特許第6241679号(P6241679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241679
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20171127BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   F02D13/02 H
   F02D13/02 K
   F02D9/02 Q
   F02D9/02 A
   F02D9/02 321Z
   F02D9/02 351M
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-100203(P2015-100203)
(22)【出願日】2015年5月15日
(65)【公開番号】特開2016-217184(P2016-217184A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】疋田 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】水野 沙織
(72)【発明者】
【氏名】末岡 賢也
(72)【発明者】
【氏名】橋口 匡
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0243241(US,A1)
【文献】 特開2013−124623(JP,A)
【文献】 特開2012−021440(JP,A)
【文献】 特開2000−199440(JP,A)
【文献】 特開2013−133814(JP,A)
【文献】 特開2007−205181(JP,A)
【文献】 特開2011−214477(JP,A)
【文献】 特開2009−174432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/02
F02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒の排気行程から吸気行程において吸気弁及び排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ期間を設けて、既燃ガスを気筒内に残留させるようにしたエンジンの制御装置であって、
上記吸気行程において、上記吸気弁の開弁時期以降に上記排気弁を開弁させる排気側可変バルブ機構と、
上記吸気弁及び上記排気弁のバルブタイミングを変化させる可変バルブタイミング機構と、
上記エンジンの運転状態に応じた既燃ガス要求量が所定値未満である場合、上記既燃ガス要求量に基づき上記可変バルブタイミング機構を制御して、上記吸気弁及び上記排気弁のバルブタイミングを変化させる可変バルブ機構制御手段と、
上記既燃ガス要求量が所定値以上である場合、上記エンジンの運転状態に応じた既燃ガス要求量に基づき上記エンジンのスロットル弁を制御して、上記気筒への吸入空気量を変化させるスロットル制御手段と、を有し、
上記可変バルブ機構制御手段は、
上記既燃ガス要求量が上記所定値以上である場合、上記既燃ガス要求量の変化に対し、上記可変バルブタイミング機構により、上記負のオーバーラップ期間が最大となる位置で上記吸気弁及び上記排気弁のバルブタイミングを一定に保持し、上記既燃ガス要求量が増大するほど上記スロットル制御手段により上記スロットル弁の開度を減少させ、
上記既燃ガス要求量が上記所定値未満である場合、上記既燃ガス要求量の変化に対し、上記スロットル制御手段により上記スロットル弁の開度を一定に保持し、上記既燃ガス要求量が少なくなるほど、上記可変バルブタイミング機構により、上記負のオーバーラップ期間が最大となる位置から上記排気弁の閉弁時期を遅角させると共に上記吸気弁の開弁時期を進角させることにより上記負のオーバーラップ期間を短縮することを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
上記可変バルブ機構制御手段は、上記既燃ガス要求量が所定値以上である場合、上記可変バルブタイミング機構により、上記吸気弁の閉弁時期と上記吸気行程における上記排気弁の閉弁時期とを略一致させ、上記既燃ガス要求量が上記所定値より少なくなるほど、上記可変バルブタイミング機構により、上記負のオーバーラップ期間を短縮し、かつ、上記吸気行程における上記排気弁の開弁時期及び閉弁時期を遅角させる、請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
上記スロットル制御手段は、上記既燃ガス要求量が所定値以上である場合、上記スロットル弁の開度を所定開度以下に小さくする請求項1又は2に記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に係わり、特に、気筒の排気行程から吸気行程において吸気弁及び排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ期間を設けて、既燃ガスを気筒内に残留させるようにしたエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、予混合圧縮自己着火(Homogeneous-Charge Compression Ignition:HCCI)による圧縮着火燃焼を行うエンジンが知られている。このHCCI燃焼を行うエンジンでは、気筒の排気行程から吸気行程において吸気弁及び排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ期間を設けて、既燃ガスを気筒内に残留させるとともに、吸気行程中に排気弁を開閉して既燃ガスを気筒内に逆流させることにより燃焼室内の混合ガスの温度を上昇させる、いわゆる内部EGRシステムを利用している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−174432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、HCCI燃焼を行うエンジンでは、高い熱効率を達成しつつ、燃焼音の抑制や燃焼安定性の確保を実現するために、エンジンの負荷に応じて着火時期を適切に制御する必要がある。
そこで、気筒内に導入された総ガス量のうち、気筒内に残留した既燃ガスが占める割合(内部EGR率)をエンジンの運転状態(エンジンの回転数や負荷等)に応じて変化させることにより、着火時期を制御することが検討されている。この場合、着火時期を適切に制御するためには、内部EGR率を広い範囲(例えば20%〜80%)で変化させることが要求される。
【0005】
しかしながら、上述したような従来のエンジンの制御装置は、可変バルブタイミング機構により排気弁の閉弁時期及び吸気弁の開弁時期を制御して負のオーバーラップ期間を設けるとともに、可変バルブリフト機構を用いて吸気弁の開弁期間中に排気弁を開弁させるものであり、内部EGR率の制御応答性は可変バルブタイミング機構や可変バルブリフト機構の応答性に依存するので、制御応答性を満足させながら内部EGR率を広い範囲で変化させることは困難である。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、エンジン負荷の変化に対して、高い制御応答性を確保しつつ、広い範囲で内部EGR率を変化させることができ、HCCI燃焼における着火時期を適切に制御することができる、エンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のエンジンの制御装置は、気筒の排気行程から吸気行程において吸気弁及び排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ期間を設けて、既燃ガスを気筒内に残留させるようにしたエンジンの制御装置であって、吸気行程において、吸気弁の開弁時期以降に排気弁を開弁させる排気側可変バルブ機構と、吸気弁及び排気弁のバルブタイミングを変化させる可変バルブタイミング機構と、エンジンの運転状態に応じた既燃ガス要求量が所定値未満である場合、既燃ガス要求量に基づき可変バルブタイミング機構を制御して、吸気弁及び排気弁のバルブタイミングを変化させる可変バルブ機構制御手段と、既燃ガス要求量が所定値以上である場合、エンジンの運転状態に応じた既燃ガス要求量に基づきエンジンのスロットル弁を制御して、気筒への吸入空気量を変化させるスロットル制御手段と、を有し、可変バルブ機構制御手段は、既燃ガス要求量が所定値以上である場合、既燃ガス要求量の変化に対し、可変バルブタイミング機構により、負のオーバーラップ期間が最大となる位置で吸気弁及び排気弁のバルブタイミングを一定に保持し、既燃ガス要求量が増大するほどスロットル制御手段によりスロットル弁の開度を減少させ、既燃ガス要求量が所定値未満である場合、既燃ガス要求量の変化に対し、スロットル制御手段によりスロットル弁の開度を一定に保持し、既燃ガス要求量が少なくなるほど、可変バルブタイミング機構により、負のオーバーラップ期間が最大となる位置から排気弁の閉弁時期を遅角させると共に吸気弁の開弁時期を進角させることにより負のオーバーラップ期間を短縮することを特徴とする。
このように構成された本発明においては、可変バルブ機構制御手段は、既燃ガス要求量が所定値以上である場合、既燃ガス要求量に基づきスロットル弁を制御して気筒への吸入空気量を変化させるので、可変バルブタイミング機構により吸気弁及び排気弁のバルブタイミングを変化させなくても内部EGR率を変化させることができる。すなわち、内部EGR率の変化幅を確保しつつ可変バルブタイミング機構の作動量を抑制することができるので、エンジン負荷の変化に対して、高い制御応答性を確保しつつ広い範囲で内部EGR率を変化させることができ、HCCI燃焼における着火時期を適切に制御することができる。
また、吸気行程中に吸気弁と排気弁が同時に開弁しているので、内部EGR率を増大させるためにスロットル弁の開度を絞った場合でも吸入負圧の増大を抑制でき、吸気行程におけるポンピングロスの増大を防止できる。
【0008】
また、本発明において、好ましくは、可変バルブ機構制御手段は、既燃ガス要求量が所定値以上である場合、可変バルブタイミング機構により、吸気弁の閉弁時期と吸気行程における排気弁の閉弁時期とを略一致させ、既燃ガス要求量が所定値より少なくなるほど、可変バルブタイミング機構により、負のオーバーラップ期間を短縮し、かつ、吸気行程における排気弁の開弁時期及び閉弁時期を遅角させる。
このように構成された本発明においては、可変バルブ機構制御手段は、既燃ガス要求量が所定値未満に減少した場合、負のオーバーラップ期間の短縮により気筒内に残留する既燃ガス量を減少させることに加えて、吸気弁の開弁によって気筒内にある程度空気が充填された状態で吸気行程における排気弁の開弁が行われるようにし、吸気行程における排気弁の開弁により気筒内に取り込まれる既燃ガス量を抑制することができ、これにより、可変バルブタイミング機構の作動量に応じた内部EGR率の変化量を大きくすることができる。したがって、可変バルブタイミング機構の他に新たな機構を設けることなく、エンジン負荷の変化に対して、高い制御応答性を確保しつつ広い範囲で内部EGR率を変化させることができ、HCCI燃焼における着火時期を適切に制御することができる。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、スロットル制御手段は、既燃ガス要求量が所定値以上である場合、スロットル弁の開度を所定開度以下に小さくする。
このように構成された本発明においては、例えば、既燃ガス要求量が可変バルブタイミング機構により吸気弁及び排気弁のバルブタイミングを変化させることによって達成可能な最大値以上である場合でも、スロットル弁の開度を所定開度以下に小さくして気筒への吸入空気量を減少させることにより、内部EGR率を増大させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるエンジンの制御装置によれば、エンジン負荷の変化に対して、高い制御応答性を確保しつつ広い範囲で内部EGR率を変化させることができ、HCCI燃焼における着火時期を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。
図2】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置に関する電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態によるエンジンの運転領域の説明図である。
図4】本発明の実施形態によるエンジンの要求内部EGR率を示す線図である。
図5】本発明の実施形態による吸気弁及び排気弁のリフトカーブを示す線図であり、(a)は負のオーバーラップ期間の最大時、(b)は負のオーバーラップ期間の最小時における吸気弁及び排気弁のリフトカーブを示している。
図6】本発明の実施形態によるエンジンのスロットル開度の制御カーブを示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を説明する。
【0014】
[装置構成]
図1は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジン(エンジン本体)1の概略構成を示し、図2は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を示すブロック図である。
【0015】
エンジン1は、車両に搭載されると共に、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンである。エンジン1は、複数の気筒18が設けられたシリンダブロック11(なお、図1では、1つの気筒のみを図示するが、例えば4つの気筒が直列に設けられる)と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン13とを有している。各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面には、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ141が形成されている。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述するインジェクタ67に相対する。シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とは、燃焼室19を画定する。なお、燃焼室19の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室19の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
【0016】
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、15以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。なお、幾何学的圧縮比は15以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
【0017】
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室19側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
【0018】
吸気弁21及び排気弁22をそれぞれ駆動する動弁系の内、排気側には、排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える、例えば油圧作動式の可変バルブリフト機構(図2参照。以下、VVL(Variable Valve Lift)と称する)71と、クランクシャフト15に対する排気カムシャフトの回転位相を変更することが可能な位相可変機構(以下、VVT(Variable Valve Timing)と称する)75と、が設けられている。VVL71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を一つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロフィールの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するカムシフティング機構を含んで構成されている。第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。VVL71の通常モードと特殊モードとは、エンジンの運転状態に応じて切り替えられる。具体的には、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。なお、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。
【0019】
VVT75は、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。排気弁22は、VVT75によって、その開弁時期及び閉弁時期を、所定の範囲内で連続的に変更可能である。
【0020】
VVL71及びVVT75を備えた排気側の動弁系と同様に、吸気側には、図2に示すように、VVL74とVVT72とが設けられている。吸気側のVVL74は、排気側のVVL71とは異なる。吸気側のVVL74は、吸気弁21のリフト量を相対的に大きくする大リフトカムと、吸気弁21のリフト量を相対的に小さくする小リフトカムとの、カムプロフィールの異なる2種類のカム、及び、大リフトカム及び小リフトカムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に吸気弁21に伝達するカムシフティング機構を含んで構成されている。VVL74が大リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達しているときには、吸気弁21は、相対的に大きいリフト量で開弁すると共に、その開弁期間も長くなる。これに対し、VVL74が小リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達しているときには、吸気弁21は、相対的に小さいリフト量で開弁すると共に、その開弁期間も短くなる。大リフトカムと小リフトカムとは、閉弁時期又は開弁時期を同じにして切り替わるように設定されている。
【0021】
吸気側のVVT72は、排気側のVVT75と同様に、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。吸気弁21もまた、VVT72によって、その開弁時期及び閉弁時期を、所定の範囲内で連続的に変更可能である。なお、吸気側にVVL74を適用せずに、VVT72のみを適用し、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期のみを変更するようにしてもよい。
【0022】
シリンダヘッド12にはまた、気筒18毎に、気筒18内に燃料を直接噴射する(直噴)インジェクタ67が取り付けられている。インジェクタ67は、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、その燃焼室19内に臨むように配設されている。インジェクタ67は、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室19内に直接噴射する。この例において、インジェクタ67は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型のインジェクタである。これによって、インジェクタ67は、燃料噴霧が、燃焼室19の中心位置から放射状に広がるように、燃料を噴射する。ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで、燃焼室19の中央部分から放射状に広がるように噴射された燃料噴霧は、ピストン頂面に形成されたキャビティ141の壁面に沿って流動する。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで噴射された燃料噴霧を、その内部に収めるように形成されている、と言い換えることが可能である。この多噴口型のインジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、混合気形成期間を短くすると共に、燃焼期間を短くする上で有利な構成である。なお、インジェクタ67は、多噴口型のインジェクタに限定されず、外開弁タイプのインジェクタを採用してもよい。
【0023】
図外の燃料タンクとインジェクタ67との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、燃料ポンプ63とコモンレール64とを含みかつ、インジェクタ67に、比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な燃料供給システム62が介設されている。燃料ポンプ63は、燃料タンクからコモンレール64に燃料を圧送し、コモンレール64は圧送された燃料を、比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能である。インジェクタ67が開弁することによって、コモンレール64に蓄えられている燃料がインジェクタ67の噴口から噴射される。ここで、燃料ポンプ63は、図示は省略するが、プランジャー式のポンプであり、エンジン1によって駆動される。このエンジン駆動のポンプを含む構成の燃料供給システム62は、30MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、インジェクタ67に供給することを可能にする。燃料圧力は、最高で120MPa程度に設定してもよい。インジェクタ67に供給される燃料の圧力は、後述するように、エンジン1の運転状態に応じて変更される。なお、燃料供給システム62は、この構成に限定されるものではない。
【0024】
シリンダヘッド12にはまた、燃焼室19内の混合気に強制点火する点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、この例では、エンジン1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通して配置されている。点火プラグ25の先端は、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨んで配置される。
【0025】
エンジン1の一側面には、図1に示すように、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室19からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
【0026】
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設され、その下流側には、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36が配設されている。また、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
【0027】
吸気通路30におけるスロットル弁36とサージタンク33との間には、気筒18に導入する新気にオゾンを添加するオゾン発生器(O3発生器)76が介設されている。オゾン発生器76は、吸気に含まれる酸素を原料ガスとして、無声放電によりオゾンを生成する。つまり、電極に対して、図外の電源から高周波交流高電圧を印加することにより、放電間隙において無声放電が発生し、そこを通過する空気(つまり、吸気)がオゾン化される。こうしてオゾンが添加された吸気は、サージタンク33から吸気ポート16を介して、各気筒18内に導入される。オゾン発生器76の電極に対する電圧の印加態様を変更する、及び/又は、電圧を印加する電極の数を変更することによって、オゾン発生器76を通過した後の、吸気中のオゾン濃度を調整することが可能である。PCM10は、こうしたオゾン発生器76に対する制御を通じて、気筒18内に導入する吸気中のオゾン濃度の調整を行う。
【0028】
排気通路40の上流側の部分は、気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
【0029】
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設されている。
【0030】
エンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。
【0031】
PCM10には、図1、2に示すように、各種のセンサSW1、SW2、SW4〜SW18の検出信号が入力される。具体的には、PCM10には、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1の検出信号と、新気の温度を検出する吸気温度センサSW2の検出信号と、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置されかつ、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4の検出信号と、吸気ポート16に取り付けられかつ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5の検出信号と、シリンダヘッド12に取り付けられかつ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6の検出信号と、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置されかつ、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8の検出信号と、直キャタリスト41の上流側に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSW9の検出信号と、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するラムダO2センサSW10の検出信号と、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11の検出信号と、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12の検出信号と、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13の検出信号と、吸気側及び排気側のカム角センサSW14、SW15の検出信号と、燃料供給システム62のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ67に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16の検出信号と、エンジン1の油圧を検出する油圧センサSW17の検出信号と、エンジン1の油温を検出する油温センサSW18の検出信号と、が入力される。
【0032】
PCM10は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ67、点火プラグ25、吸気弁側のVVT72及びVVL74、排気弁側のVVT75及びVVL71、燃料供給システム62、各種の弁(スロットル弁36、EGR弁511)のアクチュエータ、並びに、オゾン発生器76へ制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。詳細は後述するが、PCM10は、本発明におけるエンジンの制御装置に相当し、可変バルブ機構制御手段及びスロットル制御手段として機能する。
【0033】
[運転領域]
次に、図3を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの運転領域について説明する。図3は、エンジン1の運転制御マップの一例を示している。このエンジン1は、燃費の向上や排気エミッション性能の向上を目的として、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域では、点火プラグ25による点火を行わずに、予混合圧縮自己着火(Homogeneous-Charge Compression Ignition:HCCI)による圧縮着火燃焼を行う。しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、圧縮着火燃焼では、燃焼が急峻になりすぎてしまい、例えば燃焼騒音等の問題を引き起こすことになる。そこで、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域では、圧縮着火燃焼を止めて、点火プラグ25を利用した強制点火燃焼(ここでは火花点火燃焼(Spark Ignition:SI))に切り替える。このように、このエンジン1は、エンジン1の運転状態、特にエンジン1の負荷に応じて、予混合圧縮自己着火燃焼を行うHCCIモードと、火花点火燃焼を行うSIモードとを切り替えるように構成されている。但し、モード切り替えの境界線は、図例に限定されるものではない。
【0034】
[要求内部EGR率]
次に、図4を参照して、本発明の実施形態によるエンジンにおいて着火時期を適切に制御するために要求される内部EGR率(要求内部EGR率)について説明する。図4は、本発明の実施形態によるエンジン1の要求内部EGR率を示す状態量マップであり、具体的には、エンジン回転数が2500〜4000rpmの場合における、エンジン負荷に応じた要求内部EGR率の変化を示している。この図4において、横軸はエンジン負荷、縦軸は要求内部EGR率を表している。
図4に例示したマップに相当する運転領域では、エンジン1は、エンジン負荷が600kPa(IMEP)未満の低負荷域においてHCCIによる圧縮着火燃焼を行い、600kPa(IMEP)以上の高負荷域においてSIによる火花点火燃焼を行う。
【0035】
図4に示すように、HCCIによる圧縮着火燃焼を行うHCCI領域(エンジン負荷が600kPa(IMEP)未満の領域)において、所定の低負荷L1図4では200kPa(IMEP))未満の範囲では、要求内部EGR率が80%で一定となっている。また、負荷L1からHCCI領域における上限負荷L3図4では600kPa(IMEP))までの範囲では、要求内部EGR率は、エンジン負荷が高くなり必要な空気量が増加するにつれて低下し、上限負荷L3において最低値20%となる。すなわち、HCCI領域において着火時期を適切に制御するためには、内部EGR率を20%から80%の範囲で変化させる必要がある。
【0036】
[吸気弁及び排気弁の動作]
次に、図5を参照して、本発明の実施形態による吸気弁21及び排気弁22の動作を説明する。図5は、本発明の実施形態によるエンジン1がHCCIモードで運転を行うときの吸気弁21及び排気弁22のリフトカーブを示す線図であり、(a)は負のオーバーラップ期間の最大時、(b)は負のオーバーラップ期間の最小時における吸気弁21及び排気弁22のリフトカーブを示している。
【0037】
HCCI領域において、PCM10は、多量の既燃ガスによって気筒18内の温度を高めるために、排気行程から吸気行程にかけて吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じる負のオーバーラップ(NVO:Negative Valve Overlap)期間を要求内部EGR率に応じて設定し、気筒18内に残留する既燃ガス量を制御する。
具体的には、PCM10は、予め実験的に設定したマップを参照し、要求内部EGR率を達成するためのNVO期間を決定し、そのNVO期間に基づいてVVT72及びVVT75を制御する。このVVT72及びVVT75の制御マップには、図5(a)に示すように、排気行程における排気弁22の閉弁時期(EVC1)から排気行程の上死点(排気TDC)までの期間αと、排気TDCから吸気弁21の開弁時期(IVO)までの期間βとを等しくするように、すなわちNVO期間の中央が排気TDCとなるように、VVT72及びVVT75の作動量が設定されている。このようにNVO期間の中央が排気TDCになるようにすることで、排気弁22の閉弁時期(EVC1)から排気TDCまでの圧縮仕事を、排気TDCから吸気弁21の開弁時期(IVO)までの膨張仕事によって相殺することができ、NVO期間を設けることによるポンピングロスを小さくすることができる。
【0038】
さらに、HCCI領域において、PCM10は、吸気行程中に排気弁22を開弁させる排気の二度開きを行う。
具体的には、PCM10は、HCCI領域においてVVL71を特殊モードで作動させることにより、カム山を2つ有する第2カムの作動状態を排気弁22に伝達させる。この場合、図5(a)及び(b)に破線で示すように、VVL71の第2カムは、排気行程中に排気弁22を開弁させると共に、吸気行程において、吸気弁21の開弁時期(IVO)以降に開弁させる(EVO2)ように設定されている。
【0039】
特に、エンジン負荷が所定負荷L2図4では約350kPa(IMEP))以下である場合、すなわち要求内部EGR率が負荷L2に対応する所定値R2図4では約58%)以上である場合、PCM10は、VVT72及びVVT75により、NVO期間を最大とし、且つ、吸気弁21の閉弁時期(IVC)と吸気行程における排気弁22の閉弁時期(EVC2)とを吸気行程の下死点(吸気BDC)の近傍でほぼ一致させる。
これにより、NVO期間を設けたことで気筒18内に残留する既燃ガス量を最大化すると共に、排気弁22の二度開きを行う期間を吸気行程期間内に収めることで、二度開きにより排気ポート17から取り込まれる既燃ガス量を最大化する。
【0040】
そして、PCM10は、エンジン負荷が所定負荷L2より大きくなるほど、すなわち要求内部EGR率が負荷L2に対応する所定値R2より少なくなるほど、図5(b)に示すように、VVT75によって排気弁22のバルブタイミングを遅角させることにより、排気行程における排気弁22の閉弁時期(EVC1)を遅角させ、且つ、吸気行程における排気弁22の開弁時期(EVO2)及び閉弁時期(EVC2)を遅角させる。
また、PCM10は、エンジン負荷が所定負荷L2より大きくなるほど、VVT72によって吸気弁21のバルブタイミングを進角させることにより、吸気行程における吸気弁21の開弁時期(IVO)及び閉弁時期(IVC)を進角させる。
HCCI領域における最大負荷L3図4では600kPa(IMEP))である場合、すなわち要求内部EGR率が負荷L3に対応する負荷R3図4では20%)である場合、図5(b)に示すように、排気行程における排気弁22の閉弁時期(EVC1)及び吸気行程における吸気弁21の開弁時期(IVO)は、排気行程の上死点(排気TDC)の近傍となる。
【0041】
すなわち、要求内部EGR率が所定値R2より少なくなるほど、排気行程における排気弁22の閉弁時期(EVC1)を遅角させると共に吸気弁21の開弁時期(IVO)を進角させることによってNVO期間を短縮し、NVO期間を設けたことで気筒18内に残留する既燃ガス量を減少させる。
また、吸気弁21の閉弁時期(IVC)を進角させると共に吸気行程において開弁した排気弁22の閉弁時期(EVC2)を遅角させて、吸気行程において開弁した排気弁22の閉弁時期(EVC2)を吸気弁21の閉弁時期(IVC)よりも遅角させることにより、吸気弁21が開弁している期間よりも排気弁22の二度開きを行う期間を遅らせる。これにより、吸気弁21の開弁によって気筒18内にある程度空気が充填された状態で排気弁22の二度開きが行われるようにし、二度開きにより排気ポート17から取り込まれる既燃ガス量を抑制する。
さらに、排気行程における排気弁22の(EVO2)及び閉弁時期(EVC2)を遅角させて、排気弁22の二度開きが行われる期間をピストン14の移動量が小さい吸気BDC付近に遅角させることにより、排気弁22の二度開きにより排気ポート17から取り込まれる既燃ガス量を抑制する。
【0042】
[スロットル弁の動作]
次に、図6を参照して、本発明の実施形態によるスロットル弁の動作を説明する。図6は、本発明の実施形態によるエンジン1のスロットル開度の制御カーブを示す線図である。
【0043】
HCCI領域において、エンジン負荷が所定負荷L2図4及び図6では約350kPa(IMEP))より大きい場合、すなわち要求内部EGR率が負荷L2に対応する所定値R2図4では約58%)未満である場合、図6に示すように、PCM10は、スロットル弁36の開度を95%に設定する。すなわち、要求内部EGR率が所定値R2未満の領域では、PCM10は、上述したようにVVT72及びVVT75により吸気弁21及び排気弁22のバルブタイミングを変化させることによって内部EGR率を制御する。
【0044】
一方、HCCI領域において、エンジン負荷が所定負荷L2以下である場合、すなわち要求内部EGR率が負荷L2に対応する所定値R2以上である場合、PCM10は、吸気弁21及び排気弁22のバルブタイミングを変化させず、NVO期間及び排気弁22の二度開き期間を一定に保持する。この場合、PCM10は、スロットル弁36の開度を制御して気筒18への吸入空気量を変化させることにより、内部EGR率を制御する。
【0045】
具体的には、図6に示すように、エンジン負荷がL1図4及び図6では200kPa(IMEP))より大きくL2以下である場合、すなわち要求内部EGR率がR2図4では約58%)以上R1図4では80%)未満である場合、PCM10は、エンジン負荷が小さくなるほど、即ち要求内部EGR率が増大するほど、スロットル弁36の開度を95%以下に小さくする。図6では、エンジン負荷がL1まで小さくなると、PCM10はスロットル弁36の開度を20%まで減少させる。
このようにスロットル弁36の開度を絞って気筒18への吸入空気量を減少させることにより、吸気弁21及び排気弁22のバルブタイミングを変化させなくても内部EGR率を増大させることができる。
また、上述したように、HCCI領域においては排気弁22の二度開きを行っており、吸気行程中に吸気弁21と排気弁22が同時に開弁しているので、内部EGR率を増大させるためにスロットル弁36の開度を絞った場合でも吸入負圧の増大を抑制でき、吸気行程におけるポンピングロスの増大を防止できる。
【0046】
また、エンジン負荷がL1以下である場合、要求内部EGR率はR1図4では80%)で一定であるので、図6に示すように、PCM10はスロットル弁36の開度を20%に保持する。
【0047】
なお、PCM10による吸気弁21及び排気弁22のバルブタイミングの制御及びスロットル弁36の開度の制御は、必ずしも別々に行われるものではなく、同時に行われることもある。例えば、エンジン負荷がL1からL3まで急激に増大した場合、すなわち要求内部EGR率がR1からR3まで急激に減少した場合、PCM10は、VVT75によって排気弁22のバルブタイミングを遅角させ、VVT72によって吸気弁21のバルブタイミングを進角させると同時に、スロットル弁36の開度を増大させる。これにより、エンジン負荷が急激に変化した場合でも、高い応答性で内部EGR率を大きく変化させることができる。
【0048】
次に、本発明の実施形態のさらなる変形例を説明する。
まず、上述した実施形態では、VVL71は、油圧で作動し、カム山を一つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロフィールの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するカムシフティング機構を含んで構成されていると説明したが、これとは異なる構成のVVLを用いてもよく、電磁駆動や空気圧駆動のVVLを用いてもよい。
【0049】
また、上述した実施形態では、直列4気筒のエンジンを例としてVVL71の切替指示が制限される切替指示制限角度範囲を説明したが、直列4気筒以外の多気筒エンジンについてもここに開示した技術を適用することができる。
【0050】
次に、上述した本発明の実施形態及び本発明の実施形態の変形例によるエンジンの制御装置1の作用効果を説明する。
【0051】
まず、PCM10は、要求内部EGR率が所定値R2以上である場合、VVT72及びVVT75により、吸気弁21の閉弁時期(IVC)と吸気行程における排気弁22の閉弁時期(EVC2)とをほぼ一致させ、要求内部EGR率が所定値R2より少なくなるほど、NVO期間を短縮し、かつ、吸気行程における排気弁22の開弁時期(EVO2)及び閉弁時期(EVC2)を遅角させるので、要求内部EGR率が所定値R2未満に減少した場合、NVO期間の短縮により気筒18内に残留する既燃ガス量を減少させることに加えて、吸気弁21の開弁によって気筒18内にある程度空気が充填された状態で排気弁22の二度開きが行われるようにし、二度開きにより排気ポート17から取り込まれる既燃ガス量を抑制することができ、これにより、VVT72及びVVT75の作動量に応じた内部EGR率の変化量を大きくすることができる。したがって、VVT72及びVVT75の他に新たな機構を設けることなく、エンジン負荷の変化に対して、高い制御応答性を確保しつつ広い範囲で内部EGR率を変化させることができ、HCCI燃焼における着火時期を適切に制御することができる。
【0052】
また、PCM10は、要求内部EGR率が所定値R2以上である場合、VVT72及びVVT75により、吸気弁21の閉弁時期(IVC)と吸気行程における排気弁22の閉弁時期(EVC2)とを吸気行程の下死点(吸気BDC)の近傍でほぼ一致させるので、排気弁22の二度開きを行う期間を吸気行程期間内に収めることができ、これにより、要求内部EGR率が所定値R2以上である場合、二度開きにより排気ポート17から気筒18内に取り込まれる既燃ガス量を最大化することができる。したがって、エンジン負荷の変化に対して広い範囲で内部EGR率を変化させることができる。
【0053】
また、PCM10は、要求内部EGR率が減少するほど、VVT75により、排気行程における排気弁22の閉弁時期(EVC1)を遅角させるので、要求内部EGR率が減少するほどNVO期間を短縮し、NVO期間を設けたことで気筒18内に残留する既燃ガス量を減少させることができ、これにより、エンジン負荷の変化に対して広い範囲で内部EGR率を変化させることができる。
【0054】
また、PCM10は、要求内部EGR率が減少するほど、VVT72により、吸気弁21の開弁時期(IVO)を進角させるので、要求内部EGR率が減少するほどNVO期間を短縮し、NVO期間を設けたことで気筒18内に残留する既燃ガス量を減少させることができ、これにより、エンジン負荷の変化に対して広い範囲で内部EGR率を変化させることができる。
【0055】
また、PCM10は、VVT72及びVVT75により、排気行程における排気弁22の閉弁時期(EVC1)から排気行程の上死点(排気TDC)までの期間αと、排気TDCから吸気弁21の開弁時期(IVO)までの期間βとを等しくするので、排気弁22の閉弁時期(EVC1)から排気TDCまでの圧縮仕事を、排気TDCから吸気弁21の開弁時期(IVO)までの膨張仕事によって相殺することができ、NVO期間を設けることによるポンピングロスを小さくすることができる。
【0056】
また、PCM10は、要求内部EGR率が所定値R2(本実施形態では約58%)以上である場合、要求内部EGR率に基づきスロットル弁36を制御して気筒18への吸入空気量を変化させるので、VVT72及びVVT75により吸気弁21及び排気弁22のバルブタイミングを変化させなくても内部EGR率を変化させることができる。すなわち、内部EGR率の変化幅を確保しつつVVT72及びVVT75の作動量を抑制することができるので、エンジン負荷の変化に対して、高い制御応答性を確保しつつ広い範囲で内部EGR率を変化させることができ、HCCI燃焼における着火時期を適切に制御することができる。
また、吸気行程中に吸気弁21と排気弁22が同時に開弁しているので、内部EGR率を増大させるためにスロットル弁36の開度を絞った場合でも吸入負圧の増大を抑制でき、吸気行程におけるポンピングロスの増大を防止できる。
【0057】
また、PCM10は、要求内部EGR率が所定値R2以上である場合、スロットル弁36の開度を所定開度(本実施形態では95%)以下に小さくするので、例えば、要求内部EGR率がVVT72及びVVT75により吸気弁21及び排気弁22のバルブタイミングを変化させることによって達成可能な内部EGR率の最大値以上である場合でも、スロットル弁36の開度を所定開度以下に小さくすることにより、内部EGR率を増大させることができる。
【0058】
また、PCM10は、要求内部EGR率が所定値R2以上である場合、要求内部EGR率が増大するほどスロットル弁36の開度を小さくするので、VVT72及びVVT75により吸気弁21及び排気弁22のバルブタイミングを変化させなくても、要求内部EGR率が増大するほど気筒18への吸入空気量を減少させ、内部EGR率を増大させることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 エンジン(エンジン本体)
10 PCM
17 排気ポート
18 気筒
21 吸気弁
22 排気弁
36 スロットル弁
71 VVL(排気側)
72 VVT(吸気側)
74 VVL(吸気側)
75 VVT(排気側)
図1
図2
図3
図4
図5
図6