(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の端面と前記周側面との交差稜線部には、第1の切れ刃(6a)と第2の切れ刃(6b)とを含む少なくとも2つの切れ刃が形成され、前記第1の切れ刃における前記少なくとも1つの溝部と、前記第2の切れ刃における前記少なくとも一つの溝部とは、前記第1の端面と前記第2の端面との両方に交差するように定められるインサート厚さ方向に延びるインサート軸線周りに非対称である、
請求項1から3のいずれかに記載の切削インサート(1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1が開示するニック付の切削インサートにおいては、次のような問題がある。ニックと切れ刃との接続部は鋭い角が突出した形状をしており、他の部分と比較して強度が低い。したがって、ニックを設けることで切れ刃の耐欠損性が損なわれ、切削インサートの寿命が減少する虞がある。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するために創案され、その目的は、切れ刃に対してニックを設けた切削インサートにおいて、切れ刃の耐欠損性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
切削インサートであって、
第1の端面と、
前記第1の端面に対向する第2の端面と、
該第1の端面と該第2の端面とを接続する周側面と、
前記第1の端面と前記周側面との交差稜線部に沿って延在する切れ刃と、
前記周側面に形成された少なくとも1つの溝部であって、各溝部は前記第1の端面に開口部を形成し、前記切れ刃を複数の部分に分断するように形成されている、少なくとも1つの溝部と、
前記切れ刃および前記溝部に沿って延在するように前記第1の端面に形成されたランドと、
を備え、
前記第1の端面に対向する方向から該切削インサートを見るとき、前記ランドは、
前記周側面と交差し、その交差稜線部に前記切れ刃部分が延在する第1部分と、
前記周側面のうち前記切れ刃部分に対応する部分と、前記溝部と、を接続する接続部と交差する第2部分と、
前記溝部と交差する第3部分と、を有し、
前記第2部分の幅は前記第1部分の幅よりも広く、
前記第3部分の幅は前記第1部分の幅よりも広く、且つ、第2部分の幅よりも狭い、
切削インサート
が提供される。
【0007】
本発明の上記一態様によれば、切削インサートの第1の端面に形成されたランドは、切れ刃とニックとの接続部分(上記端部領域)に対応する箇所の幅が、溝部から離れた箇所における幅よりも広く、形成される。したがって、溝部の端部領域が効果的に強化される。さらに、溝部から離れて切れ刃に隣接して形成されるランドの部分を切れ味を損ねない程度の比較的細い幅とすることができる。よって本発明の一態様によれば、切れ味を低下させることなく、切れ刃を強化することができる。
【0008】
好ましくは、前記第1の端面は略多角形形状を有し、複数のコーナ部を備える。この場合、前記切削インサートを側面視するとき、前記第1の端面と前記周側面との交差稜線部は、2つの隣り合うコーナ部間に延在し、該2つのコーナ部のうちの一方のコーナ部から他方のコーナ部に近づくにつれ前記第2の端面に近づくように傾斜する傾斜切れ刃部分を備え、前記溝部の少なくとも1つは前記傾斜切れ刃部分を複数に分断するように形成されているとよい。好ましくは、前記端部領域は、前記切削インサートを側面視するときに、前記傾斜切れ刃部分に対して鋭角をなす前記開口部の端部を含む。
【0009】
好ましくは、前記第1の端面に対向する方向から見るとき、前記第1の端面は略n角形であり、かつn回回転対称な形状である(ただし、nを3以上の整数)。
【0010】
好ましくは、前記第1の端面と前記周側面との交差稜線部には、第1の切れ刃と第2の切れ刃とを含む少なくとも2つの切れ刃が形成される。前記第1の切れ刃における前記少なくとも1つの溝部と、前記第2の切れ刃における前記少なくとも一つの溝部とは、前記第1の端面と前記第2の端面との両方に交差するように定められるインサート厚さ方向に延びる軸線周りに非対称であるとよい。
【0011】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのインサート取付座を有する工具ボデーを備え、該インサート取付座に、上記切削インサートが着脱自在に取り付けられる、刃先交換式切削工具も提供する。
【0012】
好ましくは、前記工具ボデーは略円筒形状であり、該工具ボデーの軸線方向先端部には複数のインサート取付座を備え、該工具ボデーを前記軸線周りに回転させたとき、各インサート取付座に装着された切削インサートの切れ刃の回転軌跡が組み合わされてできる合成軌跡は、各切削インサートの溝部の最外部を通過するまたはその溝部の外側に延びる。
【0013】
好ましくは、前記第1の端面と前記周側面との交差稜線部には、第1の切れ刃と第2の切れ刃とを含む少なくとも2つの切れ刃が形成され、前記第1の切れ刃における前記少なくとも1つの溝部と、前記第2の切れ刃における前記少なくとも一つの溝部とは、前記第1の端面と前記第2の端面との両方に交差するように定められるインサート厚さ方向に延びる軸線周りに非対称である場合、前記工具ボデーは、そのような切削インサートが各々に取り付けられる第1インサート取付座と第2インサート取付座とを備える。該第1インサート取付座には、前記第1の切れ刃を作用切れ刃とするように前記切削インサートが取り付けられ、該第2インサート取付座には、前記第2の切れ刃を作用切れ刃とするように前記切削インサートが取り付けられるとよい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を用いて説明する。
【0016】
本実施形態の切削インサート1は、
図1から
図4に示されているように、2つの対向する端面2、3と、それら2つの端面を接続する周側面4とを有する。以下では、
図1で上側を向いた一方の端面(本発明の第1の端面に相当)2を上面と称し、もう一方の端面(本発明の第2の端面に相当)3を下面と称する。そして、上面及び下面の相対的な位置関係に基づき「上」及び「下」の用語を以下の説明において用い得る。しかし、これらの用語は、切削インサートの向きや位置を限定するものではなく、単にその理解を容易にするべく用いられ、本発明を限定することを意図しないことが理解されよう。また、以下の説明では、同一の機能を有する部位には同じ数字の参照符号を使用し、説明の便宜上それらを区別するときには参照符号の末尾にアルファベットまたは数字をさらに追加する。
【0017】
切削インサート1には、上面2と下面3とを貫通する貫通孔である取付孔5が形成されている。したがって、上面2及び下面3の各々の略中央部には、取付孔5の略円形の開口が形成されている。
【0018】
上下面2、3を接続する周側面4には正の逃げ角が付与されている。つまり、切削インサート1はポジタイプの切削インサートであり、より詳しくは、(次に説明するように上面2は取付孔5の中心軸線5Aに対して実質的に回転対称であるので)取付孔5の中心軸線5Aに平行な第1仮想面(不図示)を上面の縁部を通るように定めるとき、上面2から下面3に向かうに従いこの第1仮想面から離れるように周側面は延在する。
【0019】
図3から理解できるように、切削インサート1の平面視にて、つまり、上面2に対向する側から切削インサート1を見たとき、切削インサート1の上面2は、略三角形状の外郭形状を有する。上面2は、後述するニックを除いて、取付孔5の中心軸線5Aに対して実質的に120度回転対称な形状をなす。すなわち上面2は取付孔5の中心軸線5Aに対して3回回転対称な形状を基本的になす。したがって、上面2は、その縁部に主に3つの辺部2a、2b、2cを有する。平面視における上面2のその外郭形状は、より正確には略六角形状であるが、上面2の各辺部における長辺部と短辺部との長さにおける差が大きいため、ここでは略三角形状と呼ぶ。
【0020】
略三角形状の上面2は、
図3に示されているように、略三角形のそれぞれの辺部2a、2b、2cが、相対的に長い長辺部7a、7b、7cと相対的に短い短辺部8a、8b、8cとに分割されている構成を有している。したがって、上面2の外形は、全体としては、3つの長辺部7a、7b、7cと3つの短辺部8a、8b、8cとが交互に接続した形状となっている。3つの長辺部7a、7b、7cの長さは全て同一であり、3つの短辺部8a、8b、8cの長さも全て同一である。
【0021】
長辺部7a、7b、7cと短辺部8a、8b、8cとの交差部つまりコーナ部は合計6つ存在する。6つのコーナ部のうち、3つの第1コーナ部9(9a、9b、9c)の各々で隣り合う辺部の長辺部7a、7b、7cと短辺部8a、8b、8cとが、
図3においてその内角が鋭角になるように交差している。残りの3つの第2コーナ部10(10a、10b、10c)の各々で、同一辺部における長辺部7a、7b、7cと短辺部8a、8b、8cとが、
図3において内角が鈍角になるように交差している。鋭角の第1コーナ部9と鈍角の第2コーナ部10が切削インサートの周方向において交互に並んでいる。
図3において、3つの第1コーナ部9の内角は全て同一の角度であり、3つの第2コーナ部10の内角も全て同一の角度である。第1コーナ部9の角度は特に限定されることはなく、直角や鈍角であってもよい。第1コーナ部9は肩削り加工に適合するように設計されている。すなわち第1コーナ部9は、ほぼ直角な壁面加工に適合するように構成されている。また、第2コーナ部10の角度も特に限定されることはなく、第1コーナ部9の角度と略多角形状における辺部の数に応じて適宜調整されることができる。
【0022】
上で述べたように上面は略三角形形状を有するので、上面2と周側面4との交差稜線部には、3つの切れ刃(切れ刃部)6(6a、6b、6c)が形成されている(つまり交差稜線部に沿って延在する)。切れ刃6a、6b、6cは、それぞれ、対応する第1コーナ部9a、9b、9cに関係付けられている。
【0023】
各切れ刃6は3つの切れ刃部分11、12、13に分けられることができる。具体的には、
図3、
図5から
図10に示すように、3つの長辺部7a、7b、7cにそれぞれ対応して主切れ刃11a、11b、11cが形成され、3つの短辺部8a、8b、8cにそれぞれ対応して副切れ刃12a、12b、12cが形成され、3つの第1コーナ部9a、9b、9cにそれぞれ対応してコーナ切れ刃13a、13b、13cが形成される。第1切れ刃6aでは、コーナ切れ刃13aとその両側にある主切れ刃11aおよび副切れ刃12aが一組の切れ刃として機能するように形成されている。同様に、第2切れ刃6bでは、主切れ刃11b、副切れ刃12bおよびコーナ切れ刃13bが一組で機能し、第3切れ刃6cでは、主切れ刃11c、副切れ刃12cおよびコーナ切れ刃13cが一組で機能する。三組の切れ刃6は、取付孔5の中心軸線5Aの周りに回転対称な位置に配置されている。
【0024】
切削インサート1の切れ刃6およびその周囲は、超硬合金、サーメット、セラミック、ダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素を含有する超高圧焼結体、またはこれらにコーティングを施したものといった硬質材料からなるとよい。
【0025】
コーナ切れ刃13a、13b、13cは、
図3においては、一定の曲率半径(コーナ半径)で湾曲しており、図示しない被加工物の側壁面と底壁面とが交差する隅部の切削に関与することができる。主切れ刃11a、11b、11cは被加工物の側壁面の切削に関与することができる。なお、本実施形態の切削インサート1においては長辺部7a、7b、7cの全体が主切れ刃として機能するが、これに限られず、長辺部の一部が主切れ刃となる実施形態も可能である。切削インサート1において、主切れ刃11a、11b、11cは、切削インサート1の平面視(
図3)にて外方に向かって全体的に僅かに膨らんだ凸状湾曲形状となっている。副切れ刃12a、12b、12cは被加工物の底壁面(または加工平面)の切削に関与することができる。また副切れ刃12a、12b、12cは被加工物の上下方向へ掘り込む切削などに関与することができる。なお、副切れ刃は短辺部の全体とされてもよいが、その一部とされてもよい。以上のように、本実施形態の切削インサート1は上面2に三種類の切れ刃部分が一組になった切れ刃を3つ有しており、それらを順番に使うことができる。つまり、切削インサート1は、割り出し可能な切削インサートである。
【0026】
ここで、取付孔5の中心軸線5Aに直交すると共に、切削インサート1の上面2と下面3との間に延びる面を中間面Mとして定義する。
図5および
図6に示すように、主切れ刃11aは一緒に第1切れ刃6を形成するコーナ切れ刃13a(つまり第1コーナ部9a)から離れるにしたがって中間面Mとの間の長さが漸次短くなるように形成されている。そして、主切れ刃11aと中間面Mとの長さが最も短くなった箇所(すなわち、中間面Mとの最近接部)において、主切れ刃11aは隣の第2切れ刃6bに属する副切れ刃12bと接続する。この接続箇所は、上述した第2コーナ部10aでもある。
図7および
図8に示すように、第2切れ刃6bの主切れ刃11bも主切れ刃11aと同様にコーナ切れ刃13bから離れるにしたがって中間面Mとの間の長さが漸次短くなるように形成されている。
図9および
図10に示すように、第3切れ刃6cの主切れ刃11cも主切れ刃11aと同様にコーナ切れ刃13cから離れるにしたがって中間面Mとの間の長さが漸次短くなるように形成されている。このように、本実施形態の切削インサート1においては、各主切れ刃11a、11b、11cは隣接するコーナ切れ刃13a、13b、13cから離間するにしたがって中間面Mに近づき、第2コーナ部10a、10b、10cにおいて最も中間面Mに近接するように傾斜する。したがって、主切れ刃は傾斜切れ刃部分に相当する。なお、主切れ刃11a、11b、11cは曲線状でなく直線状であってもかまわない。さらに、中間面Mに対する主切れ刃11a、11b、11cの傾きは一定の角度でもよいが、切れ刃の途中で角度が変化する実施形態も可能である。
【0027】
同様に、各副切れ刃も、隣接するコーナ切れ刃(つまり隣接する第1コーナ部)から離間するにしたがって中間面Mに近づくように傾斜する。副切れ刃12a、12b、12cも、直線状でも曲線状でもよい。
【0028】
周側面4は複数の側面(側面部)15、16、17を備えて構成されている。具体的には周側面4は、各主切れ刃11a、11b、11cに隣接する主側面15a、15b、15cと、各副切れ刃12a、12b、12cに隣接する副側面16a、16b、16cと、各コーナ切れ刃13a、13b、13c(つまり第1コーナ部)に隣接する第1コーナ側面17a、17b、17cと、第2コーナ部に隣接する第2コーナ側面とを備える。これらの3つの主側面と、3つの第1コーナ側面と、3つの副側面と、3つの第2コーナ側面とは周方向に連続する。なお、切削インサートでは、第2コーナ側面はその周方向の幅が非常に狭いので、隣り合う主側面と副側面とが互いに直接的に接続するとみなしてもよい。
【0029】
3つの切れ刃6のうちの1つの切れ刃6が作用切れ刃となるように工具ボデー101に切削インサート1が取り付けられるとき、上面2はすくい面として機能することができ、その作用切れ刃に対応する主側面、副側面および第1コーナ側面は逃げ面として機能することができる。下面3は、工具ボデーのインサート取付座の底壁面と当接する着座面として機能することができる。
【0030】
さらに、各主側面15には、ニック18が形成されている。より具体的には、3つの主側面15a、15b、15cのそれぞれには、溝部(以下この溝部を「ニック」と呼称する)18a、18b、18cが3本ずつ形成されている。例えば、主切れ刃11aに沿って延在する主側面15aには、3つのニック18aが形成されている。ニック18a、18b、18cは切削インサート1の厚み方向(上下面をつなぐ方向であるインサート厚さ方向)に延び、その一方端は上面2まで到達し上面2に開く。すなわち、ニック18a、18b、18cは上面2の辺部の一部を除去するようにして形成され、それぞれ上面2に開口部18oを作る。そのため、それぞれの主切れ刃11a、11b、11cはニック18a、18b、18cによって複数の部分に分割される(分断される)。切削インサート1では、全てのニックは、各開口部18oが概ね同じ形状および概ね同じ大きさを有するように、設計されている。しかし、開口部の形状および大きさの少なくとも一方はニック間で異なってもよい。
【0031】
ニック18a、18b、18cは下面3に向かうにしたがい徐々に幅が狭くなる、いわゆる先細りの形状をしている。
図5に示すように主側面15a側から切削インサート1を側面視するとき、3本のニック18aはいずれも切削インサート1の厚み方向、すなわちここでは取付穴5の中心軸線5Aに略平行な下面3に直角な方向に対して傾斜して形成され、その傾斜方向も同じである。なお、切削インサート1では、このニックの傾斜方向は、後述する工具ボデーに切削インサートが取り付けられたとき、作用切れ刃の主切れ刃に関するニックが工具ボデーの回転軸線に直交する第2仮想面(不図示)に沿って実質的に延びるように設計されている。このことは、主側面15bのニック18b、および、主側面15cのニック18cについても同様である。ただし、コーナ切れ刃の近くのニックほど、その長さが長くなるように、同一主側面における3つのニックは形成されている。しかし、ニックは、取付穴5の中心軸線5Aに略平行に延びてもよく、同一側面における複数のニックは下面3まで延びてもよく、また同じ長さを有してもよい。
【0032】
主側面15a、15b、15cに形成されるニック18a、18b、18cの位置はそれぞれの主側面において異なっている。具体的には、1つの主側面に形成される3本のニックどうしの間隔はすべての主側面15a、15b、15cで同じであるが、コーナ切れ刃13とそのコーナ切れ刃13に最も近い位置にあるニックまでの距離が、主側面によって異なっている。したがって、
図11の上面2側の平面視において、コーナ切れ刃13aからこれに最も近いニック18a´のコーナ切れ刃13a側の端部までの長さを「L1」とし、コーナ切れ刃13bからこれに最も近いニック18b´のコーナ切れ刃13b側の端部までの長さを「L2」とし、コーナ切れ刃13cからこれに最も近いニック18c´のコーナ切れ刃13c側の端部までの長さを「L3」とすると、L1<L2<L3の関係が成り立つ。なおこれらの3つのニック18a´、18b´、18c´は、ニック18a´、ニック18b´、ニック18c´の順に関連するコーナ切れ刃13からの距離が段階的に増すように形成される。したがって、切れ刃6aにおける溝部18aと、切れ刃6bにおける溝部18bと、切れ刃6cにおける溝部18cとは、上下面との両方に交差するように定められるインサート厚さ方向に延びる軸線5A周りに非対称である。なお、本実施形態のニック18a、18b、18cは各主側面において上記のような形状のものが3本ずつであったが、それらに限定されるものではなく、別の実施形態のニックでは本実施形態のニック18a、18b、18cと異なる形状および異なる数であってもよい。
【0033】
各切れ刃6におけるニックの配置について、さらに
図12を用いて説明する。
図12において、(a)は
図3の第1切れ刃6aの主切れ刃15aのコーナ切れ刃13a側部分を切り取った図であり、(b)は
図3の第2切れ刃6bの主切れ刃15bのコーナ切れ刃13b側部分を切り取った図であり、(c)は
図3の第3切れ刃6cの主切れ刃15cのコーナ切れ刃13c側部分を切り取った図である。そして、
図12では、これら(a)〜(c)の図が、各コーナ切れ刃を同一仮想線V1上に位置付けて並べられている。
【0034】
図12において、仮想線V2はコーナ切れ刃13aに最も近いニック18aのコーナ切れ刃13a側の端部を通る線であり、仮想線V1に平行であり、仮想線V1から長さL1分離れている。
図12において、仮想線V3はコーナ切れ刃13bに最も近いニック18bのコーナ切れ刃13b側の端部を通る線であり、仮想線V1に平行であり、仮想線V1から長さL2分離れている。
図12において、仮想線V4はコーナ切れ刃13cに最も近いニック18cのコーナ切れ刃13c側の端部を通る線であり、仮想線V1に平行であり、仮想線V1から長さL3分離れている。そして、
図12において、仮想線V5は、第1切れ刃6aに関し、コーナ切れ刃13aに2番目に近いニック18aのコーナ切れ刃13a側の端部を通る線であり、仮想線V1に平行であり、仮想線V1から長さL4分離れている。
【0035】
図12から理解できるように、3つの主切れ刃11a、11b、11cのそれぞれのニックは対応するコーナ切れ刃から等距離になく、それら切れ刃を線V1を基準にして配置したとき、相互に重なるニックはない。それ故、線V1と線V5との間の長さL4と、線V1と線V2との間の長さL1(
図11の「L1」に相当)との差(=L4−L1)は、
図12における各ニックの幅L5の3倍(=L5×3)よりも長い。それ故、後述するように、工具ボデーの複数のインサート取付座で異なる切れ刃を用いるように複数の切削インサート1を取り付けた切削工具を用いるとき、1つの主切れ刃15aによる切削でニック18aにより削り残された被削材の部分は、いずれか1つの他の主切れ刃15b、15cによる切削で削りとることが可能である。なお、
図15から
図18に示すように、作用切れ刃に対して所定の正のすくい角を付与するように切削インサート1は工具ボデーに傾けて取り付けられるが、その状態での使用において、ニックによる被削材の削り残しが生じないように、異なる切れ刃間のニックの位置は相互に関係付けられている。
【0036】
さらに、
図1、
図3、
図11および
図12に示すように、ランド20が上面2の全周にわたって、上面2の外郭形状に沿って形成される。すなわち、主切れ刃11a、11b、11c、副切れ刃12a、12b、12cおよびコーナ切れ刃13a、13b、13cに沿ってランド20が上面2に形成される。また、ランド20はニック18a、18b、18cの開口部18oの形状に沿っても形成される。ランド20は正のすくい角が付与された面(すくい面の一部)で、いわゆるポジティブランドである。したがって、取付孔5の中心軸線5Aに直交すると共に切れ刃に概ね沿って延びる第3仮想面(不図示)を定めるとき、ランド20は、切れ刃から取付孔5側に離れるにしたがい、この第3仮想面から離れるように延在する。
【0037】
さらに、ランド20の内側(つまりランド20と取付孔5との間)には、すくい面としての斜面21が形成されている。斜面21はランド20に隣接して形成され、ランド20と同じ向きにつまり正のすくい角をなすように傾く。斜面21の第3仮想面に対する傾斜角度はランド20のそれよりも大きい。
【0038】
ここで、上面2に対向する方向から見るとき、上面2の辺部(つまり切れ刃)からランド20と傾斜面21との交差稜線部までの距離を「ランドの幅」として規定する。つまり、ランド20の幅は、上面視つまり
図3でのその幅として定義することができる。
図3におけるある切れ刃部分で接線を引き、この接線に直交する方向でのランドの幅を、その切れ刃部分でのランドの幅と定義して処理することができる。要するに、ランドの幅は、上面2に対向する方向から見るときつまり
図3において、切れ刃に直交する方向でのその長さである。
【0039】
切削インサート1では、ランド20の基本的な幅として、第1幅w1が設定されている。ここで、ニック18a、18b、18cにおける上面2との交差領域に、特にニックと主切れ刃11a、11b、11cとの接続部分を含む領域に「端部領域」という名称をつけ、それに符号「S」を付す。このとき、ランドの幅は上面2の全周にわたって一定ではなく、端部領域Sにおける(特に端部領域に隣接する)ランドの幅がニックから離れた場所に形成されたランドの幅よりも広くなっている。具体的には、
図13の拡大図に示すように、ニック18aの端部領域Sに隣接して形成されるランドは、端部領域Sから離れた主切れ刃11aの部分に隣接して形成されるランドの幅に比べて幅が広くなっている。特にここでは、ニックの開口部18oの両端部に隣接するランド20´で、その幅w2が最大になっている(w2>w1)。そして、切削インサート1では、端部領域は、そのようなニックの開口部の端部を含むことに加えて、ニックと上面との接続部分一帯に広がっている。そして、ニックの開口部周囲のランドの任意の箇所で、端部領域Sから離れた箇所に形成されるランドの幅w1に比べて幅が広くなっている((w2>)w3>w1)。このランドの幅の変化は、3つのニック18aのそれぞれに関して成立する。第2切れ刃6bに関しても、ニック18bの端部領域に隣接するランドは同様に他の部分に比べて幅が広くなっている。第3切れ刃6cに関しても、ニック18cの端部領域に隣接するランドは同様に他の部分に比べて幅が広くなっている。なお、ランドの幅が相対的に広くなる「ニック18a、18b、18cの端部領域」として認識される範囲については特に限定はないが、ニックが主切れ刃と交差する端部を含むとよく、特に切削インサートの側面視において、主切れ刃に対して鋭角をなす開口部18oの端部18p(
図5参照)を含むとよい。ニックの端部領域の範囲を切れ刃側に過度に大きくすることは幅広のランドの形成範囲を広くすることであるので、主切れ刃11a、11b、11cの切れ味が低下する可能性がある。よって、ニックの端部領域は主切れ刃11a、11b、11cの切れ味を低下させない範囲の大きさとすることが好ましい。 切削インサート1では、ニック18aから離れた箇所でのランド20の部分の幅である第1幅w1は、約0.15mmに設定されることができる。これに対して、
図13でニック18aの端部領域のうち主切れ刃11aとニック18aとの接続する角の部分(開口部の両端部の部分)20´におけるランド20の幅(ランド20´の幅)は第2幅w2であり、この第2幅w2は第1幅w1よりも広く、0.25mmに設定することができる。
【0040】
次に、切削インサート1を備える刃先交換式切削工具について説明する。
図14から
図18に示すように、刃先交換式切削工具100は複数の切削インサート1が工具ボデー101の周方向および工具回転軸線方向に沿って装着されたラフィングエンドミルである。工具ボデーは、略円筒形状であり、先端側から基端側に延びる軸線101Aを有する。
【0041】
切削インサート1を装着する場所であるインサート取付座102は、刃先交換式切削工具100を先端から見た
図14に示すように、周方向に4つ配置されている。すなわちインサート取付座102は、工具ボデー101に4列配置されている。以下の説明では便宜的にこれら周方向に並ぶ4列のインサート取付座を、1列のインサート取付座をインサート取付座102aとして、それを基準に、工具回転方向Kの後方側に順に、インサート取付座102a、インサート取付座102b、インサート取付座102c、インサート取付座102dと参照符号を変えて区別する。インサート取付座102aには、主切れ刃11a、副切れ刃12aおよびコーナ切れ刃13aを備える第1切れ刃6aが作用切れ刃となるように切削インサート1が装着される。インサート取付座102bには、主切れ刃11b、副切れ刃12bおよびコーナ切れ刃13bを備える第2切れ刃6bが作用切れ刃となるように切削インサート1が装着される。インサート取付座102cには、主切れ刃11c、副切れ刃12cおよびコーナ切れ刃13cを備える第3切れ刃6cが作用切れ刃となるように切削インサート1が装着される。インサート取付座102dには、主切れ刃11b、副切れ刃12bおよびコーナ切れ刃13bを備える第2切れ刃6bが作用切れ刃となるように切削インサート1が装着される。このように、ニックが形成された位置がそれぞれ異なる主切れ刃11a、11b、11cが周方向において隣り合う作用切れ刃となるように切削インサート1を装着させることで、例えば第1切れ刃6aの主切れ刃11aのニック18aが切削しなかった箇所を第2切れ刃6bの主切れ刃11bや第3の切れ刃6cの主切れ刃11cが切削することができる。同様に、ニック18bやニック18cが切削しなかった箇所を別の主切れ刃が切削をすることができる。つまり、回転軸線に直角な方向からみて、ニックによって分断される切れ刃の回転軌跡どうしが一部重なり、3種類の主切れ刃の回転軌跡が組合わされて作られた合成軌跡は、全てのニックの回転軌跡の外側を通過する、つまり各切削インサートの全ての溝部の最外部を通過するまたはその溝部の外側に延びる。なお「回転軌跡の外側」とは回転軸線(つまり軸線101A)に沿った方向に離れた位置をいうのではなく、回転軸線を中心とした半径方向に離れた位置をいう。このことにより、加工面に未切削の箇所が形成されにくくなる。
【0042】
図15に示すように、最も先端側のインサート取付座102aの上側、つまり工具ボデー101の基端側にさらに3つのインサート取付座102a2、102a3、102a4が形成されている。すなわち、第1切れ刃6aを作用切れ刃とするインサート取付座は、四段に形成されている。本実施形態において、インサート取付座102は工具ボデー101の最も先端側にあるものを位置の基準としたとき、工具ボデー101の基端側に位置するインサート取付座102ほど刃先交換式切削工具100の回転方向Kの後方に形成される。すなわち、最も先端側に位置するインサート取付座102aよりもインサート取付座102a2の方が工具の回転方向後方側に位置し、インサート取付座102a2よりもインサート取付座102a3の方が回転方向後方側に位置し、インサート取付座102a3よりもインサート取付座102a4の方が回転方向後方側に位置する。インサート取付座102a2、102a3、102a4にはインサート取付座102aと同様に切れ刃6aが作用切れ刃となるように切削インサート1が装着される。
【0043】
図16、
図17および
図18に示すように、インサート取付座102aと同様にインサート取付座102bの基端側にも3つのインサート取付座102b2,102b3,102b4が形成され、インサート取付座102cの基端側にもインサート取付座102c2,102c3、102c4が形成され、インサート取付座102dの基端側にもインサート取付座102d2,102d3、102d4が形成される。インサート取付座102b2,102b3,102b4もインサート取付座102a2、102a3、102a4と同様に、工具ボデー101の基端側に位置するインサート取付座ほど刃先交換式切削工具100の回転方向の後方に形成される。インサート取付座102c2,102c3、102c4もインサート取付座102a2、102a3、102a4と同様に、工具ボデー101の基端側に位置するインサート取付座ほど刃先交換式切削工具100の回転方向の後方に形成される。インサート取付座102d2、102d3、102d4もインサート取付座102a2、102a3、102a4と同様に、工具ボデー101の基端側に位置するインサート取付座ほど刃先交換式切削工具100の回転方向の後方に形成される。インサート取付座102b2,102b3,102b4には切れ刃6bが作用切れ刃となるように切削インサート1が装着される。インサート取付座102c2、102c3、102c4には切れ刃6cが作用切れ刃となるように切削インサート1が装着される。インサート取付座102d2、102d3,102d4には切れ刃6bが作用切れ刃となるように切削インサート1が装着される。すなわち、工具ボデー101の周方向においていずれの隣り合うインサート取付座においても、ニックの回転軌跡がずれるように切削インサート1が装着される。
【0044】
次に、本実施形態の切削インサート1が奏する効果について説明する。切削インサート1が備えるランド20は、ニック18a、18b、18cと主切れ刃11a、11b、11cとの接続部(例えば端部18p)におけるランドの幅が、その他の場所のランドの幅よりも広く形成されている。そのため、主切れ刃11a、11b、11cは、従来のニック付き切削インサートよりも、ニックとの接続部が欠けにくくなる。このように切れ刃が欠け難くなるにもかかわらず、ニックから離れた箇所でのランドの幅は相対的に狭くされているので、切れ味が低下しない。このことにより、切削インサート1が装着された刃先交換式切削工具100は従来切削工具と同じ切削条件で用いられたときより長寿命になる。または、従来切削工具よりも欠損などによる異常損傷が発生しにくいため、切削工具100は切削条件を高めて高能率な切削加工を実現できる。
【0045】
主切れ刃11a、11b、11cは中間面Mに対して上記のごとく傾斜して形成されているため、例えば
図5で示すように、ニック18aと主切れ刃11aとの交差部の一方の部分18p(
図5で円Vで囲んだ部分参照)つまり関連するコーナ切れ刃から離れた部分が主切れ刃11aに対して鋭角になる。従来の切削インサートであればその部分は非常に欠けやすいが、切削インサート1においてはその部分に延びるランド20´が他の部分のランドよりも幅が広くなっているので、そこは十分に強化されていて、欠けにくくなっている。
【0046】
以上、本発明についてその一実施形態を例に説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上面および下面の形状は上記の実施形態のような略三角形状ではなく、略四角形状や五角形状等の別の略多角形状とすることが可能である。つまり、上面および下面の基本形状はn回回転対称であるn角形形状とすることも可能である。なお、「n」は3以上の整数を表している。
【0047】
上記の実施形態では切削インサートはポジタイプの切削インサートであったが、ネガタイプの切削インサートとされてもよい。その場合、下面と周側面との交差稜線部にも切れ刃が形成されるとよい。そして、下面側の切れ刃にもニックが形成され、上記の如く、ニックの端部領域に隣接するランドが相対的に幅広になるようにランドが切れ刃に沿って形成されるとよい。
【0048】
上記の実施形態ではインサート取付座102が工具ボデー101の周方向に四列、回転軸線方向には四段に形成されていたが、インサート取付座の数および配置はこれに限定されない。例えば、工具ボデーの周方向に形成するインサート取付座の数は一列、二列、三列や五列などの他の列数にすることが可能で、段数についても一段、二段、三段や五段などの他の段数にすることが可能である。
【0049】
本発明には、請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。