(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アミン混合液において、アミンの総量に対する炭素数が5以下であるアルキルアミンのモル比が10〜80%であることを特徴とする請求項1に記載のアルキルアミンを含む被膜で被覆された被覆金属微粒子の製造方法。
前記金属化合物は、銀原子を含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアルキルアミンを含む被膜で被覆された被覆金属微粒子の製造方法。
前記金属化合物は、シュウ酸銀を含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のアルキルアミンを含む被膜で被覆された被覆金属微粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る被覆金属微粒子の製造方法、及び本発明に係る方法で製造される被覆銀微粒子について説明する。引用文献2に記載されるように、銀を含むシュウ酸銀等の金属化合物とアルキルアミンから生成される錯化合物をアルキルアミンの存在下で加熱して、当該錯化合物に含まれるシュウ酸イオン等の金属化合物を分解して生成する原子状の銀を凝集させることにより、アルキルアミンの保護膜に保護された銀微粒子を製造することができる。
【0022】
このように、金属化合物の錯化合物をアミンの存在下で熱分解することで、アミンにより被覆された金属微粒子を製造する金属アミン錯体分解法においては、単一種の分子である金属アミン錯体の分解反応により原子状金属が生成するため、反応系内に均一に原子状金属を生成することが可能であり、複数の成分間の反応により金属原子を生成する場合に比較して、反応を構成する成分の組成揺らぎに起因する反応の不均一が抑制され、特に工業的規模で多量の金属微粉末を製造する際に有利である。
【0023】
また、金属アミン錯体分解法においては、生成する金属原子にアルキルアミン分子が配位結合しており、当該金属原子に配位したアルキルアミン分子の働きにより凝集を生じる際の金属原子の運動がコントロールされるものと推察される。この結果として、金属アミン錯体分解法によれば非常に微細で、粒度分布が狭い金属微粒子を製造することが可能となる。更に、製造される金属微粒子の表面にも多数のアルキルアミン分子が比較的弱い力の配位結合を生じており、これらが金属微粒子の表面に緻密な保護被膜を形成するため、保存安定性に優れる表面の清浄な被覆金属微粒子を製造することが可能となる。また、当該被膜を形成するアルキルアミン分子は加熱等により容易に脱離可能であるため、非常に低温で焼結可能な金属微粒子を製造することが可能となる。
【0024】
上記のように、金属アミン錯体分解法は、非常に微細で低温焼結が可能な被覆金属微粒子を製造する方法として優位性を有する。その一方で、金属アミン錯体分解法により金属微粒子を製造する際に、原料である金属化合物とアミン等が錯化合物を生成する反応は、金属化合物中の金属原子にアミン等が配位結合を形成する際の自由エネルギー変化を駆動力として進展するものと推察されるところ、当該配位結合の形成に係る自由エネルギー変化が必ずしも大きくないため、錯化合物の形成が必ずしも円滑に進展しないという問題を有している。また、金属原子の供給源として固体状態の金属化合物が用いられる場合が多く、アミンとの錯化合物等の生成反応が生じる場所は両者の固液界面に限定されるために、駆動力の弱い錯化合物等の生成反応を完了するためには一般に長時間の混合処理が必要となっていた。更に、金属化合物やアミンの選択によっては、両者の錯化合物等が良好に生成できないという問題を有していた。
【0025】
この結果、上記製造方法によっては被覆金属微粒子を効率良く製造することが困難であると共に、製造のために使用される金属化合物やアミンが限定されることが問題となっていた。更に、使用されるアミンの種類が限定されることに主に起因して、製造される被覆銀微粒子の特性が制限されるという問題が生じていた。
【0026】
この問題を解決するための一つの手段として、本発明者が先に開示した特許文献3においては、沸点が100℃〜250℃の中短鎖アルキルアミンに対して、より極性の強い中短鎖アルキルジアミンを介在させて用いることによって、無溶媒、低温、短時間で錯化合物を合成し、この錯化合物を用いることで低温焼結可能な被覆銀微粒子を製造できることを示した。この方法で製造される被覆銀微粒子は、銀の焼結温度としては極めて低温である室温付近で焼結可能であると共に、有機溶媒中に高濃度で分散可能であるため、例えば、適宜の分散媒に分散させた状態でインクとして使用することで、耐熱性の低いプラスチック基板等にも良好な導電膜を形成できるなど、各種の用途において非常に有用に用いることができる。
【0027】
本発明者は、上記特許文献3に開示した技術を更に向上させるために種々の検討をしたところ、固体状の金属化合物とアミンを混合して錯化合物等の複合化合物が生成する際に、被覆銀微粒子の被膜を主に構成する長鎖・中鎖アルキルアミンに対して、炭素数が5以下である短鎖のアルキルアミンを混合して用いることにより、錯化合物等の複合化合物の生成が容易になり、短時間の混合で複合化合物を製造可能とすることができることを見いだした。また、当該短鎖のアルキルアミンを混合して用いることにより、引用文献2において必須成分として使用されるオレイルアミン以外に各種の長鎖・中鎖アルキルアミンを主成分として用いた場合にも良好な被覆銀微粒子が製造可能となり、各種の用途に応じた特性を有する被覆銀微粒子の製造が可能となった。
【0028】
長鎖・中鎖アルキルアミンに対して所定量の短鎖のアルキルアミンを混合して用いることで、含銀化合物との複合化合物の生成が容易になる機構は明らかではないが、短鎖のアルキルアミンは長鎖・中鎖アルキルアミンよりも極性が強い傾向があることから、金属化合物中の金属原子に対して配位結合を生じる際の結合エネルギーが強く、複合化合物の生成のための駆動力が向上することが考えられる。また、短鎖のアルキルアミンは低分子であるために固体状態の金属化合物中への浸透性が高く、金属化合物の凝集構造を分断して、長鎖・中鎖アルキルアミンと金属化合物の複合化合物の生成の実効的な機会を増加させることで、長鎖・中鎖アルキルアミンと金属化合物との複合化合物の見掛け上の生成速度を向上することが考えられる。
【0029】
以下、本発明により被覆金属微粒子を製造する方法を具体的に説明する。特に製造される金属微粒子として銀微粒子を製造する方法について詳しく説明する。金属銀は、高い電気伝導性を持つ点で電気回路を形成する点で有利であると共に、大気中において金属銀が安定であるために微粉末とした場合にも酸化を生じにくく、また自己拡散係数が高いためにより低い温度での焼結が期待できる点でインクジェット印刷などによる金属配線の形成に特に適している。また、本発明が銅微粒子やニッケル微粒子のような銀以外の金属微粒子の製造に適用可能であり、これらの微粒子を用いた配線形成等に有用であることはいうまでもない。
【0030】
<金属アミン錯体分解法による被覆金属微粒子の製造>
金属アミン錯体分解法による被覆金属微粒子の製造は、金属化合物とアミンを混合することにより両者間の錯化合物を生成させる工程と、当該錯化合物を加熱して錯化合物に含まれる金属化合物から原子状の金属を遊離して凝集させることで金属微粒子を形成する工程から主に構成される。
【0031】
金属化合物とアミンの錯化合物の生成は、一般には粉末状の金属化合物に対して所定量のアミン混合物を混合することで行う。生成する錯化合物が一般にその構成成分に応じた色を呈することを利用して、反応による混合物の色の変化の終了を適宜の分光法等により検出することにより、錯化合物の生成反応の終点を検知することができる。また、以下の実施例で主に使用するシュウ酸銀が形成する錯化合物は一般に無色(白色)であるが、この場合でも混合液の粘性が変化するなどの形態変化に基づいて錯化合物の生成状態を検知することができる。金属化合物とアミン混合物の混合は、金属化合物の分解反応の発生やアミン混合物の構成成分の蒸発を抑制するため、十分に低い温度で行うことが好ましい。典型的には、室温付近での撹拌により錯化合物の生成が可能であるが、銀化合物に対するアミンの配位反応は発熱を伴うため、金属化合物の分解反応等を抑制するために必要に応じて室温以下に冷却して撹拌を行うことも好ましい。
【0032】
金属化合物とアミンの錯化合物の生成において、アミン混合物に含まれるアミンの総量は金属化合物に含まれる金属原子と化学量論量以上とすることが望ましい。アミンの総量が金属原子との化学量論量以下の量であると、錯化合物とならない金属化合物が生じるため、その後の金属微粒子の生成の際にその肥大化が生じたり、熱分解せずに残留する金属化合物が発生するために好ましくない。典型的には、アミン混合物に含まれるアミンの総量が金属原子の2倍モル量以上の場合に均一な粒径の金属微粒子が安定して得られるようになるため、この程度のアミン量により確実に全ての金属原子がアミンにより配位可能と考えられる。また、アミンが金属原子の5倍モル量以上となると、反応系における金属原子の密度が低下して最終的な金属の回収歩留まりが低下すると共に環境負荷が増加するため、アミンの使用量は金属原子の5倍モル量以下とすることが好ましい。なお、金属原子とアミンの総量のモル比を化学量論量程度とする場合には、全てのアミンが金属原子に配位して錯化合物を形成して反応系を保持する分散媒が存在しないことになるため、必要に応じてアミン混合物にメタノール等の反応溶媒を形成する物質を混合することも好ましい。
【0033】
金属アミン錯体分解法において、アミンは、金属化合物の分解により生じる原子状の金属が凝集して微粒子を形成する際の様式をコントロールすると共に、形成された金属微粒子の表面に被膜を形成することで微粒子間の再凝集を防止し、微粒子表面に任意の特性を付与する役割を果たしている。
【0034】
金属アミン錯体分解法により製造された被覆金属微粒子を用いて、当該被覆金属微粒子が高い割合で有機溶媒中に分散したインク状物や、バインダーと混合してペースト状物を製造し、これらを用いて低温で被覆金属微粒子の焼結をさせようとする場合、使用するアミンとしては、アルキル基の一部にアミノ基が結合したアルキルアミン、アルキルジアミン等が望ましく使用される。本明細書において、アルキルアミンとはアルキル基に対して一つのアミノ基が結合したものを意味し、アルキルジアミンとはアルキル基に対して二つのアミノ基が結合したものを意味するものとする。また、単にアミンと記載する場合は、上記アルキルアミンとアルキルジアミン、及び、その他の構造のアミンを含むものとする。
【0035】
アルキルアミン等を用いた金属アミン錯体分解法により製造された被覆金属微粒子では、被覆を形成するアルキルアミン中のアルキル基の影響により有機溶剤等の有機物に対して高い親和性を示す。また、100℃程度で比較的高い蒸気圧を有するアルキルアミンを主に使用することで、被覆金属微粒子の加熱等により容易にアルキルアミンが蒸発して被覆が外れ、金属微粒子同士の焼結を生じさせることが可能となる。
【0036】
本発明で使用するアミンは、金属化合物中の銀原子、又は、金属微粒子の表面に対してアミノ基を介した配位結合を形成可能とするために、アミンに含まれるアミノ基が一級アミノ基であるRNH
2(Rは炭化水素鎖)、又は二級アミノ基であるR
1R
2NH(R
1、R
2は炭化水素鎖で同じであっても異なっていてもよい)であることが望ましい。一級、又は、二級のアミノ基を含むことにより、アミノ基中の窒素原子が有する非共有電子対により金属原子に配位結合を生じることで、アミンと金属化合物の錯化合物が形成可能であり、また、製造される金属微粒子に対してアミンの被膜を形成することができる。これに対して、三級アミノ基を含む場合には一般にアミノ基中の窒素原子の周囲の自由空間が狭いために、金属原子に対する配位結合を生じにくい点で望ましくない。
【0037】
アルキルアミン等においては、一般にアルキル基の分子量が大きくなり長鎖になるに従い蒸気圧が低下して沸点が上昇する傾向が見られる。一方、アルキル基の分子量が小さく短鎖であるものは蒸気圧が高いと共に、極性が強くなる傾向が見られる。また、一分子内に二つのアミノ基を有するアルキルジアミンでは、一分子内に一つのアミノ基を有するアルキルアミンより極性が強くなる傾向が見られる。本発明においてはアルキルアミン等が有するこのような傾向に着目し、特にアルキルアミン等の分子量やアミノ基の数に着目してこれらを分類し、目的に応じて複数種のアミンを混合してアミン混合物として使用することを特徴とする。本明細書においてはアルキルアミン等のアルキル基に含まれる炭素数が2〜5のものを短鎖、炭素数が6〜12のものを中鎖、炭素数が13以上のものを長鎖と定義してそれぞれ区別する。
【0038】
本発明においては、主に製造される金属微粒子に良好な被覆膜を形成する観点から、使用されるアミン混合物として、長鎖及び/又は中鎖のアルキル基に対して一つのアミノ基が結合してなる長鎖・中鎖のアルキルアミンを含有成分とするものが好ましく用いられる。長鎖・中鎖のアルキルアミンは一般に蒸気圧が低く蒸発を生じ難いと共に、有機溶媒と親和性が高いために、これらを含有成分とするアミン混合物を使用することで、製造される被覆金属微粒子の被膜にも所定の割合で長鎖・中鎖のアルキルアミンが含まれることとなり、保存性が向上すると共に、無極性の有機溶媒中への分散性を向上することができる。
【0039】
このような長鎖・中鎖のアルキルアミンとしては、例えば
、ヘキシルアミン(131℃)、シクロヘキシルアミン(134℃)、ヘプチルアミン(155℃)、3−ブトキシプロピルアミン(170℃)、オクチルアミン(176℃)、ノニルアミン(201℃)、デシルアミン(217℃)、ドデシルアミン(248℃)、ヘキサデシルアミン(330℃)、オレイルアミン(349℃)、オクタデシルアミン(232℃(32mmHgで)等のアルキルアミンは入手が容易な点で実用的であるが、これに限定されることはなく、炭素数が6以上の長鎖・中鎖のアルキルアミンであれば、適宜、目的に応じて使用することができる。
【0040】
一般に中鎖アルキルアミンの範囲で比較的分子量の小さなアルキルアミンを用いた場合には、保護皮膜の蒸気圧が高く皮膜が除去され易いため、より低温で焼結が可能となる傾向が見られる一方、保存性が低下する傾向が見られる。また、有機溶媒との親和性が低下して、所定の有機溶媒中へ分散可能な割合が低下する傾向が見られる。一方、比較的分子量が大きなアルキルアミンを用いることで、強固な保護皮膜を有する被覆金属微粒子が得られる傾向が見られる。また、無極性溶媒への分散性が高くなるため、高い比率で有機溶媒に分散させてインクとして用いる際に有利となる。
【0041】
また、前述のとおり、本発明においては長鎖・中鎖のアルキルアミンに対して、所定割合で短鎖のアルキルアミンをアミン混合物中に含むことを特徴としている。一般に、アルキルアミンのアルキル鎖が長くなるに従い、金属化合物との間での錯化合物を形成する速度が低下する傾向が見られ、炭素数が18程度の長鎖のアルキルアミンを用いた場合には長期間の混合によっても錯化合物の形成が完了しないことも観察される。これに対し、炭素数が5以下の短鎖のアルキルアミンが長鎖・中鎖のアルキルアミンに対して所定の割合で混合されることにより、錯化合物の形成のための時間が短縮され、長鎖のアルキルアミンを用いた場合にも良好に錯化合物の形成を行うことが可能となる。
【0042】
このように、短鎖のアルキルアミンをアミン混合物に混合して用いることで、長鎖・中鎖のアルキルアミンについても、金属化合物との間での錯化合物の形成が促される理由は明らかでないが、より低温・短時間の混合によって良好な錯化合物の形成が可能になると共に、使用する長鎖・中鎖のアルキルアミンの種類に格別の制限がなくなり、製造する被覆金属微粒子に期待される特性に応じて適宜の長鎖・中鎖アルキルアミンを用いることが可能となる。
【0043】
また、短鎖のアルキルアミンの存在下で形成された錯化合物は、その後の加熱分解工程において、複合化合物に含まれる金属化合物の分解がより低温で生じる傾向が見られる。このような傾向が見られる理由は明らかではないが、短鎖のアルキルアミンの存在により、錯化合物中の金属化合物に含まれる金属原子に対してより高い割合で確実にアルキルアミンが配位結合を生じる結果、金属化合物の構造が不安定になって活性化されるためと推察される。
【0044】
更に、所定割合で短鎖のアルキルアミンを含むアミン混合物を用いて製造された被覆金属微粒子では、一般に焼結のために必要となる温度が低下する傾向が見られる。これは、短鎖のアルキルアミンを含むアミン混合物を用いた場合には、製造した被覆金属微粒子の被膜部分にも短鎖のアルキルアミンが含有され、これらが長鎖・中鎖アルキルアミンと比較して高い蒸気圧を有するために、被膜が金属微粒子から脱離しやすくなるためと推察される。
【0045】
上記のような短鎖のアルキルアミンをアミン混合物に混合することで得られる効果は、炭素数が5以下であれば十分に得ることができるが、その範囲においても炭素数が少なく分子量の小さなアルキルアミンを使用することで錯化合物の生成速度を向上することができる。一方、炭素数が少なく蒸気圧が高いアルキルアミンでは、金属化合物の分解の際の蒸発量が増加したり、製造された被覆金属微粒子の保存性が低下する傾向が見られる。このため、特に炭素数が3〜4程度のアルキルアミンが望ましく使用され、短鎖のアルキルアミンとしてこれらを主成分とすることができる。短鎖のアルキルアミンは、必要に応じて複数の種類のものを混合して使用することも可能である。
【0046】
上記短鎖のアルキルアミンとしては、
ジプロピルアミン(107℃)、ジブチルアミン(159℃)、アミルアミン(沸点104℃)、2−エトキシエチルアミン(105℃)、4−メトキシブチルアミン、ジイソプロピルアミン(84℃)
、ブチルアミン(78℃)、ジエチルアミン(55℃)、プロピルアミン(48℃)、イソプロピルアミン(34℃)、エチルアミン(17℃)、ジメチルアミン(7℃)等が工業的に入手可能であり、望ましく使用される。
【0047】
アミン混合物中の短鎖アルキルアミンの含有量は、使用するアルキルアミンの種類によっても変化するが、概ね全アルキルアミンに対して10〜80モル%とすることで、アルキルアミンと金属化合物との複合化合物の生成を容易にすることができる。特に25モル%以上とすることで、複合化合物の生成が十分に円滑になると共に、種々の長鎖・中鎖アルキルアミンを使用した複合化合物の生成が可能となる。一方、アミン混合物中の短鎖アルキルアミンの含有量が65モル%以上になると、製造された被覆金属微粒子が不安定となり、長期保存が難しくなる点で望ましくない。更に、短鎖アルキルアミンの含有量が80モル%以上になると、錯化合物の熱分解により銀微粒子が生成する際に、銀原子の凝集の制御が良好に行われず、粗大な粒子が生成する問題を生じる。概ね、アミン混合物中の短鎖アルキルアミンの含有量を30〜60モル%とすることで、製造された被覆金属微粒子を適宜の有機溶媒中で数ヶ月間、安定に保持することが可能となる。
【0048】
また、アルキル基に対して2個のアミノ基を有するアルキルジアミンについて、1個のアミノ基を有するアルキルアミンと比較して高い極性を示す点で、アルキルアミンと含銀化合物との複合化合物の生成を促す効果が観察される。しかし、主にアルキルジアミンによって複合化合物の生成を補助した場合には、製造された被覆金属微粒子を焼結する際に、残留電気抵抗が低下しにくい傾向が見られる。このため、上記短鎖アルキルジアミンをアミン混合物に含有して使用する場合には、アミン混合物中のアルキルジアミンの割合を10モル%以下にすることが望ましい。
【0049】
その他、水や低分子のアルコール類も強い極性を有し、複合化合物の生成を促す効果が観察されるが、アミン混合物の蒸気圧を上昇させる他、製造される被覆金属微粒子の特性や収量に影響を与えるため、過剰な量をアミン混合物に混合することは好ましくない。
【0050】
また、本発明においては、生成する被覆銀超微粒子の分散媒への分散性を向上させるための分散剤として、例えばオレイン酸などの脂肪酸をアミン混合物に混合して用いてもよい。特に、短鎖のアルキルアミンを大きな割合で含有するなどにより、アルキルアミンの平均の分子量が小さいアミン混合物を用いる場合に適宜の脂肪酸を加えることは効果的である。ただし、過剰な量の脂肪酸を使用した場合には、被覆銀超微粒子からの保護被膜の脱離温度が上昇する傾向が見られるため、その添加量は反応系に含まれる銀原子に対して5モル%以下とすることが望ましい。
【0051】
以上、説明したように、本発明に係る被覆金属微粒子の製造方法においては、長鎖・中鎖のアルキルアミンを含有成分として、所定量の短鎖のアルキルアミンや、その他の成分を混合したアミン混合物を所定の金属化合物に混合することで、アミンと金属化合物の錯化合物を生成させる。これにより、含有成分として使用する長鎖・中鎖のアルキルアミンの種類に格別の制限を生じることなく、30分から60分程度の短時間で金属化合物とアミンの錯化合物を生成可能となり、工業的に被覆金属微粒子を製造する際の生産性を高めることが可能となった。また、強固な被膜を有する安定した被覆金属微粒子や、有機溶媒との親和性が高く高濃度の分散液が形成可能な被覆金属微粒子を製造する場合には、適宜の長鎖のアルキルアミンを多く含むアミン混合物を用いることが可能となった。一方、100℃以下の低温においても脱離可能な被膜を有する被覆金属微粒子を目的とする場合には、比較的分子量の小さな中鎖・短鎖のアルキルアミンを主成分として含むアミン混合物を用いることが可能となった。
【0052】
また、炭素数が同様のアルキルアミンであっても、そのアルキル基部分の構造によって蒸気圧や有機溶媒への親和性等に違いを生じるため、複数の種類の長鎖・中鎖・短鎖のアルキルアミンを混合して使用することが有効となるが、本発明に係る製造方法においてはアミン混合物の成分の選択幅が広いため、目的とする被覆金属微粒子の特性に応じてアミン混合物の成分を選択することができる。特に、炭素数が12を超える長鎖のアルキルアミンでは室温では流動性を示さないものがあり、このようなアルキルアミンを用いる場合には、比較的低分子のアルキルアミンや有機溶媒と混合して流動性を付与する必要があるが、本発明により短鎖のアルキルアミンをアミン混合物に混合することで、このような長鎖のアルキルアミンが使用可能となる。
【0053】
アミン混合物に含まれる長鎖・中鎖のアルキルアミンや、短鎖のアルキルアミンの種類や含有量は、製造される被覆金属粒子の用途や、期待される特性に応じて実験的に決定されることが望ましい。アミン混合物は、十分に混合されて均一な液状物とされた後に、金属化合物と混合されることが好ましい。
【0054】
<被覆金属微粒子の原料としての金属化合物>
本発明により被覆金属微粒子を製造する場合、金属原子の供給源として金属とその他の原子(又は、原子群)が結合して構成される金属化合物が使用される。本発明において使用される金属化合物としては、上記アミンとの間で錯化合物等の複合化合物を生成可能な化合物であり、300℃程度以下の温度で原子状金属を遊離して生成するものであれば被覆金属微粒子の金属源として使用することができる。
【0055】
アミンとの間で錯化合物等を生成可能な金属化合物としては、金属化合物内の金属原子の周囲にアミンが配位等するための空間が存在すると共に、アミンと混合した際に分解等の反応により金属原子の遊離などを生じないことが挙げられる。また、本発明においては、当該金属化合物から金属原子を還元分離するために必要なエネルギーが小さい化合物を適宜選択して用いることが、被覆金属微粒子を製造する際の温度を低下し、製造のための時間を短縮できる点で望ましい。また、製造する被覆金属微粒子に含まれる不純物を軽減するために、目的とする以外の金属元素を含有しない金属化合物を用いることが望ましい。
【0056】
このような金属化合物は特に限定されるものではないが、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸などのカルボン酸と金属が化合したカルボン酸の金属塩の他、塩化物、硝酸塩、炭酸塩等を用いることが有利である。
【0057】
特に、被覆銀微粒子を製造する場合には、カルボン酸銀、塩化銀、硝酸銀、炭酸銀等が使用できるが、分解により容易に金属銀を生成し、且つ、銀以外の不純物を生じにくい観点からシュウ酸銀が好ましく用いられる。シュウ酸銀は、銀含有率が高いと共に、加熱によりシュウ酸イオンが二酸化炭素として分解除去されるために、還元剤を必要とせず熱分解により金属銀がそのまま得られ、還元剤由来の不純物等が残留しにくい点で有利である。
【0058】
なお、本発明に係る被覆金属微粒子の製造方法は、被覆銀微粒子の製造に限定されず、金属アミン錯体分解法で製造される他の金属微粒子の製造に適用できることはいうまでもない。
【0059】
上記説明したアミン混合物と金属化合物とを、金属化合物の分解反応等の副次的な反応が生じない温度で混合することで、金属化合物とアミンの錯化合物を生成させる。一般に錯化合物が生じることにより、その構成成分に応じた色を呈したり、粘度が上昇したりするため、このような錯化合物の生成反応による混合物の変化が生じなくなるまで、十分に混合を行うことが好ましい。
【0060】
<錯化合物の加熱による金属微粒子の形成>
上記により生成した金属化合物とアミンの錯化合物を加熱して金属化合物中の金属原子を遊離させ、これらが凝集することにより金属微粒子を形成する。このような金属アミン錯体分解法による被覆金属微粒子の製造過程においては、予め生成した単一成分(錯化合物)の熱分解反応により原子状金属が供給されるため、複数成分間の化学反応による場合に比べて、各成分の濃度の揺らぎ等に起因した反応のムラを生じ難く、粒子径の揃った金属微粒子が安定して製造できるものと推察される。このため、金属アミン錯体分解法による金属微粒子の製造は、特に反応に関与する複数の成分を均一に混合することが困難な大規模な工業的生産過程においても有利であると考えられる。
【0061】
また、アミンが配位結合することで錯化合物化された金属化合物を、適切な条件下で加熱して分解等して原子状金属を遊離した場合には、当該遊離した原子状金属に対してアミン分子がアミノ基を介した配位結合を維持するものと推察される。このため、遊離した原子状金属が相互に凝集して凝集体を作る際に、凝集体の周囲にはアミノ基の配位結合により固定されたアルキル鎖が高密度で存在して被膜を形成することで、生成する金属微粒子が所定の大きさ以上に成長することが抑制される結果、金属アミン錯体分解法に製造された被覆金属微粒子においては、粒子径の揃った微細な金属粒子が安定して製造できるものと推察される。
【0062】
金属アミン錯体分解法においては、上記のように生成する金属微粒子の大きさを一定にする機構が存在するため、高密度に金属原子が存在する状態でも粗大粒子の生成が抑制される。この結果、溶媒による希釈によって反応系内での金属原子の密度を低く維持して微粒子を製造していた従来法に比べて、少ない溶媒による微粒子の製造ができると共に、金属微粒子として回収される金属原子の歩留まりを95%以上の非常に高い割合に維持することが可能である。
【0063】
このような被覆金属微粒子の製造は、上述のように生成した錯化合物を、アミンを含む反応媒中で加熱して行うことが望ましい。つまり、金属化合物に対して過剰のアミン等を混合して得られる錯化合物とアミン等の混合物をそのまま加熱しても良く、必要に応じて適宜のアミン等を更に混合して反応媒とすることも可能である。また、生成した錯化合物を含む混合物から遠心分離等の方法で錯化合物を分離した後、適宜のアミンを含む反応媒と再混合した状態で加熱して被覆金属微粒子を製造することで、錯化合物を形成するアミンの一部を他のアミンに置換して被覆金属微粒子を製造することも可能である。
【0064】
錯化合物を加熱する際の反応媒となるアミンの量は、生成する被覆金属微粒子が反応媒の外に露出しない程度とすることが好ましい。生成する被覆金属微粒子が反応媒の外に露出した場合には、アミンによる金属微粒子の被覆が良好に形成されないおそれを生じる。また、極度に過剰な量の反応媒とした場合には、錯化合物から遊離する金属原子の密度が低下することとなるため、金属粒子として凝集しない金属原子の割合が増加して、金属微粒子として回収される金属の歩留まりが低下したり、製造される金属微粒子の粒径にばらつきを生じたりする原因となる。
【0065】
適宜のアミンを含む反応媒内で上記金属化合物とアミンの錯化合物を加熱することで、錯化合物に含まれる金属化合物から原子状の金属を遊離させる。この際の反応はアミンの存在下で金属原子を金属化合物から遊離させるものであればよく、金属化合物を分解させて金属原子を遊離する反応の他、金属化合物における金属原子を適宜の原子で置換して金属原子を遊離する反応であってもよい。
【0066】
錯化合物から原子状の金属を遊離させる際の温度は、使用する錯化合物の種類により変化するが、一般に当該原子状金属の遊離が開始する温度の直上の温度域で行うことが好ましい。一方、過度の加熱を行った場合には、金属に対するアミンの配位結合が外れ易くなるために、生成する被覆金属微粒子の被膜が不安定となり、粗大粒子が生成しやすくなる点で好ましくない。また、反応媒を成すアミン等の蒸発が活発になる点からも錯化合物から原子状金属を遊離させる際の温度は、原子状金属の遊離が生じる範囲内でなるべく低温であることが好ましい。
【0067】
本発明により製造される被覆金属微粒子として、特に銀微粒子を製造する際においては、金属化合物としてシュウ酸銀が好ましく用いられる。シュウ酸銀は、通常は200℃程度で分解を生じて、シュウ酸イオンが二酸化炭素として除去されて金属銀が残留する。一方、本発明に係る方法により所定量の短鎖のアルキルアミンを含むアミン混合物を用いて錯化合物とすることにより、100℃程度の温度においてシュウ酸イオンの熱分解を生じて金属銀を遊離可能とすることができる。この温度は、上記と同様に、シュウ酸イオンの熱分解を生じる範囲で低い温度に設定されることが望ましいが、温度の上昇と共に熱分解の速度が向上するため、良好な金属微粒子が得られる範囲で適宜加熱温度を上昇させることができる。
【0068】
このように短鎖のアルキルアミンを含むアミン混合物を用いて錯化合物とすることで、その熱分解温度が低下する理由は明らかで無いが、短鎖アルキルアミンを含むアミンがシュウ酸銀中の銀原子に対して良好に配位結合を形成することにより、銀原子の電子状態に変化が生じてシュウ酸銀の構造が不安定化することが原因と推察される。これに対し、引用文献2に記載された長鎖のオレイルアミンを主成分とするアミン混合物による錯化合物によれば、金属銀を遊離させるために150℃程度以上に加熱することが必要となり、必ずしもアミンの配位結合の形成が良好でないことが推察される。
【0069】
錯化合物から原子状の金属を遊離させて金属微粒子を生成する際には、生成する金属微粒子や反応媒であるアミンの酸化等を防止するため、Ar雰囲気などの不活性な雰囲気下で反応を生じさせることが好ましい。一方、金属化合物としてシュウ酸の金属塩を用いる場合には、加熱によるシュウ酸イオンの分解によって発生する二酸化炭素により反応空間が保護されるため、大気中において錯化合物を加熱することによっても金属微粒子の製造が可能である。
【0070】
本発明に係る製造方法で製造される被覆金属微粒子は、平均粒径が最大で30nm程度であり、典型的には20nm以下の金属微粒子が、その表面をアミン分子を主成分とする被膜で被覆されてなるものである。そして、当該被膜を形成するアミン分子は、そのアミノ基により電荷の授受を伴わない結合(配位結合)による比較的弱い力で金属微粒子の表面に結合しているものと推察され、加熱等により被膜を形成するアミン分子の配位結合が容易に外れて金属微粒子の表面が露出することにより、低温での焼結を生じることができるものと推察される。
【0071】
本発明に係る製造方法で製造される被覆金属微粒子においては、一般にその被覆部分の重量が全体の20重量%以下になるようにされることが望ましい。被覆部分の重量割合が大きくなると、被覆金属微粒子を焼結させる際に長時間が必要になると共に、焼結後の金属皮膜内にアルキルアミン等が残留することで、その体積抵抗を低くすることが困難になるためである。また、金属微粒子の主成分が銅のような酸化されやすい金属である場合には、微粒子の酸化を防止するために被覆部分の重量割合を10重量%以上とすることが好ましい。一方、金属微粒子の主成分が銀などの酸化を受け難い金属である場合には、被覆部分は適宜の溶媒への分散を可能にできる程度であれば良く、10重量%以下とすることができる。特に、7重量%以下にすることで、室温付近での円滑な焼結を可能とすることができる。
【0072】
本発明に係る製造方法で製造される被覆金属微粒子の被覆部分は、上記のとおり、多数のアルキルアミン分子がアミノ基の配位結合により金属微粒子に接合し、そのアルキル基部分が金属微粒子表面で凝集することにより形成されているものと考えられる。このため、被覆部分の重量割合は、主に使用するアルキルアミンの分子量を調整することにより調整することができる。
【0073】
上記のように製造された被覆金属微粒子は、その特性や用途に応じて適宜の態様にして使用される。例えば、被覆金属微粒子をインクジェット等により所定形状に塗布して、低温焼結により金属皮膜とする場合には、所望の有機溶剤で反応媒としたアミンを置換することで、被覆金属微粒子を有機溶剤中に分散させたインク状の分散液とすることにより、被覆金属微粒子の被覆が除去されにくい状態で保存・使用することが望ましい。また、比較的長鎖のアルキルアミンを主成分とする皮膜を設けた被覆金属微粒子の場合には、反応媒としたアミンを除去した粉末状物として被覆金属微粒子を保存可能である。当該アミンを除去した被覆金属微粒子は、適宜の有機溶剤に分散させたり、ペースト状にして用いることが可能である。
【0074】
上記のように、本発明に係る製造方法で製造される被覆金属微粒子は、加熱等により被覆を形成するアミン分子と金属粒子間の配位結合や、アミン分子間の凝集を解くことにより被覆を除去することで、金属微粒子同士が直接接触することで表面エネルギーを駆動力として低温で焼結を生じるものと推察される。被覆金属微粒子の被覆を除去する手段は、加熱による熱エネルギーに限定されず、例えば、紫外線等による光励起や、機械的な作用による被覆の除去、化学反応による被覆の除去等によっても、容易に被覆金属微粒子の被覆を除去可能であり、金属微粒子の焼結を生じさせることが可能である。
【0075】
本発明に係る被覆金属微粒子の製造方法により、特に被覆銀微粒子を製造する場合には、従来の銀微粒子にない特徴を有する被覆銀微粒子を得ることが可能となる。金属銀は高い電気伝導性を有すると共に、大気中においても酸化を生じない性質を有するため、印刷により基板表面等に塗布された微粒子の焼結により形成される薄膜状の配線として用いた場合でも、酸化による抵抗値の増加などを生じにくく、安定した配線として機能する点で好ましい。また、銀原子は高い自己拡散係数を有するため、他の金属に比べて低い温度での焼結が期待できる点でも、樹脂基板上への配線を形成する材料として好ましい特性を有している。
【0076】
上述した被覆金属微粒子の製造工程で説明したのと同様に、被覆銀微粒子を製造する工程において、銀を含有する含銀化合物とアミンを含む錯化合物を生成する際に、含銀化合物と混合されるアミン混合物中に所定割合で短鎖のアルキルアミンを含有することにより、錯化合物の生成を容易にすることが可能であり、含有成分である長鎖・中鎖のアルキルアミンに格別の制限を生じないと共に、短時間で錯化合物の生成を行うことが可能となる。また、アミン混合物中の短鎖のアルキルアミンの作用により、当該生成した錯化合物からの銀原子の遊離に必要な温度が低下し、従来よりも低温で被覆銀微粒子を製造することが可能になる。
【0077】
これらの効果に加えて、所定割合で短鎖のアルキルアミンを含有するアミン混合物を使用することにより、製造された被覆銀微粒子の焼結温度を従来のものに比べて更に低下させることが可能であり、被覆を形成するアミンとして適切なものを選択することで、格別に加熱を必要とせずに室温においても自己焼結を生じて金属光沢を示す被覆銀微粒子を製造することが可能となった。
【0078】
このように本発明に係る被覆金属微粒子の製造方法により製造された被覆銀微粒子の焼結温度が大きく低下する理由は明らかでないが、所定割合で短鎖のアルキルアミンを含有するアミン混合物を使用して製造された被覆銀微粒子においては、その被覆中に短鎖のアルキルアミンが含有され、この蒸気圧が高いことに起因して銀微粒子からの被覆の離脱がより容易に生じることが原因であると推察される。
【0079】
この被覆銀微粒子は、ブタノール等のアルコール溶剤や、オクタン等の非極性溶剤、又はそれらの混合溶剤等の適宜の有機溶媒に高濃度で安定して分散可能であり、この分散液を基板に塗布することで、有機溶媒が蒸発した後に被覆銀微粒子の被覆の脱離が生じる。当該被覆銀微粒子によれば、室温付近の極めて低い温度で金属銀の皮膜を形成可能となるため、耐熱性の低いプラスチック基板にも容易に導電膜、導電配線を形成させることが可能となる他、布や紙などの耐環境性の低い物質にも容易に導電性を付与することが可能となる。
【0080】
以下、被覆金属微粒子として被覆銀微粒子の製造を例にして本発明について具体的に説明する。以下の説明においては、銀微粒子を構成する銀の供給源となる含銀化合物としてシュウ酸銀を用いる場合について説明する。なお、シュウ酸銀に所定の添加成分(例えば、シュウ酸銅等)を所定量混合することで、添加成分を含有する被覆銀微粒子の製造も可能である。本発明における被覆銀微粒子とは、銀を主成分として他の金属元素等を含有する金属微粒子も含むものとする。
【0081】
工業的に入手可能なシュウ酸銀は、白色の粉末状であり、本発明においてアミンとの錯化合物の生成に用いる際には、予め微細に粉砕して比表面積を大きくしてアミンとの反応性を向上しておくことが望ましい。錯化合物の生成に用いるアミン混合物は、製造する被覆銀微粒子の用途等に応じて選択される長鎖・中鎖のアルキルアミンを適宜混合したものに対し、短鎖のアルキルアミンを混合して、全体として均一な混合物とすることが望ましい。また、この際にアミン混合物の粘度が高く流動性が低い場合等には、以後の反応を阻害しない範囲内でアルコール類や水を適宜混合することで、十分に流動性を有する混合物とすることが望ましい。
【0082】
次に、上記シュウ酸銀粉末とアミン混合物を、通常はシュウ酸銀に含まれる銀原子とアミンの総量とのモル比が1:1〜5程度となるように混合して、典型的には室温付近の温度で30〜60分程度の攪拌を行うことで、シュウ酸銀とアミンとの錯化合物が生成し、粘性の高い白色流動物質へ変化する。この際に、アミン混合物に含まれる短鎖のアルキルアミンの割合が10モル%以下であると、一般に錯化合物の生成に長時間を有するようになり、使用する長鎖・中鎖のアルキルアミンの種類によっては錯化合物の生成が困難な場合を生じる。また、25モル%以上であれば使用する長鎖・中鎖のアルキルアミンの種類によらず良好に錯化合物を生成することができ、特に30モル%以上とすることで、30分程度の短時間で錯化合物を生成することができる。一方、過剰の短鎖のアルキルアミンを使用して生成した錯化合物を用いて製造した被覆銀微粒子においては、その皮膜が不安定となる傾向がみられて、安定して保存や使用が困難になるため、アミン混合物に含まれる短鎖のアルキルアミンの割合は一般に80モル%以下にすることが好ましい。
【0083】
次に、上記で得られたシュウ酸銀とアミンの錯化合物をアミンを主成分とする反応媒中で撹拌しながら加熱すると、二酸化炭素の泡を生じて青色光沢を呈する懸濁液となり、この懸濁液から過剰のアミン等を除去することで、本発明に係る被覆銀微粒子が得られる。当該被覆銀微粒子が生成する過程においては、シュウ酸銀とアミンの錯化合物が加熱されることにより、銀原子に対するアミンの配位結合が維持されたままでシュウ酸イオンが熱分解して二酸化炭素として脱離し、アミンの配位した金属銀が生成し、次に当該銀原子が凝集してアミン保護膜で被覆された被覆銀微粒子が得られると考えられる。
【0084】
シュウ酸銀とアミンの錯化合物を加熱する温度は、被覆銀微粒子の生成する範囲内においてなるべく低温であることが好ましいが、錯化合物を生成する際に用いるアミン混合物に適量の短鎖のアルキルアミンを含むことで、概ね100℃程度で加熱することでシュウ酸イオンの分解が開始して被覆銀微粒子を得ることができる。なお、一般にシュウ酸銀の分解は200℃程度で生じるのに対して、錯化合物を形成することで熱分解温度が100℃以上も低下する理由は明らかでないが、錯化合物の生成時に短鎖のアルキルアミンが存在することで、純粋なシュウ酸銀が形成する配位高分子構造が切断され、シュウ酸銀の構造が不安定になっているためと推察される。
【0085】
また、錯化合物を加熱しての被覆銀微粒子の生成はAr雰囲気などの不活性雰囲気内で銀化合物の熱分解を行うことが好ましいが、シュウ酸銀を用いる場合には、シュウ酸イオンの分解によって発生する二酸化炭素により反応空間が保護されるため、大気中においても被覆銀微粒子の製造が可能である。
【0086】
製造された被覆銀微粒子の低温における焼結性の評価は、被覆銀微粒子を気流中で加熱した際の重量減少の程度を測定することで行うことができる。これは、本発明に係る被覆銀微粒子においては、銀微粒子に配位結合により結合して被覆を形成するアミン分子が加熱等により脱離した際に、清浄な銀微粒子の表面が露出して相互に接触することで焼結が生じるため、より低温で脱離する被覆を有する被覆銀微粒子において低温焼結を生じるためである。
【0087】
以下の実施例に示すように、短鎖のアルキルアミンを含むアミン混合物を使用して製造された被覆銀微粒子を用いた場合、被覆銀微粒子を懸濁または分散する有機溶媒等が除去されて被覆銀微粒子が大気中に露出されることで、100℃以下の加熱においても顕著な重量減少が生じることが観察されると共に、微粒子間で焼結を生じて銀色を呈する導電性の銀皮膜が形成される。このように、本発明に係る被覆銀微粒子において極めて低温で脱離可能な被覆が形成される理由は、被覆銀微粒子の皮膜中に含まれる短鎖のアルキルアミンが、長鎖・中鎖のアルキルアミンよりも高い蒸気圧により、低温においても銀微粒子との配位結合を切断して脱離を生じること、及び、当該短鎖のアルキルアミンの脱離により被覆内でアミン分子間の凝集力が弱まって、長鎖・中鎖のアルキルアミンの脱離が促進されることにあると推察される。
【0088】
以上のように、本発明に係る被覆金属微粒子の製造方法によれば、金属アミン錯体分解法において、錯化合物を生成するためのアミン混合物に所定量の短鎖のアルキルアミンを含有することにより、アミン混合物に含有されるその他のアルキルアミンに格別の制限を生じることなく、短時間で錯化合物を生成することが可能となる。また、当該錯化合物は、従来よりも低温で分解を生じるために、安定して被覆金属微粒子を製造することが可能となる。
【0089】
更に、本発明に係る被覆金属微粒子の製造方法により製造した銀微粒子においては、従来よりも低温で容易に被覆を脱離させることが可能となる結果、室温近辺の温度においても銀光沢を示す導電性の銀皮膜を形成可能となる。
【0090】
以下、実施例を参照して、本発明を具体的に説明する。
[実施例1〜4]
実施例1〜4に係る被覆銀微粒子を、表1に記載した条件に基づいて、以下のように製造した。つまり、表1に記載した割合で、長鎖のアルキルアミンとしてのオレイルアミン(花王、ファーミンO、炭素数:18)と、中鎖のアルキルアミンとしてのオクチルアミン(花王、ファーミン08D、炭素数:8)、ヘキシルアミン(関東化学、特級、炭素数:6)、短鎖のアルキルアミンとしてのブチルアミン(関東化学、特級、炭素数:4)を混合し、アミン混合液を生成した。表1において、各アミン量(g)に付記した括弧書きの値は、以下で使用するシュウ酸銀(Ag
2C
2O
4)の1モルに対する各アルキルアミンのモル量(モル比)を示す。また、実施例1,4では、脂肪酸であるオレイン酸(東京化成、>85%)を表1に記載した割合でアミン混合液に混合した。生成したアルキルアミンの混合液は、いずれも室温で均一な液状物であった。
【0092】
上記で生成した各アミン混合液に硝酸銀(関東化学、一級)とシュウ酸二水和物(関東化学、特級)から合成して得たシュウ酸銀を表1に記載した割合で加えた。本実施例では、アミン混合物中のアルキルアミンのモル数が概ねシュウ酸銀に対して4〜6倍モル量になるようにシュウ酸銀を加えた。シュウ酸銀分子内には2個の銀原子が存在するため、上記のアルキルアミンの量は、銀原子を基準にすると2〜3倍モル量に相当する。シュウ酸銀の投入後、室温で攪拌することで、シュウ酸銀を粘性のある白色の物質へと変化させ、当該変化が外見的に終了したと認められる時点で攪拌を終了した。
【0093】
上記で得られる粘性のある白色物質について、アルキルアミンが溶解可能なジエチルエーテルを加えることで白色物質に結合していない未反応のアルキルアミンを分離除去した後、残留する白色物質のIRスペクトルを測定したところ、アルキルアミンのアルキル鎖に起因する吸収が観察された。このことから、上記で得られた白色物質はシュウ酸銀とアルキルアミンが結合してなるものであることが示され、シュウ酸銀の銀原子に対してアルキルアミンのアミノ基が配位結合してなる錯化合物であると推察された。
【0094】
次に、得られた混合液をアルミブロック式加熱攪拌機(小池精密機器製作所)に移して、100〜110℃の温度設定で加熱攪拌を行った。攪拌の開始後すぐに二酸化炭素の発生を伴う反応が開始し、その後、二酸化炭素の発生が完了するまで攪拌を行うことで、青色光沢を呈する銀微粒子がアミン混合物中に懸濁した懸濁液を得た。
【0095】
次に、この懸濁液の分散媒を置換するため、メタノール(関東化学、一級)10mLを加えて攪拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、分離した銀微粒子に対し、再度メタノール10mLを加え、攪拌、遠心分離を行うことで銀微粒子を沈殿させて分離した。この銀微粒子に、混合後の銀含有率が30〜50重量%程度になるようにブタノール(関東化学、特級)とオクタン(ゴードー)の混合溶媒(体積比1:4)を加えて攪拌し、必要に応じて更に遠心分離を行うことで分散性に乏しい粒子成分を除去することで、濃黄橙色の被覆銀微粒子が独立分散した分散液を得た。この濃黄橙色は、製造された被覆銀微粒子において、銀微粒子の表面原子が化合物などを形成することなく金属状態であることにより、金属銀に起因する極大波長が396nm程度の表面プラズモンバンドを示していること、及び、溶媒中で銀ナノ微粒子が独立分散していることを示すものである。
【0096】
[比較例1]
比較例1は、短鎖のアルキルアミンであるブチルアミンを使用しないこと以外は、上記の実施例1と同様に被覆銀微粒子の分散液を製造した。
【0097】
[比較例2]
比較例2は、短鎖のアルキルアミンであるブチルアミンを使用しないこと以外は、上記の実施例3と同様に被覆銀微粒子の分散液の製造を試みた。その結果、室温で2時間攪拌した限りではシュウ酸銀に変化が見られず、短鎖のアルキルアミンが存在しない場合には、シュウ酸銀と長鎖のアルキルアミンであるオレイルアミンとの間の反応性は乏しく、錯化合物の生成が困難であることが明らかになった。
【0098】
更に、上記により室温で2時間攪拌したシュウ酸銀とオレイルアミンの混合物を、100〜110℃に温度設定したアルミブロック式加熱攪拌機に移して攪拌を行ったが、格別な変化は観察されなかった。そこで、温度設定を170℃まで徐々に上げて2時間以上加熱攪拌したところ、僅かに二酸化炭素が発生して褐色を帯びる変化が観察された。当該変化は一部に銀微粒子が生成したためと考えられるが、シュウ酸銀の分解は完全に進行せず、良好な銀微粒子は得られなかった。
【0099】
[評価結果1]
上記実施例1〜4,及び、比較例1で製造された被覆銀微粒子の分散液について、その製造の際に、室温で錯化合物の生成に要した時間、及び、100〜110℃の温度設定において錯化合物が分解して銀微粒子が生成するために要した時間を表2に示す。
【0101】
表2に示すように、アミン混合物中に短鎖のアルキルアミン(ブチルアミン)を含む実施例1〜4においては、長鎖のアルキルアミン(オレイルアミン)を主成分とする場合でも120分程度で錯化合物の生成が完了する。これに対し、短鎖のアルキルアミンを含まない場合には、比較的分子量の小さなアミンを用いた場合であっても(比較例1)、錯化合物の生成が完了するために200分程度が必要となる。さらに、長鎖のアルキルアミンを主成分とする場合には(比較例2)、実質的に錯化合物が生成しないことは上記のとおりである。
【0102】
上記の結果より、アミン混合物中でシュウ酸銀との錯化合物を生成する際において、アミン混合物中に短鎖のアルキルアミンを混合することで、錯化合物を円滑に生成できることが明らかである。
【0103】
[評価結果2]
上記実施例1〜4,及び、比較例1に記載した方法で製造された被覆銀微粒子の分散液を、熱重量分析装置(島津 TGA−50)内で加熱して、分散媒と被覆銀微粒子の被覆部分を完全に除去することで、各分散液に含まれる金属銀の重量を測定した。当該測定された金属銀の重量と、その製造の際に使用したシュウ酸銀に含まれている銀の重量の比を「銀基準収率」として表2に示した。また、表2には、測定された金属銀重量を用いて逆算した「測定に用いた分散液中の銀の重量割合」を合わせて示した。
【0104】
表2に示すように、アミン混合物中に短鎖のアルキルアミンを含む実施例1においては、短鎖のアルキルアミンを含まない点でのみ相違する比較例1に比べて「銀基準収率」が大きく向上することが分かる。これは、短鎖のアルキルアミンが存在することで錯化合物の生成が促進され、錯化合物を形成していないシュウ酸銀中の銀原子の割合が低下することで、銀原子の回収率が向上するためと考えられる。また、オレイン酸をアミン混合物に混合しない場合には、96〜97%の非常に高い割合で原料であるシュウ酸銀に含まれる銀原子を回収することができるため、実用的な生産過程においても低コストで被覆銀微粒子を製造可能であることが見込まれる。
【0105】
また、表2に示すとおり、本発明に係る被覆銀微粒子は、短鎖のアルキルアミンであるブチルアミンをアミン混合物中に30%以上含有しても、混合溶媒中に銀の重量割合として50wt%以上の高濃度で分散可能であることが分かる。
【0106】
[評価結果3]
上記実施例1〜3、及び、比較例1に記載した方法で製造された被覆銀微粒子の分散液を希釈し、コロジオン膜(銅メッシュグリッド、透過電子顕微鏡用)に滴下し、メタノールで洗浄後、走査電子顕微鏡観察(日本電子 JSM−6510(LaB
6電子銃)を行った結果を
図1に示す。いずれの方法で製造した被覆銀微粒子も、コロジオン膜上に10〜20nm程度の球状粒子として観察された。
【0107】
また、実施例1,2に記載した方法で製造された被覆銀微粒子について動的光散乱粒度分布(大塚電子 ELS−Z2M)を測定したところ、それぞれにおいて被覆銀微粒子同士が独立分散しており、その数平均粒子径が、それぞれ14nm、18nm程度であることが示された(表2)。
【0108】
[評価結果4]
上記実施例1,2、及び、比較例1に記載した方法で製造した被覆銀微粒子を熱重量分析装置内で加熱した際の重量変化について
図2に示す。評価は、合成した被覆銀微粒子を遠心分離溶剤であるメタノールに分散させて遠心分離を行った後、取り出した被覆銀微粒子を熱重量分析装置内で室温でメタノールを蒸発させて重量減少が完了した時点を始点として、合成空気流(30mL毎分)下で、室温から10℃毎分で昇温する過程における重量変化を測定した。
【0109】
評価を行ったいずれの被覆銀微粒子においても、昇温に伴って重量が減少した後、250℃程度で重量が一定となる様子が観察された。また、重量減少は、いずれも2段階の過程で生じることが観察され、100〜150℃の間で大きな重量減少が見られた後、引き続き重量減少が生じることが観察された。また、250℃以上に加熱することで、昇温開始前の92〜95%程度の重量で一定となることが観察された。
【0110】
室温からの昇温の過程で観察される重量減少は、被覆銀微粒子の被覆を形成するアルキルアミン等の蒸発脱離に起因するものであると考えられ、250℃以下で残留する重量は被覆を形成するアルキルアミンが脱離した後の金属銀に対応するものである。つまり、本発明に係る被覆銀微粒子においては、全重量の5〜8重量%程度が被覆部分の重量に相当する。
【0111】
また被覆銀微粒子の製造の際に使用したアミン混合物の組成などにより、重量減少の様子が変化する。つまり、比較的蒸気圧の高いアルキルアミンを使用した実施例1においては、100℃程度から急激に被覆を形成するアルキルアミンの脱離を生じることが分かる。これに対し、長鎖のアルキルアミンを含むアミン混合物を用いた実施例2においては、100〜150℃の間での重量減少が緩慢であり、より高温まで被覆を成すアルキルアミンが残留することが分かる。一方、比較例1においては、短鎖のアルキルアミンを含む実施例1,2と比べて、皮膜の重量が1.5倍程度である一方、長鎖のアルキルアミンを含まないにも関わらず高温まで被覆を成すアルキルアミンが残留する傾向が見られることから、被覆の構造が異なることが推察された。
【0112】
被覆銀微粒子における被覆の脱離の容易さを評価するため、
図2に示した昇温中の重量変化において、最初の大きな重量減少が生じた後の160℃における被覆の脱離率を評価した。その結果を表2に合わせて示す。表2に示すように、実施例1においては、160℃において既に全被覆量の70%が脱離する。また、長鎖のアルキルアミンを含む実施例2においても全被覆量の50%が脱離することが分かる。これに対して、短鎖のアルキルアミンを用いない以外は実施例1と同様の組成のアミン混合液を使用した比較例1では、160℃における被覆の脱離率が46%程度であり、長鎖のアルキルアミンを含む実施例2にも満たないことが分かる。この結果からも、アミン混合液中の短鎖のアルキルアミンは、脱離を良好に生じやすい被覆の形成に寄与することが分かる。
【0113】
[評価結果5]
上記実施例1に記載した方法で製造した被覆銀微粒子を質量分析装置付きの熱重量分析装置内で加熱した際の、被覆銀微粒子から放出されるガス成分の質量分析結果について
図3に示す。評価は、メタノールを遠心分離した被覆銀微粒子を、示差熱天秤光イオン化質量同時分析装置(リガク Thermo Mass/Photo)内でメタノールを蒸発させて重量減少が完了した時点を始点として、ヘリウムガス流(300mL毎分)下で、室温から20℃毎分で昇温する過程において放出されるガス種の分子量毎の放出量を測定した。
【0114】
その結果、昇温に伴って分子量の小さなブチルアミン(m/z 73)、ヘキシルアミン(m/z 101)、オクチルアミン(m/z 129)の順で脱離していることが分かった。特にブチルアミンは加熱開始直後の30℃の低温加熱から脱離が開始し、100℃以下の加熱領域ではブチルアミンの脱離が中心である。また、150℃付近でブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミンが協調的に脱離を生じることが分かる。なお、比較のために比較例1で製造した被覆銀微粒子について同様の評価を行ったところ、ヘキシルアミンとオクチルアミンの脱離開始が、実施例1と比較して高温側にシフトする傾向が観察された。
【0115】
以上のことから、本発明において短鎖のアルキルアミンをアミン混合物に混合して被覆銀微粒子を製造することで、銀微粒子の被覆内に短鎖のアルカリアミンが存在して、低温においても比較的容易に被覆から脱離すると共に、それにより疎になって不安定となった被覆から比較的分子量の大きい中鎖のアルキルアミンを協調的に脱離させる補助をするものと推察された。
【0116】
[評価結果6]
上記実施例1,2、及び、比較例1に記載した方法で製造した被覆銀微粒子の分散液を基板に塗布して焼結させた際の焼結性を評価した結果について
図4〜
図6に示す。評価は、各分散液をポリエステルフィルム基板(OHPシート)にスピンコートにより塗布し、これを(A)室温に放置、及び、(B)100℃に加熱して、その際の体積抵抗の変化を四探針法(共和理研 K―705RS)により測定して行った。また、実施例1で製造した分散液については、(C)スピンコート後に室温に15分放置した後に100℃に加熱する試験を行った。
【0117】
実施例1で製造した分散液については(
図4)、室温においても、スピンコート後の1時間以内に体積抵抗値の急激な減少が起こり、その後も緩やかに体積抵抗値が減少することで、1日放置後には体積抵抗値が20μΩcmに達した。また、低抵抗となった後の塗布膜は銀光沢を示し、室温においても被覆銀微粒子が焼結を生じて金属銀の皮膜を形成することが明らかになった。一方、塗布膜を100℃に加熱する場合には、スピンコート後の室温放置の有無によらず、10分間程度で急激に体積抵抗が減少し、60分以内には7〜8μΩcmまで低下する。また、この場合にも、抵抗が低下した後の塗布膜は金属光沢を示し、被覆銀微粒子が焼結を生じて金属銀の皮膜を形成することが明らかになった。
【0118】
本発明者が特許文献3に開示したアルキルジアミンを使用して製造した被覆銀微粒子については、100℃程度で焼結することにより上記と同様の10μΩcm程度の高導電性の銀皮膜を得ようとする場合、被覆銀微粒子の塗布膜を加熱する前に1〜3時間程度室温に保持する必要があった。これに対し、本発明において短鎖のアルキルアミンを使用して製造した被覆銀微粒子においては、上記のように、加熱前に室温に保持する必要無しに低抵抗の銀皮膜を得ることが可能となった。
【0119】
実施例2で製造した分散液について(
図5)も実施例1と同様の傾向が観察され、室温においても銀微粒子の焼結を生じて導電性の金属銀の皮膜を容易に生成するが、特に室温で塗布膜を焼結させた場合には1000μΩcm程度の体積抵抗が残留する傾向を示した。これは、製造の際に使用した長鎖のアルキルアミンが焼結膜内の銀粒子間に残留するためと推察された。一方、100℃に加熱した場合には、実施例1とほぼ同程度の低い残留抵抗値を示す銀の皮膜を形成することができた。表2などに示すとおり、長鎖のアルキルアミンを適量使用することで、シュウ酸銀から被覆銀微粒子を製造する際に銀の収率を非常に高く維持することができる。また、例えば、シュウ酸銀が爆発的に分解を生じて局所的に反応温度が高くなる場合があるが、沸点の高いアルキルアミンを使用することで反応の安定性を高め、シュウ酸銀の露出等を防ぐことができる。これらを考慮して、アミン混合物中の長鎖・中鎖のアルキルアミンの種類や割合などは、製造する被覆銀微粒子の用途等に応じて適宜決定されるものである。
【0120】
一方、比較例1として、短鎖のアルキルアミンを使用せずに製造した分散液を塗布した場合には(
図6)、100℃に加熱した場合には実施例1と同程度の体積抵抗を示す程度に焼結を生じるが、実施例1と比較して焼結には長時間が必要になる傾向が見られた。また、室温においては塗布後の抵抗値の低下を生じにくく、長時間の経過後も
105μΩcm程度の体積抵抗が残留し、銀皮膜中の銀粒子間にアルキルアミンが残留する傾向が強いことが示された。比較例1においては、比較的蒸気圧の高い中鎖のアルキルアミンを用いているにも関わらずこのような結果となった理由は、銀微粒子の被覆内に短鎖のアルキルアミンが含まれないことにより、短鎖のアルキルアミンの蒸発が利用できないこと、及び、当該短鎖のアルキルアミンの蒸発による中鎖のアルキルアミンの蒸発促進が機能しないためと推察された。
【0121】
表3に、上記実施例1,2、及び、比較例1に記載した方法で製造した被覆銀微粒子について、評価結果4で評価した熱重量分析計内で160℃まで加熱した際の被覆の脱離率と、評価結果6で評価した被覆銀微粒子を焼結させた際に残留する体積抵抗値を示す。表3に示されるように、銀微粒子の被覆を形成するためのアルキルアミンが同様である場合(実施例1と比較例1)には、160℃程度に加熱した際の被覆の脱離率が高いことで、特に室温における焼結性が改善する傾向が観察された。これは、被覆銀微粒子の被覆により銀微粒子間の焼結が抑制されて銀微粒子が安定して保存される一方で、分散媒が除去された際に速やかに蒸発して除去されるアルキルアミンを選択することで室温において良好な銀微粒子の焼結を生じるためと理解される。
【0123】
本発明において使用される短鎖のアルキルアミンによれば、金属アミン錯体分解法において被覆金属微粒子を製造する際の錯化合物の生成を円滑に行うことを可能とすると共に、製造された被覆金属微粒子に対して非常に容易に脱離可能な被覆を形成することが可能となる。