特許第6241684号(P6241684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241684
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】圧電振動子及び圧電振動装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   H03H9/17 F
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-557877(P2015-557877)
(86)(22)【出願日】2015年1月15日
(86)【国際出願番号】JP2015050991
(87)【国際公開番号】WO2015108125
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2016年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-7088(P2014-7088)
(32)【優先日】2014年1月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-184557(P2014-184557)
(32)【優先日】2014年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】竹山 佳介
(72)【発明者】
【氏名】中村 大佐
(72)【発明者】
【氏名】亀田 英太郎
(72)【発明者】
【氏名】開田 弘明
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/088696(WO,A1)
【文献】 特開2005−151353(JP,A)
【文献】 特開2004−112757(JP,A)
【文献】 特開2011−155363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00− 9/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子であって、
第1の電極及び第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に形成され、前記第1の電極に対向する第1の面を有する圧電膜と、
前記第1の電極を介して前記圧電膜の前記第1の面と対向して形成された、第1の調整膜及び第2の調整膜と、
を備え、
前記第1の調整膜は、前記第1の面のうち、第1の領域と、当該第1の領域と異なる第2の領域において前記圧電膜を覆っており、
前記第2の調整膜は、前記第1の面のうち、前記第2の領域において前記圧電膜を覆っており、
前記第1及び第2の領域により、前記第1の面のほぼ全域が覆われ、
前記第2の領域は、当該圧電振動子の振動時に、前記第1の領域より平均変位が大きい領域であり、
前記第2の調整膜は、エッチングによる質量低減の速度が前記第1の調整膜よりも速い材料からなる、
圧電振動子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電振動子であって、
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記圧電膜は、輪郭振動する矩形状の振動部を形成し、
前記第2の領域は、前記振動部の四隅に対応する領域である、
圧電振動子。
【請求項3】
請求項2に記載の圧電振動子であって、
前記第2の領域の面積は、前記第1の面の面積の略10%以上略50%以下である、
圧電振動子。
【請求項4】
請求項3に記載の圧電振動子であって、
前記第2の領域の面積は、前記第1の面の面積の略30%以上略50%以下である、
圧電振動子。
【請求項5】
請求項3に記載の圧電振動子であって、
前記第2の領域の面積は、前記第1の面の面積の略10%以上略30%以下である、
圧電振動子。
【請求項6】
圧電振動子であって、
第1の電極及び第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に形成され、前記第1の電極に対向する第1の面を有する圧電膜と、
前記第1の電極を介して前記圧電膜の前記第1の面と対向して形成された、第1の調整膜及び第2の調整膜と、
を備え、
前記第1の調整膜は、前記第1の面のうち、少なくとも第1の領域において前記圧電膜を覆っており、
前記第2の調整膜は、前記第1の面のうち、少なくとも前記第1の領域と異なる第2の領域において前記圧電膜を覆っており、
前記第1及び第2の領域により、前記第1の面のほぼ全域が覆われ、
前記第2の領域は、当該圧電振動子の振動時に、前記第1の領域より変位が大きい領域であり、
前記第2の調整膜は、エッチングによる質量低減の速度が前記第1の調整膜よりも速い材料からなり、
前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記圧電膜は、屈曲振動する振動腕を形成し、
前記第2の領域は、前記振動腕の先端近傍の領域である、
圧電振動子。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の圧電振動子と、
前記圧電振動子を覆う蓋体と、
外部電極と、
を備える圧電振動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子及び圧電振動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器において計時機能を実現するためのデバイスとして、圧電振動子が用いられている。電子機器の小型化に伴い、圧電振動子も小型化が要求されており、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造される圧電振動子(以下、「MEMS振動子」という。)が注目されている。
【0003】
MEMS振動子においては、製造ばらつきによって共振周波数にばらつきが生じることがある。そこで、MEMS振動子の製造中や製造後に、追加エッチング等によって周波数を調整することが行われる。
【0004】
例えば、特許文献1には、圧電振動子の電極上に単一材料からなる付加膜を形成し、第1の領域における付加膜の厚さを第2の領域における付加膜の厚さと異ならせることにより、共振周波数を調整する構成が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、複数の振動腕を有する振動子において、振動腕の先端側に設けられた粗調用の質量部と、振動腕の基端側に設けられた微調用の質量部とをそれぞれ減少させることにより、共振周波数を調整する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4930381号明細書
【特許文献2】特開2012−065293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、特許文献1に開示されている構成では、共振周波数を調整するための付加膜は、単一材料により形成されている。従って、領域によって付加膜の厚さを異ならせるためには、ビーム照射等による調整作業を領域ごとに行う必要があるため効率が悪い。
【0008】
また、特許文献2に開示されている構成においても、振動腕の先端側に設けられた粗調用の質量部の除去と、振動腕の基端側に設けられた微調用の質量部の除去とを別々に行う必要があるため効率が悪い。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、圧電振動子における共振周波数の調整を効率よく行うことを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係る圧電振動子は、第1の電極及び第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に形成され、第1の電極に対向する第1の面を有する圧電膜と、第1の電極を介して圧電膜の第1の面と対向して形成された、第1の調整膜及び第2の調整膜と、を備え、第1の調整膜は、第1の面のうち、少なくとも第1の領域において圧電膜と重なっており、第2の調整膜は、第1の面のうち、少なくとも第1の領域と異なる第2の領域において圧電膜と重なっており、第1及び第2の領域により、第1の面のほぼ全域が覆われ、第2の領域は、当該圧電振動子の振動時に、第1の領域より変位が大きい領域であり、第2の調整膜は、エッチングによる質量低減の速度が第1の調整膜よりも速い材料からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧電振動子における共振周波数の調整を効率よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である圧電振動装置の概略構造の一例を示す図である。
図2】圧電振動子120の一例である圧電振動子120Aの斜視図である。
図3】圧電振動子120Aの振動時の変位の大きさを示す図である。
図4A図2示すX−Y線における、圧電振動子120Aの共振周波数調整前の断面の模式図である。
図4B図2示すX−Y線における、圧電振動子120Aの共振周波数調整後の断面の模式図である。
図5】調整膜236の形成位置と共振周波数の変化率との関係の一例を示すシミュレーション結果である。
図6A】調整膜236の形成の一例を示す図である。
図6B】調整膜236の形成の一例を示す図である。
図7】調整膜236の面積と共振周波数の変化率との関係の一例を示すシミュレーション結果である。
図8A】調整膜236の形成の一例を示す図である。
図8B】調整膜236の形成の一例を示す図である。
図8C】調整膜236の形成の一例を示す図である。
図8D】調整膜236の形成の一例を示す図である。
図9】調整膜236の面積と共振周波数の温度特性の変化率との関係の一例を示すシミュレーション結果である。
図10】圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Bの斜視図である。
図11】圧電振動子120のさらに他の例である圧電振動子120Cの斜視図である。
図12A】圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Dの断面の模式図である。
図12B】圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Eの断面の模式図である。
図12C】圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Fの断面の模式図である。
図13】圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Gの構成を示す図である。
図14A】圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Hの構成を示す図である。
図14B】圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Jの構成を示す図である。
図14C】圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Kの構成を示す図である。
図15A】圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Lの断面を示す図である。
図15B】圧電振動子120Lの共振周波数調整後の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態である圧電振動装置の概略構造の一例を示す図である。図1に示すように、圧電振動装置100は、基板110、圧電振動子120、蓋体130、及び外部電極140を含む圧電振動装置である。圧電振動子120は、MEMS技術を用いて製造されるMEMS振動子である。蓋体130は、例えばシリコンにより形成されており、圧電振動子120を覆っている。外部電極140は、圧電振動装置100外部の素子と圧電振動子120とを電気的に接続するための金属電極である。
【0014】
次に、図2図3図4A、及び図4Bを参照して、圧電振動子120の構成例について説明する。図2は、圧電振動子120の一例である圧電振動子120Aの斜視図である。図3は、圧電振動子120Aの振動時の変位の大きさを示す図である。図4Aは、図2示すX−Y線における、圧電振動子120Aの共振周波数調整前の断面の模式図である。図4Bは、図2示すX−Y線における、圧電振動子120Aの共振周波数調整後の断面の模式図である。
【0015】
図2に示すように、圧電振動子120Aは、保持部200及び振動部210を備えている。保持部200及び振動部210は、エッチングを含むMEMSプロセスにより一体的に形成される。振動部210は、例えば、幅及び長さが100〜200μm程度、厚さが10μm程度である。
【0016】
保持部200は、矩形状の振動部210を保持する2つの保持腕220を備える。振動部210は、後述するように、上部電極234及び下部電極232の間の電界に応じて圧電膜233が面内方向において伸縮することにより、輪郭振動する。図3には、振動部210における、振動時の変位の大きさが示されている。具体的には、最大の変位量に対する変位の大きさの割合(%)が示されている。図3に示すように、振動部210の四隅は変位が大きく、振動部210の中心に近づくに従って変位が小さくなっている。
【0017】
図4Aに示すように、振動部210は、シリコン酸化物層230、シリコン層231、下部電極232、圧電膜233、上部電極234、調整膜235、及び調整膜236が積層された構造となっている。なお、調整膜235,236は、圧電膜233の上部電極234側の面(第1の面)と対向して形成されている。
【0018】
シリコン酸化物層230は、例えばSiO等のシリコン酸化物により形成される。シリコン酸化物は、ある温度範囲における周波数温度特性の変化がシリコンとは逆である。従って、振動部210にシリコン酸化物層230を形成することにより、シリコン層231の周波数特性の変化が、シリコン酸化物層230の周波数特性の変化によって相殺される。これにより、周波数温度特性を向上させることが可能となる。
【0019】
シリコン層231は、シリコンにより形成される。なお、シリコン層231は、例えば、n型ドーパント(ドナー)としてリン(P)やヒ素(As)、アンチモン(Sb)を含むことができる。また、シリコン層231は、p型ドーパント(アクセプタ)を含むものでもよい。そして、シリコン層231は、このようなドーパントが1×1019cm−3以上注入された縮退半導体であってもよい。
【0020】
上部電極234及び下部電極232は、金属電極である。上部電極234及び下部電極232は、例えば、モリブデン(Mo)やアルミニウム(Al)を用いて形成される。なお、シリコン層231が縮退半導体である場合、下部電極232を設けずに、シリコン層231を下部電極として機能させてもよい。
【0021】
圧電膜233は、印加される電圧を振動に変換する圧電体の薄膜である。圧電膜233は、例えば、窒化アルミニウムを主成分とすることができる。具体的には、例えば、圧電膜233は、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)により形成することができる。ScAlNは、窒化アルミニウム(AlN)におけるアルミニウム(Al)の一部をスカンジウム(Ac)に置換したものである。例えば、圧電膜233に用いるScAlNは、Alの原子数とScの原子数を合計した原子濃度を100原子%としたときに、Scが40原子%程度となるようにAlをScに置換したものとすることができる。
【0022】
調整膜235(第1の調整膜)は、圧電振動子120Aの共振周波数を調整するための膜である。調整膜235は、エッチングによる質量低減の速度が調整膜236より遅い材料により形成される。例えば、調整膜235は、AlN等の窒化膜やSiO等の酸化膜により形成される。なお、質量低減速度は、エッチング速度(単位時間あたりに除去される厚み)と密度との積により表される。
【0023】
調整膜236(第2の調整膜)は、圧電振動子120Aの共振周波数を調整するための膜である。調整膜236は、エッチングによる質量低減の速度が調整膜235より速い材料により形成される。例えば、調整膜236は、Moやタングステン(W)や金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)等の金属により形成される。
【0024】
なお、調整膜235,236は、質量低減速度の関係が上述のとおりであれば、エッチング速度の大小関係は任意である。
【0025】
図2及び図3に示すように、調整膜236は、振動部210における変位の比較的大きい領域(第2の領域)において露出するように形成されている。具体的には、調整膜236は、振動部210の四隅に対応する領域において露出するように形成されている。また、調整膜235は、その他の領域(第1の領域)において露出するように形成されている。
【0026】
なお、調整膜236が露出する領域内の全ての点における変位が、調整膜235が露出する領域内の全ての点における変位より大きい必要はない。例えば、各領域における変位の大小は、各領域の変位の平均値により判断してもよい。従って、例えば、調整膜236が露出する領域内のある点の変位が、調整膜235が露出する領域内のある点の変位より小さくてもよい。
【0027】
図4Bに示すように、振動部210の上方から、調整膜235及び調整膜236に同時にイオンビーム(例えばアルゴン(Ar)イオンビーム)を照射することにより、調整膜235,236がエッチングされる。イオンビームは圧電振動子120Aよりも広い範囲に照射することが可能である。なお、本実施形態では、イオンビームによりエッチングを行う例を示すが、エッチング方法は、イオンビームによるものに限られない。
【0028】
圧電振動子120Aの共振周波数を決定する主な要素として、質量とバネ定数がある。調整膜235,236のエッチングにより、質量の低減とバネ定数の低下が同時に発生する。質量の低減は共振周波数を上昇させ、バネ定数の低下は共振周波数を低下させる。ただし、変位の大きな領域では相対的に質量の影響が強く、変位の低い領域では相対的にバネ定数の影響が強くなる。
【0029】
圧電振動子120Aにおいては、変位の比較的大きい領域において露出するように、調整膜236が形成されている。上述のとおり、イオンビームによる質量低減速度は、調整膜235よりも調整膜236の方が速い。そのため、変位の比較的大きい領域の質量が速く低減する。これにより、共振周波数を上昇させることができる。なお、調整膜236と同時に調整膜235の露出した部分もエッチングされるが、質量の低減速度が調整膜236よりも遅いため、バネ定数の変化量は小さい。従って、バネ定数の変化に伴う共振周波数の低下の影響は小さい。従って、圧電振動子120Aにおいては、調整膜235,236に同時にイオンビームを照射することにより、効率的に共振周波数を調整することが可能となる。
【0030】
また、共振周波数の温度特性はバネ定数の変化による影響を受ける。しかしながら、圧電振動子120Aにおいては、上述のとおり、バネ定数の変化量が小さいため、共振周波数の温度特性の変化を低減することが可能となる。
【0031】
図5は、調整膜236の形成位置と共振周波数の変化率との関係の一例を示すシミュレーション結果である。なお、本実施形態において示すシミュレーション結果は、調整膜235をAlN、調整膜236をMoとした場合のものである。図5において、横軸は調整膜236の形成位置、縦軸は共振周波数の変化率を表している。なお、調整膜236の形成位置は、保持腕220を結ぶ中心線からの相対位置を割合で示したものである。また、共振周波数の変化率は、調整膜236の形成位置が100%(即ち、図6Bに示す場合)における周波数変化量に対する割合である。いずれの形成位置の場合も調整膜236の形状は同一である。
【0032】
図5のA点は、図6Aに示すように調整膜236を形成した場合のシミュレーション結果である。この場合、共振周波数の変化率はマイナスになっている。これは、調整膜236が露出する領域の変位が他の領域より比較的小さいため、調整膜236の質量低減に伴うバネ定数の低下が大きくなったためである。
【0033】
図5のD点は、図6Bに示すように調整膜236を形成した場合のシミュレーション結果である。この場合、調整膜236が露出する領域の変位が他の領域より比較的大きいため、調整膜236の質量低減による周波数変化率が大きくなっている。
【0034】
このように、図5に示すシミュレーション結果からも、調整膜235が露出する領域よりも調整膜236が露出する領域の変位が大きくなるように調整膜235,236を形成することにより、圧電振動子120Aにおける共振周波数の調整を効率的に行うことが可能となることがわかる。
【0035】
図7は、調整膜236の面積(露出面積)と共振周波数の変化率との関係の一例を示すシミュレーション結果である。図7において、横軸は調整膜236の面積比、縦軸は共振周波数の変化率を表している。なお、調整膜236の面積比は、振動部210の表面の平面積に対する調整膜236の面積(露出面積)を割合で示したものである。また、共振周波数の変化率は、調整膜236の面積比が100%(即ち、図8Dに示す場合)における周波数変化量に対する割合である。
【0036】
図7に示すA〜D点は、それぞれ、図8A図8Dに示すように調整膜236を形成した場合のシミュレーション結果である。図7に示すように、調整膜236の面積比を略30%以上とすることにより、図8Dに示すように調整膜236を全面に形成した場合よりも周波数変化率を大きくすることができる。
【0037】
図9は、調整膜236の面積(露出面積)と共振周波数の温度特性の変化率との関係の一例を示すシミュレーション結果である。図9において、横軸は調整膜236の面積比、縦軸は共振周波数の温度特性(1次係数)の変化率を表している。なお、調整膜236の面積比は、図7の場合と同様である。また、共振周波数の温度特性の変化率は、調整膜236の面積比が100%(即ち、図8Dに示す場合)における温度特性の1次係数に対する割合である。
【0038】
図9に示すA〜D点は、それぞれ、図8A図8Dに示すように調整膜236を形成した場合のシミュレーション結果である。図9に示すように、調整膜236の面積比が略50%以下とすることにより、共振周波数の温度特性の変化率を50%以下に抑えることができる。望ましくは、調整膜236の面積比を、略10%以上略50%以下とすることにより、図8Dに示すように調整膜236を全面に形成した場合と比較して、大幅に周波数変化率を低下させることなく周波数を調整しつつ、共振周波数の温度特性の変化率を抑えることができる。
【0039】
図7及び図9のシミュレーション結果によれば、調整膜236の面積比を略30%以上略50%以下とすることにより、共振周波数の調整を効率よく行うことが可能になるとともに、共振周波数の温度特性の変化を抑制することが可能となる。もしくは、調整膜236の面積比を略10%以上略30%以下とすることにより、共振周波数の温度特性の変化を微小量に抑制しつつ、共振周波数の調整を行うことが可能となる。この面積比は、必要となる圧電振動子の特性に応じて、適宜選択すれば良い。
【0040】
図10は、圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Bの斜視図である。また、図11は、圧電振動子120のさらに他の例である圧電振動子120Cの斜視図である。なお、圧電振動子120Aと同等の構成要素には同等の符号を付して説明を省略する。圧電振動子120B,120Cは、調整膜236の形状が異なる点を除き、圧電振動子120Aと同等の構成を有している。このように、調整膜236の形状は、図2に示したような矩形状に限られず、任意の形状とすることができる。図3に示したように、振動部210の変位は曲線的に変化する。従って、振動部210の変位に合わせて調整膜236を図10又は図11に示す形状とすることにより、共振周波数の調整をより効率的に行うことが可能となる。なお、図11に示す構成においては、振動部210の長手方向において調整膜236が分離していないため、調整膜236の密着強度を高めることが可能となる。
【0041】
図12A図12Cは、圧電振動子120の他の例である圧電振動子120D〜120Fの断面の模式図である。なお、圧電振動子120Aと同等の構成要素には同等の符号を付して説明を省略する。
【0042】
図12Aに示す圧電振動子120Dにおいては、調整膜235は、振動部210の上部電極234の全面ではなく一部を覆うように形成されている。また、図12Bに示す圧電振動子120Eにおいては、振動部210の圧電膜233の全面を覆うように調整膜236が形成され、調整膜236の表面の一部に、調整膜235が形成されている。なお、圧電振動子120Eは上部電極234を有さず、調整膜236が上部電極として機能する。また、図12Cに示す圧電振動子120Fにおいては、調整膜235,調整膜236は、圧電膜233の下部電極232側の面(第1の面)と対向して形成されている。
【0043】
このように、調整膜235,236は、振動部210の上面又は下面のほぼ全域が覆われ、調整膜235が露出する領域の変位よりも調整膜236が露出する領域の変位の方が大きくなるように形成されればよい。
【0044】
なお、図12Bに示すように、調整膜236を上部電極として用いることにより、製造プロセスを簡略化することができる。また、調整膜236が上部電極から剥がれることを防止することができる。
【0045】
また、図12Cに示すように、調整膜235,236を圧電膜233の下部電極232側の面と対向して形成することにより、調整膜235,236をエッチングしすぎた場合に圧電膜233がエッチングされることを防止することができる。
【0046】
図13は、圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Gの構成を示す図である。なお、圧電振動子120Aと同等の要素については同等の符号を付して説明を省略する。圧電振動子120Gは、圧電振動子120Aの振動部210と同等の振動部210A〜210Eが連接して形成されたものである。圧電振動子120Gにおいては、隣接する振動部同士が互いに逆位相で振動することにより、全体として輪郭振動する。このような圧電振動子120Gにおいても、圧電振動子120Aと同様に調整膜235,236を形成することにより、共振周波数を効率よく調整することが可能となる。
【0047】
なお、図13に示した調整膜236の配置は一例であり、これに限られない。図14A図14B図14Cには、調整膜236の配置の他の例が示されている。図14A図14B図14Cにおいては、調整膜236は、圧電振動子120(120H、120J、120K)の短辺方向に連続して形成されている。このように調整膜235,236を形成することにより、共振周波数を効率良く調整することが可能となる。なお、図14A図14B図14Cにおいては、簡略化のため、図13に示した保持部200の図示は省略されている。
【0048】
また、図14Cに示す圧電振動子120Kにおいては、導電性の調整膜236の端部が、振動部210の外周部より内側に形成されている。これにより、調整膜236が、振動部210の外周部において上部電極または下部電極と短絡することによる、特性劣化を抑制することが可能となる。
【0049】
図15Aは、圧電振動子120の他の例である圧電振動子120Lの断面を示す図である。なお、圧電振動子120Aと同等の要素については同等の符号を付して説明を省略する。圧電振動子120Lは、複数の振動腕を有する屈曲振動型の振動子である。図15Aは、1つの振動腕の断面を示している。圧電振動子120Lは、基部300及び振動腕310を有する。基部300は、シリコン320、SiO230、シリコン層231、下部電極232、圧電膜233、上部電極234、及び調整膜235から構成されている。基部300及び振動腕310における積層構造は、シリコン320以外は圧電振動子120Aと同様であるため説明を省略する。このような圧電振動子120Lにおいては、振動腕310の先端近傍が比較的変位の大きい領域である。そのため、圧電振動子120Lの上面側で、振動腕310の先端近傍において調整膜236が露出し、その他の領域において調整膜235が露出するように、調整膜235,236が形成されている。なお、調整膜235,236は、圧電振動子120Lの上面のほぼ全域を覆っている。
【0050】
圧電振動子120Lにおいては、図15Bに示すように、調整膜235,236に同時にイオンビームを照射することにより、調整膜235,236がエッチングされる。これにより、圧電振動子120Aの場合と同様に、共振周波数を効率よく調整することが可能となる。
【0051】
また、圧電振動子120Lにおいては、図15Bに示すように、調整膜235,236の境界330において、調整膜235の段差が形成される。これにより、振動腕310が屈曲振動する際に境界330に生じる応力によって、調整膜236が剥がれることを抑制することが可能となる。
【0052】
なお、屈曲型の振動子における調整膜235,236の形成態様は、図15Aに示すものに限られない。例えば、図12A図12Cに示した例と同様に、様々な形成態様を採用することが可能である。
【0053】
以上、本実施形態について説明した。各実施形態においては、調整膜235,236は、圧電膜233の第1の面と対向して形成されている。そして、調整膜235,236により、当該第1の面のほぼ全域が覆われる。また、調整膜236が露出する領域は、調整膜235が露出する領域よりも、圧電振動子120の振動時における変位が大きい。さらに、エッチングによる質量低減の速度は、調整膜235より調整膜236の方が速い。このような構成を有する圧電振動子120においては、調整膜235,236が同時にエッチングされると、調整膜236の質量低減が比較的大きくなるため、共振周波数を効率よく調整することが可能となる。
【0054】
また、調整膜235,236によって上記第1の面のほぼ全域が覆われているため、振動部210における調整膜235,236以外の領域がエッチングにより除去されることを防ぐことが可能となる。
【0055】
また、輪郭振動型の圧電振動子120Aにおいて、上記調整膜235,236を形成することにより、共振周波数を効率よく調整することが可能となる。
【0056】
また、調整膜236が露出する面積を、上記表面の略30%以上略50%以下とすることにより、共振周波数の調整を効率よく行うことが可能になるとともに、共振周波数の温度特性の変化を抑制することが可能となる。
【0057】
また、調整膜236が露出する面積を、上記表面の略10%以上略30%以下とすることにより、共振周波数の温度特性の変化を微小量に抑制しつつ、共振周波数の調整を行うことが可能となる。
【0058】
また、屈曲振動型の圧電振動子120Lにおいて、上記調整膜235,236を形成することにより、共振周波数を効率よく調整することが可能となる。
【0059】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るととともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0060】
100 圧電振動装置
110 基板
120 圧電振動子
130 蓋体
140 外部電極
200 保持部
210 振動部
220 保持腕
230 シリコン酸化物層
231 シリコン層
232 下部電極
233 圧電膜
234 上部電極
235,236 調整膜
300 基部
310 振動腕
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B