【0019】
以下に、本発明の好適な実施形態を列記する。
(1)水素生成装置で好適に用いられる原料ガスは、アンモニア、尿素、またはメタン等の炭化水素系ガスである。
(2)水素分離膜は、高電圧電源に接続された場合、高電圧電極として機能する。また、アースされている場合、接地電極として機能する。
(3)水素分離膜が高電圧電極として機能しているとき、誘電体の第二の面に対向するように配置された電極は接地電極として機能する。このとき、絶縁スペーサが水素分離膜と水素流路板との間に配置される。
(4)水素分離膜が接地電極として機能しているとき、誘電体の第二の面に対向するように配置された電極が高電圧電極として機能する。このとき、絶縁スペーサが、高電圧電極の外側に配置される。
(5)高電圧電極と接地電極とは誘電体を隔てて対向しており、誘電体バリア放電によって、原料ガス流路の中の原料ガスを大気圧非平衡プラズマとする。高電圧電源は、高電圧電極に対して、両極性パルス波形を印加する。
(6)誘電体は、石英ガラスなどのガラス、アルミナなどのセラミックス、チタン酸バリウム、ポリカーボネート、アクリルなどの絶縁性の高い樹脂で形成される。
(7)原料ガス流路は、誘電体の第一の面において、上面又は側面と平行な直線状に延びる往路部分と、往路から折り返して往路と平行に延びる復路部分とが交互に複数回接続して形成される。
(8)原料ガス流路は、誘電体の第一の面に、上面または側面に対して角度をなして延びる往路部分と、往路から折り返して往路に対して角度をなした状態でつづら折り状に延びる復路部分とを交互に複数回接続して形成される。
(9)原料ガス流路は、誘電体の第一の面に、円弧状または曲線状に延びる往路部分と、往路から折り返して延びる復路部分とを交互に接続して、全体として蛇行するように形成される。
(10)原料ガス流路は、第一の面側が開口した形状を有する溝であり、この開口部を覆って閉鎖するように水素分離膜が配置される。水素分離膜は、誘電体の第一の面以上の有効面積を有しており、誘電体の第一の面に対向している。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
以下、本発明にかかる水素生成装置の好適な実施例について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施例に従った水素生成装置1を模式的に示す斜視図である。
図2は、水素生成装置1の各構成要素の正面と上面と右側面とを示した分解斜視図である。
図3は、水素生成装置1の各構成要素の正面と上面と左側面とを示した分解斜視図である。水素生成装置1は、誘電体2と、電極3と、水素流路板4と、水素分離膜5と、高電圧電源6と、絶縁スペーサ7とを備えている。尚、以下の記載においては、
図1から
図4において右側に表示している水素生成装置1の各構成要素の面を右側面と称する。誘電体2の右側面は、誘電体2の第一の面11に対応している。同様に、
図1から
図4において左側に表示している水素生成装置1の各構成要素の面を左側面と称しており、誘電体2の左側面は、誘電体2の第二の面12に対応している。
【0021】
誘電体2は、原料ガス流路13が形成された第一の面11と、この第一の面11に対して略平行な第二の面12とを有した石英ガラスである。誘電体2の第一の面11に、右側面側が開口した凹部として、原料ガス流路13が形成されている。原料ガス流路13の形成されるパターンは、原料ガスの流量と原料ガスに加わる電圧とを考慮して適宜設定することができる。
図2には、一例として、原料ガス入口14に連通して、誘電体2の上面と平行な直線状に延びる往路部分16と、往路部分16から折り返して往路部分16と平行に延びる復路部分17と、が交互に均一な間隔で複数回接続した原料ガス流路13を示している。
【0022】
電極3は、誘電体2の前記第二の面12に対向するように配置された、平板状の電極である。本実施例において、電極3は接地されており、接地電極として機能する。
【0023】
水素流路板4は、左側面側が開口している水素流路18と、正面に開口する水素導出口19とを備えた板状の部材である。水素流路板4の水素流路18は、誘電体2の第一の面11側に配置された時に、誘電体2の原料ガス流路13と対向する位置に必ず開口しているように配置されている。
図3に、水素流路18の一つの形態を示す。水素流路板4を、周縁部を除く左側面が全て開口している矩形の箱型形状としたことによって、原料ガス流路13に対向する位置に必ず開口が存在する水素流路18が形成されている。
【0024】
水素分離膜5は、誘電体2の原料ガス流路13の開口部とを水素流路板4の水素流路18との間に配置されて、原料ガス流路13と水素流路18とを区画している。本実施例では、水素分離膜5は、原料ガス流路13内の原料ガスの進行方向と平行に配置されて原料ガス流路13の右側面側の開口を覆っており、誘電体2と水素分離膜5とによって原料ガス流路13の閉断面を有する壁面が規定される。同時に、水素分離膜5は水素流路18の開口を覆っており、水素流路板4と水素分離膜5とによって、水素流路18の閉断面を有する壁面が規定される。水素分離膜5は、原料ガス流路13の原料ガスから生成された水素のみを透過して、水素流路18に導入する。
【0025】
水素分離膜5は、パラジウム合金薄膜、ジルコニウム−ニッケル(Zr−Ni)系合金薄膜、バナジウム−ニッケル(V−Ni)系合金薄膜、ニオブ−ニッケル(Nb−Ni)系合金薄膜、および、ニオブ(Nb)と、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびモリブデン(Mo)よりなる群から選ばれる1種以上の金属と、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)およびハフニウム(Hf)よりなる群から選ばれる1種以上の金属との合金よりなる薄膜などで形成することができる。本実施例の水素分離膜5は、パラジウム合金薄膜を特に好適に使用することができる。水素分離膜5は、これらの金属からなる単層の膜、またはこれらの金属から選択される2以上の金属の積層によって形成することができる。また、シリカ系分離膜や、ゼオライト系分離膜、ポリイミド分離膜、ポリスルホン分離膜などの非金属を水素分離膜として用いることも可能であるが、その場合は、より強度の高い支持体を水素分離膜5と接合し、支持体を誘電体2と水素流路板4とが挟持することにより、原料ガス流路13と水素流路18とが確実に区画される。
【0026】
高電圧電源6は、水素分離膜5と電極3との間の原料ガス流路13内で放電を発生させるための電源である。本実施例では、高電圧電源6は水素分離膜5に接続されており、水素分離膜5に高電圧を印加して、水素分離膜5を高電圧電極として機能させる。絶縁スペーサ7は、水素分離膜5と水素流路板4との間に配置される。高電圧電源6は、波形保持時間T0が10μsと極めて短い両極性パルス波形を印加することで、電子エネルギー密度を高くすることができる。
【0027】
水素生成装置1を構成する、誘電体2と、電極3と、水素流路板4と、水素分離膜5とを、高さ及び奥行きの寸法がほぼ同一の矩形形状で構成することができる。これにより、水素生成装置1は、全体として略直方体の形状となる。このような水素生成装置1は、各部材を重ね合わせた状態で、ボルトとナットを用いて、強固に結合することができる。原料ガス流路13と水素流路18を確実に封止して気密性を確保する必要が特にある場合には、ガスケットの配置若しくは、シール材の塗布が追加的に行われる。
【0028】
本実施例の水素生成装置1は、原料としてアンモニア又が最も好適に使用される。アンモニアを原料として水素を生成する場合の反応式を、以下の式1に示す。
2NH
3+e→N
2+3H
2+e (式1)
【0029】
水素生成装置1でアンモニアを原料ガスとして水素を生成する方法を説明する。図示しない原料供給手段は、原料ガスの流速を制御する流速制御手段を備えており、誘電体2の原料ガス流路入口14を経て、所定の速度で原料ガス流路13に供給される。高電圧電源6が水素分離膜5に電圧を印加することで、水素分離膜5と電極3との間で誘電体バリア放電が発生する。放電によって、原料ガス流路13内のアンモニアが、大気圧非平衡プラズマとなる。アンモニアの大気圧非平衡プラズマから発生した水素は、水素原子の形態で水素分離膜5に吸着し、水素分離膜5の中を拡散しながら通過して水素流路板4の水素流路18に到達し、再結合して水素分子となる。このようにして、水素分離膜5は水素流路18側に水素のみを通過させ、水素が分離される。
【0030】
原料ガス流路13を通過するアンモニアは、流速を充分制御するすることで放電に曝される時間を確保することができ、アンモニアに含まれる水素のほぼ100%を水素として分離して水素流路18に導入することが可能である。得られる水素含有ガスは99.999%以上の高純度であるので、そのまま燃料電池に使用することができる。
【0031】
しかも、本実施例の水素生成装置1は、常温で動作する。生成されて水素導出口19から導出される高純度の水素含有ガスもまた常温である。水素含有ガスは、特段の冷却処理を施さずに、燃料電池にそのまま導入することができる。そのため本実施例の水素生成装置は、たとえば低温で動作する燃料電池に直接接続して水素を生成させることができる。
【0032】
図4に、本実施例の水素生成装置1を、並列に5個組み合わせて配置した状態を示す。それぞれの水素生成装置1に同時に原料ガスを供給することで、個々の水素生成装置1が、高収率で高純度の水素を生成することができる。また、原料を供給する水素生成装置1の数を制御することで、水素の生成量を容易に制御することができる。さらに、個々の水素生成装置1が略直方体の形状を有しているため、積み重ねや並列配置などの配置の自由度が高く全体の形状を変更することも容易である。
【0033】
図5に、水素生成装置1の、アンモニア供給量に対する水素生成量の変化をグラフで示す。水素生成量は、水素流路板4の水素導出口19の流量である。水素生成装置1の水素の生成量の変化を、実線Aで示す。比較例として、円筒形水素生成装置31に同一条件でアンモニアを供給した場合の水素生成量を破線Bで示している。いずれの水素生成装置も、生成された水素の純度は、99.999%と非常に高純度であった。一方で、
図5から明らかであるように、アンモニアの流量に関わらず、本発明の水素生成装置1は、従来よりも高い収量で水素を生成することができ、アンモニアの供給量を増加させるにつれて、水素の生成量を増加させることができた。
【0034】
なお、従来例としてあげた
図8の円筒形水素生成装置31は、プラズマ反応器33と、このプラズマ反応器33の中に収容された高電圧電極35と、プラズマ反応器33の外側に接して配置された接地電極37とを備えたプラズマ改質器である。円筒形水素生成装置31は、高電圧電極35を水素分離膜で構成することで、装置内部の空間に生成した水素を分離して導入する。
【0035】
(実施例2)
図6に、本実施例の水素生成装置41を示す。水素生成装置41は、水素分離膜5がアースされており、接地電極として機能する。一方、電極3が高電圧電源6に接続されて、高電圧電極として機能する。絶縁スペーサ9は、電極3の外側に配置される。本実施例においても、高電圧電源6が電極3に電圧を印加することで、水素分離膜5と電極3との間の原料ガス流路13で、誘電体バリア放電が発生する。放電によって、原料ガス流路13内のアンモニアが、大気圧非平衡プラズマとなり、高収率で水素を生成し、水素分離膜5によって高純度の水素を分離して供給することができる。
【0036】
(実施例3)
図7に、本実施例の水素生成装置51を示す。水素生成装置51は、誘電体2’と電極3’の両方を通過するように原料ガス流路13が形成されていることを特徴とする。その他の構成は、水素生成装置1と同一である。誘電体2’側の原料ガス流路13は、その始点と終点が誘電体2’を貫通し、第二の面上に開口している。電極3’側の原料ガス流路13は、誘電体2’側の原料ガス流路13の始点と終点にそれぞれ連通しており、原料ガス流路入口14’とガス流路出口15’は、電極3’の正面に設けられている。本実施例の水素生成装置51は、特に板厚の薄い誘電体2’に好適に適用される。
【0037】
本実施例で説明した水素生成装置1、41、51の構成は、適宜変更が可能である。誘電体上に形成する原料ガス流路13のパターンは、原料ガス流路13内で放電を発生させる範囲で、その位置および形状を変更することができる。たとえば、誘電体2の第一の面11に、上面または側面に対して角度をなして延びる往路部分と、往路から折り返して往路に対して角度をなした状態でつづら折り状に延びる復路部分と、を交互に複数回接続して形成することができる。また原料ガス流路13は、誘電体の第一の面に、円弧状または曲線状に延びる往路部分と、往路から折り返して延びる復路部分とを交互に接続して、全体として蛇行するように形成することができる。水素流路板の水素流路もまた、たとえば原料ガス流路のパターンに対応して溝状のものとすることができる。