特許第6241647号(P6241647)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人山形大学の特許一覧

特許6241647熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法
<>
  • 特許6241647-熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法 図000006
  • 特許6241647-熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法 図000007
  • 特許6241647-熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241647
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 291/00 20060101AFI20171127BHJP
   C08F 283/00 20060101ALI20171127BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20171127BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20171127BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20171127BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20171127BHJP
   C08K 5/51 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C08F291/00
   C08F283/00
   C08F2/44 C
   C08L101/12
   C08L79/00 A
   C08K5/42
   C08K5/51
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-138024(P2013-138024)
(22)【出願日】2013年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-10202(P2015-10202A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晃哉
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 充統
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰宏
(72)【発明者】
【氏名】横関 智弘
(72)【発明者】
【氏名】石橋 勝
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】平野 義鎭
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−032845(JP,A)
【文献】 特開2010−202704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 291/00
C08F 2/44
C08L 101/12
C08L 79/00
C08K 5/42
C08K 5/51−5/52
C08F 283/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン反応性基を有するモノマーと導電性高分子とプロトン酸ドーパントとを反応させる、熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法であって、
前記プロトン酸ドーパントが有機スルホン酸又は有機リン酸であり、
前記プロトン酸ドーパントが加熱されてカチオン重合開始剤として働くことにより、前記モノマーが重合して硬化することを特徴とする熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法
【請求項2】
前記導電性高分子がポリアニリンであることを特徴とする請求項1記載の熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法
【請求項3】
前記プロトン酸ドーパントが有機スルホン酸であることを特徴とする請求項2記載の熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法
【請求項4】
前記カチオン反応性基を有するモノマーがスチレン誘導体又はビニルエーテル誘導体であることを特徴とする請求項3記載の熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法
【請求項5】
前記カチオン反応性基を有するモノマーが多官能モノマーを含むものであることを特徴とする請求項4記載の熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法
【請求項6】
ポリアニリンの窒素原子と、プロトン酸ドーパントとのモル比が、10:1〜1:2の範囲内であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法
【請求項7】
ポリアニリン及びプロトン酸ドーパントとの合計と、カチオン反応性基を有するモノマーとの重量比が、1:20〜1:0.1の範囲内であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子、特にポリアニリンを含有する熱硬化性樹脂である熱硬化性導電性高分子組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子の中でも、ポリアニリンは、優れた導電性及び空気中での安定性を有し、安価であることから、電子デバイスへの積極的な応用が期待されている。その一方で、導電性高分子は、ポリアニリンも含めて、剛直な化学構造のため、不溶不融で加工し難いという欠点を有していた。
【0003】
これに対しては、近年、長鎖アルキル等の立体障害の大きい部位を有するプロトン酸ドーパントを用いることにより加工性が改善され、各種有機溶媒による分散液を作製することが可能となった(非特許文献1参照)。しかしながら、このような分散液を用いて成形されたフィルムは、スクラッチ特性や耐溶剤性に乏しいため、応用分野が限られるものであった。
そこで、このような課題を解決するために、導電性高分子に熱硬化性を付与することが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、スルホン基が主鎖骨格中に導入された自己ドープ型導電性高分子を塗布した基板を加熱して脱水反応させて、導電性高分子内に部分的な架橋構造を形成させることにより、硬化性を発現させる方法が提案されている。
【0005】
また、非特許文献2,3には、導電性高分子であるポリアニリンに、エポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂を加える方法が提案されている。
【0006】
さらに、特許文献2には、ポリアニリンにラジカル重合性のビニルモノマーを加え、電子線照射によりラジカル重合を誘起させて架橋構造を形成させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−96974号公報
【特許文献2】特開2007−70555号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Synthetic Metals 41, 1991, p.627
【非特許文献2】Synthetic Metals 132, 2003 , p.269
【非特許文献3】Synthetic Metals 160, 2010, p.1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたような方法は、300℃前後の高温で加熱処理する必要があることから、使用できる材料が制限されるものであった。
また、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を添加する方法は、ポリアニリンと熱硬化性樹脂との相溶性が必ずしも良好ではなく、ポリアニリンを均一に分散制御することが難しい。そのため、所定の導電性を確保するためには厚い塗膜とする必要があり、透過率が低下する等の課題が生じていた。
さらに、上記特許文献2に記載された方法では、ポリアニリンと相溶性の良いビニルモノマーを用いることにより分散状態は良好となるものの、電子線を照射するための特殊な設備が必要とされる。
【0010】
したがって、より簡便な方法によって、導電性高分子に熱硬化性を付与し、かつ、導電性を低下させることなく、機械的強度を向上させることが求められていた。
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、導電性高分子の分散状態が良好であり、重合・硬化反応の制御が容易である熱硬化性導電性高分子組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る熱硬化した導電性高分子組成物の製造方法は、カチオン反応性基を有するモノマーと導電性高分子とプロトン酸ドーパントとを反応させる製造方法であって、前記プロトン酸ドーパントが有機スルホン酸又は有機リン酸であり、前記プロトン酸ドーパントが加熱されてカチオン重合開始剤として働くことにより、前記モノマーが重合して硬化することを特徴とする。
このように、1つの物質が、導電性高分子のドーパント成分と前記モノマーの重合開始剤として働くことにより、導電性高分子とモノマーとの分散状態が良好となり、重合・硬化反応の制御も容易となる。
【0013】
熱硬化性導電性高分子組成物は、前記導電性高分子がポリアニリンであり、また、前記プロトン酸ドーパントが有機スルホン酸である場合に特に好適である。
【0014】
また、前記カチオン反応性基を有するモノマーは、スチレン誘導体又はビニルエーテル誘導体であることが好ましく、さらに、多官能モノマーを含有することが好ましい。
このようなモノマーを用いれば、ポリアニリンとの分散性がより良好であり、また、得られる導電性高分子組成物の高強度化が図られる。
【0015】
また、導電性及び重合・硬化反応の制御容易性の観点から、ポリアニリン中の窒素原子と、プロトン酸ドーパントとのモル比は、10:1〜1:2の範囲内であることが好ましい。
【0016】
また、導電性及び強度の観点から、ポリアニリン及びプロトン酸ドーパントとの合計と、カチオン反応性基を有するモノマーとの重量比は、1:20〜1:0.1の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、導電性高分子の分散状態が良好であり、重合・硬化反応の制御が容易である熱硬化性導電性高分子組成物を提供することができる。
また、本発明に係る熱硬化性導電性高分子組成物は、高い導電性を保持したまま、加工性、硬化性、強度特性に優れたものとして、簡便に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ポリアニリンの電子状態の違いによるUV−vis−NIR吸収スペクトルの変化を示したものである。
図2】実施例1に係るポリアニリン組成物の加熱処理前後におけるUV−vis−NIR吸収スペクトルである。
図3】実施例3に係るポリアニリン組成物の加熱温度によるヒートフローの変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る熱硬化性導電性高分子組成物は、カチオン反応性基を有するモノマーと導電性高分子とプロトン酸ドーパントとの反応生成物である。そして、前記プロトン酸ドーパントが、導電性高分子組成物との相互作用により、室温では反応が抑制され、加熱により反応を進行させていくカチオン重合開始剤として働き、重合して硬化したものである。
このように、本発明に係る熱硬化性導電性高分子組成物は、導電性高分子に対するドーパント成分が、硬化成分であるモノマーの重合開始剤として作用して得られるものである。すなわち、導電性高分子のドーパント成分と前記モノマーの重合開始剤が同じ物質であることを特徴とするものである。
これにより、熱硬化性導電性高分子の重合・硬化の際に、ドーパントとは別に、重合開始剤を添加する必要がなく、導電性高分子とモノマーとの分散状態も良好となり、重合・硬化反応の制御も容易となる。
【0020】
導電性高分子の中でも、特に、ポリアニリンとビニルモノマーとの複合系においては、ビニルモノマーの重合の制御が困難であったが、本発明によれば、導電性高分子としてポリアニリンを用いた場合であっても、導電性を低下させることなく、モノマーの重合・硬化反応を容易に制御することができる。
【0021】
ポリアニリンは、下記(化1)に示すエメラルディンベース(EB)状態では絶縁体である。
【0022】
【化1】
【0023】
このEB状態のポリアニリンに、プロトン酸ドーパントH+-がドーピングされると、ポリアニリン中のイミノ基と塩を形成し、導電性を示す電子状態である下記(化2)に示すエメラルディンソルト(ES)状態に変化する。
【0024】
【化2】
【0025】
なお、ポリアニリンの電子状態は、UV−vis−NIRスペクトルから確認することができる。図1に、EB状態とES状態のポリアニリンの各UV−vis−NIR吸収スペクトルを示す。図1に示すスペクトルから、吸収ピークがEB状態では630nm、ES状態では800nmと相違していることが認められる。
【0026】
導電性高分子としてポリアニリンを用いた場合、前記プロトン酸ドーパントとしては立体障害の大きい部位を有する有機酸を用いることが好ましい。具体的には、下記(化3)に示すドデシルベンゼンスルホン酸のほか、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アルキルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、樟脳スルホン酸、ジオクチルスルホコハク酸、ポルフィリンテトラスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等の有機スルホン酸、プロピルリン酸、ブチルリン酸、ヘキシルリン酸、ポリエチレンオキシドドデシルエーテルリン酸、ポリエチレンオキシドアルキルエーテルリン酸等の有機リン酸が挙げられる。中でも、ドデシルスルホン酸、アルキルスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ブチルリン酸、ヘキシルリン酸がより好ましい。
【0027】
【化3】
【0028】
剛直なポリアニリン主鎖に対して、塩酸等の無機酸のドーパントがドープされても、ポリアニリンは不溶不融であり、加工性に劣る。
これに対して、立体障害の大きい部位を有する有機酸をドーパントとした場合は、酸性基がドーパントとして機能し、一方、立体障害部分がポリアニリン主鎖同士の相互作用を抑制し、運動性を向上させることで、有機溶媒への良分散性、熱可塑性を付与し、加工性が向上する。
したがって、このようなプロトン酸ドーパントは、ポリアニリンの導電性を発現させ、かつ、加工性を向上させることができる機能性ドーパントであると言える。
【0029】
また、前記プロトン酸ドーパントは、その酸性基がモノマーのカチオン重合開始剤として働き、かつ、重合・硬化反応の進行を100℃程度の比較的低温の加熱処理により容易に制御することを可能とする。
前記プロトン酸ドーパントは、ポリアニリンのイミノ基のほか、アミノ基とも弱く相互作用し、室温ではモノマーのカチオン反応性基への重合・硬化反応が抑制される。これに対して、約80℃以上に加熱すると、前記相互作用が弱いプロトン酸ドーパントがポリアニリンから脱離し、その酸性基がモノマーとカチオン重合反応を開始し、発熱を伴って硬化が進行する。
なお、塩基性雰囲気下では、前記ドーパントはポリアニリンから脱離し、EB状態になるため、ポリアニリンの導電性を維持したままアニオン重合を行うことができない。
【0030】
導電性高分子としてポリアニリンを用いた場合、前記カチオン反応性基を有するモノマーとしては、一般に、ビニルモノマーが用いられる。具体例としては、スチレン、tert-ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、メチルスチレン、ビニルアニソール、アネトール、イソオイゲノール、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン等のスチレン誘導体、プロピルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ブタンジオールビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールビニルエーテル、ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、エチルビニルエーテル、エチルプロペニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル誘導体が挙げられる。特に、ポリアニリンとの相溶性の観点から、スチレン誘導体が好ましい。
このようなビニルモノマーとポリアニリンとの複合体は、エポキシ樹脂とポリアニリンとの複合体に比べて、溶解又は分散状態が良好であり、ポリアニリンの添加量をより多くすることができ、かつ、ポリアニリンの電子状態の変化も見られないため、高導電性とすることができる。
【0031】
前記ビニルモノマーは、多官能モノマーを含むことがより好ましい。具体的には、下記(化4)に示すジビニルベンゼンのほか、ジイソプロペニルベンゼン、ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル等が好適に用いられる。
1個のモノマーが複数のカチオン反応性基を有していることにより、重合による結合部位が多くなり、より高分子化させることができ、また、架橋構造も形成させることができるため、重合・硬化後の導電性高分子組成物の高強度化が図られる。
【0032】
【化4】
【0033】
また、前記導電性高分子組成物においては、ポリアニリンの窒素原子と、プロトン酸ドーパントは、モル比で10:1〜1:2の範囲内であることが好ましい。
前記プロトン酸ドーパントが少なすぎると、加熱しても重合・硬化反応が十分に進行しないほか、ポリアニリンの状態がES状態からEB状態に変化し、導電性が失われてしまう。一方、前記プロトン酸ドーパントがこの範囲を超えて多く存在すると、加熱しなくても室温で発熱を伴う反応が開始し、反応制御が困難となり、速やかに硬化してしまう。
【0034】
また、ポリアニリン及びプロトン酸ドーパントとの合計と、カチオン反応性基を有するモノマーとの重量比が、1:20〜1:0.1の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、1:9〜1:0.5の範囲内である。
ポリアニリン及びドーパントが多いほど、導電性高分子組成物の導電性は高くなるが、上記範囲よりも多くなると、十分な強度が得られない。一方、前記モノマーが上記範囲よりも多くなると、ポリアニリン及びドーパントが組成物内で海島状に分散することとなり、導電性高分子組成物の導電性が不十分となる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
エメラルディンベース(EB)状態のポリアニリンA0.024mol(2.2g)に、ドデシルベンゼンスルホン酸0.024mol(7.8g)を加え、自転公転ミキサー(ARE−310;シンキー社製)を用いて室温で5分間撹拌した。得られたペースト状の混合物を、ホットプレス機(東洋精機製)を用いて120℃で3分間加熱し、均一に混合されたポリアニリンA−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体を得た。
このポリアニリンA−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体0.5gに、ジビニルベンゼン0.5gを加え、自転公転ミキサーを用いて室温で20分間撹拌し、ジビニルベンゼン中にポリアニリンA−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体が良分散したペースト状のポリアニリン組成物を得た。
このポリアニリン組成物を金型に入れ、ホットプレス機を用いて80℃で1時間、2MPaで加熱圧縮し、ポリアニリン組成物を硬化させた。
【0036】
前記ポリアニリン組成物は、加熱処理前はペースト状であり簡単にかき混ぜることができる状態であったが、加熱処理後はディスクとして扱うことができるほどの自立性を有していた。また、厚さ1mmで102〜103Ω/sqの導電性を示した。
【0037】
また、前記ペースト状のポリアニリン組成物をガラス基板上に塗布後、さらに上からガラス基板を被せて薄膜状にし、その薄膜を、ホットプレートを用いて80℃で1時間加熱し、ポリアニリン組成物を硬化させた。
加熱処理前後においてUV−vis−NIR吸収スペクトル測定を行い、ポリアニリンの電子状態を評価した。これらのスペクトルを図2に示す。
図1に示したように、EB状態とES状態ではポリアニリンのUV−vis−NIR吸収ピークは大きく異なるが、図2のスペクトルでは、加熱処理前後のいずれにおいても、導電性を有するES状態を示す800nm以上の吸収ピークが認められた。
【0038】
[実施例2]
実施例1で得られたポリアニリンA−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体0.03gに、トルエン0.97gを加え、超音波洗浄機を用いて室温で2時間処理し、分散液を得た。
この分散液に、ジビニルベンゼン0.03gを加えて、トルエンに良分散したポリアニリン組成物を得た。
このポリアニリン組成物トルエン分散液をガラス基板上に塗布後、その塗膜を80℃で1時間加熱し、ポリアニリン組成物を硬化させた。
硬化したポリアニリン組成物は、スパチュラを用いて軽く擦る程度では削れることはなかった。また、塗膜厚さ30μmで103〜104Ω/sqの導電性を示した。
【0039】
[実施例3]
エメラルディンベース(EB)状態のポリアニリンB0.024mol(2.2g)に、ドデシルベンゼンスルホン酸0.024mol(7.8g)を加え、自転公転ミキサーを用いて室温で5分間撹拌した。得られたペースト状混合物を、ホットプレス機を用いて140℃で3分間加熱し、均一に複合化されたポリアニリンB−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体を得た。
このポリアニリンB−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体とジビニルベンゼンとを、1:9、3:7、5:5の重量比になるよう加え、自転公転ミキサーを用いて室温で20分間撹拌し、ジビニルベンゼン中にポリアニリンB−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体が良分散したペースト状の各ポリアニリン組成物を得た。
各ポリアニリン組成物を金型に入れ、ホットプレス機を用いて100℃で2時間加熱し、ポリアニリン組成物を硬化させた。
【0040】
前記ポリアニリン組成物はいずれも、加熱処理前はポリアニリンB−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体の添加量によってペースト状から溶液状までの粘度であった。各組成物は簡単にかき混ぜることができる状態であったが、加熱処理後はディスクとして扱うことができるほどの自立性を有していた。また、厚さ1mmで、ポリアニリンB−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体とジビニルベンゼンとの重量比が1:9、3:7、5:5の組成物はそれぞれ、105〜106Ω/sq、102〜103Ω/sq、10〜102Ω/sqの導電性を示した。
【0041】
また、ポリアニリンB−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体、前記ペースト状のポリアニリン組成物(ポリアニリンB−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体とジビニルベンゼンとの重量比が3:7)を、TG−DTA(TA Instruments社製)を用いて窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで加熱し、温度によるヒートフロー変化を測定した。これらのプロットを図3に示す。
図3のプロットでは、ポリアニリンB−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体では顕著な変化が見られないが、ポリアニリン組成物では100〜110℃付近でジビニルベンゼンの重合反応に伴う発熱ピークが見られた。
【0042】
[実施例4]
実施例3と同様に、エメラルディンベース(EB)状態のポリアニリンB0.024mol(2.2g)に、ドデシルベンゼンスルホン酸0.024mol(7.8g)を加え、自転公転ミキサーを用いて室温で5分間撹拌した。得られたペースト状混合物0.5gを、ホットプレス機を用いて140℃で3分間、2MPaで加熱圧縮し、ディスク状に成形した。このディスクをジビニルベンゼン5mlに1時間浸し、ポリアニリンB−ドデシルベンゼンスルホン酸複合体とジビニルベンゼンの重量比を約1:1とした。
このポリアニリン組成物ディスクを、ホットプレートを用いて100℃で1時間加熱し、ポリアニリン組成物を硬化させた。
【0043】
前記ポリアニリン組成物は、含浸・加熱処理前は比較的柔らかいディスク状であり、熱可塑性を有していたが、含浸・加熱処理後は熱可塑性を持たず、硬いディスクとなっていた。また、厚さ1mmで1〜10Ω/sqの導電性を示した。
【0044】
[比較例1]
実施例1で得られたペースト状のポリアニリン組成物0.1gに、メタクリル酸メチル0.9gを加え、自転公転ミキサーを用いて室温で20分間撹拌した。得られた分散液に、ラジカル開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.015gを加え、ホットプレートを用いて80℃で加熱した。
24時間以上加熱処理を続けたが、ポリアニリン組成物は固化せず、液状のままであった。この条件では、ラジカル重合反応は十分に進行しなかった。
【0045】
[比較例2]
ジビニルベンゼン0.5gにドデシルベンゼンスルホン酸0.22gを加え、自転公転ミキサーを用いて室温で10分間撹拌したところ、すぐに反応し、黒色の固形物が生成した。
図1
図2
図3