特許第6242206号(P6242206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6242206-無菌アイソレータ 図000002
  • 特許6242206-無菌アイソレータ 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242206
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】無菌アイソレータ
(51)【国際特許分類】
   B25J 21/02 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   B25J21/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-261713(P2013-261713)
(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-116639(P2015-116639A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100086852
【弁理士】
【氏名又は名称】相川 守
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100147762
【弁理士】
【氏名又は名称】藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】谷本 和仁
【審査官】 松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/158763(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/011547(WO,A1)
【文献】 特開平06−324195(JP,A)
【文献】 特開2000−346418(JP,A)
【文献】 特開2000−343479(JP,A)
【文献】 特開2009−011930(JP,A)
【文献】 特表平09−503704(JP,A)
【文献】 特開2009−248295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 21/02
G21F 7/04
B01L 1/00
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイソレータ本体と、このアイソレータ本体内の圧力を調整する圧力調整手段を備え、前記アイソレータ本体内を陽圧に維持した状態で、内部で無菌作業を実施する無菌アイソレータにおいて、
前記アイソレータ本体の前面側に作業者が内部で無菌作業を実施するためのグローブを設けるとともに、前記アイソレータ本体の内部空間に作業室を区画し、
前記作業室内に所定の作業空間を区画する作業フードを設け、かつ前記作業フードの前面側に前記グローブと対向させて開口部を設け、また前記作業フードの背面側にこの作業フード内とアイソレータ本体の背後の外部とを通気可能とする連通管を取り付けて、当該連通管前記作業フード内から気体を吸引する吸引手段を備えるとともに、連通管の内部に清浄化フィルタを収容して、当該清浄化フィルタをアイソレータ本体の背後の外部から作業フード内に押し出し可能とし
前記作業フード内で作業を実施する際は、前記吸引手段により作業フード内の気体を吸引しつつ前記圧力調整手段により前記作業室内の圧力を調整し、作業フードの周囲の作業室内の圧力をアイソレータ本体の外部よりも高い陽圧に維持することを特徴とする無菌アイソレータ。
【請求項2】
作業を実施する際の前記作業フード内の圧力を、周囲の作業室内よりも低く、アイソレータ本体の外部よりも高い陽圧とすることを特徴とする請求項1に記載の無菌アイソレータ。
【請求項3】
作業を実施する際の前記作業フード内の圧力を、アイソレータ本体の外部よりも低い陰圧とすることを特徴とする請求項1に記載の無菌アイソレータ。
【請求項4】
前記清浄化フィルタを外部から作業フード内に押し出す際に、前記吸引手段を作動させることを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の無菌アイソレータ。
【請求項5】
前記清浄化フィルタを外部から作業フード内に押し出す際に、前記圧力調整手段によって前記作業室内の圧力をアイソレータ本体の外部より低い陰圧に維持することを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載の無菌アイソレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無菌アイソレータに係り、特に、アイソレータ本体内を陽圧に維持した状態で内部で無菌作業を行う無菌アイソレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、放射性医薬品等の放射性物質を含む対象物については、放射性物質の周囲への拡散を防止するために、気密壁で囲まれた陰圧の環境下で取り扱われている(例えば、特許文献1参照)。このような陰圧の環境では、外気を吸い込む可能性があり、外部からの汚染物質が流入する危険性があるため、周囲をクリーンルームのような清浄度の高い環境にする必要があり、設備が大がかりなものとなる。
【0003】
また、再生医療など細胞や組織を取り扱う場合は、陽圧に維持されたアイソレータが使用される。この場合には、ドナー由来のウイルスや細菌がアイソレータの外部に流出する可能性があり、作業者に感染する危険性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3911255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、放射性医薬品など放射性物質を含む対象物を気密壁で囲まれた陰圧の環境下で取り扱う場合には、大がかりな設備が必要であり、また、細胞や組織などウイルスや細菌を保有する可能性のある対象物は作業者に感染する危険性があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、アイソレータ本体と、このアイソレータ本体内の圧力を調整する圧力調整手段を備え、前記アイソレータ本体内を陽圧に維持した状態で、内部で無菌作業を実施する無菌アイソレータにおいて、前記アイソレータ本体の前面側に作業者が内部で無菌作業を実施するためのグローブを設けるとともに、前記アイソレータ本体の内部空間に作業室を区画し、前記作業室内に所定の作業空間を区画する作業フードを設け、かつ前記作業フードの前面側に前記グローブと対向させて開口部を設け、また前記作業フードの背面側にこの作業フード内とアイソレータ本体の背後の外部とを通気可能とする連通管を取り付けて、当該連通管前記作業フード内から気体を吸引する吸引手段を備えるとともに、連通管の内部に清浄化フィルタを収容して、当該清浄化フィルタをアイソレータ本体の背後の外部から作業フード内に押し出し可能とし、前記作業フード内で作業を実施する際は、前記吸引手段により作業フード内の気体を吸引しつつ前記圧力調整手段により前記作業室内の圧力を調整し、作業フードの周囲の作業室内の圧力をアイソレータ本体の外部よりも高い陽圧に維持することを特徴とするものである。
【0007】
また、第2の発明は、前記第1の発明において、作業を実施する際の前記作業フード内の圧力を、周囲の作業室内よりも低く、アイソレータ本体の外部よりも高い陽圧とすることを特徴とするものである。
【0008】
また、第3の発明は、前記第1の発明において、作業を実施する際の前記作業フード内の圧力を、アイソレータ本体の外部よりも低い陰圧とすることを特徴とするものである。
【0010】
また、第の発明は、前記第1ないし第3の発明において、前記清浄化フィルタを外部から作業フード内に押し出す際に、前記吸引手段を作動させることを特徴とするものである。
【0011】
また、第の発明は、前記第1ないし第4の発明において、前記清浄化フィルタを外部から作業フード内に押し出す際に、前記圧力調整手段によって前記作業室内の圧力をアイソレータ本体の外部より低い陰圧に維持することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無菌アイソレータは、放射性医薬品など放射性物質を含む対象物や、細胞や組織などウイルスや細菌を保有する可能性のある対象物について、有害物質の拡散を防止しつつ無菌環境下で取り扱うことが可能になるという利点がある。また、作業者等に感染等の危険性を及ぼすことのないアイソレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の一実施例に係る無菌アイソレータの縦断面図である。(実施例1)
図2図2は前記無菌アイソレータの除染およびエアレーションを行う回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
アイソレータ本体内に、外部と遮断され、密閉された作業室が形成されている。作業室の前面側には、作業者が手を挿入して作業室内で作業を行うためのグローブが取り付けられている。アイソレータ本体のグローブが取り付けられている前面側の壁面に、透明な樹脂製の窓が設けられており、作業者が作業室内を視認しつつ作業を行うことができる。この作業室の上方に給気用HEPAフィルタが配置されており、給気手段の給気ブロワによって外部から供給されたエアがHEPAフィルタによって無菌化されて下方の作業室内に吹き込まれる。アイソレータ本体内の作業室に隣接して、作業室の下部と連通する排気室が設けられており、この排気室の上方に排気用HEPAフィルタが配置されている。排気手段の排気ブロワによって排気室内のエアが吸引され、排気用HEPAフィルタを通過して無菌化されて外部に排出される。これら給気手段と排気手段により圧力調整手段が構成されており、制御手段によって給気ブロワと排気ブロワの吸排気量を制御して、アイソレータ本体内の圧力を調整することができる。
【0015】
前記作業室に開閉可能な扉を介してパスボックスが取り付けられており、この扉を開放することにより作業室内とパスボックス内を連通することができる。このアイソレータには除染ガスを供給して除染する除染手段が設けられている。除染手段は、除染剤を貯留するタンクと、タンクから供給された除染剤を加熱して蒸発させ除染ガスを発生させる蒸発器と、タンクから除染剤を蒸発器に送るポンプとを備えている。蒸発器によって発生された除染ガスは、第1供給通路からHEPAフィルタを介して作業室内に供給され、また、第2供給通路からHEPAフィルタを介してパスボックスに供給できるようになっている。パスボックスには、循環ブロワによってHEPAフィルタを介して吸引された気体を前記蒸発器に還流させる循環戻り回路が接続されており、アイソレータ本体内の除染時およびエアレーション時にアイソレータ本体からパスボックスを経由して排気するようになっている。
【0016】
作業室内に所定の作業空間を区画する作業フードが設けられている。この作業フード内は、グローブを装着した作業者の手が届くようになっており、作業フード内に収容された対象物(被処理物)の処理を行うことができる。作業フードの前面側(作業者側)は開放部になっており、ビニールカーテンが垂れ下がっている。作業フードの開放部側と逆の面に、筒状の連通管が取り付けられ、作業フード内とアイソレータ本体の外部とを通気可能にしている。この連通管には、吸引通路が接続され、吸引ブロワによって作業フード内の気体を吸引できるようになっている。また、連通管のアイソレータ外部側の開口部には開閉可能な蓋が取り付けられており、この蓋を開放して連通管の奥までHEPAフィルタを挿入することができる。連通管のこのHEPAフィルタよりも外側に前記吸引通路が接続されており、吸引ブロワによって吸引される気体は、HEPAフィルタによって有害物質が捕捉される。使用済みのHEPAフィルタを交換する場合には、連通管の外側開口部の蓋を開放して新しいHEPAフィルタを押し込み、使用済みのHEPAフィルタを作業室内に押し出して交換する。
【実施例1】
【0017】
以下、図面に示す実施例により本発明を説明する。この実施例に係る無菌アイソレータ(全体として符号1で示す)は、アイソレータ本体2内に、外部から遮断され密閉された内部空間を有しており、この気密が保持された内部空間内で作業を行う。このアイソレータ本体2の前面側には、作業者4が外部から内部空間内に手を挿入して作業を行うためのグローブ6が設けられている。このグローブ6が取り付けられているアイソレータ本体2の前面側には、透明な樹脂製の窓8が設けられている。前記グローブ6が取り付けられているグローブポート10はこの透明な窓8に設けられており、作業者4がアイソレータ本体2の内部を目視しながら作業を行えるようになっている。
【0018】
この実施例では、アイソレータ本体2の内部空間は、図1に示すように前面側の作業室12と、その背後に仕切板14によって遮断された排気室16とに区画されている。これら作業室12および排気室16の上部に圧力調整手段18が設けられている。この圧力調整手段18は、作業室12の上部に設けられた給気手段20と、排気室16の上部に設けられた排気手段22を備えている。
【0019】
給気手段20は、作業室12の上部に配置された給気側のHEPAフィルタ24を備えており、この給気側のHEPAフィルタ24に、開閉弁28を介して給気管路26が接続されている。給気ブロワ30の作動によって、触媒32を介して給気管路26から外気を導入し、HEPAフィルタ24によって無菌化して作業室12内に送り込む。作業室12の上部には、整流板34が設けられており、給気側HEPAフィルタ24を通って導入されたエアは、この整流板34によって真下に向けて整流されて一方向の層流(ラミナフロー)として下方の作業室12内に流入する。また、排気手段22は、排気室16の上部に排気側のHEPAフィルタ36が配置されており、この排気側のHEPAフィルタ36に、開閉弁40を介して排気管路38に接続され、排気ブロワ42の作動によって排気室16内の気体をHEPAフィルタ36により浄化し、触媒44を介して外部に排出する。
【0020】
作業室12と排気室16とは、仕切板14の下部に設けた開口によりその底部側で連通しており、給気ブロワ30によって上方から作業室12内に送り込まれたエアは、作業室12の底部から排気室16の底部に入り、排気ブロワ42によって吸引されて排気室16内を上昇し、HEPAフィルタ36を通って外部に排出される。圧力調整手段18は、制御手段46により給気ブロワ30からの給気量と、排気ブロワ42による排気量とを制御して、アイソレータ本体2内の圧力を調整できるようになっており、この実施例では、アイソレータ本体2内で無菌作業を実施する際には、内部を常に陽圧に維持するようにしている。
【0021】
アイソレータ本体2の作業室12には、開閉可能な内部扉48を介してパスボックス50が接続されている。この内部扉48を閉鎖した状態で、作業室12内で処理を行う対象物(被処理物)52をパスボックス50内に収容し、以下に説明する除染ガス供給手段54からパスボックス50内に除染ガスを供給して除染した後、前記内部扉48を開放して、その被処理物52をアイソレータ本体2の作業室12内に入れる。
【0022】
この無菌アイソレータ1には、その内部を除染するための除染ガス供給手段54が設けられている。除染ガス供給手段54は、除染剤(例えば、過酸化水素の溶液)を収容するタンク56と、このタンク56から除染剤を送り出すポンプ58と、ポンプ58によって送り込まれた除染剤を加熱して蒸気化する蒸発器60とを備えている。
【0023】
蒸発器60は、第1供給通路62を介してアイソレータ本体2の天面に接続されている。アイソレータ本体2の天面の作業室12側には、給気用のHEPAフィルタ24が取り付けられており、前記第1供給通路62を介して供給された除染ガスは、このHEPAフィルタ24を通して作業室12内に送り込まれる。また、前記蒸発器60は、第2供給通路64を介してパスボックス50の天面に接続されている。パスボックス50の天面にはHEPAフィルタ66が取り付けられており、第2供給通路を64介して供給された除染ガスは、HEPAフィルタ66を通してパスボックス50内に送り込まれる。これら第1供給通路62および第2供給通路64には、それぞれ開閉バルブ68、70が設けられておりこれら通路62、64を連通遮断できるようになっている。
【0024】
パスボックス50の底面には、パスボックス50の内部を前記蒸発器60に接続する循環戻り通路72が設けられており、循環ブロワ74の作動により、パスボックス50の内部の気体を蒸発器60に戻して、循環させることができるようになっている。パスボックス50の底面にはHEPAフィルタ76が取り付けられており、パスボックス50内の気体がこのHEPAフィルタ76によって無菌化されて前記蒸発器60に戻される。循環戻り通路72のパスボックス50寄りに開閉バルブ78が設けられており、この循環戻り通路72を連通遮断できるようになっている。
【0025】
前記循環戻り通路72の途中には、開閉バルブ80および触媒82を介して外部に連通する分岐通路84が設けられており、エアレーションを行う際には、この分岐通路84から外部のエアが導入される(以下、この分岐通路をエア導入通路84と呼ぶ)。また、パスボックス50の底部には、前記HEPAフィルタ76を介して、エアレーション用の排気通路86が設けられており、エアレーション時には、開閉バルブ88を開放してパスボックス50内の気体を触媒90を通して外部に排出する。
【0026】
アイソレータ本体2の前記作業室12の内部に、作業フード92によって区画された作業空間94が形成されている。この作業フード92の前面側、つまり、アイソレータ本体2のグローブ6を設けた壁面と対向する側が開放部になっている。この開放部にはビニールカーテン96が垂れ下がっており、開放部分が極力小さくなるようにしている。作業フード92の内部に被処理物の処理を行う処理手段(図示せず)が配置されており、この作業フード92内には、グローブ6を介して作業者4の手が届くようになっている。なお、この実施例では、作業者4が手を挿入して作業を行う装着具としてグローブ6が設けられているが、グローブ6に限らず、装着具として作業者4の上半身を包むハーフスーツを採用することもできる。また、作業者4の人手により作業を行う構成に限らず、内部にロボットを設置して作業を行わせることもできる。
【0027】
作業フード92の背面側(ビニールカーテン96が下がっている開放部の逆側)に筒状の連通管98が取り付けられ、作業フード92の内部の作業空間94とアイソレータ本体2の外部とを連通できるようになっている。この連通管98の外部側開口部98aには開閉可能な蓋100が取り付けられている。この無菌アイソレータ1の使用時には、外部側の開口部98aからHEPAフィルタ102を押し込んで連通管98の内部に収容する。また、使用済みのHEPAフィルタ102を交換する場合には、外部側の開口部98aから新しいHEPAフィルタ102を押し込んで、使用済みのHEPAフィルタ102を作業フード92内に押し出すようになっている。
【0028】
連通管98には、作業フード92内から気体を吸引する吸引手段104が設けられている。連通管98のアイソレータ外部側に吸引通路106が接続され、この吸引通路106に、連通管98を介して作業フード92内を吸引する吸引手段としての吸引ブロワ104が設けられている。吸引通路106の入口側(連通管98側)に開閉バルブ110が設けられており、吸引時には開閉バルブ110を開放して、吸引した作業フード92内部の気体を触媒112を介して外部に排出する。この無菌アイソレータ1の使用時には、作業フード92内で一定以上の風速で気流が生じるように吸引ブロワ104の吸引流量を設定している。また、作業フード92の前面側を前記ビニールカーテン96によって覆うことでさらに風速を早めるようにしている。このように吸引ブロワ104の作動によって作業フード92内を吸引しているときでも、前記圧力調整手段18によってアイソレータ本体2内における作業フード92の周囲環境は常に陽圧に維持される。
【0029】
前記無菌アイソレータ1の作動について説明する。アイソレータ1の内部の除染を行う場合には、アイソレータ本体2とパスボックス50との間の内部扉48を開放してアイソレータ本体2内とパスボックス50の内部とを連通する。また、除染ガスの第1、第2供給通路62、64に設けられている開閉バルブ68、70と、循環戻り通路72の開閉バルブ78を開放し、エアレーション用のエア導入通路84の開閉バルブ80と排気通路86の開閉バルブ88を閉鎖する。この状態で、除染ガス供給手段54のタンク56内に収容されている除染剤をポンプ58の作動によって蒸発器60に送り込み、蒸発器60において加熱し除染ガスを発生させる。この除染ガスは、循環戻り回路72に設けられた循環ブロワ74の作動により、第1供給通路62からHEPAフィルタ24を通してアイソレータ本体2内へ供給され、第2供給通路64からHEPAフィルタ66を通してパスボックス50内に供給される。パスボックス50内は循環戻り回路72に設けられた循環ブロワ74によって吸引され、パスボックス50内の除染ガスおよびアイソレータ本体2内の除染ガスがパスボックス50を経由して蒸発器60に戻って循環され、アイソレータ本体2内およびパスボックス50内が除染される。
【0030】
アイソレータ本体2およびパスボックス50内を除染した後、エアレーションを行う。アイソレータ本体2とパスボックス50の間の扉48を開放したまま、循環戻り回路72の開閉バルブ78を閉鎖するとともに、エア導入通路84の開閉バルブ80と、排気通路86の開閉バルブ88を開放する。また、除染ガス供給手段54のポンプ58を停止させる。この状態で循環ブロワ74を運転すると、外部のエアが触媒82を通してエア導入通路84から導入され、前記蒸発器60を通過して第1供給通路62および第2供給通路64から、それぞれアイソレータ本体2内およびパスボックス50内に供給される。アイソレータ本体2内に供給されたエアは、パスボックス50内に供給されたエアと合流して排気通路86から触媒90を通して外部に排出される。
【0031】
アイソレータ本体2とパスボックス50の除染およびエアレーションを終了した後、アイソレータ本体2内の作業室12で被処理物52の処理を行う。アイソレータ本体2内に搬入する被処理物52は、アイソレータ本体2とパスボックス50との間の内部扉48を閉じた状態でパスボックス50内に収容する。アイソレータ本体2に接続されている第1供給通路62の開閉バルブ68を閉じるとともに、パスボックス50に接続された第2供給通路64と循環戻り通路72の開閉バルブ70、78を開放し、また、エアレーション用のエア導入通路84および排気通路86の開閉バルブ80、88を閉じる。この状態で前記除染ガス供給手段54のポンプ58を駆動して、除染剤を蒸発器60に送り、蒸発器60で発生した除染ガスをパスボックス50に供給して、内部に収容した被処理物52を除染する。
【0032】
除染が終了した後、ポンプ58を停止するとともに、循環戻り通路72の開閉バルブ78を閉じ、エア導入通路84と排気通路86の開閉バルブ80、88を開放する。この状態で循環ブロワ74をを運転して、エア導入通路84からパスボックス50内にエアを供給し、排気通路86から排出することによりエアレーションを行う。その後、パスボックス50内で除染およびエアレーションを行った被処理物52を、アイソレータ本体2とパスボックス50の間の内部扉48を開放し、作業者4がグローブ6を介してパスボックス50内からアイソレータ本体2の作業室12に搬入する。
【0033】
アイソレータ本体2の作業室12内に設置された作業フード92の内部に前記被処理物52を収容し、処理を行う。この場合には、圧力調整手段18の給気手段20と排気手段22による吸排気量を制御して、アイソレータ本体2内を陽圧に維持する。また、被処理物52の処理を行う際は、吸引手段104を作動させて作業フード92内の作業空間94を吸引しておく。この吸引により、有害物質はHEPAフィルタ102に捕捉される。この実施例では、アイソレータ本体2内の作業室12が圧力調整手段18によって陽圧に維持され、また、この作業室12内に設置されている作業フード92内が吸引されているので、この作業フード92内の作業空間94の圧力は、その周囲の作業室12内の圧力よりも低くなっているが、作業フード92内の作業空間94の圧力が無菌アイソレータ1を設置した外部空間の圧力より高い陽圧となるように制御されている。なお、作業空間94の圧力は、前記外部空間の圧力より低い陰圧とすることもでき、また、顕著な圧力差を示さないほぼ同圧として、作業フード92の前面側の開放部から背面側の連通管98に向けた気流を生じさせるだけでもよい。いずれの場合においても、作業フード92内の作業空間94で前面側の開放部から背面側の連通管98に向けて吸引力を生じさせることによって、作業フード92から有害物質が流出することが防止される。
【0034】
前記作業フード92内で被処理物52の処理を行った後、連通管98の内部に設置されているHEPAフィルタ102の交換を行う場合には、連通管98の外部側開口部98aに取り付けてある蓋100を外し、この開口部98aから新しいHEPAフィルタ102を挿入する。この新しいHEPAフィルタ102を連通管98の内部まで押し込んで、使用済みHEPAフィルタ102を作業フード92内に押し出し、新しいHEPAフィルタ102を使用済みのHEPAフィルタ102が設置されていた位置に設置する。この使用済みのHEPAフィルタ102は袋に入れて、有害物質を封じ込めた状態にしてアイソレータ本体2から搬出する。
【0035】
連通管98内の使用済みHEPAフィルタ102を作業フード92内に押し出して交換する場合には、圧力調整手段18によってアイソレータ本体2内を陽圧に維持しながら、または、圧力調整手段18を作動させない状態で、吸引ブロワ104を作動させたまま新しいHEPAフィルタ102を押し込む。このようにすることにより使用済みHEPAフィルタ102に吸着されている有害物質が飛び散る場合でも、作業フード92から漏出させずに新しいHEPAフィルタ102に吸着させることができる。
【0036】
また、吸引ブロワ104は作動させずに、圧力調整手段18によってアイソレータ本体2内を陰圧に制御して、HEPAフィルタ102に捕捉された有害物質が外部に拡散することを防止することもできる。いずれの場合も、連通管98から作業フード92内に押し出した使用済みのHEPAフィルタ102は袋に入れて、有害物質を封じ込めた状態としてからアイソレータ本体2から搬出する。なお、この際の作業性を考慮して作業フード92を取り外し可能に構成することもできる。
【符号の説明】
【0037】
1 無菌アイソレータ
2 アイソレータ本体
18 圧力調整手段
92 作業フード
94 作業空間
98 連通管
102 清浄化フィルタ(HEPAフィルタ)
104 吸引手段(吸引ブロワ)
図1
図2