特許第6241816号(P6241816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241816光学用粘着剤組成物および光学用粘着剤組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241816
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】光学用粘着剤組成物および光学用粘着剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/14 20060101AFI20171127BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20171127BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20171127BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C09J133/14
   C09J175/04
   C09J11/06
   G02F1/1335 510
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-73766(P2013-73766)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198745(P2014-198745A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100169812
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛志
(72)【発明者】
【氏名】小川 寛之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 昌宏
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−057117(JP,A)
【文献】 特開2012−207055(JP,A)
【文献】 特開2007−277510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
G01F 1/1335−1/13363
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル単量体aと、ホモポリマーの溶解度パラメーター(SP値)が23〜29[(J/cm30.5]であるイソシアネート基と反応する官能基を有さない含窒素単量体bと、カルボキシル基および/または水酸基を有する単量体cと、含む形成材料の合計を100質量%としたときに、前記単量体bを0.1〜12質量%の範囲で含む形成材料によって合成されてなる、ガラス転移温度(Tg)が−45〜0℃である共重合体Aと、
該共重合体A100質量部に対して、少なくともポリイソシアネート化合物Bが1〜50質量部の範囲で混合されてなり、
該ポリイソシアネート化合物Bは、その一部が、前記混合の際に混合されたイソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物Cと反応してなる該単官能化合物Cとの反応物形態であり
かつ、これらの成分の混合割合が、下記式で算出される上記成分の混合に要するエネルギー(ΔEM)が275[J/mol]以下となるように設計されていることを特徴とする光学用粘着剤組成物。
(上記式中のn1は、共重合体A及びポリイソシアネート化合物Bの合計における、共重合体Aのモル分率を表し、V1は、共重合体Aのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ1は、共重合体Aの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。また、上記式中のn2は、共重合体A及びポリイソシアネート化合物Bの合計における、ポリイソシアネート化合物Bのモル分率を表し、V2は、該ポリイソシアネート化合物Bのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ2は、該ポリイソシアネート化合物Bの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。ただし、n1+n2=1であり、共重合体Aのモル分率は、共重合体Aを構成する各モノマーのモル分率を合計したものとする。)
【請求項2】
前記含窒素単量体bが、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド又はアクリロイルモルホリンから選ばれる少なくともいずれかである請求項1に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記単官能化合物Cの有するイソシアネート基と反応する官能基が、水酸基である請求項1又は2に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項4】
前記混合の際に、さらに硬化剤を含有させてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項5】
少なくとも、共重合体Aとポリイソシアネート化合物Bとを混合して光学用粘着剤組成物を製造する光学用粘着剤組成物の製造方法であって、
上記共重合体Aとして、(メタ)アクリル酸エステル単量体aと、ホモポリマーの溶解度パラメーター(SP値)が23〜29[(J/cm30.5]であるイソシアネート基と反応する官能基を有さない含窒素単量体bと、カルボキシル基および/または水酸基を有する単量体cとを、形成材料の合計を100質量%としたときに、前記単量体bを0.1〜12質量%の範囲で含む形成材料によって合成されてなる、ガラス転移温度(Tg)が−45〜0℃であるものを用い、
前記共重合体A100質量部に対して、少なくともポリイソシアネート化合物Bを1〜50質量部の範囲で混合する際に、イソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物Cを混合させることで、
該ポリイソシアネート化合物Bの一部が、前記単官能化合物Cとの反応物形態のポリイソシアネート化合物Bとして混合され
かつ、これらの成分の混合割合を、下記式で算出される上記成分の混合に要するエネルギー(ΔEM)が275[J/mol]以下となるように設計することを特徴とする光学用粘着剤組成物の製造方法。
(上記式中のn1は、共重合体A及びポリイソシアネート化合物Bの合計における、共重合体Aのモル分率を表し、V1は、共重合体Aのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ1は、共重合体Aの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。また、上記式中のn2は、共重合体A及びポリイソシアネート化合物Bの合計における、ポリイソシアネート化合物Bのモル分率を表し、V2は、該ポリイソシアネート化合物Bのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ2は、該ポリイソシアネート化合物Bの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。ただし、n1+n2=1であり、共重合体Aのモル分率は、共重合体Aを構成する各モノマーのモル分率を合計したものとする。)
【請求項6】
前記含窒素単量体bが、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド又はアクリロイルモルホリンから選ばれる少なくともいずれかである請求項5に記載の光学用粘着剤組成物の製造方法。
【請求項7】
前記混合の際に、さらに硬化剤を含有させる請求項5又は6に記載の光学用粘着剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用粘着剤組成物および光学用粘着剤組成物の製造方法に関するが、特には偏光板に好適な粘着剤組成物を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両搭載用、屋外計器用およびパソコンなどのディスプレイまたはテレビなどの表示装置の軽量化および薄型化により、液晶表示装置が広く使用されるようになり、その需要は、ますます増加傾向にある。それに伴い、使用環境も屋内外を問わず非常に過酷になってきている。
【0003】
液晶表示装置に使用される偏光板は、ポリビニルアルコール系偏光子の両面をトリアセチルセルロース系保護フィルムで挟んだ3層構造を有しているが、それらの材料の特性から寸法安定性に乏しい。また、偏光板などの光学機能性フィルムは延伸によって成形されているため、経時による伸縮が起こり易い。このため、液晶表示装置においては、光学機能性フィルムの伸縮により生じる内部応力を、粘着剤層が吸収・緩和することができないと、光学機能性フィルムに作用する残留応力の分布が不均一となり、特にその周縁部に応力が集中する。その結果、液晶表示装置の周縁部が中央より明るくなったり、または暗くなったりし、液晶表示装置に色むらや白抜け現象が発生する原因になる。
【0004】
また、このような色むらや白抜け現象が発生する他の要因として、応力によって光学機能性フィルムや粘着剤層に発生する光学的な歪(複屈折の発生など)が考えられる。
【0005】
上記の問題点を解決するために多くの手段が検討されてきた。例えば、特許文献1では、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするポリマーと架橋剤とからなる粘着剤組成物であって、硬化後のゲル分率が30〜60%のものが開示されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、この技術では、偏光板が、ディスコティック液晶がコートされている偏光板や、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とする偏光板である場合には、十分に色むらや白抜け現象を抑えることができない。
【0006】
また、特許文献2では、特定の分子量を有する(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするポリマーと架橋剤とからなる粘着剤組成物であって、硬化後のゲル分率が45〜95%(実施例では55〜72%)のものが開示されている。しかしながら、この技術でも、偏光板が、ディスコティック液晶がコートされている偏光板や、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とする偏光板である場合には、十分に色むら・白抜け現象を抑えることができない。
【0007】
また、特許文献3では、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、イソシアネート化合物(B)を5重量部以上30重量部以下の割合で含む粘着剤組成物が開示されている。しかしながら、一般的に、イソシアネート化合物と、粘着剤に使用されるアクリル系共重合体との溶解度パラメーター(以下、SP値と略記する場合がある)の差は大きいため、イソシアネート化合物を多量に使用する際には、相溶性の問題が生じ、塗膜の白化、すなわちヘイズ値の上昇を招くことがある。そのため、粘着剤を製造する際に、イソシアネート化合物の添加量が制限される場合や、アクリル系共重合の組成の自由度が低くなりその設計が制限される場合があり、目的とする粘着剤の要求性能を満足することが困難となる。
【0008】
さらに、特許文献4では、アクリル系共重合体を設計する際に、該共重合体を構成するそれぞれのホモポリマーのSP値が一定の範囲となるようにすることが開示されているが、これによりアクリル系共重合体の組成設計の自由度が制限されることに変わりはなく、目的とする粘着剤の要求性能を満足することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−34781号公報
【特許文献2】特開2005−325340号公報
【特許文献3】特開2010−90354号公報
【特許文献4】特開2011−37927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、これを使用して対象物を貼り付けた場合に剥がれの問題を生じず、透明性に優れると同時に、例えば、対象物が偏光板である場合に問題であった色むらや白抜け現象の発生を有効に抑制できる、偏光板に代表される光学用途に好適な粘着剤組成物を提供することである。本発明の別の目的は、上記した優れた特性の光学用粘着剤組成物を安定して得ることができる光学用粘着剤組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、以下本発明によって達成される。すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸エステル単量体aとイソシアネート基と反応する官能基を有さない含窒素単量体bとを、これらを含む形成材料の合計を100質量%としたときに該単量体bを0.1〜12質量%の範囲で含む形成材料によって合成されてなる、ガラス転移温度(Tg)が−45〜0℃である共重合体Aと、該共重合体A100質量部に対して、少なくともポリイソシアネート化合物Bが1〜50質量部の範囲で混合されてなり、該ポリイソシアネート化合物Bは、その一部が、必要に応じて混合されたイソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物Cと反応してなる該単官能化合物Cとの反応物である形態で混合されていてもよく、
かつ、これらの成分の混合割合が、下記式で算出される上記成分の混合に要するエネルギー(ΔEM)が275[J/mol]以下となるように設計されていることを特徴とする光学用粘着剤組成物を提供する。
(上記式中のn1は、共重合体Aのモル分率を表し、V1は、共重合体Aのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ1は、共重合体Aの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。また、上記式中のn2は、その一部が単官能化合物Cとの反応物であってもよい形態のポリイソシアネート化合物Bのモル分率を表し、V2は、該ポリイソシアネート化合物Bのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ2は、該ポリイソシアネート化合物Bの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。ただし、n1+n2=1であり、共重合体Aのモル分率は、共重合体Aを構成する各モノマーのモル分率を合計したものとする。)
【0012】
また、本発明は、別の実施形態として、少なくとも、共重合体Aとポリイソシアネート化合物Bとを混合して光学用粘着剤組成物を製造する光学用粘着剤組成物の製造方法であって、上記共重合体Aとして、(メタ)アクリル酸エステル単量体aとイソシアネート基と反応する官能基を有さない含窒素単量体bとを、形成材料の合計を100質量%としたときに該単量体bを0.1〜12質量%の範囲で含む形成材料によって合成されてなる、ガラス転移温度(Tg)が−45〜0℃であるものを用い、該共重合体A100質量部に対して、少なくともポリイソシアネート化合物Bを1〜50質量部の範囲で混合する際に、該ポリイソシアネート化合物Bを、必要に応じてイソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物Cを混合することで、その一部が、該単官能化合物Cとの反応物であってもよい形態のポリイソシアネート化合物Bとして混合し、かつ、これらの成分の混合割合を、下記式で算出される上記成分の混合に要するエネルギー(ΔEM)が275[J/mol]以下となるように設計することを特徴とする光学用粘着剤組成物の製造方法を提供する。
(上記式中のn1は、共重合体Aのモル分率を表し、V1は、共重合体Aのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ1は、共重合体Aの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。また、上記式中のn2は、その一部が単官能化合物Cとの反応物であってもよい形態のポリイソシアネート化合物Bのモル分率を表し、V2は、該ポリイソシアネート化合物Bのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ2は、該ポリイソシアネート化合物Bの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。ただし、n1+n2=1であり、共重合体Aのモル分率は、共重合体Aを構成する各モノマーのモル分率を合計したものとする。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、偏光板に代表される光学用途に適した粘着剤組成物であって、これを使用した場合に剥がれの問題を生じず、透明性に優れると同時に、特に対象物が偏光板である場合に問題があった色むらや白抜け現象の発生を有効に抑制できる粘着剤組成物が提供される。この結果、本発明によって提供される粘着剤付偏光板は、色むらや白抜け現象の発生を有効に抑制でき、剥がれの問題もないものになる。本発明によれば、上記した優れた特性の光学用粘着剤組成物を安定して得ることができる光学用粘着剤組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明の特許請求の範囲および明細書における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0015】
(光学用粘着剤組成物)
本発明は、特定の共重合体Aに対して、その一部が、必要に応じて混合されたイソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物Cと反応してなる該単官能化合物Cとの反応物であってもよい形態のポリイソシアネート化合物Bが特定の割合で混合されてなる光学用粘着剤組成物であり、特に、これらの成分の混合割合が、下記式で算出される上記成分の混合に要するエネルギー(ΔEM)が275[J/mol]以下となるように設計されていることを特徴とする。以下、各構成について説明する。
(上記式中のn1は、共重合体Aのモル分率を表し、V1は、共重合体Aのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ1は、共重合体Aの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。また、上記式中のn2は、その一部が単官能化合物Cとの反応物であってもよい形態のポリイソシアネート化合物Bのモル分率を表し、V2は、該ポリイソシアネート化合物Bのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ2は、該ポリイソシアネート化合物Bの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。ただし、n1+n2=1であり、共重合体Aのモル分率は、共重合体Aを構成する各モノマーのモル分率を合計したものとする。)
【0016】
<共重合体A>
本発明の光学用粘着剤組成物を構成する共重合体Aは、(メタ)アクリル酸エステル単量体aとイソシアネート基と反応する官能基を有さない含窒素単量体bとを、これらを含む形成材料の合計を100質量%としたときに該単量体bを0.1〜12質量%の範囲で含む形成材料によって合成されてなり、そのガラス転移温度(Tg)が−45〜0℃であることを要する。共重合体Aは、そのガラス転移温度(Tg)が−40〜−20℃であることがより好ましい。また、共重合体Aとしては、(メタ)アクリル酸エステル単量体aと、ホモポリマーの溶解度パラメーター(SP値)が23〜29[(J/cm30.5]である上記含窒素単量体bと、カルボキシル基および/または水酸基を有する単量体cとを含む形成材料によって合成されてなるものであることがより好ましい。
【0017】
上記単量体aとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香族環を有するモノマーが挙げられる。これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。
【0018】
また、共重合体Aが、これらの単量体aと、イソシアネート基と反応する官能基を有さない含窒素単量体b(以下、単に単量体bとも呼ぶ)と、カルボキシル基および/または水酸基を有する単量体c(以下、単に単量体cとも呼ぶ)とを含む形成材料によって合成されてなるものである場合、各形成材料の各単量体の配合割合としては、単量体a〜cの合計を100質量%としたときに、単量体bが0.1〜12質量%、単量体cが0.01〜5質量%、および残りが単量体aであることが好ましい。前記単量体bの使用割合が0.1質量%未満であると、共重合体Aを、必要に応じて添加する硬化剤と共に後述するポリイソシアネート化合物Bと混合して架橋した際に、形成材料中の単量体bの窒素原子による架橋促進効果が低く、架橋体の架橋密度が低くなり、耐久性試験における剥がれや発泡を抑えられない場合がある。一方、前記単量体bの使用割合が12質量%を超えると、上記した成分を添加後の架橋反応が過剰となり溶液のゲル化を促進してしまい、粘度安定性に劣るものになる。本発明者らの検討によれば、より好ましい含窒素単量体bの配合割合は、2〜10質量%である。また、共重合体Aの形成材料中の単量体cの使用割合が0.01質量%未満であると、上記した成分によって形成される架橋体の架橋密度が低くなり、耐久性試験における剥がれや発泡を抑えられないため、好ましくない。一方、単量体cの使用割合が5質量%を超えると、硬化剤を含む上記した成分を添加後した後、塗工に供されるまでの可使時間が短くなることから、ゲル化するなど、溶液粘度安定性に劣り実用上好ましくない。
【0019】
本発明で使用される単量体bとしては、例えば、イソシアネート基と反応する基を有さない窒素含有単量体であるジメチルアクリルアミド(以下、DMAAと略記、SP値:25.21)、ジエチルアクリルアミド(以下、DEAAと略記)、N,N−ジメチルメタクリルアミド(以下、DMAMAと略記、SP値:23.62)アクリロイルモルホリン(以下、ACMOと略記、SP値:28.40)などが挙げられる。これらの中でも、特にN,N−ジメチルメタクリルアミドが好ましい。なお、本発明において、溶解度パラメーター(SP値)は、Fedorの推算法(株式会社情報機構発行「SP値 基礎・応用と計算方法」山本秀樹著)を用いて算出したものである。このFedor推算法は、凝集エネルギー密度とモル分子容を基に計算されるものであり、ホモポリマーのSP値は、上記した文献をもとに算出し、コポリマーのSP値は、前記で得られた各ホモポリマーの凝集エネルギー密度とモル分子容の値をもとに算出した。
【0020】
本発明で使用される単量体cとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−アクリロイルオキシエチルサクシネート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、イタコン酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレートであり、これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。さらに、単量体cとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどの水酸基含有モノマーも使用することができる。
【0021】
本発明を構成する共重合体Aは、そのガラス転移点温度(Tg:計算値)が、−45〜0℃であることを要する。共重合体AのTgがこの範囲よりも低いと、該共重合体Aを混合して粘着剤組成物とし、さらに該組成物によって粘着剤層を形成した場合に、十分な凝集力が得られず、耐久性試験において剥がれや発泡の原因となる。一方、共重合体AのTgがこの範囲を超えると、共重合体Aの重量平均分子量を100万以上にしたときに、共重合体Aに発現する粘着特性は著しく損なわれ、粘着剤として好ましい性能が得られない。本発明においては、共重合体AのTgが−40〜−20℃であることがより好ましい。なお、本発明におけるTgとは、共重合体Aの合成に使用したモノマーからの計算値である。
【0022】
本発明を構成する共重合体Aの重量平均分子量(GPC測定、標準ポリスチレン換算)は、30万〜200万であることが好ましく、より好ましくは、重量平均分子量は60万〜180万である。重量平均分子量が30万未満であると、粘着剤組成物とし、さらに該組成物によって粘着剤層を形成した場合に、十分な凝集力が得られず、耐久性試験において剥がれや発泡を生じたり、色むらおよび白抜けを生ずるため好ましくない。一方、重量平均分子量が、200万を超えると白抜け現象の発生の抑制が不十分となったり、溶液が高粘度となり塗工時等の取り扱いが困難になるため好ましくない。
【0023】
上記条件を満たす共重合体Aは、通常の溶液重合、塊状重合、乳化重合または懸濁重合などにより製造することができるが、共重合体が溶液として得られる溶液重合により製造することが好ましい。共重合体Aを溶液として得ることで、そのまま本発明の粘着剤組成物の製造に使用することができる。この際の溶液重合に使用する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、n−ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を挙げることができる。
【0024】
また、重合に使用する重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などを挙げることができ、これらは単独でもまたは組み合わせても使用することができる。また、上記重合においては、共重合体Aの分子量を調整するために従来公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0025】
<ポリイソシアネート化合物B>
本発明の光学用粘着剤組成物を構成する、上記した特定の共重合体Aと混合されるポリイソシアネート化合物Bは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物であればよいが、さらに、その一部が、必要に応じて混合されたイソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物Cと反応してなる該単官能化合物Cとの反応物である形態のものであってもよい。
【0026】
(ポリイソシアネート化合物)
本願発明で使用するポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物、及びこれらイソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体やビュレット体、またイソシアヌレート体などが挙げられ、単独もしくは2種以上併用して使用してもよい。中でも、トリレンジイソシアネートおよびキシリレンジイソシアネートの化合物が好ましい。
【0027】
(イソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物C)
上記したように、本発明の光学用粘着剤組成物を構成するポリイソシアネート化合物Bは、上記に挙げたようなものであればよいが、さらに、これらの化合物の一部が、必要に応じて混合したイソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物C(以下、単に、単官能化合物Cとも呼ぶ)と反応してなる該単官能化合物Cとの反応物を含む形態のものであってもよい。本発明を構成するポリイソシアネート化合物Bをこのような構成とするためには、上記に列挙したようなポリイソシアネート化合物に加え、さらに単官能化合物Cを混合させればよい。この際に使用する単官能化合物Cとしては、イソシアネート基と反応する活性水素を有する単官能化合物であれば任意に選択可能であるが、イソシアネート基との反応性を考慮すると水酸基単官能化合物であることが特に好ましい。本発明の光学用粘着剤組成物は、このような化合物Cを併用することにより、ポリイソシアネート化合物Bとの反応物のSP値を能動的に制御することが可能となる。これにより、使用するポリイソシアネート化合物BのSP値に対し、併用する共重合体AのSP値が近い値となるように共重合体Aのモノマー組成を設計せずとも、これらと共に混合させる単官能化合物Cを種々に変化させることで、ポリイソシアネート化合物Bと共重合体AのSP値を近似させることができるので、本発明の粘着剤組成物の透明性を維持することがより可能になる。このため、化合物Cを併用する構成とすることで、共重合体Aは、ポリイソシアネート化合物BのSP値に左右されることなく自由な設計が可能となる。
【0028】
本発明で化合物Cとして好適に使用できる水酸基単官能化合物としては、下記のものが挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどの直鎖、分岐アルキルアルコールや、ベンジルアルコール、2−フェノキシエタノール、4−フェニルブタノール、2−ナフチルメタノールなどの芳香族環含有アルコール、シクロヘキシルエタノール、(イソ)ボルニルアルコールなどの単環または多環脂肪族環含有アルコールなどが挙げられる。これらは、単独もしくは2種以上併用して使用してもよい。
【0029】
<共重合体Aとポリイソシアネート化合物Bとの混合割合>
本発明の光学用粘着剤組成物は、上記したようなポリイソシアネート化合物Bを、前記した共重合体A100質量部に対して1〜50質量部の範囲内で混合してなることを要する。ポリイソシアネート化合物Bの混合割合が1質量部未満であると、色むらおよび白抜けを抑えることができない。一方、ポリイソシアネート化合物Bの混合割合が50質量部を超えると、粘着剤組成物が凝集力過多となり、貼着する偏光板の剥がれの原因になる。
【0030】
さらに、本発明の光学用粘着剤組成物は、上記共重合体Aと、上記ポリイソシアネート化合物Bとの混合割合を、下記式で求められる、共重合体Aとポリイソシアネート化合物Bとの混合に要するエネルギー(ΔEM)が275[J/mol]以下であるように設計されたものであることを要する。該エネルギー(ΔEM)が275[J/mol]を超えると、光学用粘着剤組成物のヘイズ値が高くなり、透明性を損なうので、この場合は光学用として用いることができない。
(上記式中のn1は、共重合体Aのモル分率を表し、V1は、共重合体Aのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ1は、共重合体Aの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。また、上記式中のn2は、その一部が単官能化合物Cとの反応物であってもよい形態のポリイソシアネート化合物Bのモル分率を表し、V2は、該ポリイソシアネート化合物Bのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ2は、該ポリイソシアネート化合物Bの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。ただし、n1+n2=1であり、共重合体Aのモル分率は、共重合体Aを構成する各モノマーのモル分率を合計したものとする。)
【0031】
<その他の硬化剤・添加剤>
本発明の粘着剤組成物は、さらに、粘着力の調整や帯電防止能を付与する目的など、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の硬化剤・添加剤を混合させてもよい。硬化剤の例としては、例えば、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物、1分子中にオキサゾリン基を2個以上有するポリオキサゾリン化合物、金属キレート化合物またはブチル化メラミン化合物などを使用することができる。上記した化合物の中でも、粘着剤組成物の耐久性をより優れたものとできる点から、ポリグリシジル化合物、金属キレート化合物を用いることが好ましい。これらの架橋剤はいずれも粘着剤組成物の分野において公知であり、公知の架橋剤はいずれも本発明で問題なく使用することができる。
【0032】
上記ポリグリシジル化合物系の硬化剤としては、例えば、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリジル−m−キシリレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラグリジルアミノフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、m−N,N−ジグリシジルアミノフェニルグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N−ジグリシジルアニリン、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0033】
また、ポリアジリジン化合物系の硬化剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパントリ−β−(2−メチルアジリジン)プロピオネート、テトラメチロールメタントリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリエチレンメラミン等が挙げられる。また、金属キレート化合物系の硬化剤としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロムおよびジルコニウムなどの多価金属がアセチルアセトンやアセト酢酸エチルに配位した化合物などが挙げられる。
【0034】
また、その他の添加剤として、テルペン系、テルペン−フェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系または石油系などの粘着付与樹脂、常温において固体もしくは液体を呈するイオン化合物、ポリチオフェン、ポリアニリンなどの有機導電性物質、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの炭素素材、金属ナノワイヤー等の導電性物質などの、帯電防止剤として使用可能なものや、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料などを混合させることができる。また、本発明の粘着剤組成物の製造方法は、上記した特有の各成分を、上記した特定の混合量の範囲で混合すればよく、製造方法自体は公知の方法でよく、特に限定されないが、有機溶剤を含んだ溶液形態であることが好ましく、この場合、粘着剤層の形成が容易となる。
【0035】
更に、耐久性やリワーク性を向上させる目的で、種々のシランカップリング剤を含有させることができる。これらのシランカップリング剤はいずれも粘着剤組成物の分野において公知であり、公知のシランカップリング剤はいずれも本発明で使用することができる。シランカップリング剤の含有量は、共重合体A100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1質量部である。上記含有量が0.01質量部より少ない場合は、上記範囲内と比べて、耐久性が劣るものとなり、一方、上記含有量が5質量部を超える場合には、上記共重合体の耐久性を向上させるものの、リワーク性に劣るものとなる。
【0036】
上記シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリ(グリシジル)シラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシ基含有シラン系化合物;3−トリエトキシシリルプロピルコハク酸(無水物)、3−トリメトキシシリルプロピルコハク酸(無水物)、3−メチルジメトキシシリルプロピルコハク酸(無水物)、メチルジエトキシシリルプロピルコハク酸(無水物)、1−カルボキシ−3−トリエトキシシリルプロピルコハク酸(無水物)などのカルボキシル基含有シラン系化合物;N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有シラン系化合物;γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシランなどのヒドロキシル基含有シラン系化合物;γ−アミドプロピルトリメトキシシランなどのアミド基含有シラン系化合物;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基含有シラン系化合物;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランなどのイソシアネート基含有シラン系化合物などが挙げられる。
【0037】
<本発明の光学用粘着剤組成物を利用した粘着剤付偏光板>
上記した構成の本発明の光学用粘着剤組成物は、偏光板用の粘着剤として特に適しており、本発明の粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成した偏光板は、高温或いは高温高湿下においてもガラス基板などから剥れることなく、粘着剤層に発泡が生じることのない特性(耐久性)と、長期間時間が経過しても容易に剥離でき、また、剥離後において基板などに残留物が生じない特性(リワーク性)とを併せ持つ優れたものになる。
【0038】
例えば、上記で使用する偏光板が、ディスコティック液晶がコートされている偏光板である場合には、コートされていない偏光板〔一般的には、無処理トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、通常接触角は60〜70°〕に比べて、85〜95°と接触角が高く、粘着剤との密着性が劣るため、粘着剤層とパネルガラス表面との間の発泡または偏光板の浮き、剥れが発生しやすく、かつ白抜けが発生しやすいなどの課題がある。このため、特にこのような種類の偏光板を用いる場合に、本発明の粘着剤組成物を使用すれば、これらの課題が解決された粘着剤付偏光板を得ることができるので有用である。
【0039】
本発明の光学用粘着剤組成物を適用した場合に特に顕著な効果を得ることができる、ディスコティック液晶がコートされている偏光板とは、TACフィルム上に、側鎖の末端に架橋基を有しているトリフェニレン系のディスコティック化合物が架橋し、配向状態に保たれたディスコティック層が有する視野角拡大フィルムと偏光フィルムとが一体化してなる偏光板である。より具体的には、例えば、ポリビニルアルコール系偏光子(PVA)の両面に、それぞれTACフィルムを貼り合わせてなる偏光フィルムの片面に、例えば、ディスコティック液晶からなる視野角拡大機能層を塗布により設けたもの、あるいは視野角拡大フィルムを接着剤で貼り合わせたものなどを挙げることができる。
【0040】
上記偏光板が、延伸フィルム、例えば、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とした偏光板である場合には、一般的な偏光板(無処理TACフィルムを使用したもの)に比べて、フィルムが延伸されているために収縮率が大きく、特に、対角型に色むらや白抜け現象が発生し、それを抑制するのに不十分であるなどの課題がある。上記偏光板は、テレビ(通常15〜60インチ)用に使用され、色相、コントラストを向上させ、位相差をなくすためのものであり、広範な使用がされているが、本発明者らの検討によれば、本発明の粘着剤組成物を使用することによってこのような課題を解決することが可能になる。
【0041】
本発明の粘着剤組成物を用いて粘着剤付偏光板を製造する方法としては、例えば、下記のような方法が挙げられる。通常使用されている塗布装置、例えば、ロール塗布装置などで、本発明の粘着剤組成物を、上記で説明したような偏光板の片面或いは両面に塗工し、塗工層を乾燥することによって粘着剤層を形成すればよい。また、必要に応じて、粘着剤層を加熱架橋または紫外線などの光による硬化をすることもできる。また、本発明の粘着剤組成物を、まず、シリコーン樹脂などの剥離剤を表面にコートしたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)などの離型フィルムに粘着剤組成物を塗布して乾燥し、粘着剤層を形成した後に、該粘着剤層に上記偏光板を貼り合わせる方法でも使用できる。
【0042】
上記した場合における本発明の粘着剤組成物の塗布量は、乾燥後の粘着剤層の厚さが、10〜50μmとなる程度であることが好ましい。上記粘着剤層の厚さを上記範囲内とすることにより、より優れた耐久性とリワーク性のバランスがとれた偏光板となる。上記した本発明の粘着剤組成物を用いた偏光板は、通常使用されている手段にて、液晶表示装置のガラス基板上に貼着することができる。
【実施例】
【0043】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」とあるのは質量基準である。
【0044】
<共重合体溶液の調製>
[共重合体溶液P1の調製]
撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後、この反応装置中に、ブチルアクリレート75部、メチルアクリレート20部、ジメチルアクリルアミド5部、アクリル酸3部、アゾビスイソブチロニトリル0.1部、および酢酸エチル120部を加えた。これを撹拌させながら、窒素ガス気流中において、70℃で8時間反応させて、溶液重合で重量平均分子量150万のアクリル共重合体の溶液を得た。さらに、これを酢酸エチル291.9部で希釈して、固形分20%の共重合体溶液P1を調製した。
【0045】
[共重合体溶液P2〜P8の調製]
上記の共重合体溶液P1の調製の際に用いたモノマー組成を、表1に記載のモノマー組成とした以外は上記と同様にして、共重合体溶液P2〜P6をそれぞれに調製した。また、同様に、表1に記載したモノマー組成で、かつ、溶液重合の際の初期仕込みに用いた酢酸エチルの量をそれぞれ、130部、90部に変えて重合させて、共重合体溶液P7、P8をそれぞれ調製した。
【0046】
【0047】
表1中の略語は、以下の化合物を表す。
BA:ブチルアクリレート
MA:メチルアクリレート
PHEA:2−フェノキシエチルアクリレート
VAc:酢酸ビニル
DMAA:ジメチルアクリルアミド
AAc:アクリル酸
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
EtAc:酢酸エチル
【0048】
上記した重量平均分子量(Mw)の値は、GPC(GEL Permeation Chromatography)法により測定したポリスチレン換算分子量である。より詳しくは、共重合体を常温で乾燥させて得られた塗膜をテトラヒドロフランに溶解し、高速液体クロマトグラフ(島津製作所製、LC−10ADvp、カラムKF−G+KF−806×2本)で測定し、ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0049】
<粘着剤組成物の作製と、該組成物を用いた粘着剤付偏光板等の作製>
[実施例1]
本発明で規定する共重合体Aである共重合体溶液P1の固形分100部に対して、本発明で規定するポリイソシアネート化合物BであるコロネートL(商品名、日本ポリウレタン工業株式会社製、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)を固形分換算で14部、硬化剤としてテトラッドC(商品名、三菱ガス化学株式会社製、多官能エポキシ化合物)を0.01部、シランカップリング剤としてX−41−1810(商品名、信越化学工業株式会社製、アルコキシオリゴマー)を0.1部混合し、得られた溶液を実施例1の粘着剤組成物とした。
【0050】
上記で得た溶液を、シリコーン樹脂コートされたPET離型フィルム上に塗布後、90℃で3分間乾燥することによって溶媒を除去し、厚さ25μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層を形成した面に、厚さ180μmの偏光板(EWV:延伸トリアセチルセルロースフィルムを使用し、ディスコティック液晶がコートされている偏光板)を貼り合わせた後、23℃、50%RHの雰囲気で7日間養生することにより、実施例1の粘着剤組成物を用いてなる粘着剤付偏光板を作製した。
【0051】
また、上記と同様にして、粘着剤層を形成した後、該粘着剤層を形成した面に、厚さ100μmのPETフィルムを貼り合わせた後、23℃、50%RHの雰囲気で7日間養生することにより、実施例1の粘着剤組成物を用いてなる粘着剤付の粘着シートを作製した。
【0052】
[実施例2〜11、比較例1〜5]
実施例1と同様にして、表2に記載の成分を混合して実施例2〜11および比較例1〜5の粘着剤組成物を得、これらを用いて粘着剤付偏光板及び粘着剤付の粘着シートをそれぞれに得た。なお、実施例3〜11、および比較例3〜5では、イソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物Cとして表2に記載の各化合物を、硬化剤であるテトラッドCと共に共重合体溶液へ混合し、得られた溶液を各々の粘着剤組成物とした。なお、単官能化合物Cはいずれも、ポリイソシアネート化合物の有するイソシアネート基のモル数に対し、単官能化合物Cのモル数が1/3となる量でそれぞれ用い、ポリイソシアネート化合物の1/3のイソシアネート基が単官能化合物Cとの反応物となるように構成した。
【0053】
【0054】
表2中の略語は、以下の化合物を表す。
コロネートL:日本ポリウレタン工業株式会社製、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体
コロネート2030:日本ポリウレタン工業株式会社製、トリレンジイソシアネートのトリイソシアヌレート体
4PB:4−フェニルブタノール
BPE:1−(4−ターシャリーブチルフェニル)エタノール
2EH:2−エチルヘキサノール
テトラッドC:三菱ガス化学株式会社製、多官能エポキシ化合物(硬化剤)
X−41−1810:信越化学工業株式会社製、アルコキシオリゴマー(シランカップリング剤)
【0055】
<溶解度パラメーター値(SP値)、モル分率、モル分子容の算出>
表1、表2に従って、各実施例および比較例に挙げた共重合体成分と、これと混合させるポリイソシアネート化合物Bの、それぞれの溶解度パラメーター値(SP値)、モル分率、モル分子容を算出した。これらの値は、例えば、以下のようにして求めることができる。ポリイソシアネート化合物Bは、イソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物Cが混合されている場合は、その一部が該単官能化合物Cとの反応物として混合されることになる。このため、説明は、イソシアネート基と反応する官能基を1個有する単官能化合物Cが混合されている場合といない場合について、それぞれ説明した。
【0056】
ポリイソシアネート化合物Bに加えて単官能化合物Cが混合されていない実施例1を例に採って説明する。一般的に、ホモポリマーのSP値は、Fedorの推算法を用いて計算することが可能である。そして、この際に得られるモノマーユニットごとのモル分子容と凝集エネルギー密度の値を用い、対象とする共重合体の各モノマー成分のモル分率に対して各々の積の総和をとることで、2種以上のモノマー成分系におけるモル分子容と凝集エネルギー密度が求められる。従って、求める共重合体のSP値は、凝集エネルギー密度をモル分子容で除したものの平方根で与えられる。下記に、実施例1における具体的な計算結果を示す。
【0057】
・共重合体溶液P1のSP値(δ1)=20.74(J/cm30.5
・ポリイソシアネート化合物BのSP値(δ2)=26.13(J/cm30.5
・また、共重合体溶液P1およびポリイソシアネート化合物Bの質量比(モル比)から求められる各形成成分のモル分率(n1とn2)、およびFedorの推算法から算出される各成分のモル分子容(V1とV2)は以下の通りとなる。
(モル分率)
P1中のBAモノマーユニットのモル分率:0.6281
P1中のMAモノマーユニットのモル分率:0.2494
P1中のDMAAモノマーユニットのモル分率:0.0542
P1中のAAcモノマーユニットのモル分率:0.0447
ポリイソシアネート化合物Bのモル分率n2=0.0236
(モル分子容)
BAモノマーユニットのモル分子容:114.9(cm3/mol)
MAモノマーユニットのモル分子容:66.6(cm3/mol)
DMAAモノマーユニットのモル分子容:74.4(cm3/mol)
AAcモノマーユニットのモル分子容:43.6(cm3/mol)
ポリイソシアネート化合物Bのモル分子容V2=439.9(cm3/mol)
・そして、上記した各モノマーユニットの各モル分率と、対応するモノマーユニットの各モル分子容の積の総和が共重合体P1のn11に相当する。同様にして、ポリイソシアネート化合物Bのモル分率とそのモル分子容からn22も求められる。それらの計算値を表3に示した。
【0058】
さらに、上記で得た各値を用いて、下記式を用いてΔEMを算出し、得られた結果を表3に示した。表3に示したように、上記の各値から、実施例1における共重合体溶液P1と、ポリイソシアネート化合物BであるコロネートAとの混合に要するエネルギー(ΔEM)は272であることがわかる。
(上記式中のn1は、共重合体Aのモル分率、V1は共重合体Aのモル分子容[cm3/mol]、δ1は共重合体Aの溶解度パラメーターを表す。また、上記式中のn2は、その一部が単官能化合物Cとの反応物であってもよい形態のポリイソシアネート化合物Bのモル分率を表し、V2は、該ポリイソシアネート化合物Bのモル分子容[cm3/mol]を表し、δ2は、該ポリイソシアネート化合物Bの溶解度パラメーター(SP値)[(J/cm30.5]を表す。)
【0059】
実施例3〜11、比較例3〜5では、共重合体に、ポリイソシアネート化合物Bに加えて単官能化合物Cを混合しており、ポリイソシアネート化合物Bの一部のイソシアネート基が単官能化合物Cとの反応物として混合されている。この場合も、下記に例示したように、上記したと同様に算出できる。算出した結果を表3に示した。
【0060】
ポリイソシアネート化合物Bの一部が単官能化合物Cとの反応物である形態の場合の、上記式における、δ1、δ2、n1、n2、V1、V2は、例えば、実施例4を例にとると下記のようになる。実施例4で使用した共重合体Aは実施例1と同様にP1である。また、実施例4におけるポリイソシアネート化合物Bも実施例1で用いたと同様のコロネートLであるが、その1/3のイソシアネート基が、さらに混合させた単官能化合物Cである4−フェニルブタノールと反応した反応物の形態となっている。
【0061】
・共重合体溶液P1のSP値(δ1)=20.74(J/cm30.5
・ポリイソシアネート化合物B+単官能化合物CのSP値(δ2)=25.02(J/cm30.5
・また、共重合体溶液P1およびポリイソシアネート化合物B+単官能化合物Cの質量比(モル比)から求められる各形成成分のモル分率(n1とn2)、およびFedorの推算法から算出される各成分のモル分子容(V1とV2)は以下の通りとなる。
(モル分率)
P1中のBAモノマーユニットのモル分率:0.6257
P1中のMAモノマーユニットのモル分率:0.2485
P1中のDMAAモノマーユニットのモル分率:0.0539
P1中のAAcモノマーユニットのモル分率:0.0445
ポリイソシアネート化合物B+単官能化合物Cのモル分率n2=0.0273
(モル分子容)
BAモノマーユニットのモル分子容:114.9(cm3/mol)
MAモノマーユニットのモル分子容:66.6(cm3/mol)
DMAAモノマーユニットのモル分子容:74.4(cm3/mol)
AAcモノマーユニットのモル分子容:43.6(cm3/mol)
ポリイソシアネート化合物B+単官能化合物Cのモル分子容V2=559.2(cm3/mol)
【0062】
【0063】
<評価>
後述する試験方法にて、先に記載したようにして得た粘着シートのヘイズ値をそれぞれ測定し、また、先に記載したようにして得た偏光板について、それぞれ耐久性の評価を行った。評価結果を表4にまとめて示した。その結果、表4に示されているように、実施例の粘着剤組成物を使用したものについては、その評価結果は全ての項目で良好であり、比較例のものに比べて優れた特性のものになることが確認された。
【0064】
(試験方法および評価基準)
実施例および比較例の粘着剤組成物を用いて得た粘着フィルムまたは偏光板を、それぞれ200mm×300mmに断裁し、PET離型フィルムを剥離した後、ガラス基板上に貼り付け、オートクレーブ処理を行い、評価用サンプルを作製した。得られた評価用サンプルについて、それぞれ下記項目の試験を行った。
【0065】
[ヘイズ値]
上記粘着フィルムの評価用サンプルをガラス上に貼り合わせ、日本電色工業製 NDH5000Wヘーズメーターにて、JIS K7136に準拠した方法で、ヘイズ値を測定した。
【0066】
[耐久性試験]
(1)80℃
上記偏光板の評価用サンプルを、80℃(DRY)の雰囲気下に250時間放置した後、発泡および剥れについて目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
(2)60℃・90%RH
上記偏光板の評価用サンプルを、60℃・90%RHの雰囲気下に250時間放置した後、発泡および剥れについて目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
【0067】
・評価基準
(a)発泡
○:偏光板に発泡が確認されない。
△:偏光板に発泡が僅かに確認された。
×:偏光板に発泡が確認された。
(b)剥れ
○:偏光板に剥れが確認されない。
△:偏光板に剥れが僅かに確認された。
×:偏光板に剥れが確認された。
【0068】
[白抜け試験]
実施例および比較例の各偏光板を用いた80℃耐久試験後の同試料を2枚クロスニコルにして貼り合わせた後、液晶モニターのバックライト上に置き、白抜けの状態を目視で観察した。
・評価基準
○:偏光板に白抜けが観察されなかった。
△:偏光板に白抜けが僅かに観察された。
×:偏光板に白抜けが観察された。
【0069】