特許第6241702号(P6241702)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241702
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】メカノクロミック材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 9/02 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   C09K9/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-203406(P2012-203406)
(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公開番号】特開2014-58606(P2014-58606A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年9月3日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.第61回高分子年次大会(2012)講演予稿集61巻1号284頁 2.第61回高分子年次大会(2012)講演予稿集61巻1号286頁 3.日本ゴム協会2012年年次大会 講演予稿集 4.第61回高分子学会討論会(2012)講演予稿集61巻1号3230頁、第61回高分子学会討論会(2012)の記者発表要旨(ウェブサイトのアドレスhttp://www.spsj.or.jp/koho/61T_t..pdf) 5.第61回高分子学会討論会(2012)講演予稿集61巻2号3264頁
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】大塚 英幸
(72)【発明者】
【氏名】高原 淳
(72)【発明者】
【氏名】金原 武志
(72)【発明者】
【氏名】今任 景一
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−510362(JP,A)
【文献】 特開平06−041110(JP,A)
【文献】 特開平06−041109(JP,A)
【文献】 特開平06−287185(JP,A)
【文献】 特開平06−207041(JP,A)
【文献】 特開平06−199826(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/070913(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0086924(US,A1)
【文献】 Angewandte Chemie,International Edition,2012,Vol.51,No.5,p.1138−1142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 9/00− 11/89
C08G 18/00− 18/87
C08G 63/00− 63/91
C07D201/00−521/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表されるジアリールビベンゾフラノン構造が部位Xを介してウレタン結合またはエステル結合しているウレタン構造またはエステル構造を繰り返し単位とするポリマーから構成されることを特徴とするメカノクロミック材料。
【化1】
【請求項2】
次の式(2)で表されるウレタン構造を繰り返し単位とするポリマーから構成されることを特徴とする請求項1に記載のメカノクロミック材料。
【化2】
〔式(2)中、Rは、下記の化学式(A)で表される構造を有し、
【化3】
n:mのモル比は1:10〜10:1であり、pは1〜50である。〕
【請求項3】
次の式(3)で表されるウレタン構造を繰り返し単位とするポリマーから構成されることを特徴とする請求項1に記載のメカノクロミック材料。
【化4】
〔式(3)中、rは1〜50であり、j:kのモル比は1:10〜10:1である。〕
【請求項4】
次の式(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)または(10)で表されるウレタン構造を繰り返し単位とするポリマーから構成されることを特徴とする請求項1に記載のメカノクロミック材料。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
〔上記式中、mは1〜50である。〕
【請求項5】
次の式(11)で表されるエステル構造を繰り返し単位とするポリマーから構成されることを特徴とする請求項1に記載のメカノクロミック材料。
【化12】
〔式(11)中、Rはジカルボン酸残基である。〕
【請求項6】
次の式(12)で表されるジアリールビベンゾフラノン構造を有するメカノクロミック化合物から成ることを特徴とするメカノクロミック材料
【化13】
〔式(12)中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基(フルオロアルキル基を含む)、炭素原子数2〜20のアルケニル基を表し、これらは酸素原子、ケイ素原子、カルボニル基、エステル基、アミド基、ウレタン基またはイミノ基で中断されていてもよく、RおよびRの末端に水酸基またはトリアルコキシシリル基が結合していることがある。〕
【請求項7】
およびRの末端に水酸基が結合していることを特徴とする請求項6に記載のメカノクロミック材料
【請求項8】
次の式(13)、(14)または(15)で表されることを特徴とする請求項6に記載のメカノクロミック材料
【化14】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性材料の技術分野に属し、特に、各種材料の損傷状態の検出などの目的に利用できるメカノクロミック材料に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性材料は、その特性に応じて、様々な用途のものがあり、これまでにない機能を備える機能性材料が盛んに開発されている。そのような機能性材料として、材料が受ける圧縮、延伸、衝撃、せん断、粉砕、曲げ、摩擦などの力学的刺激(力学的ストレス)の度合いを発色等によって視覚的に示すことで、力学的刺激の程度や損傷位置を可視化しようとするものがある。
【0003】
力学的刺激を受けて発色または色変化する性質を有する化合物はメカノクロミック材料と呼ばれる。従来より知られたメカノクロミック材料としては、例えば、スピロピラン構造を有するポリマー(例えば、特許文献1、非特許文献1〜2参照)やオリゴビニルフェニレン構造を有するポリマー(例えば、非特許文献3参照)から成るこれらの材料は、力学的刺激に応じて分子構造変化(異性化反応)や凝集状態変化によって色変化するという性質を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許60/952,550号公報
【特許文献2】米国特許第0135792号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D.A.Davis et al., Nature 459, 68-72 (2009)
【非特許文献2】P.V.Braunet al., Journal of the American Chemical Society, 132, 16107-16111 (2010)
【非特許文献3】C.Wederet al., Adv. Mater.,22,14 (2002)
【非特許文献4】P.Nesvadba他、Synlett, S1, 862-864 (1999)
【非特許文献5】M.Frenette et al., Journal of the American Chemical Society, 128, 16432-16433, (2006)
【非特許文献6】T.Imato et al., Angewandte Chemie International Edition, 51, 1138-1142, (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、スピロピラン構造やオリゴビニルフェニレン構造を有するような従来のメカノクロミック材料は、加えられた力学的刺激が停止ないしは軽減した場合に、自発的な可逆性が無く発色の色合いが変化せず、力学的刺激の終息状況を正確に把握できないという問題がある。また、発色または色変前の状態に戻すためには、外部から何らかの手段(熱や光など)を加える必要もある。
【0007】
本発明の目的は、如上の課題を解決することができ、力学的刺激を可逆的に可視化することで、損傷状態を視覚的に検出すること等に使用されるのに好適な新しいタイプのメカノクロミック材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ジアリールビベンゾフラノン(Di-aryl-bibenzofuranone;以下、DABBFと略称することがある)構造を有する化合物を用いることによって、上記の目的を達成できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、分子骨格中にジアリールビベンゾフラノン構造を含むポリマーから成るメカノクロミック材料を提供するものである。
さらに、本発明に従えば、ジアリールビベンゾフラノン構造を有するメカノクロミック化合物も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に従うジアリールベンゾフラノンジオール(DABBF−diol)の合成スキームの1例を示す。
図2】本発明に従うジアリールビベンゾフラノンジオール(DABBF−diol)における(a)力学的刺激を印加した前後の写真、(b)IRスペクトルの結果、および(c)力学的刺激を印加した前後および力学的刺激を印加してから6時間経過後の写真を示す。
図3】本発明に従うジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)フィルムにおける(a)応力−歪み曲線、(b)変色挙動、および(c)フィルムの修復挙動の実験結果を示す。
図4】本発明に従うジアリールビベンゾフラノンポリエステル(DABBF−PEs)の合成スキームの1例を示す。
図5】本発明に従うジアリールビベンゾフラノンポリエステル(DABBF−PEs)における(a)IRスペクトルの結果、および(b)力学的刺激を印加した前後の写真を示す。
図6-1】本発明に従うメカノクロミック材料を構成するウレタン構造を繰り返し単位とするポリマーを例示する。
図6-2】本発明に従うメカノクロミック材料を構成するウレタン構造を繰り返し単位とするポリマーを例示する。
図7】本発明に従うメカノクロミック材料を構成するウレタン構造を繰り返し単位とするポリマー(特に架橋ポリマー)を例示する。
図8】本発明に従うメカノクロミック材料を構成するエステル構造を繰り返し単位とするポリマーを例示する。
図9】本発明に従うDABBF誘導体から成るメカノクロミック化合物の合成スキームを例示する。
図10-1】本発明に従うDABBF誘導体から成るメカノクロミック化合物を例示する。
図10-2】本発明に従うDABBF誘導体から成るメカノクロミック化合物を例示する。
図10-3】本発明に従うDABBF誘導体から成るメカノクロミック化合物を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ジアリールビベンゾフラノン構造を有する化合物の物性に関しては、有機溶媒中で100℃程度の加熱によって変色することが従来より知られており(非特許文献5)、またジアリールビベンゾフラノン構造を有するゲル化合物が自己修復性を有することが知られているが(非特許文献6)、それ以外の機能的な性質は分かっておらず、ジアリールビベンゾフラノン構造を有する有用な機能性材料は現在のところ見当たらない。本発明者は、鋭意研究の結果、DABBF誘導体およびDABBF構造を有するポリマー(高分子)が、衝撃や引張り等の力学的な刺激のみにより室温で色変化し青色を呈することを新たに見出した。
【0012】
既述したような従来のメカノクロミック材料は、分子の集合形態変化や分子の異性化を利用した光物性変化に基づくものであるのに対して、本発明に従うメカノクロミック材料は、分子の断片化あるいは高分子における分子鎖の切断を視覚的に検出することに基づく初めてのものである。
【0013】
本発明に従うDABBF構造を有するポリマーは、可逆性、すなわち、破断前に力学的刺激(力学的ストレス)を取り除くと自発的に退色し形状復元する性質を有する。さらに、本発明に従うDABBF構造を有するポリマーは、破断する直前に最も強く発色するという特性も有している。
【0014】
本発明に係るDABBF誘導体およびDABBF構造を有するポリマーが力学的刺激を受けることで発色するメカニズムは、ジアリールビベンゾフラノンが力学的刺激を受けた際に、2つのアリールベンゾフラノン構造間の炭素−炭素共有結合が力学的刺激により開裂し、アリールベンゾフラノン(aryl-benzofuranone;ABF)ラジカルを生成するためと推察される。DABBF構造に基づく本発明におけるメカノクロミック現象が可逆性をもつのは、この共有結合は、非常に弱いので(芳香環共鳴安定化効果、ヘテロ原子上の不対電子の非局在化、電子吸引効果などに因ると考えられる)、室温下に空気中での穏和な条件下に自発的に可逆的な解離−再形成(発色−退色)を実現できる結合であるとともに、生成するABFラジカルは、酸素耐性をもち、一般のラジカルのように酸素と反応して過酸化物ラジカルを経て失活しないためと理解される。
【0015】
本発明のメカノクロミック材料は、分子骨格中にDABBF構造を含むポリマーから構成される。すなわち、本発明は、下記の式(1)で表されるDABBF構造(ジアリールビベンゾフラノン構造)が部位Xを介してウレタン結合またはエステル結合しているウレタン構造またはエステル構造を繰り返し単位とするポリマーから構成されることを特徴とするメカノクロミック材料を提供するものである。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明のメカノクロミック材料を構成する上述のポリマーは、既知の反応を工夫して、原料となるDABBF誘導体から、逐次重合法や連鎖重合法などを利用することにより合成することができる。
本発明のメカノクロミック材料として特に好ましいのは、DABBF構造を含むウレタン結合を呈する繰り返し単位から成るポリマー(ポリウレタン)から構成されているものであり、これには、末端に複数個の水酸基を有するDABBF誘導体を用い、これにジイソシアネート化合物(複数種のジイソシアネート化合物を用いてもよい)を反応させることにより目的のポリマーが得られる。ジイソシアネート化合物は、従来から知られたヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどで末端修飾され適当鎖長のアルキレングリコールやアルキル基が介在するような各種のジイソシアネート化合物として使用されることができる。
【0018】
例えば、好ましい例として、末端に2つの水酸基を有するDABBF−diol(ジオール)(後述)を用い、ジイソシアネート化合物として、末端がジイソシアネート基で修飾されたポリプロピレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネートとを用いた場合には、下記の一般式(2)を繰り返し単位とするポリマーとして本発明のメカノクロミック材料を合成することができる(後述の実施例2参照)。
【0019】
【化2】
【0020】
上記(2)式中、n:mのモル比は1:10〜10:1であり、pは1〜50(1〜50の整数)である。また、Rは下記の式(A)で表される構造を有する。
【0021】
【化3】
【0022】
他の例として、末端に4つの水酸基を有するDABBF−tetraol(テトラオール)(後述)を用い、これにヘキサメチレンジイソシアネートとポリエチレングリコールとを反応させることにより、次の一般式(3)で表されるようにDABBF構造を含むウレタン結合を有する繰り返し単位から成るポリマーとして、本発明のメカノクロミック材料を合成することができる(後述の実施例4参照)。式(2)のメカノクロミック材料が鎖状ポリマーであるのに対し、式(3)のメカノクロミック材料は、架橋構造のポリマーから構成されている。
【0023】
【化4】
式中、rは1〜50であり、j:kのモル比は1:10〜10:1である。
【0024】
DABBF構造がウレタン結合しているウレタン構造を繰り返し単位とするポリマー(ポリウレタン)から構成される本発明のメカノクロミック材料は、上述したものに限られるものではない。図6には、ウレタン構造を繰り返し単位とするポリマーから構成されるメカノクロミック材料の他の例として、構造式(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)で表されるものを示している。さらに、図7には、架橋型のポリウレタン構造から成る本発明のメカノクロミック材料として、(16)、(17)、(18)を示している。
【0025】
上記の例の他、本発明のメカノクロミック材料は、DABBF構造がエステル結合しているエステル構造を繰り返し単位とするポリマー(ポリエステル)として合成することもできる。例えば、末端に2つの水酸基を有するDABBF−diol(後述)とジカルボン酸とを重縮合反応させることにより、次の一般式(11)で表される繰り返し単位から成るポリマーとして、本発明のメカノクロミック材料を合成することができる(後述の実施例5参照)。
【0026】
【化5】
式中、Rはジカルボン酸残基である。
【0027】
ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸のいずれも適用可能であるが、入手や合成の容易さから、好ましいのは、一般に、炭素数3〜10の脂肪族ジカルボン酸である。図8には、本発明のメカノクロミック材料を構成するエステル構造を繰り返し単位とするポリマーの例を示している。
【0028】
本発明のメカノクロミック材料を構成するポリマーは、上で例示するものに限られず、各種の反応を工夫してDABBF構造が導入されたポリマーを合成することにより本発明のメカノクロミック材料が得られる。
さらに、本発明者は、上述したようなポリマーの出発原料となるDABBF誘導体自身もメカノクロミック特性を呈することを見出している。かくして、本発明に従えば、次の一般式(12)で表されるジアリールビベンゾフラノン構造から成ることを特徴とするメカノクロミック化合物が提供される。
【0029】
【化6】
【0030】
上記一般式(12)式中のRおよびRは、互いに独立して、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基(フルオロアルキル基を含む)、炭素原子数2〜20のアルケニル基を表し、これらは酸素原子、ケイ素原子、カルボニル基、エステル基、アミド基、ウレタン基またはイミノ基で中断されていてもよく、これらの中断は組み合わされてもよい。さらに、RおよびRの末端には水酸基またはトリアルコキシシリル基(例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基)が結合していることもある。
【0031】
上記の式(12)で表されるDABBF誘導体は、それ自身、メカノクロミック特性を示す化合物であるが、既述の式(1)で示されるメカノクロミック材料の原料となる観点から特に好ましいのは、式(12)のRおよびRの末端に水酸基が結合しているものである。すなわち、この水酸基がジイソシアネート化合物のイソシアネート基とウレタン結合を形成してポリマーとなる。したがって、既述の式(1)におけるXは、水素原子、または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20アルケニル基(これらは、酸素原子、ケイ素原子、カルボニル基、エステル基、アミド基、ウレタン基またはイミノ基で中断されていてもよい)の末端に結合した水酸基から水素原子が削除された残基として定義することもできる。
【0032】
かくして、本発明に従うメカノクロミック化合物の特に好ましい例として、下記の化学式(13)、(14)または(15)で示される化合物が挙げられる。
【0033】
【化7】
【0034】
本発明に従うメカノクロミック化合物の具体例は、上記のものの他、各種の構造の化合物がある。図10には本発明に従うDABBF構造から成るメカノクロミック化合物の幾つかを例示している。このうち、化合物(25)は、複数の末端に水酸基が結合しており、ウレタン構造やエステル構造を繰り返し単位のポリマーの合成に使用されることができる。また、化合物(26)、(27)は、末端のトリアルコキシシリル基を介してポリマー化することもできる。
【0035】
如上のジアリールビベンザフラノン構造を有するメカノクロミック化合物(DABBF誘導体)は、既知の反応を利用して合成することができ、一般的には、アリールベンゾフラノン誘導体を合成し、必要な化学修飾を行った後に光反応により二量化を行うことで所望のDABBF誘導体が得られる(例えば、非特許文献4、特許文献2参照)。合成の詳細については、実施例において記述している。
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(1)ジアリールビベンゾフラノン構造から成るメカノクロミック化合物
(1−1)ジアリールビベンゾフラノンジオール(DABBF−diol)の合成
図1に示す合成スキームに沿って、DABBF誘導体として、二つの水酸基を有するDABBF−diolを合成した。先ず、既知の方法に準じて(特許文献2)、マンデル酸誘導体とフェノール誘導体の縮合反応により、アリールベンゾフラノン(ABF)誘導体を合成し、次いで、フェノール性水酸基部分を3−ヒドロキシプロピル基で化学修飾してアリールベンゾフラノンオール(ABF−ol)を得た。このABF−olを以下のように、ラジカル反応による二量化に供した:アリールベンゾフラノンオール(ABF-ol)1.76g(4.44mmol)、ベンゼン13.8ml、ジ−tert−ブチルペルオキシド9.18ml(50.0mmol)からなる混合溶液を調製した。水銀灯照射用試験管(Riko石英製、容量10ml)3本に入れて、UV光(RikoPhotochemicalReactorRH400-10,400W水銀灯)照射を90分間行った。溶媒留去後、酢酸エチル/ヘキサン(1/1,v/v)を展開溶媒としたシリカゲルカラムで精製を行い、さらに少量の塩化メチレンに溶解させて、ヘキサンを用いて固体を析出させることで、白色粉末状の化合物を収量562mg(収率32%)で得た。得られた化合物に対して1H−NMR測定、IR測定、および質量分析によりこの化合物の構造解析を行った。1H−NMR(CDCl3,300MHz):δ7.2(s, 1H), 7.2 (broad, 2H), 6.7 (d, 2H), 6.5−6.1 (broad, 1H), 4.1 (m,2H), 3.8 (t, 2H), 2.0 (m, 1H), 1.3 (broad, 9H), 1.1 (broad, 9H).
【0037】
1H−NMRスペクトルにおいて、得られた化合物に関して4.8ppmのベンゾフラノン部分の3位の1Hに起因するピークの消失と芳香環由来のピークの変化を確認した。また、IRスペクトルにおいて、3580cm-1および3430cm-1に水素結合したO-H伸縮振動、3020cm-1に芳香族C-H伸縮振動、3000−2840cm-1にCH基、CH基C-H伸縮振動、1790cm-1にC=O伸縮振動、1610−1440cm-1に芳香族のC=C伸縮振動、1260cm-1にアセチル基C-O伸縮振動由来のピークが観測された。さらに、質量分析において、ジアリールビベンゾフラノンジオール(DABBF−diol)の理論値通り分子量790.44を示すピークが観測された。これらの結果から、得られた化合物がジアリールビベンゾフラノンジオール(DABBF−diol)であることを確認した。
【0038】
(1−2)ジアリールビベンゾフラノンジオール(DABBF-diol)のメカノクロミック特性
以上のようにして合成したジアリールビベンゾフラノンジオール(DABBF−diol)の粉末を乳鉢で1分間ほど磨り潰したところ、図2(a)に示すように、白色(または淡黄色)から青色(または青紫色)へ変化することがわかった。DABBF誘導体は溶液中で加熱すると青色に着色することが知られているが、ジアリールビベンゾフラノンジオール(DABBF−diol)は加熱しなくても力学的な刺激を受けることによって青色に着色することが明らかとなった。また、溶液中の加熱では、室温に戻すと速やかに青色は退色するが、粉末に力学的な刺激を与える場合は、着色した青色は空気中でも数時間、安定に存在できることが明らかになった。
【実施例2】
【0039】
(2)ジアリールビベンゾフラノン構造を有するポリマー[1]
(2−1)ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)の合成
DABBF構造を有するポリマーとして、既述の式(2)で表されるジアリールビベンゾフラノン−ポリウレタン、すなわち、DABBF構造を含むウレタン結合を有する繰り返し単位から成るポリマーを合成した:先ず、30mlシュレンク管にトリレン−2,4−ジイソシアネートで末端修飾されたポリプロピレングリコール(TPDI;分子量Mn=2500)を1.88g(0.759mmol)加え、次にDMFを1.88ml加え、さらにヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を189mg(1.13mmol)加えて撹拌した後、実施例1で合成した白色粉末状のジアリールビベンゾフラノンジオール(DABBF−diol)を1.48g(1.88mmol)加え、窒素雰囲気下にして、脱気を行い均一系になるまでよく撹拌した。その後、ジラウリン酸ジブチルすずを1滴加え撹拌を続けた。48時間撹拌後、メタノール2mlを加えて反応を終了させた。テトラヒドロフラン/水およびクロロホルム/ヘキサンで再沈殿を行い、白色塊状の化合物を得た。収量は2.33g(収率66%)であった。1H-NMR測定およびIR測定によりこの化合物の構造解析を行った。1H-NMR(CDCl3,
400MHz):δ6.4−7.8(18H, aromatic of DABBF-diol and TPDI),4.4(4H, DABBF-O-CH2-CH2-CH2-O-TPDI),4.3(4H,
DABBF-O-CH2-CH2-CH2-O-HDI),4.2(4H,
DABBF-O-CH2-CH2-CH2-O-urethane bond),3.6(2H
, CH2 of the PPG unit),3.4(1H, CH of the PPG unit),3.2(4H, NH-CH2of
HDI),2.1-2.5(10H, aryl-methyl group of TPDI and DABBF-O-CH2-CH2-CH2-O-urethane
bond),1.3-1.5(36 H, t-butyl of DABBF),1.0-1.3(3H, methyl group of PPG unit),0.9(8H,
NH-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-NH
of HDI)
【0040】
1H-NMRスペクトルにおいて、得られた化合物に関してジアリールビベンゾフラノンジオール(DABBF−diol)で観測されていた4.2ppmの末端の水酸基に隣接したアルキル基に起因するピークが、トリレン−2−4−ジイソシアネートで末端修飾されたポリプロピレングリコール(TPDI)と結合しウレタン結合が形成されたことによって4.4ppmのピークに、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)と結合したことによって4.3ppmのピークに、と2つのピークに分裂し、強度比から、仕込み比と同じTPDI:HDI=2:3〔すなわち、式(IV)におけるn:m=2:3〕の組成になっていることが確認された。なお、分子量2500のTPDIを用いているので、式(IV)中のpは35となる。また、IRスペクトルの結果である図1(b)に示すように、得られた化合物に関して3450−3300cm-1にN-H伸縮振動、3020cm-1に芳香族C-H伸縮振動、3000cm-1−2840cm-1にCH2基、CH基C−H伸縮振動、1790cm-1に五員環のC=O伸縮振動、1680cm-1にウレタン結合のC=O伸縮振動、1610cm-1−1440cm-1に芳香族のC=C伸縮振動、1400cm-1−1000cm-1にC-N伸縮振動、1260cm-1にアセチル基C−O伸縮振動由来のピークが観測された。さらに、原料のTPDIに確認される2300cm-1のイソシアナート基の吸収ピークが、得られた化合物には確認されていないことから、重付加反応が進行してジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)が生成していることが確認された。
【0041】
(2−2)ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)のメカノクロミック特性
白色塊状のジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)の再沈殿物を室温、空気中で乳鉢を利用して1分間ほど磨り潰した。ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)にこのような力学的刺激を印加した前後および力学的刺激を印加してから6時間経過後の写真を図1(c)に示す(左:力学的刺激印加前、中央:印加直後、刺激印加から6時間後)。同図(c)に示すように、白色塊状のジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)の再沈殿物は、白色から青色へと変化し、さらに6時間程で元の白色まで完全に退色した。示差走査熱量分析(DSC)測定により、ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)のガラス転移温度は室温以下(−10.8℃)であるとともに融点は確認されなかったことから、非晶性高分子であることがわかった。この結果から、室温においてもジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)内の分子鎖の自由度が高い状態が安定的に維持されており、生成したラジカル同士が結合しやすくなることで速やかな退色が起こったものと推察される。
【実施例3】
【0042】
(3)ジアリールビベンゾフラノン構造を有するポリマー[2]
(3−1)ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)フィルムの合成
実施例2で合成したジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)のクロロホルム溶液から溶媒蒸発法を用いて安定なフィルムを合成した。ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)を50mg/mlの濃度でクロロホルム溶液に溶解させ、ガラスシャーレ上に展開し室温で12時間静置した後、48時間真空で乾燥して厚さ239μmの黄色のキャストフィルムを調製した。
【0043】
(3−2)ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)フィルムのメカノクロミック特性
得られたフィルムを試験片(JISK−6251−7ダンベル)に加工し、SHIMADZU社製EZ Graphを用いて室温、ロードセル50N、引張速度を10.0mm/分、試験片数N=5の条件で引張試験を行った。応力−歪み曲線を図3(a)に示す。破断強度は4.15MPaであり、最大歪みは618%であった。図3(b)に示すように、引張り試験を行う前淡黄色であったフィルムは、歪み約400%以降で青色に変色し、歪みの増加に伴い青色はより濃くなり、破断時に最も濃い青色を示した。
【0044】
さらに、青色着色した破断直前で試験を止めて試験機からフィルムを取り出し、フィルムの修復挙動を観察した。図3(c)に示すように、時間の経過とともに青色は消失し、約2時間で黄色に戻った。また、破断直前のフィルムは試験後2時間程度で試験前の大きさまで収縮した。このことは、ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−PUr)が力学的刺激に応答して、分子鎖中のDABBF構造の中心C−C結合が開裂してABFラジカルの生成によって青色変色し、その後、時間経過に伴ってラジカル同士が再結合したためであると推察される。なお、フィルムの大きさが収縮したことは、ウレタン結合同士の水素結合によって分子鎖の凝集構造が元の構造に戻ったためと考えられる。
【実施例4】
【0045】
(4)ジアリールビベンゾフラノン構造を有するポリマー[3]
(4−1)架橋ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−XL)の合成
既述の式(3)で表されるジアリールビベンゾフラノン構造を架橋構造とする架橋ポリマー[架橋ジアリールビベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−XL)]を以下のように合成した。出発原料となるDABBF誘導体は、既述の式(15)で表される4つの水酸基を有するジアリールビベンゾフラノンテトラオール(DABBD−tetraol)である。
【0046】
試験管にジアリールビベンゾフラノンテトラオール(DABBD−tetraol)(353mg,0.43mmol)とポリエチレングリコール(分子量Mn=1000)(858mg,0.86mmol)を入れて減圧乾燥し、アルゴン(Ar)雰囲気下でヘキサメチレンジイソシアネート(0.28ml,1.71mmol)と1,4−ジオキサン(1.45ml)を加えて撹拌し、さらにジラウリン酸ジブチルすずを加えて室温で反応させた。生成する架橋ポリマーがN,N−ジメチルホルムアミドに対して50wt%となるように調製した。過剰の純水を加えることで反応を終了させ、1,4−ジオキサンを用いて溶媒置換を行った後、凍結乾燥することで精製した(収率:100%)。収率が定量的であることから、組成は仕込み比どおりになっていることが理解された。したがって、式(3)中、rは22であり、j:kのモル比は1:1であった。
【0047】
(4−2)架橋ジアリールベンゾフラノンポリウレタン(DABBF−XL)のメカノクロミック特性
得られた架橋ポリマーの粉末を乳鉢ですり潰したところ、青色変化し、メカノクロミック性を有することが確認された。さらに、得られた架橋ポリマーを1,4−ジオキサンに浸漬し、5H後のゲルを液体窒素温度まで冷却したところ、鮮やかな青色変化が観測された。冷却によりゲル中の高分子鎖に歪みがかかり、一部の分子鎖が切断してラジカルが発生し、分子鎖の運動性も低下しているため青色に着色したものと考えられる。また、青色に着色したゲルは、室温に戻ると速やかに退色して元のゲルの色に戻ることが明らかとなった。
【実施例5】
【0048】
(5)ジアリールビベンゾフラノン構造を有するポリマー[4]
(5−1)ジアリールビベンゾフラノンポリエステル(DABBF−PEs)の合成
図4に示す合成スキームに従って、ジアリールビベンゾフラノンポリエステル、すなわち、DABBF構造を含むエステル結合を有する繰り返し単位から成るポリマーを合成した。出発原料となるDABBF誘導体は、図4にも示されるように既述の式(14)で示されるDABBF−diolである。
【0049】
20mLシュレンク管にDABBF-diol (14) 441mg(0.58mmol)を加え、脱気、窒素置換を行った後、塩化メチレン0.58mL、ピリジン0.090mL(1.11mmol)を加えた。0℃に氷冷した後、アジピン酸クロリド(0.081mL)をゆっくり滴下し、室温で48時間撹拌した。溶媒を留去した後、テトラヒドフラン/水、クロロホルム/ヘキサンから再沈殿を行い、生成物を精製し、淡黄色の粉末であるDABBF−ポリエステル(DABBF−PEs)を、収量371mg(収率74%)で得た。1H-NMR測定、IR測定により構造解析を行った。
1H-NMR(CDCl3, 400 MHz):TM7.3(s,2H),δ7.3(broad, 4H),6.8(d, 4H),6.6-6.1(broad, 2H),4.3(t, 4H),4.1(t, 4H),2.4(d,4H),2.1(m, 4H),1.7(m, 4H),1.3(broad, 18H),1.2(broad, 18H)),IR(NaCl)
DABBF−diolとDABBF−PEsの1H-NMRスペクトルにより、DABBF−diolの水酸基に隣接するメチレン鎖由来のピークが、エステル化に伴って3.9ppmから4.3ppmへシフトしていることが確認され、また、アジピン酸由来のピークが新たに観測された。図5(a)にDABBF−diolとDABBF−PEsのIRスペクトルを示す。3020cm-1に芳香族C−H伸縮振動、3000−2820cm-1にCH2、CH3基C−H伸縮振動、さらに、1800および1740cm-1にベンゾフラノンおよび縮合反応で生じたエステル基由来のC=O伸縮振動がそれぞれ観測された。
【0050】
(5-2)ジアリールビベンゾフラノンポリエステル(DABBF−PEs)のメカノクロミック特性
淡黄色粉末状のDABBF−PEsを室温、空気中で乳鉢を利用して1分間ほど磨り潰すと、淡黄色から青色へと変化することがわかった(図5(b))。このメカノクロミック特性はDABBF誘導体およびDABBF−PUrと同様であり、分子骨格中あるいは高分子骨格中にDABBFユニットを導入することで、メカノクロミック特性が発現する。
【実施例6】
【0051】
ジアリールビベンゾフラノン構造から成るメカノクロミック化合物の他の例
DABBF構造から成るメカノクロミック化合物として図10に示す(21)、(22)、(23)、(24)、(25)、(26)、(27)、(28)、(29)の化合物を合成した。具体的な合成法については、代表例として、化合物(21)および化合物(26)について以下に示す。
【0052】
化合物(21)の合成:図9の(A)の合成ルート
(フェノール性水酸基を有するアリールベンゾフラノンの合成)ステップI
反応容器に4−ヒドロキシマンデル酸一水和物5.67g(30.5mmol)、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール8.50g(41.2mmol)、酢酸16.4mLを加えた溶液を調製し、オイルバスにて95℃に加熱した。メタンスルホン酸54.5μLを加え、95℃にて3h撹拌を行った。その後、徐々に反応溶液の温度を室温に戻し、約18h静置すると、赤い反応溶液の中に淡赤色沈殿が生じた。沈殿を回収、水およびヘキサンを用いて洗浄した後、クロロホルム/ヘキサンを用いて再結晶を行い、白色粉末状のアリールベンゾフラノン誘導体を得た。収量は7.62g(22.5mmol)、収率は74%であった。
【0053】
(アセトキシ基を有するアリールベンゾフラノンの合成)ステップII
反応容器にフェノール性水酸基を有するアリールベンゾフラノン2.95g(8.73mmol)、塩化メチレンおよびピリジンを加え、0℃に氷冷しながら、無水酢酸1.65mL(17.5mmol)をゆっくりと滴下した。室温に戻し、10h撹拌後、1N塩酸17.5mL(17.5mmol)を加え、さらに1h撹拌した。反応溶液に水と塩化メチレンを加え、有機相を回収し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。溶媒留去後、酢酸エチル/ヘキサン(1/3,v/v)を展開溶媒としたシリカゲルカラムで精製を行い、結晶性が非常に高い白色個体のアリールベンゾフラノン誘導体を得た。収量は3.18g(8.37mmol)、収率は96%であった。
【0054】
(アセトキシ基を有するジアリールビベンゾフラノンの合成)ステップIII
アセトキシ基を有するアリールベンゾフラノン2.45g(6.44mmol)、ベンゼン20.4mL、過酸化物ジ−tert−ブチルペルオキシド13.6mL(73.9mmol)からなる混合溶液を調製した。水銀灯照射用装置(Riko Photochemical Reactor RH400-10, 400W水銀灯)により光照射を90min行った。溶媒留去後、酢酸エチル/ヘキサン(1/3,v/v)を展開溶媒としたシリカゲルカラムで精製を行い、白色固体のジアリールビベンゾフラノン誘導体を得た。収量は1.10g(1.44mmol)、収率は44%であった。
【0055】
化合物(26)の合成:図9の(B)の合成ルート
(3−ヒドロキシプロポキシ基を有するジアリールビベンゾフラノンの合成)ステップI
反応容器に水酸基を有するアリールベンゾフラノン誘導体3.00g(8.86mmol)、4%NaOH水溶液27mLを加えた溶液を調製後、還流管を取り付け、オイルバスを用いて80℃に加熱した。3−ブロモ−1−プロパノールを滴下し、そのまま80℃にて3h撹拌を行った。反応溶液を室温に冷却後、0.8N塩酸45mLを加え、再び80℃に加熱し、1h撹拌を行った。室温に冷却した後、高粘性の淡黄色沈殿を回収した。反応溶液に塩化メチレンを加え、飽和食塩水および水で洗浄し酢酸エチル/ヘキサン(1/3,
v/v)を展開溶媒としたシリカゲルカラムで精製を行った。白色粉末状の3−ヒドロキシプロポキシ基を有するアリールベンゾフラノンを得た。収量は2.39g、収率は68%であった。
【0056】
(3−ヒドロキシプロポキシ基を有するジアリールビベンゾフラノンの合成)ステップII
3−ヒドロキシプロポキシ基を有するアリールベンゾフラノン1.76g(4.44mmol)、ベンゼン13.8mL、過酸化物ジ−tert−ブチルペルオキシド9.18mL(50.0mmol)からなる混合溶液を調製した。水銀灯照射用装置(Riko
Photochemical Reactor RH400-10, 400W水銀灯)により光照射を90min行った。溶媒留去後、酢酸エチル/ヘキサン(1/1,
v/v)を展開溶媒としたシリカゲルカラムで精製を行い、白色固体のジアリールビベンゾフラノン誘導体を得た。収量は562mg、収率は32%であった。
【0057】
(トリエトキシシリル基を有するジアリールビベンゾフラノンの合成)ステップIII
反応容器に3−ヒドロキシプロポキシ基を有するジアリールビベンゾフラノン1.00g, 1.26mmol)、塩化メチレン3.00mL、3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート(0.69mL, 2.78mmol)を入れ、ジラウリン酸ジブチルすずを一滴加え、窒素雰囲気下、室温で13時間撹拌した。酢酸エチル/ヘキサン(1/3,
v/v)を展開溶媒としたシリカゲルカラムで精製を行った。収量は0.61g、収率は38%であった。
【0058】
メカノクロミック特性
合成した化合物(21)、(22)、(23)、(24)、(25)、(26)、(27)、(28)、(29)について、それぞれの粉末を乳鉢で1分間ほど磨り潰したところ、いずれも、白色(または淡黄色)から青色(または青紫色)に変化し、メカノクロミック性を有することが示された。
【実施例7】
【0059】
ジアリールビベンゾフラノン構造を有するポリマーの他の例
実施例2に記載の合成法と同様の方法により、DABBF構造を有するウレタン構造を繰り返し単位とするポリマーとして、図6に示す構造式(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)を繰り返し単位とするポリマー(mは10〜20)を合成した。それぞれのポリマーの粉末を乳鉢で1分間ほど磨り潰したところ、いずれも、白色(または淡黄色)から青色(または青紫色)に変化し、メカノクロミック性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上述した本発明に従うジアリールビベンゾフラノン構造を有する化合物(DABBF誘導体)およびジアリールビベンゾフラノン構造を骨格に有するポリマー(DABBFポリマー)は、いずれも、力学的な刺激に応じて、白色から青色あるいは青紫色に色変化するという特性を有する。
【0061】
したがって、この特性に基き、DABBF誘導体またはDABBFポリマーを各種の有機材料、高分子材料または有機/無機複合材料などに、導入、混合または表面被覆するなどにより、それらの材料中の損傷状態、ストレス分布、または荷重圧力などを可視化して検知したり測定するのに利用することができる。また、本発明のDABBFポリマーは、力学的刺激を取り除くと、切断されていた炭素−炭素結合が再形成して自発的に退色して形状復元する性質を有することから、DABBF構造を導入することにより劣化の遅延するポリマー材料の開発に資することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】