(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記模様形成工程において、前記第1漆膜の一部を被覆材で被覆した状態で焼き付け処理を行うことにより、被覆されない部分を焼成した焼成部と、被覆されて焼成しない非焼成部とを形成する請求項1又は2に記載の模様漆膜付建材の製造方法。
前記第1漆膜形成工程の前に、前記建材の表面に膠を付与し、乾燥させることにより、膠膜を形成する膠膜形成工程を行う請求項1〜5のいずれか1項に記載の模様漆膜付建材の製造方法。
前記建材が、コンクリート、モルタル、セメント、ケイ酸カルシウム板、フレキシブルボード、石材、レンガ又は不燃化された木材である請求項1〜7のいずれか1項に記載の模様漆膜付建材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の塗料、及び、上記特許文献2及び3に記載の方法においては、漆調の質感を得ることはできるものの、純粋な天然漆の適用ではないために、漆特有の色調や高級感を十分に表現できず、また、あくまで単色であり、漆膜自体に複数の色からなる模様を形成することはできない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、建材に塗装された漆からなる漆膜自体に模様を付与することができる模様漆膜付建材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、建材に付与された漆を焼成することにより、漆が変色することを見出した。そして、建材に塗装された漆のうち、所望の位置の漆を積極的に変色させて焼成部とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、(1)漆からなる漆膜に模様が付与された模様漆膜付建材の製造方法であって、建材の表面に漆を塗装し、乾燥させることにより、第1漆膜を形成する第1漆膜形成工程と、第1漆膜の一部を焼成した焼成部と、残りの焼成しない非焼成部とを形成し、該焼成部と該非焼成部とで模様を形成する模様形成工程と、第1漆膜の表面に更に漆を塗装し、乾燥させることにより、第2漆膜を形成する第2漆膜形成工程と、を備え、焼成部が、焼成により、第1漆膜を変色させた部分である模様漆膜付建材の製造方法に存する。
【0009】
本発明は、(2)焼成をバーナーによる焼き付けにより行う上記(1)記載の模様漆膜付建材の製造方法に存する。
【0010】
本発明は、(3)模様形成工程において、第1漆膜の一部を被覆材で被覆した状態で焼き付け処理を行うことにより、被覆されない部分を焼成した焼成部と、被覆されて焼成しない非焼成部とを形成する上記(1)又は(2)に記載の模様漆膜付建材の製造方法に存する。
【0011】
本発明は、(4)第1漆膜形成工程及び模様形成工程の組み合わせを複数回行う上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の模様漆膜付建材の製造方法に存する。
【0012】
本発明は、(5)第2漆膜形成工程を複数回行い、該第2漆膜形成工程同士の間に、表面に細かな溝を形成する研ぎ工程を行う上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の模様漆膜付建材の製造方法に存する。
【0013】
本発明は、(6)第1漆膜形成工程の前に、建材の表面に膠を付与し、乾燥させることにより、膠膜を形成する膠膜形成工程を行う上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の模様漆膜付建材の製造方法に存する。
【0014】
本発明は、(7)漆が、天然漆である上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の模様漆膜付建材の製造方法に存する。
【0015】
本発明は、(8)建材が、コンクリート、モルタル、セメント、ケイ酸カルシウム板、フレキシブルボード、石材、レンガ又は不燃化された木材である上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の模様漆膜付建材の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の模様漆膜付建材の製造方法においては、第1漆膜を形成する第1漆膜形成工程と、第2漆膜を形成する第2漆膜形成工程とを備えるので、建材の表面に漆独特の色調と、高い質感を付与することができる。
また、建材を、熱や湿気だけでなく、酸、アルカリにも強く、耐腐敗性、耐防虫性に優れるものとすることができる。
【0017】
本発明の模様漆膜付建材の製造方法においては、第1漆膜を積極的に焼成して変色させた焼成部と、焼成しない非焼成部とで模様を形成する模様形成工程を備えるので、漆からなる漆膜に模様を付与することができる。
なお、焼成部は、第1漆膜の任意の位置に設けることができる。
これにより、得られる模様漆膜付建材は、上述した漆独特の特徴を有するだけでなく、デザイン性にも優れるものとなる。
【0018】
本発明の模様漆膜付建材の製造方法においては、焼成をバーナーによる焼き付けにより行う場合、ハンドリングでの焼成が可能となる。すなわち、所望の位置に焼成部を形成することが容易となるため、よりデザイン性に優れる模様漆膜を形成することができる。
また、作業性にも優れる。
【0019】
本発明の模様漆膜付建材の製造方法においては、第1漆膜の一部を被覆材で被覆し、被覆した部分が焼成されないようにした状態で、第1漆膜に焼き付け処理を行うことにより、焼成部と、非焼成部とを、容易に形成することができる。すなわち、被覆材で被覆されない部分が焼成されて焼成部となり、被覆材で被覆された部分が焼成されない非焼成部となる。
また、比較的単純な模様を形成する場合は、部分的に焼き付け処理を行うのではなく、全面に対して一度に焼き付け処理を行うことも可能である。
【0020】
本発明の模様漆膜付建材の製造方法においては、第1漆膜形成工程及び模様形成工程の組み合わせを複数回行うことにより、焼成部の変色の度合いを変えることができる。すなわち、塗装と焼き付けを複数回行った焼成部と、塗装と焼き付けを1回だけ行った焼成部とでは、同じ焼成部であっても変色の度合いが異なることになる。
この場合、模様漆膜付建材の製造方法においては、複数の色数でより複雑なデザインを表現することが可能となる。
【0021】
本発明の模様漆膜付建材の製造方法においては、第2漆膜形成工程を複数回行うことにより、漆独特の色調と、高い質感を確実に付与することができる。
このとき、第2漆膜形成工程同士の間に、表面に細かな溝を形成する研ぎ工程を行うことにより、第2漆膜の接着性が大きく向上し、第2漆膜が剥がれ難くなる。
【0022】
本発明の模様漆膜付建材の製造方法においては、第1漆膜形成工程の前に、膠膜を形成する膠膜形成工程を行うことにより、得られる模様漆膜付建材の全体的な色調及び質感を極めて向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0025】
本発明に係る模様漆膜付建材の製造方法においては、建材に形成された、漆からなる漆膜に模様が付与される。すなわち、模様漆膜付建材の「模様漆膜」とは、それ自体に模様が付与された漆膜を意味する。
ここで、漆としては、天然漆が好適に用いられる。かかる天然漆には、生漆をはじめ、透漆、黒漆等の精製漆が含まれる。なお、当該漆に、テレピン油、樟脳油、ガソリン、灯油等の溶剤や顔料、砥の粉、小麦粉、卵白、米糊、貝粉、金属粉(金、銀、プラチナ等)等の添加剤を混合して用いてもよい。
また、建材としては、コンクリート、モルタル、セメント、ケイ酸カルシウム板、フレキシブルボード、石材、レンガ又は不燃化された木材が好適に用いられる。
【0026】
(第1実施形態)
本発明に係る模様漆膜付建材の製造方法の第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法は、建材の表面を研磨する研磨工程S0と、建材の表面に第1漆膜を形成する第1漆膜形成工程S1と、第1漆膜の一部を焼成した焼成部と、残りの焼成しない非焼成部とを形成する模様形成工程S2と、第1漆膜の表面に第2漆膜を形成する第2漆膜形成工程S31,S32と、第2漆膜形成工程同士の間に行われ、表面に細かな溝を形成する研ぎ工程S4と、を備える。
すなわち、模様漆膜付建材の製造方法においては、研磨工程S0、第1漆膜形成工程S1、模様形成工程S2、第2漆膜形成工程S31、研ぎ工程S4、第2漆膜形成工程S32の順で各工程が行われる。なお、後述するように、各工程は、それぞれが複数回行ってもよい。
【0027】
(研磨工程)
研磨工程S0は、第1漆膜形成工程S1の前に行われ、建材の表面をサンドペーパー、研磨紙、研磨布等の研磨材で研磨して、一定の表面粗さとする工程である。これにより、建材の表面に形成される第1漆膜は、接着性が向上することになる。
なお、かかる研磨工程S0は、必ずしも必須の工程ではなく、省くことも可能である。
【0028】
(第1漆膜形成工程)
第1漆膜形成工程S1は、建材の表面に漆を塗装し、乾燥させることにより、第1漆膜を形成する工程である。
第1漆膜形成工程S1においては、建材の表面に、刷毛、ローラー等を用いて、漆を付与する。なお、余分に付与された漆は、ウエス布等で拭き取ることが好ましい。
そして、自然乾燥させることにより、建材の表面に第1漆膜が形成される。
【0029】
第1漆膜形成工程S1は、複数回行うことも可能である。すなわち、建材の表面に漆を塗装し乾燥させる、という操作を繰り返し行ってもよい。なお、当該操作を繰り返し行う場合、各操作における漆の成分は、他の操作における漆の成分と同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
ここで、形成される第1漆膜の厚みは、5μm以上であることが好ましい。
第1漆膜の厚みが、5μm未満であると、上記範囲内にある場合と比較して、焼き付けを繰り返し行った焼成部と、焼き付けを1回だけ行った焼成部との変色の差が小さく、複数の色数で複雑なデザインを表現することができない場合がある。
なお、第1漆膜の厚みが、50μmを超えると、効果が向上しなくなることに加え、コスト高になるという欠点がある。
【0031】
(模様形成工程)
模様形成工程S2は、第1漆膜形成工程S1において建材の表面に形成した第1漆膜を部分的に焼成する工程である。すなわち、第1漆膜に対し、焼成した焼成部と、焼成しない非焼成部とを形成する工程である。
そして、模様形成工程S2においては、焼成部と非焼成部とにより、模様が形成される。
【0032】
図2は、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法において、模様形成工程を説明するための模式断面図である。
図2に示すように、模様形成工程S2においては、まず、建材3の表面に塗装された第1漆膜1の表面を、被覆材5で被覆する。
なお、被覆材5は、特に限定されないが、例えば、フレキシブルボード、ケイ酸カルシウム板等の不燃材等が用いられる。
【0033】
模様形成工程S2において、被覆材5は、焼成部に対応する位置に穴5aが形成されている。
したがって、第1漆膜1は、被覆材5で被覆しても、穴5aにより被覆されない部分が生じることになる。
なお、被覆材5に設ける穴5aの位置は、任意に設定することができる。このため、穴5aを介して形成される焼成部も、第1漆膜1の任意の位置に設けることができる。
ちなみに、被覆材5は、必ずしも第1漆膜1の表面全体を被覆する必要はない。すなわち、穴5aを介して第1漆膜1の焼き付けを行い、焼成部を形成する際に、被覆材5は、焼き付けを行わない非焼成部が焼成されないように、少なくとも、焼成部の周囲の非焼成部を被覆できればよい。
【0034】
次に、第1漆膜1の一部を被覆材5で被覆した状態で焼き付け処理を行う。
具体的には、被覆材5の穴5aに向けて、バーナーで焼き付け処理を行うことにより、被覆部5により被覆されない部分が焼成し、焼成部1aが形成される。
また、被覆材5により被覆されて焼成しない部分、及び、焼き付け処理を行わない部分は、非焼成部1bとなる。
【0035】
模様形成工程S2においては、被覆材5を用いることにより、焼成部1aと、非焼成部1bとを、容易に形成することができる。
また、焼成部1aと非焼成部1bとの境界を明確に形成することができる。このため、シャープなラインを含む模様の形成に好適である。
【0036】
ここで、焼成部1aは、焼成により、第1漆膜1が変色している。
例えば、第1漆膜1が黒色である場合、焼成部1aは、木調の茶褐色となる。このため、例えば、黒色の非焼成部1bに、茶褐色の焼成部1aが所望の位置に設けられた模様が、漆からなる漆膜自体に形成されることになる。
【0037】
模様形成工程S2において、第1漆膜1の焼成は、バーナーによる焼き付けにより行われる。このため、ハンドリングでの焼成が可能となる。
このことにより、例えば、上述した穴5aを介した部分の第1漆膜を全て焼成せず、穴5aの範囲内でも所望の位置のみに焼成部1aを形成することもできる。
また、このとき、僅かな焼成度合いの差により、グラデーション等の焼成部の色合いに変化を出すこともできる。
したがって、この場合、よりデザイン性に優れる模様漆膜を形成することが可能となる。
なお、バーナーとしては、ガスバーナーの他、ガソリン、灯油、アルコールを利用したバーナー等が好適に用いられる。
【0038】
そして、被覆材5を除去することにより、建材の表面の第1漆膜1自体に、焼成部1a及び非焼成部1bが形成されたものが得られる。
したがって、模様形成工程S2を行うことにより、建材3の表面の第1漆膜1は、焼成部1a及び非焼成部1bからなるものとなる。
【0039】
(第2漆膜形成工程)
第2漆膜形成工程S31は、焼成部1a及び非焼成部1bからなる第1漆膜1の表面に漆を塗装し、乾燥させることにより、第2漆膜を形成する工程である。
第2漆膜形成工程S31においては、建材の表面に、刷毛、ローラー等を用いて、漆を付与する。なお、余分に付与された漆は、ウエス布等で拭き取ることが好ましい。
そして、自然乾燥させることにより、第1漆膜1の表面に第2漆膜が形成される。
【0040】
第2漆膜形成工程S31は、複数回行うことも可能である。すなわち、第1漆膜1の表面に漆を塗装し乾燥させる、という操作を繰り返し行ってもよい。なお、当該操作を繰り返し行う場合、各操作における漆の成分は、他の操作における漆の成分と同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
(研ぎ工程)
研ぎ工程S4は、第2漆膜形成工程同士の間に行われる。なお、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法においては、便宜的に、第2漆膜形成工程を、第2漆膜形成工程S31と第2漆膜形成工程S32とに分けて記載する。
したがって、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法においては、第2漆膜形成工程S31と後述する第2漆膜形成工程S32との間に行われる。
【0042】
研ぎ工程S4においては、第2漆膜の表面を、粗い砥石、サンドペーパー等で砥ぐ。
これにより、第2漆膜の表面に細かな溝を形成されるため、第2漆膜の強度が大きく向上し、第2漆膜が剥がれ難くなる。
【0043】
(第2漆膜形成工程)
第2漆膜形成工程S32は、上述した第2漆膜形成工程と同じ工程であり、研ぎ工程S4が行われた第2漆膜の表面に更に漆を塗装し、乾燥させることにより、第2漆膜を厚くする工程である。
【0044】
第2漆膜形成工程S32は、複数回行うことも可能である。すなわち、第2漆膜の表面に漆を塗装し乾燥させる、という操作を繰り返し行ってもよい。なお、当該操作を繰り返し行う場合、各操作における漆の成分は、他の操作における漆の成分と同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
ここで、第2漆膜形成工程S31及び第2漆膜形成工程S32により形成される第2漆膜の全体の厚みは、5μm以上であることが好ましい。
第2漆膜の厚みが、5μm未満であると、上記範囲内にある場合と比較して、漆独特の色調と、高い質感を十分に付与できない傾向がある。
なお、第2漆膜の厚みが、50μmを超えると、効果が向上しなくなることに加え、コスト高になるという欠点がある。
【0046】
第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法においては、上述した工程を行うことにより、模様漆膜付建材が得られる。
図3の(a)は、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法により得られる模様漆膜付建材を示す模式断面図である。
図3の(a)に示すように、模様漆膜付建材10は、建材3の表面に、焼成部1a及び非焼成部1bからなる第1漆膜1が形成され、当該第1漆膜1の表面に、第2漆膜2が形成されている。
【0047】
第1実施形態に係る模様漆膜付建材10の製造方法においては、上述したように、第1漆膜形成工程S1と、第2漆膜を形成する第2漆膜形成工程S31,S32とを備えるので、建材の表面に、十分な量の漆を付与することができ、漆独特の色調と、高い質感を有する模様漆膜付建材10を得ることができる。
また、建材を、熱や湿気だけでなく、酸、アルカリにも強く、耐腐敗性、耐防虫性に優れるものとすることができる。
模様漆膜付建材10の製造方法においては、模様形成工程S2を備えるので、デザイン性にも優れる模様漆膜付建材10を得ることができる。
【0048】
(第2実施形態)
本発明に係る模様漆膜付建材の製造方法の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法と重複する説明は省略する。
図4は、第2実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、第2実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法は、建材の表面を研磨する研磨工程S0と、建材の表面に膠膜を形成する膠膜形成工程S5と、膠膜の表面に第1漆膜を形成する第1漆膜形成工程S1と、第1漆膜の一部を焼成した焼成部と、残りの焼成しない非焼成部とを形成する模様形成工程S2と、第1漆膜の表面に第2漆膜を形成する第2漆膜形成工程S31,S32と、第2漆膜形成工程同士の間に行われ、表面に細かな溝を形成する研ぎ工程S4と、を備える。
すなわち、第2実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法は、研磨工程S0と、第1漆膜形成工程S1との間に、膠膜形成工程S5を行うこと以外は、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法と同じである。
【0049】
(膠膜形成工程)
膠膜形成工程S5は、建材の表面に膠を付与し、乾燥させることにより、膠膜を形成する工程である。
膠膜形成工程S5においては、建材の表面に、刷毛、ローラー等を用いて、湯煎して溶かした天然の膠を付与する。なお、余分に付与された膠は、ウエス布等で拭き取ることが好ましい。
そして、自然乾燥させることにより、建材の表面に膠膜が形成される。
【0050】
ここで、建材として、コンクリート、セメント又はモルタルを用いる場合、膠膜を形成した後、その表面に第1漆膜を塗装することにより、形成された第1漆膜は、黒色、朱色等の漆独特の色調となる。
また、建材として、ケイ酸カルシウム板、フレキシブルボード、又は、不燃化された木材を用いる場合も同様に、膠膜を形成した後、その表面に第1漆膜を塗装することにより、形成された第1漆膜は、黒色、朱色等の漆独特の色調となる。すなわち、建材として、ケイ酸カルシウム板、フレキシブルボード、又は、不燃化された木材を用いた場合の第1漆膜の色調は、予め膠膜を設けることにより変化する。
【0051】
膠膜形成工程S5は、複数回行うことも可能である。すなわち、建材の表面に膠を付与し乾燥させる、という操作を繰り返し行ってもよい。
【0052】
図3の(b)は、第2実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法により得られる模様漆膜付建材を示す模式断面図である。
図3の(b)に示すように、模様漆膜付建材20は、建材3の表面に、膠膜4が形成され、該膠膜4の表面に、第1漆膜が形成され、当該第1漆膜1の表面に、第2漆膜2が形成されている。
そして、第1漆膜には、焼成部1a1及び非焼成部1bが形成されている。なお、第1漆膜1に焼成部1a1を形成する際には膠膜4も焼成される。
ちなみに、焼き付け温度を低温にすることで、膠膜4を焼成しないことも可能である。
【0053】
第2実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法においては、膠膜形成工程S5を備えるので、得られる模様漆膜付建材の全体的な色調及び質感を極めて向上させることができる。
また、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法と同様に、第1漆膜形成工程S1と、第2漆膜を形成する第2漆膜形成工程S31,S32とを備えるので、建材の表面に、十分な量の漆を付与することができ、漆独特の色調と、高い質感を有する模様漆膜付建材を得ることができる。
さらに、模様漆膜付建材の製造方法においては、模様形成工程S2を備えるので、デザイン性にも優れる模様漆膜付建材を得ることができる。
【0054】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0055】
第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法においては、研磨工程S0、第1漆膜形成工程S1、模様形成工程S2、第2漆膜形成工程S31、研ぎ工程S4及び第2漆膜形成工程S32を備えているが、研磨工程S0及び研ぎ工程S4は必ずしも必須ではない。すなわち、少なくとも、第1漆膜形成工程S1、模様形成工程S2及び第2漆膜形成工程S31を備えていればよい。
【0056】
第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法においては、焼成をバーナーによる焼き付けにより行っているが、焼成の方法は、これに限定されない。
例えば、焼成窯を用いて、焼き付けを行うことも可能である。
【0057】
第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法の模様形成工程S2においては、被覆材5を用いて、焼成部1aと、非焼成部1bとを形成しているが、被覆材5は必ずしも用いる必要はない。すなわち、第1漆膜1を被覆材5で被覆することなく、第1漆膜1に対して、直接、バーナーで焼き付け処理を行ってもよい。
【0058】
第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法の模様形成工程S2においては、被覆材5で第1漆膜1を部分的に被覆しているが、全面を被覆してもよい。
この場合、全面に対して一度に焼き付け処理を行えばよいので、工程が単純化できると共に、焼成ムラも生じ難い。
【0059】
第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法においては、第1漆膜形成工程S1及び模様形成工程S2を1回行っているが、この組み合わせを複数回行ってもよい。すなわち、第1漆膜形成工程S1、模様形成工程S2、第1漆膜形成工程S1、模様形成工程S2の順で行うことも可能である。この場合、焼成部の変色の度合いを変えることができる。
図5は、第1実施形態に係る模様漆膜付建材の製造方法において、模様形成工程を複数回行った場合を説明するための模式断面図である。
図5に示すように、この場合、模様形成工程を1回行ったもの(以下便宜的に「プレ漆膜付建材」という。)の焼成部1a及び非焼成部1bからなる第1漆膜の表面に、第1漆膜形成工程S1に基づいて、漆膜1を形成し、該漆膜1の表面を、別の被覆材51で被覆する。
なお、かかる別の被覆材51は、上述した被覆材5に設けられた2つの穴5aに対し、一方に対応する位置に穴51aが形成されており、他方に対応する位置は塞がっている。
【0060】
次に、この状態で焼き付け処理を行うことにより、穴51aに対応する焼成部1aは、更に焼成された二重焼成部1cとなり、塞がれた位置に対応する焼成部1aは、そのままの状態が維持される。なお、
図5においては、焼成部1aの上面に漆膜1が形成されているが、焼成部1aを表面から見た場合の色調は殆ど変わらない。
そして、被覆材51を除去することにより、建材の表面の第1漆膜1自体に、焼成部1a、二重焼成部1c及び非焼成部1bが形成されたものが得られる。
【0061】
ここで、二重焼成部1cは、焼成部1aの焼成により、更に変色している。
例えば、焼成部1aが薄茶色である場合、二重焼成部1cは、焼成部1aよりも色の濃い木調の茶褐色となる。このため、例えば、黒色の非焼成部1bに、薄茶色の焼成部1a及び木調の茶褐色の二重焼成部1cが所望の位置に設けられた模様が、漆からなる漆膜自体に形成されることになる。
【0062】
なお、模様形成工程S2においては、上述した操作を更に繰り返すことも可能である。この場合、更に模様に用いる色のバリエーションが増加する。
したがって、この場合の模様漆膜付建材に製造方法においては、複数の色数でより複雑なデザインを表現することが可能となる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
建材としてコンクリートを用いた。
まず、コンクリートの表面をサンドペーパー#320で研磨した(研磨工程)。
次に、天然漆とテレピン油とからなる混合液(漆:テレピン油=1:1)を、ローラーを用いて、コンクリートの表面に塗装し、
図6に示すように、第1漆膜を形成した(第1漆膜形成工程)。
次に、バーナー(パワートーチRZ−730、カセットボンベ式)を用い、
図7に示すように、第1漆膜を焼成し、その後、再び第1漆膜を部分的に焼成した(模様形成工程)。なお、バーナーによる焼成は、m
2あたり30分〜1時間程度行った。
次に、天然漆とテレピン油とからなる混合液(漆:テレピン油=3:1)を、刷毛を用いて、コンクリートの表面に塗装し、第2漆膜を形成した。かかる工程を2回行い、更に、天然漆を、刷毛を用いて、塗装した(第2漆膜形成工程)。
次に、砥石及び耐水ペーパーを用いて、水研ぎを行った(研ぎ工程)。
そして、最後に、天然漆を、刷毛を用いて、塗装した(第2漆膜形成工程)。
得られた模様漆膜付建材の写真を
図8に示す。
【0065】
(実施例2)
コンクリートの代わりに、建材として、ケイ酸カルシウム板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、模様漆膜付建材を製造した。
得られた模様漆膜付建材の写真を
図9に示す。
【0066】
(実施例3)
コンクリートの代わりに、建材として、フレキシブルボードを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、模様漆膜付建材を製造した。
得られた模様漆膜付建材の写真を
図10に示す。
【0067】
実施例1〜実施例3の結果より、本発明に係る模様漆膜付建材の製造方法によれば、建材に漆特有の色調を有する模様を付与することができることが確認された。
【解決手段】本発明は、漆からなる漆膜に模様が付与された模様漆膜付建材の製造方法であって、建材の表面に漆を塗装し、乾燥させることにより、第1漆膜1を形成する第1漆膜形成工程S1と、第1漆膜1を焼成した焼成部1aと、焼成しない非焼成部1bとを形成し、該焼成部1aと該非焼成部1bとで模様を形成する模様形成工程S2と、第1漆膜1の表面に更に漆を塗装し、乾燥させることにより、第2漆膜を形成する第2漆膜形成工程S31と、を備え、焼成部1aが、焼成により、第1漆膜1を変色させた部分である模様漆膜付建材の製造方法である。