(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、析出硬化型ステンレス鋼は、化学成分の変動や、時効処理温度及び時間の変動によって強度が大きく変化する。タービン翼においては、製造のロットごとに化学成分が異なるため、同一の熱処理条件で時効処理を施しても必ずしも同一の強度が得られるわけではなく、要求される強度特性を満足できないことがある。したがって、特許文献1及び特許文献2に記載のように時効処理を行ったのみでは、それぞれのタービン翼に対して所望の強度特性を安定して得ることは困難である。
【0006】
また、異なる製造ロットのタービン翼においては、結晶粒径などの金属組織が異なることもあり、このような金属組織によっても時効処理後の強度にばらつきが生じる。
上述したように時効処理によって所望の強度特性を得ることができなかったタービン翼は、再度の熱処理が必要になったり、廃棄になったりして、製造時の歩留まりが悪化する。そのため、化学成分や金属組織が異なる場合においても、所望の特性が得られる時効条件設定方法が要望されている。
【0007】
この発明は前述した事情に鑑みてなされたものであって、化学成分や金属組織が変動した場合であっても、所望の強度特性を得ることが可能な時効条件設定方法、及びこの時効条件設定方法を適用したタービン翼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明の時効条件設定方法は、析出硬化型ステンレス鋼である標準材料に対して時効処理を施すことで、時効条件パラメータと材料強度パラメータとの関係を示すマスターカーブを取得する工程と、化学成分パラメータが前記標準材料とは異なる析出硬化型ステンレス鋼である対象材料に対して、前記材料強度パラメータの値を示すフィッティングポイントを取得する工程と、前記マスターカーブの一部が前記フィッティングポイントに対応するように前記マスターカーブを材料強度パラメータの大小方向に移動して修正し、前記対象材料の時効条件パラメータと材料強度パラメータとの関係を近似的に示す修正時効カーブを取得する工程と、前記修正時効カーブに基づいて前記対象材料の時効条件を設定する工程と、を備え、前記フィッティングポイントは、前記対象材料に対して所定の条件で時効処理を施し、前記材料強度パラメータを採取することで取得され、前記化学成分パラメータは、CuとNbとTaの合計含有量であ
り、前記標準材料と、前記対象材料とは、同じ成分規格範囲内にあることを特徴としている。
【0009】
本発明の時効条件設定方法によれば、標準材料のマスターカーブと対象材料のフィッティングポイントを取得し、さらにマスターカーブの一部をフィッティングポイントに対応させているので、対象材料の精度の高い修正時効カーブ(時効硬化曲線)を取得することが可能である。そして、この修正時効カーブに基づいて対象材料の時効条件を設定する構成とされているので、標準材料と対象材料との化学成分や金属組織が変動している場合においても、時効処理によって所望の強度特性を得ることができる。
ここで、標準材料とは、マスターカーブを取得するために用いられる特定の化学組成、及び金属組織を有する材料のことを意味しており、対象材料に対して基準となる化学組成、及び金属組織を有するものである。
【0010】
さらに
、このような構成にすることによって、精度の高いフィッティングポイントを確実に取得でき、対象材料に対して最適な時効条件を設定することが可能となる。
【0011】
また、前記フィッティングポイントは、前記化学成分パラメータ及び前記金属組織パラメータと、前記材料強度パラメータとの関係を把握し、前記標準材料と前記対象材料との前記化学成分パラメータ及び前記金属組織パラメータの差から前記材料強度パラメータを予測することにより取得される構成とされても良い。
このような構成にすることによって、標準材料と対象材料の化学成分パラメータ及び金属組織パラメータの差からマスターカーブを修正できるので、対象材料の精度の高い修正時効カーブ(時効硬化曲線)を得ることができる。そして、この修正時効カーブに基づいて対象材料の時効条件を設定し、所望の強度特性を得ることができる。
【0012】
また、前記材料強度パラメータは、硬さ、引張強さ、耐力の中から選択される構成としても良い。
このような構成にすることによって、より精度の高い修正時効カーブを容易に取得できるので、時効処理によって所望の強度特性を得ることが可能となる。
【0013】
さらに、前記時効処理は、前記標準材料及び前記対象材料を鍛造した後に行われる構成としても良い。
このような構成にすることによって、鍛造製品が有する金属組織及び形状にし、鍛造製品の強度特性を把握することが可能となり、時効条件設定方法の精度を向上させることができる。
【0014】
本発明のタービン翼の製造方法は、上記の時効条件設定方法をタービン翼に適用することを特徴としている。
タービン翼は、大きな遠心応力が負荷される過酷な環境下で使用されるため、高強度かつ安定した品質のものが求められる。このタービン翼は、製造時のロットごとに化学成分や金属組織が異なることがあり、同一の条件で時効処理を行ったとしても、ロットごとに強度特性にばらつきが生じる。このような場合に、上述の時効条件設定方法を適用してタービン翼を製造することで、安定的に所望の強度特性を得ることが可能となる。したがって、製造時の歩留まりを向上させ、製造コストを低減することができる。
【0015】
また、前記タービン翼は、析出硬化型ステンレス鋼で構成されても良い。
析出硬化型ステンレス鋼は、高強度・高耐食性を有するステンレス鋼である。このような析出硬化型ステンレス鋼でタービン翼を構成することによって、過酷な環境下においても耐えるタービン翼を得ることができる。また、析出硬化型ステンレス鋼は、化学成分や金属組織の変動によって同一の熱処理条件で時効処理を行っても強度が大きく変動するため、本発明の時効条件設定方法を適用することで、所望の強度特性を得ることが可能となる。析出硬化型ステンレス鋼としては、具体的には、Cu,Nb、Taを含有するSUS630などが挙げられる。
【0016】
また、前記化学成分パラメータは、CuとNbとTaの合計含有量とされても良い。
SUS630は、時効処理によってCu−rich析出物や炭化物を析出させることで高強度化される合金である。このSUS630では、Cu、Nb、Taの合計含有量が変動することで析出物や炭化物の析出量が変わり、時効硬化曲線が大きく変化する。そのため、化学成分パラメータとしてCuとNbとTaの合計の含有量を選択することによって、より精度の高い修正時効カーブを取得することが可能となる。そして、この修正時効カーブを基にして時効条件を設定し、所望の特性の強度を得ることができる。
【0017】
また、前記金属組織パラメータは、少なくとも結晶粒度と、残留オーステナイト量のいずれかとされても良い。
SUS630合金をはじめとする析出硬化型ステンレス鋼で構成されたタービン翼は、製造時のロットごとに結晶粒度や残留オーステナイト量が異なる場合があり、このように金属組織パラメータを設定することによって、精度の高い修正時効カーブを得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、化学成分や金属組織が変動した場合であっても、所望の強度特性を得ることが可能な時効条件設定方法、及びこの時効条件設定方法を適用したタービン翼の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一の実施形態)
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係るタービン翼1は、
図1で示すように、長翼11と、長翼11の先端部に設けられるシュラウド12と、長翼11の中央部に設けられるスタブ13と、長翼11の基端部に設けられる翼根14とを備えている。このタービン翼1は、蒸気タービンの動翼であり、タービンロータ(図示なし)の回転軸の周りに翼根14が植設されて複数のタービン翼1がタービンロータに設けられるようになっている。タービン翼1に設けられたシュラウド12及びスタブ13は、隣り合うもの同士が組み合わされて同心円をなす環状に形成される。例えば、一つのタービンロータには、50個以上のタービン翼1が配設される。
【0021】
このタービン翼1は、蒸気タービンの動作時において、3000rpm以上の回転速度で用いられるため、大きな遠心応力が負荷されることになる。そのため、例えば、高強度を有する12Cr系ステンレス鋼であるSUS410、析出硬化型ステンレス鋼であるSUS630(17−4PH)、又は特開2005−194626号公報記載の鋼、Ti−6Al−4V合金などが用いられており、本実施形態においては、タービン翼1は、析出硬化型ステンレス鋼であるSUS630(17−4PH)によって構成されている。
【0022】
SUS630は、C、Si、Mn、P、S、Cu、Ni、Cr、Nb、Taを含有し、残部がFeで構成されるステンレス鋼である。このSUS630は時効硬化型の合金であり、溶体化熱処理後に時効処理を施すことによって、Cu−rich析出物や、炭化物が析出し、高強度化される。
【0023】
図2に、SUS630を550℃で1時間〜10時間の条件で時効処理を施し、硬さ試験を行った時の時効硬化曲線を示す。
図2において、実線は標準材料のSUS630(CuとNbとTaの合計含有量が質量%で3.77%)の時効硬化曲線、破線は標準材料とは化学成分が異なるSUS630(CuとNbとTaの合計含有量が質量%で3.52%)の時効硬化曲線を示している。
【0024】
ここで、標準材料とは、その合金の代表的な化学成分及び金属組織を有するもののことであり、本実施形態においては、CuとNbとTaの合計含有量が質量%で3.77%、結晶粒度が♯6、残留オーステナイト量が5%のSUS630を標準材料としている。
なお、結晶粒度は、例えばJIS G 0551に準拠して求められる結晶粒の大きさの度合いを示すものである。また、残留オーステナイト量とは、SUS630をX線回折法により定量化して計測される値を示すものである。
【0025】
また、
図3に、SUS630を520℃〜600℃で4時間の条件で時効処理を施し、硬さ試験を行った時の時効硬化曲線を示す。
図3において、実線は標準材料のSUS630(CuとNbとTaの合計含有量が質量%で3.77%)の時効硬化曲線、破線は標準材料とは化学成分が異なるSUS630(CuとNbとTaの合計含有量が質量%で3.52%)の時効硬化曲線を示している。
ここで、標準材料の時効硬化曲線をマスターカーブと称する(以下同様)。
【0026】
なお、
図2及び
図3においては、硬さ試験として具体的には、ビッカース硬さ試験を行っており、ビッカース硬さの測定値をビッカース硬さの目標値(要求される硬さ)で除したものを縦軸として図示している。したがって、硬さ(測定)/硬さ(目標値)が1に近い範囲が、時効処理後において要求される硬さの範囲であり、この範囲の一例が、
図2及び
図3においてドットで示されている。
【0027】
図2に示すように、SUS630合金は、550℃で時効処理を施した場合、時効時間が1時間付近で最高の強度となり、その後強度は低下していく。通常、SUS630の時効処理は過時効側で行われており、標準材料のSUS630は、Zで示す範囲が所望の要求特性を満たす時効条件の範囲である。そして、標準材料よりもCuとNbとTaの合計含有量が少ないSUS630は、破線で示されるように、全体的に強度が標準成分のSUS630と比べて低くなっている。このことから、化学成分が異なる場合には、同一の熱処理条件で時効処理を行ったとしても同一の強度が得られないことが分かる。
なお、時効強度が最大となるピーク強度における時効条件ついては、成分規格範囲内程度の範囲では成分が変動してもその時効条件は変わらないようになっている。
【0028】
図3に示すように、SUS630合金は、時効温度が540℃〜600℃の範囲では、時効温度が増加するにつれて強度が低下し、CuとNbとTaの合計含有量が少ない場合は、強度が低くなることが分かる。
図2及び
図3に示すように、550℃で4時間の熱処理を行った場合には、標準材料の強度は、要求される強度の範囲となるが、CuとNbとTaの合計含有量が3.52%のSUS630の強度は、要求される範囲よりも低い強度となる。
なお、このような強度の変動は、化学成分だけでなく、結晶粒度や残留オーステナイトの量によっても変動する。
【0029】
したがって、標準成分のSUS630とは化学成分や金属組織が異なる場合は、標準成分のSUS630と同様の熱処理を行ったとしても同一の強度は得られず、所望の強度特性にできないことがあり、化学成分及び金属組織に応じて最適な時効条件を設定する必要がある。タービン翼1の製造の際には、タービン翼1のロットごとに、化学成分及び金属組織は変動があり、それぞれのロットについて時間と温度の条件を変えて時効処理を行い、硬さを測定して時効硬化曲線を採取した後に、各タービン翼の時効条件を決定して製造することは、時間がかかるとともに製造コストが大きくなる。
【0030】
以下では、標準材料のSUS630のマスターカーブから、標準材料とは化学成分が異なる対象材料の時効硬化曲線を取得し、所望の強度特性が得られる時効条件設定方法、及びタービン翼の製造方法について、
図4及び
図5を用いて説明する。
第一の実施形態に係るタービン翼の製造方法は、
図4に示すように、S11〜S15の工程で行われる。以下に、その詳細について説明する。
【0031】
(S11)
まず、標準材料のSUS630に対して、550℃で1時間〜10時間の条件(時効条件パラメータ)で時効処理を施し、硬さ試験を行い、
図5の実線で示すように、標準材料のマスターカーブ20(時効硬化曲線)を取得する。
【0032】
(S12)
次に、化学成分(化学成分パラメータ)及び金属組織(金属組織パラメータ)の少なくともいずれか一方が標準材料とは異なるSUS630(対象材料)に対して、例えば、550℃で4時間の条件で時効処理を施し、ビッカース硬さ試験を行い、硬さ(材料強度パラメータ)と時効条件との関係を示すフィッティングポイント(
図5において、点Aで示されている。)を取得する。
【0033】
ここで、化学成分パラメータとは、材料強度に影響を及ぼす因子であり、例えば、Cuの含有量、Nbの含有量、Taの含有量、CuとNbとTaの合計含有量などである。また、金属組織パラメータとは、材料強度に影響を及ぼす因子であり、例えば、結晶粒度や残留オーステナイト量である。
【0034】
(S13)
そして、マスターカーブ20の一部がフィッティングポイントAに対応するようにスライドして、
図5の破線で示すように、対象材料の修正時効カーブ30(時効硬化曲線)を取得する。
(S14)
次に、修正時効カーブ30を基にして、所望の強度特性を得るための最適な時効条件を決定する。
図5において、Xで示される時間が最適な時効条件である。なお、
図5において、タービン翼1に要求される硬さの範囲の一例が、両矢印で示されている。この要求される硬さの範囲は、タービン翼のサイズや種別に応じて、適宜最適な範囲に設定すれば良い。
(S15)
最後に、タービン翼1に対して、S14で設定した熱処理条件で時効処理を行う。
【0035】
このようにして、所望の強度特性(硬さ)を有するタービン翼1を得ることができる。なお、S1において、時効温度が550℃の場合についてマスターカーブを取得する場合について説明したが、時効条件は、これに限定されるものではなく、適宜温度を設定すれば良い。また、複数の温度条件についてマスターカーブを取得しても良く、時間を一定にして温度を変化させてマスターカーブを取得しても良い。また、このような場合には、S1で取得したマスターカーブの条件に合わせて、S2で行う時効条件を選択すれば良い。
【0036】
本発明の第一の実施形態に係る時効条件設定方法、及びタービン翼の製造方法によれば、標準材料のマスターカーブ20を取得するとともに、対象材料に時効処理を施し硬さ(材料強度パラメータ)を測定してフィッティングポイントAを取得し、マスターカーブ20をフィッティングポイントAに対応させているので、対象材料の精度の高い修正時効カーブ30(時効硬化曲線)を取得することが可能である。そして、この修正時効カーブ30に基づいて対象材料の時効条件を設定する構成とされているので、標準材料と対象材料との化学成分や金属組織が変動している場合においても、時効処理によって所望の強度特性を得ることが可能となる。したがって、要求される強度特性を満足するタービン翼1を確実に得ることができ、製造コストを低減することが可能となる。
【0037】
(第二の実施形態)
次に、本発明の第二の実施形態に係る時効条件設定方法、及びタービン翼の製造方法について説明する。
第二の実施形態に係るタービン翼の構成及びタービン翼を構成する材料は、第一の実施形態と同様であるので、同一の構成については同一の符号で記載し、詳細な説明を省略する。
【0038】
第二の実施形態に係る時効条件設定方法、及びタービン翼の製造方法においては、マスターカーブ120を取得し、マスターカーブ120と、化学成分パラメータ及び金属組織パラメータとの相関を予め把握しておき、例えば、対象材料の化学成分や金属組織からマスターカーブ120を修正して、対象材料の修正時効カーブ130(時効硬化曲線)を取得する。以下に、その詳細について、
図6及び
図7を参照して説明する。
【0039】
(S21)
まず、標準材料のSUS630に対して、550℃で1時間〜10時間の条件(時効条件パラメータ)で時効処理を施し、硬さ試験を行い、
図7の実線で示すように、標準材料のマスターカーブ120(時効硬化曲線)を取得する。
(S22)
次に、化学成分及び金属組織の少なくともいずれか一方が標準材料とは異なるSUS630に対して、化学成分パラメータ及び金属組織パラメータと、材料強度パラメータとの関係を把握する。
【0040】
さらに具体的に説明すると、例えば、標準材料とはCu+Nb+Taの含有量(化学成分パラメータ)が異なるが、金属組織パラメータは同じであるSUS630に対して550℃で4時間の条件で時効処理を施し、ビッカース硬さ試験を行う。そして、このように測定した硬さの値と、550℃で4時間時効処理を施した時のマスターカーブの硬さの値と、S22で取得した硬さの測定値とを用いて、例えば線形近似により、化学成分との関係を対応づける。例えば、以下のような関係式が得られる。
Δ硬さ=−28×(3.77−(Cu+Nb+Ta))
ここで、Δ硬さとは、所定の時効条件における対象材料の時効後の硬さと、マスターカーブの硬さの差を意味している。また、(Cu+Nb+Ta)は、CuとNbとTaの質量%における合計含有量を意味している。
【0041】
(S23)
このCu+Nb+Taの含有量(化学成分パラメータ)と硬さ(材料強度パラメータ)との関係を用いて、対象材料の化学成分パラメータ及び金属組織パラメータを対応づけ、対象材料の材料強度パラメータを示すフィッティングポイントBを取得する。例えば、(Cu+Nb+Ta)=3.52(%)の場合は、Δ硬さ=−7となり、時効温度550℃におけるマスターカーブの硬さよりも7小さい点Bがフィッティングポイントとなる。
【0042】
(S24)
そして、マスターカーブ120の一部がフィッティングポイントBに対応するようにスライドして、
図7の破線で示すように、対象材料の修正時効カーブ130(時効硬化曲線)を取得する。
(S25)
次に、修正時効カーブ130を基にして、所望の強度特性を得るための最適な時効条件を決定する。
図7において、Yで示す時間が最適な時効条件である。なお、
図7において、タービン翼1に要求される硬さの範囲の一例が、両矢印で示されている。
(S26)
最後に、タービン翼1に対して、S25で設定した時効条件で時効処理を行う。
【0043】
このようにして、所望の特性を有するタービン翼1を得ることができる。なお、S21において、時効温度550℃でマスターカーブ120を取得する場合について説明したが、時効条件は、これに限定されるものではなく、適宜温度を設定すれば良い。また、複数の温度条件についてマスターカーブを取得しても良く、時間を一定にし、温度を変化させてマスターカーブを取得しても良い。また、この場合には、S21で取得したマスターカーブの条件に合わせて、S22で行う時効条件を選択すれば良い。
【0044】
本発明の第二の実施形態に係る時効条件設定方法によれば、標準材料のマスターカーブ120を取得し、標準材料と対象材料の化学成分パラメータ及び金属組織パラメータの差から、材料強度パラメータを予測し、マスターカーブ120を修正するので、対象材料の精度の高い修正時効カーブ130(時効硬化曲線)を得ることができる。そして、この修正時効カーブ130に基づいて対象材料の時効条件を設定する構成とされているので、標準材料と対象材料との化学成分や金属組織が変動している場合においても、時効処理によって所望の強度特性を得ることができる。したがって、要求される強度特性を満足するタービン翼1を確実に得ることができ、製造コストを低減することが可能となる。
【0045】
さらには、第一の実施形態と異なり、一度、対象材料の化学成分パラメータ及び金属組織パラメータを対応づければ、その後は、それぞれのタービン翼(対象材料)に対して時効処理を行うことなく、フィッティングポイントを取得することができるので、製造コストを低減することができるとともに、時効条件の決定に要する時間も短縮することが可能である。
【0046】
なお、第二の実施形態においては、フィッティングポイントを1点のみ取得する場合について説明したが、複数の点について、化学成分パラメータ及び金属組織パラメータと、硬さとの関係について把握し、複数のフィッティングポイントにマスターカーブを対応させて、対象材料の修正時効カーブ(時効硬化曲線)を取得しても良い。
【0047】
また、上記の実施形態では、CuとNbとTaの合計含有量と硬さの関係について把握する場合について説明したが、これに限定されることはなく、他の化学成分パラメータや金属組織パラメータについて硬さとの関係を把握しても良い。さらに、化学成分パラメータに用いる化学成分は、材料に応じて選定することが可能であり、例えば特開2005−194626号公報記載の鋼においては、析出物の構成元素であるAlとNiを選択しても良い。
また、化学成分パラメータ及び金属組織パラメータは、一つでなく、複数選択されても良い。この場合には、例えば、重回帰分析を用いて化学成分パラメータ及び金属組織パラメータと硬さとの関係を把握すれば良い。
【0048】
以上、本発明の実施形態である時効条件設定方法、及びタービン翼の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0049】
なお、上記の実施形態では、標準材料及び対象材料に対して時効処理を施して、材料強度パラメータを測定する場合について説明したが、時効処理を行う前にタービン翼を模擬した鍛造加工を行う構成としても良い。例えば、タービン翼の鍛造素材から端材を切り出して、タービン翼の翼根を模擬した形状に鍛造(熱間鍛造)を行い、時効処理を施して材料強度パラメータを取得しても良い。このようにすることによって、より正確な材料強度パラメータを得ることができ、より精度の高い修正時効カーブ(時効硬化カーブ)を得ることが可能となる。
【0050】
また、上記の実施形態では、材料強度パラメータとして、ビッカース硬さを用いる場合について説明したが、これに限定されることはなく、例えば、他の硬さ試験による硬さの測定を用いても良いし、引張強さや耐力(0.2%耐力)の測定値を用いても良い。