固定スクロール8に押し付ける力(
図11の下側に示す背圧)とが、可動スクロール10の略全域において略一致するかたちとなり、効率の低下を防止しながら、可動スクロール10の基板10aが撓んでしまう不都合を解消することができるようになる。
【0080】
(3−2)背圧の調整
また、前述したように膨張部2における膨張過程での圧力変化の特性は、膨張部2に吸い込まれる冷媒(作動流体)の温度によって異なって来る。即ち、膨張部2の入口における冷媒の温度が高い場合、
図11の上側に示すように膨張過程の圧力の低下が緩慢となるため、可動スクロール10を固定スクロール8から引き離そうとする力は大きくなる。しかしながら、膨張によって回収される動力も大きくなるため、圧縮部4における仕事量も増大するため、圧縮部4の吐出圧力も高くなる。
【0081】
逆に、膨張部2の入口における冷媒の温度が低い場合には、
図12の上側に示すように膨張過程の圧力は膨張初期に急激に低下するため、可動スクロール10を固定スクロール8から引き離そうとする力は小さくなる。そして、膨張によって回収される動力も小さくなるため、圧縮部4における仕事量も減少し、圧縮部4の吐出圧力も低下する。
【0082】
一方、本発明では可動スクロール01の背面側に形成された背圧室68をシールリング48により中心部68bと外周部68aとに仕切り、背圧室68の中心部68bに高段側の圧縮機70で圧縮された高圧に保たれた冷媒を供給し、背圧室68の外周部68aには低段側の圧縮部4の吐出圧力に保たれた冷媒を供給しているので、膨張部2の入口における冷媒の温度が高い場合は圧縮部4の仕事量が増大し、その吐出圧力も高くなって背圧室68の外周部68aに供給される圧力は上昇し、膨張部2の入口における冷媒の温度が低い場合は圧縮部4の仕事量が減少し、その吐出圧力も低くなって背圧室68の外周部68aに供給される圧力も低下することになる。
【0083】
即ち、膨張部2の入口における冷媒の温度が高く、可動スクロール10を固定スクロール8から引き離そうとする力が大きくなるときは、背圧室68の外周部68aに供給される圧力が上昇し、膨張部2の入口における冷媒の温度が低く、可動スクロール10を固定スクロール8から引き離そうとする力が小さくなるときは、背圧室68の外周部68aに供給される圧力も低下するようになり、
図11、
図12の上側と下側の矢印で示す力を、自動的にバランスさせることが可能となる。
【0084】
これにより、別途複雑な調整装置等を設けることなく、可動スクロール10に背圧を適切に印加して高効率な運転を実現することが可能となる。これは実施例のような膨張部2と圧縮部4とが一体化された単板式のスクロール型流体機械1において、二酸化炭素を冷媒として使用する場合に特に有効である。
【0085】
また、実施例ではシールリング48を偏心軸部35の上面(端面)に設けて可動スクロール10の背面に摺動可能に当接させ、この可動スクロール10に形成した貫通孔61により、高圧に保たれた冷媒を背圧室68の中心部68bに供給しているので、背圧室68に高圧を供給する構造を著しく簡素化することが可能となる。
【0086】
(3−3)貫通孔61の閉鎖と圧力逃がし路81の開放
また、前述した如く貫通孔61の上端の入口は、可動スクロール10の公転旋回運動に応じて、固定スクロール8の内側固定スクロールラップ(ラップ)58の先端により開閉される。この開閉のタイミングについて、前述した
図9を参照しながら説明する。
図9は一回の膨張過程において、可動スクロール10がクランク角150°程の角度に旋回した位置を示している。このとき、各ラップ58、66間に形成される膨張室Eのうち、中心部の膨張室E(
図9の中央室E1)には、膨張側吸入管24から膨張側吸入室30に吸入された高段側の圧縮機70で圧縮されて高圧に保たれた冷媒が流入する。
【0087】
その後、中央室E1の容積が拡大していき、クランク角0°付近で外側の膨張室E(
図9の作動室E2、E3)が分離される。分離された後、作動室E2、E3は更に容積が拡大するため、作動室E2、E3内の冷媒は膨張していき、その圧力は急速に低下していく。前述した
図17、
図18における高圧の部分はこの中央室E1の圧力であり、クランク角0°付近から急激に低下するのは、中央室から分離された後の作動室E2、E3の圧力を示している。
【0088】
ラップ58は或る膨張過程において、中央室E1から作動室E2、E3が分離される前の段階では、貫通孔61の入口を開放している。そして、クランク角0°付近で中央室E1から作動室E2、E3が分離され、それらの内部の冷媒が膨張し始めて
図14の液相線LLを超え、湿り蒸気領域となった後、クランク角とすると24°付近でラップ58が貫通孔61の入口を閉じ、その後、クランク角230°付近で再度開くように、貫通孔61は配置されている。
【0089】
ここで、
図21中のL2は可動スクロール10の旋回角度(クランク角)に対する可動スクロール10に加わる軸方向の力の変化を示しており、これは可動スクロール10の中心部を固定スクロール8から引き離そうとする引き離し力である。この引き離し力は、最大となるクランク角0°から11°程にかけて急激に低下し、その後徐々に上昇していって、360°(次の0°)で最大となる変化を示す。これは中央室E1と各作動室E2、E3内の冷媒の圧力から生じる力の合計であるため、このように変化することになる。
【0090】
これに対して、ラップ58は、クランク角24°付近までは貫通孔61の入口を開いており、圧力逃がし路81は背圧室68の中心部68bと外周部68aを連通しない。従って、中心部68bには貫通孔61から高圧の冷媒が流入し、可動スクロール10の中心部が固定スクロール8に押し付けられる押付力は高圧となる。その後、冷媒が液相線LLを超えて湿り蒸気領域となった後、貫通孔61の入口はラップ58で閉じられ、シールリング48が溝78を跨ぐため、圧力逃がし路81は背圧室68の中心部68bと外周部68aとを連通する。
【0091】
これにより、
図21に実線L3で示すように背圧室68の中心部68bから可動スクロール10の中心部が固定スクロール8に押し付けられる押付力は圧縮部4の吐出圧力まで下げられる。その後、引き離し力L2の上昇に伴い、クランク角230°付近でラップ58は貫通孔61の入口を開き、圧力逃がし路81は中心部68bと外周部68aとを連通しなくなるので、中心部68bからの押付力は高圧に戻される。
【0092】
これにより、可動スクロール10の中心部に対する引き離し力が大きくなるクランク角では貫通孔61の入口を開放させておいて背圧室68の中心部68bに高圧を供給し、中心部68bと外周部68aを連通させずに、可動スクロール10の中心部を引き離そうとする引き離し力に対抗し、引き離し力が減少するクランク角では、貫通孔61の入口を固定スクロール8の内側固定スクロールラップ58により閉じて高圧の供給を停止し、中心部68bと外周部68aを連通させて、可動スクロール10全体において背圧を圧縮部4の吐出圧力まで下げることができる。
【0093】
この状態が
図13に示されている。このように、可動スクロール10の中心部を引き離そうとする引き離し力L2の低下に合わせて中心部68bへの高圧の供給を停止し、中心部68bと外周部68aを連通することにより、可動スクロール10の中心部への過剰な背圧印加(
図21に破線L4で示す)による固定スクロール8への可動スクロール10の過剰な押付力の発生を回避し(L3)、運転効率の低下を防止することが可能となる。
【0094】
特に、貫通孔61の入口を、膨張室E内の冷媒が液相線LLを越えて湿り蒸気領域となった後に閉じるようにしているので、確実に可動スクロール10の中心部への引き離し力L2が小さくなった後に、中心部の背圧を下げることができるようになり、的確なタイミングで背圧室68の中心部68bへの高圧印加を停止することができるようになる。
【0095】
また、貫通孔61の入口が閉じられたとき、シールリング48が溝78を跨ぐため、圧力逃がし路81は背圧室68の中心部68bと外周部68aとを連通するので、背圧室68の中心部68bへの高圧印加を停止したことに合わせて中心部68bと外周部68aが連通され、
図13の下側の矢印で示すように、背圧は可動スクロール10の全域において圧縮部4の吐出圧力まで下げられる。これにより、可動スクロール10の中心部の引き離し力L2が急激に低下するのに合わせて、背圧室68の圧力を中心部68bと外周部68aで均一化し、過剰な押し付け力の発生を確実に防止することができるようになる。
【0096】
また、実施例では可動スクロール10の背面10cに形成された溝78内に圧力逃がし路81を構成し、シールリング48が溝78の内側の端部を塞いでいる状態で背圧室68の中心部68bと外周部68aを非連通状態とし、シールリング48が溝78を跨ぐことで溝78の両端部を開放し、圧力逃がし路81によって背圧室68の中心部68bと外周部68aとを連通するように構成したので、構造の著しい簡素化を図ることが可能となる。
【0097】
尚、実施例では所謂単板式の圧縮機一体型スクロール膨張機をスクロール型流体機械の例に採り上げて本発明を適用したが、請求項1の発明ではそれに限らず、膨張部と圧縮部とが駆動軸によって連結されたかたちのスクロール型流体機械にも本発明は有効である。