(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電気的に接続された前記二種類以上の金属部材と前記水性インクとの接触面積の合計(X)に対する、電気的に接続された前記二種類以上の金属部材のうち、前記水性インクに対する耐腐食性が最も高い第一の金属部材と前記水性インクとの接触面積(Y)の割合{(Y/X)×100}が、20%以上である請求項1記載の記録ユニット。
前記インクジェットヘッドは、複数のノズルと、複数のノズルに対応する複数の圧力室と、複数の圧力室に供給するインクを収容する共通液室が形成された流路ユニットと、前記複数の圧力室のインクを加圧するアクチュエータとを備え、
前記複数の金属プレートが、絞りプレートとダンパープレートとその間に設けられたマニホールドプレートを有し、絞りプレートとマニホールドプレートとダンパープレートが共通液室を区画しており、ダンパープレート及び/又は絞りプレートが第1金属部材から形成されており、マニホールドプレートが第2の金属部材から形成されている請求項4記載の記録ユニット。
ダンパープレート及び/又は絞りプレートが、SUS430、SUS430BA、SUS304またはNK-430MAから形成され、マニホールドプレートが42合金から形成されている請求項6記載の記録ユニット。
ダンパープレート及び/又は絞りプレートが、NK-430MA、SUS304またはSUS444から形成され、マニホールドプレートが、SUS430から形成されている請求項6記載の記録ユニット。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、「電気的に接続された前記二種類以上の金属部材」とは、前記水性インク中における参照電極Ag/AgClでの自然電位が異なる二種類以上の金属部材を意味し、組成が異なる二種類以上の金属部材のみならず、同一組成であっても、表面処理の違いによる表面状態の相違等により、前記自然電位が異なる二種類以上の金属部材も含む。
【0011】
本発明において、「二種類以上の金属部材のうち、水性インクに対する耐腐食性が最も高い第一の金属部材」とは、例えば、水性インクに二種類以上の金属部材をそれぞれ浸漬したときに、水性インクへの金属の溶出量が最も少ない金属部材を意味する。また、本発明において、「二種類以上の金属部材のうち、水性インクに対する耐腐食性が最も低い第二の金属部材」とは、例えば、水性インクに二種類以上の金属部材をそれぞれ浸漬したときに、水性インクへの金属の溶出量が最も多い金属部材を意味する。
【0012】
本発明のインクジェットヘッドは、前述のように、インクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」ということがある。)を吐出するインクジェットヘッドであって、前記インクジェットヘッドは、前記水性インクが接触する箇所、特にインク流路に二種類以上の金属部材から形成されている。そして、前記二種類以上の金属部材のうち、少なくとも二つは、電気的に接続されており、電気的に接続された前記二種類以上の金属部材の前記水性インク中における参照電極Ag/AgClでの自然電位の最大差の絶対値が、60mV以下である。本発明のインクジェットヘッドは、前記水性インクが接触する箇所に、自然電位の最大差の絶対値が60mV以下である二種類以上の金属部材を用いていればよく、その他の構成及び形状は、特に制限されない。
【0013】
図1の断面図及び
図2の分解斜視図に、本発明のインクジェットヘッドの構成の一例を示す。
図1及び2に示すように、このインクジェットヘッドは、複数枚のプレートを備える流路ユニット17にプレート型のアクチュエータ18が接合され、このアクチュエータ18の上面に外部機器との接続のためのフレキシブルフラットケーブル19が重ね接合されている。そして、流路ユニット17の下面側に開口されたノズル38aから下向きに前記水性インクを吐出するものである。
【0014】
流路ユニット17は、幅狭部26及び幅広部27から構成されており、圧力室プレート31、スペーサプレート32、絞りプレート33、第1マニホールドプレート34、第2マニホールドプレート35、ダンパープレート36、カバープレート37、及びノズルプレート38を、この順に上から積層してエポキシ系接着剤等で接着した構成となっている。前記各プレート31〜38の厚みは、例えば、それぞれ、30μm〜1.5mmである。幅狭部26は、その平面形状が幅広部27の平面形状よりも短辺方向(走査方向)および長辺方向(紙送り方向)に小さい略矩形状であり、かつ、アクチュエータ18の平面形状と略同形状となっている。
【0015】
流路ユニット17において、ノズルプレート38は、ポリイミド等の樹脂製のシートであり、それ以外の各プレート31〜37は、金属プレートである。本例において、流路ユニット17の各プレート31〜37の少なくとも二つが、前記二種類以上の金属部材である。前記二種類以上の金属部材のうち、少なくとも二つは、電気的に接続されている。前記電気的接続は、例えば、圧力室プレート31及びスペーサプレート32のように直接接触しているために電気的に接続している場合のみならず、例えば、圧力室プレート31及びカバープレート37のように、他の金属部材及び後述のインク流路40に導入される水性インクを介して電気的に接続されている場合も含む。
【0016】
前記二種類以上の金属部材の形成材料は、電気的に接続された前記二種類以上の金属部材の前記水性インク中における参照電極Ag/AgClでの自然電位の最大差の絶対値が60mV以下となりさえすれば、いかなるものを用いてもよいが、例えば、NK−430MA、SUS444、SUS304、SUS430、SUS430BA、42合金(ニッケル含有量:約42%、鉄含有量:約58%)、SUS303、SUS304L、SUS430J1L、SUS440A、SUS440B、SUS440C、SUS410、SUS443J1、NNS442M3、Ni、Ti等があげられる。NK−430MAは、日本金属(株)製のSUS430の改良品である。SUS430BAは、SUS430に表面処理(ブライトアニール処理)を施した(冷間圧延後、光輝熱処理仕上げしたもので、そのあと光沢をあげるために軽く冷間圧延した)ものである。SUS304Lは、SUS304のうち、炭素の含有量を減らした極低炭素鋼である。SUS430J1Lは、SUS430にCu、Nbを添加し、極低C、Nとした鋼材である。NNS442M3(日新製鋼製)は、SUS430の改良品である。前述のSUSのうち、主なものの主要化学成分を表1に示す。表1中、成分組成を原子%で示し、残りの成分はFeである。前記最大差の絶対値を60mV以下とすることで、金属部材全体としての腐食が抑制される。前記自然電位は、例えば、下記の方法で測定できる。前記自然電位は、前記水性インクの種類(組成)によって若干異なるが、前記水性インクの種類(組成)が変わっても、前記最大差の絶対値を60mV以下としさえすれば、本発明の効果を得ることができる。逆に、前記最大差の絶対値が60mVを超えると、前記二種類以上の金属部材の間で腐食が生じやすくなるので、好ましくない。前記最大差の絶対値は、好ましくは0を超えて30mV以下である。
(自然電位の測定方法)
縦30mm、横20mm、厚み0.1mmの金属部材片を準備し、200mLビーカー中で前記水性インク150mLに20分浸漬した後、参照電極をAg/AgClとして前記水性インク中における自然電位を測定する。前記自然電位の測定には、例えば、北斗電工社製ポテンショスタットHA−151を用いることができる。
【0018】
本例において、電気的に接続された前記二種類以上の金属部材の配置箇所は、特に制限されず、例えば、流路ユニット17の各プレート31〜37のいずれか一つが前記二種類以上の金属部材で形成されていてもよいし、各プレート31〜37の二つ以上が前記二種類以上の金属部材で形成されていてもよい。後者の場合、例えば、各プレート31〜37のいずれか一つが前記第一の金属部材であり、それ以外の6つのプレートが前記第二の金属部材であってもよいし、各プレート31〜37のいずれか2つ、3つ、4つ又は5つが前記第一の金属部材であり、それ以外の5つ、4つ、3つ又は2つが前記第二の金属部材であってもよいし、各プレート31〜37のいずれか一つが前記第二の金属部材であり、それ以外の6つのプレートが前記第一の金属部材であってもよい。前述のように、耐食性という観点からは、全てのプレートが耐食性の高い第1の金属部材から形成されていることが望ましいが、耐食性の高い金属は比較的高価である。耐食性の高い金属が加工性に優れるとは限らない。従って、高い耐食性の金属を選択的に特定の場所に用いるのが望ましい。金属部材全体としての耐腐食性の向上の観点から、前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材は、隣接して積層されている金属プレートであることが好ましい。各プレート31〜37のうち、好ましくは、後述の共通液室43を構成するプレートが前記二種類以上の金属部材で形成されていることが好ましい。これにより、複数のノズル38aにつながるインク流路40のうち、表面積の大きい共通液室43での腐食を効率よく抑制することができ、例えば、水性インク中の顔料等の成分の析出に起因したインクジェットヘッドの吐出不良をより効果的に抑制することができる。また、この構成によれば、流路ユニット17の一部を、腐食が生じやすい金属プレートに置き換えたとしても、流路ユニット17全体としての腐食を抑制できるので、形成材料の選択の幅が広がり、コストの面でも有利である。なお、異なる金属部材を接合させる場合には、熱膨張係数の違いによるインク流路の歪みを考慮する必要がある。
【0019】
本発明者の実験によれば、ダンパープレート36及び絞りプレート33の両方またはダンパープレート36だけを第1の金属部材から構成し、残りのプレートを第2の金属部材から構成することが特に望ましいことが分かった。
図1にも示したように、特に、ダンパープレート36は共通液室43のインクと接触する面積が大きいので、耐腐食性が要求される部位である。また、ダンパープレート36は、インクの圧力変動のダンパーとして機能するために、大部分が肉薄となり、その下方のカバープレートの37との接触面積が小さい。それゆえ、ダンパープレート36を第1の金属部材から構成し、その上下に存在するプレート(ここではカバープレート37と第2マニホールドプレート35)を第2の金属部材から構成しても、異なる金属種のプレートを接合したときに生じる熱膨張差の影響は小さく抑えることができる。それゆえ、インクと接する面積が大きく、且つ隣接するプレートとの接触面積が小さいダンパープレートを第1の金属部材から構成し、その上下に設けられるプレートを、価格や加工性の面から選択した第2の金属部材を用いて構成することが有利である。
【0020】
電気的に接続された前記二種類以上の金属部材と前記水性インクとの接触面積の合計(X)に対する、前記第一の金属部材と前記水性インクとの接触面積(Y)の割合{(Y/X)×100}は、20%以上であることが好ましい。前記割合を20%以上とすることで、金属部材全体としての腐食をさらに抑制可能である。前記割合は、より好ましくは、35%以上である。
【0021】
流路ユニット17の各プレート31〜38には、エッチング、レーザ加工、又はプラズマジェット加工等により開孔又は溝が形成されており、各プレート31〜38が積層されることにより、それぞれの開孔及び溝が連通し、インク流路40が形成されるようになっている。以下に、各プレート31〜38の詳細について説明する。
【0022】
圧力室プレート31には、多数(
図1では、そのうちの2つが示されている。)の圧力室孔31aが設けられている。圧力室孔31aは、圧力室プレート31の短辺方向(走査方向)に延びる長孔形状を成し、圧力室プレート31の長辺(紙送り方向の辺)に沿うように並列し、短辺方向(走査方向)に複数列(例えば、5列)設けられている。これらの圧力室孔31aの各列は、例えば、水性ブラックインク用に2列、水性イエローインク用、水性マゼンタインク用、及び水性シアンインク用に各1列が用いられる。圧力室孔31aは、圧力室プレート31の上方からアクチュエータ18が接着され、下方からスペーサプレート32が接着されることにより、内部空間を有する圧力室41を形成する。
【0023】
スペーサプレート32には、圧力室プレート31の圧力室孔31aの走査方向の一端部に連通する連通孔32aと、圧力室孔31aの他端部に連通する貫通孔32bとが設けられている。
【0024】
絞りプレート33には、その上面側に絞り溝33aが形成されている。この絞り溝33aは、絞りプレート33の短辺方向(走査方向)に延びる長寸溝状を成し、その一端部は、スペーサプレート32の連通孔32aと連通し、その他端部には下面側に貫通する貫通孔33cが設けられている。また、絞りプレート33には、スペーサプレート32の貫通孔32bと連通する貫通孔33bが形成されている。絞り溝33aは、絞りプレート33がスペーサプレート32及び第1のマニホールドプレート34に挟まれて接着されることにより、絞り通路42を形成する。
【0025】
第1マニホールドプレート34には、圧力室孔31aに対応してその下方に位置すると共に圧力室孔31aの各列の列方向(紙送り方向)に沿って延設されたマニホールド孔34aが貫通形成されている。マニホールド孔34aは、例えば、水性ブラックインク用に2列、水性イエローインク用、水性マゼンタインク用、及び水性シアンインク用に各1列の合計5列が設けられている。マニホールド孔34aは、貫通孔33c及び絞り通路42、並びに連通孔32aを介して、圧力室41に連通している。また、第1マニホールドプレート34には、各マニホールド孔34aの長手方向に沿うように、絞りプレート33の貫通孔33bと連通する貫通孔34bが形成されている。
【0026】
第2マニホールドプレート35には、第1マニホールドプレート34のマニホールド孔34a及び貫通孔34bと同形状を成すマニホールド孔35a及び貫通孔35bが貫通形成されている。また、
図1には表れていないが、第2マニホールドプレート35の長辺方向(紙送り方向)の一端部には、各色の水性インク用に4つのインク流入孔35c(
図2参照)が短辺方向(走査方向)に並んで形成されている。
【0027】
そして、絞りプレート33、第1マニホールドプレート34、第2マニホールドプレート35、及び後述するダンパープレート36が積層接着されることで、マニホールド孔34a及び35aにより、共通液室43が形成される。
【0028】
なお、第2マニホールドプレート35の前記インク流入孔35cとマニホールド孔35aとの間には、
図1には表れない連通孔が下面側から凹設され、第2マニホールドプレート35の下方からダンパープレート36が接着されることで、前記インク流入孔35cとマニホールド孔35aとが連通し、水性インクを前記インク流入孔35cからマニホールド孔35aに供給できるようになっている。また、4つの前記インク流入孔35cのうち、1つの前記インク流入孔35cは他の3つのインク流入孔35cよりも大きくなっていて、これは使用頻度の高い水性ブラックインク用の2列のマニホールド孔35aと連通するようになっている。
【0029】
ダンパープレート36は、共通液室43に対応する箇所に下面側から窪ませて薄肉に形成したダンパー壁36aを有している。また、ダンパープレート36には、ダンパー壁36aの長手方向に沿うように、第2マニホールドプレート35の貫通孔35bと連通する貫通孔36bが形成されている。ダンパープレート36がカバープレート37と接着積層されることで、ダンパー室が形成される。ダンパー壁36aは、その下方のカバープレート37との間で振動できるように、カバープレート37に接触していない。
【0030】
カバープレート37には、ダンパープレート36の貫通孔36bと連通する貫通孔37aが形成されている。
【0031】
ノズルプレート38には、カバープレート37の貫通孔37aと連通する孔であるノズル38aが形成されている。ノズル38aは、例えば、長辺方向(紙送り方向)に沿うように並列し、短辺方向(走査方向)に5列設けられていて、例えば、水性ブラックインク用に2列、水性イエローインク用、水性マゼンタインク用、及び水性シアンインク用に各1列が用いられる。
【0032】
これらの各プレート31〜38を積層接着することにより、上部に幅狭部26、下部に幅広部27を有する断面凸形状の流路ユニット17が形成される。そして、各プレート32〜37に形成された貫通孔32b、33b、34b、35b、36b及び37aが互いに連通して流出路44が形成される。流出路44は、ノズルプレート38のノズル38aに連通している。これにより、前記インク流入孔35cから流入した水性インクは、共通液室43、絞り通路42、圧力室41及び流出路44の順に流れ、ノズル38aから吐出される。すなわち、前記インク流入孔35c、共通液室43、絞り通路42、圧力室41、及び流出路44により、流路ユニット17内のインク流路40が構成されている。なお、
図2に示すように、第2マニホールドプレート35の上面には、水性インクに混入している異物を除去するためにニッケルなどで形成されたフィルタ25が前記インク流入孔35cを覆うように取り付けられている。
【0033】
図1に示すように、アクチュエータ18は、6枚の圧電シート50〜55と絶縁性を有するトップシート56とが積層されて構成され、その最下層の圧電シート50が流路ユニット17の複数の圧力室31aを覆っている。各圧電シート50〜55は、それぞれの厚みが略30μm程度のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のセラミック材料で形成されている。各圧電シート50〜55のうち、最下層の圧電シート50から上方に数えて奇数番目の圧電シート50、52及び54の上面には、流路ユニット17の圧力室41の全てに対応するように配置された共通電極57が印刷形成されている。また、最下層の圧電シート50から上方に数えて偶数番目の圧電シート51及び53の上面には、各圧力室41に対し個別に対応するように配置された多数の個別電極58が印刷形成されている。また、
図1には表れていないが、共通電極57及び個別電極58は、各圧電シート50〜55及びトップシート56の側端面又はスルーホールに設けた中継配線を介し、トップシート56の上面に設けられた表面電極に導通している。
【0034】
このアクチュエータ18の複数の個別電極58に、フレキシブルフラットケーブル19から選択的に電圧が印加されると、印刷された個別電極58と共通電極57との間に電位差が生じ、圧電シート51〜54の個別電極58と共通電極57とに挟まれた箇所である活性部に電界が作用して積層方向の歪み変形が発生する。これにより、最下層の圧電シート50が圧力室41内へ突出するため、圧力室41内の水性インクが流出路44を通じてノズル38aから外部へ吐出される。
【0035】
本例では、積層構造のインクジェットヘッドを例示したが、前述のとおり、本発明のインクジェットヘッドは、前記水性インクが接触する箇所に、自然電位の最大差の絶対値が60mV以下である二種類以上の金属部材を用いていればよく、その他の構成及び形状は、特に制限されない。例えば、本発明のインクジェットヘッドは、製造が容易となることから、流路ユニットを一枚の板(積層構造ではない部材)で製造し、前記流路ユニットのインクと接する部分を二種類以上の金属部材で形成してもよい。この場合も、二種類以上の金属部材の自然電位の最大差の絶対値は60mV以下である。また、本発明のインクジェットヘッドは、シリアル型インクジェットヘッドであってもよいし、ライン型インクジェットヘッドであってもよい。
【0036】
本発明のインクジェットヘッドに適用される前記水性インクとしては、特に制限されないが、着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含む水性インクであることが好ましい。
【0037】
前記着色剤は、顔料又は染料のいずれであってもよいが、顔料であることが好ましい。前述のとおり、本発明のインクジェットヘッドは、金属部材全体としての腐食が抑制されたものであるため、前記水性インク中への金属の溶出が少ない。このため、本発明のインクジェットヘッドは、例えば、水性顔料インクに適用しても、前記金属の溶出に起因した顔料の凝集によるインク流路の閉塞が抑制され、安定した吐出が可能である。
【0038】
前記顔料は、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これらの顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、78、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224及び238;C.I.ピグメントバイオレット196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36等があげられる。
【0039】
前記顔料は、自己分散型顔料であってもよい。前記自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性官能基及びそれらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。前記自己分散型顔料は、例えば、特開平8−3498号公報、特表2000−513396号公報、特表2008−524400号公報、特表2009−515007号公報等に記載の方法によって顔料が処理されたものを用いることができる。前記自己分散型顔料の原料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。また、前記処理を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」及び「MA100」等のカーボンブラックがあげられる。前記自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)250C」、「CAB−O−JET(登録商標)260M」、「CAB−O−JET(登録商標)270Y」、「CAB−O−JET(登録商標)300」、「CAB−O−JET(登録商標)400」、「CAB−O−JET(登録商標)450C」、「CAB−O−JET(登録商標)465M」及び「CAB−O−JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW−2」及び「BONJET(登録商標)BLACK CW−3」;東洋インキ製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」;等があげられる。
【0040】
前記水性インク全量に対する前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0041】
前記染料は、特に限定されず、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料等があげられる。前記染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック、C.I.ダイレクトブルー、C.I.ダイレクトレッド、C.I.ダイレクトイエロー、C.I.ダイレクトオレンジ、C.I.ダイレクトバイオレット、C.I.ダイレクトブラウン、C.I.ダイレクトグリーン、C.I.アシッドブラック、C.I.アシッドブルー、C.I.アシッドレッド、C.I.アシッドイエロー、C.I.アシッドオレンジ、C.I.アシッドバイオレット、C.I.ベーシックブラック、C.I.ベーシックブルー、C.I.ベーシックレッド、C.I.ベーシックバイオレット及びC.I.フードブラック等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラックとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、19、32、51、71、108、146、154及び168等があげられる。前記C.I.ダイレクトブルーとしては、例えば、C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、86、90、106及び199等があげられる。前記C.I.ダイレクトレッドとしては、例えば、C.I.ダイレクトレッド1、4、17、28、83及び227等があげられる。前記C.I.ダイレクトイエローとしては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、86、98、132、142及び173等があげられる。前記C.I.ダイレクトオレンジとしては、例えば、C.I.ダイレクトオレンジ34、39、44、46及び60等があげられる。前記C.I.ダイレクトバイオレットとしては、例えば、C.I.ダイレクトバイオレット47及び48等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラウンとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラウン109等があげられる。前記C.I.ダイレクトグリーンとしては、例えば、C.I.ダイレクトグリーン59等があげられる。前記C.I.アシッドブラックとしては、例えば、C.I.アシッドブラック2、7、24、26、31、52、63、112及び118等があげられる。前記C.I.アシッドブルーとしては、例えば、C.I.アシッドブルー9、22、40、59、90、93、102、104、117、120、167、229及び234等があげられる。前記C.I.アシッドレッドとしては、例えば、C.I.アシッドレッド1、6、32、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、256、289、315及び317等があげられる。前記C.I.アシッドイエローとしては、例えば、C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、61及び71等があげられる。前記C.I.アシッドオレンジとしては、例えば、C.I.アシッドオレンジ7及び19等があげられる。前記C.I.アシッドバイオレットとしては、例えば、C.I.アシッドバイオレット49等があげられる。前記C.I.ベーシックブラックとしては、例えば、C.I.ベーシックブラック2等があげられる。前記C.I.ベーシックブルーとしては、例えば、C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、24、25、26、28及び29等があげられる。前記C.I.ベーシックレッドとしては、例えば、C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14及び37等があげられる。前記C.I.ベーシックバイオレットとしては、例えば、C.I.ベーシックバイオレット7、14及び27等があげられる。前記C.I.フードブラックとしては、例えば、C.I.フードブラック1及び2等があげられる。
【0042】
前記水性インク全量に対する前記染料の配合量は、特に限定されず、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.3重量%〜10重量%である。
【0043】
前記着色剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0045】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0046】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0047】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、より好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0048】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0050】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0051】
前記水性インクは、例えば、着色剤、水及び水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0052】
つぎに、本発明のインクジェット記録装置及びそれを用いたインクジェット記録方法について説明する。
【0053】
本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部及びインクジェットヘッドを含み、前記インク収容部に収容された水性インクを前記インクジェットヘッドによって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インクジェットヘッドが、本発明のインクジェットヘッドであることを特徴とする。前記インク収容部としては、例えば、前記水性インクを含むインクカートリッジ等があげられる。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0054】
図3に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、本発明のインクジェットヘッド3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0055】
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。ヘッドユニット4に設置された本発明のインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、特開2008−246821号公報に開示されたような知られたものを使用できる。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、本発明のインクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0056】
パージ装置8は、本発明のインクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、特開2008−246821号公報に開示されたような知られたものを使用できる。
【0057】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、本発明のインクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。
図3において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻される本発明のインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0058】
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。
【0059】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、記録用紙Pが、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。記録用紙Pは、本発明のインクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入される。導入された記録用紙Pに、本発明のインクジェットヘッド3から吐出される水性インクにより所定の記録がされる。本発明のインクジェットヘッド3は、金属部材全体としての腐食が抑制されたものであるため、前記水性インク中への金属の溶出が少ない。このため、本発明のインクジェットヘッド3は、例えば、水性顔料インクに適用しても、前記金属の溶出に起因した顔料の凝集によるインク流路の閉塞が抑制され、安定した吐出が可能である。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。
図3においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0060】
図3では、本発明のインクジェットヘッドとして、シリアル型インクジェットヘッドを採用した装置を例示しているが、本発明のインクジェット記録装置は、これに限定されない。本発明のインクジェット記録装置は、本発明のインクジェットヘッドとして、ライン型インクジェットヘッドを採用した装置であってもよい。
【0061】
本発明によれば、金属部品の液体に対する腐食抑制方法であって、前記金属部品は、前記液体が接触する箇所に二種類以上の金属部材が用いられており、前記二種類以上の金属部材のうち、少なくとも二つは、電気的に接続されており、電気的に接続された前記二種類以上の金属部材の前記液体中における参照電極Ag/AgClでの自然電位の最大差の絶対値が、60mV以下であることを特徴とする腐食抑制方法が提供される。前記腐食抑制方法は、前記水性インクを吐出するインクジェットヘッドに限らず、様々な金属部品に広く適用可能である。前記腐食抑制方法において、前記自然電位の測定方法等の各種条件は、本発明のインクジェットヘッドと同様とすればよい。
【0062】
本発明によれば、インクジェット記録用水性インクを吐出するインクジェットヘッドの製造方法であって、前記水性インクが接触する箇所に二種類以上の金属部品を用い、前記二種類以上の金属部品のうち、少なくとも二つを、電気的に接続させ、電気的に接続させた前記二種類以上の金属部品の前記水性インク中における参照電極Ag/AgClでの自然電位の最大差の絶対値を、60mV以下とするインクジェットヘッドの製造方法が提供される。前記インクジェットヘッドの製造方法において、前記自然電位の測定方法等の各種条件は、本発明のインクジェットヘッドと同様とすればよい。
【実施例】
【0063】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
[予備実験]
SUS430、SUS430BA、SUS304、42合金、NK-430MA、及び鉄(Fe)の薄板状金属部材(1000mm
2)を用意して、それらの金属部材のインクに対する耐食性を以下のようにして検査した。表2に記載のBK−1の水性インク組成における、自己分散型カーボンブラックを除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、水に分散させた自己分散型カーボンブラックに前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、インクジェット記録用水性インクBK−1を得た。上記の6種の金属部材を密閉容器に充填した10mLの前記水性インクに浸漬し、温度60℃の恒温室中に4週間放置した。その後、前記水性インク中に溶出した金属量をICP発光分光分析装置(リガク社製CIROS−120EOP)にて測定し、金属の溶出を、下記の評価基準に従って評価した。
<金属溶出試験 評価基準>
AA:前記水性インク中への金属部材からの金属の溶出量が1ppm以下であった
A :前記水性インク中への金属部材からの金属の溶出量が1ppmを超えて5ppm以下であった
B :前記水性インク中への金属部材からの金属の溶出量が5ppmを超えて10ppm以下であった
C :前記水性インク中への金属部材からの金属の溶出量が10ppmを超えた。
【0064】
評価結果を以下に示す。
金属種 評価結果
SUS430BA AA
SUS304 AA
NK-430MA AA
SUS444 AA
SUS430 A
42合金 C
Fe C
上の結果からすれば、SUS430BA、SUS304、NK-430MA、SUS444がインクに対する耐食性が最も優れ、次いでSUS430が優れ、42合金及びFeがそれらに比べて劣っていることが分かる。以下の実施例及び比較例においては、上記金属部材を単独または組み合わせて用いたが、組合せる場合には、評価結果として金属溶出の評価結果が異なる金属部材同士を組み合わせた。
[実施例1−1〜1−9及び比較例1−1]
前記割合{(Y/X)×100}が表3に示す値となるように、表3に示す第一の金属部材(SUS430、SUS430BA、SUS304又は42合金)及び第二の金属部材(42合金)を準備した。なお、比較例1−1においては、金属部材の形成材料として、42合金のみを用いた。
【0065】
実施例1−1〜1−9及び比較例1−1について、下記方法により、金属溶出試験を行った。
<金属溶出試験方法>
水性インク組成(表2)における、自己分散型カーボンブラックを除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、水に分散させた自己分散型カーボンブラックに前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、インクジェット記録用水性インクBK−1〜BK−3を得た。実施例1−1〜1−9及び比較例1−1の第一の金属部材及び第二の金属部材を、その合計表面積が1000mm
2かつ前記割合{(Y/X)×100}が表3に示す値となるように準備した。それらを銅線でつなぎ、その銅線部は前記水性インクに接触しないようシリコン製シーリング材(セメダイン社製シリコンシーラント8060プロ)で被覆した。その金属部材を密閉容器に充填した10mLの前記水性インクに浸漬し、温度60℃の恒温室中に4週間放置した。その後、前記水性インク中に溶出した金属量をICP発光分光分析装置(リガク社製CIROS−120EOP)にて測定し、金属の溶出を、下記の評価基準に従って評価した。なお、本金属溶出試験の結果は、後述の吐出安定性及び耐久吐出安定性と相関を示し、本金属溶出試験の結果が良ければ、吐出安定性及び耐久吐出安定性に優れると判断できる。
【0066】
【表2】
【0067】
金属溶出試験 評価基準
A:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が5ppm以下であった
B:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が5ppmを超えて10ppm以下であった
C:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が10ppmを超えた
実施例1−1〜1−9及び比較例1−1における前記第一の金属部材、前記第二の金属部材、使用した水性インクの種類、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属の自然電位との差の絶対値、前記割合{(Y/X)×100}及び金属溶出試験の評価結果を、表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示すとおり、第二の金属部材の形成材料を42合金とした実施例1−1〜1−9では、金属部材の形成材料として42合金のみを用いた比較例1−1と比べて金属溶出試験の評価結果が良好であり、前記水性インクに対する耐腐食性の低い金属部材(第二の金属部材である42合金)の耐腐食性が、前記水性インクに対する耐腐食性の高い金属部材(第一の金属部材)に近いレベルまで引き上げられ、金属部材全体としての腐食が抑制された。前記割合{(Y/X)×100}を37.5%〜66.7%とした実施例1−1、1−2、1−5、1−6、1−8及び1−9では、金属溶出試験の評価結果が特に優れていた。
【0070】
実施例1−2及び比較例1−1について、下記方法により、吐出安定性評価及び耐久吐出安定性評価を行った。
<吐出安定性評価>
前記割合{(Y/X)×100}が42.9%となるように、第一の金属部材(SUS430)及び第二の金属部材(42合金)を用いて
図1に示す積層構造のインクジェットヘッドを作成し、前記インクジェットヘッドに前記水性インクを導入して、1億ドット(約3万枚)の連続記録を行った。インクジェットヘッドのインク流路を構成する金属として、ダンパープレートに第一の金属部材(SUS430)を用い、その他のプレートは第二の金属部材(42合金)を用いた。その結果、不吐出及び吐出曲がりが全くなく、良好な吐出安定性を示した。
【0071】
一方、ダンパープレートを含めても全て第二の金属部材(42合金)を用いてインクジェットヘッドのインク流路を構成した場合(比較例1−1)には、およそ1万枚の記録後に、インクの吐出曲がりが生じ、徐々に吐出しなくなった。なお、不吐出とは、前記インクジェットヘッドのノズルが目詰まりし、前記水性インクが吐出されない状態である。吐出曲がりとは、前記インクジェットヘッドのノズルの一部が目詰まりし、前記水性インクが、記録用紙に対して垂直に吐出されず、斜めに吐出される状態である。
(耐久吐出安定性評価)
吐出安定性評価と同様にして作成したインクジェットヘッドに前記水性インクを導入して、60℃の環境下で2週間放置した後、1億ドット(約3万枚)の連続記録を行った。その結果、不吐出及び吐出曲がりが全くなく、良好な耐久吐出安定性を示した。
[実施例2−1〜2−5及び比較例2−1〜2−3]
前記割合{(Y/X)×100}が表4に示す値となるように、表4に示す第一の金属部材(NK−430MA、SUS444、SUS304、SUS430又はFe)及び第二の金属部材(SUS430又はFe)を準備した。なお、比較例2−2においては、金属部材の形成材料として、SUS430のみを用い、比較例2−3においては、金属部材の形成材料として、Feのみを用いた。
【0072】
実施例2−1〜2−5及び比較例2−1〜2−3について、実施例1−1〜1−9及び比較例1−1と同様にして金属溶出試験を行い、金属の溶出を、下記の評価基準に従って評価した。なお、この実施例では、第1の金属部材及び第2の金属部材として、金属溶出試験にて良好な結果を示した金属種を用いているので、実施例1における評価基準におけるA評価よりも良好な評価AAを加えた。
金属溶出試験 評価基準
AA:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が1ppm以下であった
A :前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が1ppmを超えて5ppm以下であった
B :前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が5ppmを超えて10ppm以下であった
C :前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が10ppmを超えた
実施例2−1〜2−5及び比較例2−1〜2−3における前記第一の金属部材、前記第二の金属部材、使用した水性インクの種類、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属部材の自然電位との差の絶対値、前記割合{(Y/X)×100}及び金属溶出試験の評価結果を、表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表4に示すとおり、第二の金属部材の形成材料をSUS430とした実施例2−1〜2−5では、金属部材の形成材料としてSUS430のみを用いた比較例2−2と比べて金属溶出試験の評価結果が良好であり、前記水性インクに対する耐腐食性の低い金属部材(第二の金属部材であるSUS430)の耐腐食性が、前記水性インクに対する耐腐食性の高い金属部材(第一の金属部材)に近いレベルまで引き上げられ、金属部材全体としての腐食が抑制された。一方、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属部材の自然電位との差の絶対値が175mVである比較例2−1及び金属部材の形成材料としてFeのみを用いた比較例2−3では、比較例2−2よりも金属溶出試験の評価結果が劣っていた。
[実施例3−1〜3−4及び比較例3−1〜3−2]
前記割合{(Y/X)×100}が表6に示す値となるように、表6に示す第一の金属部材(NK−430MA、SUS430又は42合金)及び第二の金属部材(42合金又はFe)を準備した。なお、比較例3−2においては、金属部材の形成材料として、42合金のみを用いた。
【0075】
実施例3−1〜3−4及び比較例3−1〜3−2について、下記方法により、金属溶出試験を行った。
(金属溶出試験方法)
水性インク組成(表5)における、自己分散型顔料を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、水に分散させた自己分散型顔料に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、インクジェット記録用水性インクY−1、M−1及びC−1を得た。実施例3−1〜3−4及び比較例3−1〜3−2の第一の金属部材及び第二の金属部材について、実施例1−1〜1−9及び比較例1−1と同様にして金属溶出試験を行い、金属の溶出を、下記の評価基準に従って評価した。
【0076】
【表5】
【0077】
金属溶出試験 評価基準
A:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が5ppm以下であった
B:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が5ppmを超えて10ppm以下であった
C:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が10ppmを超えた
実施例3−1〜3−4及び比較例3−1〜3−2における前記第一の金属部材、前記第二の金属部材、使用した水性インクの種類、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属部材の自然電位との差の絶対値、前記割合{(Y/X)×100}及び金属溶出試験の評価結果を、表6に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
表6に示すとおり、第二の金属部材の形成材料を42合金とした実施例3−1〜3−4では、金属部材の形成材料として42合金のみを用いた比較例3−2と比べて金属溶出試験の評価結果が良好であり、前記水性インクに対する耐腐食性の低い金属部材(第二の金属部材である42合金)の耐腐食性が、前記水性インクに対する耐腐食性の高い金属部材(第一の金属部材)に近いレベルまで引き上げられ、金属部材全体としての腐食が抑制された。一方、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属部材の自然電位との差の絶対値が69mVである比較例3−1では、金属溶出試験の評価結果が比較例3−2と同等であった。
[実施例4−1〜4−2及び比較例4−1〜4−3]
前記割合{(Y/X)×100}が表7に示す値となるように、表7に示す第一の金属部材(SUS444、NK−430MA、SUS430又はFe)及び第二の金属部材(SUS430又はFe)を準備した。なお、比較例4−2においては、金属部材の形成材料として、SUS430のみを用い、比較例4−3においては、金属部材の形成材料として、Feのみを用いた。
【0080】
実施例4−1〜4−2及び比較例4−1〜4−3における前記第一の金属部材、前記第二の金属部材、使用した水性インクの種類、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属の自然電位との差の絶対値、前記割合{(Y/X)×100}及び金属溶出試験の評価結果を、表7に示す。
【0081】
【表7】
【0082】
表7に示すとおり、第二の金属部材の形成材料をSUS430とした実施例4−1〜4−2では、金属部材の形成材料としてSUS430のみを用いた比較例4−2と比べて金属溶出試験の評価結果が良好であり、前記水性インクに対する耐腐食性の低い金属部材(第二の金属部材であるSUS430)の耐腐食性が、前記水性インクに対する耐腐食性の高い金属部材(第一の金属部材)に近いレベルまで引き上げられ、金属部材全体としての腐食が抑制された。一方、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属部材の自然電位との差の絶対値が80mVである比較例4−1及び金属部材の形成材料としてFeのみを用いた比較例4−3では、比較例4−2よりも金属溶出試験の評価結果が劣っていた。
[実施例5−1〜5−4及び比較例5−1〜5−2]
前記割合{(Y/X)×100}が表9に示す値となるように、表9に示す第一の金属部材(SUS430、NK−430MA又は42合金)及び第二の金属部材(42合金又はFe)を準備した。なお、比較例5−2においては、金属部材の形成材料として、42合金のみを用いた。
【0083】
実施例5−1〜5−4及び比較例5−1〜5−2について、下記方法により、金属溶出試験を行った。
(金属溶出試験方法)
水性インク組成(表8)の各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、インクジェット記録用水性インクY−2、M−2及びC−2を得た。実施例5−1〜5−4及び比較例5−1〜5−2の第一の金属部材及び第二の金属部材について、実施例1−1〜1−9及び比較例1−1と同様にして金属溶出試験を行い、金属の溶出を、下記の評価基準に従って評価した。
【0084】
【表8】
【0085】
金属溶出試験 評価基準
A:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が5ppm以下であった
B:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が5ppmを超えて10ppm以下であった
C:前記水性インク中への前記第一の金属部材及び前記第二の金属部材からの金属の溶出量が10ppmを超えた
実施例5−1〜5−4及び比較例5−1〜5−2における前記第一の金属部材、前記第二の金属部材、使用した水性インクの種類、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属の自然電位との差の絶対値、前記割合{(Y/X)×100}及び金属溶出試験の評価結果を、表9に示す。
【0086】
【表9】
【0087】
表9に示すとおり、第二の金属部材の形成材料を42合金とした実施例5−1〜5−4では、金属部材の形成材料として42合金のみを用いた比較例5−2と比べて金属溶出試験の評価結果が良好であり、前記水性インクに対する耐腐食性の低い金属部材(第二の金属部材である42合金)の耐腐食性が、前記水性インクに対する耐腐食性の高い金属部材(第一の金属部材)に近いレベルまで引き上げられ、金属部材全体としての腐食が抑制された。一方、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属部材の自然電位との差の絶対値が72mVである比較例5−1では、金属溶出試験の評価結果が比較例5−2と同等であった。
[実施例6−1〜6−2及び比較例6−1〜6−2]
前記割合{(Y/X)×100}が表10に示す値となるように、表10に示す第一の金属部材(NK−430MA、SUS304、SUS430又はFe)及び第二の金属部材(SUS430)を準備した。なお、比較例6−1においては、金属部材の形成材料として、SUS430のみを用い、比較例6−2においては、金属部材の形成材料として、Feのみを用いた。
【0088】
実施例6−1〜6−2及び比較例6−1〜6−2における前記第一の金属部材、前記第二の金属部材、使用した水性インクの種類、前記水性インクに対する前記第一の金属部材の自然電位と前記第二の金属部材の自然電位との差の絶対値、前記割合{(Y/X)×100}及び金属溶出試験の評価結果を、表10に示す。
【0089】
【表10】
【0090】
表10に示すとおり、第二の金属部材の形成材料をSUS430とした実施例6−1〜6−2では、金属部材の形成材料としてSUS430のみを用いた比較例6−1と比べて金属溶出試験の評価結果が良好であり、前記水性インクに対する耐腐食性の低い金属部材(第二の金属部材であるSUS430)の耐腐食性が、前記水性インクに対する耐腐食性の高い金属部材(第一の金属部材)に近いレベルまで引き上げられ、金属部材全体としての腐食が抑制された。一方、金属部材の形成材料としてFeのみを用いた比較例6−2では、比較例6−1よりも金属溶出試験の評価結果が劣っていた。