(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
腸管バリア機能の損傷に起因する疾患が、炎症性腸疾患、潰瘍及び腸過敏性症候群からなる群から選択される少なくとも1種の疾患の予防又は改善に使用される、請求項5に記載の剤。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の詳細を説明する。本発明は、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸のような10位及び/又は12位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「本発明の水酸化脂肪酸」ともいう。)を含む腸管保護剤を提供する。
【0014】
本発明において、「腸管保護」とは、損傷を受けた腸管バリア機能を修復させる、及び/又は、腸管バリア機能を増強させることをいう。損傷は、その程度を問わず、重症から軽度のものまで含むことができる。機能を修復させるとは、正常でない状態を元の状態に戻す、及び/又は元の状態に近付けることをいう。機能を増強させるには、機能が強化されることに加えて、場合によっては機能低下を抑制することも含まれる。
【0015】
本発明において「腸管バリア(機能)」とは、物理的には腸管上皮細胞の間隙がタイトジャンクション関連因子により強固に密着された構造を形成することで、低分子以外の物質を透過させないことをいう。生物学的には腸管上皮細胞に存在するトランスポーター等を介して、異物を体外へ排出すること、あるいは、抗原刺激を受け腸管粘膜に分泌されるIgAによる腸管粘膜防御をいう。
【0016】
本発明において腸管バリア機能の評価は、自体公知の手法により行うことができる。例えば、T細胞移入腸炎動物(クローン病等のモデル動物)に、本発明の水酸化脂肪酸を投与した場合の、便の変化、体重の変化等を確認することができる。あるいは、後述の実施例に記載するように、小腸上皮モデルとして汎用されるヒト消化管上皮細胞株Caco-2細胞に、TNF-α及び/又はIFN-γのようなサイトカインで外部刺激を与えて、当該細胞を損傷させ、本発明の水酸化脂肪酸を投与した場合の、経上皮電気抵抗(TER)値、IL-8のようなサイトカインの発現量、又はタイトジャンクション関連因子の発現量を測定する等があげられるが、これらの方法に限定されない。タイトジャンクション関連因子とは、ZO−1、Occludin、Claudin、MLCK(myosin light chain kinase)等公知、及び/又は未知の因子も含まれる。当該因子の発現量の測定は、リアルタイムPCR、ELISA法等、自体公知の方法により測定することができる。
本発明において「腸管保護」効果を有する、「腸管バリア機能の損傷を予防又は改善する」とは、上記いずれかの手法の少なくとも1つによる腸管バリア機能の評価が、被検水酸化脂肪酸の投与により有意に改善されることを意味する。
【0017】
「本発明の水酸化脂肪酸」とは、10位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「10-hydroxy脂肪酸」と略記する場合がある)、又は12位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「12-hydroxy脂肪酸」と略記する場合がある)をいう。ここで、10位及び12位に水酸基を有する「10,12-dihydroxy脂肪酸」も、「10-hydroxy脂肪酸」、「12-hydroxy脂肪酸」の一態様として包含される。さらに、10位に水酸基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「10-hydroxy,cis-12脂肪酸」と略記する場合がある)、10位に水酸基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「10-hydroxy,trans-11脂肪酸」と略記する場合がある)、10位に水酸基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「10-hydroxy,11,12-飽和化脂肪酸」と略記する場合がある)も含まれる。
より具体的には、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸(HYA)、10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「αHYA」ともいう)、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸(以下、「γHYA」ともいう)、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(以下、「sHYA」ともいう)、10,12-ジヒドロキシオクタデカン酸(以下、「rHYA」ともいう)、10-ヒドロキシオクタデカン酸(以下、「HYB」ともいう)、10-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸(以下、「αHYB」ともいう)、10-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸(以下、「γHYB」ともいう)、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「sHYB」ともいう)、12-ヒドロキシオクタデカン酸(以下、「rHYB」ともいう)、リシノール酸(以下、「RA」ともいう)、10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸(以下、「HYC」ともいう)、10-ヒドロキシ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「αHYC」ともいう)、10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸(以下、「γHYC」ともいう)、10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸(以下、「sHYC」ともいう)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
「本発明の水酸化不飽和脂肪酸」とは、「本発明の水酸化脂肪酸」のうち、1以上の不飽和結合を有するものであれば特に制限されないが、好ましくは、特定の位置に1ないし3の二重結合を有するもの(例えば、HYA、αHYA、γHYA、sHYA、αHYB、γHYB、sHYB、RA、HYC、αHYC、γHYC、sHYC等)が挙げられる。より好ましくは、12位にシス型二重結合を有するもの(例えば、HYA、αHYA、γHYA、sHYA等)であり、特に好ましくはHYAである。
【0019】
「本発明の水酸化脂肪酸」のうちの一部の脂肪酸は、オキソ脂肪酸を原料又は中間体として得ることができる。本明細書において、オキソ脂肪酸とは、10位又は12位にカルボニル基を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(以下、「10-oxo脂肪酸」、又は「12-oxo脂肪酸」と略記する場合がある)をいう。特に、上記10-hydroxy,trans-11脂肪酸及び10-hydroxy,11,12-飽和化脂肪酸は、それぞれ10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(以下、「10-oxo,trans-11脂肪酸」と略記する場合がある)、及び10位にカルボニル基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18のオキソ脂肪酸(以下、「10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸」と略記する場合がある)を原料として、脱水素酵素反応(後述の反応5、6)により製造され得る。10-oxo,trans-11脂肪酸は、10位にカルボニル基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「10-oxo,cis-12脂肪酸」と略記する場合がある)から、異性化酵素反応(後述の反応3)により製造することができ、10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸は、10-oxo,trans-11脂肪酸から、飽和化酵素反応(後述の反応4)により製造することができる。
より具体的には、本発明の水酸化脂肪酸の製造原料もしくは中間体として、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸(「KetoA」ともいう)、10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「αKetoA」ともいう)、10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸(以下、「γKetoA」ともいう)、10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(以下、「sKetoA」ともいう)等の10-oxo,cis-12脂肪酸、10-オキソオクタデカン酸(「KetoB」ともいう)、10-オキソ-シス-6-オクタデセン酸(以下、「γKetoB」ともいう)、10-オキソ-シス-15-オクタデセン酸(以下、「αKetoB」ともいう)、10-オキソ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「sKetoB」ともいう)等の10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸、10-オキソ-トランス-11-オクタデセン酸(「KetoC」ともいう)、10-オキソ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸(以下、「γKetoC」ともいう)、10-オキソ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「αKetoC」ともいう)、10-オキソ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸(以下、「sKetoC」ともいう)等の10-oxo,trans-11脂肪酸などが使用され得る。
【0020】
本発明の水酸化脂肪酸は、特願2012-108928号公報に記載の手法により、又、HYAは、Biochemical and Biophysical Research Communications 416(2011)p.188-193等を参考に、調製することができる。あるいは、RA、rHYB等は市販品を使用することができる。
【0022】
9位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸(以下、「cis-9不飽和脂肪酸」と略記する場合がある)から、2段階の反応により、10-oxo脂肪酸を製造する。第1の反応(反応1)では、cis-9不飽和脂肪酸から、水和酵素反応により10-hydroxy脂肪酸が生成する。
反応1の「基質」は、9位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸であれば特に制限されず、例えばモノエン酸(18:1)、ジエン酸(18:2)、トリエン酸(18:3)、テトラエン酸(18:4)、ペンタエン酸(18:5)等が挙げられる。ジエン酸、トリエン酸、又はテトラエン酸がより好ましく、ジエン酸類、又はトリエン酸類が特に好ましい。尚、本明細書において「脂肪酸」という場合、遊離の酸のみならず、エステル体、塩基性化合物との塩等をも包含する。
【0023】
モノエン酸としては、例えば、オレイン酸、リシノール酸等が挙げられる。
ジエン酸としては、例えば、リノール酸、シス-9,トランス-11-オクタデカジエン酸等が挙げられる。
トリエン酸類としては、例えば、α−リノレン酸、γ−リノレン酸等が挙げられる。
テトラエン酸としては、例えば、ステアリドン酸等が挙げられる。
【0024】
反応1を触媒する水和酵素としては、上記のcis-9不飽和脂肪酸を基質として利用し、10-hydroxy脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来の脂肪酸−ヒドラターゼ(CLA-HY)、より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-HYであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-HYである。CLA-HYは、特開2007-259712号公報に記載される方法等により取得することができる。
【0025】
水和酵素の添加量は、例えば、0.001〜10 mg/mL、好ましくは0.1〜5 mg/mL、より好ましくは0.2〜2 mg/mLである。
【0026】
反応1には「補因子」を用いてよく、例えば、NADH、NADPHやFADH
2等を用いることができる。その添加濃度は水和反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20 mM、より好ましくは0.01〜10 mMである。
さらに、酵素反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、モリブデン酸カリウム、モリブデン(VI)酸二ナトリウム無水和物、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物、オルトバナジン(V)酸ナトリウム、メタバナジン(V)酸ナトリウム、タングステン(VI)酸カリウム、タングステン(VI)酸ナトリウム無水和物、及びタングステン(VI)酸ナトリウム二水和物からなる群から選ばれる1又は2以上の化合物が挙げられる。その添加濃度は水和反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.1〜20 mM、より好ましくは1〜10 mMである。
【0027】
例えば、rHYA は、RAに大腸菌で発現させた水和酵素(湿菌体重量 0.7 g)、NADH (33 mg)、FAD (0.8 mg)、リシノール酸(1 g)、BSA(0.2 g)を含む100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を10 mlとし、嫌気的に37℃で63時間、225 rpmで振とう反応することで、得ることができる。
一方、12-hydroxy脂肪酸は、例えば、それを構成脂肪酸として含むトリグリセリドエステルを主成分とする天然油から、加水分解により得ることができる。例えば、RAはヒマシ油、rHYBは硬化ヒマシ油の加水分解により得ることができる。
【0029】
第2の反応(反応2)では、10-hydroxy脂肪酸から、脱水素酵素反応又はクロム酸を用いた化学的酸化により、10-oxo脂肪酸が生成する。
【0030】
反応2を触媒する脱水素酵素としては、10-hydroxy脂肪酸を基質として利用し、10-oxo脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来の水酸化脂肪酸−デヒドロゲナーゼ(CLA-DH)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-DHであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-DHである。CLA-DHは、特開2007-259712号公報に記載される方法等により取得することができる。
【0031】
脱水素酵素の添加量は、例えば、0.001〜10 mg/mL、好ましくは0.1〜5 mg/mL、より好ましくは0.2〜2 mg/mLである。
【0032】
反応2には「補因子」を用いてよく、例えば、NAD、NADPやFAD等を用いることができる。その添加濃度は酸化反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20 mM、より好ましくは0.01〜10 mMである。
さらに、酵素反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、上記反応1で例示されたのと同様の化合物を、同様の添加濃度で使用することができる。
【0033】
また、第2の反応は化学的酸化により行うことができる。
化学的酸化としては、自体公知の方法、例えばクロム酸酸化、好ましくはジョーンズ酸化等が挙げられる。クロム酸としては、無水クロム酸CrO
3、クロム酸H
2CrO
4、二クロム酸H
2Cr
2O
7といった化合物の塩や錯体を使用することができる。
【0035】
10位にカルボニル基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸から、異性化酵素反応(反応3)により、10-oxo,trans-11脂肪酸を製造する。
反応3の「基質」としては、上記反応1及び2により、9位及び12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸から誘導される10-oxo,cis-12脂肪酸であれば特に制限されず、リノール酸から誘導されるKetoA、α−リノレン酸から誘導されるαKetoA、γ−リノレン酸から誘導されるγKetoA、ステアリドン酸から誘導されるsKetoA等が挙げられる。当該基質は反応1及び2以外の方法により得られたものであってもよい。
【0036】
反応3を触媒する異性化酵素としては、上記の10-oxo,cis-12脂肪酸を基質として利用し、10-oxo,trans-11脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来のオキソ脂肪酸−イソメラーゼ(CLA-DC)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-DCであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-DCである。CLA-DCは、特開2007-259712号公報に記載される方法により取得することができる。
【0037】
異性化酵素の添加量は、例えば、0.001〜10 mg/mL、好ましくは0.1〜5 mg/mL、より好ましくは0.2〜2 mg/mLである。
【0038】
異性化酵素反応には「活性化剤」を用いてよく、例えば、上記反応1で例示されたのと同様の化合物を、同様の添加濃度で使用することができる。
【0040】
10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(10-oxo,trans-11脂肪酸)から、飽和化酵素反応(反応4)により、10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸を製造する。
反応4の「基質」としては、上記反応3により生成し得る10-oxo,trans-11脂肪酸であれば特に制限されず、KetoAから誘導されるKetoC、αKetoAから誘導されるαKetoC、γKetoAから誘導されるγKetoC、sKetoAから誘導されるsKetoC等が挙げられる。当該基質は反応3以外の方法により得られたものであってもよい。
【0041】
反応4を触媒する飽和化酵素としては、上記の10-oxo,trans-11脂肪酸を基質として利用し、10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来のオキソ脂肪酸−エノンレダクターゼ(CLA-ER)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-ERであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-ERである。
【0042】
上記酵素「CLA-ER」は、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質、
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ上記反応4を触媒する酵素活性を有するタンパク質、あるいは
(c)配列番号1に示される塩基配列の相補鎖配列からなる核酸と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によってコードされ、かつ上記反応4を触媒する酵素活性を有するタンパク質である。
【0043】
上記(b)に関し、より具体的には、(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又は(v)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。性質の似たアミノ酸(例えば、グリシンとアラニン、バリンとロイシンとイソロイシン、セリンとトレオニン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、リシンとアルギニン、システインとメチオニン、フェニルアラニンとチロシン等)同士の置換等であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。
上記のようにアミノ酸が欠失、置換又は挿入されている場合、その欠失、置換、挿入の位置は、上記酵素活性が保持される限り、特に限定されない。
【0044】
上記(c)において「ストリンジェントな条件」とは、同一性が高いヌクレオチド配列同士、例えば70、80、90、95又は99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いヌクレオチド配列同士がハイブリダイズしない条件、具体的には通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1xSSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1xSSC、0.1%SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1xSSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件等が挙げられる。
【0045】
CLA-ERは、例えば、L.プランタルムFERM BP-10549株の菌体や培養液から、例えば上記反応4を触媒する酵素活性を指標にして、単離することができる。あるいは、配列番号1に示される塩基配列情報をもとにして、CLA-ERのコード領域の全塩基配列を合成するか、あるいは該コード領域を含むCLA-ER遺伝子断片を増幅できるプライマーを設計し、上記菌株から調製したcDNAもしくはゲノムDNAを鋳型としたPCRを実施し、得られた増幅断片を適当な発現ベクターにクローニングして宿主細胞に導入し、該細胞を培養することによって、組換え生産することもできる。
【0046】
上記CLA-ERをコードする核酸を含むベクターは、目的(例えば、タンパク質の発現)に応じて、ベクターを導入する宿主細胞に適したものを適宜選択し、使用することができる。当該ベクターは適切なプロモーター、転写終結シグナル、選択マーカー遺伝子(薬剤耐性遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)も含むこともできる。また、発現したタンパク質の分離・精製に有用なタグ配列をコードする配列等を含んでもよい。あるいは、ベクターは、対象宿主細胞のゲノムに組み込まれるものであってもよい。そして、当該ベクターは、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法等、自体公知の形質転換法で、対象宿主細胞内に導入することができる。
【0047】
上記「宿主細胞」は、上記CLA-ERをコードする核酸を含むベクターを発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌及び高等真核細胞等が挙げられる。細菌の例としては、バチルス又はストレプトマイセス等のグラム陽性菌又は大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられる。CLA-ERをコードする核酸を含むベクターが導入された組換え細胞は、宿主細胞に適した自体公知の方法により培養することができる。
【0048】
上記CLA-ERの「精製」は、自体公知の方法、例えば、遠心分離等で集菌した菌体を、超音波又はガラスビーズ等で摩砕した後、遠心分離等により細胞片等の固形物を除き、粗酵素液を調製し、さらに、硫安、硫酸ナトリウム等による塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニテイクロマトグラフィー等のクロマトグラフ法、ゲル電気泳動法等を用いることができる。
【0049】
飽和化酵素の添加量は、例えば、0.001〜10 mg/mL、好ましくは0.1〜5 mg/mL、より好ましくは0.2〜2 mg/mLである。
【0050】
反応4には「補因子」を用いてよく、例えば、NADH等を用いることができる。その添加濃度は酸化反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20 mM、より好ましくは0.01〜10 mMである。
さらに、酵素反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、上記反応1で例示されたのと同様の化合物を、同様の添加濃度で使用することができる。
【0052】
10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(10-oxo,trans-11脂肪酸)から、脱水素酵素反応(反応5)により、10-hydroxy,trans-11脂肪酸を製造、あるいは、10位にカルボニル基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18のオキソ脂肪酸(10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸)から、脱水素酵素反応(反応6)により、10-hydroxy,11,12-飽和化脂肪酸を製造する。
反応5の「基質」としては、上記反応3により生成し得る10-oxo,trans-11脂肪酸であれば特に制限されず、KetoAから誘導されるKetoC、αKetoAから誘導されるαKetoC、γKetoAから誘導されるγKetoC、sKetoAから誘導されるsKetoC等が挙げられる。当該基質は反応3以外の方法により得られたものであってもよい。
一方、反応6の「基質」としては、上記反応4により生成し得る10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸であれば特に制限されず、KetoCから誘導されるKetoB、αKetoCから誘導されるαKetoB、γKetoCから誘導されるγKetoB、sKetoCから誘導されるsKetoB等が挙げられる。当該基質は反応4以外の方法により得られたものであってもよい。
【0053】
反応5又は反応6を触媒する脱水素酵素としては、10-oxo,trans-11脂肪酸又は10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸を基質として利用し、10-hydroxy,trans-11脂肪酸又は10-hydroxy,11,12-飽和化脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来の水酸化脂肪酸−デヒドロゲナーゼ(CLA-DH)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-DHであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-DHである。CLA-DHは、上記反応2における酸化反応を触媒するが、逆反応として、反応5又は反応6の還元反応を触媒することもできる。
【0054】
脱水素酵素の添加量は、例えば、0.001〜10 mg/mL、好ましくは0.1〜5 mg/mL、より好ましくは0.2〜2 mg/mLである。
【0055】
反応5及び反応6には「補因子」を用いてよく、例えば、NADH、NADPHやFADH
2等を用いることができる。その添加濃度は還元反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20 mM、より好ましくは0.01〜10 mMである。
さらに、酵素反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、上記反応1で例示されたのと同様の化合物を、同様の添加濃度で使用することができる。
【0056】
上記各反応において、酵素(水和酵素、脱水素酵素、異性化酵素、飽和化酵素)は、それをコードする核酸を含む発現ベクターが導入された組換え細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等)の形態で反応系に提供される。この場合、当該細胞の培養に適した液体培地に、基質及び必要に応じて補因子や活性化剤を添加して、当該細胞を培養することにより、反応を行うこともできる。また、上記酵素はいずれも、精製されたものであっても、粗精製されたものであってもよい。あるいは、大腸菌等の菌体に発現させ、その菌体自体を用いても、培養液を用いてもよい。さらには、該酵素は遊離型のものでもよく、各種担体によって固定化されたものでもよい。
【0057】
本発明の水酸化脂肪酸を含む腸管保護剤は、腸管バリア機能の損傷又はそれに起因する疾患に適用することができる。腸管バリア機能の損傷に起因する疾患とは、例えば、炎症性腸疾患(代表例がクローン病、潰瘍性大腸炎)、潰瘍、腸過敏性症候群の病態が挙げられるが、これらに限定されない。
腸管バリア機能の損傷を起こす原因は、例えば、ストレス、手術等の外科的要因、薬物、毒素などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
本発明の腸管保護剤は、ヒト、又はヒト以外の温血動物(例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、ウシ、ニワトリ、インコ、九官鳥、ヤギ、ウマ、ヒツジ、サル等)に投与し、腸管バリア機能の損傷に起因する疾患を予防又は治療するために、使用することができる。
【0059】
本発明の水酸化脂肪酸を含む腸管保護剤は、例えば、医薬品、食品、飼料等として、あるいはそれらに配合して使用することができる。
当該医薬品の剤型としては、散剤、顆粒剤、丸剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、粘付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製されるが、水酸化脂肪酸等は水に難溶性であるため、植物性油、動物性油等の非親水性有機溶媒に溶解するか又は、乳化剤、分散剤もしくは界面活性剤等とともに、ホモジナイザー(高圧ホモジナイザー)を用いて水溶液中に分散、乳化させて用いる。
【0060】
製剤化のために用いることができる添加剤には、例えば大豆油、サフラー油、オリーブ油、胚芽油、ひまわり油、牛脂、いわし油等の動植物性油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、精製水、乳糖、デンプン、結晶セルロース、D−マンニトール、レシチン、アラビアガム、ソルビトール液、糖液等の賦形剤、甘味料、着色料、pH調整剤、香料、各種アミノ酸等を挙げることができる。なお、液体製剤は、服用時に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしても良い。
【0061】
注射剤の形で投与する場合には、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮、関節内、滑液嚢内、胞膜内、骨膜内、舌下、口腔内等に投与することが好ましく、特に静脈内投与又は腹腔内投与が好ましい。静脈内投与は、点滴投与、ボーラス投与のいずれであってもよい。
【0062】
本発明の腸管保護剤を食品もしくは食品添加物として使用する場合、当該食品は、溶液、懸濁物、粉末、固体成形物等、経摂取可能な形態であればよく、特に限定するものではない。具体例としては、サプリメント(散剤、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤等)、飲料(炭酸飲料、乳酸飲料、スポーツ飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料等)、菓子(グミ、ゼリー、ガム、チョコレート、クッキー、キャンデー、キャラメル、和菓子、スナック菓子等)、即席食品類(即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品等)、油、油脂食品(マヨネーズ、ドレッシング、バター、クリーム、マーガリン等)、小麦粉製品(パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉等)、調味料(ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、つゆ類等)、畜産加工品(畜肉ハム・ソーセージ等)が挙げられる。
【0063】
上記食品には、必要に応じて各種栄養素、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等)、各種ミネラル類(マグネシウム、亜鉛、鉄、ナトリウム、カリウム、セレン等)、食物繊維、分散剤、乳化剤等の安定剤、甘味料、呈味成分(クエン酸、リンゴ酸等)、フレーバー、ローヤルゼリー、プロポリス、アガリクス等を配合することができる。
【0064】
本発明の腸管保護剤を飼料もしくは飼料添加物として使用する場合、当該飼料としては、ペットフード、動物又は水産養殖飼料添加物等が挙げられる。
【0065】
本発明の医薬品、食品、飼料等に配合される本発明の水酸化脂肪酸は、1種類のみであってもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の医薬品の投与量又は本発明の食品の摂取量は、患者又は摂取者の年齢及び体重、症状、投与時間、剤型、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して適宜決定できる。例えば、本発明の医薬品を経口投与する場合、有効成分である本発明の水酸化脂肪酸の総量として、成人1日当たり0.02〜100mg/kg体重、好ましくは0.2〜50mg/kg体重の範囲で、また、非経口的に投与する場合は0.002mg〜50mg/kg体重、好ましくは0.02〜50mg/kg体重の範囲で、一日1回もしくは数回(2〜5回)に分けて投与することができる。また、食品として摂取する場合には、有効成分である本発明の水酸化脂肪酸の総量が、成人1人1日当たり1〜6000mgの範囲、好ましくは10〜3000mgの範囲の摂取量となるように、食品に配合することができる。本発明の飼料の摂取量についても、それぞれ上記食品の摂取量及び上記医薬品の投与量に準じて適宜決定することができる。
【0066】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示にすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0067】
細胞及び試薬
Caco-2細胞:ATCCでの受託番号HTB-37、40〜60代継代したものを使用した。
培地:10%牛胎子血清、1%非必須アミノ酸、100 IU/mLペニシリン、100 μg/mLストレプトマイシン、及び50 μg/mLゲンタマイシン含有ダルベッコ改変イーグル培地(培地及び添加物はいずれもLife Technologies製)
Caco-2細胞の調製
75 cm
2の組織培養フラスコにCaco-2細胞を入れ、約80%のコンフルエンスになるまで、37℃で培養した。当該細胞を、12穴トランズウェル(Transwell(登録商標))細胞培養チャンバー(透過性膜;直径12mm、孔径0.4μm)に、2×10
5 cells/cm
2の細胞濃度で接種し、5% CO
2雰囲気下、37℃にて14日間培養しCaco-2単層細胞を得た。さらに、タイトジャンクションが充分に形成されているか否かを検証するため、経上皮電気抵抗(TER)が約900〜1,000Ω・cm
2以上のCaco-2単層細胞をアッセイに用いた。各ウェルはクラスタープレート上に設置し、外側培養液(基底側、1.5 mL)及び内側培養液(管腔側、0.5 mL)を満たした。48時間毎に新鮮な培地に交換してCaco-2単層細胞を培養した。
【0068】
刺激剤及び被検脂肪酸液の添加
上述の方法で調製したCaco-2単層細胞の各ウェルの内側培養液に、HYA、HYB、KetoA、KetoBまたはKetoC、各々50 μM濃度の溶液を500 μL添加して24時間培養した。次に、外側培養液に、最終濃度が50 ng/mLになるようにIFN-γを添加して24時間培養後、外側培地を一旦取り除き、50 ng/mLになるようにTNF-αを加え、さらに6時間培養した後、後述の腸管バリア保護効果の評価を行った。その際、被検脂肪酸液無添加でIFN-γ及びTNF-αのみを添加したウェル、若しくは、被検脂肪酸液、IFN-γ及びTNF-αのいずれも添加しないウェル(以下、コントロールともいう)も設けた。
【実施例1】
【0069】
腸管バリア保護効果の比較
被検脂肪酸液による腸管バリア保護効果の比較は、経上皮電気抵抗(TER)値(Ω・cm
2)及びIL-8産生(pg/mL)を指標に行なった。Ag/AgCl電極を用いた抵抗値測定システム(Millicell-ERS、Millipore)を用いて、TNF-αを添加後0、1、2、3、4、5、6時間での各TER値を測定した。さらに、各ウェルのTER値をコントロールのTER値で除してTER相対値(Relative TER)を算出した。各IL-8産生量は、培養後に採取した外側培養液をELISA法に供し、TNF-α添加後6時間の値を測定した。
【0070】
TER相対値の測定結果を
図2A及びBに示す。なお、図は平均±標準誤差(SE)を示す(以下の測定結果においても同様)。Caco-2単層細胞培養系へのIFN-γ及びTNF-αの添加により、TER相対値が減少した。被検脂肪酸液を添加したものにおいては、HYAのみにTER相対値の減少抑制を認めた。また、IL-8の測定結果を
図3Aに示す。Caco-2単層細胞培養系へのIFN-γ及びTNF-αの添加により、培養液中のIL-8濃度が上昇したが、HYAおよびHYBを添加した場合にはIL-8産生抑制を認めた。
【実施例2】
【0071】
タイトジャンクション関連因子の遺伝子発現に対するHYAの効果
上述の実施例同様、HYAを添加して6時間後に、Caco-2単層細胞をPBSで3回洗浄した後、当該細胞からTRIzol(登録商標)(Life Technologies社製)を用いてRNAを抽出した。当該RNAをhigh-capacity cDNA reverse transcription kit (Life Technologies)を用いて逆転写させcDNAを得、KAPA SYBR FAST ABI PRISM qPCR kit (Kapa Biosystems)を用いて、リアルタイムPCR解析を行った。プライマーは、IL-8については配列番号3及び4、Claudin-1については配列番号5及び6、ZO-1については配列番号7及び8、Occludinについては配列番号9及び10、MLCKについては配列番号11及び12でそれぞれ表されるヌクレオチド配列からなるオリゴDNA対を使用した。
【0072】
遺伝子発現解析の結果を
図4に示す。Caco-2単層細胞培養系へのIFN-γ及びTNF-αの添加により、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)のmRNA発現が上昇し、occludinのmRNA発現が低下した。HYAを添加した細胞では、MLCKのmRNA発現の上昇及びoccludinのmRNA発現の低下がともに抑制された。なお、
図3Bに示すように、IFN-γ及びTNF-αの添加により、IL-8のmRNA発現も上昇したが、HYA及びHYBの添加により、当該発現上昇が抑制された。
【実施例3】
【0073】
デキストラン硫酸ナトリウム誘導腸炎モデルマウスに対するHYAの効果
BALB/cマウス (♀, 6週齢)はCharles River Japan (Kanagawa, Japan)から購入し、全ての実験計画は広島大学動物実験等規則に従って行った (No. C10-17)。急性大腸炎は3.5 % (w/v) DSS (分子量36000-50000; MP Biomedicals, Aurora, OH, USA)を5日間、自由飲水させることにより誘導した。HYAおよびHYBの大腸に対する効果を評価するために、マウスにHYAあるいはHYB (各100 nmol)の懸濁液100 μLを経口投与した。この投与はDSS投与前5日間と投与開始後5日間の全10日間、毎日行った。大腸炎の症状評価は、体重減少、糞便の状態および肛門からの出血によって毎日評価した 。5日間のDSS投与後、マウスを屠殺し、大腸長を測定した。その後、大腸組織からRNeasy Mini Kit (Qiagen, Maryland, MD, USA)を用いてRNA抽出を行った。また、大腸組織のパラフィン切片 (7 μm)を作製し、ヘマトキシリン-エオシンによって染色して、組織化学的評価を行った。また、抽出したRNAはhigh-capacity cDNA reverse transcription kit (Life Technologies)を用いて逆転写させcDNAを得、KAPA SYBR FAST ABI PRISM qPCR kit (Kapa Biosystems)を用いて、リアルタイムPCR解析を行った。プライマーは、Claudin-1については配列番号5及び 6、Claudin-3については配列番号13及び14、Claudin-4については配列番号15及び16、ZO-1については配列番号7及び8、ZO-2については配列番号17及び18、Occludinについては配列番号9及び10、MLCKについては、配列番号11及び12でそれぞれ表されるヌクレオチド配列からなるオリゴDNA対を使用した。
【0074】
各処理群マウスについて、経時的な体重変化を
図5に、体重減少量を
図6に、糞便スコアを
図7に、大腸長を
図8に、それぞれ示す。HYAの投与は体重減少量の抑制、糞便スコアの回復および大腸腸の保護に効果的であった。
また、大腸切片の組織化学的評価(H&E染色)の結果を
図9に示す。DSS処理は大腸の上皮細胞の損傷とクリプトの減少を顕著に誘導したが、HYAを投与したマウスでは組織損傷が回復した。
claudin-1, -3, -4, occludin, MLCK, ZO-1およびZO-2のmRNA発現を
図10に示す。DSSマウスは、claudin-1, 3, 4, occludin, ZO-1およびZO-2のmRNA発現異常を有意に誘導した(MLCKは増加傾向であった)。しかし、HYAを経口投与したマウスでは、DSSマウスと比較して、occludinとMLCKのmRNA発現が有意に回復していた。一方、HYBは全てのTJ関連因子の発現異常を回復しなかった。