特許第6241927号(P6241927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241927
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20171127BHJP
   G01N 29/34 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   G01N29/07
   G01N29/34
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-238363(P2013-238363)
(22)【出願日】2013年11月18日
(65)【公開番号】特開2015-99060(P2015-99060A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年9月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)第30条第2項適用、平成25年8月1日に発行された平成25年度土木学会全国大会の年次学術講演概要集で発表(2)第30条第2項適用、平成25年9月4日に開催された平成25年度土木学会全国大会で発表(3)第30条第2項適用、平成25年10月30日に発行された公益社団法人日本道路協会第30回日本道路会議プログラムで発表(4)第30条第2項適用、平成25年10月31日に開催された公益社団法人日本道路協会第30回日本道路会議で発表(5)第30条第2項適用、平成25年11月8日に発行された公益社団法人日本材料学会コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集第13巻で発表(6)第30条第2項適用、平成25年11月8日に開催された公益社団法人日本材料学会コンクリート構造物の補修、補強、アップグレードシンポジウムで発表(7)第30条第2項適用、平成25年11月15日に発行されたセメント・コンクリート研究会第40回セメント・コンクリート研究討論会論文報告集で発表(8)第30条第2項適用、平成25年11月15日に開催されたセメント・コンクリート研究会第40回セメント・コンクリート研究討論会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】399043196
【氏名又は名称】株式会社アミック
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151367
【弁理士】
【氏名又は名称】柴 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100184262
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 義則
(72)【発明者】
【氏名】長岡 康之
(72)【発明者】
【氏名】三輪 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】高鍋 雅則
(72)【発明者】
【氏名】橋本 光男
(72)【発明者】
【氏名】宮田 弘和
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 慎哉
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−228324(JP,A)
【文献】 特開平10−123105(JP,A)
【文献】 特開平10−002884(JP,A)
【文献】 特開2003−207487(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/040959(WO,A1)
【文献】 特開2004−325224(JP,A)
【文献】 前 裕史、他,非破壊検査による鉄筋−コンクリート界面の評価手法,コンクリート工学年次論文集,2008年,Vol.30,No.2,P.811−816
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートに導体棒が部分的に埋め込まれて構成されたコンクリート構造物の診断方法において、
前記導体棒にパルス磁場を軸方向に印加することにより前記導体棒に軸方向の振動を加え、
前記導体棒へのパルス磁場の印加の際、軸方向に静磁場を印加し、
前記導体棒の振動によって前記導体棒の前記コンクリートとの固着部と前記コンクリートとを経由して伝わる弾性波を検出するか、又は前記導体棒の振動を検出し、
その検出した信号を解析することにより、前記導体棒と前記コンクリートとの固着部の状態を診断することを特徴とする、コンクリート構造物の診断方法。
【請求項2】
前記導体棒へのパルス磁場の印加は、リングコイルを前記導体棒に装着し、前記リングコイルにパルス電流を流すことにより行う、請求項1に記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項3】
前記導体棒へのパルス磁場の印加は、リングコイルを前記導体棒に装着し、さらに導体棒の先端に静磁場印加用の磁石を配置して、前記リングコイルにパルス電流を流すことにより行う、請求項1に記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項4】
検出した信号からエネルギー比又は伝搬時間を求めて、前記導体棒のコンクリートとの固着部の大小を評価する、請求項1乃至の何れかに記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項5】
貫通穴あきプレートにおける貫通穴に前記導体棒が挿通された状態で、締結部材が前記導体棒に螺合して貫通穴あきプレートと前記コンクリートとが一体化されており、
検出される信号の誤差を小さくする、請求項1乃至の何れかに記載のコンクリート構造物の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートに導体棒が部分的に埋め込まれて構成されたコンクリート構造物の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネル、橋梁、建物、ダムなどの各種鉄筋コンクリート構造物の状態を非破壊で診断することが社会的に重要視されている。これまで、本発明者らは、非破壊でコンクリート強度や鉄筋の位置を測定することができる、電磁パルスによる音響診断技術を開発してきた(例えば特許文献1及び2)。
【0003】
コンクリートとアンカーボルトとの固着状態を診断する方法として、従来、テストハンマーによる打診法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO02/40959号公報
【特許文献2】特開2004−125674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、テストハンマーによる打診法では、検査員がテストハンマーでアンカーボルトを叩き、自分の耳でその音響を聞いて聴覚により固着状態を判断するという、聴覚診断法に依存しているため、音響を記憶することも検査の再現性を確かめることも難しい。また、アンカーボルトをテストハンマーで叩いてもナットの緩みを判断することはできるが、肝心のコンクリートとアンカーボルトとの固着状態が健全であるか否かを評価することはできない。
【0006】
そこで、本発明では、導体とコンクリートとの固着状態を的確且つ精密に評価することができるコンクリート構造物の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、コンクリートに導体棒が部分的に埋め込まれて構成されたコンクリート構造物の診断方法において、
前記導体棒にパルス磁場を軸方向に印加することにより前記導体棒に軸方向の振動を加え、
前記導体棒へのパルス磁場の印加の際、軸方向に静磁場を印加し、
前記導体棒の振動によって前記導体棒の前記コンクリートとの固着部と前記コンクリートとを経由して伝わる弾性波を検出するか、又は前記導体棒の振動を検出し、
その検出した信号を解析することにより、前記導体棒と前記コンクリートとの固着部の状態を診断することを特徴とする。
前記導体棒へのパルス磁場の印加は、好ましくは、リングコイルを前記導体棒に装着し、前記リングコイルにパルス電流を流すことにより行う。
前記導体棒へのパルス磁場の印加は、好ましくは、リングコイルを前記導体棒に装着し、さらに導体棒の先端に静磁場印加用の磁石を配置して、前記リングコイルにパルス電流を流すことにより行う。
好ましくは、検出した信号からエネルギー比又は伝搬時間を求めて、前記導体棒のコンクリートとの固着部の大小を評価する。
好ましくは、貫通穴あきプレートにおける貫通穴に前記導体棒が挿通された状態で、締結部材が前記導体棒に螺合して貫通穴あきプレートと前記コンクリートとが一体化されており、検出される信号の誤差を小さくする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンクリートに導体棒が部分的に埋め込まれて構成されたコンクリート構造物におけるコンクリートと導体棒との固着部の状態を診断するに当たり、導体棒にパルス磁場を軸方向に印加することにより導体棒に軸方向の振動を加え、導体棒の振動によって導体棒のコンクリートとの固着部とコンクリートとを経由して伝わる弾性波を検出するか、又は導体棒の振動を検出する。その検出した信号が、導体棒のコンクリートとの固着部の寸法や状態により異なるので、その検出した信号を解析することにより、導体棒とコンクリートとの固着部の状態、すなわち健全度を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の診断方法を実施する際に使用される診断装置の概略を説明するための模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の診断方法の概略を説明する図である。
図3】実施例に関し、作製した供試体の概略を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図4】(a)乃至(d)は、実施例として作製した供試体に対して切削孔を設け、アンカーボルトの接着状態を異ならせた供試体を模式的に示す図である。
図5】リングコイルをアンカーボルトに見立てた相当材に装着したときの充填度の違いによる受信波形を示し、(a)(b)(c)(d)は充填度が、それぞれ100%、75%、50%、25%の各受信波形を示す図である。
図6】検出信号の波形から波形エネルギーを求めることを説明するための図である。
図7】コンクリート面で受信した弾性波の波形エネルギー比を示す図である。
図8】実施例での供試体のモデルを示し、(a)は斜視図、(b)は断面モデル図である。
図9】健全度のレベルに応じたモデル化の状態を示し、(a)健全度レベル1の図、(b)は健全度レベル13の図である。
図10】リングコイルを用いてパルス磁場を発生させ、コンクリート面で得られた弾性波の波形エネルギー比を示す図である。
図11】リングコイルと磁石を併用してボルトを加振したときの波形エネルギー比を示す図である。
図12】弾性波の初動波が受信点に達するまでの伝搬時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の診断方法を実施する際に使用される診断装置の概略を説明するための模式図である。診断対象は、コンクリート1内に導体棒2が部分的に埋め込まれて構成されたコンクリート構造物である。
導体棒2は、コンクリート1の表面から頭部が一部露出すると共に、先端側がコンクリート1内に埋設されて定着されている。導体棒2のうち、コンクリート1に埋まっている先端側の部分を埋設部2aと呼び、コンクリート1表面から露出している頭部の部分を露出部2bと呼ぶ。図1に示すように、埋設部2aとコンクリート1との間には、例えば接着層3が介在している。図1に示す例では、孔の底面からコンクリート1の表面まで接着層3が存在している場合を示している。貫通穴あきプレート(以下単に「プレート」と呼ぶ。)5aに導体棒2が挿通された状態で、コンクリート1の外表面側では、プレート5aが導体棒2に締結部材4で締め付けられている。締結部材4としてのナットを締め付けることで、プレート5aがコンクリート1の表面を押圧し、プレート5aと導体棒2が一体化される。ここで、ベースとなる矩形のプレート5aの周縁に側壁(図示せず)が設けられ、側壁には貫通穴が設けられることでアタッチメント5が構成され、例えば空調ファンなどの各種の機材や部品をワイヤーなどで貫通穴に引っ掛けて保持することができる。このように、アタッチメント5に形成された側壁により、貫通穴を介して各種機材や部品を吊り下げることができる。導体棒2がトンネルの天井部に設けられているような場合には、アタッチメント5が吊り下げ具となる。
【0011】
本発明の実施形態に係る診断方法で使用される診断装置10は、電源11、リングコイル12、検出素子13及び解析処理部14を含んで構成されている。リングコイル12は、例えば複数のコイルを同軸状に密着して構成されている。各コイルは、例えば数mmの導線を数十×数十mmの矩形状又は円筒状の枠内に複数ターン巻回することで構成される。電源11は蓄電部とスイッチ等を備えており、例えば蓄電部に電荷をチャージして、スイッチの切り換えによりリングコイル12にパルス電流を流すことで、磁力を発生させる。
【0012】
検出素子13は、例えばAEセンサなどの振動センサであり、検出素子13は解析処理部14にケーブルにより接続されている。検出素子13と解析処理部14との間には、増幅器を介在して微弱な検出信号を増幅したり、フィルターを介在して検出信号のうち不要な成分を除去したりしてもよい。
【0013】
解析処理部14は、コンピュータにより構成され、コンピュータ内の解析プログラムを実行させることにより、次のような各機能を実現する。すなわち、解析処理部14は、検出素子13から入力された電気信号を蓄積する波形受信部14aと、波形受信部14aにより蓄積されている時間軸の波形をデータ処理するデータ処理部14bと、を有する。データ処理部14bでは、波形受信部14aに蓄積した検出信号について各種のデータ処理をし、コンクリート1と導体棒2との固着状態の良否を判定する。データ処理に際し、周波数軸に変換してスペクトラムを求めるために、FFT(Fast Fourier Transform, 離散的高速フーリエ変換)などの各種のプログラムが内蔵されている。
【0014】
さらに、好ましい形態にあっては、診断装置10は、導体棒2の先端、すなわち露出部2b上に配置する永久磁石15を備える。永久磁石15は、導体棒2の軸方向にバイアスの静磁場を印加するためのものである。よって、永久磁石15の代わりに、導体棒2の露出部2bの軸回りにリングコイル12よりも大きな径の別のリングコイルを配置し、この別のリングコイルに一定の電流を流すようにしてもよい。または、永久磁石15の代わりに、導体棒2の露出部2bの軸回りに、リングコイル12よりも小さな径の別のリングコイルを配置し、この別のリングコイルに一定の電流を流すようにしてもよい。
【0015】
次に、コンクリート1と導体棒2との固着状態を診断する方法について詳細に説明する。図2は、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の診断方法の概略を説明する図である。
【0016】
先ず、リングコイル12を導体棒2の露出部2bに差し込んで装着し、検出素子13をコンクリート表面でプレート5aの外側に配置する。その際、永久磁石15を導体棒2の露出部2bの先端に載せると好適である。リングコイル12は導体棒2の軸方向にパルス磁場を加えるために設けるもので、リングコイル12以外の手法を用いてパルス磁場を軸方向に印加しても良い。
【0017】
次に、リングコイル12に電源11からパルス電流を流す。パルスは複数流してもよいが、一つでもよい。リングコイル12にパルス電流を流すと、変動磁界が生じる。すると、導体棒2の露出部2bのうち、リングコイル12によって外側から囲まれた部位に音響が発生する。その音響が、図2に矢印Aで示すように導体棒2の軸方向に沿って埋設部2aに伝搬され、さらに音響が、矢印Bで示すように接着層3を経由してコンクリート1の表面に伝搬する。よって、導体棒2の埋設部2a、接着層3及びコンクリート1を順に経由して伝搬した音響が検出素子13によって検出される。検出素子13によって検出された信号は、解析処理部14に入力される。
【0018】
解析処理部14は、検出素子13から入力された信号を波形受信部14aに蓄積する。そして、データ処理部14bにて例えば次のような処理を行う。時間軸の波形において振幅の二乗を加算して波形エネルギーを求める。スペクトラムのピーク値となる周波数を求める。スペクトラムを複数の波形に分解して各波形の面積を求める。時間軸の波形の波高値を求める。または、リングコイル12に流すパルス電流からの遅れ時間(「伝搬時間」又は「初期到達時間」とも呼ぶ。)を求める。このように、データ処理部14bにおいて時間軸の波形、周波数軸の波形の各データに対してデータを処理し、その結果を保存する。そして、データ処理部14bにおいて、各導体棒2にパルス磁場を作用させて生じた音響を波形処理し、グルーピングを施し、異なる特徴を有する検出波形及びそれに関連するデータを特定し、コンクリート1と導体棒2の埋設部2aとの固着状態の正常・異常を判定する。これより、コンクリート1と導体棒2との固着状態の健全性について診断することができる。
【0019】
コンクリート1と導体棒2としてのアンカーボルトの埋設部2aとの固着状態が正常でない場合は、例えば、波形エネルギーが或る閾値よりも小さければ、導体棒2としてのアンカーボルトの施工の際、コンクリートの固着又は付着が不十分であると診断することができる。また、検出信号に含まれる波形エネルギーのばらつきに基づいて、コンクリート1と導体棒2の埋設部2aとの固着状態が診断される。
【0020】
ここで、導体棒2とは、物質は一般的に導体と非導体とに区分けされるという意味で、導体という意味を用いており、鉄鋼材、ステンレス材などが該当する。また、棒とは、棒状に形成されという意味であり、アンカーボルトや鉄筋などを想定している。
【0021】
好適な診断方法では、図2に示すように、導体棒2の先端部である露出部2b又はその上方の空間において軸方向に静磁場をバイアス印加し、その上に、パルス磁場を加えると良い。このような静磁場を印加するためには、例えば図1及び図2に示すように、軸方向に沿ってS極とN極とが並ぶように、導体棒2の露出部2bに永久磁石15を配置してもよい。永久磁石15は、棒磁石でもU字状の磁石でもよく、また永久磁石ではなく、コイルを配置してコイルに直流電流を流すようにしてもよい。
【0022】
このように、リングコイル12によるパルス磁場と静磁場を印加した状態において、リングコイル12でパルス磁場を加えることで、コンクリート表面で受信される波形エネルギーや伝搬時間に着目することで、コンクリート1と導体棒2との間の接着剤の充填状況の違いを十分把握することができる。図2に示す例では、図1とは異なり、孔の底面からコンクリート1の表面まで接着層3があたかも存在しているような図となっているが、接着層3のうちドットを付している部分(孔の底部から約半分の高さまでの部分)だけに接着剤が存在し、それ以外の白い部分(孔の約半分の高さからコンクリート1までの部分)には空気が存在し、実際には部分的にリング状の空洞となっている状態を模式的に示している。よって、後に説明するように、矢印Aで示す振動が実質的に接着剤で密着している部分を経由して、矢印Bで示すように弾性波が検出素子13に伝わるわけである。
【0023】
このように、導体棒2にパルス磁場を軸方向に印加することにより導体棒2に軸方向の振動を加え、導体棒2のコンクリート1との固着部を経由してコンクリート1に伝搬した振動を検出するのではなく、導体棒2の振動を検出して、導体棒2のコンクリート1との固着部を経由してコンクリート1に伝搬して導体棒2の振動が減衰したかを検出してもよい。そして、その検出した信号を解析することにより、導体棒2とコンクリート1との固着部を診断してもよい。その際、導体棒2の露出部2b、永久磁石15の振動をレーザー変位センサで測定してもよいし、導体棒2の露出部2b、永久磁石15に検出センサを設けてもよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を示しながら更に詳細に説明する。コンクリート構造物として供試体を作製した。図3は実施例について作製した供試体の概略を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。図中の数字は寸法(mm)を示し、側面図のうちアンカーボルトを想定している部分は断面として示している。トンネルの天井板を固定する接着系のあと施工アンカーを想定し、1000mm×1000mm×厚さ350mmのコンクリート直方体に、長さ240mmのアンカーボルトとしてM16のSS400相当材をコンクリート表面から130mmの深さまで埋め込んだ状態とした。1体の供試体に対してアンカーボルトを4本設置し、ボルト間の離隔は500mmを確保した。コンクリートの設計基準強度はFc=24N/mmとし、コンクリート内部はアンカーボルトの他に磁性体を配置しないために無筋とした。
【0025】
図4(a)乃至(d)は、実施例として作製した供試体に対して切削孔を設け、アンカーボルトの接着状態を異ならせた供試体の接着状況を模式的に示す図である。アンカーボルトとしてのM16のSS400相当材が、コンクリートに接着剤によって固着する度合いを接着剤の充填状況により変化させた。接着剤の充填状況は、図4(a)〜(d)に順に示すように、100、75、50、25%の4水準の充填度を設定した。すなわち、コンクリートとアンカーボルトが固着した部分の長さの目安が130、97、65、32mmの各程度となるように充填度を設定した。接着剤を100%充填しない3水準のものは、いずれも孔の深部側に接着剤が充填され、コンクリート表面側に空隙が存在するものを作製した。24mm径のコア削孔によって設けられた孔にアンカーボルトを挿入し、充填度に応じてボルトとコンクリート孔の隙間に接着剤を注入し、アンカーボルトをコンクリートに固着させた。
【0026】
接着系アンカーは、一般に接着剤の注入方式の違いによりカプセル型と注入型とに分類される。本実施例では、接着剤として充填状況の違いを精度良く施工するために、注入型のエポキシ樹脂を使用した。また、コンクリート表面に突出したアンカーボルトに対して、100mm×100mm×厚さ9mmの鋼製プレートを設置し、ナットで固定した。
【0027】
パルス磁場の発生条件としては、図1及び図2に示すように、導体棒2としてのアンカーボルトとみなしたM16のSS400相当材の頭部にリングコイル12を差し込んで装着した。永久磁石15を、アンカーボルトとみなしたM16のSS400相当材の頭部上に設けない場合と設けた場合とで磁場を印加した。なお、比較のためのパルス磁場発生条件として、振磁コイルが内蔵されたボックスを、アンカーボルトとみなしたM16のSS400相当材の頭部に配置して振磁コイルにパルス電流を流した。
【0028】
検出素子13としてAEセンサを用いた。AEセンサとして受信した波形は、サンプリング周波数2MHzでデジタル化した後、解析処理部14中の波形受信部14aに記録させた。測定回数は、1ケースあたり10回を基本とした。
【0029】
また、締結部材4としてのナットの締結状態を異ならせた。ナットを締め付けず緩めた状態と、ナットをトルクレンチで80N・mのトルク量で締め付けた状態の、二種類の状態で試験を行った。
【0030】
先ず、ナットがプレートに接触しているものの、指先でナットを軽く締めた程度の緩んだ状態での測定結果について説明する。図5は、リングコイルをアンカーボルトに見立てた相当材に装着したときの充填度の違いによる受信波形を示し、(a)(b)(c)(d)は充填度が、それぞれ100%、75%、50%、25%の各受信波形を示す図である。横軸は時間(秒)、縦軸はAEセンサの信号を電圧表示したものである。なお、AEセンサは、アンカーボルトに見立てた相当材の中心から100mm離れた位置になるようにコンクリート1の表面に設置した。
【0031】
図5から、受信波形の最大振幅値が接着剤の充填状況に応じて異なることが確認でき、接着剤の充填度が小さくなるに従って、波形の最大振幅値が小さくなる傾向にあることがわかる。この振幅の差異を定量的に把握するために、波形エネルギーを算出した。図6は検出信号の波形から波形エネルギーを求めることを説明するための図である。横軸は時間、縦軸は検出信号の振幅である。ここで、波形エネルギーとは、サンプリングする各点における振幅値の2乗和で表され、次式(1)により算出される値である。
【数1】
ここで、Eは波形エネルギー(mV/s)、yはサンプリングする各点における振幅(mV/s)、nはサンプリング数で、n=10,000である。そのサンプリングの時間は10,000μsの間に相当する。図7はコンクリート面で受信した弾性波の波形エネルギー比を示す。横軸は充電度(%)であり、縦軸は波形エネルギー比である。波形エネルギー比とは、接着剤の充填度100%に対する各充填度の値の比であり、今回の実施例では4水準を設定している。図7では、図1及び図2に示す手法(以下、リングコイル型による手法と呼ぶ。)で計測した値を黒丸(●)プロットで示し、比較例として振磁コイルが内蔵されたボックス(以下、これにより与える振動の方法をボックス型による手法と呼ぶ。)をボルトの頭部に配置し、振磁コイルにパルス電流を流して計測した値を三角(△)プロットで示し、次に説明するモデル化による解析結果の値を菱形(◇)プロットで示している。なお、モデル化による解析では13水準を設定している。
【0032】
ここで、モデル化について説明する。図8は実施例での供試体のモデルを示し、(a)は斜視図、(b)は断面モデル図である。縦500mm×横500mm×高さ200mmのコンクリート直方体に、直径16mm×250mmのアンカーボルトをコンクリート表面から130mmの深さまで埋め込んだ状態を想定し、コンクリートとアンカーボルトの間には、接着剤の有無を模擬するための媒介層を設けている。解析モデルの各構成材料の材料定数としては、表1に示すとおりである。
【0033】
【表1】
【0034】
各構成材料の要素は何れも8節6面ソリッドとし、要素の代表長さは約10mmとした。また境界条件として、コンクリート部分の全側面(500mm×200mmの面4面)を無反射条件とした。磁場パルスの弾性波入力をアンカーボルトの突出部とし、アンカーボルトの軸方向を荷重入力方向とした。入力波形としては、入力開始時から13.75μ秒まで荷重を0から159.8Nまで直線的に増加させ、その後、入力開始時から27.5μ秒で荷重を0まで直線的に減少させた。波形出力位置としては、実施例と同様にコンクリート表面とした。
【0035】
接着剤の付着の状況の違いが弾性波挙動に与える影響を把握するために、長さ130mmの媒介層を13等分して接着剤の有無を模擬することにした。図9は健全度のレベルに応じたモデル化の状態を示し、(a)は健全度レベル1の図、(b)は健全度レベル13の図である。媒介層全要素に接着剤の物性値を設定したものを「健全度レベル13(健全)」とし、アンカーボルト最下部の要素のみを接着剤で接着し、それ以外を空気としたものを「健全度レベル1」とした。さらに、接着剤の充填状況にバリエーションを持たせるために、層の下端部からコンクリート表面側に向って深さ方向に接着剤要素を段階的に増やし、健全度レベルを全13段階に設定した。
【0036】
図7に示すように、パルス磁場の発生条件がボックス型とリングコイル型の何れの場合においても、波形エネルギー比の値は解析値よりも計測結果が小さい値を示している。また、充填度が大きくなるに従って波形エネルギー比の値も大きくなる傾向は同様であることが確認される。なお、ボックス型では測定回数は1回であるが、リングコイル型では4水準それぞれの充填度において10回測定しており、充填度毎に測定値の平均と最大及び最小の範囲を同図に示している。リングコイル型を用いる場合は充填度75%における測定値のばらつきが大きいことから、この充填度前後の接着状況を定量的に把握することは難しいことが予測されるが、本実施例で設定した4水準の充填度の違いを把握したい場合には、判別結果に大きく影響はしない程度のばらつきの範囲であることが分かった。
【0037】
次に、ナットをトルクレンチで締めた状態での測定結果について説明する。80N・mのトルク量でナットを締め付けた状態で測定を行った。図10はリングコイルを用いてパルス磁場を発生させ、コンクリート面で得られた弾性波の波形エネルギー比を示す図である。図10では、図1及び図2に示すリングコイルを用いた手法の値を黒丸(●)プロットで示し、上述したモデル化による解析結果の値を菱形(◇)プロットで示している。横軸は充填度(%)、縦軸は波形エネルギー比である。
【0038】
図10では、計測値は解析値と概ね近い値となっていることが分かり、図7に示す結果と同様、充填状況に応じて波形エネルギー比が変化する傾向が見られ、測定値のばらつきが小さい。ただし、充填度75%と100%の波形エネルギー比の値は、ともに0.8以上となっており、充填度が高く空隙部分が小さい場合には、充填度の違いを判別することは困難であることが分かった。これは、ナットを強く締め付けることによってプレートとコンクリートが接する面の圧力が大きくなることから、図2に符号Cで示す矢印のように、加振されたボルトを伝搬する弾性波がプレート5aからコンクリート表面へと伝搬しやすくなることに起因すると考えられる。つまり、ナットが緩んでいる場合には、コンクリート内部に埋め込まれたアンカーボルト固着部へ伝搬する弾性波の影響をコンクリート表面の受信点で有効に捉えられる一方、ナットが十分締結されてプレートが固定される場合は、コンクリート表面を伝搬する弾性波による影響が大きくなるため,コンクリート内部の充填度の違いを捉える感度が鈍くなることが推測される。
【0039】
次に、ナットをトルクレンチで締めた状態で、静磁場とパルス磁場とを重ねて印加してボルトを加振したときの測定結果について説明する。図11はリングコイルと磁石を併用してボルトを加振したときの波形エネルギー比を示す図である。横軸は充填度(%)、縦軸は波形エネルギー比である。図11では、リングコイル12及び永久磁石15を用いた手法の値を三角(▲)プロットで示し、上述したモデル化による解析結果の値を菱形(◇)プロットで示している。永久磁石15としてネオジウム磁石を用いた。図11から、磁石を併用すると菱形プロットで示す解析結果と同じ値、傾向を示している。すなわち、ナットを強く締め付けた場合においても、充填状況に応じて波形エネルギー比が一定の程度で変化することが確認できた。さらには10回の測定値のばらつきは、4水準の充填度の違いを把握する場合においては影響が殆どない範囲であることが分かった。
【0040】
図12は、弾性波の初動波が受信点に達するまでの伝搬時間を示す図である。横軸は充填度(%)であり、縦軸は伝搬時間(ms)である。伝搬時間の算出にあっては、AIC(Akaike's Information Criterion:赤池情報量基準)を利用した。これにより波頭の読み取りにおける客観性や再現性を確保した。図12に示す伝搬時間は、何れもナットを締め付けた状態で測定したデータである。白丸(○)プロットはリングコイル12のみを用いた場合を示し、三角(▲)プロットはリングコイル12とネオジウム磁石を用いた場合を示す。リングコイル12のみを用いた場合には、明らかに充填度が低い場合を判別することが可能であるが、50%程度以上の充填度の違いを判別することは困難である。一方、リングコイル12と永久磁石15を用いた場合には、一定程度の確度で充填度の違いを把握することが出来ることが分かった。
【0041】
以上の実施例から分かるように、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の診断方法によれば、プレート5aの貫通穴に導体2としてのアンカーボルトが貫通され、締結部材4としてのナットが緩んだ状態では、コンクリート1と導体棒2との固着部における接着剤の充填の違いを十分な精度で把握できる。また、締結部材4としてのナットが十分に締結された状態においては、リングコイル12だけを用いてパルス磁場を発生させることで、接着剤の充填の違いを確認することができる。また、リングコイル12によるパルス磁場と静磁場を印加した状態でリングコイル12によりパルス磁場を加えることで、コンクリート表面で受信される波形エネルギーや伝搬時間に着目することで、コンクリート1と導体棒2との間の接着剤の充填状況の違いを把握することができる。
【0042】
上述の実施例では、導体棒2の振動によって、導体棒2のコンクリート1との固着部とコンクリート1とを経由して伝わる弾性波を検出する場合を示している。よって、導体棒2の振動がコンクリート1に伝わることで時間の経過と共に減少する。従って、その導体棒2の振動を検出してもよい。その際、導体棒2の頭部である露出部2b、永久磁石15の振動をレーザー変位センサで測定してもよいし、導体棒2の露出部2b、永久磁石15に検出センサを設けてもよい。
【0043】
自動車、鉄道など各種交通ネットワークのために設けられたトンネルや橋などのコンクリート構造物には、図1及び図2に示すプレート5aが設けられ、締結部材4で締め付けがなされている。よって、実際の現場において、本発明によるあと施工のコンクリート構造物の導体とコンクリートとの固着部の充填について評価が適切に行える。
【0044】
本発明の実施形態は、特許請求の範囲に記載した範囲においてアンカーボルトなどの各種導体棒のコンクリートへの施工状況に応じて適宜変更することができる。上述の説明では、コンクリート1と導体棒2との間が接着剤によって接着層3が設けられている場合を説明しているが、コンクリートに導体棒としてのアンカーをあと施工により取り付ける際、機械式の後打ちアンカーを用い、例えば先頭側半分が二つ割れになった円筒体で、先頭に円錐状のくさびが設けられ、アンカーボルトを円筒体に挿入することにより、くさび部分が膨張してコンクリートの穴内面に固定されるものであっても、くさびによるアンカーボルトとコンクリートとの固着状態の良否を評価することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1:コンクリート
2:導体棒
2a:埋設部
2b:露出部
3:接着層
4:締結部材(ナット)
5:アタッチメント
5a:プレート(貫通穴あきプレート)
10:診断装置
11:電源
12:リングコイル
13:検出素子
14:解析処理部
14a:波形受信部
14b:データ処理部
15:永久磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12