【文献】
市來龍大,永松寛和,安松勇太,赤峰修一,金澤誠司,パルスアーク型窒素プラズマジェットによる鉄鋼硬化の実証,電気学会パルスパワー研究会資料,日本,2011年10月21日,Vol.PPT-11 No.61-71,Page.31-34
【文献】
ICHIKI Ryuta, NAGAMATSU Hirokazu, YASUMATSU Yuta, IWAO Tadasuke, AKAMINE Shuichi, KANAZAWA Seiji,Nitriding of steel surface by spraying pulsed-arc plasma jet under atmospheric pressure,Material Letters,NL,2012年 3月15日,Vol.71,Page.134-136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る方法は、低合金鋼の新たな表面硬化処理方法を提供するものである。本発明に係る方法は、水素ガスを加えた窒素ガスを用いて生成した大気圧プラズマジェットを低合金鋼の表面に吹き付けることにより、低合金鋼の表面層をオーステナイト変態点以上に加熱し、窒素原子を低合金鋼の表面層に拡散させ、次いで、低合金鋼を焼入れしてマルテンサイト変態させ、低合金鋼の表面層に窒素マルテンサイト相を生成することを含む。
【0014】
本発明に係る方法によれば、レアメタルの有無に関わらず、低合金鋼にマルテンサイト相を形成することができるため、従来、難しかった低合金鋼の表面硬化処理が可能となる。
【0015】
本発明に係る方法に用いられる低合金鋼とは、レアメタルを少ない量で含むか、レアメタルを不可避不純物以外に含まない炭素鋼のことをいう。
【0016】
比較のために説明すると、合金鋼とは、一般的には、Ni、Cr、Moなどが含有した特殊鋼をいい、例えば、クロム鋼、クロムモリブデン鋼などの合金鋼(JIS規格:SCr、SCMなど)、及び工具に使用される合金工具鋼(JIS規格:SKS,SKDなど)、ステンレス鋼、軸受鋼、バネ鋼などの特殊用途鋼(JIS規格:SUS、SUJ、SUPなど)を挙げることができる。
【0017】
前記合金鋼に対して、本発明に係る方法に用いられる低合金鋼とは、レアメタルを好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下で含む炭素鋼材であり、さらにより好ましくはレアメタルを実質的に含まない、すなわち、レアメタルを不可避不純物以外に含まないか、あるいは全く含まない炭素鋼である。このように、本発明に係る方法に用いられる低合金鋼は、レアメタルの含有量が少ないかまたは実質的に含まないため、コストを下げることができる。
【0018】
本願においてレアメタルとは、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム等のベースメタルや貴金属以外で、産業に利用されている非鉄金属をいう。具体例を示せば次のとおりである:
リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、セシウム(Cs)、バリウム(Ba)、ランタノイド系列の15元素(ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu))、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、タリウム(Tl)、ビスマス(Bi)。本発明に係る方法に用いられる低合金鋼には、これらのレアメタルを合計で、上記の含有量範囲で含むか、あるいは実質的に含まない。
【0019】
また、本発明に係る方法に用いられる低合金鋼は、より好ましくは、炭素含有量が少ない低炭素鋼である。本発明に係る方法に用いられる低合金鋼は、低合金鋼全体に対して、好ましくは0.5〜0.3質量%、より好ましくは0.3〜0.2質量%、さらに好ましくは0.2〜0.15質量%の炭素を含む低炭素鋼であり、さらにより好ましくは0.15〜0.005質量%以下の極低炭素鋼である。また、本発明に係る方法に用いられる低合金鋼は、炭素を実質的に含まない低合金鋼であってもよい。
【0020】
本発明に係る方法に用いられる低合金鋼は、好ましくは、レアメタルを上述した含有量の範囲で含むか、実質的に含まない炭素鋼であって、炭素含有量が、上記の含有量範囲である低炭素鋼である。
【0021】
本発明に係る方法に用いられる低合金鋼はまた、鉄以外の銅、亜鉛、アルミニウム等のベースメタルを好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下で含み、さらに好ましくは鉄以外のベースメタルを実質的に含まない、すなわち、ベースメタルを不可避不純物以外に含まない、あるいは全く含まない炭素鋼である。
【0022】
本発明に係る方法に用いられる低合金鋼はまた、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等の貴金属を好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下で含み、さらに好ましくは貴金属を実質的に含まない、すなわち、貴金属を不可避不純物以外に含まない、あるいは全く含まない炭素鋼である。
【0023】
本発明に係る方法に用いることができる低合金鋼は、レアメタル、ベースメタル、及び貴金属の合計量が好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくはレアメタル、ベースメタル、及び貴金属を実質的に含まない、すなわち、レアメタル、ベースメタル、及び貴金属を不可避不純物以外に含まない、あるいは全く含まない炭素鋼である。
【0024】
本発明に係る方法に用いることができる低合金鋼は、例えば、SPCC材、SPHC材、S10C材等であることができる。
【0025】
本発明に係る方法に用いることができる低合金鋼の形状は特に限定されるものではないが、例えば板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。
【0026】
また、本発明に係る方法に用いることができる低合金鋼の厚みは、特に限定されるものではないが、板状または円盤状の低合金鋼を用いる場合、例えば1〜100mm厚の低合金鋼を用いることができる。
【0027】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、本発明に係る方法において用いることができる大気圧プラズマジェット発生装置100を用いた低合金鋼の浸窒処理を表す断面模式図である。
【0029】
大気圧プラズマジェット発生装置100は、略円錐状の内部電極1、その内部電極1を囲むように周囲に配置された円筒状の外部電極2、並びに内部電極1及び外部電極2に高周波電力を供給する高電圧パルス電源3を備えている。外部電極2はアースに接続され0Vに固定することができる。内部電極1と外部電極2との間には、放電領域19を形成することができる。
【0030】
外部電極2は、その下端に、生成されたプラズマジェットを外部に噴射させるためのジェットノズル10を備えている。
【0031】
大気圧プラズマジェット発生装置100では、水素ガスを加えた窒素ガスを含む混合ガス4を、開口部18から、大気圧プラズマジェット発生装置100の内部(放電領域19)に供給することができる。開口部18は、孔が斜めに傾斜されて設けられており、供給された混合ガス4を、ジェットノズル10に向かって内部電極1の周りを螺旋状に流すことができる。そして、混合ガス4はジェットノズル10からプラズマジェットとして吹き出され、低合金鋼8の表面に向けたプラズマジェットプルーム7を発生させることができる。
【0032】
本発明に係る方法においては、パルスアーク型大気圧プラズマジェットを用いることができる。内部電極1及び外部電極2の間の放電領域19では、高電圧パルスに応じて放電が繰り返され、パルスアークプラズマ5を発生させることができる。
【0033】
高電圧パルス電源3を用いて、所定の電圧、電圧パルス幅、パルス繰返し周波数、及び放電電流を、内部電極1に印加して、パルスアーク型大気圧プラズマジェットを形成することができる。
【0034】
本発明に係る方法に用いられ得るパルスアーク型プラズマジェットは大気圧で用いることができ、大気圧プラズマジェットの自己加熱により、低合金鋼8の表面層をFe−N系におけるオーステナイト変態点温度以上の、好ましくは590℃〜1400℃、より好ましくは590℃〜1000℃、さらにより好ましくは590℃〜910℃の所望の温度に加熱することができる。
【0035】
また、本発明に係る方法においては、低合金鋼を加熱するためのヒーターを要せずに、低合金鋼の表面層のフェライト組織をオーステナイト化させると同時に窒素原子を表面層に拡散させることができる。
【0036】
本発明に係る方法によれば、処理温度が高いため、低合金鋼への窒素原子の拡散速度が非常に速く、従来よりも処理速度を大幅に向上することができる。また、低合金鋼を加熱するためのヒーターが不要であり、設備の簡易化が可能であり、消費電力も低減することができる。
【0037】
さらに、本発明に係る方法は、上記のように、大気圧プラズマを用いるので、真空装置や処理炉等の大規模な設備が不要で、初期投資やメンテナンス費用の低減が可能である。
【0038】
水素ガスを加えた窒素ガスを含む混合ガス4の流量は、好ましくは5〜100リットル/分であり、より好ましくは10〜30リットル/分であり、さらに好ましくは15〜25リットル/分である。混合ガス4が上記流量範囲にあるとき、低合金鋼を所望の温度に加熱しつつ、浸窒させやすくなる。
【0039】
混合ガス4に含まれる窒素ガスに対する水素ガスの割合は、好ましく0.1〜10体積%であり、より好ましくは0.2〜3体積%であり、より好ましくは0.5〜1.5体積%である。パルスアーク型プラズマジェットに、窒素ガスに水素ガスを上記の割合で加えることにより、窒素原子を低合金鋼の表面に供給することができる。
【0040】
混合ガス4は、開口部18から供給することができるが、窒素ガス及び水素ガスをあらかじめ混合したガスを開口部18から供給してもよく、または、開口部18が複数ある場合、別々の開口部18から窒素ガス及び水素ガスを別個に供給してもよい。
【0041】
低合金鋼8は、その表面が、ジェットノズル10の先端から、好ましくは1〜10mm、より好ましくは2〜6mm、さらに好ましくは3〜5mm離れた位置に配置することができる。ジェットノズル10の先端と低合金鋼8の表面との間の距離が上記の範囲内であるとき、低合金鋼8の表面層をオーステナイト変態点温度以上の所望の温度に加熱しつつ、プラズマジェット中の窒素原子が窒素分子へと再結合する前に、低合金鋼8の表面に到達させやすくなる。
【0042】
本発明に係る方法おいては、大気圧プラズマジェット内部では、高電圧パルス放電により高濃度の窒素原子が生成される。水素ガスを加えた窒素ガスを含む混合ガス4を用いる大気圧プラズマジェットを材料表面に照射させると、プラズマプルームに含まれている高密度の窒素原子により、低合金鋼の表面を短時間で浸窒することができる。
【0043】
このように、本発明に係る方法によれば、低合金鋼の表面浸窒による硬化処理を短時間に効率良く行うことができる。また、例えば、従来技術にて用いられているアンモニア等の有害なガスを用いる必要がないため、環境負荷も小さい。
【0044】
ジェットノズル周辺10の周囲には、外部の酸素が多量に処理雰囲気に侵入しないように、カバー6を配置することができる。これにより、窒素酸化物の生成を低減することができる。カバーとしては、例えば石英製のカバーを用いることができる。プラズマジェットプルーム7は、低合金鋼8に照射され、排気9としてカバー6の外部に排気することができる。
【0045】
低合金鋼8を加熱及び浸窒した後、内部電極1への印加を止めてプラズマを切り、
図2に示すように、冷却ガス11を用いて衝風冷却12により低合金鋼8を焼入れすることができる。プラズマ発生電圧を切ると、ガスのみが低合金鋼8に吹き付けられるため、衝風冷却となり、極めて簡易に焼入れ工程に移行でき、処理工程及び処理時間の低減が可能である。
【0046】
冷却ガス11は、水素ガスを加えた窒素ガスを含む混合ガス4と同じでもよく、窒素ガスのみでもよい。この場合、内部電極1への印加を止めるだけ、またはそれに合わせて水素ガスの供給を止めるだけで、低合金鋼8の衝風冷却が可能である。冷却ガス11の流量を調節して、低合金鋼8の冷却速度を変えてもよい。また、窒素ガス及び水素ガス以外の別のガスを冷却ガス11として用いてもよい。
【0047】
衝風冷却に用いる冷却ガス11は、好ましくは、窒素ガス、水素ガス、ヘリウムガス、またはそれらの組み合わせである。
【0048】
冷却速度を高め、低合金鋼8の表面から深くまで焼入れを行う場合は、水素ガスを用いるか、窒素ガス等に水素ガスを組み合わせることが好ましい。熱伝導率は、窒素ガスが26mW/(m・K)であり、水素ガスが180mW/(m・L)であり、水素ガスの熱伝導率が高いため、水素ガスは加熱した低合金鋼8から熱をより奪うことができ、液体冷却と同等の焼入れ深さを得ることができる。
【0049】
低合金鋼8の焼入れは、液体冷却で行ってもよい。液体冷却は、好ましくは、水、液体窒素、油、またはポリマー焼き入れ剤を用いて行われ、低合金鋼8を上記液体中に浸漬、あるいは低合金鋼8に上記液体を噴霧することによって行うことができる。
【0050】
低合金鋼8の焼入れは、衝風冷却及び液体冷却を組み合わせて行ってもよく、あるいは、衝風冷却とともに、液体冷却に用いられ得る水等のミストもしくは液体窒素を噴霧して行ってもよい。
【0051】
図3は、本発明に係る方法による低炭素鋼の浸窒メカニズムを表した断面模式図である。
図3は、フェライト相15を有する低合金鋼8の表面硬化処理の模式図であり、低合金鋼8の表面層にプラズマジェットプルーム7を照射して、窒素原子13が拡散浸窒したオーステナイト相14を形成することができる。
【0052】
次いで、オーステナイト相14を形成した低合金鋼8を焼入れすることによって、マルテンサイト変態させて、
図4に示すような窒素マルテンサイト相17を生成することができる。このようにして、低合金鋼8の表面層の硬化処理を行うことができる。
【0053】
焼入れは、低合金鋼の表面層の加熱及び浸窒の直後に、上述した衝風冷却、液体冷却、またはそれらの組み合わせにより、低合金鋼の表面層を好ましくは550℃以下に急冷することに行われる。冷却速度は、好ましくは25〜700℃/秒であり、より好ましくは50〜600℃/秒であり、さらに好ましくは100〜600℃/秒であり、さらにより好ましくは100〜400℃/秒であり、さらにより好ましくは150〜400℃/秒である。上記冷却速度の範囲で焼入れを行うことにより、低合金鋼の表面層に窒素マルテンサイト相を得つつ、割れ等の損傷を防ぎやすい。
【0054】
本発明はまた、表面に窒素マルテンサイト相を含む低合金鋼を対象とする。低合金鋼は、上述した種類及び含有量のレアメタルを含むか、実質的に含まない炭素鋼である。低合金鋼は、好ましくは、炭素含有量が、上述した範囲の含有量である低炭素鋼である。
【0055】
本発明に係る低合金鋼はまた、鉄以外の銅、亜鉛、アルミニウム等のベースメタルの含有量が好ましくは上述した範囲にあり、さらに好ましくは鉄以外のベースメタルを実質的に含まない炭素鋼である。
【0056】
本発明に係る方法に用いられる低合金鋼はまた、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等の貴金属を上述した含有量範囲で含み、さらに好ましくは貴金属を実質的に含まない炭素鋼である。
【0057】
本発明に係る低合金鋼は、レアメタル、ベースメタル、及び貴金属の合計量が好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくはレアメタル、ベースメタル、及び貴金属を実質的に含まない炭素鋼である。
【0058】
本発明に係る方法に用いることができる低合金鋼は、例えば、SPCC材、SPHC材、S10C材等であることができる。
【0059】
本発明に係る低合金鋼の表面層に含まれる窒素マルテンサイト相は、高い硬度を有し、好ましくは150〜800Hvのビッカース硬さを有する。また、低合金鋼の表面層に含まれる窒素マルテンサイト相は、低合金鋼の表面からの厚みが好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上、さらにより好ましくは150μm以上、さらにより好ましくは200μm以上である。低合金鋼の表面層に含まれる窒素マルテンサイト相の厚みの上限は特に限定されるものではないが、例えば、1000μm以下とすることができる。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
図1に示す大気圧プラズマジェット発生装置100を用いて低合金鋼の硬化処理を行った。大気圧プラズマジェット発生装置100における内部電極1と、その周囲に配置された外部電極2との距離は18mmであり、ジェットノズル10の穴径は4mmであった。外部電極2をアースに接続し0Vに固定した。
【0061】
低合金鋼8として、
図1に示すように、幅2cm、厚み1mmの正方形SPCC材を、その表面が、ジェットノズル10の先端から4mm離れた位置に配置した。用いたSPCC材は、鉄を主成分とし、微量成分として、0.02質量%の炭素、0.09質量%のMn、0.017質量%のP、及び0.004質量%のSを含有していた。
【0062】
大気圧下で、20L/分の窒素ガス及び0.2L/分の水素ガスをそれぞれ、別々の開口部18から、大気圧プラズマジェット発生装置100の内部(放電領域19)に供給した。
【0063】
高電圧パルス電源3から内部電極1に、電圧5kV、電圧パルス幅5μs、パルス繰返し周波数21kHz、及び放電電流1Aで、高電圧パルスを印加することにより、放電領域19を形成して放電プラズマを励起した。
【0064】
ジェットノズル10からプラズマジェットプルーム7をSPCC材に30分間照射し、SPCC材を加熱及び浸窒し、次いで、SPCC材を水中に入れて水焼入れを行った。プラズマジェットプルーム7をSPCC材に照射しているときのSPCC材の表面温度は900℃であり、水焼入れによるSPCC材表面の550℃までの冷却速度は400℃/秒であった。
【0065】
浸窒焼入れを行ったSPCC材について、断面を切り出し、鏡面研磨を行って、ビッカース硬度計(加重10g、Akashi製、HM−102)により断面硬度分布を測定した。
図5に、浸窒焼入れを行ったSPCC材の表面層部分の断面硬度分布図を示す。
【0066】
浸窒及び水焼入れを行ったSPCC材試料の窒素マルテンサイト相は、SPCC材の表面から約250μmの厚みで得られ、150Hv〜600Hvのビッカース硬さを示した。これは従来の窒化処理では到達できない硬度である。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様に30分間、SPCC材の加熱及び浸窒処理をした後、高電圧パルスの印加及び水素ガスの供給を止め、20L/分の窒素ガスを用いて衝風冷却する焼入れを行ったこと以外は、実施例1と同様にして、SPCC材の浸窒焼入れを行った。衝風冷却によるSPCC材表面の550℃までの冷却速度は150℃/秒であった。
【0068】
浸窒焼入れを行ったSPCC材について、断面を切り出し、鏡面研磨を行って、ビッカース硬度計により断面硬度分布を測定した。
図6に、浸窒焼入れを行ったSPCC材の表面層部分の断面硬度分布図を示す。
【0069】
浸窒及び衝風焼入れを行ったSPCC材試料の窒素マルテンサイト相は、SPCC材の表面から約100μmの厚みで得られ、150Hv〜600Hvのビッカース硬さを示した。
【0070】
(実施例3)
幅6cm、厚み1mmの正方形SPCC材を用いて、SPCC材の加熱及び浸窒時間を、5分、10分、20分、及び30分間としたこと以外は、実施例1と同様にして、SPCC材の浸窒焼入れを行った。
【0071】
浸窒焼入れを行ったSPCC材について、断面を切り出し、鏡面研磨を行って、ビッカース硬度計により断面硬度分布を測定した。
図7に、加熱及び浸窒時間を5分、10分、20分、及び30分間として浸窒焼入れを行ったSPCC材の表面層部分(表面〜250μmの深さ)の断面硬度分布図を示す。
【0072】
浸窒及び水焼入れを行ったSPCC材試料の表面には、プラズマジェットの照射中心から半径約20mmの範囲において、特に約5mm〜約15mmの範囲で環状に最硬化部が形成された。処理時間が長くなるに従い、最硬化部を形成する環の半径が徐々に大きくなった。最硬化部は、700〜800Hvのビッカース硬さを示しており、これは従来の窒化処理では到達できない硬度である。
【0073】
図8に、
図7の断面硬度分布図について、深さ方向を広げた(表面〜500μm〜1000μmの深さ)場合の断面硬度分布図を示す。
【0074】
浸窒及び水焼入れを行ったSPCC材試料は、プラズマジェットの照射中心直下において500μm〜1000μmの深さまで、400〜500Hvのビッカース硬さを示した。これは従来の窒化処理では到達できない硬度及び硬化深さである。
【0075】
図9に、加熱及び浸窒を30分間行って焼入れしたSPCC材の最硬化部の金属組織写真を示す。この最硬化部は、
図7に示す深さ10μm及びプラズマジェット照射中心から半径方向に10mmの位置の750Hvを示す最硬化部分である。試料断面は3%ナイタール液によりエッチングされている。
【0076】
図9に示すように、浸窒及び水焼入れを行ったSPCC材試料の最硬化部は、典型的な笹の葉状の組織を有するマルテンサイト相20であった。SPCC材はマルテンサイト形成に十分な炭素を含んでいないため、このマルテンサイト相は鉄-窒素マルテンサイト相である。
【0077】
図10に、加熱及び浸窒を30分間行って焼入れしたSPCC材のプラズマジェット照射中心直下の深さ位置による金属組織写真を示す。試料断面は3%ナイタール液によりエッチングされている。
【0078】
浸窒及び水焼入れを行ったSPCC材試料のプラズマジェット照射中心直下において、表面から100μmの表面近傍では共析相、表面から500μmの下部ではラスマルテンサイト相、及び表面から900μmの最下部ではフェライト相を示し、共析相、ラスマルテンサイト相、及びフェライト相の3相が存在することが分かった。
【0079】
(実施例4)
幅6cm、厚み1mmの正方形SPCC材を用い,試料表面をジェットノズル10の先端から7mm離れた位置に配置して表面温度を600℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、SPCC材の浸窒焼入れを行った。
【0080】
浸窒焼入れを行ったSPCC材について、断面を切り出し、鏡面研磨を行って、ビッカース硬度計により断面硬度分布を測定した。
図11に、浸窒焼入れを行ったSPCC材の表面層部分(表面〜1000μmの深さ)の断面硬度分布図を示す。
【0081】
浸窒及び水焼入れを行ったSPCC材試料の表面には、プラズマジェットの照射中心から半径15mmの範囲において、特に半径5mm〜10mmの範囲で環状に最硬化部が形成され、600〜700Hvのビッカース硬さを示した。これは従来の窒化処理では到達できない硬度である。また、浸窒及び水焼入れを行ったSPCC材試料は、プラズマジェットの照射中心直下において表面から1000μmの深さまで200〜300Hvのビッカース硬さを示した。
【0082】
図12に、浸窒焼入れを行ったSPCC材の最硬化部の金属組織写真を示す。この最硬化部は、
図11に示す深さ10μm及びプラズマジェット照射中心から半径方向に10mmの位置の750Hvを示す最硬化部分である。試料断面は3%ナイタール液によりエッチングされている。
【0083】
浸窒及び水焼入れを行ったSPCC材試料の最硬化部は、典型的な笹の葉状の組織を有するマルテンサイト相20であった。SPCC材はマルテンサイト形成に十分な炭素を含んでいないため、このマルテンサイト相は鉄-窒素マルテンサイト相である。