特許第6241719号(P6241719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社吉野工業所の特許一覧

<>
  • 特許6241719-合成樹脂製丸形壜体 図000002
  • 特許6241719-合成樹脂製丸形壜体 図000003
  • 特許6241719-合成樹脂製丸形壜体 図000004
  • 特許6241719-合成樹脂製丸形壜体 図000005
  • 特許6241719-合成樹脂製丸形壜体 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241719
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】合成樹脂製丸形壜体
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/02 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   B65D1/02 221
   B65D1/02 250
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-159305(P2013-159305)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-30473(P2015-30473A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年2月29日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100076598
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 一豊
(72)【発明者】
【氏名】押野 忠吉
(72)【発明者】
【氏名】原田 峻
【審査官】 新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−075409(JP,A)
【文献】 特開平08−048322(JP,A)
【文献】 特開2008−296941(JP,A)
【文献】 特開2005−075421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
B65D 1/46
B65D 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口筒部(2)とテーパー筒状の肩部(3)と円筒状の胴部(4)を有し、胴部(4)の周壁に複数の減圧吸収パネル(10)を周方向に並列状に形成した丸形壜体であって、前記減圧吸収パネル(10)は、周縁部に段部(11)を配設し、該段部(11)を介して前記円筒状の胴部(4)の周壁から段差状に矩形状のパネル部(12)を陥没形成したものとし、前記パネル部(12)は、前記段部(11)に連結して周縁部を形成する基面壁(12a)を有し、該基面壁(12a)を基端として該基面壁(12a)の中央部に平坦な頂面を有し外方に向けて突出する平坦突出部(13)を配設したものであり、該平坦突出部(13)の左右の側端縁では上下の端縁の位置でその段差がなくなる段差部(13a)を介してそれぞれ段差状に前記基面壁(12
a)に連結し、また上下の端縁では前記段差部(13a)に沿った該平坦突出部(13)または前記基面壁(12a)の傾斜によりそれぞれ段差なく該基面壁(12 a)に連結する構成とし、前記平坦突出部(13)に縦溝(14)と横溝(15)を十字状に配設したことを特徴とする合成樹脂製丸形壜体。
【請求項2】
縦溝(14)を、平坦突出部(13)の上端部と下端部を除く範囲に延設する構成とした請求項1記載の合成樹脂製丸形壜体。
【請求項3】
平坦突出部(13)の左右方向の中央部に縦溝(14)を形成し、上下方向の中央部に横溝(15)を形成した請求項1または2記載の合成樹脂製丸形壜体。
【請求項4】
各減圧吸収パネル(10)のパネル部(12)の基面壁(12a)は、変形のない状態で縦断面において平坦状、若しくは内方に湾曲する構成とした請求項1、2または3記載の合成樹脂製丸形壜体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴部に減圧吸収パネルを備える合成樹脂製丸形壜体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、殺菌を必要とするたとえば果汁飲料、お茶等のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製の壜体(ペットボトル)等の合成樹脂製壜体への充填方法として、所謂、高温充填と呼ばれる方法があるが、90℃前後の温度で内容液を壜体に充填し、キャップをして密封後、冷却するものであり、冷却後には壜体内がかなりの減圧状態となる。
【0003】
このため、このような高温充填を伴う用途については、胴部に減圧吸収パネルを形成し、減圧に伴う壜体の陥没変形を、丸形壜体がいびつに変形した感じを与えることなく、目立たないように吸収(緩和)する機能、所謂、減圧吸収機能を発揮するようにした所謂、耐熱ボトルが用いられている。
たとえば、特許文献1には胴部に中心軸に対して軸対称に、6ケの縦長の減圧吸収パネルを陥没形成した丸形壜体に係る発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−63516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、減圧吸収機能をより効果的に発揮させるため、各種のリブを配設する等の、減圧吸収パネルの形状設計に係る発明や考案がある。
一方で、高温充填してキャップで密閉すると、その直後では壜体内部が加圧状態になり、それに伴い壜体胴部が膨出状に変形し、この変形の度合いが大きくなると充填ラインでの運搬時に支障をきたす、さらには塑性変形により冷却後も変形が回復せず、商品性が損なわれる等の問題が生じる恐れもある。
すなわち、減圧吸収パネルの形状設計にあたっては、減圧吸収機能をより高めると共に、上記した高温充填時における膨出変形を、壜体が歪に変形した感じを与えることなく、また局部的な塑性変形を抑制しながら元の形状へ回復可能に、吸収(緩和)する機能(以下、加圧吸収機能と略記する。)についても考慮する必要がある。
近年、この種の壜体では材料コストや省資源の観点から周壁の肉厚を薄くすることが求められており、薄肉化をさらに進めようとする場合には、高温充填時には合成樹脂がその軟化温度に近づくことも相俟って、局部的な塑性変形が発生し易く、上記した加圧吸収機能を考慮した減圧吸収パネルに係る形状設計が重要となっている。
【0006】
そこで、本発明は合成樹脂製丸形壜体において、減圧吸収機能と加圧吸収機能を高いレベルで共に発揮させることができる減圧吸収パネルの形状を創出することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主たる構成は、口筒部とテーパー筒状の肩部と円筒状の胴部を有し、胴部の周壁に複数の減圧吸収パネルを周方向に並列状に形成した合成樹脂製の丸形壜体であって、
減圧吸収パネルは、周縁部に段部を配設し、この段部を介して円筒状の胴部の周壁から段差状に矩形状のパネル部を陥没形成したものとし、
このパネル部は、段部に連結して周縁部を形成する基面壁を有し、この基面壁を基端として中央部に平坦な頂面を有し外方に向けて突出する平坦突出部を配設したものとし、
この平坦突出部は、左右の側端縁では上下の端縁の位置でその段差がなくなる段差部を介してそれぞれ段差状に基面壁に連結し、また上下の端縁では段差部に沿った平坦突出部または基面壁の傾斜によりそれぞれ段差なく基面壁に連結する構成とし、
この平坦突出部に縦溝と横溝を十字状に配設する、と云うものである。
【0008】
上記構成において、減圧吸収パネルのパネル部の基面壁を基端として外方に向けて突出する平坦突出部を配設することにより、平坦突出部の左右の側端縁の段差状の部分(段差部)の周方向への伸展により、壜体内の加圧時の膨出変形、あるいは減圧時の陥没変形におけるパネル部の変形量を大きくすることができ、加圧吸収機能と減圧吸収機能を共に大きくすることが可能となる。
また、減圧時には平坦出部の内方への反転変形性を利用してその減圧吸収機能をさらに大きくすることもできる。
【0009】
ここで、加圧時と減圧時における矩形状のパネル部の変形性についてみると、矩形状のパネル部の膨出状、あるいは陥没状の変形は周縁に位置する段部により拘束されるが、パネル部の上端部と下端部近傍では中央部に比較して拘束力が強く、上記のように平坦突出部を配設したとしても、その変形性を十分に利用することができず、当該上端部と下端部で加圧吸収機能および減圧吸収機能を十分に発揮させることは難しい。
この点について、上記構成では、平坦突出部上下の端縁、段差状ではなく傾斜状に、すなわち上下の端縁の位置でその段差がなくなる左右の側端縁の段差部に合わせて平坦突出部または基面壁を傾斜させた傾斜部により段差のない状態で基面壁に連結する構成としており、当該構成によれば、平坦突出部の上下方向の中央部における変形を、この傾斜状部分(傾斜部)を介してパネル部の周縁部に配設される基面壁の上端部あるいは下端部にスムーズに進展させることができ、パネル部の上端部と下端部も加圧吸収機能および減圧吸収機能を発揮することができる部位として利用することが可能となる。
【0010】
上記のように、上記パネル部の構成により、パネル部の周縁部を構成する基面壁も含めて大きな膨出変形性や陥没変形性を発揮させることができるが、このようにパネル部の変形量が大きくなる形状にすると、一方で、たとえばパネル部の上端近傍で局部的な変形が発生し易くなる等の問題が生じる。
この点については、上記構成で、平坦突出部に縦溝と横溝を十字状に配設することにより、平坦突出部の平坦な頂面に位置する縦溝と横溝が交差する領域を起点として加圧状態での膨出変形と減圧状態における陥没変形を、局部的な変形を抑制しながら上下、左右方向に、周縁部に向けてスムーズに進行させることができ、減圧吸収機能と加圧吸収機能を高いレベルで共に発揮させることが可能となる。
【0011】
ここで、縦溝は特に高温充填時に膨出変形の起点として作用し、平坦突出部の上下方向の中央部で左右に開くように変形する。これにより、パネル部が膨出変形し、大きな加圧吸収機能を発揮させることが可能となるが、縦溝が左右に大きく開きすぎて塑性変形し、室温状態となっても変形が回復しないと云う問題が発生する。
この点については、上記構成により、さらに縦溝に交差状態で横溝を配設することにより、上下方向の中央部におけるパネル部の膨出変形を抑制して縦溝の過度の変形を防止することができる。すなわち縦溝の上下方向の中央部近傍への膨変形の集中を抑制することで、膨変形を、縦溝と横溝が交差する領域からパネル部の周縁に向けて全体的にスムーズに進展させることが可能となる。
なお、上記構成、あるいは以下の説明では減圧吸収パネルの構成の説明に当たってその方向性を明確にするために内方、外方、左右、縦、横等の用語を使用しているが、内方は壜体の内側方向、外方は壜体の側方向を示す。
また、左右、縦、横は壜体を正立させた状態で、減圧吸収パネルを正面から見た際の方向である。
【0012】
本発明の他の構成は、上記主たる構成において、縦溝を平坦突出部の上端部と下端部を除く範囲に延設する構成とする、と云うものである。
【0013】
上記のように、平坦突出部の上端部と下端部には縦溝が存在しない構成とすることにより、当該上端部と下端部では縦溝による拘束がなくなるので、
前述した平坦突出部の上下方向の中央部における変形が、パネル部の周縁部に配設される基面壁の上端部あるいは下端部に傾斜状部分(傾斜部)を介してよりスムーズに進展し、パネル部の上端と下端部でも加圧および減圧吸収機能をより大きく発揮させることが可能となる。
【0014】
本発明のさらに他の構成は、平坦突出部の左右方向の中央部に縦溝を形成し、上下方向の中央部に横溝を形成する、と云うものである。
【0015】
上記の縦溝と横溝の配設態様は標準的に採用することができるものであるが、勿論、減圧吸収パネルの変形態様、あるいはその周辺部位の変形性等を考慮し、例えば横溝を上下の中央部から一方にずらして形成する等、さまざまな配設態様を選択することができる。
【0016】
本発明のさらに他の構成は、上記主たる構成において、各減圧吸収パネルのパネル部の基面壁は、変形のない状態で縦断面において平坦状、若しくは内方に湾曲する構成とすると云うものである。
【0017】
高温充填工程を要する製品分野では、減圧吸収パネルは高温充填の直後に膨出変形し冷却後陥没変形するが、上記パネル部の基面壁に係る構成によれば、膨出変形状態から陥没変形状態への移行をよりスムーズに進行させることが可能となる。
ここで、高温充填による膨出変形は、使用する合成樹脂の軟化温度に近い温度で生じるため、基面壁が縦断面において予め膨出状に形成されていない場合でもスムーズに始まり、そして進展る。
【発明の効果】
【0018】
本発明の合成樹脂製丸形壜体は上記した構成となっているので、以下に示す効果を奏する。すなわち、本発明の主たる構成を有するものにあっては、
平坦突出部は上下の端縁で、段差状ではなく傾斜状に、すなわち上下の端縁の位置でその段差がなくなる左右の側端縁の段差部に沿うように平坦突出部または基面壁を傾斜させた傾斜部により段差のない状態で基面壁に連結する構成であり、平坦突出部の上下方向の中央部における変形が、この傾斜状部分(傾斜部)を介してパネル部の周縁部に配設される基面壁の上端部あるいは下端部にスムーズに進展するので、パネル部の上端部と下端部も、加圧吸収機能および減圧吸収機能を発揮できる部位として利用することができる。
【0019】
そして、平坦突出部に縦溝と横溝を十字状に配設することにより、平坦突出部の平坦な頂面に位置する縦溝と横溝が交差する領域を起点として加圧状態での膨出変形と減圧状態における陥没変形を、局部的な変形を抑制しながら上下、左右方向に、周縁部を構成する基面壁に向けてスムーズに進行させることができ、減圧吸収機能と加圧吸収機能を高いレベルで共に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の合成樹脂製丸形壜体の一実施例の正面図である。
図2図1中の減圧吸収パネルの正面図である。
図3図1中のA−A線に沿って示す平断面図である。
図4図1中のB−B線に沿って示す胴部壁の縦断面図である。
図5】(a)は図3中の減圧吸収パネル近傍を拡大して示す平断面図、(b)は比較例の壜体について(a)と同様に示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願の発明の実施の形態を実施例に沿って図面を参照しながら説明する。
図1図5(a)は本発明の合成樹脂製丸形壜体の一実施例を説明するためのものであり、図1は正面図、図2図1中の減圧吸収パネル10の正面図、図3図1中のA−A線に沿って示す平断面図、図4図1中のB−B線に沿って示す胴部4壁の縦断面図、図5(a)は図3中の減圧吸収パネル10近傍を拡大して示す平断面図である。
【0022】
この壜体1はPET樹脂製の2軸延伸ブロー成形品で、内容量が280mlで、口筒部2、肩部3、胴部4、底部5からなり、その基本的な形状は丸形ボトルである。円筒状の胴部4には、周方向に縦長矩形状の6ケの減圧吸収パネル10が並列状に陥没形成され、胴部4の平断面形状は図2に示されるように6角形状となっている。また、隣接する減圧吸収パネル10の間には壜体1の剛性や座屈強度を担う6ケの柱部6が残存形成している。
【0023】
また、胴部4の上端部と下端部には短円筒部7a、7bを配設している。
減圧吸収パネル10の下端と短円筒部7bの間には周溝8aを配設して減圧吸収パネル10の変形が下方に進行しないようにしている。
また、短円筒部7bには周溝8bを配設し、この短円筒部7bに対する周リブとしての機能を発揮するようにしている。
【0024】
縦長矩形状の減圧吸収パネル10は、周縁部に段部11を配設し、この段部11を介して円筒状の胴部4の周壁から段差状に矩形状のパネル部12を陥没形成したものである。
そしてこのパネル部12は、段部11に連結して周縁部を形成する基面壁12aを有し、この基面壁12aを基端として中央部に縦長矩形状の平坦な頂面を有し壜体1の外方に向けて突出する平坦突出部13を配設したものである。
【0025】
上記平坦突出部13の左右の側端縁は図2などに記載のとおり、それぞれ上下の端縁の位置でその段差がなくなる段差部13aを介して段差状に基面壁12aに連結する構成としている。それらの段差部13aは、図3,5に示すように傾斜面からなり、これらの傾斜面が加圧時あるいは減圧時に周方向へ伸展変形できるようになっている。また、平坦突出部13の上下の端縁では、段差部13aに沿って内方に向けて傾斜した平坦突出部13による上側の傾斜部13b1これとは反対に外方に向けて傾斜した基面壁12aによる下側の傾斜部13b2により、それぞれの段差(高低差)が解消され、段差のない状態で基面壁12aに連結する構成としている図4参照)
また、この平坦突出部13の頂面には十字状に交差するように縦溝14と横溝15を配設している。
ここで横溝15は平坦突出部13の全横幅に亘って延設されおり、一方、縦溝14は平坦突出部13の上端部と下端部を除いた範囲に延設されている。
【0026】
そして、図4の縦断面図に示されるように、パネル部12の基面壁12aは縦断面において壜体1の内方に湾曲している。
【0027】
次に、上記実施例の壜体1について87℃の水を充填、キャップでシールした状態で、この高温充填直後の膨出状態及び、冷却後に壜体内が減圧状態となった際の、特に減圧吸収パネル10の変形態様を観察し、
この観察結果を、減圧吸収パネル10の左右方向の中央位置における胴部4壁の縦断面図である図4と横溝15が配設される高さ位置での平断面図である図5(a)を参照して説明する。
なお、図4図5(a)では実線で変形のない定常状態F1を、二点鎖線で膨出状態S1を、また破線で陥没状態Rを概略的に示している。
【0028】
高温充填直後の膨出変形では、縦溝14が左右方向に開きながら起点となって、図5(a)中に示されるように、左右の段部11間で凸凹屈曲状に形成されるパネル部12が周方向に引き伸ばされるようにして、膨状態S1となる。
この際、図4に示される縦断面におけるパネル部12の膨変形の態様を見ると、膨出状態S1で示されるように、横溝15を配設した位置、すなわち平坦突出部13の中央部で最も大きく膨出し、パネル部12の上端部および下端部である基面壁12aが位置する領域に向けて徐々に膨出の程度が小さくなっている。
【0029】
すなわち、図4図5(a)中の膨出状態S1を合せてみると、縦溝14と横溝15が交差する領域、すなわち平坦突出部13の中央部で最も大きく膨出し、上下、左右方向に、パネル部12の周縁部に向けて徐々に膨出の程度が小さくなっており、平坦突出部13の中央部に位置する縦溝14と横溝15の交差した領域を起点とし、膨出変形を、局部的な変形を抑制しながら上下、左右方向に周縁部に向けてスムーズに進行させることができることが分かった。
また、中央部における膨出変形も図5(a)で示されるように一点鎖線で示す胴部4壁の包絡円内に収まるようにすることができる。
【0030】
ここで、上記したように膨出変形の程度は平坦突出部13の中央部で最も大きく膨し、上下、左右方向に、パネル部12の周縁部に向けて徐々に膨出の程度が小さくなるが、平坦突出部13はその上下の端縁で、段差状ではなく傾斜部13b1、13b2により傾斜状に、すなわち段差のない状態で基面壁12aに連結する構成としており、平坦突出部13の中央部における変形が、傾斜部13b1、13b2を介して基面壁12aの上端部あるいは下端部にスムーズに進展させることができる。これにより、パネル部12の上端部に相当する平坦突出部13の上端部から基面壁12aの上端部にかけての領域、そしてパネル部12の下端部に相当する平坦突出部13の下端部から基面壁12aの下端部にかけての領域においても、パネル部12の膨出変形性が向上し、当該領域も加圧吸収機能を発揮する領域として利用することができることが分かった。
【0031】
ここで、図1に示す実施例の壜体1において、縦溝14だけを配設し、横溝15を配設しない壜体を比較例の壜体として用意し、実施例の壜体1と同様に高温充填直後の減圧吸収パネル10の膨出変形の態様を観察し、縦溝14の上下方向の中央部分での平断面図である図5(b)中に二点鎖線でその概略的な膨出状態S2を示した。
この膨出状態S2に示されるように、横溝15による規制がないため、図中、一点鎖線で示す胴部4壁の包絡円を超えて大きく膨出変形し、壜体が歪に変形した感じを与えることとなった。
また、特に縦溝14が大きく開くように塑性変形し、永久変形が残り、冷却が進行しても定常状態F2に戻らない結果となった。
そして、図5(a)の膨出状態S1と図5(b)の膨出状態S2を比較すると、縦溝14に十字状になるように横溝15を配設することによる、縦溝14を含む減圧吸収パネル10の膨出変形の抑制効果を確認することができる。
【0032】
次に、図1の実施例の壜体1の冷却後の減圧化に伴う陥没変形について図4図5(a)を参照して説明すると、
この陥没変形も縦溝14と横溝15が交差する領域が起点となって、局部的な変形を抑制しながら上下、左右方向に周縁部に向けてスムーズに進行させることができることが分った。
そして、前述したように本実施例の壜体1では、図4に示されるようにパネル部12の基面壁12aは縦断面において壜体1の内方に湾曲した構成としており、当該構成の作用効果により、膨出状態S1から陥没状態Rへの移行はスムーズに進行した。
【0033】
また、陥没変形する際にこの平坦突出部13が平坦状に、さらには図5(a)中に示されるように反転状に変形することにより、陥没変形量を大きくし、より減圧吸収機能を大きく発揮させることができる。
さらに、膨出変形と同様に、陥没変形時にも平坦突出部13の中央部における変形が、傾斜部13b1、13b2を介して基面壁12aの上端部あるいは下端部にスムーズに進展させることができ、パネル部12の上端部に相当する平坦突出部13の上端部から基面壁12aの上端部にかけての領域、そしてパネル部12の下端部に相当する平坦突出部13の下端部から基面壁12aの下端部にかけての領域においても、パネル部12の陥没変形性が向上し、当該領域も減圧吸収機能を発揮する領域として利用することができることが分かった。
【0034】
以上、実施例に沿って本願発明の実施の形態とその作用効果について説明したが、本願の丸形壜体の実施の形態はこれら実施例に限定されるものではない。
上記実施例では、PET樹脂製で280mlの丸形壜体の例を示したが、本願発明の作用効果は他の合成樹脂製のもの、さらに小型あるいは大型の壜体についても十分発揮されるものである。
【0035】
また、減圧吸収パネルの形状についても上記実施例のものに限定されるものではなく、必要とされる加圧吸収機能と減圧吸収機能、壜体の剛性や座屈強度、さらには意匠性を考慮して、本発明に記載される範疇の中でさまざまな態様とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、本発明の合成樹脂製丸形壜体は減圧吸収パネルにより減圧吸収機能と加圧吸収機能を高いレベルで共に発揮させることができるものであり、高温充填工程を要する製品分野での幅広い使用展開が期待される。
【符号の説明】
【0037】
1 ;壜体
2 ;口筒部
3 ;肩部
4 ;胴部
5 ;底部
6 ;柱部
7a、7b;短円筒部
8a、8b;周溝
10;減圧吸収パネル
11;段部
12;パネル部
12a;基面壁
13;平坦突出部
13a;段差部
13b1、13b2;傾斜部
14;縦溝
15;横溝
F1、F2;定状態
R ;陥没状態
S1、S2;膨出状態

図1
図2
図3
図4
図5