(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る放射線線量計の概略構成図である。
図1に示されるように、放射線線量計1は、放射線の線量を測定するための装置であって、放射線検出体2と、シールド部材3と、増幅器4と、マイコン5(演算装置)と、操作ボタン6と、表示装置7と、電源8と、電源スイッチ9と、を備えている。なお、測定される線量として、例えばシーベルト(Sv)値が用いられる。
【0018】
放射線検出体2は、放射線を検出可能な半導体から構成された検出体であって、例えばCdTe(カドミウムテルライド)から構成されている。この放射線検出体2の厚さは、例えば1mm程度である。また、放射線検出体2は、放射線を検出可能な半導体の一面および他面に電極(不図示)がそれぞれ設けられている。放射線検出体2では、入射した放射線のエネルギーが吸収されると、そのエネルギーの大きさに応じて電子およびホールが生成される。そして、放射線検出体2は、エネルギーの大きさに応じた電圧値を有する検出信号を、増幅器4を介してマイコン5に出力する。
【0019】
図2は、放射線検出体2のエネルギーレスポンスの一例を示す図である。ここで、エネルギーレスポンスとは、放射線のエネルギーと放射線の吸収率との関係を意味し、応答関数ともいう。
図2において、横軸は放射線のエネルギーを示し、縦軸は放射線の吸収率を示している。この例では、放射線検出体2は、CdTeから構成されており、その厚さは1mmである。
図2に示されるように、高エネルギー領域の放射線の吸収率よりも低エネルギー領域の放射線の吸収率が高く、放射線のエネルギーが小さくなるに従い放射線の吸収率が増加している。例えば、セシウム137は、662keVのエネルギーを有するガンマ線を放出することが知られている。この例の放射線検出体2を単体で用いた場合、セシウム137から放出されるガンマ線の吸収率は0.7%程度であるので、その検出感度は極めて低い。
【0020】
シールド部材3は、金属製のシート状部材であって、例えばAu(金)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)およびステンレス鋼のいずれかから構成されている。このシールド部材3は、例えば0.1mm以上の厚さを有し、例えば1.0mm以下の厚さを有する。また、シールド部材3は、放射線検出体2の表面を覆うように設けられている。また、シールド部材3と放射線検出体2との間には、0.1mm〜1mm程度の間隙が設けられている。増幅器4は、放射線検出体2から出力された検出信号を増幅するための信号増幅器(プリアンプ)である。増幅器4は、増幅した検出信号をマイコン5に出力する。
【0021】
マイコン5は、放射線検出体2によって検出された放射線に基づいて、線量を算出する演算装置である。マイコン5は、増幅器4によって増幅された検出信号を受信し、受信した検出信号の電圧値に応じてエネルギースペクトルを生成する。また、マイコン5は、エネルギースペクトルに所定の演算を行って放射線線量を算出する。そして、マイコン5は、算出した線量を表示するための表示情報を表示装置7に出力する。
【0022】
また、マイコン5は、ADC5aを有している。ADC5aは、受信した検出信号の電圧値をチャネルに変換する。ここで、チャネルとは、エネルギーの大きさに対応するメモリ番地を意味する。通常、エネルギースペクトルは、エネルギーとそのエネルギーの強度との関係を表すものであって、エネルギーの強度は、そのエネルギーを有する放射線の入射数であるカウント値で表される。マイコン5の内部では、メモリの容量を節約するために、各エネルギーのカウント値は、メモリの連続する番地(チャネル)に格納される。すなわち、マイコン5は、増幅器4を介して放射線検出体2から検出信号を受信するごとに、ADC5aによって検出信号の電圧値をチャネルに変換し、変換したチャネルに格納されたカウント値を1増加する。このようにして、マイコン5は、チャネルスペクトルを取得する。そして、マイコン5は、表示などをする時にチャネルをエネルギーに換算し、チャネルスペクトルをエネルギースペクトルに変換する。マイコン5の機能の詳細については、後述する。
【0023】
操作ボタン6は、放射線線量計1を操作するための入力装置である。この操作ボタン6には、例えば、放射線線量計1の動作モード(積算モード、リアルタイムモード)を選択するための操作ボタン、決定を指示するための操作ボタンなどが含まれている。ここで、放射線線量計1の動作モードには、初期化モード、積算モード、リアルタイムモードなどがある。初期化モードとは、放射線線量計1の検出感度を校正するために、変換係数を初期化する動作モードである。初期化モードは、例えば、表示装置7に表示された動作モードから初期化モードを選択する操作、特定の操作ボタン6を押しながら電源スイッチ9を押下して放射線線量計1を起動する操作などによって起動する。この初期化モードによる変換係数の初期化処理は、例えば製品出荷時に製造販売者によって行われる。
【0024】
積算モードとは、電源オン状態からオフ状態までの間に計測された放射線線量(Sv)を表示するモードのことである。リアルタイムモードとは、電源オン状態において、計測された放射線線量率(Sv/h)を表示するモードのことである。
【0025】
表示装置7は、液晶ディスプレイなどの表示装置である。この表示装置7は、マイコン5から出力された表示情報に基づき所定の情報を表示する。例えば、表示装置7は、マイコン5によって算出された線量および電源8の状態などを表示する。電源8は、放射線線量計1の各部に電力を供給する。また、電源8は、電源スイッチ9が操作されることによって、オン状態とオフ状態とが切り替えられる。
【0026】
次に、放射線線量計1における放射線の検出原理を、
図3を用いて説明する。
図3は、放射線検出体2およびシールド部材3の断面を模式的に示す図である。
図3に示されるように、放射線検出体2は、シールド部材3によって覆われている。放射線線量計1では、大気中の放射線r1がシールド部材3に入射すると、シールド部材3においてコンプトン散乱が生じる。このとき、散乱後の放射線r2のエネルギーは、放射線r1のエネルギー以下であって、散乱前の放射線r1のエネルギーよりも低いエネルギー領域に一定の割合で分布する。そして、散乱後の放射線r2の一部は、放射線検出体2によって吸収される。また、放射線検出体2によって吸収されずに透過した放射線r2は、シールド部材3を透過して外部に出射する。
【0027】
上述のように、放射線検出体2は、高エネルギー領域の放射線の吸収率よりも低エネルギー領域の放射線の吸収率が高い。このため、放射線検出体2では、放射線r1の吸収率よりも、放射線r2の吸収率が大きくなる。その結果、放射線検出体2における放射線の吸収率が向上し、放射線の検出感度が向上する。
【0028】
続いて、放射線線量計1における放射線検出の具体例を
図4〜
図8を用いて説明する。この例において、ステンレス鋼は、Si(シリコン)を1%、Cr(クロム)を18%、Mn(マンガン)を2%、Fe(鉄)を70%、Ni(ニッケル)を9%の割合で含有しており、その密度は7.93g/cm
3である。また、この例では、放射線検出体2は、CdTeから構成されており、その厚さは1mmである。また、放射線検出体2とシールド部材3との間には、0.1mm〜1.0mm程度の間隙が設けられている。
【0029】
図4は、各種シールド部材3(Au、Al、ステンレス鋼およびCu)の厚さを0.1mmとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルの一例を示す図である。
図4において、横軸は放射線検出体2に入射した放射線のエネルギーを示し、縦軸は放射線の全入射数に対する各エネルギーの放射線の入射数の割合(分布比率)を示している。
図5および
図6においても同様である。グラフG
Au01は、シールド部材3を0.1mm厚のAuとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。グラフG
Al01は、シールド部材3を0.1mm厚のAlとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。グラフG
SUS01は、シールド部材3を0.1mm厚のステンレス鋼とした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。グラフG
Cu01は、シールド部材3を0.1mm厚のCuとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。なお、この散乱後の放射線のエネルギースペクトルは、662keVのエネルギーを有する放射線がシールド部材3により散乱した後のエネルギースペクトルを表している。
【0030】
図4に示されるように、シールド部材3を0.1mm厚のAuとした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.1%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0.01〜0.08%程度である。シールド部材3を0.1mm厚のAlとした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、660keV以下のエネルギーの分布比率は0〜0.05%程度である。シールド部材3を0.1mm厚のステンレス鋼とした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.04〜0.09%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0.01〜0.02%程度である。シールド部材3を0.1mm厚のCuとした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.04〜0.09%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0.01〜0.04%程度である。
【0031】
図5は、各種シールド部材3の厚さを0.5mmとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルの一例を示す図である。グラフG
Au05は、シールド部材3を0.5mm厚のAuとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。グラフG
Al05は、シールド部材3を0.5mm厚のAlとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。グラフG
SUS05は、シールド部材3を0.5mm厚のステンレス鋼とした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。グラフG
Cu05は、シールド部材3を0.5mm厚のCuとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。なお、この散乱後の放射線のエネルギースペクトルは、662keVのエネルギーを有する放射線がシールド部材3により散乱した後のエネルギースペクトルを表している。
【0032】
図5に示されるように、シールド部材3を0.5mm厚のAuとした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.2〜0.6%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0.01〜0.08%程度である。シールド部材3を0.5mm厚のAlとした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.04〜0.1%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0〜0.03%程度である。シールド部材3を0.5mm厚のステンレス鋼とした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.1〜0.3%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0.02〜0.05%程度である。シールド部材3を0.5mm厚のCuとした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.1〜0.3%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0〜0.1%程度である。
【0033】
図6は、各種シールド部材3の厚さを1.0mmとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルの一例を示す図である。グラフG
Au10は、シールド部材3を1.0mm厚のAuとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。グラフG
Al10は、シールド部材3を1.0mm厚のAlとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。グラフG
SUS10は、シールド部材3を1.0mm厚のステンレス鋼とした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。グラフG
Cu10は、シールド部材3を1.0mm厚のCuとした場合の散乱後の放射線のエネルギースペクトルを示す。なお、この散乱後の放射線のエネルギースペクトルは、662keVのエネルギーを有する放射線がシールド部材3により散乱した後のエネルギースペクトルを表している。
【0034】
図6に示されるように、シールド部材3を1.0mm厚のAuとした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.3〜0.8%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0.02〜0.1%程度である。シールド部材3を1.0mm厚のAlとした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.08〜0.3%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0.01〜0.06%程度である。シールド部材3を1.0mm厚のステンレス鋼とした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.3〜0.7%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0〜0.06%程度である。シールド部材3を1.0mm厚のCuとした場合、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、200keV〜660keVのエネルギーの分布比率は0.3〜0.7%程度、200keV以下のエネルギーの分布比率は0〜0.07%程度である。
【0035】
図7は、
図4〜
図6の各種シールド部材3における662keVの放射線の散乱率の一例を示す図である。
図7に示されるように、シールド部材3の厚さが大きいほど、散乱率は大きくなることがわかる。また、シールド部材3の種類としては、Au、Al、ステンレス鋼およびCuのうち、Auが最も散乱率が高いことがわかる。
【0036】
図8は、放射線検出体2における放射線吸収量の増加率を示す図である。この放射線吸収量の増加率は、シールド部材3を設けない場合の放射線検出体2における放射線の吸収量に対する増加率である。
図8に示されるように、
図4〜
図6の各種シールド部材3のうち、0.1mm厚のAuのシールド部材3を用いた場合、放射線吸収量の増加率が最も高く13.6%である。また、他の種類のシールド部材3を用いた場合でも、数%程度の増加率が得られる。この放射線吸収量の増加率は、シールド部材3による放射線の散乱率と放射線検出体2による放射線の吸収率との比率によって決定される。このため、散乱率が高いシールド部材3と、低エネルギー領域において吸収率が高い放射線検出体2とを用いることにより、放射線検出体2における放射線吸収量の増加率も大きくなる。
【0037】
以上のように、
図4〜
図6のいずれの金属を用いた場合も、662keV付近のエネルギーの分布比率は100%に近く、660keV以下のエネルギーの分布比率は数%程度である。このため、例えば662keVのエネルギーを有する放射線r1が、
図4〜
図6のシールド部材3に入射した場合、シールド部材3における散乱自体は数%程度しか生じないが、散乱後の放射線r2のエネルギーは、662keVよりも低いエネルギー領域に一定の割合で分布する。一方、
図2に示されるように、放射線検出体2の662keVのエネルギーの吸収率は0.7%程度であるが、200keVのエネルギーの吸収率は3%程度、100keVのエネルギーの吸収率は15%程度である。このように、放射線検出体2では、散乱後の低エネルギーの放射線r2の吸収率は、散乱前の放射線r1の吸収率よりも高いので、シールド部材3を設けない場合よりも全体として数%〜十数%程度吸収率(検出感度)が向上する。
【0038】
以上のように、シールド部材3によって散乱された放射線r2が、放射線検出体2によって検出される。その結果、放射線検出体2における放射線の吸収率が向上し、放射線の検出感度が向上する。
【0039】
次に、上述のようにして検出された放射線の線量を算出する方法について説明する。この線量の算出は、マイコン5によって行われる。
図9は、マイコン5の機能ブロック図である。
図9に示されるように、マイコン5は、入力部51と、スペクトル取得部52と、変換係数算出部53と、変換係数格納部54と、線量算出部55と、出力部56と、を備えている。
【0040】
入力部51は、操作ボタン6を介してユーザの操作を受け付ける。そして、入力部51は、受け付けた操作の内容を判定する。例えば、入力部51は、受け付けた操作が初期化モードを選択する操作か否か判定をする。具体例を挙げて説明すると、入力部51は、例えば、表示装置7に動作モード選択用の画面が表示されている場合に、初期化モードを選択する操作がされたか否かを判定する。そして、入力部51は、受け付けた操作に関する操作情報をスペクトル取得部52および線量算出部55に送信する。例えば、入力部51は、選択された動作モードに関する情報をスペクトル取得部52および線量算出部55に送信する。
【0041】
スペクトル取得部52は、放射線検出体2によって検出された放射線のチャネルスペクトルを取得する。スペクトル取得部52は、例えば、入力部51から動作モードに関する情報を受信したことに応じて、増幅器4から出力される検出信号を受信する。そして、スペクトル取得部52は、受信した検出信号の電圧値を測定し、その電圧値(チャネル)を横軸としてヒストグラム形式で入射数をカウントすることによって、チャネルスペクトルを取得する。
【0042】
変換係数算出部53は、スペクトル取得部52によって取得されたチャネルスペクトルに基づいて、エネルギーを線量に変換するための変換係数を算出する。以下にチャネルスペクトルから変換係数を算出する方法を具体的に説明する。まず、変換係数算出部53は、スペクトル取得部52によって取得されたチャネルスペクトルを解析し、チャネルスペクトルのピークをサーチする。そして、変換係数算出部53は、ピーク重心チャネルを算出する。ここで、ピーク重心チャネルCh
pは、ピークの中心点に対応するチャネルであって、重み付き面積の総和S
allと総カウント値C
allとを用いて以下の式(1)によって算出される。
【数1】
【0043】
なお、以下の式(2)に示されるように、重み付き面積の総和S
allは、ピークの開始チャネルCh
aからピークの終了チャネルCh
bにおいて、各チャネルCh
iのカウント値C
iとチャネルCh
iとの積の総和によって算出される。ピークは一般的にガウス分布に従う。このため、ピークの開始チャネルCh
aおよび終了チャネルCh
bは、ガウス分布全体が入る点として、目測手動または自動取得アルゴリズムにより決定される。なお、aおよびbは、1以上の整数であって、bはaよりも大きい。
【数2】
【0044】
また、以下の式(3)に示されるように、総カウント値C
allは、ピークの開始チャネルCh
aからピークの終了チャネルCh
bにおいて、各チャネルCh
iのカウント値C
iの総和によって算出される。
【数3】
【0045】
次に、変換係数算出部53は、チャネルChをエネルギーEに変換するための第1校正係数Aおよび第2校正係数Bを算出する。ここで、第1ピーク重心チャネルCh
p1と、予め定められた第1エネルギーE
1との関係は、第1校正係数Aと第2校正係数Bとを用いて以下の式(4)により表される。同様に、第2ピーク重心チャネルCh
p2と、予め定められた第2エネルギーE
2との関係は、第1校正係数Aと第2校正係数Bとを用いて以下の式(5)により表される。
【数4】
【数5】
【0046】
この第1エネルギーE
1および第2エネルギーE
2は、エネルギースペクトルにおけるピークのエネルギーが予め判明している放射性物質のピークエネルギーである。また、第1ピーク重心チャネルCh
p1は、第1エネルギーE
1のピークエネルギーを有する放射性物質のチャネルスペクトルを測定し、測定したチャネルスペクトルから算出したピーク重心チャネルである。同様に、第2ピーク重心チャネルCh
p2は、第2エネルギーE
2のピークエネルギーを有する放射性物質のチャネルスペクトルを測定し、測定したチャネルスペクトルから算出したピーク重心チャネルである。
【0047】
そして、第1校正係数Aおよび第2校正係数Bは、上述の連立方程式(4)、(5)を解くことによって得られる以下の式(6)および式(7)により算出される。変換係数算出部53は、第1校正係数Aおよび第2校正係数Bを変換係数格納部54に格納する。
【数6】
【数7】
【0048】
次に、変換係数算出部53は、チャネルChをエネルギーEに変換する。ここで、エネルギーE
jは、チャネルCh
jと第1校正係数Aおよび第2校正係数Bとを用いて、以下の式(8)により算出される。
【数8】
【0049】
そして、変換係数算出部53は、各チャネルCh
jをエネルギーE
jに変換することによって、スペクトル取得部52によって取得されたチャネルスペクトルを、エネルギーE対カウント値Cのヒストグラム(エネルギースペクトル)に変換する。さらに、変換係数算出部53は、エネルギースペクトルにおいて一定のエネルギー範囲(例えば100keV)ごとにカウント値を合算し、エネルギースペクトルを十数点のスペクトルに変換する。
【0050】
そして、変換係数算出部53は、各点のエネルギーに対応するサーベイメータ係数を、合算したカウント値に積算することにより、エネルギー範囲ごとに変換係数を算出する。ここで、サーベイメータ係数とは、放射線のエネルギーに対応するサーベイメータの応答関数であって、サーベイメータ販売者によって公開されている。このサーベイメータ係数は、エネルギーごとに予め定められている。また、変換係数算出部53は、算出した変換係数を変換係数格納部54に格納する。
【0051】
変換係数格納部54は、変換係数算出部53によって算出された第1校正係数Aおよび第2校正係数Bと、変換係数算出部53によって算出されたエネルギーごとの変換係数と、を格納する。
【0052】
線量算出部55は、スペクトル取得部52によって取得されたチャネルスペクトルと、変換係数格納部54に格納された第1校正係数Aおよび第2校正係数Bと変換係数とに基づいて、線量を算出する。具体的に説明すると、線量算出部55は、上述の式(8)に示されるように、第1校正係数Aおよび第2校正係数Bとを用いて、チャネルスペクトルをエネルギースペクトルに変換する。さらに、線量算出部55は、変換係数と同じエネルギー範囲ごとにエネルギースペクトルのカウント値を合算し、エネルギースペクトルを十数点のスペクトルに変換する。
【0053】
そして、線量算出部55は、各エネルギー範囲のカウント値と、そのエネルギー範囲に対応する変換係数を積算し、エネルギー範囲ごとの線量を算出する。そして、線量算出部55は、エネルギー範囲ごとの線量を合算することにより、全体の線量を算出する。出力部56は、線量算出部55によって算出された線量を表示するための表示情報を表示装置7に出力する。
【0054】
次に、上述した構成を有する放射線線量計1の動作について説明する。
図10は、放射線線量計1の動作を示すフローチャートである。放射線線量計1の動作は、電源スイッチ9がユーザによって操作され、電源8がオフ状態からオン状態になることによって開始される。
【0055】
まず、入力部51は、受け付けた操作が初期化モードを選択する操作であるか否かを判定する(ステップS01)。ステップS01において、初期化モードを選択する操作であると判定された場合(ステップS01;YES)、初期化処理が行われる。この初期化処理において、スペクトル取得部52は、増幅器4を介して放射線検出体2から出力された検出信号を受信し、放射線検出体2によって検出された放射線のチャネルスペクトルを取得する(ステップS02)。次に、変換係数算出部53は、スペクトル取得部52によって取得されたチャネルスペクトルに基づいて変換係数を算出し、算出した変換係数を変換係数格納部54に格納する(ステップS03)。ステップS03の詳細は後述する。ステップS03の処理が終了すると、放射線線量計1の動作(初期化処理)を終了する。
【0056】
一方、ステップS01において、初期化モードを選択する操作でないと判定された場合(ステップS01;NO)、すなわち、他の動作モードを選択する操作と判定された場合、選択されたモードに応じた放射線線量の算出処理が行われる。この放射線線量の算出処理において、スペクトル取得部52は、増幅器4を介して放射線検出体2から出力された検出信号を受信し、放射線検出体2によって検出された放射線のチャネルスペクトルを取得する(ステップS05)。
【0057】
次に、線量算出部55は、上述の式(8)を用いて、変換係数格納部54に格納されている第1校正係数Aおよび第2校正係数Bに基づき、スペクトル取得部52によって取得されたチャネルスペクトルをエネルギースペクトルに変換する(スペクトル取得ステップ)。そして、線量算出部55は、変換したエネルギースペクトルと、変換係数格納部54に格納されている変換係数とに基づいて、放射線の線量を算出する(ステップS06,線量算出ステップ)。すなわち、線量算出部55は、エネルギースペクトルの各エネルギーのカウント値とそのエネルギーに対応する変換係数とを積算し、エネルギーごとの線量を算出する。そして、線量算出部55は、エネルギーごとの線量を合算することにより、全体の線量を算出する。
【0058】
そして、出力部56は、線量算出部55によって算出された線量を表示するための表示情報を表示装置7に出力し、表示装置7に線量を表示させる(ステップS07)。続いて、入力部51は、放射線線量の算出処理を終了する操作が行われたか否かを判定する(ステップS08)。放射線線量の算出処理を終了する操作は、例えば、電源スイッチ9によって電源8をオフ状態にする操作などである。ステップS08において、放射線線量の算出処理を終了する操作が行われていないと判定された場合(ステップS08;NO)、ステップS05に戻って、ステップS05〜ステップS08の処理を繰り返す。
【0059】
一方、ステップS08において、放射線線量の算出処理を終了する操作が行われたと判定された場合(ステップS08;YES)、放射線線量計1の動作(放射線線量の算出処理)を終了する。なお、説明の便宜上、ステップS07の後にステップS08を設けているが、電源スイッチ9はユーザによって任意のタイミングで操作され得ることから、ステップS08は、
図10のフローチャートとは無関係に予め定められた期間ごとに行われるようにしてもよい。
【0060】
続いて、ステップS03の校正処理の詳細を説明する。
図11は、校正処理の詳細を示すフローチャートである。
図11に示されるように、まず、変換係数算出部53は、スペクトル取得部52によって取得されたチャネルスペクトルを解析し、チャネルスペクトルのピークをサーチする(ステップS31)。そして、変換係数算出部53は、上述の式(1)〜式(3)を用いてピーク重心チャネルを算出する(ステップS32)。
【0061】
次に、変換係数算出部53は、上述の式(4)〜式(7)を用いて、算出したピーク重心チャネルに基づいて、チャネルをエネルギーに変換するための第1校正係数Aおよび第2校正係数Bを算出する。そして、変換係数算出部53は、上述の式(8)を用いて、チャネルスペクトルをエネルギースペクトルに変換する(ステップS33)。
【0062】
続いて、変換係数算出部53は、エネルギースペクトルにおいて一定のエネルギー範囲(例えば100keV)ごとにカウント値を合算し、エネルギースペクトルを十数点のスペクトルに変換する。そして、変換係数算出部53は、各点のエネルギーに対応するサーベイメータ係数を、合算したカウント値に積算することにより、エネルギー範囲ごとの変換係数を算出する(ステップS34)。そして、変換係数算出部53は、算出した変換係数を変換係数格納部54に格納して(ステップS35)、校正処理を終了する。
【0063】
以上説明した放射線線量計1および放射線線量計1を用いた放射線線量の算出方法によれば、放射線検出体2をシールド部材3によって覆うことにより、ノイズを低減できるとともに、入射する放射線r1を散乱することができる。この散乱後の放射線r2のエネルギーは、散乱前の放射線r1のエネルギーよりも低いエネルギー領域に一定の割合で分布する。また、放射線検出体2は、散乱前の放射線r1のエネルギーより低いエネルギー領域における放射線の吸収率が、散乱前の放射線r1のエネルギーにおける放射線の吸収率よりも高い。このため、放射線の検出感度を向上することができる。
【0064】
また、シールド部材3によって散乱された放射線のエネルギーに応じて定められる変換係数を用いて、検出された放射線のエネルギーから線量を算出することにより、シールド部材3がない場合の線量、すなわち人体へ直接吸収される正味の線量を算出することが可能となる。その結果、構造を複雑化することなく線量の測定精度を向上することが可能となる。
【0065】
なお、本発明に係る放射線線量計および放射線線量の算出方法は本実施形態に記載したものに限定されない。例えば、放射線検出体2は、検出対象となる放射線の散乱前のエネルギーより低いエネルギー領域における吸収率が、放射線の散乱前のエネルギーにおける吸収率よりも高ければよく、CdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)、TlBr(臭化タリウム)、Ge(ゲルマニウム)などから構成されてもよい。
【0066】
また、操作ボタン6に代えて他の入力装置とすることもできる。また、入力部51は、所定の操作ボタン6が押された状態で、電源スイッチ9が押されて電源8がオン状態にされたことを検出することにより、初期化モードが選択されたと判定してもよい。
【0067】
また、変換係数算出部53は、100keVごとに変換係数を算出しているが、任意のエネルギー範囲ごとに変換係数を算出してもよい。エネルギー範囲をさらに小さくすることにより、線量算出部55は、さらに正確な線量を算出することが可能となる。
【0068】
また、変換係数算出部53は、第1校正係数Aおよび第2校正係数Bと変換係数とに基づいてチャネルごとのカウント値を線量に変換するための第2変換係数を算出してもよい。この場合、線量算出部55は、スペクトル取得部52によって取得されたチャネルスペクトルの各チャネルごとのカウント値に第2変換係数を積算することにより線量を算出してもよい。