特許第6241981号(P6241981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トライフォース・マネジメントの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6241981
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】発電素子
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/18 20060101AFI20171127BHJP
   H01L 41/053 20060101ALI20171127BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   H02N2/18
   H01L41/053
   H01L41/113
【請求項の数】32
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2017-540298(P2017-540298)
(86)(22)【出願日】2016年6月1日
(86)【国際出願番号】JP2016066978
【審査請求日】2017年8月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511071234
【氏名又は名称】株式会社トライフォース・マネジメント
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】岡 田 和 廣
(72)【発明者】
【氏名】岡 田 美 穂
【審査官】 小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−19434(JP,A)
【文献】 特開平11−341837(JP,A)
【文献】 特開2016−29888(JP,A)
【文献】 特開2013−243821(JP,A)
【文献】 特開2014−33508(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0145376(US,A1)
【文献】 英国特許出願公開第2464482(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/18
H01L 41/053
H01L 41/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子であって、
所定の基準軸(Y)に沿って根端部から先端部へと伸び、可撓性を有する板状構造体(110;120;130;140;150;160;170;180;190)と、
前記板状構造体の所定箇所に接合された複数の重錘体(211,212,213;214,215,216;221,222,223;231,232,233;241,242,243;251,252,253;261,262,263;271,272,273;281,282,283;291,292,293)と、
前記板状構造体の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子(400)と、
前記板状構造体の前記根端部を固定する台座(300;310;350)と、
前記電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路(500)と、
を備え、
前記複数の重錘体は、前記基準軸に沿って所定間隔をあけて並べて配置されており、
前記基準軸(Y)を中心軸として、左側と右側を定義したときに、前記複数の重錘体のうち1つもしくは複数の重錘体(214,215,216;231,232,233)が、板状構造体(110;130)に接合された中央接合部(214C,215C,216C)と、前記中央接合部の左側に接続された左翼状部(214L,215L,216L)と、前記中央接合部の右側に接続された右翼状部(214R,215R,216R)と、を有することを特徴とする発電素子(1000;1020;1030;1040;1050;1060;1070;1080;1090)。
【請求項2】
請求項1に記載の発電素子において、
板状構造体(110;120;130;140;150;160;170;180;190)のうち、台座(300;310;350)とこれに隣接して配置された重錘体(211;214;221;231;241;251;261;271;281;291)とを接続する部分、および、互いに隣接して配置された一対の重錘体(211,212,213;214,215,216;221,222,223;231,232,233;241,242,243;251,252,253;261,262,263;271,272,273;281,282,283;291,292,293)を相互に接続する部分を、それぞれ板状接続部(J1,J2,J3)と呼んだときに、これら板状接続部の少なくとも2組に関して、厚み、幅、長さ、材質の4つのパラメータのうちの1つのパラメータもしくは複数のパラメータが異なっていることを特徴とする発電素子。
【請求項3】
請求項2に記載の発電素子において、
最も根端部に近い位置に配置された板状接続部(J1)から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部(J3)にゆくに従って、厚みが単調減少もしくは単調増加してゆくことを特徴とする発電素子(1000;1010;1050;1090)。
【請求項4】
請求項2または3に記載の発電素子において、
最も根端部に近い位置に配置された板状接続部(J1)から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部(J3)にゆくに従って、幅が単調減少もしくは単調増加してゆくことを特徴とする発電素子(1020;1030;1060)。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の発電素子において、
最も根端部に近い位置に配置された板状接続部(J1)から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部(J3)にゆくに従って、長さが単調減少もしくは単調増加してゆくことを特徴とする発電素子(1040)。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載の発電素子において、
最も根端部に近い位置に配置された板状接続部(J1)から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部(J3)にゆくに従って、当該板状接続部を構成する材質のヤング率が単調減少もしくは単調増加してゆくことを特徴とする発電素子
【請求項7】
請求項1に記載の発電素子において、
板状構造体(110;120;130;140;150;160;170;180;190)のうち、台座(300;310;350)とこれに隣接して配置された重錘体とを接続する部分、および、互いに隣接して配置された一対の重錘体を相互に接続する部分を、それぞれ板状接続部(J1,J2,J3)と呼んだときに、これら板状接続部の少なくとも2組のバネ定数が異なるようにしたことを特徴とする発電素子。
【請求項8】
請求項7に記載の発電素子において、
各板状接続部(J1,J2,J3)について、根端部に近い側の端部を根端側端部、先端部に近い側の端部を先端側端部とし、前記根端側端部を固定した状態において、前記先端側端部に対して所定の作用方向に力Fを加えたときに前記先端側端部の前記作用方向に生じる変位をdとしたときに、k=F/dなる式で与えられる値kを、当該板状接続部のバネ定数として用いることを特徴とする発電素子。
【請求項9】
請求項1に記載の発電素子において、
板状構造体(110;150;190)が、基準軸(Y)に沿って並んだ複数の区画パート(S1,S2,S3)に分割されており、個々の区画パートごとに、それぞれ厚みが異なっており、
複数の重錘体(211,212,213;214,215,216;251,252,253;291,292,293)が、それぞれ異なる区画パートに接合されていることを特徴とする発電素子(1000;1010;1050;1090)。
【請求項10】
請求項1に記載の発電素子において、
板状構造体(120;130;160)が、基準軸(Y)に沿って並んだ複数の区画パート(S1,S2,S3)に分割されており、個々の区画パートごとに、それぞれ幅が異なっており、
複数の重錘体(221,222,223;231,232,233;261,262,263)が、それぞれ異なる区画パートに接合されていることを特徴とする発電素子(1020;1030;1060)。
【請求項11】
請求項1に記載の発電素子において、
板状構造体(140)が、基準軸(Y)に沿って並んだ複数の区画パート(S1,S2,S3)に分割されており、個々の区画パートごとに、それぞれ長さが異なっており、
複数の重錘体(241,242,243)が、それぞれ異なる区画パートに接合されていることを特徴とする発電素子(1040)。
【請求項12】
請求項1に記載の発電素子において、
板状構造体(180)が、基準軸(Y)に沿って並んだ複数の区画パート(S1,S2,S3)に分割されており、個々の区画パートごとに、それぞれ材質が異なっており、
複数の重錘体(281,282,283)が、それぞれ異なる区画パートに接合されていることを特徴とする発電素子(1080)。
【請求項13】
請求項1に記載の発電素子において、
基準軸(Y)に沿って厚みが徐々に減少もしくは増加するように、板状構造体(150)の厚み方向の切断面が台形状をなすことを特徴とする発電素子(1050)。
【請求項14】
請求項1に記載の発電素子において、
基準軸(Y)に沿って幅が徐々に減少もしくは増加するように、板状構造体(160)の平面形状が台形状をなすことを特徴とする発電素子(1060)。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の発電素子において、
複数の重錘体のうちの少なくとも2組の質量が互いに異なることを特徴とする発電素子(1000;1010;1020;1030;1050;1060;1070;1090)。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の発電素子において、
個々の重錘体の共振周波数付近のスペクトルピーク波形(P1′,P2′)が相互に一部重複するように、各重錘体の共振周波数(fr1(−),fr2(+))が隣接するように設定されていることを特徴とする発電素子。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の発電素子において、
左翼状部(214L,215L,216L)および右翼状部(214R,215R,216R)が基準軸(Y)に沿った同一方向に伸び、中央接合部(214C,215C,216C)、左翼状部、右翼状部によって構成される重錘体(214,215,216;231,232,233)が、U字状をなすことを特徴とする発電素子(1010;1030)。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の発電素子において、
電荷発生素子(400)が、板状構造体(110)の変形を生じる部分に接合された圧電素子を有することを特徴とする発電素子。
【請求項19】
請求項18に記載の発電素子において、
圧電素子(400)が、板状構造体(110)の表面に形成された下部電極層(410)と、この下部電極層の上面に形成され、応力に基づいて電荷を発生させる圧電材料層(420)と、この圧電材料層の上面に形成された上部電極層(430)と、を有し、前記下部電極層および前記上部電極層にそれぞれ所定極性の電荷を供給することを特徴とする発電素子。
【請求項20】
請求項19に記載の発電素子において、
前記上部電極層(430)は、複数の区画パート(S1,S2,S3)にわたって形成された単一の電極層であることを特徴とする発電素子。
【請求項21】
請求項19に記載の発電素子において、
板状構造体(110)の表面に共通下部電極層(410)が形成され、この共通下部電極層の上面に共通圧電材料層(420)が形成され、この共通圧電材料層の上面の異なる箇所にそれぞれ電気的に独立した複数の個別上部電極層(431,432,433)が形成され、前記板状構造体(110)が特定の変形を生じた時点において、各個別上部電極層には、それぞれ圧電材料層から同一極性の電荷が供給されることを特徴とする発電素子。
【請求項22】
請求項21に記載の発電素子において、
前記個別上部電極層は、根端部側の個別上部電極層(431a)と、先端部側の個別上部電極層(431b)とに分割されていることを特徴とする発電素子。
【請求項23】
請求項21に記載の発電素子において、
前記個別上部電極層は、左脇個別上部電極層(430L)と、右脇個別上部電極層(430R)とに分割されていることを特徴とする発電素子。
【請求項24】
請求項21に記載の発電素子において、
前記個別上部電極層は、根端部側の左脇個別上部電極層(431La)と、先端部側の左脇個別上部電極層(431Lb)と、根端部側の右脇個別上部電極層(431Ra)と、先端部側の右脇個別上部電極層(431Rb)とに分割されていることを特徴とする発電素子。
【請求項25】
請求項21に記載の発電素子において、
発電回路(500)が、容量素子(Cf)と、各個別上部電極層(431,432,433)に発生した正電荷を前記容量素子の正極側へ導くために各個別上部電極層から前記容量素子の正極側へ向かう方向を順方向とする正電荷用整流素子(D1(+)〜D3(+))と、各個別上部電極層に発生した負電荷を前記容量素子の負極側へ導くために前記容量素子の負極側から各個別上部電極層へ向かう方向を順方向とする負電荷用整流素子(D1(−)〜D3(−))と、を有し、振動エネルギーから変換された電気エネルギーを前記容量素子により平滑化して供給することを特徴とする発電素子。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれかに記載の発電素子において、
板状構造体(130)およびこれに接合された重錘体(231,232,233)を収容するための装置筐体(600)を更に有し、
台座(610)は前記装置筐体(600)に固定されるか、もしくは、前記装置筐体の一部として組み込まれており、
前記装置筐体の内面と、前記板状構造体および前記重錘体の外面との間には、所定の空間(SP)が確保されており、
前記装置筐体に加えられた外部振動の大きさが所定の基準レベル以下である場合には、前記外部振動に応じて、前記板状構造体および前記重錘体が前記空間内で振動し、
前記外部振動の大きさが前記所定の基準レベルを超えた場合には、前記外部振動に応じて、前記板状構造体および前記重錘体が前記装置筐体の内面に接触して、それ以上の変位が制限されることを特徴とする発電素子(1030)。
【請求項27】
請求項1〜25のいずれかに記載の発電素子の構成要素となる、板状構造体と、複数の重錘体と、電荷発生素子と、を備えた発電素子用構造体。
【請求項28】
請求項27に記載の発電素子用構造体を2組と、台座(350)と、発電回路(500)と、を備えた発電素子(1500)であって、
第1の発電素子用構造体の基準軸(Y)と第2の発電素子用構造体の基準軸(V)とは直交しており、前記第1の発電素子用構造体の根端部は前記台座によって固定され、前記第1の発電素子用構造体の先端部は前記第2の発電素子用構造体の根端部に接続されており、
前記第2の発電素子用構造体の先端部は、前記第1の発電素子用構造体および前記第2の発電素子用構造体を介して、前記台座によって片持ち梁構造によって支持されており、
前記発電回路は、前記第1の発電素子用構造体の電荷発生素子および前記第2の発電素子用構造体の電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出すことを特徴とする発電素子。
【請求項29】
振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子であって、
所定の基準軸(Y)に沿って根端部から先端部へと伸び、振動が加わると変形を生じる変形構造体(710;720)と、
前記変形構造体の前記根端部を固定する台座(300;310)と、
前記変形構造体の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子(400)と、
前記電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路(500)と、
を備え、
前記変形構造体は、前記基準軸に沿って所定間隔をあけて並べて配置された複数の重錘部(W11,W12,W13;W21,W22,W23)と、前記台座とこれに隣接して配置された重錘部との間および互いに隣接して配置された一対の重錘部の間を相互に接続する可撓性接続部(J11,J12,J13;J21,J22,J23)と、を有し、
前記基準軸(Y)を中心軸として、左側と右側を定義したときに、前記複数の重錘体のうち1つもしくは複数の重錘体(214,215,216;231,232,233)が、板状構造体(110;130)に接合された中央接合部(214C,215C,216C)と、前記中央接合部の左側に接続された左翼状部(214L,215L,216L)と、前記中央接合部の右側に接続された右翼状部(214R,215R,216R)と、を有することを特徴とする発電素子(1100;1200)。
【請求項30】
請求項29に記載の発電素子において、
変形構造体(710;720)に含まれている可撓性接続部(J11,J12,J13;J21,J22,J23)の中の少なくとも2組のバネ定数が異なるようにしたことを特徴とする発電素子。
【請求項31】
請求項30に記載の発電素子において、
各可撓性接続部(J11,J12,J13;J21,J22,J23)について、根端部に近い側の端部を根端側端部、先端部に近い側の端部を先端側端部とし、前記根端側端部を固定した状態において、前記先端側端部に対して所定の作用方向に力Fを加えたときに前記先端側端部の前記作用方向に生じる変位をdとしたときに、k=F/dなる式で与えられる値kを、当該可撓性接続部のバネ定数として用いることを特徴とする発電素子。
【請求項32】
請求項29に記載の発電素子において、
各可撓性接続部(J11,J12,J13;J21,J22,J23)がそれぞれ板状をなす板状接続部によって構成され、これら板状接続部の少なくとも2組に関して、厚み、幅、長さ、材質の4つのパラメータのうちの1つのパラメータもしくは複数のパラメータが異なることを特徴とする発電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電素子に関し、特に、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
限られた資源を有効利用するために、様々な形態のエネルギーを電気エネルギーに変換して取り出す技術が提案されている。振動エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出す技術もそのひとつであり、たとえば、下記の特許文献1には、層状の圧電素子を積層して発電用圧電素子を形成し、この発電用圧電素子を外力によって振動させて発電を行う圧電型の発電素子が開示されている。また、特許文献2には、シリコン基板を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical System)構造の発電素子が開示されている。
一方、特許文献3には、一端を固定した片持ち梁によって重錘体を支持するハンマーヘッド型の構造体を用い、ヘッド部分を構成する重錘体を振動させ、柄の部分に配置された発電用圧電素子によって発電を行うタイプの発電素子が開示されている。また、特許文献4には、このハンマーヘッド型の構造体を用いる発電素子とともに、L字型に屈曲した板状橋梁部によって重錘体を支持する構造体を用いた圧電素子が開示されている。
これらの発電素子の基本原理は、重錘体の振動により圧電素子に周期的な撓みを生じさせ、圧電素子に加わる応力に基づいて生じる電荷を外部に取り出す、というものである。このような発電素子を、たとえば、自動車、列車、船舶などに搭載しておけば、輸送中に加わる振動エネルギーを電気エネルギーとして取り出すことが可能になる。また、冷蔵庫やエアコンといった振動源に取り付けて発電を行うことも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−243667号公報
【特許文献2】特開2011−152010号公報
【特許文献3】米国特許公開第2013/0154439号公報
【特許文献4】WO2015/033621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した例のように、外部から与えられる振動エネルギーによって重錘体を振動させ、この重錘体の振動によって生じる機械的変形を電気エネルギーに変換する発電素子の場合、発電効率を高めるためには、重錘体をできるだけ効率よく振動させることが重要である。しかしながら、一般に、機械的な共振系には、その構造に応じて固有の共振周波数が定められており、外部から与えられる振動エネルギーの周波数が当該共振周波数に近いと、重錘体を効率よく振動させることができるが、当該共振周波数から離れていると、重錘体を十分に振動させることができない。
上述した各特許文献に記載されているようなMEMS構造の発電素子の場合、機械的構造部分の材料として、シリコンや金属が用いられることが多い。このような材料を用いた共振系の周波数特性は、一般に、共振周波数におけるピーク値(Q値)は高いが、半値幅は狭くなる傾向にある。これは、発電素子を実環境で利用した場合、外部環境から与えられる振動の周波数が、当該発電素子に固有の共振周波数に近い場合には効率的な発電を行うことができるが、共振周波数から外れている場合には十分な発電効率が得られないことを意味する。
通常、発電素子を設計する際には、実利用環境において外部から与えられるであろう振動の周波数を想定し、この想定周波数に共振周波数が一致するような工夫がなされる。しかしながら、実際の利用環境では、様々な周波数をもった振動が混在し、単一の周波数をもった振動が加わるわけではない。このため、特定の振動周波数を想定して発電素子を設計しても、実利用環境下では、想定外の周波数を含んだ振動が加えられるケースも少なくない。また、シリコンや金属からなる構造部分の共振周波数は、外部応力や温度によっても変動するため、設計時の想定どおりの周波数をもった振動が与えられたとしても、必ずしも効率的な発電が行われるとは限らない。
そこで本発明は、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能な発電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1) 本発明の第1の態様は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子において、
所定の基準軸に沿って根端部から先端部へと伸び、可撓性を有する板状構造体と、
板状構造体の所定箇所に接合された複数の重錘体と、
板状構造体の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子と、
板状構造体の根端部を固定する台座と、
電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路と、
を設け、
複数の重錘体が、基準軸に沿って所定間隔をあけて並べて配置されているようにしたものである。
(2) 本発明の第2の態様は、上述した第1の態様に係る発電素子において、
板状構造体のうち、台座とこれに隣接して配置された重錘体とを接続する部分、および、互いに隣接して配置された一対の重錘体を相互に接続する部分を、それぞれ板状接続部と呼んだときに、これら板状接続部の少なくとも2組に関して、厚み、幅、長さ、材質の4つのパラメータのうちの1つのパラメータもしくは複数のパラメータが異なっているようにしたものである。
(3) 本発明の第3の態様は、上述した第2の態様に係る発電素子において、
最も根端部に近い位置に配置された板状接続部から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部にゆくに従って、厚みが単調減少もしくは単調増加してゆくようにしたものである。
(4) 本発明の第4の態様は、上述した第2または第3の態様に係る発電素子において、
最も根端部に近い位置に配置された板状接続部から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部にゆくに従って、幅が単調減少もしくは単調増加してゆくようにしたものである。
(5) 本発明の第5の態様は、上述した第2〜第4の態様に係る発電素子において、
最も根端部に近い位置に配置された板状接続部から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部にゆくに従って、長さが単調減少もしくは単調増加してゆくようにしたものである。
(6) 本発明の第6の態様は、上述した第2〜第5の態様に係る発電素子において、
最も根端部に近い位置に配置された板状接続部から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部にゆくに従って、当該板状接続部を構成する材質のヤング率が単調減少もしくは単調増加してゆくようにしたものである。
(7) 本発明の第7の態様は、上述した第1の態様に係る発電素子において、
板状構造体のうち、台座とこれに隣接して配置された重錘体とを接続する部分、および、互いに隣接して配置された一対の重錘体を相互に接続する部分を、それぞれ板状接続部と呼んだときに、これら板状接続部の少なくとも2組のバネ定数が異なるようにしたものである。
(8) 本発明の第8の態様は、上述した第7の態様に係る発電素子において、
各板状接続部について、根端部に近い側の端部を根端側端部、先端部に近い側の端部を先端側端部とし、根端側端部を固定した状態において、先端側端部に対して所定の作用方向に力Fを加えたときに先端側端部の前記作用方向に生じる変位をdとしたときに、k=F/dなる式で与えられる値kを、当該板状接続部のバネ定数として用いるようにしたものである。
(9) 本発明の第9の態様は、上述した第1の態様に係る発電素子において、
板状構造体が、基準軸に沿って並んだ複数の区画パートに分割されており、個々の区画パートごとに、それぞれ厚みが異なっており、
複数の重錘体が、それぞれ異なる区画パートに接合されているようにしたものである。
(10) 本発明の第10の態様は、上述した第1の態様に係る発電素子において、
板状構造体が、基準軸に沿って並んだ複数の区画パートに分割されており、個々の区画パートごとに、それぞれ幅が異なっており、
複数の重錘体が、それぞれ異なる区画パートに接合されているようにしたものである。
(11) 本発明の第11の態様は、上述した第1の態様に係る発電素子において、
板状構造体が、基準軸に沿って並んだ複数の区画パートに分割されており、個々の区画パートごとに、それぞれ長さが異なっており、
複数の重錘体が、それぞれ異なる区画パートに椄合されているようにしたものである。
(12) 本発明の第12の態様は、上述した第1の態様に係る発電素子において、
板状構造体が、基準軸に沿って並んだ複数の区画パートに分割されており、個々の区画パートごとに、それぞれ材質が異なっており、
複数の重錘体が、それぞれ異なる区画パートに接合されているようにしたものである。
(13) 本発明の第13の態様は、上述した第1の態様に係る発電素子において、
基準軸に沿って厚みが徐々に減少もしくは増加するように、板状構造体の厚み方向の切断面が台形状をなすようにしたものである。
(14) 本発明の第14の態様は、上述した第1の態様に係る発電素子において、
基準軸に沿って幅が徐々に減少もしくは増加するように、板状構造体の平面形状が台形状をなすようにしたものである。
(15) 本発明の第15の態様は、上述した第1〜第14の態様に係る発電素子において、
複数の重錘体のうちの少なくとも2組の質量が互いに異なるようにしたものである。
(16) 本発明の第16の態様は、上述した第1〜第15の態様に係る発電素子において、
個々の重錘体の共振周波数付近のスペクトルピーク波形が相互に一部重複するように、各重錘体の共振周波数を隣接するように設定したものである。
(17) 本発明の第17の態様は、上述した第1〜第16の態様に係る発電素子において、
基準軸を中心軸として、左側と右側を定義したときに、1つもしくは複数の重錘体が、板状構造体に接合された中央接合部と、中央接合部の左側に接続された左翼状部と、中央接合部の右側に接続された右翼状部と、を有するようにしたものである。
(18) 本発明の第18の態様は、上述した第17の態様に係る発電素子において、
左翼状部および右翼状部が基準軸に沿った同一方向に伸び、中央接合部、左翼状部、右翼状部によって構成される重錘体が、U字状をなすようにしたものである。
(19) 本発明の第19の態様は、上述した第1〜第18の態様に係る発電素子において、
電荷発生素子が、板状構造体の変形を生じる部分に接合された圧電素子を有するようにしたものである。
(20) 本発明の第20の態様は、上述した第1〜第19の態様に係る発電素子において、
圧電素子が、板状構造体の表面に形成された下部電極層と、この下部電極層の上面に形成され、応力に基づいて電荷を発生させる圧電材料層と、この圧電材料層の上面に形成された上部電極層と、を有し、下部電極層および上部電極層にそれぞれ所定極性の電荷を供給するようにしたものである。
(21) 本発明の第21の態様は、上述した第20の態様に係る発電素子において、
板状構造体の表面に共通下部電極層が形成され、この共通下部電極層の上面に共通圧電材料層が形成され、この共通圧電材料層の上面の異なる箇所にそれぞれ電気的に独立した複数の個別上部電極層が形成され、板状構造体が特定の変形を生じた時点において、各個別上部電極層には、それぞれ圧電材料層から同一極性の電荷が供給されるようにしたものである。
(22) 本発明の第22の態様は、上述した第21の態様に係る発電素子において、
発電回路が、容量素子と、各個別上部電極層に発生した正電荷を容量素子の正極側へ導くために各個別上部電極層から容量素子の正極側へ向かう方向を順方向とする正電荷用整流素子と、各個別上部電極層に発生した負電荷を容量素子の負極側へ導くために容量素子の負極側から各個別上部電極層へ向かう方向を順方向とする負電荷用整流素子と、を有し、振動エネルギーから変換された電気エネルギーを容量素子により平滑化して供給するようにしたものである。
(23) 本発明の第23の態様は、上述した第1〜第22の態様に係る発電素子において、
板状構造体およびこれに接合された重錘体を収容するための装置筐体を更に有し、
台座は装置筐体に固定されるか、もしくは、装置筐体の一部として組み込まれており、
装置筐体の内面と、板状構造体および重錘体の外面との間には、所定の空間が確保されており、
装置筐体に加えられた外部振動の大きさが所定の基準レベル以下である場合には、外部振動に応じて、板状構造体および重錘体が前記空間内で振動し、
外部振動の大きさが所定の基準レベルを超えた場合には、外部振動に応じて、板状構造体および重錘体が装置筐体の内面に接触して、それ以上の変位が制限されるようにしたものである。
(24) 本発明の第24の態様は、上述した第1〜第22の態様に係る発電素子の構成要素となる、板状構造体と、複数の重錘体と、電荷発生素子と、によって、発電素子用構造体を構成するようにしたものである。
(25) 本発明の第25の態様は、上述した第24の態様に係る発電素子用構造体を2組と、台座と、発電回路と、によって発電素子を構成し、
第1の発電素子用構造体の基準軸と第2の発電素子用構造体の基準軸とは直交しており、第1の発電素子用構造体の根端部は台座によって固定され、第1の発電素子用構造体の先端部は第2の発電素子用構造体の根端部に接続されており、
第2の発電素子用構造体の先端部は、第1の発電素子用構造体および第2の発電素子用構造体を介して、台座によって片持ち梁構造によって支持されており、
発電回路は、第1の発電素子用構造体の電荷発生素子および第2の発電素子用構造体の電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出すようにしたものである。
(26) 本発明の第26の態様は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子において、
所定の基準軸に沿って根端部から先端部へと伸び、振動が加わると変形を生じる変形構造体と、
変形構造体の根端部を固定する台座と、
変形構造体の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子と、
電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路と、
を設け、
変形構造体が、基準軸に沿って所定間隔をあけて並べて配置された複数の重錘部と、台座とこれに隣接して配置された重錘部との間および互いに隣接して配置された一対の重錘部の間を相互に接続する可撓性接続部と、を有するようにしたものである。
(27) 本発明の第27の態様は、上述した第26の態様に係る発電素子において、
変形構造体に含まれている可撓性接続部の中の少なくとも2組のバネ定数が異なるようにしたものである。
(28) 本発明の第28の態様は、上述した第27の態様に係る発電素子において、
各可撓性接続部について、根端部に近い側の端部を根端側端部、先端部に近い側の端部を先端側端部とし、根端側端部を固定した状態において、先端側端部に対して所定の作用方向に力Fを加えたときに先端側端部の前記作用方向に生じる変位をdとしたときに、k=F/dなる式で与えられる値kを、当該可撓性接続部のバネ定数として用いるようにしたものである。
(29) 本発明の第29の態様は、上述した第26の態様に係る発電素子において、
各可撓性接続部がそれぞれ板状をなす板状接続部によって構成され、これら板状接続部の少なくとも2組に関して、厚み、幅、長さ、材質の4つのパラメータのうちの1つのパラメータもしくは複数のパラメータが異なるようにしたものである。
(30) 本発明の第30の態様は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子において、
所定の基準軸に沿って根端部から先端部へと伸び、可撓性を有する板状構造体と、
板状構造体の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子と、
板状構造体の根端部を固定する台座と、
電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路と、
を設け、
板状構造体が、基準軸に沿って並んだ複数の区画パートに分割されており、個々の区画パートごとに、厚みもしくは幅またはその双方が異なるようにしたものである。
(31) 本発明の第31の態様は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子において、
所定の基準軸に沿って根端部から先端部へと伸び、可撓性を有する板状構造体と、
板状構造体の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子と、
板状構造体の根端部を固定する台座と、
電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路と、
を設け、
基準軸に沿って厚みが徐々に減少もしくは増加するように、板状構造体の厚み方向の切断面が台形状をなすようにしたものである。
(32) 本発明の第32の態様は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子において、
所定の基準軸に沿って根端部から先端部へと伸び、可撓性を有する板状構造体と、
板状構造体の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子と、
板状構造体の根端部を固定する台座と、
電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路と、
を設け、
基準軸に沿って幅が徐々に減少もしくは増加するように、板状構造体の平面形状が台形状をなすようにしたものである。
(33) 本発明の第33の態様は、上述した第30〜第32の態様に係る発電素子において、
板状構造体の先端部近傍に接合された重錘体を更に有するようにしたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の第1の実施形態に係る発電素子によれば、可撓性を有する板状構造体に、所定間隔をあけて複数の重錘体を並べて配置するようにしたため、単一の重錘体を用いる従来例に比べて、発電可能な周波数帯域を広げることができ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことができるようになる。
本発明の第2の実施形態に係る発電素子によれば、可撓性を有する板状構造体の厚みもしくは幅またはその双方が部分ごとに異なるようにしたため、第1の実施形態と同様に、従来例に比べて、発電可能な周波数帯域を広げることができ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1は、従来から提案されている一般的な発電素子の基本構造体を示す斜視図である。
図2は、図1に示す基本構造体の台座300対して、外部から様々な周波数の振動エネルギーを与えたときの、重錘体200(先端点T)の振幅Aを示すグラフである。
図3は、本発明の第1の実施形態の典型例となる発電素子1000を示す斜視図(一部はブロック図)である。
図4(a)は、図3に示す発電素子1000の基本構造体の上面図、図4(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である(電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略)。
図5は、図4に示す発電素子1000の基本構造体について、コンピュータシミュレーションを行った結果として得られた各区画端点T1,T2,T3の振動の周波数特性を示すグラフである。
図6は、図3に示す発電素子1000の全体としての発電量の周波数特性を示すグラフである。
図7(a),図7(b)は、共振周波数fr1,fr3に対して調整を行った状態の周波数特性を示すグラフである。
図8(a)は、図3に示す発電素子1000の基本構造体に、電荷発生素子400として圧電素子を形成した状態を示す上面図であり、図8(b)はこれをYZ平面で切断した側断面図である(発電回路500の図示は省略)。
図9は、本発明に係る発電素子に用いる発電回路500の具体的な構成を示す回路図である。
図10は、一般的な板状構造体の共振モードのいくつかの例を示す模式図であり、水平線を基準位置としたときの板状構造体の変形態様が示されている。
図11は、図3に示す発電素子1000のバリエーションを示す上面図である。
図12(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例1に係る発電素子1010の基本構造体の上面図、図12(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図13(a)および(b)は、図12に示す発電素子1010の各部の寸法を示す図である。
図14(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例2に係る発電素子1020の基本構造体の上面図、図14(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図15(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例3に係る発電素子1030の基本構造体をXY平面よりわずか上に位置する平面で切断した横断面図、図15(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図16(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例4に係る発電素子1040の基本構造体の上面図、図16(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図17(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例5に係る発電素子1050の基本構造体の上面図、図17(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図18(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例6に係る発電素子1060の基本構造体の上面図、図18(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図19(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例7に係る発電素子1070の基本構造体の上面図、図19(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図20(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例8に係る発電素子1080の基本構造体の上面図、図20(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図21は、本発明の第1の実施形態の変形例9に係る発電素子1090の基本構造体をYZ平面で切断した側断面図である。
図22は、図1に示すような単一の重錘体200を有する共振系において、重錘体200の共振周波数frを調整するための具体的な方法をまとめた表である。
図23は、本発明の第1の実施形態に係る発電素子における共振周波数の調整方法の基本概念を示す図であり、
図24(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例10に係る発電素子1100の基本構造体の上面図、図24(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図25(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例11に係る発電素子1200の基本構造体の上面図、図25(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図26は、本発明の第1の実施形態の変形例12に係る発電素子1500の上面図(一部はブロック図)である。
図27(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例1に係る発電素子2000の基本構造体の上面図、図27(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図28(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例2に係る発電素子2020の基本構造体の上面図、図28(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図29(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例3に係る発電素子2050の基本構造体の上面図、図29(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図30(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例4に係る発電素子2060の基本構造体の上面図、図30(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図31(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例5に係る発電素子2100の基本構造体の上面図、図31(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図32(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例6に係る発電素子2120の基本構造体の上面図、図32(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図33(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例7に係る発電素子2150の基本構造体の上面図、図33(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
図34(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例8に係る発電素子2160の基本構造体の上面図、図34(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
<<< §1. 従来提案されている発電素子 >>>
はじめに、説明の便宜上、板状構造体に取り付けた重錘体を振動させて発電を行うタイプの従来の発電素子の基本構造を簡単に説明しておく。図1は、従来から提案されている一般的な発電素子の基本構造体を示す斜視図である。前掲の特許文献4(WO2015/033621号公報)にも、図1に示すような基本構造をもった発電素子が開示されている。
図示のとおり、この基本構造体は、板状構造体100と、板状構造体100の先端部に取り付けられた重錘体200と、板状構造体100の根端部を固定する台座300とを有している。台座300は、何らかの振動源に取り付けられ、この振動源から供給される振動エネルギーが電気エネルギーに変換されることになる。板状構造体100は、台座300によって固定された根端部から自由端となる先端部へと伸びる長さL、幅w、厚みtの細長い板であり、重錘体200はこの板による片持ち梁構造で支持されている。しかも、板状構造体100は可撓性を有しているため、台座300に振動が加えられると、重錘体200が振動を生じる。その結果、板状構造体100には、周期的に撓みが生じることになる。
図示は省略するが、板状構造体100の表面には、圧電素子などの電荷発生素子が貼り付けられており、板状構造体100の変形に基づいて電荷が発生する。したがって、この電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して出力する発電回路を設けておけば、発生した電荷を電力として取り出すことができる。電荷を効率的に取り出すための圧電素子の配置については、前掲の特許文献4等に開示されているため、ここでは説明は省略する。
なお、本願では、この基本構造体の構成および変形態様を説明する便宜上、図示のようなXYZ三次元直交座標系を定義する。このような座標系上では、板状構造体100は、XY平面に平行な主面(上面および下面)をもち、Y軸に沿って根端部から先端部へと伸びる細長い板ということになる。図示の例では、板状構造体100の上面の中心位置にY軸が位置している。ここでは、このY軸を基準軸と呼び、板状構造体100の原点O側を根端部と呼び、Y軸上の先端点T側を先端部と呼ぶことにする。したがって、板状構造体100は、基準軸Yに沿って根端部から先端部へと伸び、可撓性を有する板状の部材ということになり、重錘体200は、その先端部の下面に接合されていることになる。
通常、外部の振動源から台座300に伝わる振動エネルギーには、X軸方向成分、Y軸方向成分、Z軸方向成分が含まれている。したがって、重錘体200には、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各方向に変位させる力が加わる。ただ、重錘体200は、図示のような形状を有する板状構造体100によって支持されているため、「変位のしやすさ」は個々の方向ごとに異なる。これは、図の原点Oの位置(根端部)を固定した状態において、先端点T(先端部)に対して各座標軸方向への力Fx,Fy,Fzを作用させた場合、板状構造体100のバネ定数が各座標軸方向によって異なるためであり、一般的には、Z軸方向が最も変位しやすい方向になる。
もちろん、板状構造体100は可撓性を有しているため、Y軸方向に関する伸縮や反りにより重錘体200をY軸方向に変位させることもできるし、X軸方向への変形により重錘体200をX軸方向に変位させることもできる。ただ、ここでは、台座300に対して、Z軸方向への振動エネルギーが加えられ、重錘体200がZ軸方向に振動する場合を代表例として考えてみよう。
一般に、共振系は、その系に固有の共振周波数frを有しており、外部から与えられた振動の周波数fが、この共振周波数frに近い程、与えられた振動に共鳴して大きな振幅Aが生じることになる。図2は、図1に示す基本構造体の台座300対して、外部から様々な周波数の振動エネルギーを与えたときの、重錘体200(先端点T)の振幅Aを示すグラフである。横軸に周波数f、縦軸に振幅Aをとると、図示のとおり、所定の共振周波数frの位置にピーク波形Pが現れる(図では、便宜上、このピーク波形P以外の部分をフラットな直線で示すが、実際には、この部分は完全な直線になるわけではない)。
もちろん、板状構造体100のバネ定数は、座標軸方向ごとに異なるため、重錘体200の共振周波数frの値も、座標軸方向ごとに異なる。図2のグラフは、重錘体200が特定の座標軸方向(ここでは、Z軸方向)に振動する場合を示すものであり、共振周波数frは、当該座標軸方向に関する振動についての共振周波数を示している。また、後述するように、板状構造体100には、その節点の数に応じて複数の共振モードが存在し、個々の共振モードごとにそれぞれ共振周波数が異なる。そこで、ここでは、1次共振モードで振動している場合を考えることにする。
結局、図1に示す基本構造体を1つの共振系として把握した場合、重錘体200をZ軸方向に1次共振モードで効率良く振動させるには、台座300を共振周波数frで振動させればよい。別言すれば、この発電素子に効率的な発電をさせるためには、外部から共振周波数frの振動エネルギーを与える必要があり、与える振動エネルギーの周波数が共振周波数frから外れると、発電効率は低下する。
一方、量産に適したMEMS技術を利用した発電素子には、その材料としてシリコンや金属が用いられることが多いが、このような材料を用いた共振系では、図2のグラフにおけるピーク波形Pのピーク値(Q値)は高いが、半値幅hは狭くなる傾向にある。このため、図1に例示するような従来の発電素子の場合、外部環境から与えられる振動の周波数が、共振周波数frに近い場合には効率的な発電を行うことができるが、共振周波数frから外れている場合には、その発電効率は急激に低下することになる。
したがって、従来から、実利用環境において外部から与えられるであろう振動の周波数を想定し、この想定周波数に共振周波数を一致させるような設計が行われている。しかしながら、既に問題点として指摘したとおり、実際の利用環境では、様々な周波数をもった振動が混在しており、単一の周波数をもった振動が加わるわけではない。このため、想定外の周波数を含んだ振動が加えられるケースも少なくない。また、シリコンや金属からなる構造部分の共振周波数は、外部応力や温度によっても変動するため、設計時の想定どおりの周波数をもった振動が与えられたとしても、必ずしも効率的な発電が行われるとは限らない。
このように、図1に例示するような従来の発電素子には、発電可能な周波数帯域が狭く、実利用環境によっては、必ずしも十分効率的な発電を行うことができないという問題がある。本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能な発電素子を提供することを目的とする。
<<< §2. 本発明の第1の実施形態の基本原理 >>>
ここでは、本発明の第1の実施形態の基本原理を説明する。図3は、この第1の実施形態の典型例となる発電素子1000を示す斜視図(一部はブロック図)である。図示のとおり、この発電素子1000は、板状構造体110、3組の重錘体211,212,213、台座300、電荷発生素子400、発電回路500を備えている。図3では、板状構造体110、3組の重錘体211,212,213、台座300によって構成される基本構造体の部分を斜視図で示し、電荷発生素子400および発電回路500の部分をブロック図で示してある。この§2では、主に、図に斜視図で示す基本構造体の部分についての説明を行い、図にブロック図で示す電荷発生素子400および発電回路500の部分については、§3で詳述する。
ここでも、§1と同様に、図示のようなXYZ三次元直交座標系を定義し、Y軸を基準軸と呼ぶことにする。この発電素子1000においても、図1に示す従来の発電素子と同様に、板状構造体による片持ち梁によって重錘体を支持する構造が採用されており、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電が行われる。
したがって、基本構造体は、所定の基準軸Yに沿って根端部(原点Oの近傍)から先端部(先端点Tの近傍)へと伸び、可撓性を有する板状構造体110と、この板状構造体110の所定箇所に接合された重錘体211,212,213と、板状構造体110の根端部を固定する台座300と、を有している。ブロック図として描かれている電荷発生素子400は、この板状構造体110の変形に基づいて電荷を発生させる構成要素(たとえば、圧電素子)であり、ブロック図として描かれている発電回路500は、電荷発生素子400に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す構成要素である。
図3に示す発電素子1000の重要な特徴は、板状構造体110の所定箇所に複数の重錘体211,212,213が接合されており、各重錘体211,212,213が、基準軸Yに沿って所定間隔をあけて並べて配置されている点である。図1に示す従来装置の場合、板状構造体100の先端部に単一の重錘体200を接合した構造を採用しているため、基本構造体は、全体として単一の共振系を構成することになるが、図3に示す発電素子1000の場合、3組の重錘体211,212,213が、基準軸Yに沿って所定間隔をあけて配置されているため、各重錘体の接合位置に着目して共振系を把握すれば、合計3組の共振系が入れ子状に融合した複雑な系になる。
なお、ここでは、3組の重錘体を設けた実施例を示すが、本発明の第1の実施形態では、基準軸Yに沿って根端部(原点Oの近傍)から先端部(先端点Tの近傍)へと伸びる細長い板からなる板状構造体110に、基準軸Yに沿って所定間隔をあけて、複数N個の重錘体(N≧2)が配置されていればよく、重錘体の数が2個以上であれば、「発電可能な周波数帯域を広げる」という本発明の作用効果が得られる。
板状構造体110は可撓性をもった板状部材を構成できる材質であれば、どのような材料を用いて構成してもかまわないが、実用上は、シリコンや金属によって構成するのが好ましい。また、重錘体211,212,213は、共振系を構成するのに十分な質量を有する材料であれば、どのような材料を用いて構成してもかまわないが、十分な質量を確保する上では、SUS(鉄),銅,タングステンなどの金属、あるいは、シリコン、セラミックもしくはガラス等を用いるのが好ましい。台座300は、板状構造体110を支持固定することができる材料であれば、どのような材料を用いて構成してもかまわない。製造コストを低減させる上では、市販のSOI(Silicon On Insulator)基板を利用して、そのシリコン層によって板状構造体110を構成するようにするとよい。
図3に示す発電素子1000のもうひとつの特徴は、板状構造体110の厚みが均一ではなく、個々の区画ごとに厚みが異なっている点である。ここでは、説明の便宜上、板状構造体110を、基準軸Yに沿って、根端部側から先端部側に向けて、3つの区画に分けることにし、各区画に所属する部分をそれぞれ区画パートS1,S2,S3と呼ぶことにする。図示のとおり、区画パートS1は、台座300に固定されている根端部から第1の重錘体211の接合部分に至るまでの部分であり、区画パートS2は、区画パートS1の右端から第2の重錘体212の接合部分に至るまでの部分であり、区画パートS3は、区画パートS2の右端から先端部に至るまでの部分である。
このように、板状構造体110を3つの区画パートS1,S2,S3に分けた場合、その幅wはいずれも同じであるが、その厚みは、区画パートS1,S2,S3の順に徐々に薄くなってゆく。すなわち、区画パートS1,S2,S3の厚みをそれぞれt1,t2,t3とすれば、t1>t2>t3である。図示の例は、板状構造体110の上面をXY平面に含まれる平面とし、下面の位置を個々の区画パートごとに変えることにより厚みを変えるようにしているが、逆に、板状構造体110の下面をXY平面に平行な平面とし、上面の位置を個々の区画パートごとに変えるようにしてもかまわない。
図4(a)は、図3に示す発電素子1000の基本構造体の上面図、図4(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。発電素子1000の構成要素である電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略されている。図4(a),図4(b)には、板状構造体110が基準軸Yに沿って3つの区画パートS1,S2,S3に分けられ、個々の区画パートS1,S2,S3ごとに厚みが異なる点が明瞭に示されている。
図示の例の場合、区画パートS1,S2,S3の平面形状を同一の矩形として、各重錘体211,212,213が基準軸Yに沿って等間隔に配置されるようにしているが、各重錘体211,212,213は、必ずしも等間隔に配置する必要はない。また、図示の例の場合、各重錘体211,212,213の底面の位置を揃えたため、各重錘体211,212,213のZ軸方向の寸法は、それぞれで若干異なり、質量もそれぞれで若干異なっている(重錘体211,212,213の順に質量は大きくなっている)が、必ずしもこのようにする必要はなく、質量が同じになるようにしてもよいし、逆に、重錘体211,212,213の順に質量が小さくなるようにしてもよい。
ここでは、図4(a),(b)に示す板状構造体110において、台座300とこれに隣接して配置された重錘体211を接続する部分(区画パートS1のうち、重錘体211が接合されていない部分)を板状接続部J1と呼び、互いに隣接して配置された一対の重錘体211,212を相互に接続する部分(区画パートS2のうち、重錘体212が接合されていない部分)を板状接続部J2と呼び、互いに隣接して配置された一対の重錘体212,213を相互に接続する部分(区画パートS3のうち、重錘体213が接合されていない部分)を板状接続部J3と呼ぶことにする。
これら板状接続部J1〜J3は、重錘体211,212,213が接合されていない領域なので、板状構造体110として可撓性を有する材料を用い、厚みt1,t2,t3として可撓性が得られる適切な値を設定すれば、外力が作用した場合、これら板状接続部J1〜J3は弾性変形して撓みを生じることになる。逆に、板状構造体110の領域のうち、重錘体211,212,213が接合されている領域は、実質的に撓みが生じない領域として機能する。結局、図4に示されている基本構造体は、台座300,可撓性を有する板状接続部J1,重錘体211(およびその上方に位置する板状構造体110の部分領域),可撓性を有する板状接続部J2,重錘体212(およびその上方に位置する板状構造体110の部分領域),可撓性を有する板状接続部J3,重錘体213(およびその上方に位置する板状構造体110の部分領域)という順序で接続された構造体ということになる。
上述したとおり、図1に示す単一の重錘体200を有する基本構造体は、単一の共振系を構成するが、図3に示す3組の重錘体211,212,213を有する基本構造体は、3組の共振系が入れ子状に融合した複雑な系として把握することができる。このような複雑な系について正確な振動解析を行うためには、様々なパラメータを設定した複雑な計算が必要になるが、ここでは、この系の振動に関する大まかな挙動を把握するため、図4に示すような区画端点T1,T2,T3を定義し、これら区画端点T1,T2,T3の振動形態を考えてみる。ここで、区画端点T1は区画パートS1の先端部側の境界と基準軸Yとの交点、区画端点T2は区画パートS2の先端部側の境界と基準軸Yとの交点、区画端点T3は区画パートS3の先端部側の境界と基準軸Yとの交点である。
具体的には、図4に示す基本構造体の台座300に対して、種々の周波数をもったZ軸方向の振動エネルギーを加えることにより、板状構造体110が1次共振モードで振動する、という前提で、各区画端点T1,T2,T3の振動の周波数特性(Z軸方向の振幅)を考えてみよう。各区画端点T1,T2,T3の振動は、実質的に各重錘体211,212,213の振動と等価になる。
図5は、本願発明者がこのような前提で行ったコンピュータシミュレーションの結果を概念化したグラフであり、各区画端点T1,T2,T3の振動の周波数特性が示されている。図5(a)は、区画端点T1についての周波数特性であり、周波数値fr1の位置に大きなピーク波形P11が現れており、周波数値fr2,fr3の位置に小さなピーク波形P12,P13が現れている。同様に、図5(b)は、区画端点T2についての周波数特性であり、周波数値fr2の位置に大きなピーク波形P22が現れており、周波数値fr1,fr3の位置に小さなピーク波形P21,P23が現れている。そして、図5(c)は、区画端点T3についての周波数特性であり、周波数値fr3の位置に大きなピーク波形P33が現れており、周波数値fr1,fr2の位置に小さなピーク波形P31,P32が現れている。
ここで、周波数値fr1,fr2,fr3は、それぞれ区画端点T1,T2,T3の振動(各重錘体211,212,213の振動)に関する共振系に固有の1次共振モードでの共振周波数である。図5(a)〜図5(c)を見ればわかるとおり、各共振周波数の大小関係は、fr1>fr2>fr3になっており、板状構造体110の根端部に近い区画端点(重錘体)ほど共振周波数は高く、先端部に近い区画端点ほど共振周波数は低くなる、という結果が得られている。
一般に、図1に示すような単一の重錘体200を有する共振系の場合、板状構造体100の長さLと重錘体200の共振周波数frとの関係は、長さLが長いほど共振周波数frは低くなり、長さLが短いほど共振周波数frは高くなる。このような基本原理を図4に示す基本構造体の複雑な共振系に適用すれば、上述したfr1>fr2>fr3なる関係が得られることは、理にかなっている。
すなわち、図4(b)の下段に示すとおり、区画端点T1の振幅に関与する第1の共振系の長さL1は、点Oから点T1までの距離であり、区画端点T2の振幅に関与する第2の共振系の長さL2は、点Oから点T2までの距離であり、区画端点T3の振幅に関与する第3の共振系の長さL3は、点Oから点T3までの距離であり、3組の共振系の長さの大小関係は、L1<L2<L3になる。したがって、各共振系の長さのみに着目すれば、最も短い長さL1をもつ第1の共振系(区画端点T1の振動)の共振周波数fr1が最も高くなり、最も長い長さL3をもつ第3の共振系(区画端点T3の振動)の共振周波数fr3が最も低くなる(実際には、後述するように、板状構造体110の厚みや幅、そして重錘体の質量によっても、共振周波数の値は変わる)。
したがって、台座300に対して外部から振動を与え、この外部振動の周波数fを低い方から徐々に上げてゆくと、次のような現象が見られることになる。まず、与える外部振動の周波数fが共振周波数fr3に達したときに、図5(c)のピーク波形P33に示すとおり、区間端点T3の振幅Aが急激に増大する。これは、区画端点T3の振幅に関与する第3の共振系がその固有の共振周波数fr3に達したためである。このとき、第1の共振系や第2の共振系については、まだ固有の共振周波数に達していないため、本来であれば、区間端点T1,T2の振幅Aは極めて小さくなるはずである。
ところが、3組の共振系は、いずれも基準軸Yに沿って伸びる板状構造体110と、この基準軸Yに沿って配置された重錘体211,212,213によって構成され、しかも相互に入れ子状になっている。このため、これら3組の共振系は、板状構造体110を介して相互に影響を及ぼす。すなわち、外部振動の周波数fが共振周波数fr3に達し、区間端点T3の振幅Aがピーク波形P33に示すように急増すると、その影響を受け、区間端点T1,T2の振幅Aも増加する。図5(a)に示すピーク波形P13および図5(b)に示すピーク波形P23は、このような影響を受けて発生したピーク波形である。要するに、区間端点T3の共振周波数fr3に相当する周波数をもった外部振動が与えられると、区間端点T3の振幅が急増するだけでなく、その影響で、区間端点T1,T2の振幅も増加する現象が生じる。
続いて、外部振動の周波数fが共振周波数fr2に達した場合を考えると、図5(b)のピーク波形P22に示すとおり、区間端点T2の振幅Aが急激に増大する。これは、区画端点T2の振幅に関与する第2の共振系がその固有の共振周波数fr2に達したためである。このとき、その影響を受け、区間端点T1,T3の振幅Aも増加する。図5(a)に示すピーク波形P12および図5(c)に示すピーク波形P32は、このような影響を受けて発生したピーク波形である。要するに、区間端点T2の共振周波数fr2に相当する周波数をもった外部振動が与えられると、区間端点T2の振幅が急増するだけでなく、その影響で、区間端点T1,T3の振幅も増加する現象が生じる。
最後に、外部振動の周波数fが共振周波数fr1に達した場合を考えると、図5(a)のピーク波形P11に示すとおり、区間端点T1の振幅Aが急激に増大する。これは、区画端点T1の振幅に関与する第1の共振系がその固有の共振周波数fr1に達したためである。このとき、その影響を受け、区間端点T2,T3の振幅Aも増加する。図5(b)に示すピーク波形P21および図5(c)に示すピーク波形P31は、このような影響を受けて発生したピーク波形である。要するに、区間端点T1の共振周波数fr1に相当する周波数をもった外部振動が与えられると、区間端点T1の振幅が急増するだけでなく、その影響で、区間端点T2,T3の振幅も増加する現象が生じる。
結局、図3に示す発電素子1000の台座300に対して、共振周波数fr3をもつ外部振動が加えられたとき、重錘体211,212,213には、それぞれ図5(a)〜(c)のピーク波形P13,P23,P33に示すような振幅Aをもった振動が生じ、共振周波数fr2をもつ外部振動が加えられたとき、重錘体211,212,213には、それぞれ図5(a)〜(c)のピーク波形P12,P22,P32に示すような振幅Aをもった振動が生じ、共振周波数fr1をもつ外部振動が加えられたとき、重錘体211,212,213には、それぞれ図5(a)〜(c)のピーク波形P11,P21,P31に示すような振幅Aをもった振動が生じることになる。
そこで、板状構造体110の変形に基づいて電荷発生素子400が発生させた電荷を発電回路500によって整流して取り出すようにすれば、発電素子1000全体としての発電量の周波数特性は、図6のグラフに示すようになる。すなわち、第1の重錘体211をもった第1の共振系の共振周波数fr1の位置に発電量の第1ピーク波形P1が得られ、第2の重錘体212をもった第2の共振系の共振周波数fr2の位置に発電量の第2ピーク波形P2が得られ、第3の重錘体213をもった第3の共振系の共振周波数fr3の位置に発電量の第3ピーク波形P3が得られる。なお、図6では、便宜上、3つのピーク波形P1,P2,P3の高さや幅を同一に描いているが、実際には、個々のピーク波形P1,P2,P3の高さや幅は、図3に示す基本構造体の各部の寸法や材質などの条件によって定まることになる。
図1に示す従来の発電素子の場合、図2のグラフに示す共振周波数fr近傍の周波数をもった外部振動が与えられたときにのみ効率的な発電が行われることになり、発電可能な周波数帯域は、その半値幅h程度の狭いものにならざるを得ない。これに対して、図3に示す本発明の第1の実施形態に係る発電素子の場合、図6のグラフに示すとおり、共振周波数fr3,fr2,fr1の位置にそれぞれピーク波形P3,P2,P1が得られるため、これら共振周波数fr3,fr2,fr1近傍の周波数をもった外部振動が与えられたときに効率的な発電が可能になり、発電可能な周波数帯域を、図示の周波数帯域R1程度にまで広げることが可能になる。
もちろん、図示の周波数帯域R1は、周波数fr3〜fr1の範囲をすべてカバーする連続した帯域ではなく、いわば「歯抜け状態」の帯域である。したがって、fr3〜fr1の範囲の周波数をもった外部振動のすべてについて効率的な発電が行われるわけではないが、図2のグラフに示す従来の発電素子の発電特性に比べれば、発電可能な周波数帯域を広げる効果が得られることになる。
前述したとおり、本発明の第1の実施形態に係る発電素子の最も重要な特徴は、所定の基準軸Yに沿って伸びる板状構造体110の所定箇所に、複数の重錘体211,212,213を所定間隔をあけて並べて配置した点にある。一般に、所定の基準軸Yに沿って複数N個の重錘体を配置すると、N個のピーク波形をもった発電量の周波数特性が得られるようになり、発電可能な周波数帯域を広げる効果が得られる。これが、本発明の第1の実施形態の最も重要な特徴である。
一方、図3に示す発電素子1000には、もうひとつの特徴、すなわち、板状構造体110の厚みが均一ではなく、個々の区画ごとに厚みが異なっている、という付加的な特徴が備わっている。ここでは、この付加的な特徴のメリットを説明する。
図2に示す従来装置のグラフと図6に示す本発明に係る装置のグラフとを比較すると、後者では、ピーク波形が3組に増えたため、発電可能な周波数帯域は、図示の周波数帯域R1程度にまで広がっている。したがって、この発電素子1000の実利用環境において外部から与えられるであろう振動が、図示する周波数帯域R1内の周波数成分を含んだ振動であろうと想定される場合には、図6に示す周波数特性は、非常に好ましいと言える。特に、実利用環境における外部振動の主たる周波数成分が、fr3,fr2,fr1であるような場合は、図6に示す周波数特性は、正に理想的な特性になる。
しかしながら、想定される外部振動の周波数成分が、より広い範囲に分布している場合は、ピーク波形P1の共振周波数fr1(重錘体211を含む共振系の共振周波数)をより高くなるように右側にシフトさせ、ピーク波形P3の共振周波数fr3(重錘体213を含む共振系の共振周波数)をより低くなるように左側にシフトさせる調整を行うのが好ましい。図7(a)は、このような調整を行った結果を示すグラフである。ピーク波形P1の共振周波数fr1はfr1(+)に調整され、ピーク波形P1は右側にシフトしてピーク波形P1’となっている。また、ピーク波形P3の共振周波数fr3はfr3(−)に調整され、ピーク波形P3は左側にシフトしてピーク波形P3’となっている。
その結果、図7(a)のグラフの場合、全体の周波数帯域がR2に広がっている。もちろん、この周波数帯域はR2は、周波数fr3(−)〜fr1(+)の範囲をすべてカバーする連続した帯域ではなく、「歯抜け状態」の帯域であるが、周波数fr3(−)〜fr1(+)の範囲の周波数成分を含む外部振動が与えられた場合には、好ましい周波数特性を示すことになる。特に、主たる周波数成分が、fr3(−),fr2,fr1(+)であるような場合は、図7(a)に示す周波数特性は理想的な特性になる。
逆に、想定される外部振動の周波数成分が、より狭い範囲に分布している場合は、図6に示す周波数特性において、ピーク波形P1の共振周波数fr1をより低くなるように左側にシフトさせ、ピーク波形P3の共振周波数fr3をより高くなるように右側にシフトさせる調整を行うのが好ましい。図7(b)は、このような調整を行った結果を示すグラフである。ピーク波形P1の共振周波数fr1はfr1(−)に調整され、ピーク波形P1は左側にシフトする。また、ピーク波形P3の共振周波数fr3はfr3(+)に調整され、ピーク波形P3は右側にシフトする。その結果、3つのピーク波形は融合し、より広い半値幅hhをもった融合ピーク波形PPが形成されている。
この図7(b)のグラフの場合、全体の周波数帯域はR3になり、図6のグラフの周波数帯域R1よりは狭くなっているが、融合ピーク波形PPが形成されているため、周波数帯域はR3は、周波数fr3(+)〜fr1(−)の範囲をすべてカバーする連続した帯域になる。したがって、周波数fr2を中心とした周波数帯域R3の範囲内の周波数成分を含む外部振動が与えられた場合には、図7(b)に示す周波数特性は理想的な特性になる。
このように、実利用環境で発生する外部振動の周波数成分を考慮して、適切な周波数特性をもつ発電素子を設計するには、各重錘体211,212,213を含むそれぞれの共振系の共振周波数をシフトする調整が必要になる。もちろん、想定される外部振動の周波数成分が全体的に高い場合や、全体的に低い場合は、周波数帯域自体を周波数軸fに沿って左右に移動させるような調整も必要になる。上述した、板状構造体110の厚みを個々の区画ごとに変えるという付加的な特徴は、このような調整を行うための工夫に他ならない。
上述したとおり、図1に示す単一の重錘体200を有する共振系の場合、板状構造体100の長さに関しては、長さLが長いほど共振周波数frは低くなり、長さLが短いほど共振周波数frは高くなる、という性質がある。一方、板状構造体100の厚みt(Z軸方向の寸法)に関しては、厚みtが厚いほど共振周波数frは高くなり、厚みtが薄いほど共振周波数frは低くなる、という性質がある。このように、板状構造体100の厚みを変えることにより、共振周波数frの値を調整することができる。
このような基本原理は、図4に示す基本構造体にも適用でき、板状構造体110を薄くすると共振周波数を下げることができ、板状構造体110を厚くすると共振周波数を上げることができる。図4に示す例の場合、区画パートS1,S2,S3の厚みをそれぞれt1,t2,t3とすれば、t1>t2>t3のような設定がなされている。このような設定を行うと、板状構造体110を均一の厚みをもった板で構成した場合(t1=t2=t3とした場合)と比べて、区画端点T3の共振周波数fr3は下がり、区画端点T1の共振周波数fr1は上がることになる。これは、図7(a)に示すように、3つのピーク波形の分布範囲を広げ、より広い周波数帯域R2を確保するための設定に相当する。
<<< §3. 電荷発生素子および発電回路 >>>
図3に示す発電素子1000では、電荷発生素子400および発電回路500をブロック図として示したが、ここでは、これらについての具体的な実施例を述べる。まず、電荷発生素子400についての説明を行う。前述したとおり、台座300に外部振動が加わると、板状構造体110が撓んで変形することにより、各重錘体211,212,213が振動する。電荷発生素子400は、板状構造体110の変形に基づいて電荷を発生させる構成要素である。
電荷発生素子400としては、たとえば、エレクトレットなどを用いることも可能であるが、図3に示す基本構造体については、層状の圧電素子を板状構造体110の表面に形成するのが好ましい。以下に述べる実施例は、この電荷発生素子400として圧電素子を用いた例であり、下部電極層、圧電材料層、上部電極層の3層構造によって圧電素子を構成している。
図8(a)は、図3に示す発電素子1000の基本構造体に、電荷発生素子400として圧電素子を形成した状態を示す上面図であり、図8(b)はこれをYZ平面で切断した側断面図である(発電回路500の図示は省略)。別言すれば、図4(a),図4(b)に示す基本構造体に圧電素子400を付加した状態が、図8(a),図8(b)に示されている。圧電素子400の3層構造は、図8(b)の側断面図に明瞭に示されている。すなわち、圧電素子400は、板状構造体110の表面に形成された下部電極層410と、この下部電極層410の上面に形成され、応力に基づいて電荷を発生させる圧電材料層420と、この圧電材料層420の上面に形成された上部電極層430(実際には、3枚の個別上部電極層431,432,433)と、によって構成されている。
圧電材料層420は、層方向に伸縮する応力の作用により、厚み方向に分極を生じる性質を有している。具体的には、圧電材料層420は、たとえば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やKNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)などの圧電薄膜によって構成することができる。あるいは、バルク型圧電素子を用いるようにしてもかまわない。各電極410,430は、導電性材料であれば、どのような材料で構成してもかまわないが、実用上は、たとえば、金、白金、アルミニウム、銅などの金属層によって構成すればよい。
なお、電荷発生素子400として上述したような圧電素子を用いる場合は、板状構造体110としてシリコン基板を用いるのが最適である。これは、一般に、現在の製造プロセスをよって、金属基板の上面に圧電素子を形成した場合と、シリコン基板の上面に圧電素子を形成した場合とを比較すると、前者の圧電定数に比べて後者の圧電定数の方が3倍程度大きな値になり、後者の方の発電効率が圧倒的に高くなるためである。これは、シリコン基板の上面に圧電素子を形成すると、圧電素子の結晶の配向が揃うためと考えられる。
台座300に外部振動が与えられると、板状構造体110の撓みにより圧電材料層420の各部に応力が加わる。その結果、圧電材料層420の厚み方向に分極が生じ、上部電極層430および下部電極層410に電荷が発生する。別言すれば、圧電素子400は、外部振動に基づいて、下部電極層410および上部電極層430にそれぞれ所定極性の電荷を供給する機能を果たす。図には示されていないが、各電極層と発電回路500との間には配線が施されており、圧電素子400が発生させた電荷は発電回路500によって電力として取り出されることになる。
図8(b)の側断面図に示されているとおり、下部電極層410および圧電材料層420は、板状構造体110の上面全面に形成されているのに対して、上部電極層430は、3枚の個別上部電極層431,432,433によって構成されている。これは、電荷発生素子400として機能する圧電素子は、板状構造体110の変形を生じる部分に接合されていれば十分であるためである。図8(a)の上面図に示すとおり、板状構造体110、下部電極層410、圧電材料層420の平面形状は全く同じであり、上方から観察すると、板状構造体110および下部電極層410(図では、符合を括弧書きで示した)は、圧電材料層420の下方に隠れた状態になっている。
結局、下部電極層410および圧電材料層420は、全区画パートS1〜S3にわたって形成された共通層としての役割を果たすが、個別上部電極層431,432,433は、それぞれ区画パートS1,S2,S3に配置された個別の電極層としての役割を果たすことになる。その結果、圧電素子としては、各区画パートS1,S2,S3にそれぞれ独立した素子が配置されていることになる。個別上部電極層431,432,433の占有領域は、板状構造体110が撓みを生じる領域、すなわち、重錘体211,212,213が接合されていない領域になっている。このような配置を採用すれば、圧電材料層420に生じた電荷を効率的に取り出すことが可能になる。
もっとも、各電極層から取り出される電荷の極性は、時々刻々と変化する。これは、板状構造体110が振動すると、圧電材料層420の各部に加わる応力の向き(圧縮方向応力か、伸張方向応力か)が変化し、それに応じて、発生電荷の極性が変化するためである。したがって、各電極層に発生した電荷を取り出して電力として利用するためには、発電回路500によって、発生した電荷に基づいて生じる電流を整流する必要がある。
図9は、このような整流機能を有する発電回路500の具体的な構成を示す回路図である。図9において、左側に示されている符合「410,420,431,432,433」は、それぞれ図8に示す下部電極層410,圧電材料層420,個別上部電極層431,432,433であり、個別上部電極層431,432,433に発生した電荷および下部電極層410に発生した電荷に基づいて生じる電流が、整流素子(ダイオード)によって整流されることになる。
この回路図において、D1(+),D2(+),D3(+)は整流素子(ダイオード)であり、それぞれ個別上部電極層431,432,433に発生した正電荷を取り出す役割を果たす。また、D1(−),D2(−),D3(−)も整流素子(ダイオード)であり、それぞれ個別上部電極層431,432,433に発生した負電荷を取り出す役割を果たす。同様に、D0(+)は下部電極層410に発生した正電荷を取り出す役割を果たす整流素子(ダイオード)であり、D0(−)は下部電極層410に発生した負電荷を取り出す役割を果たす整流素子(ダイオード)である。
一方、Cfは平滑用の容量素子(コンデンサ)であり、その正極端子(図の上方端子)には取り出された正電荷が供給され、負極端子(図の下方端子)には取り出された負電荷が供給される。この容量素子Cfは、発生電荷に基づく脈流を平滑化する役割を果たし、重錘体の振動が安定した定常時には、容量素子Cfのインピーダンスはほとんど無視しうる。容量素子Cfに並列接続されているZLは、この発電素子1000によって発電された電力の供給を受ける機器の負荷を示している。
結局、この発電回路500は、平滑用の容量素子Cfと、各個別上部電極層431,432,433に発生した正電荷を容量素子Cfの正極側へ導くために各個別上部電極層431,432,433から容量素子Cfの正極側へ向かう方向を順方向とする正電荷用整流素子D1(+),D2(+),D3(+)と、各個別上部電極層431,432,433に発生した負電荷を容量素子Cfの負極側へ導くために容量素子Cfの負極側から各個別上部電極層431,432,433へ向かう方向を順方向とする負電荷用整流素子D1(−),D2(−),D3(−)と、を有し、振動エネルギーから変換された電気エネルギーを容量素子Cfにより平滑化して供給する機能を果たすことになる。
この回路図において、負荷ZLには、正電荷用整流素子D1(+),D2(+),D3(+)で取り出された正電荷と、負電荷用整流素子D1(−),D2(−),D3(−)で取り出された負電荷とが供給されることになる。したがって、原理的には、個々の瞬間において、各個別上部電極層431,432,433に発生する正電荷の総量と負電荷の総量とが等しくなるようにすれば、最も効率的な発電が可能になる。したがって、実用上、発電素子1000の構造部分は、図8に示すとおり、YZ平面に関して面対称となる対称構造にするのが好ましい。
なお、図8には、図3に示す発電素子1000についての代表的な圧電素子の配置を例示したが、実際には、その用途に応じて、個々の圧電素子を最適な位置に配置するようにするのが好ましい。一般に、細長い板状構造体には、その節点の数に応じて複数の共振モードが定義されており、個々の共振モードごとにそれぞれ共振周波数が異なる。これまで述べてきた例は、板状構造体110が1次共振モードで振動している代表的な例であるが、実際には、板状構造体110は、より高次の共振モードで振動することもある。
図10は、一般的な板状構造体の共振モードのいくつかの例を示す模式図であり、水平線を基準位置としたときの板状構造体の変形態様が示されている。図の曲線が板状構造体を示しており、左端(根端部)が固定され、右端(先端部)が自由端となっている。図には、各変形状態において、板状構造体の上面に作用する応力の方向を矢印で示した。具体的には、白い矢印は上面に「長手方向に伸びる応力」が作用することを示し、黒い矢印は上面に「長手方向に縮む応力」が作用することを示している。
図10(a)は1次共振モードの変形態様を示しており、全体的に上方に凸となるなだらかな曲線が描かれている。このような変形状態では、板状構造体の上面にはその長手方向に伸びる応力が作用する(白い矢印参照)。なお、板状構造体の下面には、逆に、長手方向に縮む応力が作用するが、ここでは、上面の伸縮のみに着目する。
一方、図10(b)は2次共振モードの変形態様を示しており、根端部近傍では下方に凸となるなだらかな曲線になるが、その先は、上方に凸となるなだらかな曲線になる。その結果、板状構造体の根端部上面には長手方向に縮む応力が作用し(黒い矢印参照)、その先の上面には長手方向に伸びる応力が作用する(白い矢印参照)。同様に、図10(c)は3次共振モードの変形態様を示しており、曲線はより複雑な形状をなし、部分的に縮む応力(黒い矢印参照)や、伸びる応力(白い矢印参照)が作用する。図示は省略するが、4次以上の共振モードでは、板状構造体の変形態様は更に複雑になる。
この図10に示す共振モードは、図1に例示するような単純な共振系における板状構造体100についてのものであり、一般に、共振モードの次数が高くなるほど、共振周波数も高くなる。この単純な共振系における共振モードを、図3に示す板状構造体110の場合にそのまま当てはめることはできないが、いずれにしても、図3に示す板状構造体110の変形態様は、外部環境から与えられる振動の周波数に応じて様々に変化し、各部に加わる応力の方向も変化することになる。
ここで留意すべき点は、電荷発生素子400として圧電素子を用いた場合、発生電荷の極性が、応力の方向に基づいて逆転する点である。たとえば、伸びる応力(図10の白矢印)が加わったときに、上部電極層430に正電荷、下部電極層410に負電荷を発生させる分極特性をもつ圧電材料層420を用いた場合、逆に、縮む応力(図10の黒矢印)が加わると、発生電荷の極性も逆転することになる。このような点を考慮すると、上部電極層430は、できるだけ細かい個別上部電極層に分けて構成するのが好ましい。
図11は、図3に示す発電素子1000のバリエーションを示す上面図であり、それぞれ上部電極層430の構成が若干異なっている。すなわち、発電素子1000では、図8(a)に示すように、各区画パートS1,S2,S3にそれぞれ個別上部電極層431,432,433を配置しているが、図11(a)に示す発電素子1001では、単一の上部電極層430のみを設けている。もちろん、単一の上部電極層430のみを設けた発電素子1001は構造が単純になるが、共振モードによっては、同一の上部電極層430に逆極性の電荷が発生して、互いに打ち消しあって消滅してしまい、発電ロスを生じる可能性がある。たとえば、図10(a)に示す1次共振モードで振動している場合は、全領域にわたって同極性の電荷が発生するので問題はないが、図10(b)に示す2次共振モードや図10(c)に示す3次共振モードで振動している場合は、上部電極層430において逆極性の電荷が混在し、発電ロスを生じることになる。
一方、図11(b)に示す発電素子1002は、図8(a)に示す発電素子1000における個別上部電極層431,432,433を、更に、根端部側と先端部側とに分割した例である。すなわち、区画パートS1には、根端部側の個別上部電極層431aと先端部側の個別上部電極層431bとが設けられている。これらの電極は別個独立した電極であるため、それぞれに逆極性の電荷が発生したとしても、それぞれ別個の整流素子を通して利用すれば、発電ロスは生じない。したがって、同じ区画パートS1において、根端部側と先端部側とで伸縮態様の逆転が生じるような共振モードで振動した場合でも、問題は生じない。区画パートS2,S3についても同様である。
以上、板状構造体110の共振モードに応じて、各部の発生電荷の極性が様々に変化する可能性がある説明を行ったが、実は、発生電荷の極性は、振動方向によっても変化することになる。これまで、台座300に対してZ軸方向への振動エネルギーが加えられ、各重錘体211,212,213がZ軸方向に振動している代表的な場合について説明したが、実利用環境では、必ずしもZ軸方向の振動エネルギーのみが与えられるわけではなく、X軸方向やY軸方向の振動エネルギーも与えられることになる。図3に示す板状構造体110は、Z軸方向だけでなく、X軸方向やY軸方向にも撓むことができ、各重錘体211,212,213は、Z軸方向だけでなく、X軸方向やY軸方向にも振動可能である。
たとえば、図3に示す発電素子1000の台座300に、X軸方向の振動エネルギーが与えられたとすると、各重錘体211,212,213は、XY平面に沿ってZ軸を中心軸とした揺動運動を行うことになる。ここで、板状構造体110について、Y軸を中心軸として左側に位置する左脇部分(負のX座標値をもつ領域部分)と、右側に位置する右脇部分(正のX座標値をもつ領域部分)と、を定義すると、上記揺動運動を行っている状態では、左脇部分と右脇部分との伸縮関係は逆になる。したがって、図11(a)に示す発電素子1001のように、単一の上部電極層430のみしか設けられていない場合、左脇部分で発生した電荷と右脇部分で発生した電荷とは逆極性になるので、発電ロスが生じることになる。
図11(c)に示す発電素子1003は、このような問題に対処可能な電極配置を採用した例であり、図11(a)に示す発電素子1001における単一の上部電極層430を、左脇個別上部電極層430Lと右脇個別上部電極層430Rとに分割した例である。これらの電極は別個独立した電極であるため、それぞれに逆極性の電荷が発生したとしても、それぞれ別個の整流素子を通して利用すれば、発電ロスは生じない。
図11(d)に示す発電素子1004は、図11(b)に示す発電素子1002の電極配置の特徴と図11(c)に示す発電素子1003の電極配置の特徴とを組み合わせた例である。たとえば、区画パートS1には、根端部側の左脇個別上部電極層431La、先端部側の左脇個別上部電極層431Lb、根端部側の右脇個別上部電極層431Ra、先端部側の左脇個別上部電極層431Rbが設けられている。これらの電極は別個独立した電極であるため、それぞれに逆極性の電荷が発生したとしても、それぞれ別個の整流素子を通して利用すれば、発電ロスは生じない。したがって、外部振動として様々な方向成分をもった振動エネルギーが与えられ、板状構造体110が様々な共振モードで振動した場合であっても、発電ロスを抑えて効率的な発電を行うことができる。
要するに、板状構造体110の表面に共通下部電極層410を形成し、この共通下部電極層410の上面に共通圧電材料層420を形成し、更に、この共通圧電材料層420の上面の異なる箇所にそれぞれ電気的に独立した複数の個別上部電極層を形成する構成を採用する場合は、板状構造体110が特定の変形(実利用環境で想定される特定方向への振動が加えられた場合の変形)を生じた時点において、各個別上部電極層に、それぞれ圧電材料層420から同一極性の電荷が供給されるように、各個別上部電極層の構成および配置を工夫すればよい。
もっとも、図11(a)に示す単一の上部電極層430を有する発電素子1001に比べると、図11(d)に示す12枚の個別上部電極層を有する発電素子1004は、構造が複雑になり、配線工程も複雑になるため、製造コストの高騰を招くことになる。したがって、たとえば、外部から与えられる振動エネルギーとして、Z軸方向成分のみを想定し、板状構造体110の共振モードとして1次共振モードのみを想定すればよい用途の場合は、図11(a)に示す発電素子1001を用いれば十分である。
<<< §4. 第1の実施形態の変形例1(U字状重錘体) >>>
ここでは、本発明に係る発電素子に適した、より好ましい重錘体の構造について述べる。図3に示す第1の実施形態に係る発電素子1000では、基準軸Yに沿って並んで配置された3組の重錘体211,212,213が用いられている。これらの重錘体はいずれも直方体形状をしており、その上面が板状構造体110の下面に接合されている。与えられた振動エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換する上では、重錘体の質量はできるだけ大きい方が好ましい。そのためには、SUS(鉄),銅,タングステン,シリコン、セラミック,ガラスなど、比重の大きな材料を用いて重錘体を構成するともに、その体積をできるだけ大きくするのが好ましい。
もっとも、本発明の第1の実施形態を実施する上では、複数の重錘体を、基準軸Yに沿って所定間隔をあけて並べて配置する、という条件が必要である。既に述べたとおり、このような条件を満たすことにより、それぞれ異なる共振周波数をもつ複数の重錘体の振動が、板状構造体110を介して相互に影響を与え、発電可能な周波数帯域を広げるという効果が得られることになる。
このような観点から重錘体の好ましい構造を探求した結果、本願発明者は、上記条件を満たしつつ、個々の重錘体について十分な体積を確保することができる理想的な構造の着想に至った。この§4では、この理想的な重錘体の構造について説明する。
図12(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例1に係る発電素子1010の基本構造体の上面図であり、図12(b)はこれをYZ平面で切断した側断面図である。図示の発電素子1010は、図3に示す発電素子1000の3組の重錘体211,212,213を、より好ましい構造を有する3組の重錘体214,215,216に置き換えたものに相当する。なお、説明の便宜上、電荷発生素子(圧電素子)400および発電回路500の図示は省略する。また、この図12に示す発電素子1010における板状構造体110および台座300の構造は、図3に示す発電素子1000における板状構造体110および台座300の構造と同一であるため、以下、3組の重錘体214,215,216の構造についての説明のみを行うことにする。
ここでも、基準軸Yを中心軸として、左側と右側を定義する。具体的には、説明の便宜上、負のX座標値をもつ側を左側と呼び、正のX座標値をもつ側を右側と呼ぶことにする。そうすると、区画パートS1に設けられた重錘体214は、板状構造体110の下面に接合された中央接合部214Cと、中央接合部214Cの左側に接続された左翼状部214Lと、中央接合部214Cの右側に接続された右翼状部214Rと、を有している。しかも、左翼状部214Lおよび右翼状部214Rは、基準軸Yに沿った同一方向に伸び、中央接合部214C、左翼状部214L、右翼状部214Rによって構成される重錘体が、U字状をなしている。
特に、図示の例の場合、中央接合部214Cの上面全面が板状構造体110の下面に接合されており、平面的に見た場合、左翼状部214Lは板状構造体110の左側輪郭線から左外側に突き出してY軸負方向(根端部側)に伸びており、右翼状部214Rは板状構造体110の右側輪郭線から右外側に突き出してY軸負方向(根端部側)に伸びている。もちろん、左翼状部214Lおよび右翼状部214Rは、板状構造体110の左右の輪郭線から外側に突き出してY軸正方向(先端部側)に伸びるような構造でもかまわないが、図示の例のように、中央接合部214Cを区画パートS1の先端部側に接合した場合は、Y軸負方向(根端部側)に伸びるような構造を採用した方が、スペースを有効活用できるために好ましい。
同様に、重錘体215は、中央接合部215C、左翼状部215L、右翼状部215Rを有するU字状構造体であり、重錘体216は、中央接合部216C、左翼状部216L、右翼状部216Rを有するU字状構造体である。図示の例は、3組の重錘体をすべてU字状構造体としているが、もちろん、一部のみをU字状構造体としてもよい。また、図示の例は、3組の重錘体の平面形状が同一になっているが、必要に応じて(たとえば、後述するように、質量を調整するために)、各重錘体の形状や寸法を異らせるようにしてもかまわない。
このように、重錘体をU字状構造体によって構成すると、板状構造体110に対しては、各中央接合部214C,215C,216Cの部分が接合されるため、複数の重錘体が、基準軸Yに沿って所定間隔をあけて並べて配置されている、という条件を満足することができる。しかも、U字状構造体全体の質量が振動に関与する重錘体の質量になるため、重錘体の質量をできるだけ大きくし、発電効率を向上させる、という効果が得られる。また、U字状構造を採用しているため、スペースを有効活用でき、発電素子全体の外形寸法を抑制させることができる。
参考のため、図12(a)および図12(b)に示す発電素子1010の各部の寸法を、図13(a)および図13(b)に例示しておく。もちろん、図13に示された寸法は、本願発明者が試作した発電素子1010の実寸法を一例として示すものであり、本発明を実施するにあたって、各部の寸法は、図13に示す寸法に何ら制限を受けるものではない。
<<< §5. 第1の実施形態の変形例2(幅による調整) >>>
続いて、図3に示す第1の実施形態に係る発電素子1000の別な変形例の1つを説明する。図3に示す発電素子1000の板状構造体110は、図示のとおり、基準軸Yに沿って並んだ複数の区画パートS1,S2,S3に分割されており、個々の区画パートS1,S2,S3ごとに、それぞれ厚みが異なっている(それぞれ異なる厚みt1,t2,t3が設定されている。)。しかも、複数の重錘体211,212,213が、それぞれ異なる区画パートS1,S2,S3の下面に接合されている。
既に述べたとおり、図4に示されている基本構造体は、台座300,板状接続部J1,重錘体211,板状接続部J2,重錘体212,板状接続部J3,重錘体213という順序で各構成要素が接続された構造体である。そして、図示の例の場合、板状接続部J1,J2,J3の厚みは、t1>t2>t3に設定されており、最も根端部に近い位置に配置された板状接続部J1から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部J3にゆくに従って、厚みが単調減少してゆく設定がなされている。このように、各板状接続部J1,J2,J3の厚みを変える理由は、§2で図6および図7を用いて説明したとおり、各重錘体211,212,213の共振周波数fr1,fr2,fr3をその用途に応じて調整するためである。
各板状接続部J1,J2,J3の厚み増減させると、それぞれ共振周波数fr1,fr2,fr3をシフトさせることができるので、用途に応じた周波数特性をもつ発電素子を自由に設計することが可能になる。特に、根端部側から先端部側にゆくに従って、厚みを単調減少させるような設計や、逆に、単調増加させるような設計を行えば、共振周波数fr1,fr2,fr3の分布範囲を広げたり、あるいは、狭めたりするような系統的な調整が可能になる。
工業製品としての発電素子は、通常、特定の用途向けの製品として市場に提供されることになるので、個々の用途に応じた周波数特性をもつ発電素子を設計することは非常に重要である。このため、発電素子の設計時に、各板状接続部J1,J2,J3の厚みt1,t2,t3を増減させることにより、各重錘体211,212,213の共振周波数fr1,fr2,fr3を適切な値に調整することは非常に重要になる。ただ、共振周波数fr1,fr2,fr3の調整は、必ずしも各板状接続部J1,J2,J3の厚みt1,t2,t3の調整によって行う必要はなく、別なパラメータの調整によって行うことも可能である。そのようなパラメータの1つは、各板状接続部J1,J2,J3の幅w1,w2,w3である。
この§5では、これまで述べてきた第1の実施形態の変形例2として、板状構造体の各部の幅を変えることにより、各重錘体の共振周波数の調整を行う例を説明する。図14(a)は、変形例1に係る発電素子1020の基本構造体の上面図、図14(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。なお、発電素子1020の構成要素である電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略されているが、実際には、図示されている基本構造体には、たとえば、図8に例示したように、電荷発生素子400としての圧電素子が形成され、発電回路500により電力が取り出されることになる。また、板状構造体120の幅広になった根端部を固定するため、台座310としては、これまでの台座300に比べて若干幅の広いものが用いられている。
図14(a),図14(b)に示すとおり、この変形例の場合も、板状構造体120は基準軸Yに沿って3つの区画パートS1,S2,S3に分けられる。そこで、ここでも、個々の区画パートS1,S2,S3のうち、重錘体221,222,223が接合されていない部分を板状接続部J1,J2,J3と呼ぶことにする。この変形例の特徴は、3つの区画パートS1,S2,S3について、板状構造体120の厚みtは同一であるが、幅wが異なっている点である。
すなわち、図14(a)に示すとおり、板状構造体120は基準軸Yに沿って根端部から先端部へと伸びる板状の部材であり、区画パートS1,S2,S3の平面形状はいずれも矩形状をしており、その長さy(Y軸方向の寸法)および厚みt(Z軸方向の寸法)は同一であるものの、幅w(X軸方向の寸法)がそれぞれ異なっている。具体的には、区画パートS1,S2,S3の幅(板状接続部J1,J2,J3の幅)は、それぞれw1,w2,w3となっており、w1>w2>w3なる関係になっている。
一般に、図1に示すような単一の重錘体200を有する共振系の場合、板状構造体100の幅wと重錘体200の共振周波数frとの関係は、幅wが狭いほど共振周波数frは低くなり、幅wが広いほど共振周波数frは高くなる。したがって、図14に示す変形例のように、板状接続部J1,J2,J3の幅が、w1>w2>w3となるようにし、最も根端部に近い位置に配置された板状接続部J1から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部J3にゆくに従って、幅が単調減少してゆく設定を行えば、先端部に近い位置に接合された重錘体の共振周波数を低減させる調整効果が得られることになる。
要するに、図4に示す実施例では、板状構造体110の厚みを、根端部側から先端部側にゆくに従って単調減少させる設計(逆に、単調増加させる設計でもよい)を行っていたのに対して、図14に示す変形例では、板状構造体120の幅を、根端部側から先端部側にゆくに従って単調減少させる設計(逆に、単調増加させる設計でもよい)を行うことになる。いずれの例でも、各重錘体の共振周波数fr1,fr2,fr3をその用途に応じて調整することが可能になる。
なお、図14に示す変形例の場合、重錘体221,222,223の幅も増減させる構成を採用しているため、重錘体221,222,223の質量も根端部側から先端部側にゆくに従って単調減少することになる。もちろん、各重錘体221,222,223の幅を同一にし、質量を同一にしてもかまわない。なお、各重錘体の質量を変化させると、各重錘体の共振周波数が変化するため、各重錘体の質量により共振周波数の調整を行うこともできるが、このような調整方法については後述する(実際、図14に示す例の場合、板状構造体120の幅による共振周波数の調整効果と、各重錘体の質量の違いによる共振周波数の調整効果と、の相乗効果によって最終的な調整がなされる。)。
もちろん、区画パートS1,S2,S3の幅(板状接続部J1,J2,J3の幅)は、必ずしも根端部側から先端部側にゆくに従って単調減少もしくは単調増加する構成にする必要はない。要するに、板状構造体120が、基準軸Yに沿って並んだ複数の区画パートS1,S2,S3に分割されており、個々の区画パートS1,S2,S3ごとに、それぞれ幅w1,w2,w3が異なっているようにし、複数の重錘体221,222,223が、それぞれ異なる区画パートS1,S2,S3に接合されているようにすれば、共振周波数の調整を行うことができる。
<<< §6. 第1の実施形態の変形例3(装置筐体への収容) >>>
ここでは、これまで述べてきた発電素子の基本構造体を装置筐体に収容した変形例を述べる。本発明に係る発電素子は、振動を生じる板状構造体を有しているため、使用中に何らかの異物が板状構造体に接触することがないように、全体を装置筐体に収容するのが好ましい。ここでは、過度の外部振動が加わった場合に、基本構造体を破損から保護することが可能な制御部材としての機能を備えた装置筐体を例示する。
図15(a)は、図14に示す変形例2に係る発電素子1020を装置筐体600に収容することにより構成される発電素子1030を示す横断面図、図15(b)はその側断面図である。図15(a)に示す横断面図は、この発電素子1030をXY平面よりわずか上に位置する平面で切断した図であり、図15(b)は、これをYZ平面で切断した図である。
なお、図15において、装置筐体600に収容されている基本構造体は、図14に示す変形例2に係る発電素子1020そのものではなく、3組の重錘体221,222,223を、U字状重錘体231,232,233に置き換えたものである。図15に示す板状構造体130は、図14に示す板状構造体120と全く同等のものであり、異なる幅w1,w2,w3をもった区画パートS1,S2,S3によって構成されている。ただ、各区画パートS1,S2,S3の下面には、それぞれU字状重錘体231,232,233が接合されている。このU字状重錘体231,232,233の構造については、既に§4で説明したため、ここでは詳しい説明は省略するが、いずれも中央接合部、左翼状部、右翼状部を有しており、中央接合部の上面が板状構造体130の下面に接合され、左翼状部および右翼状部が、板状構造体130の輪郭線から左右外側へと突き出す構造を有している。
また、§3で述べたように、実際には、板状構造体130の上面には、圧電素子などの電荷発生素子400が設けられており、発生した電荷を電力として取り出すための発電回路500も設けられているが、図15では、これらの構成要素400,500についての図示は省略する。
装置筐体600は、この基本構造体(板状構造体130およびこれに接合された重錘体231,232,233)を収容する直方体をなし、図15(a)の横断面図に示されているとおり、台座壁部610、左側壁部620、対向壁部630、右側壁部640を有し、更に、図15(b)の側断面図に示されているとおり、上方壁部650、下方壁部660を有している。結局、この基本構造体は、前後左右上下の6方向に配置された各壁部610〜660によって囲われた空間内に収容されている。
しかも、台座壁部610は、これまで述べてきた例における台座310として機能し、板状構造体130の根端部は、この台座壁部610に固定されている。要するに、台座310が装置筐体600の一部として組み込まれてしまっていることになる。もちろん、これまで述べてきた例のように、板状構造体130の根端部を台座310によって固定し、この台座310を装置筐体600の内面に固定するようにしてもかまわない。
ここに示す発電素子1030の特徴は、装置筐体600の内面と、板状構造体130および重錘体231,232,233の外面との間に、所定の空間SPが確保されている点である。空間SPは、基本構造体の前後左右上下の6方向に設けられており、板状構造体130および重錘体231,232,233は、この空間SPの範囲内で自由に変位することができる。したがって、装置筐体600に加えられた外部振動の大きさが所定の基準レベル以下である場合には、この外部振動に応じて、板状構造体130および重錘体231,232,233は、この空間SP内で振動して発電を行うことができる。ところが、外部振動の大きさがこの所定の基準レベルを超えた場合には、外部振動に応じて、板状構造体130および重錘体231,232,233が装置筐体600の内面に接触し、それ以上の変位が制限されることになる。
もちろん、発電効率を高める、という観点からは、板状構造体130および重錘体231,232,233の変位は制御するべきではない。一般的には、大きな変位が生じれば、板状構造体130は大きく撓み、圧電素子などの電荷発生素子400は、より大きな電荷を発生することができる。しかしながら、板状構造体130に対して、その弾性限界を超えるような過度の変位が生じると、板状構造体130が破損する可能性があり、発電素子1030として機能しなくなるおそれがある。そこで、実用上は、板状構造体130が破損するような過度の変位が生じないように、装置筐体600の内面と、板状構造体130および重錘体231,232,233の外面との間の空隙寸法を所定の基準値に設定し、基準レベルを超えた外部振動が加えれらた場合には、板状構造体130および重錘体231,232,233が装置筐体600の内面に接触し、それ以上の変位が生じないようにしておくのが好ましい。
<<< §7. 第1の実施形態のその他の変形例 >>>
続いて、図3に示す第1の実施形態に係る発電素子1000についての更にいくつかの変形例を述べておく。
<7−1.各区画パートの長さによる共振周波数の調整>
§2では、本発明の第1の実施形態として、板状構造体110の各区画パートS1〜S3の厚みt(Z軸方向の寸法)を変えることにより、各重錘体の共振周波数の調整を行う例を説明し(図4参照)、§5では、その変形例として、板状構造体120の各区画パートS1〜S3の幅w(X軸方向の寸法)を変えることにより、各重錘体の共振周波数の調整を行う例を説明した(図14参照)。ここでは、更に別な変形例として、板状構造体140の各区画パートS1〜S3の長さy(Y軸方向の寸法)を変えることにより、各重錘体の共振周波数の調整を行う例を、図16を参照しながら説明する。
図16(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例4に係る発電素子1040の基本構造体の上面図、図16(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。ここでも、電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略する。この発電素子1040の場合、板状構造体140の厚みtおよび幅wは一定であるが、各区画パートS1,S2,S3の長さが、それぞれy1,y2,y3と異なっている。図示の例の場合、y1<y2<y3となっており、根端部側から先端部側にゆくに従って、各区画パートS1,S2,S3の長さは単調増加している。
要するに、この変形例4の場合、板状構造体140が、基準軸Yに沿って並んだ複数の区画パートS1,S2,S3に分割されており、個々の区画パートごとに、それぞれ長さy1,y2,y3が異なっており、複数の重錘体241,242,243が、それぞれ異なる区画パートS1,S2,S3に接合されていることになる。その結果、各重錘体241,242,243の配置は等間隔ではなくなり、板状接続部J1,J2,J3の長さも、J1<J2<J3というように、最も根端部に近い位置に配置された板状接続部から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部にゆくに従って、長さが単調増加することになる(逆に、単調減少するような配置をとることも可能である)。
各区画パートS1,S2,S3の長さy1,y2,y3は、各重錘体241,242,243についての共振系の長さにそのまま対応するものではないが、重錘体241の共振系の長さL1は、L1=y1であり、重錘体242の共振系の長さL2は、L2=y1+y2であり、重錘体243の共振系の長さL3は、L3=y1+y2+y3であるため、結局、各区画パートS1,S2,S3の長さy1,y2,y3は、各共振系の長さL1,L2,L3を決定するパラメータになる。
既に述べたとおり、図1に示すような単一の重錘体200を有する共振系の場合、板状構造体100の長さLと重錘体200の共振周波数frとの関係は、長さLが長いほど共振周波数frは低くなり、長さLが短いほど共振周波数frは高くなる。したがって、図16に示す変形例のように、各区画パートS1,S2,S3の長さy1,y2,y3を適切に設定すれば、各重錘体241,242,243の共振周波数をそれぞれシフトさせる調整を行うことが可能になる。特に、根端部側から先端部側にゆくに従って、各区画パートや各板状接続部の長さを単調減少あるいは単調増加させるような設計を行えば、共振周波数の分布範囲を広げたり、あるいは、狭めたりするような系統的な調整が可能になる。
<7−2.厚みを連続的に変化させる変形例>
図4に示す第1の実施形態に係る発電素子1000では、板状構造体110の各区画パートS1〜S3の厚みtを変化させる例を示した。すなわち、図4(b)に示されているように、板状構造体110の厚みは、t1,t2,t3と段階的に変化している。ここでは、厚みtを連続的に変化させる変形例を説明する。
図17(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例5に係る発電素子1050の基本構造体の上面図、図17(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。ここでも、電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略する。この発電素子1050の場合、図17(a)に示すように、板状構造体150の幅wは一定であるが、図17(b)に示すように、板状構造体150の厚みtは、基準軸Yに沿って徐々に減少してゆき、厚み方向の切断面が台形状をなす構造になっている。このため、板状構造体150の底面は傾斜面を構成し、重錘体251,252,253は、この傾斜面に接合されている。
もちろん、図17に示す例とは逆に、板状構造体150の厚みtが、基準軸Yに沿って徐々に増加してゆくような構成を採用することも可能である。この図17に示す変形例5に係る発電素子1050も、個々の区画パートS1〜S3ごとに、それぞれ厚みが異なるという点においては、図4に示す発電素子1000と同じであるため、各重錘体251,252,253の共振周波数をそれぞれシフトさせる調整を行うことが可能になる。すなわち、厚みtの増減率を調整することにより、各共振周波数をシフトさせる調整を行うことができる。
<7−3.幅を連続的に変化させる変形例>
図14に示す変形例2に係る発電素子1020では、板状構造体120の各区画パートS1〜S3の幅wを変化させる例を示した。すなわち、図14(a)に示されているように、板状構造体120の幅は、w1,w2,w3と段階的に変化している。ここでは、幅wを連続的に変化させる変形例を説明する。
図18(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例6に係る発電素子1060の基本構造体の上面図、図18(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。ここでも、電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略する。この発電素子1060の場合、図18(b)に示すように、板状構造体160の厚みtは一定であるが、図18(a)に示すように、板状構造体160の幅wは、基準軸Yに沿って徐々に減少してゆき、平面形状が台形状をなす構造になっている。このため、板状構造体160の左右の輪郭線は傾斜し、重錘体261,262,263の平面形状も台形になっている(重錘体261,262,263の平面形状は、必ずしも台形にする必要はない。)。なお、板状構造体160の幅広になった根端部を固定するため、台座310としては、図17に示す台座300に比べて若干幅の広いものが用いられている。
もちろん、図18に示す例とは逆に、板状構造体160の幅wが、基準軸Yに沿って徐々に増加してゆくような構成を採用することも可能である。この図18に示す変形例6に係る発電素子1060も、個々の区画パートS1〜S3ごとに、それぞれ幅が異なるという点においては、図14に示す発電素子1020と同じであるため、各重錘体261,262,263の共振周波数をそれぞれ増減させる調整を行うことが可能になる。すなわち、幅wの増減率を調整することにより、各共振周波数をシフトさせる調整を行うことができる。なお、図18に示す例では、各重錘体261,262,263は幅が異なり、質量も異なっているため、次に述べるように、重錘体の質量の違いに基づく共振周波数の調整効果も得られる。
<7−4.重錘体の質量を変化させる変形例>
これまで述べてきた例は、板状構造体の構造や各重錘体の配置を変えることにより、各重錘体の共振周波数を調整するという手法を採用したものであるが、各重錘体の共振周波数は、重錘体自身の質量を変えることによっても調整可能である。ここでは、そのような変形例を述べる。
図19(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例7に係る発電素子1070の基本構造体の上面図、図19(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。ここでも、電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略する。この発電素子1070の場合、板状構造体170の幅wおよび厚みtは一定であるが、各重錘体271,272,273のサイズが異なり、その結果、質量が異なっている。すなわち、重錘体271は、幅(X軸方向の寸法)および高さ(Z軸方向の寸法)は小さく、その質量は3組の重錘体の中で最も小さくなる。一方、重錘体272は幅も高さも中程度で、質量は中程度になる。そして、重錘体273は幅も高さも大きく、その質量は3組の重錘体の中で最も大きくなる。
一般に、図1に示すような単一の重錘体200を有する共振系の場合、重錘体200の質量mと共振周波数frとの関係は、質量mが大きいほど共振周波数frは低くなり、質量mが小さいほど共振周波数frは高くなる。したがって、複数の重錘体を用いることを前提とした本発明の第1の実施形態に係る発電素子の場合、複数の重錘体のうちの少なくとも2組の質量が互いに異なるようにすることにより、各共振周波数をシフトさせる調整を行うことができる。
<7−5.各部の材質を変える変形例>
次に、基本構造体の各部の材質を変えることにより、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整を行う例を述べておく。図20(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例8に係る発電素子1080の基本構造体の上面図、図20(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。ここでも、電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略する。この発電素子1080の場合、板状構造体180の幅wおよび厚みtは一定であり、各重錘体271,272,273の形状やサイズも同一であり、その配置も等間隔である。すなわち、区画パートS1〜S3の幾何学的構造は同一であり、板状接続部J1〜J3の長さはすべて等しい。
このように、幾何学的には統一性を有する基本構造体であっても、各部の材質を変えることにより、各共振周波数をシフトさせる調整を行うことができる。たとえば、図20に示す変形例8の場合、板状構造体180は、基準軸Yに沿って並んだ複数の区画パートS1〜S3に分割されており、複数の重錘体281,282,283が、それぞれ異なる区画パートS1〜S3に接合されている。そこで、個々の区画パートS1〜S3ごとに、それぞれ異なる材質を用いて構成するようにすれば、各重錘体281,282,283の共振周波数をシフトさせる調整を行うことができる。
具体的には、区画パートS1〜S3について、それぞれヤング率Eが異なる材質を用いるようにすればよい。ヤング率Eは歪みと応力の比例定数であり、ヤング率Eが小さいほど柔らかく撓みやすい性質を示し、ヤング率Eが大きいほど硬く撓みにくい性質を示している。たとえば、同じ金属であっても、アルミニウムのヤング率はE=70程度、チタンのヤング率はE=107程度、鋼のヤング率はE=210程度、タングステンのヤング率はE=345程度、とされている。
一般に、図1に示すような単一の重錘体200を有する共振系の場合、板状構造体100を構成する材質のヤング率Eと共振周波数frとの関係は、ヤング率Eが小さいほど(柔らかい材質ほど)共振周波数frは低くなり、ヤング率Eが大きいほど(硬い材質ほど)共振周波数frは高くなる。したがって、図20(b)に示す例において、区画パートS1〜S3をそれぞれヤング率Eの異なる金属で構成すれば、板状接続部J1,J2,J3のバネ定数が相互に異なるようになり、各重錘体281,282,283の共振周波数をシフトさせる調整が可能になる。
たとえば、最も根端部に近い位置に配置された板状接続部J1から、最も先端部に近い位置に配置された板状接続部J3にゆくに従って、当該板状接続部を構成する材質のヤング率が単調減少もしくは単調増加してゆくようにすれば、各重錘体281,282,283の共振周波数の分布範囲を広げたり、あるいは、狭めたりするような系統的な調整が可能になる。
また、各重錘体281,282,283の材質を変えることにより、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整を行うことも可能である。§7−4では、重錘体の質量を変化させることにより、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整を行う変形例7を述べた。この変形例7では、重錘体のサイズを変えることにより質量を変化させているが、重錘体の材質を変えることにより質量を変化させることも可能である。たとえば、図20(b)に示す例において、各重錘体281,282,283を、それぞれ比重の異なる別々の材質によって構成するようにすれば、共振周波数をシフトさせる調整を行うことができる。
<7−6.重錘体の接合位置を変える変形例>
最後に、重錘体の接合位置を変える変形例を述べておく。図21は、本発明の第1の実施形態の変形例9に係る発電素子1090の基本構造体をYZ平面で切断した側断面図である。ここでも、電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略する。
図21に示す発電素子1090は、図4に示す発電素子1000における各重錘体211,212,213の板状構造体110に対する接合位置を若干変更したものである。したがって、図21に示す板状構造体190は、図4に示す板状構造体110と同一の構成要素であり、図21に示す各重錘体291,292,293は、図4に示す各重錘体211,212,213と同一の構成要素である。これまで述べてきた種々の例では、各重錘体を板状構造体の下面に接合する際に、それぞれ対応する区画パートの最も先端部寄りの位置に配置しているが、各重錘体は、必ずしも対応する区画パートの最も先端部寄りの位置に配置する必要はなく、当該区画パート内の任意の位置に配置してかまわない。
図21に示す変形例9では、重錘体291,292,293は、それぞれ対応する区画パートS1,S2,S3内の任意の位置に配置されている。その結果、重錘体291,292,293についての各共振系の長さL1,L2,L3は、図4に示す各共振系の長さL1,L2,L3と若干異なっている。このように、共振系の長さを変えることにより、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整を行うことができる点は既に述べたとおりである。
<<< §8. 共振周波数の調整方法のまとめ >>>
これまで、複数の重錘体を有する基本構造体において、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整方法をいくつか述べてきた。§2で述べたとおり、本発明の第1の実施形態の最も重要な特徴は、所定の基準軸Yに沿って伸びる1本の板状構造体に、所定間隔をあけて複数の重錘体を接合する点である。このような構成により、重錘体の数に応じた複数のピーク波形をもった周波数特性が得られ、発電可能な周波数帯域を広げる効果が得られることは、既に§2で説明したとおりである。
したがって、本発明の第1の実施形態を実施する上で、各重錘体の共振周波数を調整するための何らかの工夫(板状構造体の各部の厚みや幅を変えたり、重錘体の質量を変えたりする工夫)は、必ずしも必要なものではない。別言すれば、図20に示す発電素子1080において、各部の材質をすべて同一にした実施形態を採用することも可能である。
しかしながら、前述したとおり、工業製品としての発電素子は、通常、特定の用途向けの製品として市場に提供されることになるので、実用上は、個々の用途に応じた周波数特性をもつ発電素子を設計することが重要になる。そのためには、これまで述べてきた様々な工夫により、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整が必要になる。
たとえば、図6のグラフに示すような3つのピーク波形P1,P2,P3を有する周波数特性(発電可能な周波数帯域R1)が得られている状態において、周波数帯域をR2まで広げたい場合には、§2で述べたように、ピーク波形P1を示す共振系(重錘体211を含む系)の共振周波数fr1を右側にシフトさせ、ピーク波形P3を示す共振系(重錘体213を含む系)の共振周波数fr3を左側にシフトさせて、図7(a)のグラフに示すような周波数特性を得る調整が必要になる。逆に、周波数帯域をR3まで狭めて、図7(b)のグラフに示すような融合ピーク波形PPを得たい場合には、ピーク波形P1を示す共振系の共振周波数fr1を左側にシフトさせ、ピーク波形P3を示す共振系の共振周波数fr3を右側にシフトさせる調整が必要になる。
これまで、このような調整方法として、様々な工夫を述べてきた。図22に示す表は、図1に示すような単一の重錘体200を有する共振系において、重錘体200の共振周波数frを調整するための具体的な方法をまとめたものである。この表に示されている具体的な調整方法は、板状構造体100の形状や材質を変える方法と、重錘体200の質量を変える方法とに大別される。
前者としては、厚みt(Z軸方向の寸法)を変える方法、幅w(X軸方向の寸法)を変える方法、長さL(Y軸方向の寸法)を変える方法、材質(ヤング率E)を変える方法が挙げられている。まず、板状構造体100の厚みtを薄くすれば、共振周波数frは低くなり、厚みtを厚くすれば、共振周波数frは高くなる。同様に、板状構造体100の幅wを狭くすれば、共振周波数frは低くなり、幅wを広くすれば、共振周波数frは高くなる。そして、板状構造体100の長さL(共振系の長さ)を長くすれば、共振周波数frは低くなり、長さLを短くすれば、共振周波数frは高くなる。最後に、板状構造体100の材質を柔らかくすれば(ヤング率Eを小さくすれば)共振周波数frは低くなり、材質を硬くすれば(ヤング率Eを大きくすれば)共振周波数frは高くなる。
一方、後者は、重錘体の質量mを変える方法であり、具体的には、サイズを変える方法と材質(比重)を変える方法とがある。いずれの場合も、質量mを大きくすると(重くすると)共振周波数frは低くなり、質量mを小さくすると(軽くすると)共振周波数frは高くなる。
この図22の表に示す調整方法は、図1に示すような単一の重錘体200を有する共振系を前提としたものであるが、その基本原理は、複数の重錘体を有する本発明の第1の実施形態に適用することができる。具体的な適用方法は、これまでの実施例や変形例として述べたとおりである。
板状構造体の形状や材質を変える前者の方法では、変更対象として、厚みt、幅w、長さL(板状接続部の長さy)、材質(ヤング率E)という4つのパラメータが存在するが、もちろん、これら4つのパラメータを組み合わせて変更するようにしてもかまわない。要するに、板状構造体のうち、台座とこれに隣接して配置された重錘体とを接続する部分、および、互いに隣接して配置された一対の重錘体を相互に接続する部分を、それぞれ板状接続部と呼んだときに、これら板状接続部の少なくとも2組に関して、厚み、幅、長さ、材質の4つのパラメータのうちの1つのパラメータもしくは複数のパラメータが異なるような構成にすれば、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整を行うことができる。
この4つのパラメータを変えることは、共振系のバネ定数を変えることに他ならない。したがって、これらのパラメータにより各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整方法を採用した発電素子は、「複数の板状接続部のうち、少なくとも2組の板状接続部のバネ定数が異なる」という固有の特徴を有していることになる。
より具体的には、各板状接続部について、根端部に近い側の端部を根端側端部、先端部に近い側の端部を先端側端部とし、根端側端部を固定した状態において、先端側端部に対して所定の作用方向に力Fを加えたときに先端側端部の上記作用方向に生じる変位をdとしたときに、k=F/dなる式で与えられる値kを、当該板状接続部のバネ定数と定義し、各板状接続部のバネ定数が異なるような板状構造体を設計すれば、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整を行うことができるようになる。
たとえば、図4に示す発電素子1000の場合、板状構造体110には、その部分要素として、3組の板状接続部J1,J2,J3が含まれている。これら板状接続部J1,J2,J3の厚みは、それぞれt1,t2,t3であり、互いに異なっているためバネ定数も互いに異なったものになる。
具体的には、板状接続部J1のバネ定数k1は、根端側端部Oを固定した状態において、先端側端部T1に対して所定の作用方向(たとえば、Z軸方向)に力Fを加えたときに、先端側端部T1の上記作用方向(Z軸方向)に生じる変位をd1として、k1=F/d1なる式で与えられることになる。同様に、板状接続部J2のバネ定数k2は、根端側端部T1を固定した状態において、先端側端部T2に対して所定の作用方向に力Fを加えたときに、先端側端部T2の上記作用方向に生じる変位をd2として、k2=F/d2なる式で与えられることになる。また、板状接続部J3のバネ定数k3は、根端側端部T2を固定した状態において、先端側端部T3に対して所定の作用方向に力Fを加えたときに、先端側端部T3の上記作用方向に生じる変位をd3として、k3=F/d3なる式で与えられることになる。
板状接続部J1,J2,J3は、それぞれ厚みが異なるため、上記各式で定義されるバネ定数k1,k2,k3は互いに異なった値になる。このように、板状接続部の厚みtは、バネ定数を決定するパラメータの1つであり、個々の板状接続部ごとに、それぞれ厚みtを変えることにより、バネ定数kを変えることができ、その結果、各重錘体の共振周波数を調整することができるようになる。同様に、板状接続部の幅w、長さy、材質(ヤング率E)も、バネ定数kを決定するパラメータの1つであり、個々の板状接続部ごとに、それぞれ幅w、長さy、材質(ヤング率E)を変えることにより、バネ定数kを変えることができ、その結果、各重錘体の共振周波数を調整することができるようになる。
図1に示すような板状構造体100と単一の重錘体200とを有する単純な共振系の場合、そのバネ定数は、図22の表に記載したとおり、板状構造体100の厚みt、幅w、長さy、材質(ヤング率E)によって定まり、バネ定数kを小さくすれば(バネを柔らかくすれば)、共振周波数frは低くなり、バネ定数kを大きくすれば(バネを硬くすれば)、共振周波数frは高くなる。したがって、板状構造体の厚みt、幅w、長さy、材質(ヤング率E)を変えることにより重錘体の共振周波数をシフトさせる方法は、結局、共振系のバネ定数を変えることにより共振周波数を調整する方法ということになる。
もちろん、各重錘体の共振周波数をシフトさせる方法には、その質量mを変える方法もあるので、板状構造体の形状や材質を変える前者の方法と、重錘体の質量mを変える後者の方法と、を組み合わせて利用することもできる。結局、実用上は、図22の表に示されているパラメータの中から、1つもしくは複数のパラメータを選択し、共振系ごとに選択したパラメータの値を変える設定を行うことにより、各共振系の共振周波数を所定方向にシフトする調整を行うことが可能になる。
図23は、このような調整方法の基本概念を示す図であり、上段には2組の重錘体を備えた発電素子の基本構造体をYZ平面で切断した側断面図(断面を示すハッチングは省略)が示されており、下段には各共振系の周波数特性が示されている。図23の上段に示すとおり、この発電素子の基本構造体は、板状構造体10と、その下面に接合された2組の重錘体21,22と、板状構造体10の根端部を固定する台座30と、を備えている。ここでは、説明の便宜上、板状構造体10を根端部側部分11と先端部側部分12とに分けて考えることにする。
このように2組の重錘体21,22を有する基本構造体には、各重錘体に対応して2組の共振系が含まれる。第1の共振系Q1は、根端部側部分11が片持ち梁として機能する系であり、その長さはL1になる。そして、この長さL1の位置に、重錘体21,先端部側部分12,重錘体22の合計質量に相当する質点が存在する力学系として取り扱われる。これに対して、第2の共振系Q2は、板状構造体10全体が片持ち梁として機能する系であり、その長さはL2になる。そして、この長さL2の位置に、重錘体22の質量に相当する質点が存在する力学系として取り扱われる。
このように、第1の共振系Q1と第2の共振系Q2とは入れ子式になっているため、これらの挙動を正確に解析するには、複雑な演算が必要になる。別言すれば、図1に示すような単一の重錘体のみを有する共振系を2組並列配置した、という単純な取り扱いをすることはできない。ただ、各共振系の共振周波数を変動させる要因となるパラメータが、図22の表に示されているパラメータになる点は共通するので、共振周波数をシフトさせる調整は、この図22の表の内容にしたがって行うことができる。
ここでは、図23の上段に示す基本構造体において、根端部側部分11と先端部側部分12とが、同じ厚み、同じ幅、同じ長さを有しており、重錘体21と重錘体22とが、同じサイズ、同じ質量を有しているものとしよう。そして、この上段に示す基本構造体における第1の共振系Q1の共振周波数が、下段のグラフに示すfr1であり、第2の共振系Q2の共振周波数が、下段のグラフに示すfr2であり、それぞれピーク波形P1,P2に示すような周波数特性(各重錘体21,22の振幅A)が得られるものとしよう。図22の表に示すとおり、一般に、長さLが長い共振系ほど共振周波数frは低くなるので、図23に示す例の場合、長さL2を有する第2の共振系Q2についての共振周波数fr2は低域側、長さL1を有する第1の共振系Q1についての共振周波数fr1は高域側に位置している。
ここで、共振周波数fr1(ピーク波形P1)を左右にシフトさせたい場合は、第1の共振系Q1に対して図22の表を適用させた調整を行えばよく、共振周波数fr2(ピーク波形P2)を左右にシフトさせたい場合は、第2の共振系Q2に対して図22の表を適用させた調整を行えばよい。もっとも、2組の共振系Q1,Q2は、入れ子式になっているため、一方についてのパラメータを変更すると、他方についてのパラメータも多少影響を受けることになる。したがって、図1に示すような単純な共振系に比べると、思惑通りの調整ができないケースもあるが、実用上は、コンピュータシミュレーションによる試行錯誤を行うことにより、所望の周波数特性が得られるような最終調整が可能である。
たとえば、図23の下段のグラフに示すように、ピーク波形P1を左側にシフトしてピーク波形P1’(破線のグラフ)とし、ピーク波形P2を右側にシフトしてピーク波形P2’(破線のグラフ)とすれば、2組のピーク波形P1’,P2’が相互に一部重複することになり、発電量を示す周波数特性グラフ上では、2組のピーク波形P1’,P2’を融合させた融合ピーク波形PPが形成される(図7(b)参照)。このように、個々の重錘体の共振周波数付近のスペクトルピーク波形が相互に一部重複するように、各重錘体の共振周波数が隣接するように設定すると、半値幅の広い融合ピーク波形PPが得られるため、当該半値幅に含まれる周波数成分を多く含む外部振動を想定した発電素子では、発電効率を向上させることができる。
このような融合ピーク波形PPを形成させるには、第1の共振系Q1の共振周波数fr1を下げてfr1(−)とし、第2の共振系Q2の共振周波数fr2を上げてfr2(+)とする調整を行えばよい。たとえば、図22の表を参照すると、重錘体21のサイズを大きくして質量を大きくし、重錘体22のサイズを小さくして質量を小さくすれば、そのような調整が可能なことがわかる。もちろん、重錘体22の質量は、共振系Q2の質点の質量だけでなく、共振系Q1の質点の質量にも寄与するので、重錘体22の質量を小さくすると、共振系Q1に対しても質点の質量を小さくする影響を与えることになるが、その影響を十分に打ち消すことができる程度に、重錘体21の質量を大きくすれば、共振系Q2の質点の質量を小さくしつつ、共振系Q1の質点の質量を大きくすることが可能であり、上述した調整を行うことが可能になる。
以上、図22の表に示されている「重錘体の質量」というパラメータを用いた調整方法を述べたが、もちろん、その他のパラメータを用いた調整も同様に行うことができるし、必要に応じて、複数のパラメータを組み合わせて調整を行うこともできる。たとえば、図14に示す例の場合、板状構造体120の幅というパラメータと、各重錘体221,222,223の質量というパラメータと、を組み合わせた調整が行われることになる。前者のパラメータは、図7(a)に示すように、周波数帯域を広げる調整効果を有し(先端部ほど幅が狭くなっているため)、後者のパラメータは、図7(b)に示すように、周波数帯域を狭める調整効果を有している(先端部ほど重錘体が軽くなっているため)。したがって、最終的な周波数帯域は、両パラメータのバランスによって決定されることになる。
また、場合によっては、上記調整によって、融合ピーク波形PPが形成されたものの、当該波形の帯域が実利用環境で想定される外部周波数帯域とずれているような場合は、融合ピーク波形PP全体を高域側もしくは低域側にシフトする調整が必要になる。このような場合には、複数のパラメータを使い分けた調整を行うと便利である。たとえば、上述したように、「重錘体の質量」というパラメータを用いた調整を行うことにより融合ピーク波形PPを形成するようにし、「板状構造体の厚み」という別なパラメータを用いた調整を行うことにより、融合ピーク波形PP全体を所定方向にシフトさせる、というような方法を採ることが可能である。
<<< §9. 基本構造体の別な構成形態 >>>
これまで述べてきた発電素子の基本構造体は、可撓性を有する板状構造体と、板状構造体に接合された複数の重錘体と、板状構造体の根端部を固定する台座と、を有していた。ここでは、この基本構造体の別な構成方法を述べる。
図24(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例10に係る発電素子1100の基本構造体の上面図、図24(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。ここでも、電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略する。この発電素子1100は、実質的には、図4に示す発電素子1000と同等のものであり、両者の外形形状は同一である。ただ、基本構造体の構成形態が若干異なっている。
すなわち、図4に示す発電素子1000の場合、板状構造体110と、3組の重錘体211,212,213と、台座300と、によって基本構造体が構成されており、板状構造体110の下面の所定位置に3組の重錘体211,212,213を接合する構造を採用している。これに対して、図24に示す発電素子1100の場合、基本構造体は、台座300と変形構造体710とによって構成されている。
ここで、変形構造体710は、所定の基準軸Yに沿って根端部から先端部へと伸び、振動が加わると変形を生じる構成要素であり、台座300は、この変形構造体710の根端部を固定する構成要素である。図示のとおり、変形構造体710は、基準軸Yに沿って所定間隔をあけて並べて配置された3組の重錘部W11,W12,W13と、台座300とこれに隣接して配置された重錘部W11との間を相互に接続する可撓性接続部J11と、互いに隣接して配置された一対の重錘部W11,W12の間を相互に接続する可撓性接続部J12と、互いに隣接して配置された一対の重錘部W12,W13の間を相互に接続する可撓性接続部J13と、を有している。
このように、図24に示す変形構造体710と図4に示す板状構造体110とは、内部構造に関しては相違しているが、図24に示す可撓性接続部J11,J12,J13は、図4に示す板状接続部J1,J2,J3に対応し、外部から振動エネルギーが与えられると撓みを生じることになる。したがって、この発電素子1100においても、重錘部W11,W12,W13に関してそれぞれ別個の共振系が形成されることになり、図4に示す発電素子1000と同等の発電機能が得られる。
図24(a)に示すように、各可撓性接続部J11,J12,J13は、同一の幅wを有しているが、図24(b)に示すように、各可撓性接続部J11,J12,J13の厚みは、それぞれt1,t2,t3という異なる値に設定されている。これにより、各共振系の共振周波数の調整が行われる点は、既に述べたとおりである。この発電素子1100の発電動作も、図4に示す発電素子1000の発電動作と同じであるため、ここでは詳しい説明は省略する。
一方、図25(a)は、本発明の第1の実施形態の変形例11に係る発電素子1200の基本構造体の上面図、図25(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。ここでも、電荷発生素子400および発電回路500の図示は省略する。この発電素子1200は、実質的には、図14に示す発電素子1020と同等のものであり、両者の外形形状は同一である。ただ、基本構造体の構成形態が若干異なっている。
すなわち、図14に示す発電素子1020の場合、板状構造体120と、3組の重錘体221,222,223と、台座310と、によって基本構造体が構成されており、板状構造体120の下面の所定位置に3組の重錘体221,222,223を接合する構造を採用している。これに対して、図25に示す発電素子1200の場合、基本構造体は、台座310と変形構造体720とによって構成されている。
ここで、変形構造体720は、所定の基準軸Yに沿って根端部から先端部へと伸び、振動が加わると変形を生じる構成要素であり、台座310は、この変形構造体720の根端部を固定する構成要素である。図示のとおり、変形構造体720は、基準軸Yに沿って所定間隔をあけて並べて配置された3組の重錘部W21,W22,W23と、台座310とこれに隣接して配置された重錘部W21との間を相互に接続する可撓性接続部J21と、互いに隣接して配置された一対の重錘部W21,W22の間を相互に接続する可撓性接続部J21と、互いに隣接して配置された一対の重錘部W22,W23の間を相互に接続する可撓性接続部J23と、を有している。
このように、図25に示す変形構造体720と図14に示す板状構造体120とは、内部構造に関しては相違しているが、図25に示す可撓性接続部J21,J22,J23は、図14に示す板状接続部J1,J2,J3に対応し、外部から振動エネルギーが与えられると撓みを生じることになる。したがって、この発電素子1200においても、重錘部W21,W22,W23に関してそれぞれ別個の共振系が形成されることになり、図14に示す発電素子1020と同等の発電機能が得られる。
図25(b)に示すように、各可撓性接続部J21,J22,J23は、同一の厚みtを有しているが、図25(a)に示すように、各可撓性接続部J21,J22,J23の幅は、それぞれw1,w2,w3という異なる値に設定されている。これにより、各共振系の共振周波数の調整が行われる点は、既に述べたとおりである。この発電素子1200の発電動作も、図14に示す発電素子1020の発電動作と同じであるため、ここでは詳しい説明は省略する。
結局、図24に示す変形例10や図25に示す変形例11は、基本的には、これまで述べてきた本発明の第1の実施形態の範疇に入る発電素子ということになるが、構成要素の組み合わせ方を若干変えたものということができる。
要するに、この§9で述べる発電素子は、これまで述べてきた各実施例と同様に、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子であり、所定の基準軸に沿って根端部から先端部へと伸び、振動が加わると変形を生じる変形構造体と、この変形構造体の根端部を固定する台座と、変形構造体の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子(ここでは、図示や説明は省略)と、この電荷発生素子に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路(ここでは、図示や説明は省略)と、を備えていることになる。
そして、変形構造体は、基準軸に沿って所定間隔をあけて並べて配置された複数の重錘部と、台座とこれに隣接して配置された重錘部との間および互いに隣接して配置された一対の重錘部の間を相互に接続する可撓性接続部と、を有している。
このような構成をもった発電素子について、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整を行うには、これまで述べてきた各実施例と同様に、変形構造体に含まれている可撓性接続部の中の少なくとも2組のバネ定数が異なるような設定を行えばよい。この場合、各可撓性接続部について、根端部に近い側の端部を根端側端部、先端部に近い側の端部を先端側端部とし、根端側端部を固定した状態において、先端側端部に対して所定の作用方向に力Fを加えたときに先端側端部の前記作用方向に生じる変位をdとしたときに、k=F/dなる式で与えられる値kを、当該可撓性接続部のバネ定数として用いるようにすればよい。
図24図25に示す例は、各可撓性接続部J11〜J23を、それぞれ板状をなす板状接続部によって構成した例である。このように可撓性接続部J11〜J23を板状接続部によって構成した場合、これら板状接続部の少なくとも2組に関して、厚み、幅、長さ、材質の4つのパラメータのうちの1つのパラメータもしくは複数のパラメータを異ならせる設定を行えば、各重錘体の共振周波数をシフトさせる調整を行うことが可能になる。
もちろん、各可撓性接続部J11〜J23は、必ずしも板状の部材によって構成する必要はなく、可撓性をもった部材であれば、どのような部材によって可撓性接続部を構成してもかまわない。たとえば、コイル状のバネによって可撓性接続部J11〜J23を構成してもよい。
<<< §10. 2組の発電素子用構造体を直交配置した変形例 >>>
ここでは、これまで述べてきた本発明の第1の実施形態に係る発電素子に用いられる2組の「発電素子用構造体」を直交配置した変形例12を述べる。ここで、「発電素子用構造体」とは、これまで述べてきた様々な実施例に係る発電素子において、板状構造体と、複数の重錘体と、電荷発生素子と、を備えた部分を言う(台座や発電回路は含まない)。たとえば、図3に示す発電素子1000の場合、板状構造体110と、重錘体211,212,213と、電荷発生素子400と、を備えた部分が「発電素子用構造体」ということになる。同様に、図14に示す発電素子1020の場合、板状構造体120と、重錘体221,222,223と、図示されていない電荷発生素子400と、を備えた部分が「発電素子用構造体」ということになる。
この「発電素子用構造体」の特徴は、所定の基準軸に沿って伸びる板状構造体に複数の重錘体が接合されており、板状構造体の変形に基づいて電荷発生素子が電荷を発生させる点である。この§10で述べる変形例12は、このような「発電素子用構造体」を2組と、台座と、発電回路と、を備えた発電素子ということになる。
図26は、この変形例12に係る発電素子1500の基本構造体の上面図であり、これまで述べてきたXYZ三次元座標系の各座標軸の他に、新たにV軸(X軸に平行で逆向きの軸)が追加されている。この発電素子1500は、図14に示す発電素子1020についての「発電素子用構造体」(すなわち、板状構造体120、重錘体221,222,223、電荷発生素子400)を2組用意して、基準軸が直交するように組み合わせ、更に、台座350と発電回路500を付加することにより構成される。
なお、図26では、2組の「発電素子用構造体」のうち、第1の発電素子用構造体の各構成要素には、図14において対応する構成要素の符号末尾にYを付して示すことにし、第2の発電素子用構造体の各構成要素には、図14において対応する構成要素の符号末尾にVを付して示すことにする。これは、第1の発電素子用構造体がY軸を基準軸として配置され、第2の発電素子用構造体がV軸を基準軸として配置されているためである。
図示のとおり、第1の発電素子用構造体は、Y軸を基準軸として、図の水平方向に伸びる板状構造体120Yと、その下面に接合された重錘体221Y,222Y,223Yと、板状構造体120Yの上面に設けられた電荷発生素子400Y(図では、板状構造体120Yの上面ではなく、ブロック図として示されている)とを有している。ここで、板状構造体120Yは、幅w1を有し重錘体221Yが接合された区画パートS1Yと、幅w2を有し重錘体222Yが接合された区画パートS2Yと、幅w3を有し重錘体223Yが接合された区画パートS3Yと、を有しており、根端部は台座350によって固定されている。
一方、第2の発電素子用構造体は、V軸を基準軸として、図の垂直方向に伸びる板状構造体120Vと、その下面に接合された重錘体221V,222V,223Vと、板状構造体120Vの上面に設けられた電荷発生素子400V(図では、板状構造体120Vの上面ではなく、ブロック図として示されている)とを有している。ここで、板状構造体120Vは、幅w1を有し重錘体221Vが接合された区画パートS1Vと、幅w2を有し重錘体222Vが接合された区画パートS2Vと、幅w3を有し重錘体223Vが接合された区画パートS3Vと、を有しており、根端部は第1の発電素子用構造体の先端部に接合されている。
図示のとおり、第1の発電素子用構造体の基準軸Yと第2の発電素子用構造体の基準軸Vとは直交している。また、第1の発電素子用構造体の根端部(板状構造体120Yの根端部)は台座350によって固定され、第1の発電素子用構造体の先端部(板状構造体120Yの先端部)は第2の発電素子用構造体の根端部(板状構造体120Vの根端部)に接続されているため、第2の発電素子用構造体の先端部(板状構造体120Vの先端部)は、第1の発電素子用構造体および第2の発電素子用構造体を介して、台座350によって片持ち梁構造によって支持された状態になっている。
また、図にブロック図として示されている発電回路500は、第1の発電素子用構造体の電荷発生素子400Yおよび第2の発電素子用構造体の電荷発生素子400Vに発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す役割を果たす。
図14に示す発電素子1020は、基準軸Yに沿って伸びる板状構造体120と、その下面に接合された3組の重錘体221,222,223を有しており、Z軸方向の振動やY軸方向の振動に対する発電効率は高いが、X軸方向の振動に対する発電効率はそれほど高くない。これに対して、図26に示す発電素子1500の場合、互いに直交するように配置された2組の発電素子用構造体を有しているため、X軸,Y軸,Z軸のいずれの方向の振動に対しても良好な発電効率が得られる。すなわち、基準軸Y方向に伸びる第1の発電素子用構造体は、Z軸方向の振動やY軸方向の振動に対する発電効率は高いが、X軸方向の振動に対する発電効率はそれほど高くない。一方、基準軸V方向(X軸方向)に伸びる第2の発電素子用構造体は、Z軸方向の振動やX軸方向の振動に対する発電効率は高いが、Y軸方向の振動に対する発電効率はそれほど高くない。その結果、全体として、3軸方向の振動エネルギーについて、良好な発電効率が得られることになる。
<<< §11. 本発明の第2の実施形態 >>>
これまで、本発明の第1の実施形態に係る発電素子を、様々な実施例や変形例を示しながら説明した。この第1の実施形態に係る発電素子の重要な特徴は、所定の基準軸に沿って伸びる板状構造体に複数の重錘体を設けた点にある。すなわち、複数の重錘体を基準軸に沿って並べて配置することにより、入れ子式になった複数の共振系を構成することができ、周波数軸上に複数の共振周波数のピーク波形が形成されることになる。その結果、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になるという効果が得られる点は、既に述べたとおりである。また、板状構造体の形状や材質、重錘体の配置やサイズなどを変えることにより、共振周波数のピーク波形の位置を周波数軸上でシフトし、発電可能な周波数帯域を調整することができる点も、既に述べたとおりである。
本願発明者は、このような本発明の第1の実施形態に係る発電素子に関して、種々の実験を繰り返した結果、次のような2つの事実を確認することができた。まず、第1の事実は、板状構造体の形状に特定の工夫を施した場合、単一の重錘体のみを設けた場合でも、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる、という作用効果が得られる点である。この第1の事実を利用した発電素子は、以下の<§11−1>において、本発明の第2の実施形態の実施例1〜4として述べる。そして、第2の事実は、板状構造体の形状に特定の工夫を施した場合、重錘体を全く設けない場合でも、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる、という作用効果が得られる点である。この第2の事実を利用した発電素子は、以下の<§11−2>において、本発明の第2の実施形態の実施例5〜8として述べる。
<11−1.単一の重錘体のみを設けた実施例>
図27(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例1に係る発電素子2000の基本構造体の上面図、図27(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。図示の発電素子2000は、図4に示す発電素子1000から、重錘体211,212を除去したものであり、両者の相違は、重錘体211,212の有無だけである。すなわち、図27に示す発電素子2000は、根端部が台座300に固定された板状構造体110の先端部の下面に単一の重錘体213を接合した基本構造体を有している(電荷発生素子400および発電回路500は図示省略)。なお、重錘体213は必ずしも先端部に接合する必要はない。
板状構造体110は、既に述べたとおり、幅wは均一であるが、3つの区画パートS1〜S3を有しており、それぞれ異なる厚みt1,t2,t3を有している。図27の発電素子2000を図1に示す従来の発電素子と比べると、相違点は、板状構造体が複数の区画パートに分割されており、個々の区画パートごとに厚みが異なる、という点だけであるが、当該相違により発電効率を向上させることができる。
§1では、図1に示す従来の発電素子の場合、図2に示すように、固有の共振周波数frの位置に半値幅hをもったピーク波形Pを有する周波数特性が得られることを述べた。本願発明者が、図27の発電素子2000について周波数特性を調べたところ、図2のグラフのように、固有の共振周波数frの位置にピーク波形Pが現れる点に変わりはないが、ピーク波形Pの半値幅hがより大きくなる現象が確認できた。
現時点では、個々の区画パートS1〜S3ごとに厚みが異なる板状構造体110を採用することにより、ピーク波形Pの半値幅hが広がる理由についての詳細な解析はなされていないが、このような構造を採用すると、1つの系内に共振条件が異なる複数の要素が存在することになり、これらが融合して1つの共振系が構成されるためではないかと考えられる。要するに、1つの系内の共振条件が多重化されることにより、ピーク波形Pの幅が広がったものと思われる。
いずれにしても、図27の発電素子2000の構造を採用すれば、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる、という作用効果が得られる。
一方、図28(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例2に係る発電素子2020の基本構造体の上面図、図28(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。図示の発電素子2020は、図14に示す発電素子1020から、重錘体221,222を除去したものであり、両者の相違は、重錘体221,222の有無だけである。すなわち、図28に示す発電素子2020は、根端部が台座310に固定された板状構造体120の先端部の下面に単一の重錘体223を接合した基本構造体を有している(電荷発生素子400および発電回路500は図示省略)。なお、重錘体223は必ずしも先端部に接合する必要はない。
板状構造体120は、既に述べたとおり、厚みtは均一であるが、3つの区画パートS1〜S3を有しており、それぞれ異なる幅w1,w2,w3を有している。図28の発電素子2020を図1に示す従来の発電素子と比べると、相違点は、板状構造体が複数の区画パートに分割されており、個々の区画パートごとに幅が異なる、という点だけであるが、当該相違により発電効率を向上させることができる。
すなわち、本願発明者が、図28の発電素子2020について周波数特性を調べたところ、図2のグラフのように、固有の共振周波数frの位置にピーク波形Pが現れる点に変わりはないが、ピーク波形Pの半値幅hが、従来装置よりも大きくなる現象が確認できた。その理由は、厚みtを変えるのと同様に、幅wを変えることにより、1つの系内に共振条件が異なる複数の要素が存在することになり、これらが融合して1つの共振系が構成されるためではないかと考えられる。やはり、1つの系内の共振条件が多重化されることにより、ピーク波形Pの幅が広がったものと思われる。
いずれにしても、図28の発電素子2020の構造を採用すれば、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる、という作用効果が得られる。
このように、図27に示す発電素子2000や図28に示す発電素子2020は、いずれも、所定の基準軸Yに沿って根端部から先端部へと伸び、可撓性を有する板状構造体110,120と、板状構造体の根端部を固定する台座300,310と、板状構造体の先端部近傍に接合された1つの重錘体213,223と、板状構造体の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子400と、電荷発生素子400に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路500と、を備え、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子という点では、図1に示す従来の発電素子と同じである。
しかしながら、板状構造体110,120が、基準軸Yに沿って並んだ複数の区画パートS1〜S3に分割されており、個々の区画パートごとに、厚みtもしくは幅wが異なるという特徴を有しており、当該特徴により、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる、という作用効果が得られることになる。もちろん、板状構造体の個々の区画パートごとに、厚みtおよび幅wの双方が異なる構造を採用してもよい。
なお、前述の<§7−2>では、図17を参照しながら、第1の実施形態について、板状構造体の厚みを連続的に変化させる変形例を説明した。ここで述べる第2の実施形態の場合も、厚みを連続的に変化させる実施例を採用することが可能である。
図29(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例3に係る発電素子2050の基本構造体の上面図、図29(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。図示の発電素子2050は、図17に示す発電素子1050から、重錘体251,252を除去したものであり、両者の相違は、重錘体251,252の有無だけである。すなわち、図29に示す発電素子2050は、根端部が台座300に固定された板状構造体150の先端部の下面に単一の重錘体253を接合した基本構造体を有している(電荷発生素子400および発電回路500は図示省略)。なお、重錘体253は必ずしも先端部に接合する必要はない。
板状構造体150は、既に述べたとおり、幅wは均一であるが、厚みtが基準軸Yに沿って徐々に減少するように、厚み方向の切断面が台形状をなす構造を有している。図29の発電素子2050を図1に示す従来の発電素子と比べると、相違点は、板状構造体の厚みtが均一か、徐々に減少してゆくか、という点だけであるが、当該相違により発電効率を向上させることができる。
すなわち、本願発明者が、図29の発電素子2050について周波数特性を調べたところ、図2のグラフのように、固有の共振周波数frの位置にピーク波形Pが現れる点に変わりはないが、ピーク波形Pの半値幅hが、従来装置よりも大きくなる現象が確認できた。その理由は、厚みtが徐々に変化することにより、1つの系内の共振条件が基準軸Yに沿って徐々に変化してゆき、全体の共振系としてみると、より幅の広いピーク波形Pが形成されることになるためではないかと考えられる。
いずれにしても、図29の発電素子2050の構造を採用すれば、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる、という作用効果が得られる。
このように、図29に示す発電素子2050は、所定の基準軸Yに沿って根端部から先端部へと伸び、可撓性を有する板状構造体150と、板状構造体150の根端部を固定する台座300と、板状構造体150の先端部近傍に接合された1つの重錘体253と、板状構造体150の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子400と、電荷発生素子400に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路500と、を備え、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子という点では、図1に示す従来の発電素子と同じである。
しかしながら、板状構造体150が、基準軸Yに沿って厚みtが徐々に減少するように、厚み方向の切断面が台形状をなすという特徴を有しており、当該特徴により、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる、という作用効果が得られることになる。これは、前述したように、1つの系内の共振条件が多重化されることにより、ピーク波形Pの幅を広げる効果が得られたためと考えられる。なお、板状構造体150は、基準軸Yに沿って厚みtが徐々に増加するように、厚み方向の切断面が図29(b)とは左右が逆向きの台形状をなすようにしてもかまわない。
また、前述の<§7−3>では、図18を参照しながら、第1の実施形態について、板状構造体の幅を連続的に変化させる変形例を説明した。ここで述べる第2の実施形態の場合も、幅を連続的に変化させる実施例を採用することが可能である。
図30(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例4に係る発電素子2060の基本構造体の上面図、図30(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。図示の発電素子2060は、図18に示す発電素子1060から、重錘体261,262を除去したものであり、両者の相違は、重錘体261,262の有無だけである。すなわち、図30に示す発電素子2060は、根端部が台座310に固定された板状構造体160の先端部の下面に単一の重錘体263を接合した基本構造体を有している(電荷発生素子400および発電回路500は図示省略)。なお、重錘体263は必ずしも先端部に接合する必要はない。
板状構造体160は、既に述べたとおり、厚みtは均一であるが、幅wが基準軸Yに沿って徐々に減少するように、平面形状が台形状をなす構造を有している。図30の発電素子2060を図1に示す従来の発電素子と比べると、相違点は、板状構造体の幅wが均一か、徐々に減少してゆくか、という点だけであるが、当該相違により発電効率を向上させることができる。
すなわち、本願発明者が、図30の発電素子2060について周波数特性を調べたところ、図2のグラフのように、固有の共振周波数frの位置にピーク波形Pが現れる点に変わりはないが、ピーク波形Pの半値幅hが、従来装置よりも大きくなる現象が確認できた。その理由は、幅wが徐々に変化することにより、1つの系内の共振条件が基準軸Yに沿って徐々に変化してゆき、全体の共振系としてみると、より幅の広いピーク波形Pが形成されることになるためではないかと考えられる。
いずれにしても、図30の発電素子2060の構造を採用すれば、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる、という作用効果が得られる。
このように、図30に示す発電素子2060は、所定の基準軸Yに沿って根端部から先端部へと伸び、可撓性を有する板状構造体160と、板状構造体160の根端部を固定する台座310と、板状構造体160の先端部近傍に接合された1つの重錘体263と、板状構造体160の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子400と、電荷発生素子400に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路500と、を備え、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子という点では、図1に示す従来の発電素子と同じである。
しかしながら、板状構造体160が、基準軸Yに沿って幅wが徐々に減少するように、平面形状が台形状をなすという特徴を有しており、当該特徴により、発電可能な周波数帯域を広げ、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる、という作用効果が得られることになる。これは、前述したように、1つの系内の共振条件が多重化されることにより、ピーク波形Pの幅を広げる効果が得られたためと考えられる。なお、板状構造体160は、基準軸Yに沿って幅wが徐々に増加するように、平面形状が図30(a)とは左右が逆向きの台形状をなすようにしてもかまわない。
もちろん、図29に示す板状構造体150の特徴と図30に示す板状構造体160の特徴とを組み合わせて、基準軸Yに沿って厚みが徐々に減少もしくは増加するように、厚み方向の切断面が台形状をなし、かつ、基準軸Yに沿って幅が徐々に減少もしくは増加するように、平面形状が台形状をなすような板状構造体を用いることも可能である。また、実施例1〜4(図27図30参照)として述べた特徴を、矛盾の生じない範囲で適宜組み合わせることも可能である。たとえば、厚みtに関しては、図27(b)に示す実施例1の構造を採用し、幅wに関しては、図30(a)に示す実施例4の構造を採用するような組み合わせも可能である。板状構造体の形状を変えることにより、共振系の共振周波数frを周波数軸上で所望の方向に所望の量だけシフトさせる設計も可能である。
<11−2.重錘体を設けない実施例>
上述した<§11−1>では、本発明の第2の実施形態の実施例1〜4として、形状に特定の工夫を施した板状構造体の先端部近傍に、単一の重錘体を接合した構造を有する発電素子を説明した。本願発明者は、これら実施例1〜4から重錘体を除去した形態、すなわち、特定の工夫を施した板状構造体の根端部を台座によって固定した基本構造体を有する発電素子についての周波数特性を調べる実験を行った。その結果、単純な矩形状の板状構造体(厚みtおよび幅wが均一の板状構造体)を振動させた場合に比べ、特定の工夫を施した板状構造体(厚みtおよび幅wが部分ごとに変化する板状構造体)を振動させた場合の方が、周波数特性を示すピーク波形Pの幅が広がる現象を確認することができた。
以下に示す実施例5〜8は、このような観点からなされた発明に係るものであり、重錘体を設けず、板状構造体のみに生じる振動エネルギーを利用して発電を行う発電素子に関するものである。
まず、図31(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例5に係る発電素子2100の基本構造体の上面図、図31(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。図示の発電素子2100は、図27に示す発電素子2000から、重錘体213を除去したものであり、両者の相違は、重錘体213の有無だけである。すなわち、図31に示す発電素子2100は、板状構造体110と、その根端部を固定する台座300と、図示されていない電荷発生素子400および発電回路500によって構成されている。ここで、板状構造体110は、既に述べたとおり、幅wは均一であるが、3つの区画パートS1〜S3を有しており、それぞれ異なる厚みt1,t2,t3を有するという特徴を有している。
次の図32(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例6に係る発電素子2120の基本構造体の上面図、図32(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。図示の発電素子2120は、図28に示す発電素子2020から、重錘体223を除去したものであり、両者の相違は、重錘体223の有無だけである。すなわち、図32に示す発電素子2120は、板状構造体120と、その根端部を固定する台座310と、図示されていない電荷発生素子400および発電回路500によって構成されている。ここで、板状構造体120は、既に述べたとおり、厚みtは均一であるが、3つの区画パートS1〜S3を有しており、それぞれ異なる幅w1,w2,w3を有するという特徴を有している。
続く図33(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例7に係る発電素子2150の基本構造体の上面図、図33(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。図示の発電素子2150は、図29に示す発電素子2050から、重錘体253を除去したものであり、両者の相違は、重錘体253の有無だけである。すなわち、図33に示す発電素子2150は、板状構造体150と、その根端部を固定する台座300と、図示されていない電荷発生素子400および発電回路500によって構成されている。ここで、板状構造体150は、既に述べたとおり、幅wは均一であるが、厚みtが基準軸Yに沿って厚みが徐々に減少もしくは増加するように、厚み方向の切断面が台形状をなすという特徴を有している。
最後に示す図34(a)は、本発明の第2の実施形態の実施例8に係る発電素子2160の基本構造体の上面図、図34(b)は、これをYZ平面で切断した側断面図である。図示の発電素子2160は、図30に示す発電素子2060から、重錘体263を除去したものであり、両者の相違は、重錘体263の有無だけである。すなわち、図34に示す発電素子2160は、板状構造体160と、その根端部を固定する台座310と、図示されていない電荷発生素子400および発電回路500によって構成されている。ここで、板状構造体160は、既に述べたとおり、厚みtは均一であるが、幅wが基準軸Yに沿って厚みが徐々に減少もしくは増加するように、平面形状が台形状をなすという特徴を有している。
本願発明者が、本願第2の実施形態の実施例5〜8に係る発電素子2100,2120,2150,2160(図31図34参照)のそれぞれについての周波数特性と、図1に示す従来の発電素子から重錘体200を除去したもの(台座300と板状構造体100のみを有する発電素子)の周波数特性とを調べたところ、いずれも、図2のグラフのように、固有の共振周波数frの位置にピーク波形Pが現れる点に変わりはないが、本発明の実施例5〜8に係る発電素子の方が従来装置に比べて、ピーク波形Pの半値幅hが、大きくなる現象が確認できた。その理由は、厚みtや幅wの段階的な変化もしくは連続的な変化により、1つの系内の共振条件が多重化し、全体の共振系としてみると、より幅の広いピーク波形Pが形成されることになるためではないかと考えられる。
もちろん、実施例5〜8(図31図34参照)として述べた特徴を、矛盾の生じない範囲で適宜組み合わせることも可能である。たとえば、厚みtに関しては、図31(b)に示す実施例5の構造を採用し、幅wに関しては、図34(a)に示す実施例8の構造を採用するような組み合わせも可能である。
一般に、1枚の板状構造体を振動させる系の場合、板状構造体のみからなる構造よりも、重錘体を付加した構造の方が振幅を大きくとることができる。したがって、1枚の板状構造体のみを備える発電素子の場合、できるだけ質量の大きな重錘体を付加する方が発電効率を向上させることができる。しかしながら、一般に、重錘体の質量を大きくするには、重錘体のサイズを大きくする必要があり、当該重錘体が振動するスペースを確保する必要があるため、装置全体は大型化することになる。
これに対して、重錘体を設けない構造を採用した場合、板状構造体の振動は、その自重に相当する質量に起因して生じることになるので、重錘体を設けた場合に比べて振幅は低下せざるを得ない。しかしながら、板状構造体の振動スペースのみを確保しておけばよいので、装置全体の省スペース化を図ることができる。より大きな発電量が必要な場合は、多数の板状構造体を密集して配置した構造を採用することができる。重錘体を設ける必要がないため、極めて高い密度で多数の板状構造体を縦横に並べて配置することが可能になる。したがって、重錘体を全く設けない発電素子も、工業製品として十分に利用価値のあるものである。
特に、図31図34に実施例5〜8として示したように、形状に特定の工夫を施した板状構造体を利用した発電素子は、発電可能な周波数帯域が広がるため、様々な利用環境において効率的な発電を行うことが可能になる。もちろん、板状構造体の形状を変えることにより、共振系の共振周波数frを周波数軸上で所望の方向に所望の量だけシフトさせる設計も可能である。
<11−3.ピーク波形の半値幅を更に広げる構造>
これまで、本発明の第2の実施形態の実施例1〜4として、図27図30のような単一の重錘体のみを設けた実施例を示し、実施例5〜8として、図31図34のような重錘体を設けない実施例を示した。いずれの実施例の場合も、図1に示す従来構造の発電素子と同様に、固有の共振周波数frの位置に半値幅hをもったピーク波形Pを有する周波数特性が得られ(図2のグラフ参照)、しかも従来構造の発電素子に比べてピーク波形Pの半値幅hがより広がる現象が確認できた。
このような現象が生じるのは、板状構造体の厚みもしくは幅を部分ごとに変える構造を採用すると、同一の系内において共振条件を左右する異なる部分要素が融合して共振条件が多重化されるためと考えられる。現段階では、この多重化の詳細な態様についての解析はなされていないが、本願発明者が、コンピュータシミュレーションによって大まかな傾向を調べたところ、次のような結果が得られた。
まず、図27に示す実施例1に対して、厚みtの増減関係を逆転させた実施例1’を考えてみた。実施例1の場合、区画パートS1,S2,S3の厚みt1,t2,t3の大小関係は、t1>t2>t3になっているが、実施例1’では、t1<t2<t3と逆転しており、先端部へゆく程、厚みが増加する構造になっている。ここで、実施例1と実施例1’とについて、周波数特性グラフ上でのピーク波形Pの半値幅hを比較してみたところ、実施例1よりも実施例1’の方が半値幅hが大きくなる結果が得られた。図31に示す実施例5と、厚みtの増減関係を逆転させた実施例5’についても、全く同様の結果が得られた。
次に、図28に示す実施例2に対して、幅wの増減関係を逆転させた実施例2’を考えてみた。実施例2の場合、区画パートS1,S2,S3の幅w1,w2,w3の大小関係は、w1>w2>w3になっているが、実施例2’では、w1<w2<w3と逆転しており、先端部へゆく程、幅が増加する構造になっている。ここでも、実施例2と実施例2’とについて、周波数特性グラフ上でのピーク波形Pの半値幅hを比較してみたところ、実施例2よりも実施例2’の方が半値幅hが大きくなる結果が得られた。図32に示す実施例6と、幅wの増減関係を逆転させた実施例6’についても、全く同様の結果が得られた。
また、図29に示す実施例3に対して、厚みtの増減関係を逆転させた実施例3’についても同様の実験を行ってみた。すなわち、実施例3の場合、根端部から先端部へゆくほど、厚みtが単調減少してゆく構造を有しているが、実施例3’の場合、根端部から先端部へゆくほど、厚みtが単調増加してゆく構造を有している。ここでも、実施例3と実施例3’とについて、周波数特性グラフ上でのピーク波形Pの半値幅hを比較してみたところ、実施例3よりも実施例3’の方が半値幅hが大きくなる結果が得られた。図33に示す実施例7と、厚みtの増減関係を逆転させた実施例7’についても、全く同様の結果が得られた。
最後に、図30に示す実施例4に対して、幅wの増減関係を逆転させた実施例4’についても同様の実験を行ってみた。すなわち、実施例4の場合、根端部から先端部へゆくほど、幅wが単調減少してゆく構造を有しているが、実施例4’の場合、根端部から先端部へゆくほど、幅wが単調増加してゆく構造を有している。ここでも、実施例4と実施例4’とについて、周波数特性グラフ上でのピーク波形Pの半値幅hを比較してみたところ、実施例4よりも実施例4’の方が半値幅hが大きくなる結果が得られた。図34に示す実施例8と、幅wの増減関係を逆転させた実施例8’についても、全く同様の結果が得られた。
以上の結果から、単一の重錘体のみを設けた実施例の場合も、重錘体を設けない実施例の場合も、板状構造体の厚みもしくは幅を、根端部から先端部に向かって減少(段階的減少でもよいし、連続的減少でもよい)させてゆく構造を採用するよりも、根端部から先端部に向かって増加(段階的増加でもよいし、連続的増加でもよい)させてゆく構造を採用した方が、周波数特性グラフ上に現れるピーク波形Pの半値幅hはより大きくなる、という傾向があることがわかる。
したがって、図27図34に示す実施例1〜8の周波数特性よりも、更にピーク波形Pの半値幅hを広げたい場合には、厚みや幅の増減関係を逆転させた実施例1’〜8’を採用すればよいことになる。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明に係る発電素子は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う技術に広く利用することができる。その基本原理は、重錘体の振動により板状構造体に撓みを生じさせ、当該撓みに応じて電荷発生素子に生じる電荷を外部に取り出す、というものであるので、自動車、列車、船舶などの乗り物や、冷蔵庫、エアコンといった振動源に取り付けることにより、通常は無駄に消費してしまう振動エネルギーを、電気エネルギーとして有効利用することが可能になる。また、板状構造体や重錘体に関する様々なパラメータを変化させることにより、発電可能な周波数帯域を広げたり、周波数軸上でシフトさせたりする調整を行うことができるため、実利用環境の振動周波数に適した効率的な発電が可能な発電素子を設計することができる。
【要約】
可撓性を有する板状構造体(110)が、基準軸(Y)に沿って根端部(O)から先端部(T)へと伸び、根端部(O)は台座(300)に固定される。板状構造体(110)には、3つの区画パート(S1,S2,S3)が設けられており、それぞれの下面に重錘体(211,212,213)が接合される。3つの区画パート(S1,S2,S3)は、それぞれ厚み(t1,t2,t3)が異なり、その結果、バネ定数が異なる。台座(300)に外部からの振動エネルギーを加えると、各重錘体(211,212,213)が振動し、板状構造体(110)に撓みが生じる。板状構造体(110)に圧電素子などの電荷発生素子(400)を貼り付けておけば、撓み応力によって電荷が発生する。区画パートごとにバネ定数が異なる板状構造体(110)に複数の重錘体(211,212,213)を設けることにより、発電可能な周波数帯域が広がる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34