(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C:0.005mass%以下、Si:8.0mass%以下、Mn:0.03〜3.0mass%、P:0.2mass%以下、S:0.005mass%以下、Al:3.0mass%以下、N:0.005mass%以下、Ni:0.01〜3mass%、Cr:5mass%以下、Ti:0.005mass%以下、Nb:0.003mass%以下、As:0.005mass%以下およびO:0.005mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを熱間圧延し、熱延板焼鈍を施した後、あるいは熱延板焼鈍を施すことなく、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延し、仕上焼鈍を施す無方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記仕上焼鈍の昇温過程を、誘導加熱で加熱した後、輻射加熱で加熱し、700〜760℃間の平均昇温速度を5℃/sec以上とするとともに、
上記仕上焼鈍の昇温過程における600〜700℃間の平均昇温速度を50℃/sec以上とすることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
上記鋼スラブは、上記成分組成に加えてさらに、SnおよびSbのうちから選ばれる1種または2種をそれぞれ0.005〜0.20mass%の範囲で含有することを特徴とする請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
上記鋼スラブは、上記成分組成に加えてさらに、Ca,MgおよびREMのうちから選ばれる1種または2種以上をそれぞれ0.0001〜0.010mass%の範囲で含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を開発する契機となった実験の一例を説明する。
<実験1>
C:0.0021mass%、Si:1.01mass%、Mn:0.29mass%、P:0.06mass%、S:0.0012mass%、Al:0.0005mass%、N:0.0016mass%、Ni:0.01mass%、Cr:0.01mass%、Ti:0.0012mass%、Nb:0.0004mass%およびO:0.0018mass%を含有し、Asを0.001〜0.01mass%の範囲で種々に変化して添加した鋼を実験室的に真空炉で溶解し、鋼塊とした後、熱間圧延して板厚2.4mmの熱延板とした。なお、上記熱延板の鋼板組織を調べたところ、完全に再結晶しており、フェライト粒径は18〜22μmの範囲であった。
【0017】
次いで、上記熱延板を酸洗した後、冷間圧延して板厚0.35mmの冷延板とした後、該冷延板に、均熱温度900℃、均熱時間10secの仕上焼鈍を施した。この際、仕上焼鈍における740℃までの加熱は、ソレノイド式誘導加熱装置を用いて行い、室温〜400℃間の平均昇温速度は20℃/secとし、400〜700℃間の平均昇温速度は20〜400℃/secの範囲で種々に変化させた。また、誘導加熱完了から900℃(均熱温度)までの加熱は電気炉(輻射加熱炉)を用いて行い、700〜760℃間の平均昇温速度は15℃/sec、760℃超えの平均昇温速度は10℃/secとなるよう電気炉の出力を調整した。仕上焼鈍の雰囲気はvol%比でH
2:N
2=2:8とし、露点は−20℃(P
H2O/P
H2=0.006)に設定した。
【0018】
次いで、上記のようにして得た仕上焼鈍板から、圧延方向(L方向)および幅方向(C方向)を長手方向とする180mm×30mmの試験片を採取し、JIS C2550−1(2011)に準拠したエプスタイン試験で磁気特性(磁束密度B
50)を測定した。
図1に、600〜700℃間の平均昇温速度とAs含有量が、磁束密度B
50に及ぼす影響を示した。この図から、As含有量が0.005mass%以下、平均昇温速度が50℃/sec以上で磁束密度B
50が向上していることがわかる。
【0019】
そこで、上記の原因を調査するため、上記試験片の集合組織を調べたところ、磁束密度が高いものは、{111}強度が低くなっていることがわかった。この結果から、微量成分であるAsは、{111}方位粒の比率を高め、磁束密度を低下させる有害元素であること、従って、急速加熱による磁束密度向上効果を安定して得るためには、不純物として混入してくるAsの含有量を0.005mass%以下に制限する必要があることがわかった。
【0020】
なお、上記実験は、微量成分であるAsの影響を調べたものであるが、発明者らは、その他の微量成分についても同様の実験を行い、仕上焼鈍後の{111}強度に及ぼす影響を調査した。その結果、Asと同様、磁束密度に悪影響を及ぼす有害元素として、TiおよびNbがあり、それぞれ0.005mass%以下および0.003mass%以下に制限する必要があることがわかった。
【0021】
上記のように、Ti,NbおよびAsが仕上焼鈍後の{111}強度に影響を及ぼす理由について、発明者らは以下のように考えている。
Ti,NbおよびAsは、仕上焼鈍における回復・再結晶を遅延させる元素であるが、再結晶が速い{111}方位粒は、その影響を受け難いため、上記有害元素が多く含まれる場合には、{110}や{100}方位粒に対する{111}方位粒の優位性が相対的に高くなってしまう。そのため、昇温速度を高めても、{111}方位粒の生成を抑制することができず、急速加熱による磁束密度向上効果が得られなくなる。
上記の実験結果から、仕上焼鈍で急速加熱する場合に、安定して高い磁束密度を得るためには、Ti,NbおよびAsを極微量に低減した、高純度の鋼素材を用いる必要があることがわかった。
【0022】
<実験2>
次に、仕上焼鈍における加熱パターンについて検討を行った。
C:0.0023mass%、Si:0.95mass%、Mn:0.23mass%、P:0.04mass%、S:0.0014mass%、Al:0.0001mass%、N:0.0021mass%、Ni:0.01mass%、Cr:0.02mass%、Ti:0.0008mass%、Nb:0.0004mass%、As:0.001mass%およびO:0.0031mass%を含有する成分組成の鋼を真空炉で溶解し、鋼塊とした後、熱間圧延して板厚1.8mmの熱延板とした。なお、上記熱延板の鋼板組織を調べたところ、完全に再結晶しており、フェライト粒径は20〜30μmの範囲であった。
【0023】
次いで、上記熱延板を酸洗し、冷間圧延して板厚0.30mmの冷延板とした後、仕上焼鈍を施した。ここで、上記仕上焼鈍は、ソレノイド式誘導加熱炉と電気炉(輻射加熱炉)を組み合わせた実験炉を用いて行い、700〜760℃間の平均昇温速度を種々に変化させた。なお、上記700〜760℃間の平均昇温速度の求め方を
図2に示した。また、誘導加熱による到達温度は740℃とした。また、仕上焼鈍における雰囲気は、いずれもvol%比でH
2:N
2=2:8、露点−20℃(P
H2O/P
H2=0.006)とした。
【0024】
次いで、上記のようにして得た仕上焼鈍板から、L方向およびC方向を長手方向とする180mm×30mmの試験片を採取し、JIS C2550−1(2011)に準拠したエプスタイン試験で磁気特性(磁束密度B
50)を測定した。
図3に、700〜760℃間の平均昇温速度が磁束密度に及ぼす影響を示した。この図から、700〜760℃間の平均昇温速度を5℃/sec以上とすることで、磁束密度向上効果が得られていることがわかる。
【0025】
上記の実験結果から、誘導加熱と輻射加熱の組み合わせによる仕上焼鈍で安定した磁束密度向上効果を得るためには、誘導加熱での急速加熱に続いて、輻射加熱での強加熱を行い、700〜760℃間の平均昇温速度を高めることが有効であることがわかった。
【0026】
この理由について、発明者らは、次のように考えている。
誘導加熱で700℃まで短時間で急速加熱された鋼板は、誘導加熱終了時点ではまだ再結晶は完了していない。しかし、ソレノイド式の誘導加熱では、700℃以上で急激に加熱効率が低下するため、700℃以降の昇温速度が低いと再結晶速度の高い{111}方位粒が生成し易くなる。そこで、{111}方位粒の再結晶を防止するためには、700℃超えでもさらに強加熱を行い、できるだけ高い温度で再結晶を進行させることが必要となる、と考えられる。
【0027】
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造に用いる鋼素材(スラブ)の成分組成について説明する。
C:0.005mass%以下
Cは、磁気時効を起こし、炭化物を形成して鉄損特性を劣化させる元素であるので、本発明では0.005mass%以下に制限する。好ましくは0.003mass%以下である。なお、下限は特に規定しないが、脱炭コストを抑制する観点から、0.0001mass%程度とすることが好ましい。
【0028】
Si:8.0mass%以下
Siは、鋼の比抵抗を高め、鉄損を低減するのに有効な元素であり、1.0mass%以上添加するのが好ましい。しかし、8.0mass%を超える添加は、圧延して製造することを困難とするため、上限は8.0mass%程度とする。なお、製造性の観点からは4.0mass%以下が好ましい。また、Si含有量が高いと、磁束密度が低下するため、高磁束密度を得るためには、2.0mass%以下が好ましい。
【0029】
Mn:0.03〜3.0mass%、
Mnは、Sを固定して熱間脆性を防止する効果のほか、鋼の比抵抗を増加させて鉄損を低減する効果がある。上記効果を得るためには、0.03mass%以上の添加が必要である。しかし、3.0mass%を超えると、磁束密度の低下が顕著になる。よって、Mnは0.03〜3.0mass%の範囲とする。好ましくは0.05〜1.0mass%の範囲である。
【0030】
P:0.2mass%以下
Pは、固溶強化能が大きいため、鋼の強度調整に用いられる元素である。しかし、0.2mass%を超えると、鋼が脆化して圧延することが困難になるので、Pの上限は0.2mass%とする。好ましくは0.1mass%以下である。
【0031】
Al:3.0mass%以下
Alは、Siと同様、鋼の比抵抗を高めて、鉄損を低減する効果がある。しかし、3.0mass%を超えると、圧延することが困難になるため、Alの上限は3.0mass%程度とする。
ただし、Alの含有量が0.01mass%超〜0.1mass%未満の範囲では、微細なAlNが析出して鉄損が増加するため、好ましくは0.01mass%以下もしくは0.1〜2.0mass%の範囲である。なお、Alを低減すると、集合組織が改善され、磁束密度が向上するので、上記効果を得たい場合には、Alを0.01mass%以下とすることが好ましい。
【0032】
S,N,O:それぞれ0.005mass%以下
S,N,Oは、いずれも微細析出物を形成して、鉄損を増加させる有害元素であり、特に0.005mass%を超えると悪影響が顕著になる。よって、S,N,Oは、それぞれ0.005mass%以下に制限する。より好ましくは、それぞれ0.003mass%以下である。
【0033】
Ni:3mass%以下
Niは、鋼の強度調整のために添加される元素である。しかし、3mass%を超える添加は、原料コストの上昇を招くため、Niの上限は3mass%程度とする。好ましくは1mass%以下である。
【0034】
Cr:5mass%以下
Crは、鋼の比抵抗を高めて、鉄損を低減する効果がある元素である。しかし、5mass%を超えると、却って鉄損が悪化するため、Crの上限は5mass%程度とする。好ましくは2mass%以下である。
【0035】
Ti:0.005mass%以下,Nb:0.003mass%以下
TiおよびNbは、仕上焼鈍における回復・再結晶を遅延させ、仕上焼鈍後の{111}方位粒を増加させて、急速加熱の磁束密度向上効果を失わせる有害元素である。特に上記の悪影響は、Tiが0.005mass%を超えると、また、Nbが0.003mass%超えると顕著になる。よって、Tiは0.005mass%以下、Nbは0.003mass%以下に制限する。好ましくは、Tiは0.003mass%以下、Nbは0.002mass%以下である。
【0036】
As:0.005mass%以下
Asは、Ti,Nbと同様、仕上焼鈍における回復・再結晶を遅延させ、仕上焼鈍後の{111}方位粒を増加させて、急速加熱の磁束密度向上効果を失わせる有害元素である。特に上記の悪影響は0.005mass%を超えると顕著になる。よって、Asは0.005mass%以下に制限する。好ましくは0.003mass%以下である。
【0037】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造に用いるスラブは、上記成分の他に、以下の成分を含有することができる。
Sn,Sb:それぞれ0.005〜0.20mass%
Sn,Sbは、再結晶集合組織を改善し、磁束密度や鉄損を改善する効果がある。上記の効果を得るためにはそれぞれ0.005mass%以上の添加するのが好ましい。しかし、0.20mass%超え添加しても、上記効果が飽和する。よって、SnおよびSbのいずれか1以上を添加する場合には、それぞれ0.005〜0.20mass%の範囲で添加するのが好ましい。
【0038】
Ca,Mg,REM:それぞれ0.0001〜0.010mass%
Ca,MgおよびREMは、安定な硫化物やセレン化物を形成し、結晶粒の粒成長性を改善する効果がある。上記の効果を得るためには、それぞれ0.0001mass%以上添加するのが好ましい。しかし、0.010mass%超え添加すると、却って鉄損が劣化する。よって、Ca,MgおよびREMのいずれか1以上を添加する場合には、それぞれ0.0001〜0.010mass%の範囲とするのが好ましい。
なお、本発明の無方向性電磁鋼板の製造に用いるスラブにおける上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0039】
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、転炉あるいは電気炉などで鋼を溶解し、脱ガス設備等で二次精錬する常法の精錬プロセスで前述した成分組成に調整した溶鋼を連続鋳造法でスラブとした後、熱間圧延し、熱延板焼鈍を施した後、あるいは熱延板焼鈍を施すことなく、冷間圧延し、仕上焼鈍を施す方法で製造することができる。
【0040】
ここで、上記熱間圧延の条件は、特に規定しないが、磁気特性を高める観点から、仕上圧延終了温度は700〜900℃、巻取温度は600〜800℃の範囲とするのが好ましい。また、熱間圧延後の熱延板焼鈍は、必要に応じて行えばよい。
【0041】
上記熱間圧延後または熱延板焼鈍後の熱延板は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚の冷延板とする。
この際、本発明において重要なことは、上記冷間圧延の最終冷間圧延(1回圧延法の場合は、その冷間圧延)前における鋼板のフェライト粒径を70μm以下に制御する、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下に制御することである。
【0042】
というのは、仕上焼鈍における再結晶においては、{111}方位を有する再結晶粒は、最終冷延前組織の粒界近傍から生成するため、最終冷延前組織のフェライト粒径が小さくなるほど、冷延・再結晶後の組織に{111}再結晶粒が多くなるので、急速加熱による{111}低減効果が顕著になるからである。これにより、巻取温度や熱延板焼鈍温度の低減などプロセス変更が可能となり、形状改善、生産効率向上などのメリットを得ることもできる。ここで、本発明における上記フェライト粒径は、板厚方向について切断法で測定した平均結晶粒径のことをいう。
【0043】
上記フェライト粒径の制御は、熱間圧延の仕上圧延終了温度や、巻取温度(自己焼鈍温度)、熱延板焼鈍温度、中間焼鈍温度などを調整することで行うことができる。なお、リジングを防止する観点から、最終冷間圧延前の鋼板組織は、再結晶率を80%以上とするのが望ましい。
【0044】
次いで、上記最終板厚とした冷延板は、仕上焼鈍を行い、無方向性電磁鋼板とする。
この際、上記仕上焼鈍は、磁束密度を高めるためには、昇温過程における600〜700℃間の平均昇温速度を50℃/sec以上とすることが必要であり、好ましくは100℃/sec以上である。なお、昇温速度の上限は特に規定しないが、設備コストを抑える観点から、上限は1000℃/sec程度である。
【0045】
なお、50℃/sec以上の昇温速度を得るためには、通電加熱や誘導加熱を用いる必要があるが、通電加熱は表面欠陥や形状不良を招くため、無方向性電磁鋼板の製造に適用するには難があり、誘導加熱を用いることが好ましい。
【0046】
上記の急速加熱終了後は、700〜760℃間を平均昇温速度5℃/sec以上で加熱するのが好ましい。5℃/sec未満では{111}方位粒が生成し易くなるからである。より好ましくは10℃/sec以上、さらに好ましくは15℃/sec以上である。
【0047】
上記700〜760℃間の加熱は、均一加熱性に優れる輻射加熱を用いて、所定の温度まで加熱するのが好ましい。この輻射加熱には、ラジアントチューブ加熱や電気ヒータ加熱等、公知の加熱方法を用いることができる。なお、誘導加熱を用いて760℃まで加熱してもよいが、大出力の誘導加熱設備が必要となるため、輻射加熱を組み合わせて加熱するのが好ましい。
【0048】
ここで、平均昇温速度を規定する温度範囲を600〜700℃の間および700〜760℃の間としたのは、上記600〜760℃間の温度は、再結晶が進行する温度領域であり、この温度領域の平均昇温速度が、磁束密度に大きな影響を与えるからである。すなわち、600℃未満の温度域では再結晶が開始せず、一方、760℃超えの温度域の昇温速度は再結晶集合組織に与える影響が小さいからである。
【0049】
なお、600℃未満および760℃超えの温度領域における昇温速度は、特に規定されないが、生産性を確保する観点からは、1℃/sec以上とするのが好ましい。
【0050】
また、上記仕上焼鈍の焼鈍雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、例えば、P
H2O/P
H2が0.1以下の水素−窒素混合雰囲気とするのが好ましい。
【0051】
上記仕上焼鈍後の鋼板は、必要に応じて絶縁被膜を被成して製品板とする。上記絶縁被膜は、要求特性に応じて、公知の有機、無機、有機・無機混合コーティングを用いることができる。例えば、良好な打抜き性を確保するためには、樹脂を含有する有機コーティングを、溶接性を重視する場合には半有機や無機コーティングを塗布するのが好ましい。
【実施例1】
【0052】
表1に示したA〜Uの各種成分組成を有する鋼スラブを1100℃の温度に20分間再加熱した後、仕上圧延終了温度を750℃、巻取温度を630℃とする熱間圧延して板厚2.7mmの熱延板とした後、上記熱延板に熱延板焼鈍を施した後、あるいは、熱延板焼鈍を施すことなく、酸洗し、冷間圧延して最終板厚0.5mmの冷延板とした。なお、最終冷間圧延前の鋼板は、いずれも再結晶率が100%であることを確認した。
次いで、上記冷延板に、vol%比でH
2:N
2=20:80、露点−40℃(P
H2O/P
H2=0.001)の還元性雰囲気中で、920℃×10secの仕上焼鈍を施した後、絶縁被膜を塗布して製品板(無方向性電磁鋼板)とした。この際、上記仕上焼鈍の昇温過程は、
図2に示したように、500〜740℃間は、誘導加熱装置によって平均昇温速度を20〜400℃/secの範囲で変化させて行い、それ以外の温度領域の加熱は、ラジアントチューブによる輻射加熱で加熱した。なお、上記製造工程における熱延板焼鈍条件、最終冷間圧延前のフェライト粒径、仕上焼鈍における600〜700℃間の平均昇温速度は表2に示した。また、700〜760℃間の平均昇温速度は16℃/sec、760℃超え均熱温度までの平均昇温速度は20℃/secとした。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2-1】
【0055】
【表2-2】
【0056】
斯くして得られた製品板から、L方向およびC方向を長手方向とする280mm×30mmの試験片を採取し、エプスタイン試験で磁気特性(鉄損W
15/50、磁束密度B
50)を測定し、その結果を表2に併記した。
表2から、本発明に適合する成分組成を有する鋼素材を用いて、本発明に適合する条件で製造した無方向性電磁鋼板は、同一の鋼成分、同一の熱延板焼鈍条件で比較すると、いずれも優れた磁気特性を有していること、特に、最終冷間圧延前のフェライト粒径を70μm以下に制御した鋼板では、急速加熱により磁束密度B
50が大きく向上していることがわかる。また、本発明では熱延板焼鈍温度を下げても磁束密度の低下が小さいため、生産性向上・焼鈍コスト削減などの経済的なメリットを得ることができる。
【実施例2】
【0057】
表1に示したV,W2種の成分組成を有する鋼スラブを1120℃の温度に30分間再加熱した後、仕上圧延終了温度と巻取温度を種々に変更した熱間圧延を行い板厚2.0mmの熱延板とした後、酸洗し、冷間圧延して最終板厚0.35mmの冷延板とした。なお、最終冷間圧延前の鋼板は、いずれも再結晶率が100%であることを確認した。
次いで、上記冷延板に、vol%比でH
2:N
2=20:80、露点−40℃(P
H2O/P
H2=0.001)の還元性雰囲気中で、950℃×10secの仕上焼鈍を施した後、絶縁被膜を塗布して製品板(無方向性電磁鋼板)とした。この際、上記仕上焼鈍の昇温過程は、
図4に示したように、200〜740℃間は、誘導加熱によって平均昇温速度を20〜400℃/secの範囲で変化させて加熱し、それ以外の温度域は、ラジアントチューブによる輻射加熱で加熱した。また、760℃以降の平均昇温速度は20℃/secとなるよう調整した。なお、上記製造工程における熱延条件、最終冷間圧延前のフェライト粒径、仕上焼鈍における600〜700℃間の平均昇温速度、700〜760℃の平均昇温速度は表3に纏めて示した。
【0058】
【表3】
【0059】
斯くして得た製品板から、L方向およびC方向を長手方向とする280mm×30mmの試験片を採取し、エプスタイン試験で磁気特性(鉄損W
15/50、磁束密度B
50)を測定し、その結果を表3に併記した。
表3から、本発明に適合する成分組成を有する鋼素材を用いて、本発明に適合する条件で製造した無方向性電磁鋼板は、いずれも優れた磁気特性を有していること、特に、最終冷間圧延前のフェライト粒径を70μm以下に制御した鋼板では、急速加熱により磁束密度B
50が大きく向上していることがわかる。また、本発明では仕上圧延終了温度、巻取温度を下げても磁束密度の低下が小さいため、生産性向上などの経済的なメリットを得ることができる。