(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサにおいて、電解液中の電解質の凝固は電導度の低下や火花発生電圧の低下を引き起こすおそれがあり、電解液成分の分離はコンデンサ製造時における一定品質の製品の供給という工業的生産性の点で問題となることがある。したがって、アルミニウム電解コンデンサは、−40℃程度から100℃を超える温度までの幅広い温度領域において、安定に使用できることが求められる。
【0003】
また、アルミニウム電解コンデンサは、デジタル機器や車載機器のような高電圧となる用途においても、ショートパンクを引き起こすことなく安定に使用できるよう、火花発生電圧の高いことが求められている。
アルミニウム電解コンデンサに用いられる電解液として、エチレングリコールやγ−ブチロラクトン等を主成分とする極性溶媒に、ホウ酸等の無機酸やアジピン酸、マレイン酸等の二塩基酸またはその塩を電解質とした電解液が知られている。しかしながら、電解質としてこれらの酸を使用した電解液は、電導性は高いものの火花発生電圧が低いことが問題となっていた。
【0004】
電解液の火花発生電圧を向上させる方法として、電解質を含有する電解液にポリエチレングリコール等の非イオン性のポリアルキレングリコール誘導体を添加する方法が知られている。しかし、このようなポリアルキレングリコール誘導体は電導性をほとんど示さないため、火花発生電圧の向上に効果を有するものの、電導性を低下させてしまう問題があった。
【0005】
また、電導性を大きく低下させることなく火花発生電圧を向上させる方法として、火花発生電圧の高い電解質を用いる電解液が報告されている。ブチルオクタン二酸を使用する方法(例えば特許文献1)、5,6−デカンジカルボン酸を使用する方法(例えば特許文献2)等が報告されている。このようなカルボン酸を使用した電解液は、火花発生電圧の向上に効果を有するが、カルボン酸の極性溶媒への溶解性が低いために、低温において結晶化して析出することがあった。
【0006】
ポリエチレングリコールとアジピン酸とのジエステル化合物などを使用する方法(例えば特許文献3)、ポリエチレングリコールと分岐鎖を有する脂肪族二塩基酸とのジエステル化合物を使用する方法(例えば特許文献4)等が報告されており、これらのジエステル化合物を使用した電解液は、極性溶媒への溶解性が高いために低温での結晶化を抑制することができる。しかし、このようなジエステル化合物を使用した電解液は、アジピン酸のような脂肪族二塩基酸と比べると火花発生電圧の向上効果は高いが、エステル結合が経時的に加水分解されて電解液が分離することがあった。
【0007】
ポリオキシエチレンジグリコール酸を使用する方法(例えば特許文献5)やポリオキシプロピレンジグリコール酸を使用する方法(例えば特許文献6)が報告されているが、火花発生電圧が十分でなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、十分な火花発生電圧を有するとともに、電解液の低温での結晶の析出および経時的な分離を抑制することのできる電解コンデンサ用電解液は未だ得られていない。
【0010】
本発明の課題は、十分な電導性および火花発生電圧を有するとともに、低温での結晶の析出および経時的な分離を抑制することができる、電解コンデンサ用電解液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のものである。
(1) 成分(a)および成分(b)を含有することを特徴とする、電解コンデンサ用電解液。
(a) 極性溶媒
(b) 式(1)で示される化合物またはその塩
HOOC−X−O−(AO)
n−Y−COOH ・・・(1)
【0012】
(式(1)において、XおよびYは、それぞれ、炭素数2〜5の炭化水素基である。
AOは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。
nは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100である。
(AO)nに占める炭素数3〜4のオキシアルキレン基の割合が30〜85モル%である。)
【0013】
(
2) 更に(c)炭素数5〜12の脂肪族二塩基酸またはその塩を含有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電解コンデンサ用電解液は、十分な電導性および火花発生電圧を有するとともに、低温での結晶の析出および経時的な分離を抑制することができ、コンデンサを幅広い温度域で安定に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(電解コンデンサ用電解液)
電解コンデンサにおいては、アルミニウムまたはタンタルなどの金属の表面に絶縁性の酸化被膜が形成された弁金属を陽極電極として使用し、前記酸化被膜を誘電体とする。この酸化被膜の表面に電解液を接触させ、また集電用の電極を配置する。電解コンデンサ用電解液は、誘電体に接触し、陰極として作用する。
【0016】
((a)極性溶媒)
本発明で使用する極性溶媒は、極性を有する溶媒、特に有機溶媒として通常知られているものや水を使用できる。好ましくは、エタノール、プロパノール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等の2価アルコール、グリセリン等の3価アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒、N−メチルホルムアミド等のアミド系溶媒、水等が挙げられる。溶媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0017】
極性溶媒としては、水と極性有機溶媒との混合物が好ましく、水と2価アルコールや3価アルコールとの混合物が更に好ましく、エチレングリコールと水の混合物がいっそう好ましい。
【0018】
((b)式(1)で示される化合物またはその塩)
式(1)で示される化合物は、カルボキシル基に隣接する炭化水素基およびポリオキシアルキレン基を有することにより、極性溶媒への高い溶解性を示すとともに、高い火花発生電圧を発現する。さらに式(1)で示される化合物は、加水分解等の分解が起こることなく化学的に安定であり、分離が抑制される。
【0019】
式(1)におけるXおよびYは、それぞれ、炭素数2〜5の炭化水素基であり、互いに同一でよく、異なっていても良い。また、X、Yは、直鎖であっても分岐であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基などの直鎖の炭化水素基や、分岐の炭化水素基が挙げられる。
【0020】
XおよびYの炭素数が2より小さい場合は、火花発生電圧が不十分であり、5より大きい場合は、電解液溶媒への溶解性が低下する。この観点からは、XおよびYの炭素数は、特に好ましくは2〜4である。また、XおよびYは、好ましくは直鎖の炭化水素基であり、および/または、飽和の炭化水素基である。
【0021】
XおよびYは、具体的にはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基が好ましい。
【0022】
式(1)におけるAOは、炭素数2〜4の1種以上のオキシアルキレン基である。AOが2種以上である場合は、ブロック状に付加していてもよく、ランダム状に付加していてもよい。AOは、炭素数3〜4のオキシアルキレン基、炭素数2のオキシアルキレン基、炭素数3〜4のオキシアルキレン基の順のトリブロック付加物であることが特に好ましい。
【0023】
式(1)におけるnは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基AOの平均付加モル数であり、1〜100である。nが1より小さい場合は、極性溶媒への溶解性が低下する。この観点からは、nは8以上が好ましく、10以上が更に好ましく、15以上が特に好ましい。また、nが100より大きい場合は、十分な電導性が得られない。この観点からは、nは、80以下が好ましく、70以下が更に好ましく、50以下が特に好ましい。
【0024】
(AO)
nの繰り返し単位数の全体を100モル%としたとき、(AO)
nに占める炭素数3〜4のオキシアルキレン基の割合は、火花発生電圧の向上および極性溶媒への溶解性の点から、30モル%以上
とし、また85モル%以下
とする。この場合の残部は、炭素数2のオキシアルキレン基である。
【0025】
式(1)で示される化合物の分子量は、好ましくは500〜5000であり、より好ましくは600〜3000である。この分子量を500以上とすることによって、火発生電圧がいっそう向上する。また、この分子量を5000以下とすることによって、電解液の比抵抗を抑制し、電導性が高くなる。
【0026】
式(1)で示される化合物は、そのまま使用することもできるが、自身の溶媒への溶解性向上や電解液の電導性向上の点から、アンモニアまたはアミン化合物との塩として使用することが好ましい。アミン化合物としては、N−ブチルアミン、モノエタノールアミン等の1級アミン、ジエタノールアミン等の2級アミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、N−メチルジエタノールアミン等の3級アミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミンのアルキレンオキシド付加物等が挙げられ、単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。好ましくはアンモニアである。
【0027】
((c)成分)
本発明の電解液には、電導性向上の点から次の(c)成分を添加することが好ましい。
【0028】
成分(c)は、炭素数5〜12の脂肪族二塩基酸またはその塩である。炭素数5〜12の脂肪族二塩基酸としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の直鎖の脂肪族二塩基酸や、分岐鎖を有する脂肪族二塩基酸が挙げられる。成分(c)の酸の炭素数は、6〜10が更に好ましい。
【0029】
炭素数5〜12の脂肪族二塩基酸は、そのまま使用することもできるが、自身の溶媒への溶解性向上や電解液の電導性向上の点から、アンモニアまたはアミン化合物との塩として使用することが好ましい。アミン化合物としては、N−ブチルアミン、モノエタノールアミン等の1級アミン、ジエタノールアミン等の2級アミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、N−メチルジエタノールアミン等の3級アミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミンのアルキレンオキシド付加物等が挙げられ、単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。好ましくはアンモニアである。
【0030】
(組成比)
本発明の電解液における(a)成分の重量比をa、(b)成分の重量比をbとしたとき、a+bを100重量部とする。このとき、重量比bは0.1重量部以上が好ましく、これによって、電解液の導電性が向上する。この観点からは、重量比bは、1重量部以上が好ましく、3重量部以上が更に好ましい。また、重量比bは、50重量部以下が好ましく、これによって電解液の粘度を低下させ、取扱い易くできる。この観点からは、重量比bは、40重量部以下が好ましく、30重量部以下が更に好ましい。
【0031】
また、成分(a)を、水と極性有機溶媒との混合物としたときには、両者の合計量を100重量%としたとき、水の重量比は、0.1〜30重量%とすることが好ましく、0.5〜10重量%とすることが更に好ましい。
【0032】
本発明の電解液における(c)成分の重量比をcとしたとき、前記の観点からは、重量比cは、0.1重量部以上が好ましく、0.5重量部以上が更に好ましく、1以上が特に好ましい。また、重量比cは、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、8重量部以下が特に好ましい。ただし、a+b=100重量部とする。
【0033】
また,本発明の電解液におけるb/cは、好ましくは50/50〜99.9/0.1であり、より好ましくは60/40〜97/3であり、特に好ましくは、65/35〜95/5である。
【0034】
(添加剤)
本発明の電解液には、漏れ電流の低減、火花発生電圧向上、ガス吸収等の目的で種々の添加剤を加えることができる。添加剤の例として、リン酸化合物、ホウ酸化合物、多価アルコール類、ニトロ化合物、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールのランダム共重合体及びブロック共重合体に代表される高分子化合物等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
[実施例1]
式(1)で示される化合物gを表1に示す。(a)極性溶媒、(b)式(1)で示される化合物gのアンモニウム塩および(c)セバシン酸のアンモニウム塩を使用した電解液の組成を表2に示す。得られた電解液について、−40℃で1時間静置したときの結晶析出の有無、比抵抗、火花発生電圧および25℃で3ヶ月静置したときの分離の有無を、表4に示す。なお、エチレングリコールの重量比を83.0重量部とし、水の重量比を4.0重量部とした。
【0036】
なお、−40℃で1時間静置したときの結晶析出の有無、比抵抗、火花発生電圧および25℃で3ヶ月間静置したときの分離の有無は、それぞれ以下の基準で評価した。
【0037】
<結晶の析出の有無の評価>
電解液50gをガラス瓶に入れ、−40℃の恒温槽で1時間静置したときの結晶の析出の有無を、以下の基準で評価した。
○:結晶が析出せず、均一である
×:結晶が析出している
【0038】
<比抵抗の測定>
電導性の指標として、比抵抗の測定を行った。比抵抗が大きいほど電導性が低いことを意味する。電気伝導度計(東亜電波工業(株)製CM−60S)により、電解液の30℃での比抵抗を測定し、以下の基準で評価した。
○:比抵抗が2500Ω・cm未満
×:比抵抗が2500Ω・cm以上
【0039】
<火花発生電圧の測定>
1L容量ステンレス製容器に電解液700gを入れ、60mm×10mmに切断した純度99.99%以上のアルミ箔を浸漬し、直流電源を繋げて25℃における電解液の火花発生電圧を測定し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
○:火花発生電圧向上度が400V以上
×:火花発生電圧向上度が400V未満
【0040】
<25℃で3ヶ月間静置したときの分離の有無の評価>
電解液50gをガラス瓶に入れ、25℃の恒温槽で3ヶ月間静置したときの結晶の析出の有無を、以下の基準で評価した。
○:分離することなく、均一である
×:分離している
【0041】
[実施例2〜6]
(a)極性溶媒、(b)式(1)で示される化合物h、i、j、k、mのアンモニウム塩(表1参照)およびセバシン酸のアンモニウム塩を使用した電解液の組成を表2に示す。実施例1と同様の方法で、−40℃で1時間静置したときの結晶析出の有無、比抵抗、火花発生電圧および25℃で3ヶ月間静置したときの分離の有無を評価した。結果を表4に示す。
【0042】
[比較例1〜6]
(a)極性溶媒と、化合物s、t、uのアンモニウム塩(表1参照)または化合物p、q、rのアンモニウム塩と、(c)セバシン酸のアンモニウム塩とを使用した電解液の組成を表3に示す。ただし、表3において、pはセバシン酸であり、qはブチルオクタン二酸であり、rは、HOOC-(CH
2)
4-COO-(CH
2CH
2O)
9-CO-(CH
2)
4-COOHである。また、比較例1、2、3では、エチレングリコールの重量比を75.5重量部とし、水の重量比を7.0重量部とした。比較例4、5、6では、エチレングリコールの重量比を83.0重量部とし、水の重量比を4.0重量部とした。
【0043】
実施例1と同様の方法で、−40℃で1時間静置したときの結晶析出の有無、比抵抗、火花発生電圧および25℃で3ヶ月静置したときの分離の有無を評価した。結果を表4に示す。なお、結晶析出の有無の評価において結晶の析出が見られた場合には、比抵抗、火花発生電圧および25℃で3ヶ月間静置したときの分離の有無の評価は行わなかった。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表2、表4の結果から、実施例1〜6の電解液は、低温において結晶が析出することがなく、均一であることがわかる。また、実施例1〜6の電解液は、十分な電導性を示しながら、高い火花発生電圧向上を示すことがわかる。さらに、実施例1〜6の電解液は、経時的に分離することなく、均一であることがわかる。
【0049】
これに対し、比較例1および比較例2は、本発明の式(1)で示される化合物を用いていないために、低温で電解液に結晶が析出した。
比較例3は、本発明の式(1)で示される化合物を用いていないために、電解液が経時的に分離した。
比較例4および比較例5は、式(1)で示される化合物のカルボキシル基に隣接する炭化水素基の炭素数が本発明の範囲より小さいために、火花発生電圧が不十分である。
比較例6は、式(1)で示される化合物のオキシアルキレン基の付加モル数が本発明の範囲より大きいために、比抵抗が大きい。