【実施例】
【0076】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
〔試験例1:甘蔗由来のエキスのエタノール沈殿画分によるパイエル板活性作用試験〕
<甘蔗由来のエキスの製造>
(イオン交換樹脂を用いた単塔式回分分離による2番蜜の分画)
原糖工場で得られた2番蜜処理液を原料として、FPLCシステム(ファルマシア株式会社製)を用いた単塔式回分分離法によるイオン交換カラムクロマトグラフィーによる分画分離を行った。原料として使用した2番蜜処理液は、2番蜜を希釈後、炭酸ソーダによる清浄処理、ケイソウ土ろ過を行ったものである。この原料液の分析値は、ブリックス(Bx)47.4、糖度(Pol.)23.2、純糖率(Purity)48.9、還元糖分3.2%であった。
【0078】
カラムにゲル型の強酸性陽イオン交換樹脂(商品名:UBK530、ナトリウムイオン型、三菱化学株式会社)500mlを充填した。カラムは内径26mm、高さ1000mmで、フローアダプター付きであった。通液条件は、溶出液として脱気した蒸留水を用い、流速SV=0.5hr
−1(4.17ml/分)、温度60℃にて行った。
【0079】
約25mlの原料を上記イオン交換カラムに供与した。分画条件は、原料供与30分後から溶出液の回収を開始し、試験管1本当たり3.6分間回収し(約15ml/本)、全部で30本回収した。
【0080】
得られた30画分(画分1〜30)について、波長420nmの吸光度、電気伝導度、及び糖(Sucrose、Glc、Fru)含量(各画分の固形分質量の合計を基準とした質量%)を測定し、
図6に示した。ここで、吸光度測定は、0.5mMリン酸バッファー(pH7.5)2mlに各画分0.1mlを加えたものを測定試料とした。電気伝導度測定は、各画分を蒸留水で0.5%に希釈したものを測定試料とした。糖含量はHPLCを用いた常法により測定した。
【0081】
得られた30画分を以下のようにまとめてサンプル1〜8を得た。
サンプル1:画分3及び4。
サンプル2:画分5及び6。
サンプル3:画分7及び8。
サンプル4:画分9及び10。
サンプル5:画分11及び12。
サンプル6:画分13及び14。
サンプル7:画分15及び16。
サンプル8:画分17〜30。
なお、画分1及び2は溶出される成分がほとんどなかったため、廃棄した。
【0082】
各サンプルを1晩凍結乾燥して、粉末とした。得られた凍結乾燥粉末0.25gを0.5mMリン酸バッファー(pH7.5)に溶解して、100mlとし、波長420nmでの吸光度を測定し、下記表1に示した。サンプル8の吸光度は0.86と比較的高かったが、これはテーリングした成分を集めたものだからである。他のサンプルは2画分ずつを一緒にしたものであるのに対し、サンプル8は14画分を合わせたものである。したがって、420nmの吸光度は高いが、この画分を回収するのは効率が悪い。
【0083】
各サンプルの分析結果を以下の表1に示した。表1中の電導度灰分は、電気伝導度と既知の硫酸灰分の関係の検量線から係数を求め、算出したものである。表1中、凍結乾燥固形分の分配比率は、全サンプルの固形分質量の合計に対する各サンプルの固形分質量の比(%)である。電導度灰分及び各糖(Sucrose、Glc、Fru)の含量は、各サンプルの固形分質量に対する比(質量%)である。各糖(Sucrose、Glc、Fru)の含量から、サンプル1〜3が非糖分画分に相当し、サンプル4〜8が糖分画分に相当することが判る。ここでいう糖分とは、単糖及び蔗糖を指す。
【0084】
【表1】
【0085】
(イオン交換樹脂を用いた擬似移動床式カラムクロマトグラフィーによる分離)
原糖工場において、結晶缶にて2回蔗糖結晶を回収し、遠心分離により結晶を除いた振蜜である2番蜜を原料として、陽イオン交換樹脂を充填した分離塔を用いた擬似移動床式連続分離法により、イオン交換カラムクロマト分離を行った。
【0086】
原料の調製からイオン交換クロマト分離までの工程は連続的に行われるため、各工程の液の固形分濃度や組成は時間と共に若干変動するが、以下の濃度や組成は定常運転における測定値である。
【0087】
2番蜜はブリックス(Bx.)が約85であった。この濃度はカラムクロマト処理を行うには高いため、ブリックス約50に希釈した。これに、消石灰、炭酸ソーダを添加し不純物を凝集させ、ケイソウ土ろ過を行った。得られたろ液は、ブリックス47.3、糖度(Pol.)23.6、純糖率(Purity)49.9、還元糖分2.5%であった。濾液をイオン交換クロマトグラフィーの原料として用いた。
【0088】
陽イオン交換樹脂としてUBK530(三菱化学株式会社)を用いた擬似移動床式連続分離法によるイオン交換クロマトグラフィーを行った。樹脂を充填した分離塔は8分割されており、1塔当たりの樹脂量は6.5m
3である。原料液と溶離液(水)の供給、及び蔗糖画分と非蔗糖画分の抜き出し位置を一定時間毎に切り替えることにより、連続的に供給、抜き出しを行った。定常時の既定値は、供給流量3m
3/時間、溶離水流量13.5m
3/時間、非蔗糖画分抜き出し流量12.13m
3/時間、蔗糖画分抜き出し流量4.37m
3/時間、切り替え時間267秒であった。このクロマトグラフィー処理により、蔗糖画分と非蔗糖画分が分離された。これらはそれぞれ、
図6における画分10〜17(蔗糖画分)、及び画分1〜9と画分18〜30(非蔗糖画分)とを合わせたものに相当する。蔗糖画分は蔗糖が固形分当たり約87%(HPLC分析による)でブリックスは約35であり、この画分は清浄汁と混合して本工程に戻され、再び蔗糖を回収する操作を行った。また、得られた非蔗糖画分は、蔗糖分が約0.3%(HPLC分析による)でブリックスが約8であった。この非蔗糖画分を濃縮缶により濃縮し、ブリックス40.0、糖度(Pol.)2.3、純糖率(Purity)5.8、還元糖分5.4%とした。この非蔗糖画分を甘蔗由来のエキスとした。甘蔗由来のエキスは、後の試験に用いるため一晩、凍結乾燥処理に付した。得られた凍結乾燥粉末0.25gを0.5mMリン酸バッファー(pH7.5)で100ml溶液にし、波長420nmでの吸光度を測定した。吸光度は、1.11であった。
【0089】
<エタノール沈殿画分の調製>
甘蔗由来のエキス(凍結乾燥重量;418.57974g)に精製水を加えて総量500mLとし、4倍量のエタノールを撹拌しながら加え、室温にて一晩撹拌した。遠心分離(6,000rpm,4℃,30分間)し、得られた沈殿を流水及び精製水にて透析し(7日間)、非透析性画分を凍結乾燥することによりエタノール沈殿画分(「SCE−4」ともいう。)(収量:20.11g,収率:4.8%)を得た。
【0090】
<糖鎖分解SCE−4の調製>
エタノール沈殿画分(SCE−4)(50.45mg)を50mMアセテートバッファー(pH4.5,30mL)に溶解後、100mM NaIO
4を含む50mMアセテートバッファー(10mL)を加え4℃、暗所で96時間撹拌し過ヨウ素酸酸化を行った。反応溶液にエチレングリコール(1mL)を加えて室温で1時間撹拌し、過剰のNaIO
4を分解させた。次いで、反応混合物について精製水を用いて2日間透析し、透析内液を減圧濃縮した。さらに、NaBH
4(180mg)を加えて室温で12時間撹拌し、酢酸を滴下することで中和した。さらに精製水を用いて本反応液を3日間透析後、透析内液を凍結乾燥することにより過ヨウ素酸酸化物(糖鎖分解SCE−4)を得た(収量:31.99mg、収率:62.76%)。
【0091】
<脱リグニン化SCE−4の調製>
エタノール沈殿画分(SCE−4)(50.59mg)を4%酢酸水溶液(50mL)に溶解後、NaClO
2(250mg)を加えて、70℃の水浴中で40分間撹拌した。反応液を氷冷下3M NaOHを用いて中和した。反応液を一晩流水にて透析後、精製水を用いて4日間透析し、透析内液を凍結乾燥することにより脱リグニン多糖画分(脱リグニン化SCE−4)を得た(収量:22.39mg、収率:44.14%)。
【0092】
<マウスパイエル板細胞の調製及び培養>
C3H/HeJマウスをイソフルラン(エスカイン吸入麻酔薬、マイラン製薬)を用いて安楽死後、眼科用ハサミを用いて小腸よりパイエル板を切り出した。このパイエル板を氷冷した5%ウシ胎児血清(FBS)含有RPMI1640培地(2mL)を加えた滅菌シャーレにとり、ステンレスメッシュ(200mesh)上で5mLのディスポーサブル注射器の内筒のゴムラバー部を用いて圧砕することでパイエル板細胞を遊離させた。本細胞懸濁液を50mLファルコンチューブに移し、ボルテックスミキサーで短時間撹拌した。本細胞懸濁液をステンレスメッシュ(150mesh)によりろ過後、遠心分離(1,500rpm、4℃、7分間)し、培地をデカンテーションすることによりパイエル板細胞を得た。本細胞についてFBS含有RPMI1640培地(10mL)を用いて計4回同様の操作を繰り返すことにより細胞を洗浄後、ステンレスメッシュ(200mesh)によりろ過した。この細胞懸濁液(20μL)を用いてセルカウンターで細胞数を計数後、FBS含有RPMI1640培地を用いて1〜2×10
6cells/mLのパイエル板細胞懸濁液を調製した。
【0093】
96穴培養プレート(3072,FALCON)にパイエル板細胞懸濁液(180μL/well)及び多糖試料溶液(20μL/well,多糖終濃度:100μg/mL,50μg/mL及び10μg/mL)を添加し、5%CO
2−95%空気下、37℃で2〜6日間培養した。培養上清を別の96穴培養プレートに移し、−20℃にて使用まで保存した。多糖溶液の代わりに注射用水(20μL/well)を加えて培養して得た培養上清を対照として用いた。
【0094】
<マウス骨髄細胞の調製>
C3H/HeJマウス(7週齢、雌)はイソフルランを用いて安楽死後、大腿骨を摘出し、23G注射針を装着した5mL注射器を用いてFBS含有RPMI1640培地(5mL)により骨髄細胞を大腿骨から押しだすことにより採取した。本骨髄細胞をボルテックスミキサーにより分散後、ステンレスメッシュ(200mesh)でろ過、次いで遠心分離(1,200rpm、4℃、7分間)を行うことにより骨髄細胞を回収した。同様の操作を3回繰り返し細胞を洗浄後、骨髄細胞をFBS含有RPMI1640培地(10mL)に懸濁し、セルカウンターで細胞数を計数後、FBS含有RPMI1640培地を用いて骨髄細胞懸濁液(5×10
5cells/mL)を調製した。
【0095】
<パイエル板活性作用試験>
96穴培養プレートにパイエル板細胞培養上清(50μL/well)、骨髄細胞懸濁液(5×10
5cells/mL,100μL/well)及びFBS含有RPMI1640培地(50μL/well)を加えて、5%CO
2−95%空気下、37℃にて6日間培養した。培養した骨髄細胞培養懸濁液にAlamer Blue(20μL/well,Biosource)を添加し、5%CO
2−95%空気下、37℃で6〜24時間培養後、生じた蛍光物質量を蛍光プレートリーダー(Infinite M200,Tecan,励起波長;544nm,測定波長;590nm)にて測定し、得られた相対蛍光強度としての増殖骨髄細胞数を骨髄細胞増殖促進因子量とした。
【0096】
<統計学的検定>
実施例における全ての結果は平均値±S.D.で示した。対照及び被験試料間の統計学的有意差は、ANOVAの検定後、FisherのPLSDにより検定した。
【0097】
<結果>
図1に、パイエル板活性作用試験結果を示す。骨髄細胞増殖促進因子量をパイエル板活性作用として示した。エタノール沈殿画分(SCE−4)には、パイエル板活性作用が認められた。一方、SCE−4の糖鎖を分解したもの(糖鎖分解SCE−4)では対照と有意差がないレベルにまで活性が激減した。また、SCE−4を脱リグニン化したもの(脱リグニン化SCE−4)では活性が認められた。この結果、甘蔗由来エキス中のエタノール沈殿画分(SCE−4)の多糖含有成分にパイエル板活性作用を示す物質が含まれることが示唆された。
【0098】
〔製造例1:α−グルカン画分及びヘテログリカン画分の調製〕
<エタノール沈殿画分の調製>
試験例1と同様にして甘蔗由来のエキスを得た。甘蔗由来のエキス(凍結乾燥重量;418.57974g)に精製水を加えて総量500mLとし、4倍量のエタノールを撹拌しながら加え、室温にて一晩撹拌した。遠心分離(6,000rpm,4℃,30分間)し、得られた沈殿を流水及び精製水にて透析し(7日間)、非透析性画分を凍結乾燥することにより、茶褐色のエタノール沈殿画分(SCE−4)(収量:20.11g,収率:4.8%)を得た。
【0099】
<α−グルカン画分及びヘテログリカン画分の調製>
エタノール沈殿画分(SCE−4)から
図2に示すスキームに従ってα−グルカン画分(
図2中「画分A1」)及びヘテログリカン画分(
図2中「画分X」)を調製した。
【0100】
SCE−4(5.0g)をQAE−Sepharose FF(5.5i.d.×26cm)に添加し通液した後、吸着した成分を順次100mM NH
4HCO
3(6L),300mM NH
4HCO
3(10L)及び1.8M NH
4HCO
3(10L)を用いて段階的に溶出させた。分画画分を透析膜(Visking tube,MWCO12,000〜14,000)を用いて透析後、透析内液を凍結乾燥し、分画画分(画分A、画分B及び画分C)を得た。
【0101】
画分A(100mM NH
4HCO
3溶出画分):0.86g,17.2%。
画分B(300mM NH
4HCO
3溶出画分):0.66g,13.2%。
画分C(1.8M NH
4HCO
3溶出画分):1.04g,20.8%。
【0102】
(α−グルカン画分)
画分Aを0.2M NaCl溶液で平衡化したSephacryl S−300(2.6i.d.×90cm)に添加した後、0.2M NaClを用いて溶出させた。溶出画分について、常法により測定した相対糖含量、相対ウロン酸含量、280nmのUV吸収に基づき作成した溶出パターンに従い、分画画分を回収した。Vo溶出画分をα−グルカン画分(
図2中「画分A1」)として、白色の凍結乾燥粉末を得た(収量:0.2166g,収率:4.3%)。
【0103】
(ヘテログリカン画分)
画分Bを0.2M NaCl溶液で平衡化したSepharose CL−6B(2.6i.d.×90cm)により分画し、intermediate画分(
図2中「画分B2」)(収量:0.02141g,収率:0.41%)を得た。
一方、画分Cを0.2M NaClで平衡化したSephacryl S−300(2.6i.d.×90cm)にて分画し、Vo溶出画分(
図2中「画分C1」)(収量:0.16395g,収率:3.28%)を得た。
画分B2及び画分C1を合わせてヘテログリカン画分として、白色の凍結乾燥粉末を得た(
図2中「画分X」)(収量:0.1842g,収率:3.68%)。
【0104】
〔試験例2:α−グルカン画分及びヘテログリカン画分の分析〕
<分子量分布の測定>
被験試料(α−グルカン画分及びヘテログリカン画分)の分子量分布を、Asahipak GS710及びAsahi−pak GS620(各0.76i.d.×60cm)(昭和電工)の連結カラムを用いた高速ゲルろ過クロマトグラフィー(HPSEC)により分析した。分子量は、標準多糖(pullulan P−800,400,200,100,50,20,10及び5,昭和電工)のHPSECでの保持時間より分子量対保持時間係数(Kav)の検量線を作成し、被験試料の保持時間から算出した。
HPSECの条件は以下の通りである。
送液装置;JASCO PV−980(日本分光)
検出器;Shodex RI SE−62(昭和電工)(感度:×2)
溶出液;0.2M NaCl(1.0mL/min)
【0105】
<比色定量>
全糖量はフェノール−H
2SO
4法、ウロン酸量はm−ヒドロキシビフェニル法、タンパク質量はブラッドフォード法を用いて測定した。標品としては、フェノール−H
2SO
4法にはGlcを、m−ヒドロキシビフェニル法にはGalAを、ブラッドフォード法はウシガンマグロブリン(Bio−Rad)を用いた。
【0106】
<構成糖分析>
構成糖分析は、TMSメチルグリコシド法により行った。
単糖の標準品混合物(Glc,Gal,GlcA,GalA,Ara,Fuc,Xyl,Man,Rha、各5μg)及び被験試料(各50〜100μg)を13mmネジ口試験管に分取し、さらにmyo−イノシトール溶液(内部標準:20μL,1mg/mL)を加えた後、溶媒を完全に減圧留去した。各試験管に1M HCl−MeOH溶液(100〜300μL,和光純薬)を加え、密封下メタノリシス(80℃、15時間)を行った。反応溶液にtert−BuOH(5μL)を加え窒素気流下(40℃)で溶媒を留去した後、Tri−Sil試薬(100μL,Pierce)を加えて密封下反応(80℃、20分間)させた。試薬を窒素気流下(40℃)で留去した後、反応生成物にヘキサン(2mL)を加え数秒間超音波処理することによりTMS誘導体を抽出した。抽出物中の不溶物を遠心分離(2,000rpm、4℃、5分間)により除去後、溶媒を窒素気流下(40℃)で留去し、得られたTMS誘導体のヘキサン溶液をガスクロマトグラフィー(GLC)により分析した。各単糖誘導体の同定は標準品の誘導体の保持時間との比較から行い、含有率比(mol.%)はピーク面積と各実験毎に得られる各単糖誘導体のFID検出器に対する応答係数から算出した。
GLCの条件は以下の通りである。
機器;HP5890 Series II gas chromatograph(Hewlett Packard)
カラム;DB−1 capillary column(0.25mm i.d.×30m、液膜厚0.25μm、J&W Scientific Inc.)
キャリアガス;He(総流量;80mL/min、カラム入口圧;21psi、ガス純度;99.9999%)
注入口温度;250℃
検出器温度;280℃
オーブン温度プログラム;60℃(1分間),60℃→170℃(30℃/min),170℃→190℃(1℃/min),190℃→300℃(30℃/min)、300℃(5分間)
【0107】
<メチル化分析>
糖結合様式解析のためのメチル化分析は以下に示すように箱守法とWaeghe等の方法を改変した方法に従って行った。
【0108】
(メチルスルフィニルカルバニオンナトリウムを用いる多糖のメチル化)
被験試料(500μg)をネジ口試験管(15i.d.×100mm)にとり、一晩デシケーター中で減圧乾燥させた後、無水ジメチルスルホキシド(dry DMSO,Sigma)を加え、窒素気流下密封条件で15分間超音波処理し、試料が完全に溶解するまで(数時間〜一昼夜)50〜60℃で加温した。試料溶液にメチルスルフィニルカルバニオンナトリウム(500μL)を加え、窒素気流下1時間超音波処理を行った後、3時間室温で反応させた。反応後、少量の反応液(5〜10μL)を用い、トリフェニルメタン試薬(和光純薬)により、過剰のメチルスルフィニルカルバニオンナトリウムの残存を確認した。メチルスルフィニルカルバニオンナトリウムが不十分の場合、さらにメチルスルフィニルカルバニオンナトリウムを追加し、上記操作をメチルスルフィニルカルバニオンナトリウムの過剰量が残存するまで繰り返した。反応混合液を凍結後に、CH
3I(ヨードメタン、柳島製薬株式会社、特級、1mL)を加え、窒素気流下で密封条件にて15分間超音波処理を行い、室温で4時間以上反応させた。反応終了後、反応液中のCH
3Iを減圧留去し、氷冷下凍結させ、使用したDMSO及びメチルスルフィニルカルバニオンの総量と等量の精製水を加え、残存するメチルスルフィニルカルバニオンを分解し、反応を停止させた。さらに、反応液にその黄色が消えるまで飽和Na
2S
2O
3(約250μL〜)を加えた。
【0109】
(完全メチル化多糖の回収)
Sep−pak C18カートリッジ(1mL,Waters Associate Inc.)を蒸留エタノール(10mL×4)、次いで水(2mL×3)を用いて洗浄後、上記メチル化反応混合液を本カートリッジへ通過させ、メチル化多糖をカートリッジに吸着させた。カートリッジを50%DMSO(2mL×5)、次いで水(2mL×5)により洗浄後、蒸留エタノール(2mL×3)を用いてメチル化多糖を溶出後、減圧乾固することにより完全メチル化多糖を得た。
【0110】
(メチル化多糖中のウロン酸のカルボキシル基の還元)
完全メチル化多糖中のウロン酸残基のカルボキシル基は以下に示した方法により、重水素化一級アルコールに還元した。すなわち、完全メチル化多糖試料を95%エタノール(0.21mL)及びテトラヒドロフラン(THF,0.51mL)で溶解後、重水素化ホウ素ナトリウム(NaBD
4,1.8mg)を加えて混和した後18時間以上室温で反応させ、さらに70°Cで1時間加温させることによりカルボキシメチル基を還元した。反応液を酢酸を用いて中和し、さらに7〜8滴の酢酸を加えて反応を停止させた。反応溶液を減圧乾固後、生成したホウ酸を除去するため、反応生成物に蒸留メタノール(1mL)を加えて減圧乾固する操作を少なくとも4回繰り返した。本反応混合物の50%DMSO溶液について、(完全メチル化多糖の回収)欄に記載した方法と同様にしてカルボキシル還元完全メチル化多糖を回収した。
【0111】
(完全メチル化多糖から部分メチル化アルジトールアセテート体への誘導体化と分析)
得られたカルボキシル還元完全メチル化多糖をネジ口試験管(15i.d.×100mm)中、2M トリフルオロ酢酸(TFA,1mL)を用いて密封下121℃で1時間加熱することにより加水分解を行った。反応終了後、室温に冷却した反応溶液を減圧乾固し、さらにデシケーターで30分間減圧乾燥することにより残存するTFAを除去した。得られた加水分解物を95%エタノール(蒸留、1mL)に溶解させ、25%アンモニア水を7〜8滴添加しアンモニアアルカリ性にした後、過剰の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)を加え室温で4時間以上反応させた。反応液に酢酸溶液を滴加し、残存するNaBH
4を分解した後、さらに7〜8滴加え、溶媒を減圧乾固により留去した。反応生成物にメタノール(1mL)を加え、減圧乾固する操作を4回繰り返すことにより生成したホウ酸を除去した。反応生成物をデシケーター中1時間減圧下乾燥後、無水酢酸を加え、密封下121℃、3時間加熱反応させることによりアセチル化を行った。反応溶液を室温になるまで放置した後、トルエン(1mL)を加えて混和し、40℃で空気気流下、無水酢酸を除去した。反応生成物に水(1mL)及びCHCl
3(2mL)を加え液−液分配し、遠心分離(4℃、2,500rpm、5分)した後、上層の水層を吸引除去した。さらにCHCl
3層は水(1mL)を用いて4〜5回程洗浄後、CHCl
3を減圧留去し、部分メチル化アルジトールアセテート誘導体を得た。本誘導体は以下に示す条件によりガスクロマトグラフィー(GLC)及びガスクロマトグラフィー/質量分析(GLC−MS)を用いて分析した。メチル化アルジトールアセテートの同定は標品のフラグメントイオンとの比較及び2,3,4,6−tetra−OMe−1,5−di−OAc−galactitolに対する相対保持時間との比較により行った。メチル化糖の構成モル比(mol.%)はピーク面積とFIDに対する応答係数により求めた。
【0112】
GLC:
装置;HP5890 SeriesII gas chromatogragh(Hewlett Packard)
キャピラリカラム;SP−2380 capillary column(0.25mmi.d.×30m,液膜厚0.25μm,SPELCO/ALDRICH)
キャリアガス;He(総流量;80mL/min,カラム入口圧;10psi,ガス純度;99.9999%)
注入口温度;250℃
検出器;250℃
オーブン温度;60℃(1min),60℃→150℃(30℃/min),150℃→250℃(1.5℃/min),250℃(1min)
【0113】
MS:
Mass spectrometer;HP5970B Mass Selective Detector(70eV,280℃)
【0114】
<結果>
α−グルカン画分及びヘテログリカン画分の分析結果を表2及び表3に示す。また、α−グルカン画分及びヘテログリカン画分の分子量分布の測定結果を
図7及び
図8に示す。
【表2】
【表3】
【0115】
表2及び
図7に示すように、α−グルカン画分は、ピーク分子量が90万であり、分子量が16,000〜Vo容積に相当する分子量(約1,660,000)の範囲に分布していた。α−グルカン画分は、構成糖に占めるグルコースの割合は約84%であった。表2及び
図8に示すように、ヘテログリカン画分は、ピーク分子量が2つあり、それぞれ4.8万、及び83万であった。分子量は、10,000〜Vo容積に相当する分子量(約1,660,000)の範囲に分布していた。ヘテログリカン画分は、構成糖に占めるグルコースの割合は約32%、アラビノースは約25%であった。α−グルカン画分及びヘテログリカン画分のいずれも糖を主成分として含有する多糖画分であった。
【0116】
表3に示すように、α−グルカン画分は、非還元末端のグルコースを約25%、α−6結合グルコース(6結合)を約20%と多く含むという特徴があった。ヘテログリカン画分は、非還元末端のアラビノースを約22%含むという特徴があった。
【0117】
〔実施例1:パイエル板活性作用試験〕
試験例2で調製したα−グルカン画分(画分A1)及びヘテログリカン画分(画分X)、並びに試験例1で調製した脱リグニン化SCE−4及びエタノール沈殿画分(SCE−4)を用い、試験例1と同様にパイエル板活性作用試験を行った。
【0118】
図3に、パイエル板活性作用試験結果を示す。骨髄細胞増殖促進因子量をパイエル板活性作用として示した。α−グルカン画分(画分A1)及びヘテログリカン画分(画分X)はいずれの添加量(25μg/mL,50μg/mL,100μg/mL)においても脱リグニン化SCE−4よりも有意にパイエル板活性作用が高く、エタノール沈殿画分(SCE−4)に匹敵するパイエル板活性作用を示した。
【0119】
原料である甘蔗由来のエキスは、塩類を多く含み、エタノール沈殿画分(SCE−4)の収率は約5%である。また、エタノール沈殿画分(SCE−4)は各種多糖が混合している画分であり、リグニン成分も含まれている。そのため、茶褐色であり、粉末化しにくいため、加工特性が悪く、渋味を有する。一方、本実施例により得られたα−グルカン画分及びヘテログリカン画分は白色の無味の粉末であるため、加工しやすい。
【0120】
〔実施例2:パイエル板活性作用へのα−D−(1→6)−グルカン構造の関与〕
<α−グルカン画分及びヘテログリカン画分の酵素消化>
α−グルカン画分(1.5mg)又はヘテログリカン画分(1.5mg)の25mM アセテートバッファー(pH4.5,1mg/mL)溶液にexo−α−L−arabinofuranosidase(20μL),exo−β−D−(1→3)−galactanase(20μL)及びendo−β−D−(1→4)−galactanase(5μL)を加え、37℃,2日間の条件で酵素反応を行った。得られた消化物は、沸騰水浴中30秒間加熱処理し、酵素を失活させた。この酵素反応液(
図4中、「1,3/1,4−ガラクタナーゼ」と表示)の半量についてはさらにdextranase(0.25unit)を加えて2日間37°Cにてインキュベーション後、上記と同様の条件で酵素を失活させ、酵素反応液を得た(
図4中、「デキストラナーゼ」と表示)。これらの反応液は使用まで−20℃にて保存した。
【0121】
<IL−6産生量の測定>
マウスパイエル板細胞の調製及び培養は試験例1と同様に行った。
【0122】
(酵素免疫測定法(ELISA))
ELISA用プレート(Immuno−Maxisorp,Nunc)に50mM carbonate−bicarbonate buffer(pH9.6)で1μg/mLに希釈した抗マウスIL−6一次抗体(100μL/well)を分注し、4℃で一昼夜インキュベーションした。本プレートを0.05% Tween20含有リン酸緩衝化生理食塩水(PBST)(300μL/well)で3回洗浄後、1%スキムミルク(SM)含有PBST(SM−PBST)(100μL/well)を用いて37℃で1時間インキュベーションした。プレートをPBST(300μL/well)で4回洗浄後、1%SM−PBST(50μL/well)を加えて10分間室温にてプレインキュベーションし、次いで、パイエル板培養上清(50μL/well)を加え、4℃で1晩インキュベーションした。プレートをPBST(300μL/well)で3回洗浄し、1%SM−PBST(100μL/well)を用いて10分間室温にてプレインキュベーションした。さらにプレートに1%SM−PBSTで希釈したbiotin標識抗IL−6二次抗体(1:1000,50μL/well)を加え37℃で1時間インキュベーション後、PBST(300μL/well)で3回洗浄した。プレートを1%SM−PBST(100μL/well)を用いて10分間室温にてプレインキュベーション後、1%SM−PBSTで希釈したalkaline phosphatase標識streptavidin(1:1000,100μL/well)を加え37℃で1時間インキュベーションした。プレートをPBST(300μL/well)で5回洗浄後、substrate solution[disodium p−nitrophenyl phosphateの10%diethanolamine buffer(pH9.8)溶液(1mg/mL,150μL/well)を加え、室温でインキュベーションした。発色した黄色をマイクロプレートリーダー(Multiskan JX,Thermo Electron Corp.)を用いて測定した(測定波長;405nm、ブランク波長;492nm)。
【0123】
<結果>
パイエル板活性作用としての骨髄細胞増殖促進因子の一つとして、IL−6が関係することが明らかとなっている。
図4に、IL−6産生誘導試験結果を示す。脱リグニン化SCE−4では、対照と比較して有意にIL−6産生量が増加していた(
図4中、「脱リグニン化SCE−4」)。α−グルカン画分(
図4中、画分A1)及びヘテログリカン画分(
図4中、画分X)にもIL−6産生亢進能が認められた(
図4中、α−グルカン画分及びヘテログリカン画分の「未処理」)。また、1,3/1,4ガラクタナーゼ処理によっても、α−グルカン画分及びヘテログリカン画分のIL−6産生亢進活性は低下しなかった。これは、活性発現に必要な構造がこれらのガラクタンではないことを示している。一方、ガラクタナーゼ処理をした後デキストラナーゼ処理を行なったところ、α−グルカン画分において、対照と同程度まで活性が低下した。また、ヘテログリカン画分においても50μg/mlの濃度で活性が低下した。デキストラナーゼは、α−1,6−結合の三糖以上のグルカン構造を認識して切断する活性を有する。したがって、このような糖鎖構造を持つ多糖が、α−グルカン画分及びヘテログリカン画分に含まれており、IL−6産生亢進活性に寄与していることが示唆された。なお、デキストランを単独で添加して試験した場合、IL−6産生量に変化は認められなかった(データは示さず)。
【0124】
〔実施例3:ネズミマラリア原虫(クロロキン感受性株)感染モデルでの多糖画分の経口投与試験〕
製造例1で調製したα−グルカン画分及びヘテログリカン画分、並びにエタノール沈殿画分(SCE−4)を多糖画分として用い、ネズミマラリア原虫感染モデルでの多糖画分の経口投与試験を行った。
【0125】
<Plasmodium berghei N(クロロキン感受性株)感染モデル>
ネズミマラリア原虫による感染実験は北里大学・北里生命科学研究所・熱帯病評価センター・実験動物センター分室にて行った。動物実験は、当該法律ならびに関係省庁からの通達などに従って規定された(学)北里研究所が定める実験動物取り扱い安全衛生管理規定に準じて行った。
【0126】
ICRマウス(20g前半)は日本チャールズ・リバー社(株)より購入し、室温23±2℃、湿度55±10%、照明時間9時間/日の一定条件下で1週間の予備飼育の後、実験に供した。
【0127】
ネズミマラリア原虫の維持は凍結ネズミマラリア原虫Plasmodium berghei N(クロロキン感受性株)をICRマウスへ腹腔内投与(200μL/マウス)により感染させ、感染数日後に心臓採血、別マウス(4〜5匹)への尾静脈投与(200μL/マウス)による感染を繰り返すことで行った。
【0128】
原虫感染赤血球の調製は以下のように行った。すなわち、感染効率の良いマウスを選び、ネンブタール麻酔下で心臓採血を行い、血液塗抹標本を作製した。塗抹標本をQuickIII染色キット(astradiagnosics)もしくはヘマカラー(Merck)を用いた簡易ギムザ染色法により染色し、感染率(Parasitemia%)を算出した。採取した血液は注射用生理食塩水で希釈し、赤血球数を血球計算盤で数え、感染率を乗じて感染赤血球数を算出した。感染赤血球懸濁液として1×10
5又は1×10
7cells/mLとなるように生理食塩水にて希釈後200μL/mouseで尾静脈投与した。
【0129】
マウスへのネズミマラリア原虫の感染実験は雄性ICRマウスに2×10
4cellsのP.berghei N感染赤血球を尾静脈から静注(0.2ml/マウス)することにより行った。
【0130】
<感染モデルマウスへの多糖の経口投与>
ICRマウスへのα−グルカン画分(
図5中、画分A1)及びヘテログリカン画分(
図5中、画分X)、並びにSCE−4の連日経口投与は経口ゾンデを用いて500μL/mouseの用量で行った。エタノール沈殿画分(SCE−4)の投与量は600mg/kg/dayにて、また、α−グルカン画分及びヘテログリカン画分は各々28mg/kg/day及び22mg/kg/dayとした。α−グルカン画分及びヘテログリカン画分の投与量は、それぞれ収率から計算したSCE−4の600mg/kg/dayに相当する量である。また、対照として水のみを経口投与した。投与は原虫感染7日前より開始し、マラリア原虫感染後も投与を継続させた。
【0131】
<ネズミマラリア原虫の感染率の算出>
感染3日後よりマウスの尾から血液を採取し血液塗抹標本の作製を行った。塗抹標本の染色はQuickIII染色キット(astradiagnosics)又はヘマカラー(Merck)を用いた簡易ギムザ染色により行った。塗抹標本は油浸オイルを滴下し、顕微鏡(ORIMPUS BX40)下で、表4に示す基準で観察した。
【表4】
また、赤血球の感染率(Parasitemia)は以下に示す式にあてはめて産出した。
【数1】
【0132】
<結果>
図5に、ネズミマラリア原虫感染モデルでの多糖画分の経口投与試験結果を示す。エタノール沈殿画分(SCE−4)を投与したマウスでは、4日目及び5日目に感染率が対照と比較して有意に低下していた。また、SCE−4よりも約1/20と明らかに投与量が少ないにも関わらず、α−グルカン画分(
図5中、画分A1)及びヘテログリカン画分(
図5中、画分X)を投与したマウスでは、4日目及び5日目の感染率が対照と比較して有意に低下していた(
図5には、FisherのLSD検定におけるp値を示してある)。さらにα−グルカン画分を投与した8匹中5匹のマウスでは6日目でも効果が継続していた。以上のことから、エタノール沈殿画分(SCE−4)の示すマラリア感染に対する防御作用は、含有されるα−グルカン及びヘテログリカンにより発現されていることが確認された。また、本実施例における結果は、α−グルカン画分及びヘテログリカン画分は、投与量がSCE−4よりも少ない(約1/20)にも関わらず、SCE−4とほぼ同程度かやや上回る程度のマラリア感染に対する防御作用を有することを示している。したがって、α−グルカン画分及びヘテログリカン画分の投与量を増やすことにより、SCE−4よりも顕著に高い当該防御作用を発現することができる。
【0133】
〔実施例4:ネズミマラリア原虫(クロロキン耐性株)感染モデルでの多糖画分の経口投与試験2〕
製造例1で調製したエタノール沈殿画分(SCE−4)を多糖画分として用い、ネズミマラリア原虫感染モデルでの多糖画分の経口投与試験を行った。
【0134】
<Plasmodium yoelii NS感染モデル>
ネズミマラリア原虫はPlasmodium yoelii NS(クロロキン耐性株)を用い、尾静脈投与による原虫感染後すぐにクロロキン(Chloroquine diphosphate salt水溶液)を60mg/kg/mouseの用量でマウスに皮下投与し、耐性原虫を維持した。尾静脈から静注する感染赤血球数は2×10
6cellsとした。その他は実施例3の<Plasmodium berghei N感染モデル>と同様にして行った。
【0135】
<感染モデルマウスへの多糖の経口投与>
ICRマウスへのSCE−4の連日経口投与は経口ゾンデを用いて500μL/mouseの用量で行った。SCE−4の投与量は600mg/kg/dayとした。対照として水のみを経口投与した。投与は原虫感染7日前より開始し、マラリア原虫感染後も投与を継続させた。
【0136】
<ネズミマラリア原虫の感染率の算出>
実施例3と同様にして行った。
【0137】
<結果>
図9に、経口投与試験結果を示す。エタノール沈殿画分(SCE−4)を投与したマウスでは、4日目及び7日目に感染率が対照と比較して有意に低下していた(FisherのLSD検定におけるp値は、いずれもp<0.001)。
【0138】
〔実施例5:ネズミマラリア原虫(クロロキン耐性株)感染モデルでの多糖画分と抗マラリア薬の併用経口投与試験〕
製造例1で調製したエタノール沈殿画分(SCE−4)を多糖画分として用い、抗マラリア薬アルテスネート(Artesnate,ANと略記する。)との併用効果を、ネズミマラリア原虫感染モデルでの経口投与試験により試験した。
【0139】
<Plasmodium yoelii NS感染モデル>
尾静脈から静注するP.yoelii NS感染赤血球数を2×10
6cellsから2×10
4cellsに代えたこと以外は実施例4と同様にして行った。
【0140】
<感染モデルマウスへの多糖及びANの経口投与>
ICRマウスへのSCE−4及びANの連日経口投与は経口ゾンデを用いて500μL/mouseの用量で行った。SCE−4の投与量は600mg/kg/day、ANは0.5% Tween 80含有10% dimethylsulfoxide(DMSO)水溶液で溶解、投与し、その投与量は3mg/kg/dayとした。SCE−4の投与は原虫感染7日前より開始し、マラリア原虫感染後も投与を継続させた。ANの投与は原虫感染2時間後から開始し、マラリア原虫感染後3日目まで(計4回)投与を継続させた。また、SCE−4はAN投与後、少なくとも3時間以上時間をおいて投与した。
【0141】
対照群は水及び0.5% Tween 80含有10%DMSO水溶液の経口投与、AN3群は水及びANの0.5% Tween 80含有10%DMSO水溶液の経口投与、SCE−4+AN3群はSCE−4水溶液の経口投与とANの0.5% Tween 80含有10%DMSO水溶液の経口投与を行った。
【0142】
<ネズミマラリア原虫の感染率の算出>
実施例3と同様にして行った。
【0143】
<結果>
図10に、経口投与試験結果を示す。ANを投与したAN3群は、4日目及び5日目に感染率が対照群と比較して有意に低下していた(Dunnett検定におけるp値は、それぞれp<0.001及びp=0.0024)。SCE−4とANを併用したSCE−4+AN3群は、4日目及び5日目に感染率が対照群と比較して有意に低下しており(Dunnett検定におけるp値は、それぞれp<0.001及びp=0.0002)、また6日目においてもその効果が持続していた(Dunnett検定におけるp値は、p=0.0047)。この結果から明らかな通り、SCE−4とANとを併用することでマラリア感染に対する防御作用が増強された。このことは、SCE−4による作用が既存の抗マラリア薬(AN)による作用と競合しないことを示している。したがって、SCE−4は耐性株が出現した抗マラリア薬の代替薬として用いること、又は既存の抗マラリア薬と併用して用いることができる。