【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば以下の構成を有するヒ素の分離固定方法が提供される。
〔1〕銅ヒ素含有物に
浸出時のpHが7.5以上になるように
アルカリと酸化剤を添加して酸化浸出を
行ってヒ素を浸出させ後、液のpHを7.5〜10に調整して銅分を浸出残渣にして固液分離し、
該固液分離して得たヒ素浸出液に、pH10以下で第二鉄化合物を添加して
水酸化鉄にヒ素が吸着したFeAs澱物を生成させることを特徴とするヒ素の分離固定化方法。
〔2〕ヒ化銅含有スライムに、浸出時pH7.5以上になるように水酸化ナトリウム溶液を加え、さらに空気を吹き込んで、70℃〜90℃に加熱してヒ素分を浸出させた後、液のpHを7.5〜10に調整して銅分を残渣にするアルカリ性酸化浸出工程と、銅分を含む残渣を固液分離し、ヒ素を含むpH10以下の溶液に、50℃以上で、第二鉄化合物をFe/Asモル比で0.9〜1.1になるように添加し、
水酸化鉄にヒ素が吸着したFeAs澱物を生成させる澱物生成工程とを含む上記[1]に記載するヒ素の分離固定化方法。
〔3〕第二鉄化合物として塩化第二鉄、硫酸第二鉄、またはポリ硫酸第二鉄を用い、
pH7.5〜10のヒ素浸出液に、液温50℃〜70℃で第二鉄化合物を添加し、
水酸化鉄にヒ素が吸着したFeAs澱物を生成させる上記[1]または上記[2]に記載するヒ素の分離固定化方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
本発明の処理方法は、銅ヒ素含有物に
浸出時のpHが7.5以上になるように
アルカリと酸化剤を添加して酸化浸出を
行ってヒ素を浸出させ後、液のpHを7.5〜10に調整して銅分を浸出残渣にして固液分離し、
該固液分離して得たヒ素浸出液に、pH10以下で第二鉄化合物を添加して
水酸化鉄にヒ素が吸着したFeAs澱物を生成させることを特徴とするヒ素の分離固定化方法である。本発明の処理方法の工程図を
図1示す。
【0011】
本発明の処理方法において、処理対象の銅ヒ素含有物は、例えば、銅とヒ素の金属間化合物であるヒ化銅(Cu
3As、Cu
5As
2)などを含有するスライムである。該スライムは銅電解液中不純物の電解採取工程において、電極に付着するまた電解槽底部から回収されるもので、ヒ素20〜40質量%および銅40〜60質量%をヒ化銅として含む。ヒ化銅含有スライムのXRDスペクトルとピーク解析結果の一例を
図2に示す(図中下側のスペクトル)。本発明の処理方法はこのようなヒ化銅含有スライムのヒ素分離固定化方法として最適である。
【0012】
なお、硫化ヒ素(As
2S
3)やFeAsS硫化物をアルカリ酸化浸出する処理方法が知られているが(特許第4087433号公報、特許第4615561号公報)、これらのヒ素含有物はヒ素と共に硫黄を含む物質であり、本発明の処理対象とは異なる。
【0013】
〔アルカリ性酸化浸出工程〕
本発明の処理方法は、銅ヒ素含有物にアルカリ溶液をpH7.5以上になるように添加して酸化浸出を行う。例えば、ヒ化銅含有スライムに、水酸化ナトリウム液を加えてpH7.5以上にし、さらに空気を吹き込み、70℃〜90℃に加熱してヒ素分を浸出させた後、液のpHを7.5〜10に調整して液中の銅濃度をできるだけ下げて銅分を残渣にする。酸化剤として、空気の他に、酸素、塩素、塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムを使用することができる。
【0014】
この酸化浸出によって、例えば、次式に示すように、ヒ化銅が水酸化ナトリウム液中で酸化され、銅が酸化銅又は水酸化銅として固形分の残渣になり、ヒ素がヒ酸ナトリウムを形成して液中に浸出される。
2Cu
3As+4NaOH+4O
2=3Cu
2O↓+2Na
2HAsO
4+H
2O
【0015】
酸化浸出のpHとヒ素の浸出状態を
図3に示し、pHとPbおよびCuの浸出状態を
図4に示す。また、浸出時間とAs濃度を
図5に示す。
図3に示すように、酸化浸出のpHが7.5より低い領域では、例えば、微量の銅イオンとヒ素(V)イオンが反応してヒ酸銅(Cu
3(AsO
4)
2)の沈澱が生じるので液中のヒ素濃度は低下する(
図3左側)。水酸化ナトリウムを添加してpHを7.5以上に調整すれば、ヒ素の浸出が進む(
図3右側)。従って、浸出時にpH7.5以上に調整して酸化浸出を行うのが好ましい。
【0016】
また、上記酸化浸出の反応式から分かるように、ヒ素1モルを酸化浸出するには水酸化ナトリウム2モルが消費されるので、NaOHの添加量はNaOH/Asモル比=2倍(1当量)に基づいて調整すればよい。また、原料中のヒ素濃度が明らかなときには必要量の水酸化ナトリウム全量を浸出開始時に添加してもよい。この場合、
図4に示すように、浸出初期の液性が強アルカリ(pH14程度)になる場合もあり、Cu、Pbなどの重金属イオンが一旦溶出するが、浸出反応が進むにつれ液中のアルカリが消費されて浸出液のpHが低下し、Cu、Pbなどの溶出濃度も低下する。浸出終了時のpHが7.5〜10の範囲であれば、Cu濃度およびPb濃度は数ppmに過ぎないので、浸出当初のpHを14程度にし、浸出終了時にpH7.5〜10になるようにすれば、CuおよびPbの濃度を抑えて、比較的に高純度のヒ素(V)を含むヒ素浸出液を得ることができる(
図4、
図5)。
【0017】
なお、酸化浸出開始時にアルカリを過剰に添加したことによって浸出終了時のpHが10を超える場合には、Cu、Pbなどの重金属イオン濃度が高く、また次のFeAs澱物生成工程においてヒ素の回収率が低下するので、硫酸または硫酸性溶液などの中和剤を添加してpH10以下に調整することが好ましい。
浸出温度は70℃〜90℃がよく、上記温度範囲より低いと浸出時間が長くなり、一方、上記温度範囲より高いと蒸気の発生量が多く、加熱コストが無駄になる。
【0018】
上記アルカリ酸化浸出によれば、ヒ素が選択的に浸出され、CuおよびPbなどの共存金属との分離性が良い。さらに、浸出後のスラリーの濾過性が良く、短時間で濾過することができる。また、浸出残渣に含まれる銅の品位が80〜85%と高く、銅製錬処理が容易である。
【0019】
浸出残渣のXRDスペクトルを
図2に示す(図中上側のスペクトル)。図示するように、浸出残渣の主成分はCu
2O(Cuprite)と未溶解のCu
3As(Domeykite)である。
【0020】
〔FeAs沈澱生成工程〕
図2に示すように、上記酸化浸出によって銅は酸化銅を形成し固形分として残渣に含まれるので、この浸出残渣を固液分離する。浸出残渣を分離したヒ素浸出液に、pH10以下で、第二鉄化合物を添加して、FeAs澱物を生成させる。具体的には、次式に示すように、浸出残渣を固液分離したヒ酸イオンを含む浸出液に、第二鉄イオン(Fe
3+)を添加すると、鉄(水酸化鉄)にヒ素(ヒ酸イオン)が吸着した沈殿が生成する。また、鉄イオンとヒ素イオンとが反応して非結晶質のヒ酸鉄が生成することもある。これらの鉄とヒ素を含む沈殿をFeAs澱物と云う。
HAsO
42- + Fe
3+ + 2OH
- = FeOOH(HAsO
42-)↓+H
+
HAsO
42- + Fe
3+ + OH
- = FeAsO
4↓+H
2O
【0021】
ヒ素浸出液のpHが10より高いと、ヒ素と鉄の上記反応が進み難くなり、ヒ素が液中に残るので好ましくない。ヒ素浸出液のpHが10以下であれば、ヒ素が十分に取り込まれたFeAs澱物が生じる。上記アルカリ酸化浸出によって得たヒ素浸出液のpHは7.5〜10であるので、このpH域のままヒ素浸出液を用いればよい。
【0022】
第二鉄化合物としては塩化第二鉄、硫酸第二鉄、またはポリ硫酸第二鉄を用いるとよい。このなかで腐食性、経済性からポリ硫酸鉄が望ましい。上記反応式に示すように、第二鉄イオン1モルに対してヒ酸イオン1モルが反応するので、第二鉄化合物の添加量は、Fe/Asモル比で0.9〜1.1モルがよく、1モルが好ましい。ヒ素に対して鉄が0.9モルより少ないと、液中のヒ素の一部が未反応のまま液中に残るので好ましくない。また、ヒ素に対して鉄のモル数が1.1より多いと第二鉄化合物が未反応で残るので無駄になる。
【0023】
ヒ素浸出液に対するポリ硫酸鉄の添加量と液中のヒ素濃度の変化を
図6に示す。また、第二鉄イオンの添加量に対するAs,Feの沈殿量、pHの変化を
図7に示す。図示するように、第二鉄イオンの添加量の増加に伴ってpHおよびAs濃度が低下し、FeAs澱物量が増加する。
【0024】
第二鉄化合物を添加するときの液温は50℃以上が好ましく、50℃〜70℃がより好ましい。これより液温が低いとFeAs澱物の濾過性が低下する。70℃以上ではヒ素の沈降性や澱物の濾過性に問題はないが、加熱コストが増大するので好ましくない。FeAs澱物生成の反応時間は10〜30分と短いので、酸化浸出後のヒ素浸出液を本工程によって素早く処理すれば、加熱する手間を省くことができる。
【0025】
上記FeAs澱物は結晶質スコロダイトの原料として好適である。例えば、
図8に示すように、固液分離したFeAs澱物を液温50℃以上の硫酸性溶液に混合し、pH0.7〜1.2のスラリーまたは溶液にし、該スラリーまたは該溶液を、90℃以上に加熱して結晶質のスコロダイト(FeAsO
4・2H
2O)を生成させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の処理方法は、酸化浸出工程において、硫黄を使用せずに銅とヒ素を酸化浸出するので硫化銅が生成せず、ヒ素(V)イオンを含む浸出液と銅を含む残渣との分離が容易である。また、アルカリを添加し、pH7.5以上で酸化浸出することによって、ヒ素の浸出が進む。酸化浸出反応が進むにつれてアルカリが消費されるので、スラリーpHが低下する。浸出初期のpHが10以上の場合、酸化浸出反応が進んでpHが10以下に低下すると、Pb、Cuなどの重金属は水酸化物になって浸出残渣に含まれるので、容易にヒ素含有浸出液と分離することができる。
【0027】
また、本発明の処理方法は、沈殿生成工程において、第二鉄化合物を添加することによって生じる水酸化鉄にヒ素イオンが選択的に吸着した沈殿、あるいはヒ酸鉄を形成したFeAs澱物になり、一方、浸出液に含まれるアルカリ金属イオンや、鉄イオン(Fe
3+)のカウンターイオン(例えば、塩酸イオン、硫酸イオン)は液中に残るので、ヒ素を簡単に分離することができる。
【0028】
上記FeAs澱物にはヒ素が濃縮されており、澱物の容量はヒ素浸出液の1/4以下であって格段に容量が少ないので、後工程の処理設備をコンパクトにすることができる。また、上記FeAs澱物は短時間に生成し、澱物の濾過性が良く、フィルタープレスなどによって容易に固形化できる。従って、ヒ素を固形分として濃縮して回収し、保管するのに適する。
【0029】
さらに、上記FeAs澱物は、これを加熱処理して容易にスコロダイトに転換させることができるので、本発明の処理方法はスコロダイト製造の前段処理工程として有用である。また、上記FeAs澱物中のFe/Asモル比は約1であるので、スコロダイトの原料として好適である。浸出液中のNaイオンなどは大部分が液中に残り、澱物には殆ど含まれないので、良質なスコロダイトを製造することができる。