特許第6241939号(P6241939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241939デバイス作製用基板、その製造方法及び近赤外線発光デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241939
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】デバイス作製用基板、その製造方法及び近赤外線発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/203 20060101AFI20171127BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20171127BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   H01L21/203 M
   H01L21/205
   H01L21/20
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-37437(P2014-37437)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-162605(P2015-162605A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】間野 高明
(72)【発明者】
【氏名】三石 和貴
(72)【発明者】
【氏名】野田 武司
(72)【発明者】
【氏名】大竹 晃浩
(72)【発明者】
【氏名】ハ ヌル
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−326582(JP,A)
【文献】 特開平02−074600(JP,A)
【文献】 特開平04−045519(JP,A)
【文献】 特開平10−107045(JP,A)
【文献】 米国特許第06072202(US,A)
【文献】 特開2008−108856(JP,A)
【文献】 米国特許第05877519(US,A)
【文献】 特開2006−278850(JP,A)
【文献】 特開平08−045844(JP,A)
【文献】 H. Munekata,Lattice Relaxation Of InAs Heteroepitaxy on GaAs,Journal of Crystal Growth,1987年,81,237-242
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/203
H01L 21/20
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAs基板又はGaAs基板に形成したGaAsバッファ層の(111)A面に格子緩和層と被格子緩和層をこの順序で積層したデバイス作製用基板であって、
前記格子緩和層が膜厚0.7nm以上1.8nm以下のInAs薄膜であり、
前記被格子緩和層がInM(III)As薄膜であり、
前記M(III)がGa又はAlであることを特徴とするデバイス作製用基板。
【請求項2】
前記M(III)がGaであり、前記被格子緩和層がInGa1−xAs膜(0.23≦x≦0.75)であることを特徴とするデバイス作製用基板。
【請求項3】
前記InGa1−xAs膜(0.23≦x≦0.75)の膜厚が50nm以上150nm以下であることを特徴とするデバイス作製用基板。
【請求項4】
GaAs基板又はGaAs基板に形成したGaAsバッファ層の(111)A面上に、膜厚0.7nm以上1.8nm以下のInAs薄膜からなる格子緩和層を形成する工程と、
前記格子緩和層上にInM(III)As薄膜(ここで、M(III)がGa又はAlである。)からなる被格子緩和層を形成する工程と、を有することを特徴とするデバイス作製用基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のデバイス作製用基板のInGaAs薄膜のデバイス作製面上に、薄膜を積層して、量子井戸構造を形成したことを特徴とする近赤外線発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス作製用基板、その製造方法及び近赤外線発光デバイスに関する。特に、格子歪みがなく、平坦な一面を有するデバイス作製用基板、その製造方法及び近赤外線発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
格子歪みがなく、平坦な一面を有するInGaAs(砒化インジウムガリウム)薄膜は、その上に、バンドギャップ及び格子定数を広い範囲で自由に制御可能なデバイスを構築できる基板として検討されている。特に、高移動度電子半導体デバイスや近赤外発光デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
通常、前記InGaAs薄膜は、市販されているGaAs(砒化ガリウム)半導体基板上にエピタキシャル成長させて作製される。
しかし、エピタキシャル成長の際、前記InGaAs薄膜の格子定数とGaAs基板の格子定数の相違により、InGaAs薄膜にGaAs基板との格子不整合に起因する歪みが生じ、更に、貫通転位などの欠陥が伝搬するという問題があった。
【0004】
この問題を解決するために様々な対策が取られてきた。
例えば、特許文献1では、欠損型化合物層である(GaSe)を界面に導入する事により歪みを緩和し、転位の発生伝搬を抑制している。しかし、Seを含む化合物の導入は、蒸気圧が高いためにGaAsの品質を大幅に低下させた。
【0005】
特許文献2では、多孔質化したGaAsを界面に導入する事により、転位の抑制を試みている。しかし、多孔質化したGaAs形成では、複雑なプロセスの導入が必要となり、歩留まりが悪化し、コストを高めた。
【0006】
非特許文献1では、有機気相成長(MOCVD)法を用い、GaAs(100)基板上に1ミクロン以上の格子緩和層と呼ばれるInGaAs中間層を導入して、歪みに起因する転位がIn0.3Ga0.7As疑似基板に伝搬するのを防いでいる。しかし、500nm以上という非常に厚い格子緩和層を導入する事により、製造コストを増大させるという問題を発生させた。
【0007】
非特許文献2には、分子線エピタキシー(MBE)法を用い、GaAs(100)基板上に組成の異なるInGaAsを3層積層することにより、同様に転位がIn0.23Ga0.77As疑似基板に伝搬するのを防いでいる。しかし、3層導入により、製造コストを増大させるという問題を発生させた。また、実用の際には結晶成長に必要なコストと作製の手間を大幅に悪化させた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−66366号公報
【特許文献2】特開2003−86607号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H.-Q.Nguyen et al.,Applied Physics Express 5,(2012)055503.
【非特許文献2】Z.Mi et al.,Journal of Vacuum Science & Technology B26,(2008)1153.
【非特許文献3】A.Ohtake et al.,Physical Review Letters 84,(2000)4665.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、格子歪みがなく、平坦な一面を有するデバイス作製用基板、その簡便な製造方法、上記構造を用いた近赤外線発光デバイスを提供することを課題とする。
【0011】
本発明者は、上記事情を鑑みて、分子線エピタキシー(MBE)法を用いてGaAs(111)A基板上に高品質の単結晶InAs薄膜を結晶成長により形成する研究を行ってきた(非特許文献3)。この研究では、分子線エピタキシー法をもちいて、GaAs(111)A基板表面上にInAsを成長させた場合、成長初期に転位が導入されて急峻に歪みが緩和することにより、高品質で平坦なInAs層を成長可能であることを報告した。そしてその成長の初期において、InAs表面の面内の格子定数がGaAsからInAsへと変化することを報告した。これらの知見に基づいて、試行錯誤を行った結果、GaAsの(111)A面上に、0.7nm以上1.8nm未満の厚さのInAs薄膜(格子緩和層)を導入するだけで、格子歪みがなく、平坦な一面を有するInGa1−xAs薄膜(0.23≦x≦0.75)(被格子緩和層)を形成することができ、本研究を完成した。また、被格子緩和層の上に量子井戸構造を形成することにより、近赤外域で発光するデバイスを作製できた。
本発明は、以下の構成を有する。
【0012】
(1) GaAs基板又はGaAs基板に形成したGaAsバッファ層の(111)A面に格子緩和層と被格子緩和層をこの順序で積層したデバイス作製用基板であって、前記格子緩和層が膜厚0.7nm以上1.8nm以下のInAs薄膜であり、前記被格子緩和層がInM(III)As薄膜であり、前記M(III)がGa又はAlであることを特徴とするデバイス作製用基板。
【0013】
(2) 前記M(III)がGaであり、前記被格子緩和層がInGa1−xAs膜(0.23≦x≦0.75)であることを特徴とするデバイス作製用基板。
(3) 前記InGa1−xAs膜(0.23≦x≦0.75)の膜厚が50nm以上150nm以下であることを特徴とするデバイス作製用基板。
【0014】
(4) GaAs基板又はGaAs基板に形成したGaAsバッファ層の(111)A面上に、膜厚0.7nm以上1.8nm以下のInAs薄膜からなる格子緩和層を形成する工程と、前記格子緩和層上にInM(III)As薄膜(ここで、M(III)がGa又はAlである。)からなる被格子緩和層を形成する工程と、を有することを特徴とするデバイス作製用基板の製造方法。
【0015】
(5) (1)〜(3)のいずれかに記載のデバイス作製用基板のInGaAs薄膜のデバイス作製面上に、薄膜を積層して、量子井戸構造を形成したことを特徴とする近赤外線発光デバイス。
【発明の効果】
【0016】
本発明のデバイス作製用基板は、GaAs基板又はGaAs基板に形成したGaAsバッファ層の(111)A面に格子緩和層と被格子緩和層をこの順序で積層したデバイス作製用基板であって、前記格子緩和層が膜厚0.7nm以上1.8nm以下のInAs薄膜であり、前記被格子緩和層がInM(III)As薄膜(ここで、M(III)がGa又はAlである。)である構成なので、格子緩和層が被格子緩和層の格子定数の歪みを無くし、被格子緩和層の露出面を二乗平均粗さ0.65nm以下で、格子定数の歪みの無い面とすることができ、膜厚を精密に限定して積層膜を形成することができ、所望の量子井戸構造を形成できる。これにより、優れた近赤外線発光デバイスを構築できる。
【0017】
本発明のデバイス作製用基板の製造方法は、GaAs基板又はGaAs基板に形成したGaAsバッファ層の(111)A面上に、膜厚0.7nm以上1.8nm以下のInAs薄膜からなる格子緩和層を形成する工程と、前記格子緩和層上にInM(III)As薄膜(ここで、M(III)がGa又はAlである。)からなる被格子緩和層を形成する工程と、を有する構成なので、二乗平均粗さ0.65nm以下で、格子定数の歪みの無い面を有する被格子緩和層を、非常に薄い格子緩和層を導入するだけで簡単に形成でき、二乗平均粗さ0.65nm以下で、格子定数の歪みの無い面を有するデバイス作製用基板を簡便に製造できる。
【0018】
本発明の近赤外線発光デバイスは、先に記載のデバイス作製用基板のInGaAs薄膜のデバイス作製面上に、薄膜を積層して、量子井戸構造を形成した構成なので、発光波長を近赤外に限定した発光デバイスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態であるデバイス作製用基板の一例を示す側面図である。
図2】本発明の実施形態であるデバイス作製用基板の製造方法の一例を示すフローチャート図である。
図3】本発明の実施形態である近赤外線発光デバイスの一例を示す側面図である。
図4】GaAs(111)A基板をインジウムハンダでモリブデン製基板ホルダに貼り付けてから加熱する様子を説明する図である。
図5】実施例1のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図6】実施例2のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図7】実施例2のデバイス作製用基板のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。
図8】実施例2のデバイス作製用基板を用いて作製した近赤外線発光デバイスの擬略側面図である。
図9】実施例2のデバイス作製用基板を用いて作製した近赤外線発光デバイスの発光スペクトルである。
図10】実施例3のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図11】比較例1のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図12】比較例1のデバイス作製用基板のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。
図13】比較例2のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図14】比較例1、2の一例を示す断面模式図である。
図15】比較例3のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図16】比較例4のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図17】比較例3、4の一例を示す断面模式図である。
図18】比較例5のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図19】比較例5のデバイス作製用基板のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。
図20】実施例4のデバイス作製用基板のIn0.51Ga0.49As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図21】実施例4のデバイス作製用基板のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。
図22】実施例5のデバイス作製用基板のIn0.75Ga0.25As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図23】実施例5のデバイス作製用基板のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。
図24】実施例6のデバイス作製用基板のIn0.52Al0.48As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図25】実施例6のデバイス作製用基板のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。
図26】実施例6のデバイス作製用基板を用いて作製した別の近赤外線発光デバイスの擬略側面図である。
図27】実施例6のデバイス作製用基板を用いて作製した別の近赤外線発光デバイスの発光スペクトルである。
図28】実施例7のデバイス作製用基板の(a)はIn0.23Ga0.77Asを50nm、(b)はIn0.23Ga0.77Asを100nm、(c)はIn0.23Ga0.77Asを150nm成長した表面のRHEEDパターンを示す図である。
図29】実施例8のデバイス作製用基板の(a)はIn0.52Al0.48Asを50nm、(b)はIn0.52Al0.48Asを100nm、(c)はIn0.52Al0.48Asを150nm成長した表面のRHEEDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(本発明の実施形態)
<デバイス作製用基板>
まず、本発明の実施形態であるデバイス作製用基板について説明する。
図1は、本発明の実施形態であるデバイス作製用基板の一例を示す側面図である。
図1に示すように、本発明の実施形態であるデバイス作製用基板31は、GaAs基板11と、GaAsバッファ層12と、InAs薄膜13と、InM(III)As膜14とをこの順序で積層してなる。
【0021】
InAs薄膜13の膜厚は0.7nm以上1.8nm以下とされている。InAs薄膜13を導入することにより、InAs薄膜13がその上に積層されるInM(III)As膜14を格子緩和して、格子歪みがなく、平坦な一面を有するInM(III)As膜14を形成できる。
0.7nm未満では、InAsを格子緩和できず、その上に形成するInM(III)As膜14も格子緩和できない。そのため、格子歪みがなく、平坦な一面を有するInM(III)As膜14を形成できない。例えば、InGa1−xAs は、一定の値まで格子緩和せず(GaAsの格子定数に合わせたまま)に成長し、その後、格子不整合転位が形成されることにより、表面が著しく荒れる。
【0022】
また、1.8nm超でも、InAs薄膜がInAs本来の特性を持ち始め、InAsとInGa1−xAsの間の格子不整合により、InGa1−xAs層の平坦性を悪化させる。格子歪みがなく、平坦な一面を有するInM(III)As膜14を形成できない。
【0023】
InM(III)As薄膜14は、In(III)1−xAs薄膜(0.23≦x≦0.75)であることが好ましい。これにより、InAs薄膜の平坦化が実現できる。0.23未満では格子定数がGaAsと近すぎるために、表面平坦性を悪化させる可能性があり、0.75超では、格子定数及びバンドギャップがInAsバルクと近くなりすぎるため、近赤外域デバイ作製用の基板として適さない。Gaの代わりにAlを用いた場合においても、同様の効果が期待できる。M(III)はGa又はAlである。
【0024】
GaAs基板の(111)A面上にInAs薄膜13を形成してもよいが、GaAs基板の(111)A面上に成膜されたGaAsバッファ層の(111)A面上にInAs薄膜13を形成することが好ましい。GaAs基板上にInAs薄膜13を成膜する場合に比べて、より清浄化された面にInAs薄膜13を成膜でき、不純物欠陥等を少なくできるためである。
【0025】
<デバイス作製用基板の製造方法>
次に、本発明の実施形態であるデバイス作製用基板の製造方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態であるデバイス作製用基板の製造方法の一例を示すフローチャート図である。
図2に示すように、本発明の実施形態であるデバイス作製用基板の製造方法は、InAs薄膜形成工程S1と、InGaAs薄膜成膜工程S2と、を有する。
【0026】
(InAs薄膜形成工程S1)
まず、GaAs基板の(111)A面を清浄化する。
次に、分子線エピタキシー(MBE)法で、GaAs基板の(111)A面上に、InAs薄膜を膜厚0.7nm以上1.8nm以下で形成する。
【0027】
(InGaAs薄膜成膜工程S2)
分子線エピタキシー(MBE)法で、InAs薄膜上にInGaAs薄膜を成膜する。
【0028】
なお、InAs薄膜形成工程S1の前工程として、GaAs基板の(111)A面を熱処理により酸化膜除去を行う事により清浄化してから、GaAs基板の(111)A面上にGaAsバッファ層を成膜するGaAsバッファ層成膜工程を設けてもよい。
【0029】
<近赤外線発光デバイス>
次に、本発明の実施形態である近赤外線発光デバイスについて説明する。
図3は、本発明の実施形態である近赤外線発光デバイスの一例を示す側面図である。
図3に示すように、本発明の実施形態である近赤外線発光デバイス61は、デバイス作製用基板31のInM(III)As膜14の一面14a上に、薄膜41〜50を積層して、量子井戸構造51を形成してなる。
【0030】
量子井戸構造51としては、例えば、InGa1−xAs量子井戸/InAl1−xAs構造や、InAs量子ドット/InAlGaAs構造を挙げることができる。
所定の波長の発光が可能な材料を選択し、量子井戸での閉じ込め効果を勘案することにより、所望の近赤外域領域で発光させることができる。
【0031】
本発明の実施形態であるデバイス作製用基板は、GaAs基板又はGaAs基板に形成したGaAsバッファ層の(111)A面に格子緩和層と被格子緩和層をこの順序で積層したデバイス作製用基板であって、前記格子緩和層が膜厚0.7nm以上1.8nm以下のInAs薄膜であり、前記被格子緩和層がInM(III)As薄膜(ここで、M(III)がGa又はAlである。)である構成なので、格子緩和層が被格子緩和層の格子定数の歪みを無くし、被格子緩和層の露出面を二乗平均粗さ0.65nm以下で、格子定数の歪みの無い面とすることができ、膜厚を精密に限定して積層膜を形成することができ、所望の量子井戸構造を形成できる。これにより、優れた近赤外線発光デバイスを構築できる。
【0032】
本発明の実施形態であるデバイス作製用基板は、前記M(III)がGa又はAlである構成なので、GaとAlの比率を変える事により禁制帯幅を制御できる。
【0033】
本発明の実施形態であるデバイス作製用基板は、前記M(III)がGaであり、前記被格子緩和層がInGa1−xAs膜(0.23≦x≦0.75)である構成なので、平坦な面であって、格子定数の歪みの無い面を形成することができる。
【0034】
本発明の実施形態であるデバイス作製用基板は、前記InGa1−xAs膜(0.23≦x≦0.75)の膜厚が50nm以上150nm以下である構成なので、平坦な面であって、格子定数の歪みの無い面を形成することができる。
【0035】
本発明のデバイス作製用基板の製造方法は、GaAs基板又はGaAs基板上に形成したGaAsバッファ層の(111)A面上に、膜厚0.7nm以上1.8nm以下のInAs薄膜からなる格子緩和層を形成する工程S1と、前記格子緩和層上にInM(III)As薄膜(ここで、M(III)がGa又はAlである。)からなる被格子緩和層を形成する工程S2と、を有する構成なので、二乗平均粗さ0.65nm以下で、格子定数の歪みの無い面を有する被格子緩和層を、非常に薄い格子緩和層を導入するだけで簡単に形成でき、二乗平均粗さ0.65nm以下で、格子定数の歪みの無い面を有するデバイス作製用基板を簡便に製造できる。
【0036】
本発明の近赤外線発光デバイスは、先に記載のデバイス作製用基板のInGaAs薄膜のデバイス作製面上に、薄膜を積層して、量子井戸構造を形成した構成なので、発光波長を近赤外に限定した発光デバイスとすることができる。
【0037】
本発明の実施形態であるデバイス作製用基板、その製造方法及び近赤外線発光デバイスは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
図4は、GaAs(111)A基板をインジウムハンダでモリブデン製基板ホルダに貼り付けてから加熱する様子を説明する図である。
まず、図4に示すようにGaAsの(111)A面基板(市販)をインジウムハンダにより、モリブデン製基板ホルダに貼り付けた。
次に、結晶成長装置の超高真空チャンバー内にこれを配置した。
次に、砒素雰囲気下、裏面のヒーターによりGaAs基板を約600℃に加熱して、自然酸化膜を蒸発させた。
次に、砒素雰囲気下、裏面のヒーターによりGaAs基板を500℃に加熱して、ガリウムを供給して、(111)A面上にGaAsをホモエピタキシャル成長させて、GaAsバッファ層を形成した。これによりGaAs(111)Aの清浄表面を得た。
【0039】
次に、分子線エピタキシー(MBE)法により、砒素雰囲気下でインジウムを照射して、厚さが0.7nmのInAs層を形成した。
成長条件としては、基板温度400〜500℃、砒素分子線強度1〜10×10−5Torr程度、In成長速度はInAsに換算して0.06nm/sec程度とした。
【0040】
次に、分子線エピタキシー(MBE)法により、表面の平坦性に優れ、且つ、低欠陥密度であるIn0.23Ga0.77Asエピタキシャル薄膜を150nmの厚さで形成した。
以上により、実施例1のデバイス作製用基板「In0.23Ga0.77As/InAs(0.64nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図5は、実施例1のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【0041】
(実施例2)
InAs層の膜厚を1nmとした他は実施例1と同様にして、実施例2のデバイス作製用基板「In0.23Ga0.77As(150nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図6は、実施例2のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図7は、実施例2のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。In0.23Ga0.77Asに起因する単峰ピークがx=−5.6441、y=7.0292に観察される。この2つの数値から面内(11-2)と成長方向(111)の格子定数の比(d111/d11−2)が、1.405163と求まる。無歪みのIn0.23Ga0.77Asではこの値は、1.414であることから、99%以上の格子緩和が実現されている。
【0042】
次に、実施例2のデバイス作製用基板のInGaAs薄膜の一面上に、薄膜を積層して、量子井戸構造を形成して、近赤外線発光デバイスを作製した。
図8は、実施例2のデバイス作製用基板を用いて作製した近赤外線発光デバイスの擬略側面図である。
図9は、実施例2のデバイス作製用基板を用いて作製した近赤外線発光デバイスの発光スペクトルである。
【0043】
(実施例3)
InAs層の膜厚を1.8nmとした他は実施例1と同様にして、実施例3のデバイス作製用基板「In0.23Ga0.77As(150nm)/InAs(1.8nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図10は、実施例3のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【0044】
(比較例1)
InAs層を形成しなかった他は実施例1と同様にして、比較例1のデバイス作製用基板「In0.23Ga0.77As(150nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図11は、比較例1のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図12は、比較例1のデバイスス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。In0.23Ga0.77Asに起因するピークがx=―5.7213、y=7.0046にピークが観察される。また、ピークが面内の格子定数がGaAsと一致する方向にも広がっている。このことから、初めに格子緩和していない層が成長した後に一部格子緩和した層が成長されている事が分かる。
【0045】
(比較例2)
InAs層の膜厚を0.38nmとした他は実施例1と同様にして、比較例2のデバイス作製用基板「In0.23Ga0.77As/InAs(0.4nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図13は、比較例2のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図14は、比較例1、2の一例を示す断面模式図である。
【0046】
(比較例3)
InAs層の膜厚を3.5nmとした他は実施例1と同様にして、比較例3のデバイス作製用基板「In0.23Ga0.77As/InAs(3.5nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図15は、比較例3のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【0047】
(比較例4)
InAs層の膜厚を20.8nmとした他は実施例1と同様にして、比較例4のデバイス作製用基板「In0.23Ga0.77As/InAs(20.8nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図16は、比較例4のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図17は、比較例3、4の一例を示す断面模式図である。
【0048】
(比較例5)
In0.23Ga0.77As層の膜厚を80nmとした他は比較例2と同様にして、比較例5のデバイス作製用基板「In0.23Ga0.77As(80nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図18は、比較例5のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図19は、比較例5のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。In0.23Ga0.77As(80nm)に起因するピークが観測されるが。面内の格子定数はGaAs基板と一致しており、全く格子緩和していない層が成長している事が分かる。
【0049】
(実施例4)
InGaAs層のIn組成をIn0.51Ga0.49Asとした他は実施例2と同様にして、実施例4のデバイス作製用基板「In0.51Ga0.49As(150nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図20は、実施例4のデバイス作製用基板のIn0.23Ga0.77As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図21は、実施例4のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。In0.51Ga0.49Asに起因する単峰ピークがx=―5.5609、y=6.8796に観察される。この2つの数値から成長方向と面内方向の格子定数の比(d111/d11−2)が、1.414555と求まる。無歪みのIn0.51Ga0.49Asではこの値は、1.414であることから、99%以上の格子緩和が実現されている。
【0050】
(実施例5)
InGaAs層のIn組成をIn0.75Ga0.25Asとした他は実施例2と同様にして、実施例4のデバイス作製用基板「In0.75Ga0.25As(150nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図22は、実施例5のデバイス作製用基板のIn0.75Ga0.25As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図23は、実施例5のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。In0.75Ga0.25Asに起因する単峰ピークがx=―5.488、y=6.7714に観察される。この2つの数値から成長方向と面内方向の格子定数の比(d111/d11−2)が、1.418318と求まる。無歪みのIn0.75Ga0.25Asではこの値は、1.414であることから、99%以上の格子緩和が実現されている。
【0051】
(実施例6)
被格子緩和層をIn0.52Al0.48Asとした他は、実施例2と同様にして、実施例6のデバイス作製用基板「In0.52Al0.48As(150nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)A」を作製した。
図24は、実施例6のデバイス作製用基板のIn0.52Al0.48As表面の5μm×5μmの領域の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図25は、実施例6のデバイス作製用基板のX線回折(115)入射逆格子マッピングの結果である。In0.52Al0.48Asに起因する単峰ピークがx=―5.5417、y=6.8994に観察される。この2つの数値から成長方向と面内方向の格子定数の比(d111/d11−2)が、1.405626と求まる。無歪みのIn0.52Al0.48Asではこの値は、1.414であることから、99%以上の格子緩和が実現されている。
【0052】
次に、実施例6のデバイス作製用基板のInAlAs薄膜の一面上に、薄膜を積層して、量子井戸構造を形成して、近赤外線発光デバイスを作製した。
図26は、実施例6のデバイス作製用基板を用いて作製した近赤外線発光デバイスの擬略側面図である。
図27は、実施例6のデバイス作製用基板を用いて作製した近赤外線発光デバイスの発光スペクトルである。
【0053】
(実施例7)
被格子緩和層であるIn0.23Ga0.77Asの厚さ以外は実施例2と同様にして、実施例7のデバイス作製用基板「In0.23Ga0.77As(50nmまたは100nmまたは150nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)A」を作製した。図28は、実施例7のデバイス作製用基板の表面のRHEEDパターンを示す図である。50nm、100nm、150nmいずれの場合の於いても表面が平坦であることを表すストリークパターンが観察されている。また、図7に示すようにIn0.23Ga0.77As(150nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)AにおいてすべてのIn0.23Ga0.77As(150nm)は格子緩和していることから、In0.23Ga0.77As(50nmまたは100nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)Aも格子緩和している事がわかる。
【0054】
(実施例8)
被格子緩和層であるIn0.52Al0.48Asの厚さ以外は、実施例6と同様にして、実施例8のデバイス作製用基板「In0.52Al0.48As(50nmまたは100nmまたは100nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)A」を作製した。図29は、実施例8のデバイス作製用基板の表面のRHEEDパターンを示す図である。50nm、100nm、150nmいずれの場合の於いても、表面が平坦であることを表すストリークパターンが観察されている。また、図25に示すようにIn0.52Al0.48As(150nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)AにおいてすべてのIn0.52Al0.48As(150nm)は格子緩和していることから、In0.52Al0.48As(50nmまたは100nm)/InAs(1.0nm)/GaAs(111)Aも格子緩和している事がわかる。
表1に、各実験条件及び結果をまとめた。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、デバイス作製用基板、その製造方法及び光ファイバー通信に適合した波長帯の発光を有する近赤外線発光デバイスに関するものであり、情報通信産業、半導体産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0057】
11…GaAs基板、11a…(111)A面、12…GaAsバッファ層、12a…(111)A清浄化面、13…格子緩和層(InAs薄膜)、14…被格子緩和層(InM(III)As膜)、14a…デバイス作製面、31…デバイス作製用基板、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50…薄膜、51…量子井戸構造、61…近赤外線発光デバイス。
図1
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