特許第6241780号(P6241780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241780重量コンクリートによるプレキャストコンクリート製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241780
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】重量コンクリートによるプレキャストコンクリート製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20171127BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20171127BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20171127BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20171127BHJP
   G21F 1/04 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B22/06 Z
   C04B22/14 D
   C04B40/02
   G21F1/04
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-112631(P2013-112631)
(22)【出願日】2013年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-231450(P2014-231450A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229667
【氏名又は名称】日本ヒューム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089886
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 雅雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】江口 秀男
(72)【発明者】
【氏名】阿彦 拓
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−132442(JP,A)
【文献】 特開平07−025654(JP,A)
【文献】 特開平01−298045(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/142029(WO,A1)
【文献】 特開2003−267765(JP,A)
【文献】 特開2009−179498(JP,A)
【文献】 笠井芳夫,コンクリート総覧,日本,技術書院,1998年 6月10日,第1版,第361−362頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が3.5〜6.0g/cm3の重量骨材と膨張材30〜80kg/m3を含み、水粉体比率25〜55%、単位容積質量が3.00〜3.80ton/m3、を配合し、スランプフローが40cm以上70cm未満の中・高流動であるコンクリートを型内に充填し、該コンクリートの混練から一定の前置き時間が経過したのち蒸気養生を施すことを特徴としてなる重量コンクリートによるプレキャストコンクリート製品の製造方法。
【請求項2】
前記蒸気養生は、前置き時間3時間経過後、昇温を20℃/時間とし、70℃以下の温度で3時間保持した後に自然冷却する請求項1に記載の重量コンクリートによるプレキャストコンクリート製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば放射性物質で汚染された廃棄物からの放射線を遮断する効果のある重量コンクリートによるプレキャストコンクリート製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、重量コンクリートは,密度3.0g/cm3を超える重量骨材(主に鉄鉱石や鉄鋼スラグ)を普通コンクリートの骨材(砂利、砂)と置き換えて製造するものであり、その重量性を生かして、主に船舶や建設機械のカウンターウエイトなどに用いられている。
【0003】
また、重量コンクリートの重量性は、放射能の遮蔽に効果が特長として挙げられるが、重量コンクリートの放射能の遮蔽性能は、放射線が透過しようとする部材の厚みと、部材の密度とに比例関係にあるといわれている。
【0004】
即ち、コンクリートを用いて放射線を遮蔽しようとする場合、放射性物質を格納する容器は、部材厚を厚くすることや、密度を大きくすることが有効であることも知られており、放射性物質を多量に含んだ放射能汚染物質(水、土、樹葉、枝等)を格納する容器を製造するに際しては、単位容積質量が3.00ton/m3以上の重量コンクリートを用いることが有効であることが知られている。
【0005】
また、放射線遮蔽には鉛板の使用が有効であることか古くから知られているが、鉛の環境汚染を考慮し、これに代わるものとして厚い鉄板からなるドラム缶状の容器が使用されている。
【0006】
コンクリートの重量化のために、コンクリート内に細骨材として鋼球を使用し、粗骨材として丸鋼切断片を混入させる方法(例えば特許文献1)や耐食合金粉末を混入させる方法(特許文献2)等が開発されている。
【0007】
特許文献1のように、細骨材、粗骨材として鋼製の重量骨材を混入する場合方法では、コンクリート重量が大きくなり放射線の遮蔽能力が高くなるものであるが、これらの金属骨材が、砂や砕石などの他の骨材に比べて比重が大きいため、コンクリート混練時に金属骨材の分布が不均一となり、放射線遮蔽作用にバラつきが生じるという問題があった。
【0008】
このため、製造された放射線遮蔽コンクリートにおける重量骨材の分布を均一にするためのコンクリート組成が開発されている(特許文献3、4)。
【0009】
このような従来の放射線遮蔽用のコンクリートは、放射性廃棄物の格納を目的とした場合、コンクリートの長期的な耐久性のみならず、格納した物質が外部へ漏出しないことが特に求められ、遮水性が必要となる。遮水性を持たせる方法として、従来から使用されている遮水シートを内部に埋設したり内面に貼り付けたりする方法があるが、この場合においても遮水シートの破損を完全に防止することはできない。
【0010】
また、従来の放射線遮蔽のための重量コンクリートにおいても、ひび割れによる漏水は殆ど避けることはできず、長期に亘って使用すると内部の水が漏れ出すことが避けられないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許2669876号公報
【特許文献2】特開2002−321961号公報
【特許文献3】特開2009−276194号公報
【特許文献4】特開2006−38465号公報
【特許文献5】特開2002−120895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の如き従来の問題に鑑み、放射線遮蔽用の重量コンクリートであり、且つ微細なひび割れに対して自己治癒性能を持ち、安定した品質を確保するために製品工場での製造が図られ、且つ部材の大型化や特殊形状に対応できるよう高い自己充てん性を有する重量コンクリートによるプレキャストコンクリート製品の製造方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、密度が3.5〜6.0g/cm3の重量骨材と膨張材30〜80kg/m3を含み、水粉体比率25〜55%、単位容積質量が3.00〜3.80ton/m3、を配合し、スランプフローが40cm以上70cm未満の中・高流動であるコンクリートを型内に充填し、該コンクリートの混練から一定の前置き時間が経過したのち蒸気養生を施すことを特徴としてなる重量コンクリートによるプレキャストコンクリート製品の製造方法にある。
【0014】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記蒸気養生は、前置き時間3時間経過後、昇温を20℃/時間とし、70℃以下の温度で3時間保持した後に自然冷却することにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るプレキャストコンクリート製品の製造方法においては、請求項1に記載のように、密度が3.5〜6.0g/cm3の重量骨材と膨張材30〜80kg/m3を含み、水粉体比率25〜55%、単位容積質量が3.00〜3.80ton/m3、を配合したコンクリートを型内に充填し、該コンクリートの混練から一定の前置き時間が経過したのち蒸気養生を施すこととしたことにより、放射線遮蔽に有効な重量コンクリートであって、ひび割れに対して自己治癒作用を発揮し、不透水性が長期間にわたって維持できるコンクリート製品が得られる。
【0016】
また、前記コンクリートはスランプフローが40cm以上70cm未満の中・高流動としたことによって、重量コンクリートでありながら型枠内へ充填性を高くできる。
【0017】
本発明は請求項2に記載のように、蒸気養生は、前置き時間3時間経過後、昇温を20℃/時間とし、70℃以下の温度で3時間保持した後に自然冷却することとすることにより、未反応の膨張材を封じ込めた状態でコンクリートの初期強度が高められ、膨張材によるひび割れ修復作用が、長は間にわたって持続される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】表1の実験結果をグラフ化したグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明の実施の形態を図に示した実施例に基づいて説明する。
【0020】
本発明に係る重量コンクリートによるプレキャストコンクリート製品の製造方法の特徴は、密度が3.5〜6.0g/cm3の重量骨材と膨張材30〜80kg/m3を含み、水粉体比率25〜55%、単位容積質量が3.00〜3.80ton/m3、を配合したコンクリートを型内に充填し、該コンクリートの混練から一定の前置き時間が経過したのち蒸気養生を施すことにある。
【0021】
また、前記蒸気養生は、前置き時間3時間経過後、昇温を20℃/時間とし、70℃以下の温度で3時間保持した後に自然冷却するものとしている。
【0022】
重量骨材について、その密度が6.0g/cm3を超えると骨材の自重による沈降方向への圧力が、それをとどめようとするコンクリート中のセメントペーストの粘性による抵抗力よりも著しく大きくなるため、両者は容易に材料分離してしまうためである。
【0023】
また、密度が3.5g/cm3未満である場合には、コンクリート全体の単位容積質量が3.00ton/m3以上になりにくいため、放射線の遮蔽性能が得がたくなるためである。
【0024】
水粉体比が55%を超える場合には、プレキャストコンクリートとしての所要の強度が得られないばかりでなく、コンクリートの引張強度が低くなるため、ひび割れが入りやすく、放射線の遮蔽性能を著しく低下させてしまう。
【0025】
また、水粉体比が25%未満である場合には、コンクリートの粘性が急激に高くなることがあり、充填不良を起こす懸念が生じることと、水粉体比が25%未満になると単位粉体量も大きくなり、コンクリートの自己収縮応力が無視できないほど増大するためにひび割れが発生しやすくなり、放射線の遮蔽性能を著しく低下させてしまう可能性が高い。
【0026】
一方で、コンクリートの遮水性に重要な要因としては、ひび割れの他に、コンクリートの持つ透水性が重要である。
【0027】
本発明方法の試験のため、表1に示す配合No.1〜12に示すように、単位溶接質量2.4ton/m3、3.1ton/m3及び3.6ton/m3のコンクリートについて試験を行った。水粉体質量比35%、45%、および55%を組み合せ、なおかつ膨張材を含んだコンクリート供試体の、一面からの透水試験を実施した。
表1000002

【0028】
結果は、表2に示す如くであった。尚、この結果をグラフ化したものが図1に示すグラフである。
表2000003
【0029】
これによると、コンクリートの密度には関係なく、水粉体比55%>45%>35%の順で透水速度が大きくなることが判明した。さらに、それぞれの配合に膨張材を30〜80kg/m3を混和すると、著しく透水量が減り、遮水性能が上昇することが確認された。
【0030】
このメカニズムは、コンクリートが硬化した後に膨張材が反応し、針状のエトリンガイトの結晶を生成したことにより、コンクリート内の空隙が充填され、コンクリートが緻密になるためと考えられる。
【0031】
この作用は、セメントの水和によるコンクリートの強度増進時期と、膨張材のエトリンガイトの生成による膨張時期とに大きく影響され、好ましくは、膨張材が膨張結晶を生成する前か、あるいはほぼ同時期に、セメントの水和反応が進んでいることが望ましい。
【0032】
そのため本発明では、セメントの水和反応を促進するために、コンクリートの混練から前置き時間を3時間おき、昇温を20℃/時間とし、最高温度65℃にて3時間保持した後に自然冷却(以下蒸気養生と称する)を施した。
【0033】
尚、前置き時間がこれよりも著しく短い場合には、まだセメントの凝結が開始していないために、コンクリート内の水分が温度の上昇と共に蒸気となって外部に逸散し、その後のセメントの水和反応を阻害する。
【0034】
また逸散されない一部の水分は体積膨張し、脆弱な水和組織を圧迫することでコンクリートを内部から破壊してしまう。さらに、最高温度が65℃を著しく上回った場合も同様に、水分が蒸気となり、その蒸気圧によって内部破壊を生じる。
【0035】
一般的にプレキャストコンクリートにおける蒸気養生は、生産効率を高めるため、型枠の使用回転率を高めるために施していたが、本発実施例では、重量コンクリートにおいては、強度を早く発現させ、膨張材を有効に活用し、遮水性を著しく高めるために蒸気養生を施している。
【0036】
その理由は、蒸気養生を実施しない状態ではコンクリートの強度発現が遅くなり、例えばコンクリート表面からの水分逸散により発生するコンクリートの収縮応力に対して、それに耐えうるコンクリート強度を有さない場合には、コンクリート表面からのひび割れが進行し、遮水性能が低下する。そのひび割れの発生を未然に防ぐためには、蒸気養生等の加温促進養生が必要不可欠となる。
【0037】
遮水性を高めるために混和する膨張材の適正な使用量は、実験の結果をグラフ化した図2に示すグラフから、透水速度0.25以下のクラスLOWとするには30〜80kg/m3が望ましいことが判明した。
【0038】
尚、遮水性は、British Standard 1881-5に規定されるInitial Surface Absorption Test(ISAT)に準拠した表層透水試験を実施して評価した。LevittによりISATを用いた品質評価基準が「High」、「Average」、および「Low」の3段階にクラス分けされている。
【0039】
膨張材の量が30kg/m3未満のでは、コンクリート内部に生成するエトリンガイトの結晶がコンクリート内部に十分に行き渡らず、結果的に緻密さは減少する。
【0040】
また、膨張材の量が80kg/m3を超えた場合、過添加となり、コンクリート内部から膨張圧が過大になり、内部破壊を生じる危険が高まるため好ましくない。
【0041】
また膨張材は、コンクリートの内部空隙構造を緻密にして遮水性能を上昇させるだけでなく、何らかの理由によりコンクリートに微細なひび割れが入ったとき、通常はそこから漏水が発生し、コンクリートの遮水性能を著しくそこなわれるが、コンクリート中に膨張材がある一定量以上混和されていると、未水和の膨張材が残存しているため外部から侵入した水の存在と共に水和・膨張反応を開始して、自己治癒材として機能することにより、硬化した後に発生したひび割れを塞ぐことによって、遮水性能を再度高らしむ。
【0042】
コンクリートに配合するセメントは普通ポルトランドセメントでよいが、これに限定されず、各種のセメントが使用できる。
【0043】
膨張材は石灰系、カルシウムサルフォアルミネート系(CSA系)がある。これらはいずれもコンクリートの遮水性を向上させ、また自己治癒効果もある。特にエトリンガイトを生成するCSA系膨張材は性能が良好である。混和量は30〜○キロ/m3の範囲が好適である。
【0044】
重量骨材は、磁鉄鉱、砂鉄、褐鉄鉱、針鉄鉱、赤鉄鉱、チタン鉄鉱、鉄、リン鉄、重晶石、銅からみ、などが主要な重量骨材として挙げられ、鉄鉱石系の天然産と、人工造粒のものとがある。
【0045】
一般に、重量骨材は密度が大きいほど高価であるため、材料コストとコンクリート性能とをバランスさせる必要がある。本例では、コンクリートの単位容積質量を3.00t/m3以上に容易にかつ安価に設計できるように人工造粒の重量骨材を用いた。
【0046】
粗骨材は、鉄分を多く含むダストと還元スラグを混合溶融し、破砕、粒度調整をして製造した重量粗骨材、細骨材は、製鉄所の製造工程で発生する酸化鉄粉を粒度調整した材料をそれぞれ用いた。いずれも表乾密度は4.0gスラッシュcm3以上のものを用いた。
【0047】
一般に、重量コンクリートは自重が大きいため、スランプが大きくなる傾向があり、普通コンクリートと同程度のスランプであっても作業性は同等以下となる。
【0048】
振動台上に型枠を設置できないような特殊形状なものや中〜大型製品では、十分な振動成形を与えることができないため、弱い振動締固め条件下でも成形できるようコンクリートの充填性を確保することが必要となる。このため本例ではスランプフロー50cm程度のコンクリートとした。
【0049】
コンクリートの単位容積質量は、放射線遮蔽のために大きいほど望ましいが、材料価格と性能とのバランスを考慮する必要がある。密度4.0g/cm3以上の重量骨材を用いることで、コンクリートの単位容積質量3.7ton/m3までは比較的容易に配合設計が可能である。
【0050】
硬化促進方法として加熱養生を行う。加熱養生は、コンクリートの凝結・硬化、強度促進を促進するために加熱し、セメントの水和反応を促進する養生である。常圧蒸気養生、オートクレーブ養生が一般的である。本例では常圧蒸気養生により十分な強度発現が短期間に得られることを示しているが、これに限定するものではない。



図1