【文献】
笠井和彦 岩崎啓介,様々な形式の制振構造における自由度縮約法と水平バネ系への変換法,日本建築学会構造系論文集,日本,2006年 7月,第605号,P37-46
【文献】
高橋雄司、曽田五月也,一般化マックスウェルモデルにより模擬される粘弾性ダンパーを有する構造物の応答解析方法,日本建築学会構造系論文集,1988年 9月,第511号,pp.85-91
【文献】
笠井和彦 伊藤浩資,弾塑性ダンパーの剛性・降伏力・塑性率の調節による制振構造の応答制御手法,日本建築学会構造系論文集,日本,2005年 9月,第595号,P45-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
建物を構成する2つの骨組と、前記骨組の変形が伝達されるように前記骨組間の架構面に配されたエネルギー吸収体とを含み、前記エネルギー吸収体は、力学的に非対称性を有して前記骨組間に配された第1エネルギー吸収体と第2エネルギー吸収体とを少なくとも含む制振構造体の設計方法であって、
前記制振構造体に基づいて、複数の要素バネを含む水平バネ系モデルを設定する工程と、
前記水平バネ系モデルの各要素バネの剛性を計算する計算工程と、
前記計算された各要素バネの剛性に基づいて、前記水平バネ系モデルが表す前記制振構造体の性能を評価する工程とを含み、
前記水平バネ系モデルは、第1自由度と、第2自由度とが並列に定義された2自由度を持ち、
前記第1自由度は、前記骨組の前記架構面に沿った水平方向の変位に対応するものとして定義され、
前記第2自由度は、前記第1自由度の変位に沿った前記エネルギー吸収体の変位に対応するものとして定義され、
しかも、前記第2自由度は、前記第1エネルギー吸収体の剛性に対応する第1要素バネと、前記第2エネルギー吸収体の剛性に対応する第2要素バネとを並列に含んで定義され、
さらに、前記第2自由度は、
前記第1要素バネに直列で連結される第4要素バネ、
前記第2要素バネに直列で連結される第5要素バネ、及び
前記第4要素バネと前記第5要素バネとの並列バネに直列で連結される第6要素バネを含み、
前記第4要素バネ、前記第5要素バネ及び前記第6要素バネの合成バネは、前記第1エネルギー吸収体と前記骨組との間の剛性、及び、前記第2エネルギー吸収体と前記骨組との間の剛性の相互作用バネに対応し、
前記合成バネは、前記制振構造体に与えられる水平荷重を、前記第1要素バネ及び前記第2要素バネに分配して作用させることを特徴とする制振構造体の設計方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の制振構造体の設計方法(以下、単に「設計方法」ということがある)は、例えば、一般的な住宅やビル等の建物に用いられる耐力フレーム等の制振構造体を設計するための方法である。
【0023】
図1は、本実施形態の制振構造体2の一例を示す正面図である。
図2は、
図1のA−A断面図である。本実施形態では、制振構造体2が、鉄骨軸組構造住宅の1階の軸組構造体の一部を構成する耐力フレーム2Aである場合が例示される。この制振構造体2は、建物の基礎3と、該基礎3に沿ってその上を水平にのびる梁4との間の空間に架設されている。
【0024】
本実施形態の制振構造体2は、建物を構成する2つの骨組6、6と、骨組6、6間の架構面7に配されたエネルギー吸収体8とを含んで構成されている。
【0025】
2つの骨組6、6は、建物を直接支える主架構、又は、主架構を補強する補助架構を構成するものである。主架構を構成する骨組6、6としては、例えば、柱6a又は梁4が含まれる。本実施形態の骨組6、6は、補助架構(耐力フレーム2A)を構成する柱6a、6aである場合が例示される。なお、骨組6、6は、柱6aと梁4との組み合わせであってもよい。
【0026】
2つの柱6a、6aは、基礎3と梁4との間を上下にのび、かつ、水平方向に互いに離間して配置されている。各柱6a、6aは、例えば、断面角パイプ状の鉄骨柱として形成されている。また、各柱6a、6aの上端及び下端には、各柱6a、6aに対して鍔状にのびる上フランジ11及び下フランジ12がそれぞれ設けられている。
【0027】
各上フランジ11、11は、梁4のフランジ部4fに、ボルト等で固定されている。一方、各下フランジ12、12は、基礎3から上方に突出するアンカーボルト3aに、箱状をなす取付金物13を介して固定されている。これにより、各柱6a、6aは、基礎3と梁4との間で強固に固定される。
【0028】
また、各柱6a、6aには、制振構造体2の幅方向の内側に小長さでのびる突板部15が設けられている。この突板部15の垂直方向の長さは、柱6aの垂直方向の長さよりも小に設定され、かつ、柱6aよりも薄い板状に形成されている。
【0029】
本実施形態のエネルギー吸収体8は、第1エネルギー吸収体8aと第2エネルギー吸収体8bとを含んで構成されている。第1エネルギー吸収体8aは、架構面7の上方に配置されている。また、第2エネルギー吸収体8bは、第1エネルギー吸収体8aよりも下方に配置されている。また、各エネルギー吸収体8a、8bの上端側及び下端側には、突板部15、15間を連結して、柱6a、6a間の過度な変形を防ぐ横桟19が設けられている。
【0030】
図2に示されるように、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bは、例えば、ハット形鋼で構成されている。第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bには、制振構造体2の幅方向の両外側にのびる一対のフランジ17、17を有している。第1エネルギー吸収体8aのフランジ17a、及び、第2エネルギー吸収体8bのフランジ17bは、柱6a、6aの各突板部15、15にボルト18等で固定されている。これにより、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bは、柱6a、6aの変形が伝達されるように、架構面7に固着される。
【0031】
このような制振構造体2は、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bが変形することにより、柱6a、6a間の水平方向のせん断変形を吸収することができるため、建物の変形や振動を効果的に抑制することができる。なお、本実施形態では、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bがハット形鋼である場合が例示されたが、これに限定されるわけではない。第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bとしては、力学特性としてバネ剛性を有するものであれば良く、例えば、座屈拘束ブレース材、スリット鋼材ダンパー、又は、摩擦ダンパー等であってもよい。
【0032】
ところで、梁4に固着されている柱6a、6aの上端側は、基礎3に固着されている柱6a、6aの下端側に比べて剛性が小さい。このため、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bは、力学的に非対称性を有して、柱6a、6a間に配置されている。
【0033】
図3は、本実施形態の制振構造体の設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4は、本実施形態の設計方法を実行するコンピュータの斜視図である。本実施形態の設計方法では、コンピュータ21が用いられている。コンピュータ21は、本体21a、キーボード21b、マウス21c及びディスプレイ装置21dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置21a1、21a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態の設計方法の処理手順(プログラム)が予め記憶されている。この処理手順は、コンピュータ21の演算処理装置によって実行される。なお、設計方法では、コンピュータ21を用いることなく、手動で計算してもよいのは言うまでもない。
【0034】
本実施形態の設計方法では、先ず、制振構造体2に基づく水平バネ系モデルが設定される(工程S1)。
図5は、本実施形態の水平バネ系モデル23を示す正面図である。
【0035】
水平バネ系モデル23は、
図1に示した制振構造体2を、複数の要素バネ24を含むモデルに縮約したものである。この水平バネ系モデル23は、第1自由度26aと、第2自由度26bとが並列に定義された2自由度を持っている。また、本実施形態の水平バネ系モデル23は、第1要素バネ24a、第2要素バネ24b、第3要素バネ24c、第4要素バネ24d、第5要素バネ24e及び第6要素バネ24fを含む6つの要素バネ24から構成されている。
【0036】
第1自由度26aは、
図1に示した柱6aの架構面7に沿った水平方向の変位に対応するものとして定義されている。一方、第2自由度26bは、第1自由度26aの変位に沿ったエネルギー吸収体8(
図1に示す)の変位に対応するものとして定義されている。
【0037】
第1自由度26aは、第3要素バネ24cのみで定義されている。この第3要素バネ24cは、柱6a、6aの剛性に対応するものである。このような第3要素バネ24cは、
図1に示した柱6a、6aのうち、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bの影響を受けない部分の変位を定義することができる。
【0038】
第2自由度26bは、第1要素バネ24aと、第2要素バネ24bとを並列に含んで定義されている。第1要素バネ24aは、第1エネルギー吸収体8aの剛性に対応するものである。また、第2要素バネ24bは、第2エネルギー吸収体8bの剛性に対応するものである。このような第1要素バネ24a及び第2要素バネ24bは、上記非特許文献1の方法とは異なり、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bの各変位を独立して表すことができる。
【0039】
また、第2自由度26bは、第4要素バネ24d、第5要素バネ24e及び第6要素バネ24fを含んで定義されている。第4要素バネ24dは、第1要素バネ24aに直列で連結されている。第5要素バネ24eは、第2要素バネ24bに直列で連結されている。第6要素バネ24fは、第4要素バネ24dと第5要素バネ24eとの並列バネに、直列で連結されている。
【0040】
このような第4要素バネ24d、第5要素バネ24e及び第6要素バネ24fの合成バネは、第1エネルギー吸収体8aと柱6aとの間の剛性、及び、第2エネルギー吸収体8bと柱6aとの間の剛性の相互作用バネに対応している。従って、合成バネは、制振構造体2に与えられる水平荷重を、第1要素バネ24a及び第2要素バネ24bに分配して作用させることができる。また、合成バネは、
図1に示した柱6a、6aのうち、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bの影響を受ける部分の変位を、水平バネ系モデル23に定義することができる。
【0041】
このような水平バネ系モデル23は、多自由度をもつ制振構造体2(
図1に示す)を、2自由度に縮約することができるため、制振構造体2の性能を効率的に評価するのに役立つ。
【0042】
次に、本実施形態の設計方法では、水平バネ系モデル23の各要素バネ24a〜24fの剛性が計算される(計算工程S2)。
図6は、本実施形態の計算工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0043】
上記非特許文献1の制振構造体では、1つのエネルギー吸収体、又は、力学的に対称性を有して配された2つのエネルギー吸収体から構成されていた。このため、上記非特許文献1では、制振構造体からエネルギー吸収体が省略された状態Nと、エネルギー吸収体が剛体として配置された状態Rと含む2つの状態での水平変形の計算結果に基づいて、各要素バネの剛性が計算されていた。
【0044】
一方、本実施形態の制振構造体2には、上述したように、力学的に非対称性を有して柱6a、6a間に配された2つのエネルギー吸収体8、8を含んで構成されている。このため、本実施形態の計算工程S2では、第1状態T1〜第4状態T4の各制振構造体2の水平変形の計算結果に基づいて、各要素バネ24の剛性が計算される。
【0045】
本実施形態において、第1状態T1は、
図1に示した制振構造体2から、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bが省略された状態である。また、第2状態T2は、制振構造体2の第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bが剛体として配置された状態である。さらに、第3状態T3は、制振構造体2の第1エネルギー吸収体8aが剛体として配置されるとともに、第2エネルギー吸収体8bが省略された状態である。また、第4状態T4は、制振構造体2の第2エネルギー吸収体8bが剛体として配置されるとともに、第1エネルギー吸収体8aが省略された状態である。
【0046】
本実施形態の計算工程S2では、先ず、4つの状態の制振構造体2の水平変形が計算される(変形計算工程S21)。本実施形態の制振構造体2の変形は、コンピュータ21を用いたシミュレーションによって計算される。
図7は、本実施形態の変形計算工程S21の一例を示すフローチャートである。
【0047】
本実施形態の変形計算工程S21では、先ず、コンピュータ21に、
図1に示した制振構造体2をモデル化した制振構造体モデル27が入力される(工程S211)。
図8は、本実施形態の制振構造体モデル27の正面図である。
【0048】
制振構造体モデル27は、
図1に示した制振構造体2を、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化することで設定される。さらに、本実施形態では、
図1に示した梁4を、有限個の要素F(i)で離散化した梁モデル28が設定される。
【0049】
要素F(i)としては、例えば、線状の要素、面状の要素、又は、体状の要素を適宜採用することができる。線状の要素としては、例えば、棒要素又は梁要素が含まれる。面状の要素としては、例えば、板要素が含まれる。さらに、体状の要素としては、例えば、立体要素が含まれる。
【0050】
数値解析法としては、例えば、線材理論に基づく骨組のマトリクス解析法や、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法を適宜採用することができる。本実施形態では、梁要素と板要素による有限要素解析が採用される。
【0051】
また、各要素F(i)には、要素番号、節点29の番号、節点29の座標値、及び、材料特性などの数値データが定義される。
【0052】
制振構造体モデル27は、
図1に示した制振構造体2の2つの柱6a、6aを要素F(i)でモデル化した2つの柱モデル31、31、第1エネルギー吸収体8aが配される領域を要素F(i)で特定した第1剛体モデル32a、及び、第2エネルギー吸収体8bが配される領域を要素F(i)で特定した第2剛体モデル32bを含んで構成されている。このようなモデルの設定(モデリング)は、例えば、制振構造体モデル27の設計データ(例えば、CADデータ)と、メッシュ化ソフトウェアとを用いることにより、容易に実施することができる。
【0053】
柱モデル31、31は、
図1に示した柱6a、6aと同様に、上フランジ34、下フランジ35及び突板部36を含んで構成されている。また、下フランジ12の下端には、
図1に示した取付金物13をモデル化した金物モデル33が設定されている。
【0054】
本実施形態の第1剛体モデル32aの形状は、
図1に示した第1エネルギー吸収体8aの形状と異なっている。第1剛体モデル32aは、各柱モデル31、31の突板部36、36に沿ってのびる一対の固定部41、41と、固定部41、41から制振構造体モデル27の幅方向の内側にのびる一対のアーム42、42と、アーム42、42間を連結する連結部43とを含んで構成されている。これらの固定部41、アーム42及び連結部43は、線状の要素F(i)でモデル化されている。
【0055】
固定部41、41の上下方向の長さは、
図1に示した第1エネルギー吸収体8aのフランジ17aの上下方向の長さと同一に設定されている。また、固定部41、41、アーム42、42及び連結部43を構成する要素F(i)には、変形を許容しない剛体を定義しうる材料特性が入力される。このような第1剛体モデル32aは、要素F(i)の数を減らしつつ、第1エネルギー吸収体8aが配される領域を剛に定義した状態を、コンピュータ21に再現することができる。
【0056】
第2剛体モデル32bは、第1剛体モデル32aと同様に、一対の固定部41、41と、一対のアーム42、42と、連結部43とを含んで構成されている。このような第2剛体モデル32bも、第2エネルギー吸収体8bが配される領域を剛に定義した状態を、コンピュータ21に再現することができる。このように設定された制振構造体モデル27及び梁モデル28は、コンピュータ21に記憶される。
【0057】
また、制振構造体モデル27には、境界条件が設定される。本実施形態では、制振構造体モデル27の金物モデル33が移動不能に設定される。また、制振構造体モデル27の上フランジ34と、梁モデル28との固着が定義される。これにより、制振構造体モデル27は、
図1に示した基礎3及び梁4に固定された制振構造体2を再現することができる。なお、制振構造体モデル27には、アンカーボルト3a(
図1に示す)やボルトを含む固定具の剛性や、固定具と制振構造体2との摩擦等が考慮されるのが望ましい。このような境界条件は、コンピュータ21に記憶される。
【0058】
次に、変形計算工程S21では、コンピュータ21に、第1状態T1の制振構造体2をモデル化した第1制振構造体モデル27aが定義される(工程S212)。
図9(a)は、第1制振構造体モデルを示す正面図、(b)は、第2制振構造体モデルを示す正面図、(c)は、第3制振構造体モデルを示す正面図、(d)は、第4制振構造体モデルを示す正面図である。
【0059】
上述したように、第1状態T1は、制振構造体2から第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bが省略された状態である。従って、
図9(a)に示されるように、工程S212では、
図8に示した制振構造体モデル27において、第1剛体モデル32a及び第2剛体モデル32bを消去している。これにより、工程S212では、第1状態T1の制振構造体2を、
図8に示した有限個の要素F(i)で離散化した第1制振構造体モデル27aを容易に定義することができる。このような第1制振構造体モデル27aは、コンピュータ21に記憶される。
【0060】
次に、変形計算工程S21では、コンピュータ21が、第1制振構造体モデル27aに第1状態の水平荷重F
Nを定義して、第1状態の水平変形量U
Nを計算する(工程S213)。本実施形態では、水平荷重F
Nが、梁モデル28に設定される。これにより、工程S213では、第1制振構造体モデル27aの水平方向の変形を計算することができる。
【0061】
第1制振構造体モデル27aを含む制振構造体モデル27の変形計算は、静的線形解析、又は、非線形解析によって行われる。この変形計算では、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の剛性マトリクスが作成される。さらに、これらのマトリクスが組み合わされて、全体の系の剛性マトリックスが作成される。そして、コンピュータ21が、前記各種の条件を当てはめて荷重ベクトル及び変位ベクトルを作成し、これらと前記剛性マトリクスとの吊り合い方程式から、第1制振構造体モデル27aの変形計算を行う。このような変形計算は、例えば、 MIDAS IT 社製の midas Gen などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。
【0062】
また、第1状態の水平変形量U
Nは、変形前の柱モデル31の上端の任意の位置37(
図8に示す)と、変形後の柱モデル31の前記位置37との水平方向の距離の最大値である。計算された第1状態の水平変形量U
Nは、コンピュータ21に記憶される。
【0063】
次に、変形計算工程S21では、コンピュータ21が、第1状態の水平荷重F
Nに基づいて、第1エネルギー吸収体8aに作用する変形量U
dNU、及び、第2エネルギー吸収体8bに作用する変形量U
dNLを計算する(工程S214)。本実施形態の工程S214では、第1制振構造体モデル27aに基づいて、第1エネルギー吸収体8aに作用する変形量U
dNU、及び、第2エネルギー吸収体8bに作用する変形量U
dNLが計算される。本実施形態の各変形量U
dNU及びU
dNLは、せん断変形量である。なお、各変形量U
dNU及びU
dNLは、必要に応じて、軸変形量、曲げ変形量、又は、摩擦変形量であってもよい。
図10は、第1エネルギー吸収体及び第2エネルギー吸収体の各変形量U
dNU、U
dNLを計算するのに用いられる制振構造体モデルの正面図である。
【0064】
本実施形態の工程S214では、先ず、第1制振構造体モデル27aの突板部36、36から、第1制振構造体モデル27aの幅方向内側に小長さで突出する一対の突片45、45が設定される。この突片45、45は、板状に設定され、
図8に示した有限個の要素F(i)でモデル化されている。また、突片45、45は、第1制振構造体モデル27aの幅方向内側の端部45t、45tが、互いに当接している。このような各突片45、45は、各突板部36、36への固定が定義される。
【0065】
本実施形態の一対の突片45、45は、第1剛体モデル32a(
図8に示す)の上端の位置に配される第1突片45a、45a、第1剛体モデル32aの下端の位置に配される第2突片45b、45b、第2剛体モデル32b(
図8に示す)の上端の位置に配される第3突片45c、45c、及び、第2剛体モデル32bの下端の位置に配される第4突片45d、45dを含んでいる。本実施形態では、第1制振構造体モデル27aの変形前の状態において、各端部45t、45tの上下方向の中央位置42、42が、上下方向で一致するように配置されている。
【0066】
次に、工程S214では、工程S213と同様に、第1状態の水平荷重F
Nを定義して、第1制振構造体モデル27aの変形が計算される。この第1制振構造体モデル27aの変形計算に基づいて、第1エネルギー吸収体8a(
図1に示した)に作用する変形量U
dNU、及び、第2エネルギー吸収体8bに作用する変形量U
dNLが計算される。
【0067】
第1エネルギー吸収体8aに作用する変形量U
dNUは、第1突片45a、45aの変位量L1aと、第2突片45b、45bの変位量L1bとを平均することによって計算される。
図11は、
図10の部分拡大図である。第1突片45a、45aの変位量L1aは、第1制振構造体モデル27aが水平荷重F
N(
図10に示す)で変形した状態において、第1突片45a、45aの中央位置42の上下方向の相対変位量であり、第1エネルギー吸収体8aの上端の幅方向中央位置でのせん断変形量とみなすことができる。また、第2突片45b、45bの変位量L1b(図示省略)は、第1突片45a、45aの変位量L1aと同様に計算される。このような変形量U
dNUは、水平荷重F
Nによって変形した制振構造体モデル27において、第1エネルギー吸収体8aのせん断変形量とみなすことができる。
【0068】
第2エネルギー吸収体8bに作用する変形量U
dNLは、
図10に示した第3突片45c、45cの変位量L1cと、第4突片45d、45dの変位量L1dとの平均によって計算される。第3突片45c、45cの変位量L1c、及び、第4突片45d、45dの変位量L1dは、第1突片45a、45aの変位量L1aと同様に計算される。このような変形量U
dNLは、水平荷重F
Nによって変形した制振構造体モデル27において、第2エネルギー吸収体8bのせん断変形量とみなすことができる。
【0069】
次に、変形計算工程S21では、
図9に示されるように、コンピュータ21に、第2状態の制振構造体2をモデル化した第2制振構造体モデル27bが定義される(工程S215)。上述したように、第2状態T2は、制振構造体2の第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bが剛体として配置された状態である。従って、工程S215では、
図8に示した制振構造体モデル27がそのまま用いられる。これにより、工程S215では、第2状態の制振構造体2を、有限個の要素F(i)で離散化した第2制振構造体モデル27bを設定することができる。第2制振構造体モデル27bは、コンピュータ21に記憶される。
【0070】
次に、変形計算工程S21では、コンピュータ21が、第2制振構造体モデル27bに第2状態の水平荷重F
Rを定義して、第2状態の水平変形量U
Rを計算する(工程S216)。本実施形態では、水平荷重F
Rは、梁モデル28に設定される。これにより、工程S216では、第2制振構造体モデル27bの水平方向の変形を計算することができる。なお、第2状態の水平変形量U
Rは、第1状態の水平変形量U
Nと同様に計算される。第2状態の水平変形量U
Rは、コンピュータ21に記憶される。
【0071】
次に、変形計算工程S21は、コンピュータ21に、第3状態の制振構造体2をモデル化した第3制振構造体モデル27cが定義される(工程S217)。上述したように、第3状態T3は、制振構造体2の第1エネルギー吸収体8aが剛体として配置されるとともに、第2エネルギー吸収体8bが省略された状態である。従って、工程S217では、
図8に示した制振構造体モデル27において、第2剛体モデル32bのみを消去している。これにより、工程S217では、第3状態の制振構造体2を、
図8に示した有限個の要素F(i)で離散化した第3制振構造体モデル27cを容易に定義することができる。このような第3制振構造体モデル27cは、コンピュータ21に記憶される。
【0072】
次に、変形計算工程S21は、コンピュータ21が、第3制振構造体モデル27cに、第3状態の水平荷重F
RUを定義して、第3状態の水平変形量U
RUを計算する(工程S218)。本実施形態では、水平荷重F
RUは、梁モデル28に設定される。これにより、工程S218では、第3制振構造体モデル27cの水平方向の変形を計算することができる。なお、第3状態の水平変形量U
RUは、第1状態の水平変形量U
Nと同様に計算される。第3状態の水平変形量U
RUは、コンピュータ21に記憶される。
【0073】
次に、変形計算工程S21は、コンピュータ21に、第4状態の制振構造体2を、有限個の要素F(i)で離散化した第4制振構造体モデル27dが定義される(S219)。上述したように、第4状態T4は、制振構造体2の第2エネルギー吸収体8bが剛体として配置されるとともに、第1エネルギー吸収体8aが省略された状態である。従って、工程S219では、
図8に示した制振構造体モデル27において、第1剛体モデル32aのみを消去している。これにより、工程S219では、第4制振構造体モデル27dを容易に定義することができる。このような第4制振構造体モデル27dは、コンピュータ21に記憶される。
【0074】
次に、変形計算工程S21は、コンピュータ21が、第4制振構造体モデル27dに第4状態の水平荷重F
RLを定義して、第4状態の水平変形量U
RLが計算される(工程S220)。本実施形態では、水平荷重F
RLは、梁モデル28に設定されている。これにより、工程S220では、第4制振構造体モデル27dの水平方向の変形を計算することができる。なお、第4状態の水平変形量U
RLは、第1状態の水平変形量U
Nと同様に計算される。第4状態の水平変形量U
RLは、コンピュータ21に記憶される。
【0075】
次に、計算工程S2では、4つの状態の制振構造体2の変形の計算結果に基づいて、各要素バネ24の剛性が計算される(バネ剛性計算工程S22)。
図12は、本実施形態のバネ剛性計算工程S22の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0076】
バネ剛性計算工程S22では、先ず、コンピュータ21が、
図5に示した第1要素バネ24aの剛性K
dU、及び、第2要素バネ24bの剛性K
dLを計算する(工程S221)。この工程S221では、工程S214で求められた第1エネルギー吸収体8aに作用する変形量U
dNU、第2エネルギー吸収体8bに作用する変形量U
dNL、及び、下記式(1)を用いて、第1要素バネ24aの剛性K
dU、及び、第2要素バネ24bの剛性K
dLが計算される。
【0077】
【数1】
ただし、S
dU:第1エネルギー吸収体の剛性
S
dL:第2エネルギー吸収体の剛性
U
N:第1状態の制振構造体の水平変形量
【0078】
上記式(1)において、α
NUは、第1エネルギー吸収体8aに作用する変形量U
dNUと、第1状態の制振構造体の水平変形量U
Nとの比率である。この比率α
NUは、制振構造体の水平変形量U
Nに対して、第1エネルギー吸収体8aにどれだけ変形が作用するかを示すものである。また、本実施形態の剛性S
dUは、第1エネルギー吸収体8aのせん断剛性である。本実施形態では、上記非特許文献1と同様に、比率α
NUの二乗に、第1エネルギー吸収体8aの剛性S
dUを乗じることにより、第1要素バネ24aの剛性K
dUが求められる。
【0079】
上記式(1)において、α
NLは、第2エネルギー吸収体8bに作用する変形量U
dNLと、第1状態の制振構造体の水平変形量U
Nとの比率である。この比率α
NLも、制振構造体の水平変形量U
Nに対して、第2エネルギー吸収体8bにどれだけ変形が作用するかを示すものである。また、本実施形態の剛性S
dLは、第1エネルギー吸収体8bのせん断剛性である。本実施形態では、比率α
NLの二乗に、第2エネルギー吸収体8bの剛性S
dLを乗じることにより、第2要素バネ24bの剛性K
dLが求められる。これらの第1要素バネ24aの剛性K
dU、及び、第2要素バネ24bの剛性K
dLは、コンピュータ21に記憶される。
【0080】
本実施形態では、第1エネルギー吸収体8aの剛性S
dU、及び、第2エネルギー吸収体8bの剛性S
dLが、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bを用いた引張試験等によって予め測定されている。なお、各剛性S
dU及びS
dLを求める方法としては、本実施形態に限定されるわけではなく、例えば、各エネルギー吸収体8a、8bをモデル化したエネルギー吸収体モデル(図示省略)を用いて、非線形有限要素解析法による解析結果等から設定されてもよい。
【0081】
また、本実施形態では、第1要素バネ24aの剛性K
dU及び第2要素バネ24bの剛性K
dLが計算によって求められるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、第1要素バネ24aの剛性K
dU及び第2要素バネ24bの剛性K
dLは、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bを用いた実験によって求められてもよいのは言うまでもない。
【0082】
次に、バネ剛性計算工程S22では、コンピュータ21が、下記式(2)を用いて、第3要素バネの剛性K
fs、第4要素バネの剛性K
A、第5要素バネの剛性K
B、及び、第6要素バネの剛性K
Cを計算する(工程S222)。
【0083】
【数2】
ただし、K
N:第1状態の制振構造体の水平剛性
K
R:第2状態の制振構造体の水平剛性
K
RU:第3状態の制振構造体の水平剛性
K
RL:第4状態の制振構造体の水平剛性
K’
R:第2状態の第2自由度の水平剛性
K’
RU:第3状態の第2自由度の水平剛性
K’
RL:第4状態の第2自由度の水平剛性
F
N:第1状態の制振構造体への水平荷重
F
R:第2状態の制振構造体への水平荷重
F
RU:第3状態の制振構造体への水平荷重
F
RL:第4状態の制振構造体への水平荷重
U
N:第1状態の制振構造体の水平変形量
U
R:第2状態の制振構造体の水平変形量
U
RU:第3状態の制振構造体の水平変形量
U
RL:第4状態の制振構造体の水平変形量
【0084】
上述したように、
図5に示した第3要素バネ24cは、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bの影響を受けない柱6a、6aの剛性を定義するものである。従って、第3要素バネの剛性K
fsは、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bが省略された第1状態の制振構造体の水平剛性K
Nと同一とみなすことができる。なお、第1状態の制振構造体の水平剛性K
Nは、上記式(2)に示されるように、第1状態の制振構造体への水平荷重F
Nを、第1状態の制振構造体の水平変形量U
Nで除することによって求められる。これにより、第3要素バネ24cの剛性K
fsを求めることができる。この剛性K
fsは、コンピュータ21に記憶される。
【0085】
図5に示されるように、第4要素バネ24d、第5要素バネ24e及び第6要素バネ24fは、水平バネ系モデル23の第2自由度26bを定義するのに用いられている。このため、本実施形態では、水平バネ系モデル23の第2自由度26bにおいて、第4要素バネ24dの剛性K
A、第5要素バネ24eの剛性K
B及び第6要素バネ24fの剛性K
Cが計算される。
【0086】
本実施形態では、先ず、
図13(a)に示す第2状態T2の第2自由度26bの水平剛性K’
R、
図13(b)に示す第3状態T3の第2自由度26bの水平剛性K’
RU、及び、
図13(c)に示す第4状態T4の第2自由度26bの水平剛性K’
RLが計算される。そして、これらの水平剛性K’
R、K’
RU、K’
RLに基づいて、第4要素バネ24dの剛性K
A、第5要素バネ24eの剛性K
B、及び、第6要素バネ24fの剛性K
Cが計算される。なお、各第2自由度26bでは、計算を簡略化するために、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bが完全剛体と仮定し、第1要素バネ24a及び第2要素バネ24b(
図5に示す)を省略している。
【0087】
第2状態の第2自由度26bの水平剛性K’
Rは、上記式(2)に示されるように、第2状態の制振構造体2の水平剛性K
Rから、第1自由度26aの水平剛性(即ち、第1状態の制振構造体の水平剛性K
N)を減じることによって求めることができる。なお、第2状態の制振構造体2の水平剛性K
Rは、第2状態の制振構造体への水平荷重F
Rを、第2状態の制振構造体の水平変形量U
Rで除することによって求めることができる。
【0088】
第3状態の第2自由度の水平剛性K’
RUは、第3状態の制振構造体2の水平剛性K
RUから、第1自由度26aの水平剛性(即ち、第1状態の制振構造体の水平剛性K
N)を減じることによって求めることができる。なお、第3状態の制振構造体2の水平剛性K
RUは、第3状態の制振構造体への水平荷重F
RUを、第3状態の制振構造体の水平変形量U
RUで除することによって求めることができる。
【0089】
第4状態の第2自由度の水平剛性K’
RLは、第4状態の制振構造体2の水平剛性K
RLから、第1自由度26aの水平剛性(即ち、第1状態の制振構造体の水平剛性K
N)を減じることによって求めることができる。なお、第4状態の制振構造体2の水平剛性K
RLは、第4状態の制振構造体への水平荷重F
RLを、第4状態の制振構造体の水平変形量U
RLで除することによって求めることができる。
【0090】
図13(a)に示されるように、第2状態T2の第2自由度26bは、第4要素バネ24dと第5要素バネ24eとの並列バネに、第6要素バネ24fを直列で連結する水平バネ系モデルとして定義することができる。
【0091】
図13(b)に示されるように、第3状態T3は、第2エネルギー吸収体8b(
図1に示す)が省略されるため、第2要素バネ24b(
図5に示す)が配されている位置が切断されている。このため、第3状態T3では、第2要素バネ24bに直列で連結されていた第5要素バネ24eを無視することができる。従って、第3状態T3の第2自由度26bは、第4要素バネ24dと第6要素バネ24fとを直列で連結する水平バネ系モデルとして定義することができる。
【0092】
図13(c)に示されるように、第4状態T4は、第1エネルギー吸収体8a(
図1に示す)が省略されるため、第1要素バネ24a(
図5に示す)が配されている位置が切断されている。このため、第4情愛T4では、第1要素バネ24a(
図5に示す)に直列で連結されていた第4要素バネ24dを無視することができる。従って、第4状態T4の第2自由度26bは、第5要素バネ24eと第6要素バネ24fとを直列で連結する水平バネ系モデルとして定義することができる。
【0093】
図13(a)〜
図13(c)に示した水平バネ系モデルを考慮すると、第2状態の第2自由度の水平剛性K’
R、第3状態の第2自由度の水平剛性K’
RU、及び、第4状態の第2自由度の水平剛性K’
RLと、第4要素バネの剛性K
A、第5要素バネの剛性K
B、及び、第6要素バネの剛性K
Cとの関係は、下記式(3)で定義することができる。
【0095】
上記式(3)は、さらに、下記式(4)のように展開することができる。この下記式(4)を展開し、さらに解の公式を用いることにより、第4要素バネの剛性K
A、第5要素バネの剛性K
B、及び、第6要素バネの剛性K
Cを、上記式(2)のように特定することができる。
【0097】
このように、工程S222では、上記式(2)を用いて、第3要素バネの剛性K
fs、第4要素バネの剛性K
A、第5要素バネの剛性K
B、及び、第6要素バネの剛性K
Cを、容易に計算することができる。これらの剛性K
fs、K
A、K
B及びK
Cは、コンピュータ21に記憶される。
【0098】
次に、本実施形態の設計方法では、計算された各要素バネ24の剛性に基づいて、水平バネ系モデル23が表す制振構造体の性能が評価される(評価工程S3)。
図14は、評価工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0099】
本実施形態の評価工程S3では、先ず、コンピュータ21が、制振構造体2の全体の水平剛性K
Sを求める(工程S31)。この工程S31では、
図5に示した水平バネ系モデル23において、第1要素バネ24aの剛性K
dU、第2要素バネ24bの剛性K
dL、第3要素バネ24cの剛性K
fs、第4要素バネ24dの剛性K
A、第5要素バネ24eの剛性K
B、及び、第6要素バネ24fの剛性K
Cが合成される。このような要素バネ24の合成により、制振構造体2の全体の水平剛性K
Sを求めることができる。なお、制振構造体2の全体の水平剛性K
Sは、下記式(5)の関係を有している。
【0100】
【数5】
ただし、F
S:制振構造体への水平荷重
U
S:制振構造体の水平変形量
【0101】
図15は、制振構造体2への水平荷重F
Sと、制振構造体の水平変形量U
Sとの関係を示すグラフである。本実施形態の工程S31では、上記式(4)に基づいて、
図15に示される制振構造体2への水平荷重F
Sと、制振構造体の水平変形量U
Sとの関係を求めることができる。このような水平荷重F
Sと水平変形量U
Sとの関係は、制振構造体2の力学特性、及び、各エネルギー吸収体8、8の挙動を評価するのに役立つ。
【0102】
次に、評価工程S3では、制振構造体2の全体の水平剛性K
Sが許容範囲内であるか否かが判断される(工程S32)。工程S32では、制振構造体2の全体の水平剛性K
Sが許容範囲内であると判断された場合、次の工程S33が実行される。一方、全体の水平剛性K
Sが、許容範囲内にないと判断された場合には、制振構造体2の設計因子(例えば、柱6a、6a、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8b)の少なくとも一つが変更されて(工程S34)、工程S1〜工程S3が再度実施される。これにより、本実施形態の設計方法では、制振構造体2の全体の水平剛性K
Sが許容範囲内になるまで、制振構造体2の設計因子が変更されるため、建物の変形や振動を抑制することができる制振構造体2を設計することができる。
【0103】
次に、評価工程S3では、コンピュータ21が、第1エネルギー吸収体8aの変形量U
dU、及び、第2エネルギー吸収体8bの変形量U
dLを求める(工程S33)。この工程S33では、先ず、制振構造体2への水平荷重F
Sに対して、第1エネルギー吸収体8aが負担するせん断力F
dU、及び、第2エネルギー吸収体8bが負担するせん断力F
dLがそれぞれ求められる。そして、第1エネルギー吸収体8aのせん断力F
dUを、第1エネルギー吸収体の剛性(せん断剛性)S
dUで除することにより、第1エネルギー吸収体8aの変形量U
dUが求められる。また、第2エネルギー吸収体8bのせん断力F
dLを、第2エネルギー吸収体の剛性(せん断剛性)S
dLで除することにより、第2エネルギー吸収体8bの変形量U
dLが求められる。なお、これらの変形量U
dU及びU
dLは、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bのせん断変形量である。
【0104】
工程S33では、
図16に示されるように、第1エネルギー吸収体8aの変形量U
dUと、第2エネルギー吸収体8bの変形量U
dLとの関係を示すグラフが求められるのが望ましい。このような第1エネルギー吸収体8aの変形量U
dUと、第2エネルギー吸収体8bの変形量U
dLとの関係は、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bの変形量(せん断変形量)の違いを的確に把握することができるため、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bの挙動や、求められる剛性を把握するのに役立つ。
【0105】
次に、評価工程S3では、第1エネルギー吸収体8aの変形量U
dU、及び、第2エネルギー吸収体8bの変形量U
dLが、許容範囲内であるか否かが判断される(工程S35)。工程S35では、許容範囲内であると判断された場合、水平バネ系モデル23に基づいて、2つの柱6a、6a、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bを含む制振構造体2が製造される(工程S36)。一方、第1エネルギー吸収体8aの変形量U
dU、及び、第2エネルギー吸収体8bの変形量U
dLが、許容範囲内にないと判断された場合には、制振構造体2の設計因子(例えば、柱6a、6a、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8b)の少なくとも一つが変更されて(工程S34)、工程S1〜工程S3が再度実施される。
【0106】
これにより、本実施形態の設計方法では、制振構造体2の全体の水平剛性K
Sだけでなく、第1エネルギー吸収体8aの変形量U
dU、及び、第2エネルギー吸収体8bの変形量U
dLが許容範囲内になるまで、制振構造体2の設計因子が変更されるため、建物の変形や振動を効果的に抑制することができる制振構造体2を確実に設計することができる。
【0107】
本実施形態の設計方法では、第1エネルギー吸収体8a及び第2エネルギー吸収体8bの各変位を独立して表すことができる水平バネ系モデル23が用いられるため、力学的に非対称性を有して配された一対のエネルギー吸収体8a、8bが設けられた制振構造体2の挙動を、短期間かつ低コストで、正確に評価することができる。従って、本実施形態の設計方法では、制振構造体2を効率よく設計することができる。しかも、本実施形態では、第1要素バネ24a〜第6要素バネ24fを含む
図5に示した水平バネ系モデル23が用いられるため、制振構造体2の挙動をより正確に評価することができる。
【0108】
また、工程S34では、水平バネ系モデル23から求められる制振構造体2の全体の水平剛性K
Sが許容範囲になるように、第1要素バネ24aの剛性K
dU、及び、第2要素バネ24bの剛性K
dLが逆算されてもよい。これにより、水平剛性K
Sを許容範囲内にすることができる各エネルギー吸収体8a、8bの剛性を、容易に求めることができるため、制振構造体2を効率よく設計することができる。
【0109】
図17(a)、(b)は、本発明の他の実施形態の制振構造体2を示す模式図である。本実施形態の設計方法では、例えば、
図17(a)、(b)に示されるような制振構造体2に対しても、適用することができる。
【0110】
図17(a)に示される制振構造体2は、前実施形態と同様に、2つの柱6a、6a間の架構面7に、2つのエネルギー吸収体8c、8dが配置されている。この制振構造体2では、上側のエネルギー吸収体8cと柱6aとの交点から上側の梁4aまでの距離L2a、及び、下側のエネルギー吸収体8dと柱6aとの交点から下側の梁4bまでの距離L2bが、それぞれ異なっている。
【0111】
図17(b)に示される制振構造体2は、柱6aと上側の梁4aとの間の架構面7に筋違状に配置される上側のエネルギー吸収体8cと、柱6aと下側の梁4bとの間の架構面7に、筋違状に配置される下側のエネルギー吸収体8dとを含んでいる。この制振構造体2では、上側のエネルギー吸収体8cと柱6aとの交点から上側の梁4aまでの垂直方向の距離L2a、及び、下側のエネルギー吸収体8dと柱6aとの交点から下側の梁4bまでの垂直方向の距離L2bが、それぞれ異なっている。
【0112】
図17(a)、(b)に示される制振構造体2では、上側のエネルギー吸収体8c及び下側のエネルギー吸収体8dが、力学的に非対称性を有して、架構面7に配置されている。このような制振構造体2の場合には、例えば、上側のエネルギー吸収体8cを第1要素バネ24a(
図5に示す)とし、下側のエネルギー吸収体8dを第2要素バネ24b(
図5に示す)とする水平バネ系モデル23を定義して、制振構造体2の性能が評価されるのが望ましい。これにより、本発明の設計方法では、力学的に非対称性を有して配された一対のエネルギー吸収体8c、8dが設けられた制振構造体2の挙動を、正確に評価することができるため、制振構造体を効率よく設計することができる。
【0113】
図18(a)、(b)は、本発明のさらに他の実施形態の制振構造体を示す模式図である。
図18(a)に示される制振構造体2は、2つの梁4a、4b間の架構面7に、2つのエネルギー吸収体8c、8dが配置されている。この制振構造体2では、一方側のエネルギー吸収体8cと梁4a、4bとの各交点から一方側の柱6aまでの距離L2a、及び、他方側のエネルギー吸収体8dと梁4a、4bとの各交点から他方側の柱6aまでの距離L2bが、それぞれ異なっている。
【0114】
図18(b)に示される制振構造体2は、柱6aと上側の梁4aとの間の架構面7に方杖状に配置される2つのエネルギー吸収体8c、8dを含んでいる。この制振構造体2では、一方側のエネルギー吸収体8cと柱6aとの交点から上側の梁4aまでの距離L2a、及び、他方側のエネルギー吸収体8dと柱6aとの交点から上側の梁4aまでの距離L2bが同一に設定されている。しかしながら、一方側のエネルギー吸収体8cと上側の梁4aとの交点から一方側の柱6aまでの距離L2c、及び、他方側のエネルギー吸収体8dと上側の梁4aとの交点から他方側の柱6aまでの距離L2dが、それぞれ異なっている。
【0115】
図18(a)、(b)に示される制振構造体2では、一方側のエネルギー吸収体8c及び他方側のエネルギー吸収体8dが、力学的に非対称性を有して、架構面7に配置されている。このような制振構造体2の場合も、例えば、一方側のエネルギー吸収体8cを第1要素バネ24a(
図5に示す)とし、他方側のエネルギー吸収体8dを第2要素バネ24b(
図5に示す)とする水平バネ系モデル23を定義して、制振構造体2の性能が評価されるのが望ましい。
【0116】
図19(a)、(b)は、本発明のさらに他の実施形態の制振構造体を示す模式図である。
図19(a)に示される制振構造体2は、柱6aと上側の梁4aとの間の架構面7に方杖状に配置される2つのエネルギー吸収体8c、8d、及び、2つの柱6a、6a間の架構面7に配置される一つのエネルギー吸収体8eを含んで構成されている。
【0117】
この制振構造体2では、一方側のエネルギー吸収体8cと上側の梁4aとの交点から柱6aまでの水平方向の距離L2a、及び、他方側のエネルギー吸収体8dと上側の梁4aとの交点から柱6aまでの水平方向の距離L2bが同一に設定されている。さらに、一方側のエネルギー吸収体8cと柱6aとの交点から上側の梁4aまでの垂直方向の距離L2c、及び、他方側のエネルギー吸収体8dと柱6aとの交点から上側の梁4aまでの垂直方向の距離L2dが同一に設定されている。このため、一方側のエネルギー吸収体8c及び他方側のエネルギー吸収体8dは、力学的に対称性を有して架構面7に配置されている。
【0118】
従って、
図19(a)に示される制振構造体2では、2つのエネルギー吸収体8c、8dと、下側のエネルギー吸収体8eとが、力学的に非対称性を有して、架構面7に配置されている。このような制振構造体2の場合は、例えば、一方側のエネルギー吸収体8c及び他方側のエネルギー吸収体8dを第1要素バネ24a(
図5に示す)とし、下側のエネルギー吸収体8dを第2要素バネ24b(
図5に示す)とする水平バネ系モデル23を定義して、制振構造体2の性能が評価されるのが望ましい。
【0119】
図19(b)に示される制振構造体2は、柱6a、6aと上側の梁4aとの間の架構面7に方杖状に配置される上側のエネルギー吸収体8c、8d、及び、柱6a、6aと下側の梁4bとの間の架構面7に方杖状に配置される下側のエネルギー吸収体8f、8gを含んで構成されている。
【0120】
この制振構造体2では、上側のエネルギー吸収体8c、8dと上側の梁4aとの交点から柱6aまでの水平方向の各距離L2a、及び、下側のエネルギー吸収体8f、8gと下側の梁4bとの交点から柱6aまでの水平方向の各距離L2bが同一に設定されている。しかしながら、上側のエネルギー吸収体8c、8dと柱6aとの交点から上側の梁4aまでの垂直方向の各距離L2c、及び、下側のエネルギー吸収体8f、8gと柱6aとの交点から下側の梁4bまでの垂直方向の各距離L2dが、それぞれ異なっている。
【0121】
従って、
図19(b)に示される制振構造体2では、上側のエネルギー吸収体8c、8dと、下側のエネルギー吸収体8f、8gとが、力学的に非対称性を有して、架構面7に配置されている。このような制振構造体2の場合は、例えば、上側のエネルギー吸収体8c、8dを第1要素バネ24a(
図5に示す)とし、下側のエネルギー吸収体8f、8gを第2要素バネ24b(
図5に示す)とする水平バネ系モデル23を定義して、制振構造体2の性能が評価されるのが望ましい。
【0122】
このように、本発明の設計方法では、力学的に非対称性を有して骨組6、6間に配されたエネルギー吸収体8を含む様々な制振構造体2の挙動を、正確に評価することができるため、制振構造体2を効率よく設計することができる。
【0123】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0124】
図3、
図6、
図7、
図12及び
図14に示した処理手順に従い、
図1に示した制振構造体に基づいて、
図5に示した水平バネ系モデルを設定し、制振構造体の性能が評価された(実施例)。また、
図1に示した制振構造体を実際に製造し、制振構造体の性能が評価された(実験例)。
【0125】
実施例及び実験例では、制振構造体への水平荷重、制振構造体の水平変形量、第1エネルギー吸収体のせん断変形量、及び、第2エネルギー吸収体のせん断変形量がそれぞれ計算又は測定された。なお、第1エネルギー吸収体及び第2エネルギー吸収体は、同一のものが採用されている。また、
図20は、実施例及び実験例での各エネルギー吸収体へのせん断荷重と、各エネルギー吸収体のせん断変形量との関係を示すグラフである。このグラフに示されるように、実施例の第1エネルギー吸収体の剛性S
dU、及び、第2エネルギー吸収体の剛性S
dLは、実験例の第1エネルギー吸収体及び第2エネルギー吸収体のせん断剛性に一致するように設定されている。
【0126】
図21は、実施例及び実験例での制振構造体への水平荷重と、制振構造体の水平変形量との関係を示すグラフである。
図22は、実施例及び実験例での第1エネルギー吸収体のせん断変形量と、第2エネルギー吸収体のせん断変形量との関係を示すグラフである。また、共通仕様、及び、各要素バネの剛性の計算結果は、次のとおりである。
制振構造体(耐力壁):
高さ:2750mm、幅:450mm
柱(断面角パイプ状の鉄骨柱):
幅:80mm、奥行:80mm、厚さ:3.2mm
突板部の厚さ:6.0mm
梁:
高さ:200mm、幅:100mm、ウエブ厚さ:3.2mm
フランジ厚さ:4.5mm
第1エネルギー吸収体、第2エネルギー吸収体(ハット形鋼):
山幅:200mm、山高:35mm、せん断方向長さ:950mm、
厚さ:2.3mm、突板部との接合間隔(水平方向):240mm
第1状態:
水平荷重F
N:10000N、水平変形量U
N:99.382mm
水平剛性K
N:100.622kN/m
α
NU:0.167、α
NL:0.159
第2状態:
水平荷重F
R:10000N、水平変形量U
R:5.161mm
水平剛性K
R:1937.464kN/m
第2自由度の水平剛性K
R:1836.843kN/m
第3状態:
水平荷重F
RU:10000N、水平変形量U
RU:10.587mm
水平剛性K
RU:944.526kN/m
第2自由度の水平剛性K
RU:843.904kN/m
第4状態:
水平荷重F
RL:10000N、水平変形量U
RL:10.564mm
水平剛性K
RL:642.524kN/m
第2自由度の水平剛性K
RL:541.902kN/m
係数:
a:−451.036
b:−914626.932
c:840012946.245
水平バネ系モデル:
第1要素バネの剛性K
dU:最大1338kN/m〜最小52kN/m(マルチリニア)
第2要素バネの剛性K
dL:最大1218kN/m〜最小47kN/m(マルチリニア)
第3要素バネの剛性K
fs:101kN/m、69kN/m(バイリニア)
第4要素バネの剛性K
A:644kN/m
第5要素バネの剛性K
B:452kN/m
第6要素バネの剛性K
C:−2714kN/m
【0127】
テストの結果、
図21に示されるように、実施例及び実験例は、制振構造体への水平荷重と、制振構造体の水平変形量との関係が広範囲で一致することが確認できた。さらに、実施例では、上記非特許文献1とは異なり、第1エネルギー吸収体のせん断変形量、及び、第2エネルギー吸収体のせん断変形量を独立して求めることができるため、第1エネルギー吸収体及び第2エネルギー吸収体の挙動を評価することができた。
【0128】
しかも、
図22に示されるように、実施例及び実験例は、第1エネルギー吸収体のせん断変形量と、第2エネルギー吸収体のせん断変形量との関係も一致することが確認できた。従って、本発明の設計方法では、力学的に非対称性を有して配された第1エネルギー吸収体及び第2エネルギー吸収体が設けられた制振構造体の挙動を、正確に評価することができるため、制振構造体を効率よく設計できることが確認できた。