【文献】
川添英生,既設吹付のり面補修補強工法の適用事例について,平成25年度近畿地方整備局研究発表会論文,近畿地方整備局,2013年 7月11日,新技術・新工法部門:No.02,P.1〜5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、図示の実施形態に係る工法選択方法を実施するシステムを示している。
図1において、全体を符号60で示す工法選択システムは、コスト計算装置61と、施工法選択装置62と、記憶装置63を備えている。
【0019】
コスト計算装置61は、入力装置(例えば、キーボード)7とラインL71で接続され、施工法選択装置62とラインL12で接続され、記憶装置63と双方向ラインL13で接続され、表示装置8とはラインL18で接続されている。
そして、コスト計算装置61は、入力装置7でコスト計算に必要な事項(データ)が入力されると、記憶装置63から出力された施工法のデータから対象となる複数の施工法のコストを算出して、その計算結果を施工法選択装置62、記憶装置63及び表示装置8に出力する。
【0020】
施工法選択装置62は、入力装置(例えば、キーボード)7とラインL72で接続されており、入力装置7から施工法選択装置62には、施工現場の状況と対象工法の施工条件が合致するか否かに関連する各種情報、データが入力される。
そして施工法選択装置62は記憶装置63とラインL32で接続され、表示装置8とはラインL28で接続されている。
入力装置7でコスト計算に必要な事項が入力されると、施工法選択装置62は、記憶装置63から出力された施工法のデータ(施工現場の状況と合致するか否かに関するデータ)と、コスト計算装置61から出力された複数のコスト計算結果を参照して、施工現場の状況に合致しており、及び/又はコストが低い施工方法を選択し、選択された施工方法を表示装置8に出力する。
【0021】
入力装置7は、記憶手段63とラインL73で接続され、表示装置8とはラインL78で接続されている。
工法選択システム60を起動すると、例えば、
図2で示すフローチャートのステップS1〜ステップS5のような質問事項が表示装置8に表示される。
そして、工法選択システム60を操作する作業員(操作員)は、上記質問に対して入力装置7によって、回答する。
【0022】
次に、
図1の工法選択装置100による工法選択の制御について、
図2〜
図10を参照して説明する。
図2、
図3、
図9、
図10で示す工法選択の制御では、上述したように、表示装置(
図1の符号8)のモニタ8上に、システム100のシステム操作員(図示せず)に対して各種質問が表示される。そして、システム操作員は当該質問に対して、入力装置であるキーボード7により、例えば「YES」、「NO」等で答える。
あるいは、図示しないシステム操作員は、入力装置であるキーボード7により、コスト計算に必要な事項(データ)や、施工現場の状況と対象工法の施工条件が合致するか否かに関連する各種情報、データが入力される。
ここで、工法選択装置100を使用することに代えて、現場作業員が工法選択を実行することが可能である。換言すれば、工法選択の制御を、工法選択装置100ではなく、現場作業員が行なうことが可能である。
【0023】
図2のステップS1では、表示装置8のモニタ8上に「背面地山は安定しているか?」の質問が表示される。ステップS1において、背面地山が(軟岩以上で)安定している場合(ステップS2がYES)は、システム操作員あるいは調査員(操作員)は入力装置7によって「YES」を入力する。
すると、ステップS2に進み、表示装置8のモニタ8上に「法面表面のモルタルが地山に密着しているか?」の質問が表示される。
【0024】
ステップS2において、法面表面のモルタルが地山に密着していない場合は(ステップS2がNO)、操作員は入力装置7によって「NO」を入力する。
すると、ステップS3で、表示装置8のモニタ8上に「湧水による顕著な変状があるか?」の質問が表示される。
【0025】
湧水による顕著な変状がない場合(ステップS3がNO)は、操作員はステップS3では「NO」を入力する。
ステップS4に進み、表示装置8のモニタ8上に「密着性を改善できるか?」の質問が表示される。
【0026】
ステップS4において、密着性を改善できる場合(ステップS4がYES)は、操作員は入力装置7によって「YES」を入力する。
ステップS5に進み、表示装置8のモニタ8上に「地山表層の補強が必要か?」の質問が表示される。
【0027】
ステップS5において、地山表層の補強が必要な場合(ステップS5がYES)は、操作員は入力装置7によって「YES」を入力d、ステップS6で背面地山の土砂化層の厚みが0.5m以下であることを確認した上で、ステップS7に進む。
ステップS5において、地山表層の補強が必要ではない場合(ステップS5がNO)、ステップS9に進む。
【0028】
ステップS7では、「背面補強工を実施するべき」旨が表示される。背面施工法に際しては、空隙注入工(表面モルタル吹付けの下部に生じた空隙にセメント等を注入する)、或いは、空洞充填工(表面モルタル吹付けの下部に生じた空隙よりも大きな空洞にセメント等を注入する)が施工される。
ステップS7からステップS8に進み、「表面補強工を実施するべき」旨が表示される。表面補強工では、既存のモルタル吹付けの表面に更にモルタルを吹付け、モルタル層の厚みを増す施工(繊維補強モルタル吹付あるいは表面補強(増厚)工)が為される。その際に使用されるモルタルは、補強用繊維をセメントに混ぜた繊維補強モルタルである(
図11参照)。
それに加えて、ステップS8では補強鉄筋工が施工される。すなわち、ステップS8では、繊維補強モルタル吹付と補強鉄筋工が行われる。
ここで、補強鉄筋工における補強鉄筋の長さ(例えば1m)は、不安定層の厚さ等により、ケース・バイ・ケースで決定される。
【0029】
ステップS9の場合(ステップS5がNO)には、「背面地山は軟岩程度に安定している」と判断した後、ステップS10に進む。ステップS10では、背面補強工と表面補修工を組み合わせた工法(
図2のステップS10では「A工法」)と、表面補強工(
図2のステップS10では「B工法」)の何れが当該施工現場に有利であるかを判断する。ここで、「有利」という文言は、施工現場の条件に適合しており、及び/又は、コストの点で有利であることを意味している。そして、コストの点で有利であるか否かを判断するため、工法選択システム60のコスト計算装置61によってA工法、B工法の双方のコストを算定し、A、B工法の何れがコスト的に有利であるかを判断する。
【0030】
「A工法(背面補強工と表面補修工を組み合わせた工法)の方が有利」と判断されたならステップS11に進む。ステップS11では、「背面補強工を行うべき」旨が表示される。背面補強工では、空隙注入工(表面モルタル吹付けの下部に生じた空隙にセメント等を注入する施工)、或いは、空洞充填工(表面モルタル吹付けの下部に生じた空隙よりも大きな空洞にセメント等を注入する施工)が行われる。そしてステップS12に進み、「表面補修工を行うべき」旨が表示される。表面補修工は、表面補修工(被覆工)及び/又はひび割れ補修工である。
【0031】
一方、「B工法(表面補強工)の方が有利」と判断された場合はステップS14に進み、前述のステップ8と同様に「表面補強工を行うべき」旨が表示される。
ここで、表面補強工における繊維補強モルタル吹付におけるコストは、施工現場の面積と底辺の長さから、容易に計算することが出来る。
【0032】
ステップS2において、法面表面のモルタルが地山に密着している場合(ステップS2がYES)は、操作員は入力装置7によって「YES」を入力すると、制御は、
図3の制御におけるステップ「B」に進む。
【0033】
図3の制御において、ステップSB1では、表示装置8のモニタ8に「ひび割れ等の表面劣化により、モルタル片の剥落(
図5参照)や崩落(
図4参照)の可能性があるか?」の質問が表示される。ステップSB1において、ひび割れ等の表面劣化により、モルタル片の剥落や崩落の可能性がある場合(ステップSB1がYES)は、操作員は入力装置7により「YES」を入力する。
【0034】
ここで、モルタル片の剥落は、
図5に示すように、地山200の法面に吹付けたモルタル片203dが、下方に落下する現象である。また、法面に吹付けたモルタルの崩落は、
図4に示すように、地山200の法面に吹付けたモルタルにおける一部領域203Dが崩落する現象である。
【0035】
モルタル片の剥落や崩落の可能性がある場合(ステップSB1がYES)は、亀裂開口が広範囲に認められる(ステップSB2)。そして、ステップSB3に進み、表面補修工と表面補強工の何れの工法が有利であるかを判断する。ステップS10(
図2)と同様に、「有利」という文言は、施工現場の条件に適合しており、及び/又は、コストの点で有利であることを意味している。そして、コストの点で有利であるか否かを判断するため、工法選択システム60のコスト計算装置61によって表面補修工と表面補強工の何れの工法のコストを計算する。
表面補修工の方が有利であれば(ステップSB3で「表面補修工の方が有利」)、ステップSB4で、表面補修工(具体的には表面を新たなモルタルで被覆する被覆工)を行うべき旨が表示される。
一方、表面補強工の方が有利であれば(ステップSB3で「表面補強工の方が有利」)、ステップSB5で「表面補強工(具体的には繊維強化モルタルを表面に吹付けて表面モルタル層の厚みを増すと共に、長さ1mの補強鉄筋を法面に対して直角に埋設する工法)を行うべき」旨が表示される。
【0036】
ステップSB1において、ひび割れなどの表面劣化によるモルタル片の剥落や崩落の可能性がない場合(ステップSB1がNO)は、操作員は入力装置7により「NO」を入力する。そして(ひび割れなどの表面劣化によるモルタル片の剥落や崩落の可能性がない場合:ステップSB1がNO)は、補修等を行わなくても特に問題はないと判断してステップSB6に進み、「経過観察(無対策)」とする旨がモニタ8に表示される。
【0037】
ここで、
図2のステップS1において、「背面地山が安定しているか否か」は、モルタル表面にひび割れや浮きが生じてモルタル自体が劣化しているか否かの判断に加えて、背面地山の風化による崩壊や、背面からの土圧によるすべりの有無を調査員が目視して確認する。或いは、公知の調査方法によって確認する。
背面地山の風化は、地下水や、地下水の凍結による割れ目の緩み等に起因し、土圧によるすべりは、例えば、切土による応力の開放が考えられる。
【0038】
図6は、表面の吹付けモルタル203の真下(内部)において地山200が風化した状態(201)を示している。
風化の有無及び風化層の厚み(W)調査は、例えば、コア抜き調査時の丸鋼貫入量等により判断する。
図7は、風化した土砂201が、亀裂によって分離した表面の吹付けモルタル203Dと共に、法面から崩壊して落下する状態を示している。
図8は、地山200に亀裂が生じ、落石200D型の崩壊が起こったことを示している。
【0039】
図2のステップS1において、背面地山が安定していない場合(ステップS1がNO)は、調査員から報告を受けた操作員自身が入力装置7で「NO」を入力する。
背面地山が安定していない場合には(ステップS1がNO)、
図9の制御における「C」に進む。
【0040】
図9のステップSC1において、表示装置8のモニタ8上には「岩盤すべり或いは地すべりの可能性はあるか?」の質問が表示される。
現場調査員の調査結果等により、岩盤すべり或いは地すべりの可能性があると判断される場合には(ステップSC1がYES)、入力装置7により「YES」を入力する。そしてステップSC2に進み、表示装置8のモニタ8上に「地すべり対策工を行うべき」旨がモニタ8に表示される。
【0041】
地すべり対策工は、岩盤すべり或いは地すべりの可能性がある場所を取壊し(取壊し工)、発生した排土を処理(排土工)する抑制工であり、及び/又は、アンカーを打ち込み(アンカー工)、抑止杭を打ち込む(抑止杭工)抑止工である。
【0042】
岩盤すべり或いは地すべりの可能性がない場合(ステップSC1がNO)は、入力装置7により「NO」を入力する。そしてステップSC3において、表示装置8のモニタ8上に「湧水による顕著な変状があるか?」の質問が表示される。
湧水による顕著な変状がない場合(ステップSC3がNO)は、入力装置7によって「NO」を入力する。
ステップSC4では、工法選択システム60は、既設モルタルの取壊しが有利か否かを判断する。ここで、前述したように、「有利」という文言は、施工現場の条件に適合しており、及び/又は、コストの点で有利であることを意味している。そしてコストについては、不利は工法選択システム60のコスト計算装置61によって演算する。
【0043】
既設モルタルの取壊しがコスト的に有利であれば自動的にステップSC5に進み、「撤去工(取壊し工と産業廃棄物処理)を行うべき」旨がモニタ8に表示される。
ステップSC6に進み、切土工と、モルタル吹付けと、吹付法枠工と鉄筋挿入工を行う「法面安定工」を行うべき旨がモニタ8に表示される。
一方、既設モルタルの取壊しが有利でなければ(ステップSC4がNO)、ステップSC7において、表示装置8上で背面地山の想定される不安定層の厚さを選択する旨が表示される。操作員は入力装置7によって不安定層の厚さを「0.5m以下」、「0.5m〜3.0m」、「3.0mm以上」の何れかから選択する。
発明者の経験上、崩壊深さが50cm以下である場合が非常に多い。
また、斜面の崩壊事例では、崩壊深さが3m未満のものが、全体の80%程度であることが、当業者には良く知られている。
図9のステップSC9〜SC11、SC13〜SC15、SC17〜SC19は、この様な知見から3種類に分類されている。
【0044】
不安定層の厚さが「0.5m以下」の場合は、ステップSC8に進み、ステップSC9〜ステップSC11までのコストが、決められた範囲(予算枠)内に収まるか否かを判断する。
ステップSC8において、ステップSC9〜ステップSC11までのトータルコストが、決められた予算枠内に収まれば(ステップSC8がYES)、ステップSC9で「背面補強工を行うべき」旨がモニタ8に表示され、次いでステップSC10に進み、「地山補強工(長さ2mの鉄筋を法面に対して直角に挿入)を行うべき」旨がモニタ8に表示され、ステップSC11で「繊維補強モルタル吹付(あるいは表面補強(増厚)工)、吹付法枠工及び受圧板工を行うべき」旨がモニタ8に表示される。
ここで、繊維補強モルタル吹付では、既存のモルタル吹付け表面に新たに繊維補強モルタルを吹付けている。
一方、ステップSC9〜ステップSC11までのトータルコストが、決められた予算枠内に収まらなければ(ステップSC8がNO)、ステップSC4まで戻り、ステップSC4以降を繰り返す。
【0045】
不安定層の厚さが「0.5〜3.0m」の場合は、ステップSC12において、ステップSC13〜ステップSC15までのトータルコストが、決められた範囲(予算枠)内に収まるか否かを判断する。
ステップSC12において、ステップSC13〜ステップSC15までのトータルコストが、決められた予算枠内に収まれば(ステップSC12がYES)、ステップSC13で「背面補強工を行うべき」旨がモニタ8に表示され、次いでステップSC14に進み、「地山補強工(長さ2〜5mの鉄筋を法面に対して直角に挿入)を行うべき」旨がモニタ8に表示され、ステップSC15でステップSC11と同様の「繊維補強モルタル吹付、吹付法枠工及び受圧板工」を行うべき旨がモニタ8に表示される。
一方、ステップSC13〜ステップSC15までのトータルコストが、決められた予算枠内に収まらなければ(ステップSC12がNO)、ステップSC4まで戻り、ステップSC4以降を繰り返す。
【0046】
不安定層の厚さが「3.0m以上」の場合は、ステップSC16において、ステップSC17〜ステップSC19までのトータルコストが、決められた範囲(予算枠)内に収まるか否かを判断する。
ステップSC16において、ステップSC17〜ステップSC19までのトータルコストが、決められた予算枠内に収まるのであれば(ステップSC16がYES)、ステップSC17で「背面補強工を行うべき」旨がモニタ8に表示される。そしてステップSC18に進み、「地山補強工(アンカー工)を行うべき」旨がモニタ8に表示される。
ここで、ステップSC8、SC12、SC16ではトータルコストに関する判断が実行されているが、それ以外の基準に基づいて判断することが可能である。あるいは、ステップSC8、SC12、SC16を削除することが可能である。
【0047】
そしてステップSC19で「吹付法枠工及び受圧板工を行うべき」旨がモニタ8に表示される。
一方、ステップSC17〜ステップSC19までのトータルコストが、決められた枠内に収まらなければ(ステップSC16がNO)、ステップSC4まで戻り、ステップSC4以降を繰り返す。
【0048】
ステップSC3において、湧水による顕著な変状がある場合(ステップSC3がYES)は、入力装置7によって[YES]を入力する。
その場合には、
図10の制御におけるステップ「D」に進む。
【0049】
図10において、ステップSD1では、表示装置8のモニタ8上に「排水対策工は必要か?」の質問が表示される。
ここで、排水対策工が必要か否かを判断する際には、施工現場の状況に加えて、排水対策や地下水排除工を行った際のコストが所定値以内に納まるか否かについても考慮する。
【0050】
排水対策工が必要な場合(ステップSD1がYES)は、
図9のステップSC4まで戻り、ステップSC4以降を繰り返す。
排水対策工が不要な場合(ステップSD1がNO)はステップSD2に進み、表示装置8のモニタ8上に「撤去工(取壊し工及び産業廃棄物処理)を行う」旨が表示される。そしてステップSD3において、表示装置8上に「モルタル吹付けによる法面安定工を行う」旨が表示される。
【0051】
上述のように、
図2では、地山が安定しているか否かを判断した後に、地山と密着しているか否かを判断している。
従来技術、例えば従来の遠赤外線影像法による吹付法面の老朽化診断技術では、地山が安定しているか否かを判断していない。そのため従来技術では、モルタルが地山と密着しておらず、その密着性が改善できない場合、換言すれば、地山の危険性が考慮されておらず、あるいは岩盤すべりや地すべりの危険性が考慮されていない場合には、そのような危険性を考慮すること無く、老朽化したモルタルの撤去を行う旨の診断をする可能性がある。
そして、地山における危険性を考慮すること無く、老朽化したモルタルの撤去を行う旨の診断をすることは、防災上、不適当である。
【0052】
これに対して、図示の実施形態は斜面の崩壊防止に係る技術であり、防災対策である。そして防災対策として最も重要な要素は地山の安定であることを前提に、制御が行われている。
そのため図示の実施形態では地山が安定しているか否かを最初に判断し、地山の危険性を考慮した上で、あるいは岩盤すべりや地すべりがないことを判断して上で、老朽化したモルタルの撤去を行うかどうかの診断をする。
そのため、モルタルが地山と密着しておらず、その密着性が改善できない場合に、老朽化したモルタルの撤去を行う旨の診断をしてしまうことがなく、安全性が高く、防災技術として適切である。
【0053】
また、
図2で示すように、図示の実施形態では、湧水による顕著な変状がないことを確認した後に、密着性を改善しているか否かを判断している。
湧水量が多い場合には裏込充填を行うことが出来ず、モルタルの地山に対する密着性は改善しない。
図2で示す工法選択の制御では、密着性の改善が可能かどうかの判断以前に湧水量が多いか否かを判断するので、湧水量が多いにも拘らず裏込充填を行ってしまうことが防止される。
【0054】
さらに図示の実施形態では、工法の選択に際して、必ず施工コストの演算を行なうので、コスト的に不利な工法を選択してしまう恐れが少ない。
なお、吹付工におけるコストは、施工現場の面積と底辺の長さから、容易に計算することが出来る。
【0055】
図2のステップS8、ステップS14、
図3のステップSB5、
図9のステップSC11、ステップSC15で行われる施工の一例(第1の施工例)を、
図12の工順に基づき、
図11を参照して説明する。
当該施工では、繊維補強モルタル吹付工と補強鉄筋工を含んでいる。
【0056】
図11において、先ず、法面TFの上方から下方に向かって命綱80を配置する(
図12における「準備工」SX1)。
ここで、施工現場の法面TFには、地山200と既設コンクリート吹付け層202の間に、風化されて不安定となった層201が存在する。
図11では、当該不安定層201と既設コンクリート吹付け層202との間に空洞204(或は空隙)も存在する。
【0057】
図12における「補強鉄筋工」SX2では、例えば長さ1mのL字鉄筋90を、既設コンクリート吹付け層202の表面から法面TFに対して直角に打ち込む。
ここで、法面TFに打ち込んだL字鉄筋90の頭部(L字部)は、吹付けられるモルタル層203の厚み内に残るように施工する。
【0058】
図12における「背面空洞注入工」SX3では、空洞(空隙)204の上端に位置する既設コンクリート吹付け(面)202の一部に注入用の孔を穿孔して、当該孔を介して注入材を空洞204内に注入する。この背面空洞注入工SX3は、空洞204の厚さが許容量以下の場合は省略することもできる。
「背面空洞注入工」SX3を実施する際には、法面TF下端に接続する地表GFに注入材圧送機(図示せず)を設置して行なう。そして吹付け作業員(図示せず)が前記図示しない注入材圧送機の吹付けホース(図示せず)の先端ノズル(図示せず)を抱え、空洞204に穿孔した注入用の孔から注入材を空洞204内に注入する。
【0059】
図12における「せん断ボルト工」SX4では、背面に空洞204が生じた近傍の既設コンクリート吹付け面202数箇所に、公知の工法によって専用のせん断ボルト91を埋設する。
【0060】
図12における「水抜きパイプ新設工」SX5では、既設コンクリート吹付け(面)202の空洞204の下端部に相当する位置に、水抜きパイプ92をその先端が僅かに下を向くような水平状態で埋設する。
【0061】
図12における「法面清掃工」SX6では、上記SX1〜SX5で使用した機器や各工法で発生した廃土を法面から撤去し、法面に散水して法面を清浄にする。
そして、「繊維補強モルタル吹付工」SX7を施工する。
【0062】
繊維補強モルタル吹付工SX7を施工している状態が
図11で示されている。
図11の例では、法面TF下端に接続する地表GFに湿式吹付機10Aを設置し、湿式吹付機10Aにコンクリートミキサ車CMからベルトコンベアBCを介して、繊維補強材を混入したセメントミルク(モルタルの材料)を投入する。
湿式吹付機10Aには、ノズル50Aを取り付けた吹付けホース17Aが接続されており、吹付け作業員Mが先端ノズル50Aを抱えて施工領域近傍まで移動する。
【0063】
吹付け作業員Mは命綱80で結わえられており、法面TF上に安全な状態で位置している。
そして、ノズル50Aから施工領域の上端から下端に向かって繊維補強材を混入したセメントミルクを法面TFに吹き付ける。
繊維補強モルタル吹付工SX7が完了したならば、作業者Mは命綱80を法面から取り外し、吹付けホース17Aとともに法面から地表GFに戻る。
【0064】
図2のステップS8、ステップS14、
図3のステップSB5、
図9のステップSC11、ステップSC15で好適に実施される繊維補強モルタル吹付の施工例は、
図11、
図12で示す第1の施工例に限定される訳ではない。
次に、
図13〜
図20を参照して、
図2のステップS8、ステップS14、
図3のステップSB5、
図9のステップSC11、ステップSC15で好適に実施される繊維補強モルタル吹付の第2の施工例について説明する。
【0065】
最初に
図13〜
図16を参照して、第2の施工例について説明する。
図13において、全体を符号100で示す固化材噴射システムは、コンクリートポンプ10と、移動式エアコンプレッサ20と、圧縮エアタンク21と、急硬剤供給ポンプ30と、急結剤供給ポンプ40と、噴射ノズル50を備えている。
【0066】
コンクリートポンプ10と噴射ノズル50の間には、コンクリートポンプ10側から噴射ノズル50に向かって、耐高圧ホース11、コンクリートシャッタ12、コンクリート管13、複数の耐磨耗高圧ホース14、エアリング管15、急硬剤混合リング32、テーパー管16、吹付けホース17が接続されている。
図13では、コンクリート管13は1本で示されているが、コンクリートポンプ10と噴射ノズル50との距離が長い場合には、複数のコンクリート管13を継ぎ足して用いることもある。
【0067】
エアリング管15の詳細は
図14で示されている。
図14において、エアリング管15はコンクリート流入口15aと2本のエア流入口15b、15cと、吐出口15dを有している。
コンクリート流入口15aは流入側(
図14では左側)において、3本ある管路の中央に位置しており、その内部には、例えばモルタル等の固化材が流れている。エア流入口15b、15cはコンクリート流入口15aを挟む様に配置されており、その内部にはエアが流過している。
コンクリート流入口15aを介して供給される固化材はエア流入口15b、15cから供給されるエアにより連行される。
図14において、エアリング管15とテーパー管16との間には、急硬剤混合リング32が配置されている。急硬剤混合リング32は急硬剤(スランプキリング剤)を固化材と合流させるための部材であり、且つ、急硬剤を固化材に均一に混合するために設けられている。
【0068】
図13において、移動式エアコンプレッサ20で生成された圧縮エアを貯蔵する貯蔵手段がエアタンク21である。エアタンク21には、エア流入口21aと3つのエア排出口21b、21c、21dが設けられている。
移動式エアコンプレッサ20とエアタンク21のエア流入口21aとは、エアホース22で接続されている。
エアタンク21のエア排出口21b、21cとエアリング管15のエア流入口15b、15cは、それぞれエアホース23、24によって接続されている。エアリング管15では、コンクリートポンプ10から供給された固化材と、移動式エアコンプレッサ20から供給された高圧エアが混合されることにより、固化材が高圧エアに連行されて噴射ノズル50まで到達し、噴射される。
【0069】
エアタンク21のエア排出口21dと急硬剤混合リング32におけるエア流入口32aは、エアホース25によって接続されている。
急硬剤供給ポンプ30と急硬剤混合リング32における急硬剤流入口32bは、急硬剤供給ホース31によって接続されている。そのため、急硬剤は、エアに連行されて急硬剤混合リング32へ供給される。
【0070】
図15において、急硬剤混合リング32は、急硬剤混合部(リング本体)320と、エア供給部32aと、急硬剤供給部32bと、T字型をした混合部32cを有している。急硬剤混合部(リング本体)320は、その内面が樹脂加工されており、固化材が付着しない様に構成されている。
エア供給部32aには開閉バルブ32avが介装されており、急硬剤供給部32bには開閉バルブ32bvが介装されている。
混合部32cには、急硬剤と高圧エアが流入する。急硬剤は、高圧エアに連行されて、高圧エアと混合されつつ急硬剤混合部320へ送られる。
高圧エア及びそれに連行された急硬剤は、急硬剤混合部(リング本体)320に流入して、急硬剤混合部(リング本体)320を流過する固化材と高圧エアとの混合流に合流して混合される。
【0071】
図15で示すように、急硬剤混合部320には混合部32cが接続している。この混合部32cは、
図14では図示が省略されている。
図14において、急硬剤混合リング32には、2つの孔(φ2mm)が穿孔されている円形の領域32Hのみが示されており、領域32Hに混合部32c(
図15参照)が接続される。
円形の領域32Hにφ2mmの2つの孔が穿孔されているのは、急硬剤の供給を確保するためである。2つの孔が穿孔されていれば、一方の孔が閉塞しても、他方の孔を経由して急硬剤が急硬剤混合リング32内を流れる固化材に供給される。これに対して、比較的大径の孔を一つのみ穿孔したのでは、当該比較的大径の孔が閉塞してしまうと、急硬剤は急硬剤混合リング32内を流れる固化材に供給されなくなってしまう。
【0072】
また、
図14において、エアリング管15に急硬剤混合リング32が接続され、急硬剤混合リング32にテーパー管16(の大径側)が接続されている。
仮にエアリング管15にテーパー管16を接続し、テーパー管16の(小径側)に急硬剤混合リング32を接続すると、テーパー管16内部の高圧エアが固化材の周辺を包囲する様に流れてしまう。その様な状態では、急硬剤と固化材の混合が良好に行われない。
そのため、急硬剤と固化材が、テーパー管16の上流側で混合される様に、急硬剤混合リング32の配置が決められている。
【0073】
図14において、テーパー管16の吐出口(小径側:
図14では右側)16bには、吹付けホース17が接続されている。
図13で示すように、吹付けホース17の先端には、噴射ノズル50の固化材注入口50aが接続されている(
図13参照)。
図13では、噴射ノズル50は、固化材注入口50aと急結剤注入口50bが一体になって構成されている様に示されているが、急結剤注入口50bは噴射ノズル50を構成していない。噴射ノズル50については、
図16を参照して後述する。
【0074】
図14及び
図16において、噴射ノズル50近傍には、噴射ノズル50に沿って、可撓性を有する急結剤噴射用ホース43が配置されている。
急結剤噴射用ホース43は、結束具(例えば、針金やビニルテープ)45によって、噴射ノズル50近傍に結わえられている。そして
図16では明示されていないが、急結剤噴射用ホース43は吹付けホース17に沿って延在している。
急結剤噴射用ホース43における噴射側43bとは反対側の端部43aには、合流管42の吐出側42cが接続されており、合流管42には急結剤の供給系統と高圧エアの供給系統が合流している。そして合流管42には、高圧エア流入部42aと、急結剤流入部42bが接続されている。そして上述した通り、合流管42の吐出側42cが急結剤噴射用ホース43に接続されており、急結剤噴射用ホース43は結束具45により、噴射ノズル50近傍に結束されている。
【0075】
急結剤流入部42bには急結剤供給ホース41が接続されており、高圧エア流入部42aにはエアホース(図示せず)が接続されている。明示されていないが、当該エアホースはエアタンク21(
図13参照)に接続している。
高圧エア流入部42aには開閉弁42avが介装され、急結剤流入部42bには開閉弁42bvが介装されている。
急結剤流入口42bに接続されている急結剤供給ホース41は、急結剤供給ポンプ40(
図13参照)と接続されている。
【0076】
吹付の際には、噴射ノズル50から固化材を噴射するのと同時に、高圧エア流入口42aの開閉弁42av及び急結剤流入口42bの開閉弁42bvを開放する。それにより、急結剤供給ホース41及び急結剤流入部42bを介して供給された急結剤は、エアホース及び高圧エア流入部42aを介して供給される高圧エアに連行され、急結剤噴射用ホース43から噴射される。
そして、噴射ノズル50からの固化材の噴流に急結剤の噴流が合流し、混合して、施工領域(例えば法面)に噴射される。上述した様に、固化材には急硬剤が混合されているので、急結剤の噴流と合流することにより、固化材には急硬剤と急結剤が混合されるので、瞬時に非流動化する。
【0077】
第2の施工例によれば、固化材に急硬剤を添加することにより固化材に含まれる水分が凝集して、吹付用固化材噴射の際に手持ちのノズル50に作用する噴出力が低減する。そのため、固化材の噴出量が多くても、作業者(ノズルマン)に過大な負担を与えてしまう恐れがない。
従って、吹付用機械が進入することが出来ない作業現場においても、作業者(ノズルマン)がノズル50を支持することにより(いわゆる「手持ち」)、吹付工を実施することが出来る。
【0078】
そして固化材に含まれる水分が凝集することにより、粉塵の発生量が低減して作業者の視界が確保され、作業環境が改善される。
例えば、従来技術に係る吹付工ではノズルから3m程度離れた箇所において視界は殆どゼロとなり、作業者の視界も悪いため作業が困難な場合が多い。それに対して本発明によれば、作業者の視界は作業遂行に十分な程度に明瞭な状態が維持される。
【0079】
また、第2の施工例によれば、固化材噴射の際に急結剤の噴流と合流するので、固化材中で急硬剤と急結剤が入り混じることとなり、吹付けられた固化材が瞬時に非流動化あるいは固化する。そのため、吹付けられた面(例えば、オーバーハング部やトンネル上部等)から固化材が落下し難くなる。
発明者の実験によれば、第2の施工例では、オーバーハング部やトンネル上部に吹付けられた固化材の落下量は、従来技術における落下量の30%程度まで軽減された。
そのため、第2の施工例によれば、従来技術に比較して、吹付用固化材の落下量が減少し、いわゆる「材料ロス」が低減し、作業コストが低減する。
【0080】
さらに急硬剤と急結剤が吹付用固化材に添加される第2の施工例では、急結剤のみを添加する場合と比較して、薬剤の使用量が減少する。
発明者の実験によれば、急結剤のみを使用した場合には、急結剤の使用量はセメントに対して7〜10重量%であった。それに対して、第2の施工例では、急硬剤と急結剤の使用量は、共に、セメントに対して3重量%であった。
急硬剤、急結剤の使用量が低減する結果、第2の施工例の施工コストは低減される。
【0081】
次に、
図17を参照して、第3の施工例について説明する。
図17で示す第3の施工例(固化材噴射システム全体に符号100Aを付す)では、第2の施工例における急結剤の供給系統が省略されている。
【0082】
すなわち、第3の施工例の固化材噴射システム100Aは、第2の施工例の固化材噴射システム100に対して、急結剤供給ポンプ40、急結剤供給ホース41、急結剤と高圧エアとが合流する合流管42、急結剤噴射用ホース43、結束具45、エアホース(
図13では図示せず)が省略(廃止)されている。
【0083】
上述したように、第3の施工例の固化材噴射システム100Aは、急結剤の供給系統は省略されているが、急硬剤が添加されるので、固化材に含まれる水分が凝集されて、吹付用固化材噴射の際における作業者(ノズルマン)手持ちのノズルに作用する噴出力が低減して、作業者の負担が軽くなる。
また、粉塵の発生量が低減して作業者の視界が確保され、吹付工における作業環境が改善される。
【0084】
さらにオーバーハング部やトンネル上部等に吹付ける場合に、急硬剤を混入しない従来技術に比較して、吹付用固化材の落下量が減少する。そのため、(急硬剤を混入しない従来技術に比較して、)作業コストが低減する。
図17で示す第3の施工例におけるその他の構成及び作用効果は、
図13〜
図16の第2の施工例と同様である。
【0085】
第2の施工例及び第3の施工例に係る固化材噴射システムで、吹付工に使用される固化材に好適に混入することが出来る繊維としては、例えば、
図18に示す繊維Fが好適である。
図18において、繊維Fは材質がポリプロピレンであり、その表面に多数の微小な凹部(エンボス)Fdが形成されている。当該凹部Fdの深さδは、0.1mm〜0.25mmである。凹部Fdを形成することにより繊維Fには親水性が付加されている。そして繊維Fの引張強度は600N/mm
2以上である。
第1の施工例及び第2の施工例の固化材噴射システムの固化材に繊維Fを混合するのであれば、例えば、図示しないコンクリートミキサによって生コンクリートの材料であるセメント(固化材)中に混練される。
【0086】
図19は、繊維Fの表面に多数の凹部(エンボス)Fdを形成するための設備を模式的に示している。
図19において、表面に多数の凹部(エンボス)Fdを形成する以前の状態の繊維(素線)Fmが、素線用リール1に巻き回されている。巻き回された素線Fmは、図示しない引き出し機構と、一対のローラ(エンボスの型のローラ)2、3により、矢印P方向に引き出される。
明確には図示されていないが、一対のローラ2、3の表面には、無数の微小な突起が形成されており、当該微小な突起の高さ寸法は、
図18の繊維Fにおける凹部Fdの深さ寸法δと対応している。
【0087】
素線Fmが一対のローラ(エンボスの型のローラ)2、3により引き出されることによって、素線Fm表面に微小な多数の凹部(エンボス)Fdが形成される。
ここで、素線Fmの表面に凹部(エンボス)Fdを形成すると、繊維Fの断面積は減少する。その結果、引張強度が減少し、補強性能が低下する恐れがある。
これに対して、当該繊維Fは、その引張強度を600N/mm
2以上まで向上させている。
【0088】
繊維Fの引張強度を向上する態様を
図20で説明する。
図19においてリールに巻き回されている素線Fmは、
図20で示す態様によって製造されている。
図20において、繊維素材(PP:ポリプロピレン)のペレットFpから、図示しない機構により素線Fmを矢印P1方向へ引き出している。この素線Fmを引き出す速度が速くなれば引き出された素線Fmの強度が減少し、素線Fmを引き出す速度が遅くなれば引き出された素線Fmの強度が増加する。
図示の施工例では、
図19で示す態様で凹部(エンボス)Fdを形成し、繊維Fの断面積を減少させることにより、引張強度が減少している。それを填補するため、
図20において、繊維素材(PP:ポリプロピレン)のペレットFpから素線を引き出す速度を減少し、以って素線の引張強度を高めている。
【0089】
図示の実施形態や施工例はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、図示の実施形態では工法選択の制御は工法選択装置100で行っているが、現場作業員が工法選択を実行することが可能である。すなわち、本発明においては、現場作業員により、図示の実施形態における工法選択を行なう場合も包含する。