特許第6241619号(P6241619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241619無線システムにおける周波数管理装置および周波数管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241619
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】無線システムにおける周波数管理装置および周波数管理方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/14 20090101AFI20171127BHJP
   H04W 52/24 20090101ALI20171127BHJP
【FI】
   H04W16/14
   H04W52/24
【請求項の数】10
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-512359(P2014-512359)
(86)(22)【出願日】2013年4月23日
(86)【国際出願番号】JP2013002731
(87)【国際公開番号】WO2013161280
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-98492(P2012-98492)
(32)【優先日】2012年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(72)【発明者】
【氏名】村岡 一志
(72)【発明者】
【氏名】菅原 弘人
(72)【発明者】
【氏名】有吉 正行
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊文
【審査官】 望月 章俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−60455(JP,A)
【文献】 特開2011−166721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W4/00−H04W99/00
H04B7/24−H04B7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の無線システムに割り当てられた周波数を共用する無線システムにおける無線局の周波数利用を管理する周波数管理装置であって、
周波数利用状況を変更する第1無線局から周波数利用状況の変更通知を受け付ける周波数利用受付手段と、
前記第1無線局の干渉到達範囲の少なくとも一部と干渉到達範囲が重なる第2無線局を対象として、許容送信電力を設定する許容送信電力設定手段と、
を有し
前記許容送信電力設定手段は、前記第1無線局の干渉到達範囲と重なる干渉到達範囲をもつ前記第2無線局の中で、さらに前記干渉到達範囲の重複範囲が、前記他の無線システムのサービス範囲の少なくとも一部と重なる前記第2無線局に限定して、前記許容送信電力の設定対象とする、ことを特徴とする周波数管理装置。
【請求項2】
前記許容送信電力は、前記他の無線システムに与える干渉が所定閾値を超えないよう決定されることを特徴とする請求項1に記載の周波数管理装置。
【請求項3】
前記干渉到達範囲は、前記無線システムの無線局の送信によって干渉が所定閾値以上となると推定される空間的範囲および/または周波数的範囲を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の周波数管理装置。
【請求項4】
前記許容送信電力設定手段は、前記他の無線システムに対して同一周波数干渉および/または隣接周波数干渉となる周波数が、前記第2無線局の利用可能周波数および/または実利用周波数に含まれるとき、当該第2無線局を許容送信電力の設定対象にすることを特徴とする請求項1−のいずれか1項に記載の周波数管理装置。
【請求項5】
他の無線システムに割り当てられた周波数を共用する無線システムにおける無線局の周波数利用を管理する周波数管理方法であって、
周波数利用受付手段が周波数利用状況を変更する第1無線局から周波数利用状況の変更通知を受け付け、
許容送信電力設定手段が、前記第1無線局の干渉到達範囲の少なくとも一部と干渉到達範囲が重なる第2無線局の中で、さらに前記干渉到達範囲の重複範囲が、前記他の無線システムのサービス範囲の少なくとも一部と重なる前記第2無線局に限定して、前記許容送信電力の設定対象とする、
ことを特徴とする周波数管理方法。
【請求項6】
前記許容送信電力は、前記他の無線システムに与える干渉が所定閾値を超えないように決定されることを特徴とする請求項に記載の周波数管理方法。
【請求項7】
前記干渉到達範囲は、前記無線システムの無線局の送信によって干渉が所定閾値以上となると推定される空間的範囲および/または周波数的範囲を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の周波数管理方法。
【請求項8】
前記許容送信電力設定手段が、前記他の無線システムに対して同一周波数干渉および/または隣接周波数干渉となる周波数が、前記第2無線局の利用可能周波数および/または実利用周波数に含まれるとき、当該第2無線局を許容送信電力の設定対象にすることを特徴とする請求項5−7のいずれか1項に記載の周波数管理方法。
【請求項9】
他の無線システムに割り当てられた周波数を共用する無線システムであって、
前記周波数を共有する複数の無線局と、
前記複数の無線局の周波数利用を管理する少なくとも1つの周波数管理装置と、
を有し、
前記周波数管理装置が、第1無線局から周波数利用状況の変更に関する通知を受け付けると、当該通知された周波数状況の変更に基づいて、前記第1無線局の干渉到達範囲の少なくとも一部と干渉到達範囲が重なる第2無線局の中で、さらに前記干渉到達範囲の重複範囲が、前記他の無線システムのサービス範囲の少なくとも一部と重なる前記第2無線局に限定して、前記許容送信電力の設定対象とする、
ことを特徴とする無線システム。
【請求項10】
前記周波数管理装置が決定する前記許容送信電力は、前記他の無線システムに与える干渉が所定閾値を超えないように決定される、ことを特徴とする請求項に記載の無線システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線システムに係り、特に無線局の周波数利用を管理する周波数管理装置および周波数管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周囲の無線環境を認知し、その無線環境に応じて通信パラメータの最適化を行うコグニティブ無線が知られているが、ある無線通信システムに割り当てられた周波数帯域を別の無線通信システムが共用する場合には、干渉の問題を考慮する必要がある。以下、周波数帯域を元々割り当てられ干渉を被る側のシステムをプライマリシステム(被干渉システム)、当該周波数帯域を二次利用することで干渉を与える側のシステムをセカンダリシステム(与干渉システム)、プライマリシステムの受信局をプライマリ受信局、セカンダリシステムの送信局をセカンダリ送信局と呼ぶことにする。
【0003】
セカンダリシステムがプライマリシステムと周波数帯域を共用する際、セカンダリシステムは、プライマリシステムが提供する既存サービスに影響を及ぼさないようにする必要がある。そのために、セカンダリ送信局の送信電力は、プライマリ受信局が所定の受信品質を保つことができる最大送信電力以下に調整されることが必要である。以下、この最大送信電力を許容送信電力、最大送信電力以下に調整された実際の送信電力を実送信電力と呼ぶ。ここで、所定の受信品質を保つための基準としては、プライマリ受信局のCIR(Carrier to Interference Ratio)やCINR(Carrier to Interference plus Noise Ratio)を所定値以上に保つことや、プライマリ受信局の被干渉量を所定値以下とすることが考えられる。
【0004】
セカンダリ送信局の送信電力がプライマリ受信局に干渉を与えないように制御するシステムは、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1によれば、プライマリ受信局で許容可能な干渉電力(以下、許容干渉電力という。)をセカンダリ送信局数で等分した値を計算し、セカンダリ送信局による干渉がその値以下となるように許容送信電力を計算する。これにより、複数のセカンダリ送信局による総干渉が許容干渉電力以下に抑えられ、複数のセカンダリ送信局が同時に送信する場合にもプライマリ受信局で所定の受信品質を保つことが出来る。
【0005】
以下、図1を参照しながら、特許文献1で想定されているようなシステム構成の概略を説明する。図1において、スペクトルマネージャSM(特許文献1におけるコーディネータ)はセカンダリ送信局Tsの周波数利用を管理しており、特にスペクトルマネージャSM1はセカンダリ送信局Ts11、Ts12を管理し、スペクトルマネージャSM2はセカンダリ送信局Ts21、Ts22を管理する。また、スペクトルマネージャSM1、SM2は、共通のデータベースDB(特許文献1における管理ノード)を介して、それぞれの管理下のセカンダリ送信局Tsに関する情報を共有する。特許文献1によれば、集中型と協調分散型の二つの許容送信電力決定プロセスが開示されている。
【0006】
集中型では、データベースDBに複数のセカンダリ送信局Tsの情報を集約し、データベースDBが全セカンダリ送信局Ts(Ts11、Ts12、Ts21、Ts22)の許容送信電力を計算する。計算された許容送信電力は、各スペクトルマネージャSMを介して管理下のセカンダリ送信局Tsへ通知される。
【0007】
協調分散型では、データベースDBを介して各スペクトルマネージャSMがそれぞれの管理下のセカンダリ送信局Tsに関する情報(例えば、セカンダリ送信局の総数)を互いに共有する。各スペクトルマネージャ(例えば、SM1)は、別なスペクトルマネージャ(例えば、SM2)管理下のセカンダリ送信局(例えば、Ts21、Ts22)がプライマリ受信局に与える干渉も考慮した上で、自身の管理下のセカンダリ送信局(例えば、Ts11、Ts12)の許容送信電力を計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−166721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、集中型か協調分散型かを問わず、許容送信電力の計算に要する処理量が増加してしまう。以下、この課題について説明する。
【0010】
集中型の場合ではデータベースDBが、協調分散型では各スペクトルマネージャSMが各セカンダリ送信局Tsの許容送信電力を計算するが、この計算はセカンダリ送信局Tsが周波数の利用状況を変化させるたびに(周波数の利用開始あるいは停止するごとに)必要となる。したがって、当該周波数を利用中のセカンダリ送信局の総数が増加すると、周波数利用の開始や停止といった周波数利用状況の変化が頻繁に発生する可能性が高くなる。そのたびにデータベースDBやスペクトルマネージャSMが、周波数利用中の全てのセカンダリ送信局に対して許容送信電力を計算することになり、処理量が増大してしまう。
【0011】
さらに、以下のように許容送信電力を決定する場合は、処理量の増大が顕著となる。たとえば、図1に示すように、プライマリ送信局Tpのサービスエリア(プライマリシステムサービスエリア)の中に複数のプライマリ受信局Rp(ここではRp1、Rp2、Rp3)が存在すると仮定する。セカンダリ送信局Tsの許容送信電力は、各セカンダリ送信局Tsから各プライマリ受信局Rpへの干渉を考慮して、全てのプライマリ受信局Rpが所定の受信品質を維持できるように許容送信電力を決定する必要がある。第n番目のセカンダリ送信局(1≦n≦N)の許容送信電力(この許容送信電力はアンテナ利得を加味した等価等方放射電力とする)をP(n)とすれば、第m番目のプライマリ受信局(1≦m≦M)での干渉Iは次式(1)で表すことができる。
【0012】
【数1】
【0013】
ここで、Ln、mは第n番目のセカンダリ送信局から第m番目のプライマリ受信局へのパスロスであり、秦式(Hata formula)等の伝搬モデルを用いて算出する。上記の式(1)は、簡単のため、第m番目のプライマリ受信局の受信アンテナ利得を1とし、干渉信号へのシャドウイングの影響も省略している。そして、Imax,mは第mプライマリ受信局の許容干渉電力であり、式(1)の不等式の通り、干渉の合計値Iがこの値以下となる必要がある。すなわち、全てのプライマリ受信局で干渉の合計値を許容干渉電力とするために、全てのm(1≦m≦M)で式(1)の不等式を満たすセカンダリ送信局の許容送信電力の組み合わせ{P(1)、P(2)、・・・、P(N)}を探索する必要がある。
【0014】
しかしながら、全てのmで式(1)の不等式を満たすセカンダリ送信局の許容送信電力の組み合わせは、セカンダリ送信局数の増加に伴って急激に増大する。
【0015】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、干渉を与える側のシステムにおける送信局の許容送信電力を決定する際の計算量の増加を抑制できる周波数管理方法および装置並びに無線システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明による周波数管理装置は、他の無線システムに割り当てられた周波数を共用する無線システムにおける無線局の周波数利用を管理する周波数管理装置であって、
周波数利用状況を変更する第1無線局から周波数利用状況の変更通知を受け付ける周波数利用受付手段と、前記第1無線局の干渉到達範囲の少なくとも一部と干渉到達範囲が重なる第2無線局を対象として、許容送信電力を設定する許容送信電力設定手段と、を有し、前記許容送信電力設定手段は、前記第1無線局の干渉到達範囲と重なる干渉到達範囲をもつ前記第2無線局の中で、さらに前記干渉到達範囲の重複範囲が、他の無線システムのサービス範囲の少なくとも一部と重なる前記第2無線局に限定して、前記許容送信電力の設定対象とする、ことを特徴とする。
本発明による周波数管理方法は、他の無線システムに割り当てられた周波数を共用する無線システムにおける無線局の周波数利用を管理する周波数管理方法であって、周波数利用受付手段が周波数利用状況を変更する第1無線局から周波数利用状況の変更通知を受け付け、許容送信電力設定手段が、前記第1無線局の干渉到達範囲の少なくとも一部と干渉到達範囲が重なる第2無線局の中で、さらに前記干渉到達範囲の重複範囲が、前記他の無線システムのサービス範囲の少なくとも一部と重なる前記第2無線局に限定して、前記許容送信電力の設定対象とする、ことを特徴とする。
本発明による無線システムは、他の無線システムに割り当てられた周波数を共用する無線システムであって、前記周波数を共有する複数の無線局と、前記複数の無線局の周波数利用を管理する少なくとも1つの周波数管理装置と、を有し、前記周波数管理装置が、第1無線局から周波数利用状況の変更に関する通知を受け付けると、当該通知された周波数状況の変更に基づいて、前記第1無線局の干渉到達範囲の少なくとも一部と干渉到達範囲が重なる第2無線局の中で、さらに前記干渉到達範囲の重複範囲が、前記他の無線システムのサービス範囲の少なくとも一部と重なる前記第2無線局に限定して、前記許容送信電力の設定対象とする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、干渉を与える側のシステムにおける送信局の許容送信電力を決定する際の計算量の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は背景技術を説明するための概略的なシステム構成図である。
図2図2は本発明の第1実施形態による無線通信システムを説明するためのシステム構成図である。
図3図3は第1実施形態による周波数管理装置(スペクトルマネージャ)の概略的構成を示すブロック図である。
図4図4図3に示すスペクトルマネージャの動作を示すフローチャートである。
図5図5は第1実施形態における干渉到達エリアの一例を示すシステム構成図である。
図6図6は第1実施形態による無線システムにおける送信開始要求があったときの第1動作例を示すシーケンス図である。
図7図7は第1実施形態による無線システムにおける送信停止通知があったときの動作を示すシーケンス図である。
図8図8は第1実施形態による無線システムにおける送信開始要求があったときの第2動作例を示すシーケンス図である。
図9図9は本発明の第2実施形態による無線通信システムを説明するためのシステム構成図である。
図10図10は第2実施形態による無線システムの管理エリア構成の一例を示す図である。
図11図11は本発明の第3実施形態による無線通信システムを説明するためのシステム構成図である。
図12図12は第3実施形態による周波数管理装置(スペクトルマネージャ)の概略的構成を示すブロック図である。
図13図13は本発明の第4実施形態による無線通信システムを説明するためのシステム構成図である。
図14図14は第4実施形態による周波数管理装置(スペクトルマネージャ)の概略的構成を示すブロック図である。
図15図15は本発明の第5実施形態による無線システムを説明するためのシステム構成図である。
図16図16は第5実施形態による無線通信システムにおける隣接周波数への影響を説明するための干渉電力密度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態によれば、プライマリシステムに割当てられた周波数を利用する無線システム(セカンダリシステム)における周波数管理装置において、周波数利用状況の変更に関する通知を送信した無線局との間で干渉到達範囲が重複しない無線局を許容送信電力の計算対象から除外し、干渉到達範囲が重複する無線局に限定して許容送信電力を計算する。これによって、周波数利用状況を変更するセカンダリ送信局の送信が干渉として影響(干渉増加または減少)を与える範囲に対して、実質的に干渉を与えているセカンダリ送信局のみを許容送信電力の計算対象とすることができる。即ち、許容送信電力の計算から不要なセカンダリ送信局を除外できるため、処理量を削減できる。さらに、周波数利用状況の変更に関する通知を送信した無線局と干渉到達範囲が重複する無線局のうち、その干渉到達範囲がプライマリシステムのサービスエリアと重複するものだけを許容送信電力の計算対象とすることで計算量を更に削減できる。
【0020】
以下の説明では、プライマリシステムがたとえばTV放送システム、セカンダリシステムがたとえばセルラシステムであるシステムを一例として想定する。セカンダリ送信局は、例えば、セルラシステムにおける基地局、中継局あるいは端末局とすることができる。このようにプライマリシステムをTV放送とした周波数の共用形態は、TVホワイトスペース利用と呼ばれる。もちろん、この構成は単なる一例であって、プライマリシステム及びセカンダリシステムの組み合わせは、このような構成に限定されない。プライマリシステム及びセカンダリシステムの組み合わせは、例えば、TVシステムとWRAN(Wireless Regional Access Network)システムの組み合わせ、TVシステムと自治体等の地域無線や防災無線との組み合わせとすることができる。その他の例では、プライマリシステムがワイヤレスマイクや特定用途無線(例えば、集合住宅用無線、企業内自営無線、農業用無線等)であってもよいし、セカンダリシステムが無線LAN(Local Area Network)であってもよい。また、本発明は、プライマリシステムとセカンダリシステムといった周波数利用時の優先順位が異なる無線システムの組合せのみに必ずしも限定されるわけでなく、優先順位が同列な無線システムにおいて周波数を共用することを想定した構成であってもよい。さらに、本発明では、セカンダリシステムとして複数の無線システムが存在してもよい。複数のセカンダリ送信局は、必ずしも同一の無線システムに属する必要はなく、それぞれ別なセカンダリシステムに属する送信局であってもよい。以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
1.第1実施形態
1.1)システム構成
図2に示すように、本発明の第1実施形態による無線システムは、セカンダリ送信局20(20_1〜20_4)、スペクトルマネージャ50および無線環境データベース30で構成されているものとする。後述するように、複数のスペクトルマネージャがあってもよいが、ここでは説明を煩雑化しないために、単一のスペクトルマネージャの場合を例示する。
【0022】
セカンダリ送信局20は、プライマリシステムの周波数を共用して、セカンダリ受信局(不図示)との通信を行う。プライマリシステムがTV放送である場合には、複数の周波数(TVチャネル)が共用の候補となる。セカンダリ送信局20は、周波数共用を開始する前に、スペクトルマネージャ50に対して開始要求を通知し、スペクトルマネージャ50から利用可能な周波数とそれら周波数での許容送信電力の情報を受け取る。セカンダリ送信局20の開始要求には、セカンダリ送信局20に関する他の情報(デバイスID,位置、アンテナの高さ、アンテナの指向性)を含めることができ、スペクトルマネージャ50や無線環境データベース30に登録される。
【0023】
1.2)利用可能周波数と実利用周波数
利用可能周波数とは、スペクトルマネージャ50がセカンダリ送信局20による使用を許可した周波数をいう。例えば、セカンダリ送信局20が、ある周波数のプライマリシステムサービスエリア12外であるとき、または、そのプライマリシステムサービスエリア12の端から所定距離離れているときに、当該周波数がそのセカンダリ送信局20にとって利用可能周波数である。セカンダリ送信局20は、利用可能周波数では、スペクトルマネージャによって定められた許容送信電力以下の実送信電力であれば送信することが許可される。また、後述するように、利用可能周波数は、セカンダリ送信局20がプライマリシステムサービスエリア12外にあって当該プライマリシステムサービスエリア12の周波数を利用するという条件に加えて、スペクトルマネージャ50によって定められた別の条件を満たす周波数とすることもできる。
【0024】
一方で、後述する実利用周波数とは、セカンダリ送信局が実際に送信に使用する周波数をいう。即ち、セカンダリ送信局は、スペクトルマネージャから通知された利用可能周波数の中にある一つ(または複数)の周波数を実利用周波数として実際に使用する。セカンダリ送信局20は、利用可能周波数とその許容送信電力についての通知を受けた後に、実利用周波数と実送信電力を決定し、通信を開始する。さらに、セカンダリ送信局20は、周波数利用を停止した場合には、その旨をスペクトルマネージャ50に対して通知してもよい。
【0025】
1.3)実利用周波数と実送信電力の通知
セカンダリ送信局20が決定した実利用周波数と実送信電力は、スペクトルマネージャ50に通知されない場合と通知される場合とがある。実利用周波数および実送信電力が通知されない場合、スペクトルマネージャ50はセカンダリ送信局20の実利用周波数と実送信電力を把握せずに利用可能周波数と許容送信電力のみを管理する。したがって、セカンダリ送信局20は利用可能あるいは許容範囲内で実利用周波数と実送信電力を自由に変更でき、柔軟に周波数利用を変更できる。しかしながら、スペクトルマネージャ50は、実利用周波数と実送信電力の情報がないので、干渉状況を把握しにくく、結果として許容送信電力を低めに抑えた保守的な周波数共用となる。以下、本実施形態では、実利用周波数および実送信電力が通知されない場合について説明し、通知される場合は第2実施形態として後述する。
【0026】
1.4)無線環境データベース
無線環境データベース30に格納される情報は、例えば以下の通りである。
・プライマリシステムに関する所定情報(例えば、プライマリ送信局10の位置、サービスエリア、送信電力、アンテナの高さ、アンテナの指向性に関する情報、プライマリ受信局11の位置、アンテナの高さ、アンテナ指向性等に関する情報など)。ここで、プライマリシステムがTV放送システムの場合には、TV受信局は無数にあり全てを把握するのは困難であるから、アンテナの高さやアンテナ指向性については典型値が用いられ、TV受信局の位置については地図の上で格子状(例えば100m間隔の格子)にTV受信局が存在するものと仮定される。本実施形態によるスペクトルマネージャは、この想定TV受信局の受信品質が所定レベルに維持されるようにセカンダリ送信局の送信電力を制御する。以下、プライマリ受信局11はこの想定TV受信局を表すものとし、スペクトルマネージャ50はこの想定TV受信局に対して許容送信電力を計算するものとする。
【0027】
・セカンダリシステムに関する所定情報(例えば、セカンダリ送信局20のデバイスID、位置、アンテナの高さ、アンテナの指向性等に関する情報など)。これらの情報は、セカンダリ送信局20がスペクトルマネージャ50にアクセスした際(周波数の利用開始要求を出した場合等)に、スペクトルマネージャ50を介して登録される。
【0028】
・異なる無線局間のパスロス情報。例えば、セカンダリ送信局20とプライマリ受信局11との間やプライマリ送信局10とプライマリ受信局11との間のパスロスを無線局間の距離やアンテナ高をパラメータとした所定の伝搬モデルを用いて予め推定し格納しておく。
【0029】
ただし、これらの情報のいくつかが統合された形態で格納されてもよい。無線環境データベース30は、これらの格納された情報を要求元(例えば、スペクトルマネージャ50)に必要に応じて提供する。なお、無線環境データベース30は、スペクトルマネージャ50の機能の一部又は全部が統合された装置であってもよく、反対に無線環境データベース30の機能の一部又は全部がスペクトルマネージャ50に統合されていてもよい。
【0030】
1.5)スペクトルマネージャ
スペクトルマネージャ50は、セカンダリ送信局20に対して各周波数における許容送信電力を算出し、利用可能周波数とその許容送信電力を通知する機能を有する。たとえば、利用不可である周波数は許容送信電力を0[W]とし、利用可能周波数は許容送信電力を0[W]より大きくしてセカンダリ送信局に通知することで、全ての周波数の許容送信電力により利用可能周波数を伝えることができる。
【0031】
本実施形態によるスペクトルマネージャ50は、単一または複数のセカンダリ送信局20を管理し、管理下のセカンダリ送信局から周波数利用状況の変更に関する通知を受け取ると、後述する干渉到達範囲の情報を参照して許容送信電力の計算対象を絞り、計算対象となったセカンダリ送信局20に対して許容送信電力を設定する。
【0032】
以下、「周波数利用状況の変更に関する通知」は、周波数利用の開始要求、周波数利用停止の通知、送信電力変更の要求、周波数変更の要求、あるいは無線環境の測定報告のことを指すものとする。なお、スペクトルマネージャ50は、無線環境データベース30またはその一部と統合された形の別な呼称として、Geo-location DatabaseやWhite Space Databaseと呼ばれることもある。また、無線環境データベース30またはその一部をGeo-location DatabaseやWhite Space Databaseと呼ぶ場合もある。
【0033】
図3に示すように、スペクトルマネージャ50は、ネットワーク通信部501と、周波数利用受付部502と、データベース情報記憶部503と、許容送信電力決定部504とから構成される。ネットワーク通信部501は、スペクトルマネージャ50の各部がセカンダリ送信局20や無線環境データベース30と通信を行うための機能を備える。
【0034】
周波数利用受付部502は、ネットワーク通信部501を介して、スペクトルマネージャ50の管理下にあるセカンダリ送信局20から周波数利用状況の変更に関する通知を受け付ける。例えば、周波数利用受付部502は、周波数利用の開始要求を受けた場合、要求情報に含まれるセカンダリ送信局20に関する情報(デバイスID、位置、アンテナの高さ、アンテナの指向性等)をデータベース情報記憶部503や無線環境データベース30に登録する。続いて、周波数利用受付部502は許容送信電力設定部504に許容送信電力の計算を指示する。別の通知(たとえば周波数利用停止の通知等)を受けた場合にも、同様にして周波数利用受付部502は許容送信電力設定部504に許容送信電力の計算を指示する。
【0035】
データベース情報記憶部503は、無線環境データベース30から取得した情報やセカンダリ送信局20から得た情報を保持する。周波数利用中の各セカンダリ送信局が実利用周波数をスペクトルマネージャ50に通知しない場合には、スペクトルマネージャ50は各セカンダリ送信局20がどの周波数を使っているかを把握できないが、各セカンダリ送信局20の利用可能周波数はデータベース情報記憶部503に格納されている。
【0036】
許容送信電力設定部504は、周波数利用受付部502から許容送信電力計算の指示を受けると、許容送信電力の計算に必要な情報を適宜データベース情報記憶部503から取り出して計算する。計算に必要な情報としては、上述したプライマリ送信局10の位置、サービスエリア、送信電力、アンテナの高さ、アンテナの指向性に関する情報、プライマリ受信局11の位置、アンテナの高さ、アンテナ指向性、許容干渉電力、セカンダリ送信局20のデバイスID、位置、アンテナの高さ、アンテナの指向性、および、各種無線局間のパスロス情報の一部または全部などであるが、これらの情報の一部は許容送信電力設定部504に予め格納されていてもよい。
【0037】
許容送信電力決定部504は、周波数利用受付部502から許容送信電力計算の依頼を受け付ける。そして、周波数利用状況の変更に関わる通知を発行した(例えば、周波数利用の開始要求を出した)セカンダリ送信局20と、後述の干渉到達範囲を用いて選択した既に周波数共用中の別のセカンダリ送信局とに限定して、それぞれの各周波数での許容送信電力を計算する。
【0038】
なお、図3には図示されていないが、スペクトルマネージャ50には全体的な動作を制御する制御部が設けられ、上述したネットワーク通信部501、周波数利用受付部502、データベース情報記憶部503および許容送信電力決定部504の動作を制御している。また、この制御部と周波数利用受付部502および許容送信電力設定部504の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをコンピュータ(CPUあるいはプログラム制御プロセッサ)上で実行することにより実現することもできる。
【0039】
1.6)周波数管理動作
図4において、スペクトルマネージャ50の周波数利用受付部502は、ネットワーク通信部501を通して、スペクトルマネージャ50の管理下にあるセカンダリ送信局20から周波数利用状況の変更に関する通知(周波数利用の開始要求あるいは利用停止の通知)を受け付ける(ステップS10)。
【0040】
続いて、周波数利用受付部502は、許容送信電力の計算に必要な情報をデータベース情報記憶部503から取得する(ステップS11)。この計算に必要な情報とは、上述したように、プライマリ送信局10の位置、サービスエリア、送信電力、アンテナの高さ、アンテナの指向性に関する情報、プライマリ受信局11の位置、アンテナの高さ、アンテナ指向性、許容干渉電力、セカンダリ送信局20のデバイスID、位置、アンテナの高さ、アンテナの指向性、および、各種無線局間のパスロスの中で、一部または全部の情報である。全ての必要な情報がデータベース情報記憶部503に格納されていない場合は(ステップS12のNO)、周波数利用受付部502はネットワーク通信部501を通して無線環境データベース30へアクセスし、不足している情報のみを無線環境データベース30から取得する(ステップS13)。
【0041】
全ての必要な情報がデータベース情報記憶部503に格納されている場合(ステップS12のYES)あるいは不足している情報が取得された場合(ステップS13)には、許容送信電力決定部504は、周波数利用受付部502からの許容送信電力計算の依頼を受け付け、周波数利用状況の変更に関する通知を発行したセカンダリ送信局20と、このセカンダリ送信局20と干渉到達エリアが重複する別のセカンダリ送信局とを計算対象とする(ステップS14)。こうして計算対象となるセカンダリ送信局が決定されると、許容送信電力決定部504は、次に述べる計算方法により、計算対象のセカンダリ送信局に対する許容送信電力を各周波数に関して計算し、計算された許容送信電力をそれぞれのセカンダリ送信局へ通知する(ステップS15)。
【0042】
1.7)許容送信電力の計算
次に、許容送信電力の計算方法を説明するが、ここでは当該スペクトルマネージャ50の管理下で既に周波数利用中であるセカンダリ送信局のインデックスをn=1〜Nとして表すものとする。
【0043】
許容送信電力決定部504は、まず、開始要求を通知したセカンダリ送信局20(インデックスn=0で表す)の利用可能周波数を特定する。利用可能周波数は、セカンダリ送信局20がプライマリシステムサービスエリア12外であるときの、または、その端から所定距離離れているときの当該プライマリシステムサービスエリア12の周波数である。全ての周波数(例えばTVの全チャネル)に対して、この条件を確かめることで全ての利用可能周波数を特定できる。
【0044】
本実施形態では、各セカンダリ送信局20の利用可能周波数がデータベース情報記憶部503に格納されている。すなわち、プライマリシステムの周波数をf(周波数のインデックスをi=1〜Iとする)とすれば、第nセカンダリ送信局の利用可能周波数の集合{fi(n、k)}(周波数のインデックスをi(n、k)とし、kは集合の中のインデックス)がデータベース情報記憶部503に登録されている。例えば、第nセカンダリ送信局の利用可能周波数が{f、f、f}であれば、i(n、1)=1、i(n、2)=3、i(n、3)=6、である。
【0045】
以下、セカンダリ送信局20の利用可能周波数の一つを周波数fとし、周波数fの許容送信電力の計算方法について説明する。ただし、他のセカンダリ送信局は、当該周波数fが利用可能周波数である場合に限り、当該周波数fを使用中であると仮定する。この場合、各セカンダリ送信局が同一周波数を利用することで合計の干渉が最大となる場合を考慮して許容送信電力を決定できる。
【0046】
まず、本発明の実施形態の特徴である許容送信電力の計算対象とするセカンダリ送信局の決定方法について説明した後に、具体的な許容送信電力の計算方法を説明する。
【0047】
<計算対象の限定>
本実施形態では、許容送信電力の計算対象とするセカンダリ送信局を限定するため、干渉到達範囲を用いる。特に、地理的な干渉到達範囲である干渉到達エリアを用いることで、計算対象のセカンダリ送信局の集合S⊆{1、2、・・・、N}を求める。ただし、n=0のセカンダリ送信局20は、開始要求を通知した送信局であって必ず計算対象となるので、Sからは除外している。
【0048】
干渉到達エリアとは、セカンダリ送信局が最大送信電力で送信する際に、実質的に干渉が地理的に到達するエリアをいう。ここで、「最大送信電力」とは、セカンダリ送信局のハードウェア限界による送信電力の上限値や周波数共用する際に周波数規則等で認められた送信電力の範囲の上限値(許容送信電力の最大値)等であるとする。また、既に周波数を利用しているセカンダリ送信局では、スペクトルマネージャ50が許容送信電力を把握しているため、「最大送信電力」を許容送信電力としてもよく、スペクトルマネージャ50が実送信電力を管理する場合には「最大送信電力」を実送信電力としてもよい。したがって、干渉到達エリアは、この最大送信電力とセカンダリ送信局からの周囲へのパスロスとに依存し、干渉電力が十分小さい値と見なされる閾値ITh以上と推定されるエリアを指す。また、単純に所定距離以内を干渉到達エリアとしてもよい。以下、計算対象となるセカンダリ送信局の限定方法をより具体的に説明するために、図5に示す無線システムの構成を考える。
【0049】
図5に例示する無線システムは、プライマリ送信局10のプライマリサービスエリア12内にプライマリ受信局11_1〜11_3が存在し、プライマリサービスエリア12の近傍にセカンダリ送信局20_0〜20_4が存在し、セカンダリ送信局20_0〜20_4がそれぞれ干渉到達エリアIA20_0〜IA20_4を有するものとする。ただし、プライマリ受信局11は、プライマリシステムサービスエリア12内に格子状に存在すると想定しているので、実際には他にも存在することになるが、ここでは説明上の都合上、隣接するセカンダリ送信局の干渉到達エリアと重なるプライマリ受信局11_1〜11_3のみを図示している。以下、セカンダリ送信局20_1〜20_4は既に周波数利用中であるとし、セカンダリ送信局20_0が新たに周波数利用を開始する場合の許容送信電力の計算方法について説明する。ただし、この例では許容送信電力を計算する周波数fが、セカンダリ送信局20_1〜20_4にとって利用可能周波数であるとする。
【0050】
まず、セカンダリ送信局20_0が最大送信電力で送信を開始したと仮定すると、セカンダリ送信局20_0の干渉到達エリアIA20_0内で干渉が増加する。したがって、セカンダリ送信局20_0の送信により合計干渉量が増大する可能性のあるのは、干渉到達エリアIA20_0と重なっている干渉到達エリアIA20_1、IA20_2、IA20_3であり、セカンダリ送信局20_1、20_2、20_3の許容送信電力に影響する可能性がある。従って、干渉到達エリアが重複しないセカンダリ送信局20_4を計算対象から除外することで、計算対象となるセカンダリ送信局のインデックスnの集合SはS={1,2,3}となる。
【0051】
さらに、プライマリシステムサービスエリア12と干渉到達エリアとの重複を考慮することで、計算対象のセカンダリ送信局数をさらに削減することができる。セカンダリ送信局の干渉到達エリアIA20_0とプライマリシステムサービスエリア12との共通領域を考えると、プライマリシステムサービスエリア12内ではプライマリ受信局11_1〜11_3に対する干渉が増加することになる。また、プライマリ受信局11_1はさらに干渉到達エリアIA20_1の範囲内にあり、プライマリ受信局11_3は干渉到達エリアIA20_3の範囲内にある。したがって、セカンダリ送信局20_0が送信することで複数セカンダリ送信局からプライマリ受信局への合計干渉量が増大する可能性があるのは、干渉到達エリアIA20_1およびIA20_3であり、これらのセカンダリ送信局を許容送信電力の計算対象とする。
【0052】
一方で、セカンダリ送信局20_2とセカンダリ送信局20_0の干渉到達エリア重複範囲では、プライマリ受信局が存在しない。したがって、セカンダリ送信局20_2との干渉の影響は許容送信電力の計算上考慮しなくてよいので、計算対象となるセカンダリ送信局のインデックスnの集合SはS={1,3}となる。
【0053】
<許容送信電力を算出>
以上のようにして求めた許容送信電力の計算対象であるセカンダリ送信局集合Sに対して、以下の方法で許容送信電力を算出する。
【0054】
第nセカンダリ送信局が周波数fを使用する際の許容送信電力をP(n、f)とし、開始要求を通知した第0セカンダリ送信局が周波数fを使用する際の許容送信電力P(0、f)とする。このとき、第mプライマリ受信局への干渉I(f、m)は次式(2)で与えられ、この値が許容干渉電力Imax(f、m)以下となる必要がある。
【0055】
【数2】
【0056】
式(2)において、第nセカンダリ送信局にとって周波数fが利用可能周波数でない場合には、P(n、f)=0(即ち、この第nセカンダリ送信局による干渉を考えない)として扱う。なお、隣接周波数間の干渉については後述する。また、L(n、f、m)は、周波数fを使用する際に第nセカンダリ送信局と第mプライマリ受信局との間のパスロスを表しており、セカンダリ送信局の情報(位置、アンテナ高等)とプライマリ受信局の情報(位置、アンテナ高等)とを用いて、秦式等の伝搬モデルに従って算出する。このパスロス計算は、許容送信電力決定部504が計算することも、無線環境データベース30にセカンダリ送信局情報を登録する際に無線環境データベース30が計算することも可能である。
【0057】
また、式(2)におけるmとしては、セカンダリ送信局20_0の干渉到達エリアとプライマリシステムサービスエリア12の重複領域にあるプライマリ受信局11_1〜11_3への干渉を抑えるため、m=1、2、3を考慮する。すなわち、m=1、2、3の全てにおいて式(2)の不等式を満たすセカンダリ送信局20_0、20_1、20_3の許容送信電力の組み合わせを求める。ここで、既に当該周波数を利用しているセカンダリ送信局20_1、20_3は、組み合わせとして得られた許容送信電力と、これまでの許容送信電力との小さい方を新たに許容送信電力とする。小さい方の許容送信電力を選ぶことで、プライマリ受信局11_1〜11_3以外のプライマリ受信局(干渉到達エリアIA20_1とプライマリシステムサービスエリア12の重複領域や、干渉到達エリアIA20_3とプライマリシステムサービスエリア12の重複領域に存在する図示していないプライマリ受信局)も干渉から保護できる。
【0058】
プライマリシステムを保護した周波数共用を行うためには、周波数fを使用する全てのプライマリ受信局(1≦m≦M)について、式(2)の条件を満たす必要がある。この条件を満たすP(n、f)の組み合わせは、通常は無数に存在するが、例えば、セカンダリ送信局の合計通信容量が最大となる組み合わせや、セカンダリ送信局間の公平性を考慮した許容送信電力の組み合わせ等、許容送信電力設定部504の任意のポリシで組み合わせを決定できる。式(2)において、計算対象のセカンダリ送信局数(Sの要素数)を削減できれば、許容送信電力の組み合わせを探索する計算量も削減できることになる。
【0059】
上記許容送信電力の組み合わせ探索は、周波数f〜fで行われ、周波数毎に、各セカンダリ送信局の許容送信電力の組み合わせが得られる。許容送信電力決定部504は、こうして計算した各周波数の許容送信電力の情報を周波数利用の開始要求を出したセカンダリ送信局20とスペクトルマネージャ50の管理下にあって既に周波数利用中の別なセカンダリ送信局に対して通知する。
【0060】
なお 、スペクトルマネージャ50は、必ずしも全ての利用可能周波数をセカンダリ送信局20に対して通知する必要はない。即ち、利用可能周波数の中でいくつかの周波数を選択してセカンダリ送信局20に通知し、残りの周波数は利用不可周波数(許容送信電力を0とした周波数)と設定して通知することも出来る。例えば、許容送信電力がある閾値以上の周波数を利用可能周波数として設定することもできる。あるいは、許容送信電力の大きい方からいくつかの周波数を利用可能周波数とすることもできるし、他のセカンダリ送信局が利用可能周波数として設定している数が少ない方からいくつかの周波数を選択して利用可能周波数として設定することも可能である。このように利用可能周波数として通知する周波数を予め制限することで、利用可能周波数を全て通知する場合と比べ、各周波数が利用可能周波数として設定される数を少なくでき、考慮不要な干渉の影響を式(2)の計算時に省くことができる。結果として、新たに周波数利用を開始するセカンダリ送信局に対して、より大きな許容送信電力を割当てることができる。
【0061】
1.8)システム動作シーケンス
次に、図6および図7を順次参照しながら、セカンダリ送信局20_0が周波数利用状況の変更通知を発行し、スペクトルマネージャ50により管理されているセカンダリ送信局20_1〜20_4が同じ周波数を使用中である場合を例示して無線システム全体の動作を説明する。
【0062】
<周波数利用開始>
図6において、セカンダリ送信局20_0が周波数利用状況の変更に関する通知(周波数利用開始要求)をスペクトルマネージャ50に対して通知すると(動作S101)、スペクトルマネージャ50は、必要に応じて無線環境データベース30からの不足情報の取得および情報の登録を行う(動作S102)。必要な情報が全て揃えば、スペクトルマネージャ50は、計算対象となるセカンダリ送信局を限定し、限定されたセカンダリ送信局に関する各周波数の許容送信電力を計算する(動作S103)。ここでは、許容送信電力の計算対象となるセカンダリ送信局として、セカンダリ送信局20_0と干渉到達エリアが重複するセカンダリ送信局20_1および20_3が選ばれ、これらのセカンダリ送信局の許容送信電力が計算されたものとする。こうして、スペクトルマネージャ50は、セカンダリ送信局20_0とセカンダリ送信局20_1および20_3とに対して許容送信電力の計算結果を通知する(動作S104)。
【0063】
セカンダリ送信局20_0は、スペクトルマネージャ50_1から通知された利用可能周波数とその許容送信電力を用いて実利用周波数と実送信電力を決定し(動作S105)、周波数を共用した通信を開始する。また、セカンダリ送信局20_1および20_3は、通知された許容送信電力の変更に伴い、実利用周波数や実送信電力を変更する必要あれば変更し(動作S106、S107)、周波数共用による通信を続ける。
【0064】
<周波数利用停止>
図7において、セカンダリ送信局20_0がスペクトルマネージャ50に対して周波数利用の停止を通知すると(動作S110)、スペクトルマネージャ50は、無線環境データベース30にセカンダリ送信局20_0が停止したことを登録し、他のセカンダリ送信局の許容送信電力を計算するために必要な情報を無線環境データベース30から取得する(動作S111)。
【0065】
ここで、許容送信電力の計算対象とするセカンダリ送信局は、セカンダリ送信局20_0が元々送信していた際に干渉到達エリアが重複していたセカンダリ送信局であり、ここではセカンダリ送信局20_1および20_3が選ばれたものとする。許容送信電力の計算は、式(2)において、セカンダリ送信局20_0に関する項を除いた式を用いて(セカンダリ送信局20_0のインデックスをn=0とすれば、式(2)から第1項のP(0、f)/L(0、f、m)を除くことに相当する)、セカンダリ送信局20_1および20_3の許容送信電力を計算し(動作S112)、通知する(動作S113)。セカンダリ送信局20_1および20_3はそれぞれ、通知された許容送信電力の値を保持し、この許容送信電力の変更に伴い、実利用周波数や実送信電力を変更する必要ある場合は、これらを変更し(動作S114、S115)、周波数共用による通信を続ける。
【0066】
1.9)実利用周波数および実送信電力が通知される場合
以上、実利用周波数および実送信電力がスペクトルマネージャへ通知されない場合を説明したが、実利用周波数および実送信電力をスペクトルマネージャへ通知することで、実際の周波数利用状況(実利用周波数および実送信電力)を把握でき、より積極的に周波数共用を行うことができる。
【0067】
実利用周波数および実送信電力が通知されるのは、セカンダリ送信局20が、周波数共用を開始する時、周波数共用中に実送信電力の変更を要求する時、あるいは、実利用周波数の変更を要求する時である。この場合、スペクトルマネージャ50が各セカンダリ送信局20の実利用周波数と実送信電力を把握するので、セカンダリ送信局20の与えている干渉状況を把握しやすくなり、より積極的に周波数共用を行うことができる。
【0068】
図8において、セカンダリ送信局20_0による開始要求(動作S121)、無線環境データベース30からの必要情報の取得および情報の登録(動作S122)は、図6の動作S101およびS102と同じである。
【0069】
続いて、スペクトルマネージャ50がセカンダリ送信局20_0と計算対象となるセカンダリ送信局の許容送信電力を計算する(動作S123)。この例では、全てのセカンダリ送信局が実利用周波数と実送信電力を通知することを想定しているので、既にプライマリシステムの周波数を利用しているセカンダリ送信局20の実利用周波数および実送信電力の情報は、無線環境データベース30またはデータベース情報記憶部503に格納されているものとする。そのため、既に周波数利用中の各セカンダリ送信局(20_1〜20_4)は格納された実利用周波数を使用している前提で、スペクトルマネージャ50は、許容送信電力を計算する周波数を実利用周波数としたセカンダリ送信局であって、セカンダリ送信局20_0と干渉到達エリアが重複するセカンダリ送信局の許容送信電力を決定する。ここでは、セカンダリ送信局20_1および20_3が選ばれたとする。
【0070】
許容送信電力の算出方法は、上述した実利用周波数および実送信電力を通知しない第1実施形態と基本的に同様である。ただし、周波数を利用中の第nセカンダリ送信局にとって周波数fが利用可能周波数でない場合に式(2)でP(n、f)=0としたが、ここでは実利用周波数でない場合にP(n、f)=0として扱う点が異なる。
【0071】
さらに、許容送信電力が、後述する送信電力希望値(PDesired)を超えないための条件(P(n、f)≦PDesired)を設ける。ただし、送信電力の希望値が設定されていないセカンダリ送信局についてはこの条件を設定しない。許容送信電力は、送信電力の希望値に関する条件と式(2)の条件を満たすP(n、f)の組み合わせとして探索される。送信電力の希望値に関する条件を設定することで、セカンダリ送信局に対して希望の送信電力を超える余分な許容送信電力を割当てないようにし、他のセカンダリ送信局の許容送信電力をその分増加させる。
【0072】
通常、許容送信電力の組み合わせは無数に存在するが、例えば、セカンダリ送信局の合計通信容量が最大となる組み合わせ、セカンダリ送信局間の公平性を考慮した許容送信電力の組み合わせ、現在の実送信電力と比べて劣化量の少ない許容送信電力の組み合わせなど、許容送信電力設定部504の任意のポリシで組み合わせを決定できる。
【0073】
また、上述した送信電力希望値(PDesired)は次のように設定することができる。スペクトルマネージャ50は、セカンダリ送信局20_0が決定した実利用周波数と実送信電力とを受け取ると、セカンダリ送信局20_0の希望する送信電力と許容送信電力とを比較する。希望送信電力が許容送信電力より低い場合には、実送信電力は許容送信電力より低い値に設定される。このときにスペクトルマネージャ50では、通知された実送信電力を、セカンダリ送信局20_0の送信電力の希望値として保持する。一方で、セカンダリ送信局20_0の希望する送信電力が許容送信電力より大きい場合には、実送信電力は許容送信電力と等しい値に設定される。このとき、セカンダリ送信局20_0は送信電力の希望値を設定しない。また、別な方法として、セカンダリ送信局20_0が実送信電力と実利用周波数を通知する際に、セカンダリ送信局20_0の送信電力の希望値もスペクトルマネージャに通知するようにしてもよい。
【0074】
次に、算出したセカンダリ送信局20_0の各周波数の許容送信電力は、セカンダリ送信局20_0に通知される(動作S124)。セカンダリ送信局20_0は、周波数毎の許容送信電力をもとに実利用周波数と実送信電力を決定する(動作S125)。セカンダリ送信局20_0は、決定した実利用周波数と実送信電力をスペクトルマネージャ50に対して通知する(動作126)。実利用周波数と実送信電力の通知を受けると、スペクトルマネージャ50は、通知された実利用周波数と実送信電力を無線環境データベース30に登録する(動作S127)。
【0075】
続いて、スペクトルマネージャ50は、セカンダリ送信局20_0から通知された実送信電力と、その実利用周波数での許容送信電力とを比較し、計算対象である他のセカンダリ送信局(20_1および20_3)の許容送信電力の再計算を行うかどうか判断する(動作128)。比較の結果、両者が一致した場合には、許容送信電力の再計算は行わずに、既に計算済みの許容送信電力の組み合わせの中から、セカンダリ送信局20_0から通知された実利用周波数を使用する場合の組み合わせを選択し、この許容送信電力情報を他のセカンダリ送信局(20_1および20_3)に対して通知する(動作129)。
【0076】
これに対して、実送信電力の方が許容送信電力より小さく、かつ、他のセカンダリ送信局(20_1および20_3)の中で計算済みの許容送信電力が送信電力の希望値に満たない送信局もしくは送信電力の希望値が設定されていない送信局が存在する場合には、許容送信電力の再計算を行う。
【0077】
許容送信電力の再計算を行う理由は、セカンダリ送信局20_0が許容送信電力より低い実送信電力を用いる場合には許容干渉電力の制限に対して余裕が生じるので、この干渉余裕分を許容送信電力が希望値に満たない他のセカンダリ送信局に対して割当てることが可能となるからである。許容送信電力の再計算では、セカンダリ送信局20_0と送信電力の希望値に等しい許容送信電力となったセカンダリ送信局とのそれぞれの希望値を許容送信電力として固定し、許容送信電力が送信電力の希望値に満たないセカンダリ送信局の許容送信電力を再度計算する。スペクトルマネージャ50は、計算された許容送信電力情報を他のセカンダリ送信局(20_1および20_3)に対して通知する(動作129)。
【0078】
続いて、スペクトルマネージャ50は、セカンダリ送信局20_0に対して、実利用周波数と実送信電力の通知に対する確認通知を返し(動作S130)、これによりセカンダリ送信局20_0は送信を開始する。また、既に周波数利用中の各セカンダリ送信局(20_1および20_3)は、通知された許容送信電力の値を新しい設定値として保持し、この許容送信電力の変更に伴い、実利用周波数や実送信電力を変更する必要ある場合は、これらを変更し送信を続ける(動作S131、S132)。
【0079】
以上の通りに、スペクトルマネージャに対して実利用周波数と実送信電力の通知を行い、これら情報を用いてセカンダリ送信局の許容送信電力を決定することで、通知を行わずに利用可能周波数を用いて許容送信電力を決定する場合と比べて、より正確な利用状況に基づいた干渉推定が可能となる。具体的には、式(2)の干渉電力を想定する際に、実際に各周波数を利用しているセカンダリ送信局のみを考慮できるようになり、周波数を使う可能性はあるが(利用可能周波数ではあるが)実際には利用していないセカンダリ送信局を除くことができる。これによって、実際には存在しない干渉を考慮しなくてすむので、より大きな許容送信電力をセカンダリ送信局に割当てることや、より多くのセカンダリ送信局に同一周波数を共用させることが可能になる。
【0080】
また、許容送信電力の計算の際に、セカンダリ送信局の送信電力の希望値を超えないように許容送信電力を設定することで、小さな許容送信電力が割当てられるセカンダリ送信局の許容送信電力を増加させることができる。
【0081】
さらに、セカンダリ送信局から通知された実送信電力が許容送信電力より小さく、かつ、他のセカンダリ送信局の許容送信電力が希望値に満たない場合に、許容送信電力の再計算を行うことで、許容干渉電力の制限に対して生じた干渉余裕分を許容送信電力が希望値に満たない他のセカンダリ送信局に対して割当て、許容送信電力を増加させることができる。
【0082】
なお、セカンダリ送信局がスペクトルマネージャに対して実利用周波数および実送信電力を通知する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、セカンダリ送信局が、利用可能周波数の中で実利用周波数を含む複数周波数を使用可能性のある周波数としてスペクトルマネージャに通知してもよい。
【0083】
また、セカンダリ送信局が、実送信電力より大きく許容送信電力より小さい送信電力をスペクトルマネージャに通知することもできる。この場合、セカンダリ送信局は、通知した周波数と送信電力の範囲内で実利用周波数と実送信電力を変更し、スペクトルマネージャでは通知された周波数と送信電力の中で式(2)の干渉電力を想定する。これによって、セカンダリ送信局では、通知した周波数と送信電力の範囲内で実利用周波数と実送信電力を変更できる柔軟性を確保することができ、スペクトルマネージャでは、可能性の高い周波数と送信電力とに限定して干渉電力を見積もることができる。
【0084】
なお、ここでは「周波数利用状況の変更に関する通知」として周波数利用の開始要求を想定したが、上述したように周波数利用停止通知であっても同様である。その他の「周波数利用状況の変更に関する通知」として、送信電力変更の要求や周波数変更の要求も考えられる。送信電力変更の要求は、セカンダリ送信局が一度決定した実送信電力を変更したい場合にスペクトルマネージャに対して通知される。例えば、セカンダリ送信局がカバレッジ拡大のために送信電力を増加する場合や、省電力化のためセカンダリ送信局が送信電力を減少させる場合が相当する。
【0085】
同様に、周波数変更の要求は、セカンダリ送信局が一度決定した実利用周波数を、変更したい場合にスペクトルマネージャに対して通知される。例えば、セカンダリ送信局の実利用周波数で、他のセカンダリシステムから当該セカンダリシステムへの干渉が増加した場合等が相当する。
【0086】
「周波数利用状況の変更に関する通知」が、送信電力変更の要求、または、周波数変更の要求のどちらの場合であっても、スペクトルマネージャは、通知を発行したセカンダリ送信局と、このセカンダリ送信局と干渉到達エリアが重複する既に周波数を利用中の他のセカンダリ送信局とのそれぞれに対して、各周波数での許容送信電力を計算する点は同様である。
【0087】
1.10)効果
以上説明した第1実施形態によれば、スペクトルマネージャは、各セカンダリ送信局の地理的な干渉到達範囲である干渉到達エリアを用いることで、周波数利用状況を変更するセカンダリ送信局と干渉到達エリアが重複しない他のセカンダリ送信局は許容送信電力の計算対象から除外され、干渉到達範囲が重複するセカンダリ送信局のみに限定して許容送信電力を計算する。これによって、周波数利用状況を変更するセカンダリ送信局による干渉が影響する(すなわち干渉が増加または減少する)範囲に対して、実質的に干渉を与えている他のセカンダリ送信局のみを許容送信電力の計算対象とすることができる。即ち、許容送信電力の計算から不要なセカンダリ送信局を除外できるため、処理量を削減できる。
【0088】
さらに、周波数利用状況の変更を行うセカンダリ送信局と他のセカンダリ送信局との重複した干渉到達エリアが、プライマリシステムサービスエリアと重複しない場合には、当該他のセカンダリ送信局を許容送信電力の計算対象から除外することができる。これにより、干渉の合計値がプライマリ受信局への干渉に影響する他のセカンダリ送信局のみを許容送信電力の計算対象にできる。
【0089】
なお、第1実施形態では、プライマリ受信局で所定の受信品質を保つための基準として、干渉電力を許容干渉電力以下に抑える基準を用いた。しかしながら、本発明はその他の基準(CIR、CINRを所定値以上に保つこと)を所定値以上に保つ基準を用いたとしても同様に適用できる。また、セカンダリ送信局での送信によって生じるプライマリ受信局のCIRやCINRの劣化度を所定値以下に抑えるように許容送信電力を設定することもできる。
【0090】
上述した第1実施形態の説明では図2に示すシステム構成を仮定したが、本発明はこれに限定されるものではなく、以下に示す実施形態のシステム構成にも適用可能である。
【0091】
2.第2実施形態
本発明の第2実施形態によれば、セカンダリシステムの周波数管理装置としてのスペクトルマネージャは、第1実施形態のスペクトルマネージャ50と同様に許容送信電力の計算対象であるセカンダリ送信局を限定する機能に加えて、自装置管理下のセカンダリ送信局だけでなく、同じセカンダリシステムの他のスペクトルマネージャが管理するセカンダリ送信局に対しても許容送信電力の計算値を通知することができる。以下、説明を簡略化するために、セカンダリシステムに2つのスペクトルマネージャがそれぞれの管理下に2つのセカンダリ送信局を有する場合を一例として説明する。
【0092】
図9に示すように、本発明の第2実施形態による無線システムは、セカンダリ送信局20(20_1〜20_4)、スペクトルマネージャ51(51_1、51_2)、無線環境データベース30で構成され、各スペクトルマネージャが他のスペクトルマネージャの管理するセカンダリ送信局との間でも通信可能に接続されているものとする。スペクトルマネージャ51_1はセカンダリ送信局20_1、20_2を管理し、スペクトルマネージャ51_2はセカンダリ送信局20_3、20_4を管理する。各スペクトルマネージャは管理下のセカンダリ送信局から周波数利用状況の変更に関する通知を受け付ける。そして、各スペクトルマネージャは、管理下のセカンダリ送信局および他のスペクトルマネージャの管理下にあるセカンダリ送信局の中で、周波数利用状況の変更に関する通知を受けたセカンダリ送信局と干渉到達エリアが重複するセカンダリ送信局を限定し、それらに対して許容送信電力を計算して通知する。
【0093】
図10に示すように、スペクトルマネージャ51はセカンダリ送信局20を地理的なエリア毎に管理することができる。ここでは、スペクトルマネージャ51_1の管理エリアA51_1にセカンダリ送信局20_1と20_2が含まれており、これらのセカンダリ送信局がスペクトルマネージャ51_1の管理対象となる。同様にして、他のスペクトルマネージャ(51_2、51_3、51_4)も管理エリア(A51_2、A51_3、A51_4)と、各エリアに含まれる管理対象のセカンダリ送信局(20_3および20_4、20_5および20_6、20_7および20_8)をそれぞれ持っている。たとえば、各管理エリアA51は、都道府県の単位あるいは国単位に相当する。
【0094】
別な管理方法としては、管理されるスペクトルマネージャをセカンダリ送信局固有に決定することもできる。例えば、セカンダリ送信局の製造ベンダによって管理されるスペクトルマネージャが定められる場合、セカンダリ送信局に無線サービスを提供する事業者に応じて管理するスペクトルマネージャが定められる場合、セカンダリ送信局の無線システム(LTE,WiMAX等)に応じて管理するスペクトルマネージャが定められる場合もある。さらに、他の例としてセカンダリ送信局の使用する周波数毎にスペクトルマネージャが管理する場合もあるが、これについては別な実施形態で説明する。
【0095】
3.第3実施形態
図11に示すように、本発明の第3実施形態による無線システムは、セカンダリ送信局20(20_1〜20_4)、スペクトルマネージャ52(52_1、52_2)、無線環境データベース30で構成され、各スペクトルマネージャは自装置管理下のセカンダリ送信局との間で通信可能に接続され、さらにスペクトルマネージャ52_1と52_2とが通信可能に接続されている。スペクトルマネージャ52_1および52_2は、第2実施形態の場合と同様に、許容送信電力の計算対象を限定する機能に加えて、自装置管理下のセカンダリ送信局だけでなく、同じセカンダリシステムの他のスペクトルマネージャが管理するセカンダリ送信局へも当該他のスペクトルマネージャを介して許容送信電力計算値を通知することができる。
【0096】
図11に示すシステム構成では、あるスペクトルマネージャ52(例えば、52_1)が自装置管理外の別のセカンダリ送信局20(例えば、20_3、20_4)の許容送信電力を計算すると、当該別のセカンダリ送信局20を管理対象とする別のスペクトルマネージャ52(例えば、52_2)に対して計算結果である許容送信電力を通知し、当該別のスペクトルマネージャ52が計算結果である許容送信電力をその管理下のセカンダリ送信局(例えば、20_3、20_4)へ通知する。セカンダリ送信局20および無線環境データベース30の構成および動作は第1実施形態と同じであるから、同じ参照番号を付して説明は省略する。本実施形態によるスペクトルマネージャ52も基本的には第2実施形態によるスペクトルマネージャ51と同様であるが、別のスペクトルマネージャから計算結果である許容送信電力を受け取ると、自装置管理下のセカンダリ送信局へ転送する点が異なっている。以下、スペクトルマネージャ52_1を例示して、スペクトルマネージャ52の構成および動作を説明する。
【0097】
図12に示すように、スペクトルマネージャ52_1は、図3に示す第1実施形態のスペクトルマネージャ50と基本的には同様であるが、ネットワーク通信部521が他のスペクトルマネージャ52_2に対するインターフェースを持つ点が異なる。また、他の異なる点として、他のスペクトルマネージャ52_2が計算したスペクトルマネージャ52_1管理下のセカンダリ送信局に関する許容送信電力を受け取ると、データベース情報記憶部523にこの情報を格納した上で、自装置管理下のセカンダリ送信局20(20_1や20_2)に対して許容送信電力を通知する。このような構成にすることで、スペクトルマネージャ52_1は管理下のセカンダリ送信局20_1、20_2に関する情報を把握することができるようになる。スペクトルマネージャ52_2の構成および動作も同様である。
【0098】
4.第4実施形態
図13に示すように、本発明の第4実施形態による無線システムは、セカンダリ送信局20(20_1〜20_4)、スペクトルマネージャ53(53_1、53_2)で構成され、第3実施形態との相違点は、スペクトルマネージャ53の外部に無線環境データベース30を持たない点である。
【0099】
図14は、図13のシステム構成時のスペクトルマネージャ53の構成を示すが、ここではスペクトルマネージャ53_1の構成を例示する。図14に示すように、スペクトルマネージャ53_1は無線環境データベース533を内部に持つ。すなわち、複数のスペクトルマネージャ53の各々が無線環境データベース533を持つ。したがって、各スペクトルマネージャ53は、ネットワーク通信部531を通して互いに通信を行うことで、それぞれの無線環境データベース533に格納される情報を同期させる機能を有する。
【0100】
このように無線環境データベース533に格納される情報を同期させることで、無線環境データベース30を外部に有さないシステム構成であっても、上述した第1〜第3実施形態と同様に動作させることができる。
【0101】
5.第5実施形態
本発明の第5実施形態によれば、スペクトルマネージャはセカンダリ送信局を周波数毎に管理する。さらに、セカンダリ送信局の周波数方向の干渉到達範囲である干渉到達周波数を考慮して許容送信電力を算出する。説明を明瞭にするため、第2実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0102】
本実施形態では、スペクトルマネージャは、セカンダリ送信局の周波数利用状況の変更に関する通知(周波数利用の開始要求、周波数利用の停止等)を周波数別に管理する。即ち、スペクトルマネージャにとっては、管理対象周波数での周波数利用状況の変更に関する通知を行うセカンダリ送信局が第5実施形態における管理下のセカンダリ送信局に対応する。以下、セカンダリ送信局は周波数f1〜f8で送信し、送信周波数別にスペクトルマネージャにより管理される例を説明する。
【0103】
図15に示すように、スペクトルマネージャ60_1の管理対象を中心周波数f1とf2、スペクトルマネージャ60_2の管理対象を中心周波数f3とf4、スペクトルマネージャ60_3の管理対象を中心周波数f5とf6、スペクトルマネージャ60_4の管理対象を中心周波数f7とf8とする。本実施形態のシステム構成は、図15に示すように、各セカンダリ送信局が異なる周波数を管理するそれぞれのスペクトルマネージャ60に対してインターフェースを持つ。このように構成することで、各セカンダリ送信局はどのスペクトルマネージャ60に対しても周波数利用の開始要求を通知できる。
【0104】
また、本実施形態では、セカンダリ信号が隣接周波数を利用するプライマリ受信局へも干渉することを想定している。図16には、周波数f3とf7を中心周波数としたセカンダリ信号がそれぞれの隣接周波数に干渉する様子が示されている。隣接周波数を利用するプライマリ受信局への干渉は、セカンダリ送信局の送信周波数から隣接周波数へ漏洩する隣接チャネル漏洩電力比と、隣接周波数を中心とするプライマリ受信局の受信フィルタによってセカンダリ信号の中心の周波数帯域の信号を一部取り込んでしまう隣接チャネル選択性とが、複合して発生する。
【0105】
ここで、隣接周波数は互いに干渉を及ぼしあうため、本実施形態のようにスペクトルマネージャ60の管理対象を連続した周波数とすることで、許容送信電力の計算対象となるセカンダリ送信局20を、限られたスペクトルマネージャ管理下のセカンダリ送信局に限定できる。例えば、周波数によっては、その両側の複数チャネル分の隣接周波数を同一のスペクトルマネージャ60で管理している場合がある。この場合、計算対象となる複数のセカンダリ送信局を同一スペクトルマネージャで管理でき、関連情報が同じスペクトルマネージャに集約されることで、必要情報の取得のための無線環境データベース30へのアクセス数を減らすことができる等の効率化を達成できる。
【0106】
次に、隣接周波数間の干渉を考慮する際の干渉到達周波数を用いた許容送信電力の計算方法について述べる。本実施形態では、所定の周波数を管理対象とするスペクトルマネージャ60は、セカンダリ送信局20から発行された当該周波数に対する周波数利用状況の変更に関する通知を受け付け、当該セカンダリ送信局20の干渉到達周波数と干渉到達周波数が重複するセカンダリ送信局を計算対象として限定し、許容送信電力を計算し、各セカンダリ送信局に通知する。
【0107】
まず、隣接周波数への干渉は厳密には離れた周波数に対しても存在する。そこで、セカンダリ送信局が最大送信電力を用いたときに、十分小さい値と見なされる干渉電力の閾値以上の干渉が到達すると推定される周波数範囲を、周波数軸上の干渉到達範囲(干渉到達周波数)と定義する。干渉到達周波数は、kチャネル分の隣接周波数(周波数fに対してfi−k〜fi+kまで)と表すことにすれば、図16に示す例では、1チャネル分の隣接周波数干渉を考えているのでk=1となる。
【0108】
開始要求を通知した第0セカンダリ送信局が周波数fを使用する際の許容送信電力P(0、f)を考える。隣接周波数への干渉を考えた場合には、次式(3)に示すように、周波数fを利用する第mプライマリ受信局への干渉I(f、m)が許容干渉電力Imax(f、m)以下となる必要がある。
【0109】
【数3】
【0110】
ここで、α(f− f)は、周波数差f− fに応じた干渉度合いを表す係数であり、上述の隣接チャネル漏洩電力比と隣接チャネル選択性とに応じて決定される。周波数差0のときはα(0)=1で、周波数差f− fが大きくなるほどα(f− f)は小さくなり、周波数差がf− fj+kを超えると0となる。また、式(3)は、第nセカンダリ送信局にとって周波数fi’が利用可能周波数(もしくは、実利用周波数がスペクトルマネージャに通知される場合には実利用周波数)でない場合には、P(n、fi’)=0として扱う(即ち、第nセカンダリ送信局による干渉を考えない)。プライマリシステムを保護するためには、第0セカンダリ送信局の周波数fの送信に影響をうける干渉到達周波数fi−k〜fi+kを使用する全てのプライマリ受信局(1≦m≦M)について、式(3)の条件を満たす必要がある。即ち、I(fi−k、m)〜I(fi+k、m)について式(3)を満たす必要があるので、結果的にfi−2k〜fi+2kを使用するセカンダリ送信局(干渉到達周波数の重複するセカンダリ送信局)までが影響することになり、許容送信電力の計算対象となる。この条件を満たすP(n、f)の組み合わせを探索することで、許容送信電力を決定できる。
【0111】
なお、既に周波数を利用している第nセカンダリ送信局(1≦n≦N)の許容送信電力としては、組み合わせとして得られた許容送信電力と、これまでに利用していた際の許容送信電力との小さい方を新たに許容送信電力とする。小さい方の許容送信電力を選ぶことで、計算対象として選択された第nセカンダリ送信局の干渉が影響するが式(3)の条件として考慮されていなかったプライマリ受信局(周波数fi−2k〜fi−k−1やfi+k+1〜fi+2kを利用するプライマリ受信局)に対しても、干渉から保護できるようになる。
【0112】
上述したように、第5実施形態によれば、周波数利用状況の変更に関わる通知を行うセカンダリ送信局との間で干渉到達エリアが互いに重複し、かつ、干渉到達周波数が重複するセカンダリ送信局のみを許容送信電力の計算対象として限定することができる。言い換えれば、干渉到達周波数を用いることで、許容送信電力の計算上で不要なセカンダリ送信局数を削減することができる。
【0113】
また、スペクトルマネージャがセカンダリ送信局の周波数利用状況の変更に関する通知を受けた場合、管理対象の周波数を中心周波数として利用するセカンダリ送信局に加えて、必要であれば別のスペクトルマネージャが管理する周波数を利用するセカンダリ送信局も許容送信電力を計算して通知する。そのため、異なるスペクトルマネージャ間で重複した計算処理が発生しない。
【0114】
6.その他の実施形態
以上説明した第1〜第5実施形態によれば、セカンダリ送信局の許容送信電力を計算する際に、計算対象となるセカンダリ送信局の数を限定することができ、さらに処理負荷の集中を回避しつつスペクトルマネージャ間で重複した計算処理を排除できる。
【0115】
また、プライマリシステムとセカンダリシステムとは、異なるRAT(Radio Access Technology)であっても同一のRATであってもよい。異なるRATの例としては、前述したようにTV放送システムとセルラシステムの組み合わせを挙げることができる。同一のRATの例としては、プライマリシステムがマクロセル、セカンダリシステムがその中に設置されるフェムトセルの場合を挙げることができる。
【0116】
また、以上説明した第1〜第5実施形態において、スペクトルマネージャ、無線環境データベースは、複数のセカンダリシステムに対して周波数管理を提供する、セカンダリシステムとは別のシステムであってもよく、また、セカンダリシステムの一部であってもよい。また、スペクトルマネージャ、無線環境データベースは、無線システム間の干渉を監視するセンサ局を備えたシステムとすることも可能である。例えば、セカンダリ送信局の無線信号をセンサ局で測定することで、セカンダリ送信局からの周囲の被干渉エリアへのパスロスを補正し、補正したパスロスを用いて、干渉到達エリアや許容送信電力の計算を行うことができる。
【0117】
上述した第1〜第5実施形態におけるスペクトルマネージャは、所定のハードウェア、例えば回路として具現化することもできる。また、制御プログラムに従って、図示しないコンピュータ回路(例えば、CPU(Central Processing Unit))によって制御され、動作するように構成することもできる。その場合、これらの制御プログラムは、例えば、装置又はシステム内部の記憶媒体(例えば、ROM(Read Only Memory)やハードディスク等)、あるいは、外部の記憶媒体(例えば、リムーバブルメディアやリムーバブルディスク等)に記憶され、上記コンピュータ回路によって読み出され実行される。
【0118】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、TV放送システムに割り当てられた周波数をセルラシステムで利用する際の周波数利用管理に適用可能である。
【符号の説明】
【0120】
10 プライマリ送信局
11、11_1〜11_3 プライマリ受信局
12 プライマリシステムサービスエリア
20、20_0〜20_8 セカンダリ送信局
IA20_0〜IA20_4 干渉到達エリア
30 無線環境データベース
50、51_1、51_2、52、52_1、52_2、53、53_1、53_2、60_1〜60_4 スペクトルマネージャ
A51_1〜A51_4 スペクトルマネージャの管理エリア
501、521、531 ネットワーク通信部
502、522、532 周波数利用受付部
503、523 データベース情報記憶部
533 無線環境データベース
504、524、534 許容送信電力設定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16