特許第6242151号(P6242151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6242151電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジおよび電子写真装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242151
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジおよび電子写真装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/07 20060101AFI20171127BHJP
   G03G 5/147 20060101ALI20171127BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20171127BHJP
   G03G 5/05 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   G03G5/07 101
   G03G5/147 502
   G03G5/06 312
   G03G5/05 101
【請求項の数】9
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2013-222954(P2013-222954)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2014-115620(P2014-115620A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2016年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-253460(P2012-253460)
(32)【優先日】2012年11月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】野中 正樹
(72)【発明者】
【氏名】長坂 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 正人
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−224908(JP,A)
【文献】 特開平10−239871(JP,A)
【文献】 国際公開第97/033193(WO,A1)
【文献】 特開2005−250455(JP,A)
【文献】 特開2007−011006(JP,A)
【文献】 特開2012−163758(JP,A)
【文献】 特開平02−188758(JP,A)
【文献】 特開2013−008013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/05−5/147
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体および該支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、
該電子写真感光体の表面層が、下記式()で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含む組成物の重合物を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】

(式()中、Rは、メチル基を示す。R21は、メチル基、エチル基、または、n−プロピル基を示し、22、水素原子を示す。)
【請求項2】
前記R21がメチル基である請求項に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記電荷輸送性化合物が、下記式(3)で示される化合物および下記式(4)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【化2】

(式(3)中、Ar、ArおよびArは、それぞれ独立に、下記式(M1)で示される1価の基、または、置換もしくは無置換のアリール基を示す。Arは、下記式(M2)で示される2価の基、または、置換もしくは無置換のアリーレン基を示す。ただし、Ar〜Arの少なくとも1つは、下記式(M1)で示される1価の基、または、下記式(M2)で示される2価の基である。rは、0または1である。ただし、Ar、ArおよびArが下記式(M1)で示される1価の基でない場合、rは1であり、Arは下記式(M2)で示される2価の基である。)
【化3】

(式(4)中、Ar、Ar、ArおよびAr10は、それぞれ独立に、下記式(M1)で示される1価の基、または、置換もしくは無置換のアリール基を示す。ArおよびArは、それぞれ独立に、下記式(M2)で示される2価の基、または、置換もしくは無置換のアリーレン基を示す。ただし、Ar〜Ar10の少なくとも1つは、下記式(M1)で示される1価の基または下記式(M2)で示される2価の基である。Pは、酸素原子、シクロアルキリデン基、2つのフェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基、または、エチレン基を示す。sおよびtは、それぞれ独立に、0または1である。ただし、Ar、Ar、ArおよびAr10が下記式(M1)で示される1価の基でなく、Arが下記式(M2)で示される2価の基でない場合、tは1であり、Arは下記式(M2)で示される2価の基である。)
【化4】

(式(M1)中のR、R21およびR22は、前記式()中のR、R21およびR22と同義である。式(M1)中、Ar11は、置換もしくは無置換のアリーレン基を示す。mは、1以上の整数である。)
【化5】

(式(M2)中のR、R21およびR22は、前記式()中のR、R21およびR22と同義である。式(M2)中、Ar12は、置換もしくは無置換の3価の芳香族炭化水素基を示す。nは、1以上の整数である。)
【請求項4】
前記電荷輸送性化合物が、下記式(3)で示される化合物であり、前記Ar〜Arの少なくとも2つが、前記式(M1)で示される1価の基、または、前記式(M2)で示される2価の基である請求項に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記電荷輸送性化合物が、前記式(4)で示される化合物であり、前記Ar〜Ar10の少なくとも2つが、前記式(M1)で示される1価の基、または、前記式(M2)で示される2価の基である請求項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法であって、
該製造方法が、
前記電荷輸送性化合物を含む組成物を含有する表面層用の塗布液を用いて塗膜を形成する工程、および、
該塗膜に含有される該組成物を重合させることによって表面層を形成する工程
を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
前記塗膜に電子線を照射することによって、前記組成物を重合させる請求項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電子写真感光体、ならびに、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジおよび電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置において繰り返し使用される電子写真感光体には、高い耐摩耗性が求められる。
【0003】
特許文献1には、連鎖重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を重合させて得られる重合物を電子写真感光体の表面層に含有させて、電子写真感光体の耐摩耗性を向上させる技術が記載されている。また、特許文献1には、連鎖重合性官能基として、アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基が特に好ましい旨記載されている。
【0004】
一方、電子写真感光体の耐摩耗性が高くなるのに伴い、電子写真感光体の表面がリフレッシュされづらくなり、繰り返し使用により残化学的変化を起こした材料が電子写真感光体の表面に残りやすくなる。電子写真感光体の表面を構成する材料の化学的変化は、主に、放電を伴う帯電プロセスによって発生する放電生成物によって引き起こされると考えられている。放電生成物であるオゾンは、電子写真感光体の表面を構成する材料の酸化反応を促進し、その結果、電子写真感光体の表面における極性基の増加を引き起こしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−066425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子写真感光体の表面における極性基が増加すると、その部分がトナーの吸着点として作用しやすくなり、電子写真感光体から紙などの転写材または中間転写体へのトナーの転写効率が低下する場合がある。
【0007】
本発明の目的は、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含む組成物の重合物を含有する電子写真感光体において、繰り返し使用しても電荷輸送性化合物が変性しにくく、該変性に由来する転写効率の低下が生じにくい電子写真感光体を提供することにある。また、その製造方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、上記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、支持体および該支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、
該電子写真感光体の表面層が、下記式()で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含む組成物の重合物を含有することを特徴とする電子写真感光体である。
【0010】
【化6】
【0011】
(式()中、Rは、メチル基を示す。R21は、メチル基、エチル基、または、n−プロピル基を示し、22、水素原子を示す。)
【0012】
また、本発明は、前記電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法であって、該製造方法が、
前記電荷輸送性化合物を含む組成物を含有する表面層用塗布液を用いて塗膜を形成する工程、および、
該塗膜に含有される該組成物を重合させることによって表面層を形成する工程
を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、前記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジである。
【0014】
また、本発明は、前記電子写真感光体、ならびに、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有することを特徴とする電子写真装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含む組成物の重合物を含有する電子写真感光体において、繰り返し使用しても電荷輸送性化合物が変性しにくく、該変性に由来する転写効率の悪化が生じにくい電子写真感光体を提供することができる。また、その製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、そのような電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。
図2】電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電子写真感光体は、上記のとおり、支持体および該支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体である。そして、該電子写真感光体の表面層が、下記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含む組成物の重合物を含有することを特徴とする。
【0018】
【化2】
【0019】
上記式(1)中、Rは、アルキル基(無置換のアルキル基)を示す。R21およびR22は、一方がアルキル基(無置換のアルキル基)を示し、他方が水素原子を示す。その中でも、R21がアルキル基であり、R22が水素原子である場合が好ましい。
【0020】
上述のとおり、本発明の電子写真感光体は、繰り返し使用しても、電荷輸送性化合物の変性に由来する転写効率の低下が生じにくい。その理由を、本発明者らは以下のように推測している。
【0021】
特開2000−066425号公報特許文献1で開示されているようなアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する電荷輸送性化合物は、重合反応時に大量のラジカルが発生しやすい。その結果、不飽和二重結合部位(C=C)同士が急速に重合反応することによって、重合効率の高い重合物が生成される。
【0022】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、アクリロイルオキシ基やメタクリロイルオキシ基は、上記式(1)中のR21およびR22に相当する部分が水素原子であるため、以下のような課題があることがわかった。すなわち、放電生成物であるオゾンによって、上記重合反応によって生成した結合部位が酸化されやすく、開裂しやすいため、その開裂の末端が極性基を持つように変性しやすいことがわかった。
【0023】
一方で、上記式(1)中のR21およびR22に相当する部分をあまりに嵩高い基にしてしまうと、その嵩高い基によって重合反応が阻害されてしまうため、重合反応が十分に進まなくなってしまう。その結果、十分な耐摩耗性を持つ電子写真感光体を得られにくくなるだけでなく、放電生成物であるオゾンによって、重合反応を起こさなかった不飽和二重結合部位(C=C)が酸化され、該不飽和二重結合部位に極性基が付加する変性が発生しやすくなる。
【0024】
つまり、十分な耐摩耗性を持ちつつ、さらに放電生成物であるオゾンによる酸化が生じにくい電子写真感光体の表面を得るためには、不飽和二重結合部分(C=C)の炭素原子の置換基の嵩高さを最適に設計する必要があることがわかった。
【0025】
本発明者らは、上記得られた知見に基づいてさらなる検討を行い、不飽和二重結合部分(C=C)の炭素原子の置換基、すなわち、上記式(1)中のR、R21およびR22を特定の基に設計した。その結果、十分な耐摩耗性を持ちつつ、さらに放電生成物であるオゾンによる電子写真感光体の表面を構成する材料の変性が生じにくい電子写真感光体の表面を得られるようになることを見出した。
【0026】
21およびR22の両方が水素原子であると、オゾンによる電子写真感光体の表面を構成する材料の変性が生じやすくなる。一方、R21およびR22の両方がアルキル基である場合や、Rがアルキル基以外の置換基(例えば、アリール基や置換のアルキル基など。)である場合や、R21およびR22の一方が水素原子であっても他方がアルキル基以外の置換基(例えば、アリール基や置換のアルキル基など。)である場合、重合反応が十分に進まなくなる。
【0027】
オゾンによる電子写真感光体の表面を構成する材料の変性を抑制する観点から、上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物の中でも、下記式(2)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物が好ましい。下記式(2)で示される重合性官能基には、上記式(1)で示される重合性官能基が含まれている。
【0028】
【化3】
【0029】
上記式(2)中のR、R21およびR22は、上記式(1)中のR、R21およびR22と同義である。すなわち、Rは、アルキル基(無置換のアルキル基)を示す。R21およびR22は、一方がアルキル基(無置換のアルキル基)を示し、他方が水素原子を示す。
【0030】
、R21およびR22のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基が挙げられる。これらの中でも、重合反応が十分に進みやすい点で、メチル基、エチル基、n−プロピル基が好ましい。さらには、RおよびR21がメチル基であり、R22が水素原子であることが、より好ましい。
【0031】
また、オゾンによる電子写真感光体の表面を構成する材料の変性を抑制する点で、上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物は、下記式(3)または(4)で示される化合物が好ましい。下記式(3)で示される化合物および下記式(4)で示される化合物を併用することもできる。
【0032】
【化4】
【0033】
上記式(3)中、Ar、ArおよびArは、それぞれ独立に、下記式(M1)で示される1価の基、または、置換もしくは無置換のアリール基を示す。Arは、下記式(M2)で示される2価の基、または、置換もしくは無置換のアリーレン基を示す。ただし、Ar〜Arの少なくとも1つは、下記式(M1)で示される1価の基、または、下記式(M2)で示される2価の基である。rは、0または1である。ただし、Ar、ArおよびArが下記式(M1)で示される1価の基でない場合、rは1であり、Arは下記式(M2)で示される2価の基である。
【0034】
【化5】
【0035】
上記式(4)中、Ar、Ar、ArおよびAr10は、それぞれ独立に、下記式(M1)で示される1価の基、または、置換もしくは無置換のアリール基を示す。ArおよびArは、それぞれ独立に、下記式(M2)で示される2価の基、または、置換もしくは無置換のアリーレン基を示す。ただし、Ar〜Ar10の少なくとも1つは、下記式(M1)で示される1価の基または下記式(M2)で示される2価の基である。Pは、酸素原子、シクロアルキリデン基、2つのフェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基、または、エチレン基を示す。sおよびtは、それぞれ独立に、0または1である。ただし、Ar、Ar、ArおよびAr10が下記式(M1)で示される1価の基でなく、Arが下記式(M2)で示される2価の基でない場合、tは1であり、Arは下記式(M2)で示される2価の基である。
【0036】
【化6】
【0037】
上記式(M1)中のR、R21およびR22は、上記式(1)中のR、R21およびR22と同義である。すなわち、Rは、アルキル基(無置換のアルキル基)を示す。R21およびR22は、一方がアルキル基(無置換のアルキル基)を示し、他方が水素原子を示す。上記式(M1)中、Ar11は、置換もしくは無置換のアリーレン基を示す。mは、1以上の整数である。
【0038】
【化7】
【0039】
上記式(M2)中のR、R21およびR22は、上記式(1)中のR、R21およびR22と同義である。すなわち、Rは、アルキル基(無置換のアルキル基)を示す。R21およびR22は、一方がアルキル基(無置換のアルキル基)を示し、他方が水素原子を示す。上記式(M2)中、Ar12は、置換もしくは無置換の3価の芳香族炭化水素基を示す。nは、1以上の整数である。
【0040】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、フルオレニル基などが挙げられる。上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基などが挙げられる。上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。上記アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニリレン基、フルオレニリレン基などが挙げられる。上記シクロアルキリデン基としては、例えば、シクロプロピリデン基、シクロブチリデン基、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロオクチリデン基などが挙げられる。
【0041】
上記3価の芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン、ビフェニル、フルオレン、9,9−ジメチルフルオレンなどの芳香族炭化水素から水素原子を3個除いて導かれる3価の基が挙げられる。
【0042】
上記各基が有してもよい置換基としては、例えば、カルボキシル基、シアノ基、置換もしくは無置換のアミノ基、ヒドロキシ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキル基、ハロゲン原子などが挙げられる。上記アルコキシ基および上記アルキル基が有してもよい置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。上記アミノ基が有してもよい置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基などのアルキル基などが挙げられる。
【0043】
オゾンによる電子写真感光体の表面を構成する材料の変性を抑制する観点から、上記式(3)中、Ar〜Arの少なくとも2つは、上記式(M1)で示される1価の基、または、上記式(M2)で示される2価の基であることが好ましい。また、上記式(M1)中、mは、2以上5以下の整数であることが好ましい。
【0044】
また、オゾンによる電子写真感光体の表面を構成する材料の変性を抑制する観点から、上記式(4)中、Ar〜Ar10の少なくとも2つは、上記式(M1)で示される1価の基、または、上記式(M2)で示される2価の基であることが好ましい。また、上記式(M2)中、nは、2以上5以下の整数であることが好ましい。
【0045】
電子写真感光体の表面層を形成する際、上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物は、例えば、特開2000−066425号公報、特開2010−156835号公報に記載されている合成方法を用いて合成することができる。
【0047】
以下に、上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物の具体例(例示化合物)を挙げるが、本発明は、これらに限定されるわけではない。
【0048】
【化8】
【0049】
【化9】
【0050】
【化10】
【0051】
【化11】
【0052】
【化12】
【0053】
【化13】
【0054】
【化14】
【0055】
【化15】
【0056】
【化16】
【0057】
これらの中でも、例示化合物(T−1−1)が好ましい。
【0058】
本発明の表面層は、式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含む組成物を含有する表面層用の塗布液を用いて塗膜を形成し、該塗膜に含有される組成物を重合させることによって形成することができる。
【0059】
上記組成物には、上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物以外に、電荷輸送性化合物以外の化合物を含有させてもよい。
【0060】
電荷輸送性化合物以外の化合物としては、重合反応は抑制されることなく、オゾンによる電子写真感光体の表面を構成する材料の変性を抑制する観点から、下記式(B)または(C)で示される化合物(ウレア化合物)が好ましい。下記式(B)で示される化合物および下記式(C)で示される化合物を併用することもできる。
【0061】
【化17】
【0062】
上記式(B)中、XおよびXは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、メトキシメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリクロロメトキシ基、ジメチルアミノ基、または、フッ素原子を示す。YおよびYは、それぞれ独立に、アルキレン基を示す。Z〜Zは、それぞれ独立に、水素原子、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、下記式(5)で示される1価の基、または、下記式(6)で示される1価の基を示す。ただし、Z〜Zのうち少なくとも1つは、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、下記式(5)で示される1価の基、または、下記式(6)で示される1価の基である。aおよびbは、それぞれ独立に、0以上5以下の整数であるcおよびdは、それぞれ独立に、0または1である。
【0063】
【化18】
【0064】
式(C)中、X11〜X13は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、メトキシメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリクロロメトキシ基、ジメチルアミノ基、または、フッ素原子を示す。Y11〜Y16は、それぞれ独立に、アルキレン基を示す。Z11〜Z16は、それぞれ独立に、水素原子、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、下記式(5)で示される1価の基、または、下記式(6)で示される1価の基を示す。ただし、Z11〜Z16のうち少なくとも1つは、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、下記式(5)で示される1価の基、または、下記式(6)で示される1価の基である。gおよびhは、それぞれ独立に、0以上5以下の整数である。iは、0以上4以下の整数である。jおよびkは、それぞれ独立に、0または1である。
【0065】
【化19】
【0066】
【化20】
【0067】
なお、アクリロイルオキシ基は、下記式で示される1価の基であり、
【0068】
【化21】
【0069】
メタクリロイルオキシ基は、下記式で示される1価の基である。
【0070】
【化22】
【0071】
表面層には、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの劣化防止剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子やフッ化カーボンなどの潤滑剤が挙げられる。また、重合反応開始剤や重合反応停止剤などの重合制御剤、シリコーンオイルなどのレベリング剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0072】
表面層用塗布液に用いられる溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0073】
本発明の電子写真感光体は、上記のとおり、支持体および該支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体である。
【0074】
感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を同一の層に含有する単層型感光層と、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とに分離した積層型(機能分離型)感光層とが挙げられる。本発明においては、積層型感光層が好ましい。また、電荷発生層や電荷輸送層を積層構成とすることもできる。
【0075】
図1の(a)および(b)は、本発明の電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。図1の(a)および(b)中、101は支持体であり、102は電荷発生層であり、103は電荷輸送層であり、104は保護層(第2の電荷輸送層)である。
【0076】
また、本発明においては、必要に応じて、支持体と感光層(電荷発生層、電荷輸送層)との間に、後述の導電層や下引き層を設けてもよい。
【0077】
本発明において、電子写真感光体の表面層とは、電子写真感光体が有する各層の中でも最表面に位置する層(支持体から最も離れた層)を意味する。例えば、図1(a)に示す層構成の電子写真感光体の場合、電子写真感光体の表面層は電荷輸送層103である。また、図1(b)に示す層構成の電子写真感光体の場合、電子写真感光体の表面層は保護層(第2の電荷輸送層)104である。
【0078】
本発明の電子写真感光体に用いられる支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましい。例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼などの金属(合金)製の支持体が挙げられる。アルミニウムまたはアルミニウム合金製の支持体の場合は、ED管、EI管や、これらを切削、電解複合研磨、湿式または乾式ホーニング処理した管を支持体として用いることもできる。また、金属製支持体、樹脂製支持体上にアルミニウム、アルミニウム合金、酸化インジウム−酸化スズ合金などの導電材料の薄膜を形成したものも、支持体として用いることができる。
支持体の表面は、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0079】
また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子などの導電性粒子を樹脂などに含浸させてなる支持体や、導電性樹脂製の支持体を用いることもできる。
【0080】
支持体と感光層または後述の下引き層との間には、導電性粒子および結着樹脂を有する導電層を設けてもよい。
【0081】
導電層は、導電性粒子を結着樹脂および溶剤とともに分散処理して得られる導電層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。
【0082】
導電層に用いられる導電性粒子としては、例えば、カーボンブラックや、アセチレンブラックや、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属の粒子や、酸化スズ、ITOなどの金属酸化物の粒子などが挙げられる。
【0083】
導電層に用いられる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0084】
導電層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0085】
導電層の膜厚は、0.2μm以上40μm以下であることが好ましく、5μm以上40μm以下であることがより好ましい。
【0086】
支持体または導電層と感光層との間には、下引き層を設けてもよい。
【0087】
下引き層は、樹脂を含有する下引き層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥または硬化させることによって形成することができる。
【0088】
下引き層に用いられる樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0089】
下引き層には、上述の導電性粒子、半導電性粒子、電子輸送物質、電子受容性物質を含有させることもできる。
【0090】
下引き層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0091】
下引き層の膜厚は、0.05μm以上40μm以下であることが好ましく、0.4μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0092】
支持体、導電層または下引き層上には、感光層(電荷発生層、電荷輸送層)が形成される。
【0093】
電荷発生物質としては、例えば、ピリリウム、チアピリリウム系染料、フタロシアニン化合物、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、アゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、キノシアニン顔料などが挙げられる。これらの中でも、ガリウムフタロシアニンが好ましい。さらには、高感度の観点から、ヒドロキシガリウムフタロシアニンが好ましく、その中でも、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θの7.4°±0.3°および28.2°±0.3°に強いピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶が好ましい。
【0094】
感光層が積層型感光層である場合、電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ブチラール樹脂が好ましい。これらの樹脂は、1種のみを使用してもよく、混合または共重合体として2種以上を併用してもよい。
【0095】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤とともに分散処理して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜であってもよい。
【0096】
電荷発生層において、電荷発生物質と結着樹脂との割合は、電荷発生物質1質量部に対して、結着樹脂が0.3質量部以上4質量部以下であることが好ましい。
【0097】
また、分散処理方法としては、例えば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルなどを用いた方法が挙げられる。
【0098】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、例えば、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0099】
電荷発生層の膜厚は、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下であることがより好ましい。
【0100】
また、電荷発生層には、必要に応じて、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを添加することもできる。
【0101】
感光層が支持体側から電荷発生層および電荷輸送層のこの順に積層してなる積層型感光層である場合、電荷発生層上には電荷輸送層が形成される。
【0102】
図1(a)に示すように電荷輸送層が表面層である場合、電荷輸送層は、上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含む組成物を含有する電荷輸送層用塗布液(表面層用塗布液)を用いて塗膜を形成する。その後、該塗膜に含有される組成物を重合(連鎖重合)させることによって電荷輸送層を形成することができる。
【0103】
図1(b)に示すように保護層(第2の電荷輸送層)が表面層である場合、表面層でない電荷輸送層(第1の電荷輸送層)は、電荷輸送物質および結着樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる電荷輸送層用塗布液を塗布して塗膜を形成する。得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。
【0104】
表面層でない層(電荷輸送層)に用いられる電荷輸送物質としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、トリアリールメタン化合物などが挙げられる。
【0105】
表面層でない電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリビニルピリジン、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アガロース樹脂、セルロース樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。これらの樹脂は、1種のみを使用してもよく、混合または共重合体として2種以上を併用してもよい。
【0106】
表面層でない電荷輸送層において、電荷輸送物質の割合は、電荷輸送層の全質量に対して、電荷輸送物質が30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0107】
表面層でない電荷輸送層を形成するための電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0108】
表面層でない電荷輸送層の膜厚は、5μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0109】
本発明において、電子写真感光体の表面層となる保護層(第2の電荷輸送層)を設ける場合、保護層は、上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含む組成物を含有する保護層用塗布液を用いて塗膜を形成する。そして、塗膜に含有される上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を重合(連鎖重合)させることによって形成することができる。
【0110】
保護層において、上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物は、保護層用塗布液の全固形分に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
保護層の膜厚は、2μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0111】
上記各層の塗布液を塗布する際は、浸漬塗布法(ディッピング法)、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ブレードコーティング法、ビームコーティング法などの塗布方法を用いることができる。
【0112】
本発明において、上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物の重合は、熱、光(紫外線など)、または、放射線(電子線など)を用いて行うことができる。これらの中でも、放射線を用いた重合が好ましく、放射線の中でも電子線を用いた重合がより好ましい。
【0113】
電子線を用いて重合させると、非常に緻密(高密度)な3次元網目構造が得られ、良好な電位安定性が得られる。また、短時間でかつ効率的な重合反応となるため、生産性も高くなる。電子線を照射する場合、加速器としては、例えば、スキャニング型、エレクトロカーテン型、ブロードビーム型、パルス型、ラミナー型などが挙げられる。
【0114】
電子線を用いる場合、電子線の加速電圧は、重合効率を損なわずに電子線による材料特性劣化を抑制できる観点から、120kV以下であることが好ましい。また、表面層用塗布液の塗膜の表面での電子線吸収線量は、5kGy以上50kGy以下であることが好ましく、1kGy以上10kGy以下であることがより好ましい。
【0115】
また、電子線を用いて上記式(1)で示される重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を重合させる場合、酸素による重合阻害作用を抑制する目的で、不活性ガス雰囲気で電子線を照射した後、不活性ガス雰囲気で加熱することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。
【0116】
図2に、電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0117】
図2において、1は円筒状(ドラム状)の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転駆動される。電子写真感光体1は、回転過程において、帯電手段(一次帯電手段)3により、その表面(周面)が正または負に帯電される。次いで、電子写真感光体1の表面には、露光手段(像露光手段)(不図示)から出力される露光光(像露光光)4が照射される。露光光4は、目的の画像情報の時系列電気デジタル画像信号に対応して強度変調される。露光手段としては、スリット露光やレーザービーム走査露光などが挙げられる。こうして電子写真感光体1の表面には、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。
【0118】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、次いで、現像手段5内に収容されたトナーで現像(正規現像または反転現像)され、トナー像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像は、転写手段6により転写材7に転写される。ここで、転写材7が紙である場合、給紙部(不図示)から電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて、電子写真感光体1と転写手段6との間に給送される。また、転写手段6には、バイアス電源(不図示)からトナーの保有電荷とは逆極性のバイアス電圧が印加される。また、転写手段は、一次転写部材、中間転写体および二次転写部材を有する中間転写方式の転写手段であってもよい。
【0119】
トナー像が転写された転写材7は、電子写真感光体1の表面から分離され、定着手段8へ搬送されて、トナー像の定着処理を受けることにより、画像形成物(プリント、コピー)として電子写真装置外へプリントアウトされる。
【0120】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段9によってクリーニングされ、転写残トナーなどの付着物が除去される。転写残トナーは、現像手段などで回収することもできる。さらに、必要に応じて、電子写真感光体1の表面は、前露光手段(不図示)からの前露光光10の照射により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光手段は必ずしも必要ではない。
【0121】
本発明においては、電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段9などから選択される構成要素のうち、複数のものを容器に納めてプロセスカートリッジとしてもよい。また、プロセスカートリッジを電子写真装置本体に対して着脱自在とする構成であってもよい。例えば、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段9からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持してカートリッジ化する。そして、電子写真装置本体のレールなどの案内手段12を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ11とすることができる。
【実施例】
【0122】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0123】
〈実施例1〉
直径30mm、長さ357.5mm、肉厚1mmのアルミニウムシリンダーを支持体(導電性支持体)とした。
【0124】
次に、10%の酸化アンチモンを含有する酸化スズが被覆されている酸化チタン粒子(商品名:ECT−62、チタン工業(株)製。)50部、レゾール型フェノール樹脂(商品名:フェノライトJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、固形分:70質量%。)25部、メチルセロソルブ20部、メタノール5部、および、シリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン・ポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量:3000。)0.002部を、直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、2時間分散処理することによって、導電層用塗布液を調製した。この導電層用塗布液を支持体上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を30分間150℃で乾燥・硬化させることによって、膜厚が20μmの導電層を形成した。
【0125】
次に、ナイロン6−66−610−12四元共重合体(商品名:CM8000、東レ(株)製。)2.5部、および、N−メトキシメチル化6ナイロン樹脂(商品名:トレジンEF−30T、ナガセケムテックス製。)7.5部を、メタノール100部およびブタノール90部の混合溶剤に溶解させることによって、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.5μmの下引き層を形成した。
【0126】
次に、電荷発生物質として、ヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.4°および28.2°に強いピークを有する。)11部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)5部、および、シクロヘキサノン130部を混合した。これに直径1mmのガラスビーズ500部を加えて、18℃の冷却水で冷却しつつ、1800rpmの条件で2時間分散処理した。分散処理後、酢酸エチル300部およびシクロヘキサノン160部を加えて希釈することによって、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を10分間110℃で乾燥させることによって、膜厚が0.16μmの電荷発生層を形成した。なお、調製した電荷発生層用塗布液中のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶の平均粒径(メジアン)を、液相沈降法を原理とした遠心式粒度測定装置(商品名:CAPA700、(株)堀場製作所製)を用いて測定したところ、0.18μmであった。
【0127】
次に、下記式(7)で示される化合物(電荷輸送物質)5部、
【0128】
【化23】
【0129】
下記式(8)で示される化合物(電荷輸送物質)5部、
【0130】
【化24】
【0131】
および、ポリカーボネート(商品名:ユーピロンZ400、三菱ガス化学(株)製)10部を、モノクロロベンゼン70部およびジメトキシメタン30部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を30分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が18μmの電荷輸送層(第1の電荷輸送層)を形成した。
【0132】
次に、例示化合物(T−1−1)100部を、n−プロパノール100部に溶解させ、さらに1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(商品名:ゼオローラH、日本ゼオン(株)製)100部を加えることによって、保護層用塗布液を調製した。この保護層用塗布液を電荷輸送層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を50℃で5分間加熱処理した。その後、窒素雰囲気下にて、加速電圧70kV、吸収線量50000Gyの条件で1.6秒間電子線を塗膜に照射した。その後、窒素雰囲気下にて、塗膜が130℃になる条件で25秒間加熱処理した。なお、電子線の照射から25秒間の加熱処理までの酸素濃度は18ppmであった。次に、大気中において、塗膜が110℃になる条件で12分間加熱処理することによって、膜厚が5μmの保護層(第2の電荷輸送層)を形成した。
【0133】
このようにして、支持体、導電層、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層(第1の電荷輸送層)および保護層(第2の電荷輸送層)を有し、保護層が表面層である電子写真感光体を製造した。
【0134】
〈実施例2〉
実施例1において、保護層用塗布液を、例示化合物(T−1−1)80部および下記式(9)で示される化合物20部
【0135】
【化25】
【0136】
を、n−プロパノール100部に溶解させ、さらに1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(商品名:ゼオローラH、日本ゼオン(株)製)100部を加えることによって調製した保護層用塗布液に変更した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0137】
〈実施例3〜16〉
実施例1において、例示化合物(T−1−1)を表1に示す例示化合物に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0138】
〈実施例17〉
実施例1において、保護層用塗布液を、例示化合物(T−1−1)99部および1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(商品名:イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製。)1部を、n−プロパノール100部に溶解させ、さらに1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(商品名:ゼオローラH、日本ゼオン(株)製。)100部を加えることによって調製したものに変更した。また、この保護層用塗布液を電荷輸送層上に浸漬塗布して、得られた塗膜を5分間50℃で加熱処理し、その後、メタルハライドランプを用いて、照射強度:500mW/cmの条件で塗膜に20秒間紫外線を照射した。その後、塗膜が130℃になる条件で30分間加熱処理することによって、膜厚は5μmの保護層を形成した。これら以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0139】
〈比較例1〉
実施例1において、例示化合物(T−1−1)を下記式(10)で示される化合物
【0140】
【化26】
【0141】
に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0142】
〈比較例2〉
実施例1において、例示化合物(T−1−1)を下記式(11)で示される化合物
【0143】
【化27】
【0144】
に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0145】
〈比較例3〉
実施例1において、例示化合物(T−1−1)を下記式(12)で示される化合物
【0146】
【化28】
【0147】
に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0148】
〈比較例4〉
実施例1において、例示化合物(T−1−1)を下記式(13)で示される化合物
【0149】
【化29】
【0150】
に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0151】
〈比較例5〉
実施例1において、例示化合物(T−1−1)を下記式(14)で示される化合物
【0152】
【化30】
【0153】
に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0154】
〈比較例6〉
実施例1において、例示化合物(T−1−1)を下記式(15)で示される化合物
【0155】
【化31】
【0156】
に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0157】
〈比較例7〉
実施例1において、例示化合物(T−1−1)を下記式(16)で示される化合物
【0158】
【化32】
【0159】
に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0160】
〈比較例8〉
実施例1において、例示化合物(T−1−1)を下記式(17)で示される化合物
【0161】
【化33】
【0162】
に変更して保護層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0163】
【表1】
【0164】
(評価)
実施例1〜17および比較例1〜8の電子写真感光体の評価方法については、以下のとおりである。
【0165】
(転写効率の評価)
評価装置として、電子写真装置であるキヤノン(株)製の複写機GP−405(商品名)の改造機を用いた。GP−405(商品名)は、帯電手段として帯電ローラーを有している。改造点としては、複写機の外部から帯電ローラーに電力が供給できるように改造した。
【0166】
帯電ローラー用の電力を複写機の外部から供給するための電源としては、高圧電源コントロールシステム(Model615−3、トレック社製)を用いた。そして、定電圧制御で放電電流量:300μAになるように調整し、電子写真感光体の初期暗部電位(Vd)が約−700V、初期明部電位(Vl)が約−200Vになるように、帯電ローラーに印加する直流電圧と、露光装置の露光光量の条件を設定した。
【0167】
各実施例、比較例で製造した電子写真感光体をプロセスカートリッジに装着し、これを上記評価装置に装着した後、温度23℃、湿度40%RHの環境下で、電子写真感光体の表面におけるトナー乗り量が3g/mになるように現像条件を調整した。次に、電子写真感光体の表面に形成されたトナー像が転写材である紙に転写した直後に上記評価装置を止めた。これにより、電子写真感光体の表面には、トナー像の転写後であって表面のクリーニング前の状況でトナー(転写残トナー)が残っている。このトナーをポリエステルテープ(ニチバン(株)製)で取り、テープで取られたトナーの質量を量った。その値が転写後のトナー乗り量となる。そして、現像時のトナー乗り量(m:3g/m)と転写後のトナー乗り量(m)の割合から、転写効率を求めた(転写効率(%)=(m/m)×100)。転写効率の測定は、画像面積(トナーが乗っている面積)が3%である画像を10万枚連続で出力する前後に行った(画像を10万枚連続で出力する前=1枚目)。使用した紙はA4用紙である。
【0168】
結果を表2に示す。
なお、転写効率の評価基準は以下のとおりである。
ランク5:転写効率が96%以上
ランク4:転写効率が93%以上96%未満
ランク3:転写効率が88%以上93%未満
ランク2:転写効率が83%以上88%未満
ランク1:転写効率が83%未満。
【0169】
(接触角の評価)
10万枚連続画像出力前後において、電子写真感光体の表面での水の接触角を測定し、10万枚連続画像出力前後の接触角の変化量を確認した(接触角の変化量=10万枚連続画像出力前(1枚目)の接触角−10万枚連続画像出力前の接触角)。接触角の変化が大きいほど、電荷輸送性化合物の変性(酸化)が進み、電子写真感光体の表面における極性基が増大していると考えられる。
【0170】
結果を表2に示す。
【0171】
【表2】
【符号の説明】
【0172】
101 支持体
102 電荷発生層
103 電荷輸送層
104 保護層
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 転写材
8 定着手段
9 クリーニング手段
10 前露光光
11 プロセスカートリッジ
12 案内手段
図1
図2