特許第6241940号(P6241940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241940アルミナセラミックス部材及びアルミナセラミックス部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241940
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】アルミナセラミックス部材及びアルミナセラミックス部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20171127BHJP
   C04B 35/119 20060101ALI20171127BHJP
   C04B 35/51 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C04B35/117
   C04B35/119
   C04B35/51
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-45006(P2014-45006)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-34120(P2015-34120A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-145944(P2013-145944)
(32)【優先日】2013年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】吉田 早侑
(72)【発明者】
【氏名】村田 征隆
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−212273(JP,A)
【文献】 特開2003−086475(JP,A)
【文献】 特開2006−199562(JP,A)
【文献】 特開2002−037660(JP,A)
【文献】 特開2001−294480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均結晶粒径が12.4μm〜40μmのアルミナを主結晶相とし、1種以上の希土類元素を含む酸化物とからなり、アルミナ粒界を有するアルミナセラミックス焼結体であるアルミナセラミックス部材において、
アルミナ元素含有量が50〜75mol%、希土類元素含有量が25〜50mol%であり、アルミナ以外の1種以上の結晶相を含むことを特徴とするアルミナセラミックス部材。
【請求項2】
前記酸化物が複合酸化物であることを特徴とする請求項1記載のアルミナセラミックス部材。
【請求項3】
前記酸化物が2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミナセラミックス部材。
【請求項4】
前記希土類元素のうちの少なくとも1種がY、La、Sm、Gd及びErのうちのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミナセラミックス部材。
【請求項5】
さらにジルコニウム元素を1〜25mol%含有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミナセラミックス部材。
【請求項6】
2%水酸化ナトリウム水溶液に230℃、3MPaで48時間加圧溶解させた際の重量減少率が3%以下、開気孔率が0.2%以下、曲げ強度が200MPa以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のアルミナセラミックス部材。
【請求項7】
アルミナ粉末に希土類元素を含む酸化物の粉末をアルミナ粉末全量中25〜50mol%添加して造粒粉を作製し、前記造粒粉を成形し、水素雰囲気下1600〜1800℃で焼成することを特徴とするアルミナセラミックス部材の製造方法。
【請求項8】
ジルコニア粉末を前記アルミナ粉末全量中1〜25mol%さらに添加することを特徴とする請求項7に記載のアルミナセラミックス部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ溶液に対する耐食性に優れており、例えば、半導体製造装置用や発電所等のボイラー用の水位計の保護管等に好適なアルミナセラミックス部材及びそのアルミナセラミックス部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナセラミックスは、耐食性及び耐熱性に優れており、比較的安価なセラミックス材料であることから、従来より、半導体製造装置等の熱処理用部材や測温用保護管等に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、結晶粒径及び粒子形態を制御した高純度のアルミナセラミックスは、耐熱衝撃性及び耐食性に優れているため、熱処理用部材に好適であることが記載されている。
【0004】
ところで、発電所等のボイラー水は、缶体の腐食を防止するために、pH12程度のアルカリ性に保たれている。このため、ボイラー水の水位計にも、耐食性の観点から、アルミナセラミックスが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−306651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、耐食性に優れたアルミナセラミックスであっても、高温・高圧環境下で強アルカリ雰囲気に長期間曝された状態においては、アルミナ粒子及び粒界の腐食が徐々に進行し、導通を引き起こし、装置設備の故障原因となるおそれがある。
実際に、上記特許文献1に記載されているような高純度アルミナセラミックスは、2%水酸化ナトリウム水溶液による230℃、3MPaでの48時間の加圧溶解試験における重量減少率が4〜5%であり、このアルミナセラミックスをボイラー水位計用保護管に使用したところ、耐久年数は約1年であった。
【0007】
したがって、前記ボイラー水位計用保護管のようにアルカリ溶液中で使用される場合においても、十分な強度を有しており、かつ、従来よりも長期間耐用可能である耐久性の高い材料が求められている。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、耐食性及び強度特性に優れており、従来品よりも高い耐久性を有するアルミナセラミックス部材及びそのアルミナセラミックス部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るアルミナセラミックス部材は、平均結晶粒径が12.4μm〜40μmのアルミナを主結晶相とし、1種以上の希土類元素を含む酸化物とからなり、アルミナ粒界を有するアルミナセラミックス焼結体であるアルミナセラミックス部材において、アルミナ元素含有量が50〜75mol%、希土類元素含有量が25〜50mol%であり、アルミナ以外の1種以上の結晶相を含むことを特徴とする。
このような希土類酸化物を含む所定のアルミナセラミックス部材は、アルカリ溶液に対する優れた耐食性を有しており、従来品よりも耐久性の向上が図られる。
【0010】
前記酸化物は、複合酸化物であってもよく、また、2種以上の化合物であってもよい。
【0011】
前記希土類元素は、具体的には、少なくとも1種が、Y、La、Sm、Gd及びErのうちのいずれかであることが好ましい。
【0012】
前記アルミナセラミックス部材は、さらにジルコニウム元素を1〜25mol%含有していても良い。
【0014】
さらに、前記アルミナセラミックス部材は、2%水酸化ナトリウム水溶液に230℃、3MPaで48時間加圧溶解させた際の重量減少率が3%以下、開気孔率が0.2%以下、曲げ強度が200MPa以上であることが好ましい。
このような加圧溶解試験の基準を満たしているセラミックス部材であれば、アルカリ溶液に対して非常に高い耐食性を有していると言えるものである。
【0015】
また、本発明に係るアルミナセラミックス部材の製造方法は、アルミナ粉末に希土類元素を含む酸化物の粉末をアルミナ粉末全量中25〜50mol%添加して造粒粉を作製し、前記造粒粉を成形し、水素雰囲気下1600〜1800℃で焼成することを特徴とする。
ここで、ジルコニア粉末を前記アルミナ粉末全量中1〜25mol%さらに添加することが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐食性及び強度特性に優れており、従来品よりも高い耐久性を有するアルミナセラミックス部材を提供することができる。したがって、本発明に係るアルミナセラミックス部材は、強アルカリ環境下においても長期間の耐用が可能であり、半導体製造装置用や発電所等のボイラー用の水位計の保護管等として好適に適用することができる。
また、本発明に係る製造方法によれば、上記のようなアルミナセラミックス部材を好適に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係るアルミナセラミックス部材は、アルミナを主結晶相とし、1種以上の希土類元素を含む所定の酸化物とからなるものである。前記酸化物は、複合酸化物であってもよく、また、2種以上の化合物であってもよい。例えば、希土類元素酸化物が1種もしくは2種以上、又は、希土類元素以外の金属元素であるアルミニウム等と希土類元素酸化物との複合酸化物、あるいはまた、これらの混合物とする。
すなわち、本発明に係るアルミナセラミックス部材は、アルミニウムと希土類元素を金属元素として含むアルミナセラミックスからなる。
ここで、本発明で言う主結晶相とは、2つ以上の結晶相のうち、モル比率が最も大きい結晶相を指す。
【0018】
前記アルミナセラミックス部材においては、アルミニウム元素含有量を50〜99mol%とする。
前記含有量が50mol%未満の場合、該セラミックス部材の強度が低下する。一方、99mol%超の場合は、希土類元素を含む酸化物を含有していることによる効果が得られず、耐食性は向上しない。特に、アルミナ元素含有量が50〜75mol%であることが好ましい。
【0019】
また、希土類元素含有量は1〜50mol%とする。
前記含有量が1mol%未満の場合、希土類元素を含む酸化物を含有していることによる効果が得られず耐食性は向上しない。一方、50mol%超の場合は、該セラミックス部材の強度が低下する。特に、希土類元素含有量が25〜50mol%であることが好ましい。
なお、本発明におけるアルミニウム元素含有量及び希土類元素含有量は、前記アルミナセラミックス部材を蛍光X線分析で測定し、それぞれ酸化物に換算した値である。
【0020】
さらに、前記アルミナセラミックス部材は、アルミナの結晶相以外に結晶相を1種以上含んでいる。アルミナ以外の結晶相は、希土類元素酸化物の結晶相、希土類元素とアルミニウムの混合酸化物の結晶相又はジルコニアの結晶相等である。
前記アルミナ以外の結晶相を含まない場合は、上述したように、アルミナ粒子及び粒界の腐食が進行し、十分な耐食性が得られない。
【0021】
前記酸化物は、複合酸化物であることが好ましい。
さらに、前記複合酸化物は、アルミニウムと希土類元素の複合酸化物であることがより好ましい。このような複合酸化物であることにより、アルカリ耐食性の高い結晶相が含まれることとなり、アルミナセラミックス部材の耐食性の向上が図られる。
【0022】
また、前記酸化物は、2種以上の化合物であることが好ましい。2種の化合物の組み合わせとしては、具体的には、複合酸化物と希土類元素酸化物、異なる2種の希土類元素の酸化物、複合酸化物とジルコニア、又は、希土類元素酸化物とジルコニアであることが好ましい。なお、前記酸化物は、このような2種の化合物に限らず、さらに別の化合物を含む3種以上であってもよい。
この場合、2種以上の化合物からなる前記酸化物の含有量は、合計で1〜50mol%であることが好ましい。これにより、耐食性及び強度特性に優れたアルミナセラミックス部材を得ることができる。
【0023】
前記希土類元素は、具体的には、少なくとも1種が、Y、La、Sm、Gd及びErのうちのいずれかであることが好ましい。
【0024】
前記アルミナセラミックス部材は、さらにジルコニウム元素を1〜49mol%含有していてもよい。特に、ジルコニウム元素を1〜25mol%含有していてもよい。
ジルコニアの添加により、希少で高コストである希土類元素酸化物の含有量を抑制することができ、この場合においても、同等の高密度化及び耐食性の向上を図ることができる。
なお、ジルコニウム元素含有量も、前記アルミナセラミックス部材を蛍光X線分析で測定し、酸化物に換算した値である。
【0025】
また、前記アルミナセラミックス部材中におけるアルミナの平均結晶粒径は5〜40μmであることが好ましい。
平均結晶粒径が5μm未満の場合、粒界の存在が増加し、腐食の起点となりやすくなる。一方、40μm超の場合、粗大粒子が多く含まれることとなり、該セラミックス部材の強度が低下することとなる。
特に、前記平均結晶粒径は、12.4μm〜40μmであることが好ましい。
なお、本発明における平均結晶粒径は、セラミックス部材表面の顕微鏡観察を行い、面積法により測定した値である。
【0026】
前記アルミナセラミックス部材は、アルカリ溶液に対する耐食性に優れていることを特徴とするものであり、具体的な指標としては、2%水酸化ナトリウム水溶液に230℃、3MPaで48時間加圧溶解させるアルカリ耐食性試験において、重量減少率が3%以下であることが好ましい。
このようなアルカリ耐食性試験(加圧溶解試験)による基準値を満たすものであれば、アルカリ溶液環境下においても長期間の耐用が可能であり、例えば、ボイラー用の水位計の保護管等として好適に適用することができる。
前記重量減少率が3%超の場合は、アルカリ溶液に対する耐食性が十分であるとは言えず、上記のようなアルカリ溶液環境下での耐久性に劣る。
【0027】
また、開気孔率は0.2%以下であることが好ましい。
開気孔率が0.2%未満の場合、該セラミックス部材中の気孔が多く、強度低下を招き、また、気孔を起点とした腐食や侵食が生じやすく、耐食性に劣る。
なお、開気孔率は、JIS R 1634準拠により測定することができる。
【0028】
また、該セラミックス部材が半導体製造装置やボイラー用水位計等の用途で使用される場合に求められる強度としては、曲げ強度が200MPa以上であることが好ましい。
なお、本発明における曲げ強度は、JIS R 1601準拠による4点曲げ強度試験の測定値とする。
【0029】
上記のようなアルミナセラミックス部材は、その製造方法は特に限定されるものではなく、公知のセラミックスの製造方法により得ることができるが、以下で述べるような方法により製造することが好ましい。
まず、アルミナ粉末に、希土類元素を含む酸化物の粉末を原料粉末全量中1〜50mol%添加して造粒粉を作製する。そして、前記造粒粉を成形し、脱脂後、水素雰囲気下、1600〜1800℃で焼成する。ジルコニアを含有するアルミナセラミックス部材を製造する場合には、前記造粒粉作製時に、希土類元素を含む酸化物の粉末の添加量を原料粉末全量中1〜49mol%とし、さらにジルコニア粉末を原料粉末全量中1〜49mol%添加する。
【0030】
原料粉末である前記アルミナ粉末及び希土類元素を含む酸化物粉末は、いずれも、平均粒径0.1〜10μmであることが好ましい。
原料粉末の粒径は、造粒粉の均一性に影響し、1次粒子径が小さいほど、均一な造粒粉が得られ、流動性や充填性が向上し、成形体密度及び内部組織の均一化が図られる。
平均粒径が0.1μm未満の場合、粒径が小さすぎて、取扱いが困難となる。一方、10μm超の場合は、上記のような十分な均一性を有する造粒粉が得られ難い。
【0031】
成形は、通常、成形型に前記造粒粉を充填し、CIP成形により行われる。
CIP成形は、均質で高密度な成形体を得ることができ、複雑形状や大型製品の作製に適している。
【0032】
焼成は、水素雰囲気下、1600〜1800℃で行うことが好ましく、その後、さらに大気焼成することがより好ましい。
アルミナは水素雰囲気で焼成すると、粒界の気孔が除去しやすく緻密になりやすい。さらに、大気焼成を施すことによって、残存応力が除去され、得られるセラミックス部材の強度の向上が図られる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
純度99.5%以上のアルミナ粉末に、下記表1の各実施例及び比較例に示すような希土類元素を含む酸化物の粉末を原料粉末全量中1〜50mol%添加して造粒粉を作製し、前記造粒粉を成形型内に充填し、CIP成形を行った。この成形体を脱脂後、水素雰囲気下、1600〜1800℃で焼成し、各焼結体を得た。
【0034】
また、純度99.5%以上のアルミナ粉末に、下記表2,3の各実施例及び比較例に示すような希土類元素を含む酸化物又はジルコニアの粉末を原料粉末全量中1〜49mol%それぞれ添加して造粒粉を作製し、前記造粒粉を成形型内に充填し、CIP成形を行った。この成形体を脱脂後、水素雰囲気下、1600〜1800℃で焼成し、各焼結体を得た。
【0035】
得られた各焼結体の一部を切り取り、JIS R 1634準拠により開気孔率を測定し、JIS R 1601準拠による4点曲げ強度試験を行った。
また、2%水酸化ナトリウム水溶液に230℃、3MPaで48時間加圧溶解させるアルカリ耐食性試験を行い、この試験前後での重量測定から重量減少率を算出することにより、アルカリ溶液に対する耐食性の評価を行った。
下記表1に、各焼結体の評価結果をまとめて示す。
表1において、曲げ強度の評価は、200MPa以上:○、200MPa未満:×とした。
【0036】
なお、前記希土類元素を含む酸化物としては、Y23、La23、Er23、Y3Al512、Y4Al29、Er3Al512及びEr4Al29を代表例として用いた。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
表1,2,3に示した結果から分かるように、実施例1〜26、参考例1〜19の焼結体は、強度特性に優れ、かつ、重量減少率が小さく、アルカリ溶液に対する耐食性に優れていることが認められた。特に、実施例1〜26の焼結体は、強度特性に優れ、かつ、重量減少率が小さく、アルカリ溶液に対する耐食性に優れていることが認められた。