(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
本発明の成形材料は、ポリアリーレンスルフィド骨格を有するものであって、下記式(I)で表される繰り返し単位を有し、酸化重合の工程を経て得られた、重量平均分子量21000以上、数平均分子量7000以上、且つ、分散度3.0以上である成形材料である。
【化4】
【0018】
上記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリマーを酸化重合により得る際に使用するモノマーとしては、例えば、下記式(IV)で表される3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、及び、下記式(V)で表される3,5−ジメチルベンゼンチオールが挙げられる。また、同じポリマー構造を発現するモノマーとして、下記式(VI)で表される2,2’,6,6’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、及び、下記式(VII)で表される2,6−ベンゼンチオールが挙げられる。これらの中でも、重合反応時にメチル基の立体的な障害が生じにくく、重合反応がより進行しやすいことから、下記式(IV)で表される3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、及び、下記式(V)で表される3,5−ジメチルベンゼンチオールが好ましい。
【0019】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0020】
上記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンスルフィドの製造においては、いかなる形式の酸化重合方法を用いてもよい。
【0021】
酸化重合においては、上記式(IV)〜(VII)で表される化合物に加えて、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び/又は、置換もしくは未置換のチオフェノールを用いることもできる。なお、ジフェニルジスルフィド及びチオフェノールはそれぞれ、置換のものと未置換のものとを併用してもよい。すなわち、上記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンスルフィドの原料となるモノマーは、上記式(IV)〜(VII)で表される化合物以外に、置換ジフェニルジスルフィド、未置換ジフェニルジスルフィド、置換チオフェノール、及び、未置換チオフェノールからなる群より選択される一種又は二種以上のモノマーを含んでいてもよい。
【0022】
上記置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィドとしては、例えば、下記一般式(VIII)で表される化合物が挙げられる。
【化9】
[式(VIII)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7及びR
8は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。]
【0023】
上記一般式(VIII)で表される化合物の具体例としては、2,2’−ジメチルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタメチルジフェニルジスルフィド、2,2’−ジエチルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトラエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラエチルジフェニルジスルフィド、3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタエチルジフェニルジスルフィド、2,2’−ジプロピルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトラプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラプロピルジフェニルジスルフィド、3,3’,5,5’−テトラプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’−ジイソプロピルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジイソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトライソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトライソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルジスルフィド、3,3’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサイソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサイソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタイソプロピルジフェニルジスルフィドなどが挙げられる。これらの中でも、原料の入手性の観点から、2,2’−ジメチルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタメチルジフェニルジスルフィドが好適に使用できる。また、R
1〜R
8がすべて水素原子であるジフェニルジスルフィドも、物性や機械的強度を調整するために、必要に応じて使用することができる。
【0024】
また、これらの置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィドは、置換もしくは未置換のチオフェノールの酸化によっても容易に調製できる。そのため、重合工程においては、上述した置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィドの前駆体として、置換もしくは未置換のチオフェノールも使用することができる。置換もしくは未置換のチオフェノールとしては、例えば、下記一般式(IX)で表される化合物が挙げられる。
【化10】
[式(IX)中、R
9、R
10、R
11及びR
12は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。]
【0025】
上記一般式(IX)で表される化合物の具体例としては、上記一般式(VIII)で表される化合物の具体例の前駆体となる化合物が挙げられるが、中でもチオフェノール(ベンゼンチオール)、2−メチルベンゼンチオール、3−メチルベンゼンチオール、2,3−ジメチルベンゼンチオール、2,5−ジメチルベンゼンチオールが好適に使用できる。
【0026】
次に、酸化重合について説明する。酸化重合の形式に特に限定はなく、キノン類を使用しての酸化重合でも、金属化合物を用いた酸化重合でもよい。しかしながら、下記一般式(II)及び/又は(III)で表されるキノン系化合物を用いて酸化重合することが好ましい。
【化11】
【化12】
[式(II)及び(III)中、X
1、X
2、X
3及びX
4はそれぞれ独立に、水素原子、塩素原子、臭素原子、ニトリル基、炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基又はアリール基を示し、X
1とX
2、X
3とX
4とは互いに結合して炭素数6〜8の環を形成していてもよい。]
【0027】
上記一般式(II)及び/又は(III)で表されるキノン系化合物の具体例としては、例えば、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−パラベンゾキノン(DDQ)、2,3,5,6−テトラクロロパラベンゾキノン(クロラニル)、2,3,5,6−テトラブロモベンゾキノン(ブロマニル)、2,3,5,6−テトラフルオロパラベンゾキノン、アントラキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジブロモ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジシアノ−1,4−ナフトキノン、3,4,5,6−テトラクロロオルトベンゾキノン(オルトクロラニル)、3,4,5,6−テトラブロモオルトベンゾキノン(オルトブロマニル)、3,4,5,6−テトラフルオロベンゾキノンなどが挙げられる。これらの中でも、DDQ、クロラニル、オルトクロラニル、ブロマニル、オルトブロマニルが酸化力と入手性の点から好ましい。
【0028】
これらの酸化剤の添加量は、用いるモノマー1モルに対して、0.001〜10000モルが適当であり、0.01〜5000モルであることがより好ましく、0.1〜1000モルであることが特に好ましい。酸化剤の添加量が少なすぎると、重合が進行しにくくなり、また分子量も伸長しにくくなる。添加量が多すぎると、残渣がポリマー中に残りやすくなるため好ましくない。
【0029】
なお、これらの酸化剤が作用したのちは、キノン系化合物はハイドロキノンのジアニオンとなるため、そのようなジアニオンを安定化させるため、酸を加えておくこともできる。その際に加える酸としては特に限定はなく、プロトンを放出できるものであれば、いかなるものも使用できる。酸として具体的には、硫酸、酢酸、メタンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸、トルエンスルフォン酸などの酸のほか、下記一般式(X)で表される有機酸を使用することができる。
【化13】
[式(X)中、Rfは炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を示す。]
【0030】
上記一般式(X)で表される有機酸の具体例としては、トリフルオロメタンスルフォン酸、1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸、ペンタフルオロエタンスルフォン酸、ヘプタフルオロプロパンスルフォン酸、ヘプタフルオロイソプロパンスルフォン酸、ノナフルオロブタンスルフォン酸、ナフィオン(登録商標)などが挙げられる。これらの中でも、入手性の観点から、トリフルオロメタンスルフォン酸、1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸を用いることが好ましい。
【0031】
また、酸としては、下記一般式(XI)で表される有機酸を使用することもできる。
Rf−CO
2H (XI)
[式(XI)中、Rfは炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を示す。]
【0032】
上記一般式(XI)で表される有機酸の具体例としては、トリフルオロ酢酸、パーフルオロプロピオン酸、パーフルオロ酪酸などが挙げられる。これらの中でも、入手性の観点から、トリフルオロ酢酸が好ましい。
【0033】
これらの酸を上記一般式(II)及び/又は(III)で表される酸化剤と併用することにより、酸化剤の酸化力を制御することができる。具体的には、上記一般式(II)及び/又は(III)で表される酸化剤に酸を添加することで、酸化力が増強される。非特許文献1では、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−パラベンゾキノン(DDQ)とトリフルオロメタンスルフォン酸とのモル比は20:1であり、12時間の反応時間をかけてMn10000、Mw28000に到達している。しかしながら、分散度(Mw/Mn)は2.8と小さく、溶液からの加工性と機械的強度とのバランスが必ずしもよくなかった。すなわち、種々の成形品を製造するための成形材料としては分散度が十分でなく、それを克服するためには、上記一般式(II)及び/又は(III)で表される化合物と酸(プロトン)とのモル比(一般式(II)及び/又は(III)で表される化合物:酸(プロトン))は、19:1〜1:5であることが好ましく、10:1〜1:3であることがより好ましく、5:1〜1:2であることが特に好ましい。先に述べたように、一般式(II)で表される化合物/酸(プロトン)が19を超えると分散度が小さくなり、一般式(II)で表される化合物/酸(プロトン)が0.2を下回ると、ポリマーの分解などを誘発しやすくなるため好ましくない。このようにして、成形材料として好適な高分子量体を得ることができる。
【0034】
本発明においては、上記一般式(II)及び/又は(III)で表されるキノン系化合物の他に、金属化合物を使用することができる。金属化合物の中でも、(A)バナジウム化合物を使用することが好ましい。
【0035】
(A)バナジウム化合物は、上記モノマーの酸化重合触媒として機能するものである。(A)バナジウム化合物としては、好ましくは、分子内にV=O結合を有するオキソバナジウム化合物が使用される。オキソバナジウム化合物として具体的には、N,N’−ビスサリチリデンエチレンジアミンオキソバナジウム、フタロシアニンオキソバナジウム、テトラフェニルポルフィリンオキソバナジウムなどが挙げられる。その他に下記一般式(XII)で表されるバナジウム化合物も使用される。
【0036】
【化14】
[式(XII)中、R
13、R
14、R
15及びR
16はそれぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、又は、炭素数6〜8のアリール基を表し、R
17及びR
18はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は、炭素数6〜8のアリール基を表す。]
【0037】
上記一般式(XII)で表されるバナジウム化合物としては、4価のオキソバナジウムに、β−ジケトンのアニオンが2分子付加した構造を持つものであれば使用することができる。具体例を示すと、バナジル(IV)アセチルアセトネート、バナジル(IV)ベンゾイルアセトネート(R
13=R
16=メチル基、R
14=R
15=フェニル基、R
17=R
18=水素原子)が挙げられる。
【0038】
上述した(A)バナジウム化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
(A)バナジウム化合物の添加量は、上記式(IV)〜(VII)で表される化合物の総量100モルに対して、0.001〜100モルであることが好ましく、0.01〜50モルであることがより好ましい。この添加量が少ないと重合反応が進行しにくく、添加量が多いと得られるポリマー中に(A)バナジウム化合物が残存しやすくなる。
【0040】
(A)バナジウム化合物を使用する際には、(B)酸も必要となる。(B)酸としては、先に例示したものを使用することができる。
【0041】
なお、(B)酸は、酸素あるいは空気を流通させて酸化重合する際には、(B)酸が揮散してしまうと反応が進行しにくくなるので、なるべく高沸点の酸を用いることが好ましい。
【0042】
上述した(B)酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
(B)酸の添加量は、上記式(IV)〜(VII)で表される化合物の総量100モルに対して、0.001〜100モルであることが好ましく、0.01〜50モルであることがより好ましい。この添加量が少ないと反応が進行しにくく、添加量が多いとポリマー中に(B)酸が残存しやすくなる。
【0044】
バナジウム化合物(A)を使用する場合は、(B)酸とともに、(C)酸化剤を使用する。(C)酸化剤として具体的には、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノエチレン、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、四酢酸鉛、酸酢酸タリウム、セリウム(IV)アセチルアセトネート、マンガン(III)アセチルアセトネートの如き酸化性化合物や、先に述べた一般式(II)及び/又は(III)で表される化合物も好適に使用できる。そのほか、酸素ガスや空気などの酸素分子を含むガスなどが挙げられる。これらの中でも酸素分子を含むガスが好ましい。酸素分子を含むガスとして具体的には、空気、酸素ガスの他、酸素と、窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合物などが挙げられる。これらの中でも酸素ガス、空気のほか、酸素と窒素との混合物が好ましく使用される。酸素と窒素との混合物を使用する場合、酸素濃度は任意である。
【0045】
上述した(C)酸化剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
重合工程において、反応温度は任意で、室温〜300℃まで好適に重合が進行する。しかしながら、酸化剤の分解温度や副反応を抑制する温度とすることが肝要である。特にバナジウム化合物と酸素を含むガスを用いて酸化重合する際は、重合反応では水が副生される。水はバナジウム化合物に影響を与えるため、本系から除去することが好ましい。反応温度が100℃以下の場合は、先に記載した(B)酸の無水物を併用して副生する水を分解することが好ましい。反応温度を100℃を超える温度に設定すれば、(B)の無水物を使用することなく重合を進行させることができる。高分子量体を得るためにも、反応温度は100℃を超える温度とすることが好ましく、140℃以上の温度とすることがより好ましい。なお、反応温度をモノマーの融点以上とすれば、溶媒を用いることなく、溶融重合することが可能となる。モノマーの融点未満であれば、溶媒を用いて溶液重合することが好ましい反応形態である。また、反応温度の上限は特に限定されないが、得られるポリマーの劣化を抑制する観点から、反応温度は300℃以下であることが好ましく、270℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることが特に好ましい。もちろん、上記一般式(II)及び/又は(III)で表される酸化剤を用いれば、水生成による影響は受けないので、100℃以下の重合条件であっても、(B)酸の無水物を使用することなく、例えば室温でも酸化重合が可能である。
【0047】
本発明において、(C)酸化剤として酸素分子を含むガスなどの気体を使用する場合、圧力は特に限定はなく、常圧〜10MPaまでが好ましく選定される。過度の圧力は肉厚の装置が必要となり、コストを上昇させるため、好ましくない。また、特に圧力を高く、かつ温度を高くした場合、得られるポリアリーレンスルフィドのスルフィド部位を酸素が酸化して、スルフォキシドやスルフォンを与えるので、注意を要する。その点を考慮すると、圧力は常圧〜1MPa程度が好適である。なお、ガスの供給方法は、連続式でもバッチ式でもよい。
【0048】
本発明において、重合工程での反応時間は特に限定されないが、通常、0.1〜240時間である。反応時間が0.1時間よりも短い場合には、所望の重合が進行しない傾向がある。一方、反応時間が240時間を越えると、副反応が誘発される可能性が高くなる。適切な反応時間は1〜100時間であり、より好ましくは2〜80時間である。特に反応温度を室温にする場合は、10〜80時間が好ましい。
【0049】
本発明においては、酸化重合において反応に溶媒を使用することができる。好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。これらの溶媒の沸点が反応温度以下である場合には、密閉容器を使用しての反応が好ましい。
【0050】
重合工程では、重合反応中に、上記式(IV)〜(VII)で表される化合物を含むモノマーを逐次的に添加することも可能である。反応後期には触媒である(A)バナジウム化合物が活性を維持しているにもかかわらず、反応するモノマー濃度が減少するため、重合反応が進行しにくくなるという問題がある。モノマーを適宜追加することで、重合停止を阻止することができる。
【0051】
重合工程で得られたポリマーには、上記一般式(II)及び/又は(III)で表される化合物の還元体、特に(A)バナジウム化合物を用いて重合した場合には、(A)バナジウム化合物や(B)酸が残存している可能性があるため、得られたポリマーの洗浄を行うことが好ましい。洗浄方法に特に限定はない。例えば、得られたポリマーが固形物であれば、それを粉砕して、有機溶媒で未反応モノマーやオリゴマー成分を抽出することができる。残ったポリマーは、水、酸、塩基などで洗浄することができる。また、得られたポリマーが溶媒に溶解しているような場合には、そのまま水、酸、塩基などで洗浄することも可能である。その際使用できる溶媒としては、反応溶媒をそのまま用いても構わない。また、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどに加え、N−メチルピロリドンなども洗浄の際の溶媒として、挙げることができる。そのような溶媒には未反応モノマーやオリゴマーが溶出してくるので、必要に応じて精製をすることで、回収したオリゴマーやモノマーを原料として再利用することが可能である。実験室的には得られたポリマーを乳鉢などですりつぶし、ジクロロメタンに分散させて、メタノールと塩酸の混合液で洗浄する。このような方法で洗浄を行ってもよい。
【0052】
また、重合工程で得られたポリマーを、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、N−メチルピロリドン、トルエン、キシレンなどの溶媒で抽出することも可能である。上記抽出を行うことによって、ポリマー中の低分子量成分が抽出・除去され、結果的に残ったポリマーの平均分子量を向上させることができる。
【0053】
また、本発明においては、温度条件等の種々条件を変えて複数段で重合を行う多段重合を行ってもよい。多段重合は、二段重合又は三段重合であることが好ましい。多段重合を行う場合、反応器はそのままで温度条件を変えたり触媒などを追加する方法を採用してもよいし、内容物を別の容器に移送し、そこで別途条件を設定する方法を採用してもよい。なお、二段目、三段目の重合条件は、先に記載した一段重合に相当する重合条件がそのまま適応できる。一段目、二段目及び三段目の重合条件は、それぞれ全く同じ条件でもよいし、温度や圧力、撹拌条件などを変えても構わない。
【0054】
このようにして得られたポリマーは、上記式(I)で表される繰り返し単位を有しており、成形材料として、射出成形、押出成形のような一般的な熱可塑性樹脂の加工方法の他、キャスト法や塗布などで所望の形状に変換することができる。
【0055】
上記式(I)で表される繰り返し単位を有する化合物は、溶媒に対する溶解性が極めて高く、溶液のまま所望の形状に加工した後、溶媒を除去することによりフィルムを作製したり、コーティングをすることが可能である。
【0056】
例えばフィルムに加工する場合、加工方法としては、溶媒に溶解したスピンコート法やキャスト法で薄膜を形成させる方法が例示できる。その際に使用する溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、メタジクロロベンゼン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどが挙げられる。必要に応じて加熱するなどして、これらの溶媒にポリマーを溶解し、ガラス板に滴下あるいはスピンコートし、溶媒を風乾することによってフィルムを得ることができる。ポリマー溶液の濃度に特に制限はないが、50質量%以下であることが好ましい。50質量%を超えると、溶液の粘度が上昇して均一に塗布することができなくなる。
【0057】
もちろん、溶媒を使わずにポリマーを加熱溶融させて、T−ダイ法やインフレーション法で、フィルム成形することが可能である。その際の加工温度は、ポリマーの融点以上であれば、特に制限はない。ただし、過度の高温は分子切断などのポリマー劣化を誘発するため、好ましくない。
【0058】
特に3,5−ジメチルジフェニルジスルフィドから合成したポリマーは、高い透明性と高い屈折率を有し、メガネレンズやピックアップレンズなどの光学部材に使用することができる。
【0059】
本発明においては、ポリマーの重量平均分子量Mwは21000以上、数平均分子量Mnは7000以上、且つ、分散度(分子量分布、Mw/Mn)は3.0以上であることが必要である。ポリマーの分子量が低いと得られる成形体は形状を維持することができず、成形しても容易に破壊されるため、好ましくない。ポリマーのMwは、21000以上であればよく、より好ましくは22000〜500000であり、更に好ましくは23000〜200000である。ポリマーのMnは、7000以上であればよい。ポリマーの分子量が高すぎると、溶媒に溶けにくくなったり、溶液粘度が高くなり加工がしにくくなる。また、適度な粘度とするために大量の溶媒が必要となり、加工時に溶媒除去のエネルギーを大量に要することとなり、好ましくない。また、分散度は3.0以上であればよいが、好ましくは3.0〜5.0である。分散度が3.0を下回ると、成形体のしなやかさが失われ、例えばフィルムにした場合には容易に割れやすくなる。また、分散度が5.0を上回ると相対的に低分子量成分が多くなり、機械的強度が低下することがある。
【0060】
以上説明した本発明によれば、特定の分子量を有する、酸化重合により得られた特定の繰り返し単位を有するポリマーからなる成形材料、及びそれを用いて形成された光学部材を提供することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で得られたポリマーのガラス転移温度、5%重量減少温度、分子量及び屈折率の測定方法は以下の通りである。
【0062】
(ガラス転移温度の測定)
示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製)を用い、リファレンスとしてα−アルミナを使用して測定した。測定条件は、室温から20℃/分で310℃まで昇温した際の吸熱ピークの変曲点をガラス転移温度とした。
【0063】
(5%重量減少温度の測定)
熱重量測定装置(リガク製、商品名:TG8120)を用い、室温〜500℃まで10℃/分で昇温し、5%重量減少が起きた温度を5%重量減少温度とした。
【0064】
(分子量の測定)
GPC装置(SHIMADZU、CBM−20A)にカラム(TOSOH、TSKgel SuperHM−N)1本、UV検出器(SHIMADZU、SPD−20MA)を接続した。試料2mgにクロロホルム溶媒4mlを加え、ポリマーを溶解した。このように溶解したポリマーを、流速0.3ml/分で分析することで、分子量(数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mw)を測定した。
【0065】
(屈折率の測定)
ATAGO社製アッベ屈折計4Tを用い、NaD線(589nm)を用いて屈折率を測定した。
【0066】
<重合例1>
窒素雰囲気で、50mlの三口フラスコに、上記式(IV)で表される3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド(5g、18mmol)を、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−パラベンゾキノン(DDQ、2M)とトリフルオロメタンスルフォン酸(1M)の1,1,2,2−テトラクロロエタン溶液(10ml)に加え、40時間室温にて撹拌することで酸化重合を行った。40時間後に1,1,2,2−テトラクロロエタン溶液を塩酸酸性メタノールに滴下し、グラスフィルターで粉末を回収した。その後、水酸化カリウム水溶液(0.1M)及び純水で洗浄し、真空乾燥させてポリマーを得た。ポリマーのMwは26000、Mnは8000であった。ポリマーのガラス転移温度は150℃、5%重量減少温度は370℃であった。更に、得られたポリマーをCD
2Cl
2(ジクロロメタン−d
2)に溶解し、500MHzでのNMRを測定したところ、以下のとおりであり、式(I)の構造を示唆するものであった。
1H−NMR:6.68(s,2H),2.25(s,6H)
13C−NMR:144.3,139.9,125.9,125.1,21.6
【0067】
[実施例1]
重合例1で得られたポリマー(Mw=26000、Mn=8000、Mw/Mn=3.3、150mg)をメタジクロロベンゼン(2ml)に溶解して、孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通してテフロン(登録商標)板上に滴下した。ホットプレート温度を60℃に調整し、先のテフロン(登録商標)板上のポリマー溶液を加熱乾燥した。これにより、厚みが約400μmの透明性フィルムを得た。このフィルムの屈折率を測定したところ、1.69であった。
【0068】
[実施例2]
加熱乾燥温度(ホットプレート温度)を80℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、厚みが約400μmの透明性フィルムを得た。このフィルムの屈折率を測定したところ、1.69であった。
【0069】
[比較例1]
市販PPS(Mw20000、アクロス社製、150mg)をメタジクロロベンゼン(2ml)に分散して、加熱還流した。しかしながら、PPSを完全に溶解することができなかった。また、このポリマー分散液を、メンブレンフィルターを通さずにテフロン(登録商標)板上に滴下したが、もともとのポリマーパウダーが分散しただけで、フィルムを作製することができなかった。
【0070】
[比較例2]
市販PPS(Mw20000、アクロス社製、150mg)をNMP(N−メチルピロリドン、10ml)に分散して、加熱還流した。高温のポリマー溶液を、メンブレンフィルターを通さずにテフロン(登録商標)板上に滴下したが、ほとんど瞬時にポリマーが析出して、フィルムを作製することができなかった。
【0071】
<重合例2>
窒素雰囲気で、20mlの三口フラスコに、上記式(IV)で表される3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド(2.7g、10mmol)を、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−パラベンゾキノン(DDQ、2M)とトリフルオロ酢酸(1M)の1,1,2,2−テトラクロロエタン溶液(5ml)に加え、40時間室温にて撹拌することで酸化重合を行った。40時間後に1,1,2,2−テトラクロロエタン溶液を塩酸酸性メタノールに滴下し、グラスフィルターで粉末を回収した。その後、水酸化カリウム水溶液(0.1M)及び純水で洗浄し、真空乾燥させて、式(I)で表される繰り返し単位を有するポリマーを得た。ポリマーのMwは34000、Mnは8500であった。
【0072】
[実施例3]
重合例2で得られたポリマー(Mw=34000、Mn=8500、Mw/Mn=4.0、200mg)をトルエン(0.5ml)に溶解して、孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通してテフロン(登録商標)板上に滴下した。ホットプレート温度を60℃に調整し、先のテフロン(登録商標)板上のポリマー溶液を加熱乾燥した。これにより、厚みが約100μmの透明性フィルムを得た。
【0073】
<重合例3>
窒素雰囲気で、20mlの三口フラスコに、上記式(IV)で表される3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド(2.7g、10mmol)を、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−パラベンゾキノン(DDQ、2M)とトリフルオロ酢酸(1M)のニトロベンゼン溶液(5ml)に加え、40時間室温にて撹拌することで酸化重合を行った。40時間後にニトロベンゼン溶液を塩酸酸性メタノールに滴下し、グラスフィルターで粉末を回収した。その後、水酸化カリウム水溶液(0.1M)及び純水で洗浄し、真空乾燥させて、式(I)で表される繰り返し単位を有するポリマーを得た。ポリマーのMwは23000、Mnは6
800であった。
【0074】
[比較例3]
重合例3で得られたポリマー(Mw=23000、Mn=6800、Mw/Mn=3.4、200mg)をトルエン(0.5ml)に溶解して、孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通してテフロン(登録商標)板上に滴下した。ホットプレート温度を60℃に調整し、先のテフロン(登録商標)板上のポリマー溶液を加熱乾燥した。しかし、乾燥時にクラックが入り、自立膜を形成することができなかった。