【課題を解決するための手段】
【0008】
参考として記載する本発明による共焦点顕微鏡は、照明ビームを発生する照明光源、及び、照明ビームをスポット状に集束して観察すべき試料に向けて投射する対物レンズを有する照明光学系と、
前記照明ビームにより試料を主走査方向及びこれと直交する副走査方向に2次元走査する走査機構と、
反射膜を有し、反射膜上に観察すべき試料を保持する試料保持手段と、
前記試料から出射すると共に前記反射膜で反射し、前記対物レンズにより集光された光を受光する光検出手段、光検出手段と対物レンズとの間の光路中に配置され、微小な光通過エリアを有する第1の空間フィルタ、及び、前記対物レンズにより集光された光を集束して第1の空間フィルタの光通過エリアに向けて投射する結像レンズを含む観察光学系と、
前記光検出手段からの出力信号を用いて試料の共焦点画像を形成する信号処理装置とを具え、
前記第1の空間フィルタ及び/又は結像レンズは、光軸方向にそって移動可能に設定されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の基本思想は、生体細胞の共焦点透過像を落射照明を利用して撮像することにある。このために、試料保持手段として、反射面が形成された試料保持手段を用い、試料保持手段の反射面上に生体細胞を固定する。生体細胞の細胞液の大部分は水であり、生体細胞を包囲する培養液の屈折率もほぼ水の屈折率に近い値である。一方、細胞壁や核の屈折率は水の屈折率よりも僅かに大きい。従って、生体細胞に照明光が入射すると、照明光の一部は細胞壁や細胞核により僅かに屈折し、屈折により光路を変更する。続いて、下側に位置する反射面で反射し、対物レンズにより集められる(集光される)。本発明では、この屈折による光路のずれを空間フィルタによってコントラストに変換する。すなわち、空間フィルタを有する共焦点光学系では、結像レンズの前面に空間フィルタが配置されているため、細胞壁や細胞核で屈折し光路変更した光は、空間フィルタにより強度が変化し光検出手段に入射する。この結果、細胞膜や細胞核を透過する際の光路差ないし位相差によって透過光に屈折が生じ、空間フィルタによってコントラストに変換され、生体細胞の明暗の輝度画像が撮像される。尚、結像レンズの結像点の位置を変位させる方法として、焦点可変レンズを用い、結像レンズの焦点距離を制御する方法がある。或いは、結像レンズの位置を制御して結像点の位置を変位させることもできる。
【0010】
本発明では、反射面上に生体細胞を保持しているので、生体細胞を透過した透過光は反射面で反射し、対物レンズにより集められる。この結果、サンプルの一方の側に全ての光学要素を配置することができ、煩雑な調整作業が不要になる。
【0011】
本発明では、試料保持手段の反射面上に細胞固定膜を介して生体細胞を固定しているので、生体細胞が固定された試料保持手段を培養液に浸漬した状態で撮像することができる。従って、生きた状態の生体細胞を撮像することができ、生体細胞の増殖形態を観察することができる。このような試料保持手段として、表面が研磨されたシリコン基板を用いることができる。研磨されたシリコン基板の表面は、鏡面とほぼ同等であり、且つ安価に入手できるため、生体サンプルの支持手段として有効である。
【0012】
前述したように、生体細胞の研究においては、細胞の正確な断面透過像を撮像できることが望まれている。従って、対物レンズ又は反射面は光軸方向に変位可能に設定できることが重要である。この場合、照明光学系の焦点を反射面上に設定した場合、結像光学系の焦点も反射面上に位置決めする。一方、この状態から、対物レンズの焦点を反射面から光軸方向に変位させると、結像光学系の焦点は、照明光学系の反射面に対する虚像点に位置し、これに応じて結像光学系の結像点も変位する。そこで、本発明では、対物レンズ又は反射面を光軸方向に変位可能に構成すると共に結像光学系の結像レンズもその結像点が光軸方向にそって変位可能となるように構成する。このような構成により、照明光学系の焦点を光軸方向に移動ないし変位させても、それに対応して観察系の結像点の位置を調整することができ、対物レンズの変位に応じて結像光学系の結像点を光検出手段上に形成することができる。これにより、各種試料について、所望の高さ位置における断面画像を撮像することできる。特に生体細胞は光透過性の試料であるから、照明光が生体細胞の内部まで進入するので、対物レンズの焦点を含む面で切って示す正確な断面透過像を撮像することできる。よって、各種の生体細胞をスクリーニングする上で貴重な情報の入手が期待される。
【0013】
本発明による共焦点顕微鏡は、光透過性物体の共焦点透過像を撮像する共焦点顕微鏡であって、
照明ビームを発生する照明光源、及び、照明ビームをスポット状に集束して観察すべき試料に向けて投射する対物レンズを有する照明光学系と、
前記照明ビームにより試料を主走査方向及びこれと直交する副走査方向に2次元走査する走査機構と、
反射面を有し、反射面上に観察すべき試料を保持する試料保持手段と、
前記試料を透過し前記反射面で反射し、前記対物レンズにより集光された光を受光する光検出手段、及び前記対物レンズにより集光された光をピンホール手段を介して光検出手段上に結像する結像レンズを含む結像光学系と、
前記対物レンズと光検出手段との間の光路中に配置され、光路の片側半分のエリアを遮光する空間フィルタと、
前記光検出手段からの出力信号を用いて試料の共焦点画像を形成する信号処理装置とを具え、
前記結像レンズは、その結像点が光軸方向にそって変位可能に構成され、
前記対物レンズ又は反射面は光軸方向に変位可能に構成され、対物レンズ又は反射面の光軸方向の変位に応じて結像レンズの結像点が光軸方向に沿って調整されることを特徴とする。一例として生体細胞が一種の凸レンズと同様に作用する場合について説明する。この場合、照明ビームの主走査方向に見て生体細胞の先端側に入射した光と後端側に入射した光では、屈折後の進行方向が互いに反対方向となる。この場合において、片側半分のエリアを遮光する空間フィルタを配置すれば、例えば生体細胞の先端側(主走査方向の先端側)の部位から出射した透過光は空間フィルタにより遮光されず、生体細胞の後端側から出射した透過光は空間フィルタにより遮光される。この結果、生体細胞の前側半分のエリアは高輝度画像を形成し、残りの半分のエリアは低輝度画像を形成し、明暗の輝度画像が形成される。すなわち、光路の半分のエリアを遮光する空間フィルタは、生体細胞における屈折によるコントラストを一層増強する作用を果たす。従って、空間フィルタを導入することにより、コントラストが一層増強された共焦点透過像を撮像することができる。
【0014】
本発明による共焦点顕微鏡は、光透過性物体の共焦点透過像又は蛍光性物体の共焦点蛍光像を選択的に撮像する共焦点顕微鏡であって、
照明ビームを発生する照明光源、及び、照明ビームをスポット状に集束して観察すべき試料に向けて投射する対物レンズを有する照明光学系と、
前記照明ビームにより試料を主走査方向及びこれと直交する副走査方向に2次元走査する走査機構と、
反射面を有し、反射面上に観察すべき試料を保持する試料保持手段と、
前記試料を透過し前記反射面で反射し、前記対物レンズにより集光された光を受光する光検出手段、前記対物レンズにより集光された光をピンホール手段を介して光検出手段上に結像する結像レンズ、及び光路中に挿脱可能に配置され、照明光と同一の波長域の光を選択的に遮光するフィルタ手段を含む結像光学系と、
前記対物レンズと光検出手段との間の光路中に配置され、光路の片側半分のエリアを遮光する空間フィルタと、
前記光検出手段からの出力信号を用いて試料の共焦点画像を形成する信号処理装置とを具え、
前記結像レンズは、その結像点が光軸方向にそって変位可能に構成され、
前記対物レンズ又は反射面は光軸方向に変位可能に構成され、対物レンズ又は反射面の光軸方向の変位に応じて結像レンズの結像点が光軸方向に沿って調整され、
試料として蛍光性物体を用いる場合、フィルタ手段を光路中に挿入することにより試料の蛍光像を撮像する共焦点顕微鏡として機能し、
試料として光透過性物体を用いる場合、フィルタ手段を光路から外すことにより光透過性試料の共焦点透過像を撮像する共焦点顕微鏡として機能することを特徴とする。
【0015】
蛍光性試料を励起する励起光として、可視域の照明光を用いることができる。よって、試料保持手段の反射面上に蛍光性の試料を固定し、照明光を投射すれば、試料から蛍光が発生し、発生した蛍光はピンホールを通過して光検出手段に入射し、共焦点蛍光画像を撮像することができる。従って、観察すべき試料を交換することにより共焦点位相差顕微鏡として機能し又は共焦点蛍光顕微鏡として機能することができる。しかしながら、観察すべき試料は試料保持手段の反射面上に固定するため、蛍光顕微鏡として用いる場合反射面で反射した照明光も試料から発生した蛍光と共に光検出手段に入射する。よって、発生した蛍光が照明光中に埋もれてしまい、明瞭な蛍光像が撮像されない不具合が発生する。そこで、本発明では、対物レンズと光検出手段との間の光路中に照明光と同一の波長域の光を選択的に遮光するフィルタ手段を挿脱自在に配置し、蛍光画像を撮像する場合光路中に挿入し、透過像を撮像する場合には光路から取り外す。このように構成すれば、フィルタ手段を光路中に選択的に配置するだけで蛍光像及び位相差像を撮像することができる。
【0016】
本発明による別の共焦点顕微鏡は、光透過性物体の共焦点透過像を撮像する共焦点顕微鏡であって、
照明ビームを発生する照明光源、及び、照明ビームをスポット状に集束して観察すべき試料に向けて投射する対物レンズを有する照明光学系と、
反射面を有し、反射面上に観察すべき試料を保持する試料保持手段と、
前記照明ビームにより試料を主走査方向及びこれと直交する副走査方向に2次元走査する走査機構と、
前記試料を透過し前記反射面で反射し、対物レンズにより集光された光を2分割して第1及び第2のサブビームを形成するビーム分割素子、第1及び第2のサブビームをそれぞれ受光する第1及び第2の光検出手段、及び第1及び第2のサブビームをピンホール手段を介して第1及び第2の光検出手段上にそれぞれ結像する第1及び第2の結像レンズを含む結像光学系と、
前記第1及び/又は第2の光検出手段から出力される画像信号を用いて試料の共焦点画像を形成する信号処理装置とを具え、
前記結像レンズは、その結像点が光軸方向にそって変位可能に構成され、
前記対物レンズ又は反射面は光軸方向に変位可能に構成され、対物レンズ又は反射面の光軸方向の変位に応じて前記第1及び第2の結像レンズの結像点が光軸方向に沿って調整されることを特徴とする。
【0017】
本発明では、結像光学系にビーム分割素子を配置し、対物レンズにより集められた集光ビームをビーム分割素子により2分割して2本のサブビームを形成し、2本のサブビームはそれぞれ結像レンズ及びピンホールを介して光検出手段に入射させる。対物レンズにより集められた光を2分割することは、光路の片側半分のエリアを遮光する空間フィルタを配置したものと等価な技術的効果が得られる。従って、空間フィルタによりコントラストが一層増強された共焦点透過像を形成することができる。さらに、撮像される2つの共焦点透過像は、主走査方向の輝度が互いに反転している点を除き、その他の点は一致している。従って、第1及び第2の光検出手段から出力される画像信号について差分処理を行うことにより、コントラストが一層増強された共焦点透過像を形成することができる。この場合、信号強度が負となる信号が出力される場合があるが、信号処理装置において絶対値処理等の信号処理を行うことにより、コントラストが増強された透過像を形成することができる。
【0018】
本発明による共焦点顕微鏡は、光透過性物体の共焦点透過像又は蛍光性物体の共焦点蛍光像を選択的に撮像する共焦点顕微鏡であって、
照明ビームを発生する照明光源、及び、照明ビームをスポット状に集束して観察すべき試料に向けて投射する対物レンズを有する照明光学系と、
反射面を有し、反射面上に観察すべき試料を保持する試料保持手段と、
前記照明ビームにより試料を主走査方向及びこれと直交する副走査方向に2次元走査する走査機構と、
前記試料を透過し前記反射面で反射し、前記対物レンズにより集光された光を2分割して第1及び第2のサブビームを形成するビーム分割素子、第1及び第2のサブビームをそれぞれ受光する第1及び第2の光検出手段、第1及び第2のサブビームをピンホール手段を介して第1及び第2の光検出手段上にそれぞれ結像する第1及び第2の結像レンズ、及び、光路中に挿脱可能に配置され、照明光と同一の波長域の光を選択的に遮光するフィルタ手段を含む結像光学系と、
前記光検出手段からの出力信号を用いて試料の共焦点画像を形成する信号処理装置とを具え、
前記結像レンズは、その結像点が光軸方向にそって変位可能に構成され、
前記対物レンズ又は反射面は光軸方向に変位可能に構成され、対物レンズ又は反射面の光軸方向の変位に応じて結像レンズの結像点が光軸方向に沿って調整され、
試料として蛍光性物体を用いる場合、フィルタ手段を光路中に挿入することにより試料の蛍光像を撮像する共焦点顕微鏡として機能し、
試料として光透過性物体を用いる場合、フィルタ手段を光路から外すことにより光透過性試料の共焦点透過像を撮像する共焦点顕微鏡として機能することを特徴とする。
【0019】
本発明による共焦点顕微鏡の好適実施例は、結像レンズとして、入力信号に応じて焦点距離が変化する焦点可変レンズ、又は焦点可変レンズと固定焦点レンズとを組み合わせたレンズ系が用いられることを特徴とする。焦点可変レンズは、入力される電気信号により焦点距離を制御することができる。従って、結像レンズとして、焦点可変レンズを用いれば、信号処理装置において、対物レンズの光軸方向の変位に対応した制御信号を生成して焦点可変レンズに供給することにより、照明系の焦点位置が変位しても対物レンズにより集光された光を光検出手段上に結像することができる。すなわち、照明光学系の焦点の変位に対して全て電気信号により対応制御することができる。
【0020】
本発明による共焦点顕微鏡の好適実施例は、観察すべき試料として生体試料が用いられ、試料保持手段はシリコン基板により構成され、表面に生体細胞が固定されたシリコン基板を培養液を収容する容器中に浸漬し、生きた状態の生体試料の共焦点画像を撮像することを特徴とする。研磨されたシリコン基板の表面は鏡面と同様に仕上げられており、反射面として機能することができる。従って、格別な反射膜を形成することなく反射面が形成される。そこで、本発明では、観察すべき生体細胞を支持する試料保持手段としてシリコン基板を用い、シリコン基板の研磨表面上にポリ−L−リジン(PLL)やアルカンチオール等の細胞固定層を形成する。そして、このシリコン基板を容器内に配置し、観察すべき生体細胞を含む培養液を滴下する。これにより、生体細胞は固定層を介して研磨表面上に固定され、生体細胞の周囲は培養液で満たされる。この結果、生体細胞を生きた状態で観察することが可能になり、細胞分裂中の増殖形態を高解像度画像として撮像することが可能になる。