(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記III族元素の組成比((In元素の元素数)/(In元素を除くIII族元素の元素数))が0.8以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体多元混晶の製造方法。
前記III族元素が前記Al元素および前記In元素であり、V族元素がN元素である窒化物半導体3元混晶を結晶成長させることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の窒化物半導体多元混晶の製造方法。
前記III族元素を供給する原料ガスとV族元素を供給する原料ガスとが混合されてから前記GaN結晶に到達するまでの時間が0.05秒以下であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の窒化物半導体多元混晶の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、AlInN結晶のIn元素の蒸発を防止するために成長温度を低くすることで成長速度が遅くなると、成膜するのに多大な時間が必要であり製造コストが増大するなどの問題がある。一方、成長温度が低い状態で成長速度を速くするとAl元素の成長表面におけるマイグレーションが不十分となり結晶性が悪化するといった問題が発生する。また、成長温度を高くして成長速度を速くするとIn元素の結晶への取り込みが不十分となり、その結果格子不整合が大きくなって結晶性が悪化するといった問題が発生する。何れにしても、成長速度と結晶性との両立に課題があり、速い成長速度でありながら成膜された結晶の結晶性を良好に確保することが要請されていた。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、Al元素とIn元素とを含む窒化物半導体多元混晶の結晶成長において、成長速度を確保しながら成膜された結晶の結晶性を良好なものとすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示される技術に係る窒化物半導体多元混晶の製造方法は、少なくともAl元素およびIn元素をIII族元素として含む窒化物半導体多元混晶をGaN結晶上に気相成長により結晶成長させる製造方法であって、成長温度が800℃以上であり、III族元素を供給する原料ガス中のIII族元素の組成比((In元素の元素数)/(In元素を除くIII族元素の元素数))が1以下であり、窒化物半導体多元混晶中に結晶として取り込まれるIII族元素のうちIn元素のモル分率が10%以上20%未満であることを特徴とする。
【0009】
更に、III族元素の組成比((In元素の元素数)/(In元素を除くIII族元素の元素数))が0.8以下であることが好ましい。また、In元素のモル分率が10%以上18%以下であることが好ましい。
【0010】
また、成長温度(T)、およびIII族元素の組成比((In元素の元素数)/(In元素を除くIII族元素の元素数))(X)の関係が、T≧75・X+770の関係にあることを特徴とする。
【0011】
また、III族元素がAl元素およびIn元素であり、V族元素がN元素である窒化物半導体3元混晶を結晶成長させる製造方法であることが好ましい。
【0012】
また、III族元素を供給する原料ガスとV族元素を供給する原料ガスとが混合されてからGaN結晶に到達するまでの時間が0.05秒以下であることが好ましく、この時間は、0.02秒以下であることが更に好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本願に開示される技術に係る窒化物半導体多元混晶の製造方法によれば、MOCVD(有機金属気相成長)法などの気相成長法によりGaN結晶上に窒化物半導体多元混晶を結晶成長させる場合に、次の3つの条件を結晶成長の条件とする。すなわち、第1の条件は、成長温度が800℃以上であることである。第2の条件は、原料ガス中に含まれるIII族元素の組成比((In元素の元素数)/(In元素を除くIII族元素の元素数))が1以下であることである。そして第3の条件は、窒化物半導体多元混晶中に結晶として取り込まれるIII族元素のうちIn元素のモル分率が10%以上20%未満になるような成長温度とIn/Al比の組み合わせを選択することである。これらの3つの条件で結晶成長させることにより、結晶の成長速度に関わらず、少なくともAl元素およびIn元素を含む窒化物半導体多元混晶をGaN結晶上に良好な結晶性を有して結晶成長させることができる。結晶成長の成長速度を確保して製造コストを抑制しながら良好な結晶性を有する混晶を成長させることができる。
【0014】
この場合、原料ガス中に含まれるIn元素の割合を必要以上に高めることなく良好な結晶を得ることもできる。
【0015】
また、得られる結晶は、III族元素としてAl元素およびIn元素を含み、V族元素としてN元素を含むAlInN窒化物半導体3元混晶を得ることができる。また、Al元素およびIn元素以外のIII族元素も含む4元以上の多元混晶を得ることもできる。
【0016】
また、結晶成長する際に供給する原料ガスの混合からGaN結晶への到達までの時間を0.05秒以下とすることで、結晶性を良好に保ったまま結晶成長の速度を速めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1実施形態では、AlInNの単結晶層を積層する場合について説明する。
図1には断面構造を示す。GaN結晶基板100、不純物をドーピングしないアンドープのGaN下地結晶層101、およびAlInN結晶層102とをこの順に積層した構成を備えている。GaN結晶基板100は、サファイア基板上に低温堆積バッファ層を介してGaN結晶層を成膜した基板である。また、GaN結晶基板100上への各窒化物半導体層の成膜には有機金属気相成長(以下、MOCVDと略記する)法を用いた。
【0019】
成膜の工程について説明する。まず、表面をGa面としたGaN結晶基板100を、MOCVD装置の反応炉内にセットする。その後、反応炉内に水素とアンモニアとを流しながら昇温することで、GaN結晶基板100の表面を清浄化するサーマルクリーニングを行う。次に、基板温度を、例えば1050℃などといった高温に昇温した上で、キャリアガスである水素と共に、原料ガスであるTMGa(トリメチルガリウム)およびアンモニアを反応炉内に供給する。これにより、GaN結晶基板100上に+c軸に配向した高品質なアンドープGaN下地結晶層101を、例えば約500nm成長させる。
【0020】
次に、基板温度を降温し、キャリアガスを窒素に切り替えると共に、原料ガスであるTMAl(トリメチルアルミニウム)、TMIn(トリメチルインジウム)、およびアンモニアを反応炉内に供給する。これにより、アンドープGaN下地結晶層101上にAlInN結晶層102を、例えば約80nm成長させる。
【0021】
この時、成長温度として785、800、815、830℃、およびIn/Al組成比として0.4、0.6、0.8の条件を1条件ずつ選択して組み合わせた各々の成長条件でサンプルを作製し、成膜されたAlInN結晶層102の結晶性について比較を行った(後述する
図3〜
図6を参照)。成長温度とは、結晶成長が行われる際の基板温度であり、In/Al組成比とは、原料ガス中に含まれるAl元素の元素数に対するIn元素の元素数((In元素の元素数)/(Al元素の元素数))である。
【0022】
ここで、成長速度は、AlInN結晶層102の結晶成長に係る一般的な成長速度に対して高い速度となる条件を選択する。具体的にはTMAlの供給量を増やすことで高い成長速度が実現する。成長速度を高く設定した上で上記の成長条件を様々に比較検討することにより、高い成長速度においてもAlInN結晶層102の結晶性を良好なものとする成長条件を特定する。さらに、高い成長速度を確保する条件として、各原料ガスが混合された後、GaN結晶基板100上に積層されたGaN下地結晶層101に到達するまでの時間(以下、原料到達時間と称する)を制御する方法も採用した。具体的には、後述する表1、
図2より、0.02秒の短時間とすることで寄生反応が抑制されて高い成長速度を実現することができる。
【0023】
表1には、原料ガスの供給ノズルからGaN結晶基板100までの距離、結晶成長時の雰囲気圧力(反応炉内の成長圧力)、およびガス流速(反応炉内に供給される原料ガスの大気圧時の流速)の3条件をパラメータとして算出される原料到達時間を示す。表1に示すように、各々のパラメータは、GaN結晶基板100までの距離が6cm(サンプル1〜3)、および10.5cm(サンプル4)の2条件であり、成長圧力が100mbar(サンプル1)、200mbar(サンプル2)、400mbar(サンプル3)、および150mbar(サンプル4)の4条件であり、ガス流速が34cm/秒(サンプル1〜3)、および12cm/秒(サンプル4)の2条件である。これらのパラメータから得られる原料到達時間は数1により算出される。
【0026】
上記の3つのパラメータの各条件で算出した原料到達時間に対する成長速度の関係を
図2に示す。原料到達時間を0.05秒以下としたサンプル1、2については原料供給効率が上昇し、成長速度が250nm/h以上と速い成長速度が実現できていることが示されている(白塗のマーカー)。原料到達時間を0.02秒以下としたサンプル2については、更に原料供給効率が上昇し、成長速度が300nm/hとなっている。第1実施形態では、原料到達時間を0.02秒とし、この高い成長速度(300nm/h)が得られる条件からさらにTMAl供給量を1.5倍にして成長速度を500nm/hとした上で、その他の成長条件(成長温度、およびIn/Al組成比)をパラメータとしてサンプルを作製して、成膜されたAlInN結晶層102の結晶性の良否を評価する。
【0027】
作製した各サンプルのAlInN結晶層の表面平坦性を評価する為に、各サンプルのAlInN結晶層102の原子間力顕微鏡による表面像(表面AFM像:10×10μm
2の領域)を取得し、その表面粗さの二乗平均平方根(RMS)値を測定した。また、X線回折曲線からAlInN結晶層102におけるIn元素のモル分率を確認した。
図3は各サンプルの成長条件(成長温度、In/Al組成比)と、RMS値および算出したIn元素のモル分率の関係をまとめたものである。RMS値は(○(良好)、△(中間)、×(悪化))の三段階に分類して示している。ここで、RMS値が0.5nm以下である場合は○(良好)、0.5nmより大きく1.0nm以下である場合は△(中間)、1.0nmより大きい値である場合は×(悪化)として表示した。各成長条件での百分率の数値はAlInN結晶層102におけるIn元素のモル分率を示し、10%以上20%未満の範囲の数値については四角の枠で囲んで表記している。
図3に示すサンプルの評価結果から類推すれば、成長温度が800℃より低い場合、あるいはIn/Al組成比が1より大きな場合で、RMS値が大きく(評価:×(悪化))表面平坦性が悪い結晶になることがわかる。したがって、RMS値が0.5nm以下(評価:○(良好))の極めて平坦な表面が得られる条件は、成長温度が800℃以上、かつIn/Al組成比が1以下の成長条件であることが分かる。この場合のAlInN結晶層102におけるIn元素のモル分率は10%以上20%未満である。この成長条件で成長させたサンプルの表面AFM像では、明瞭な原子層ステップが確認されることから二次元的な層成長が実現され、それに伴って高い表面平坦性が実現されていると考えられる。AlInN結晶層102がInNモル分率18%前後でGaN結晶層と略格子整合することから、InNモル分率が18%を中心としてそれより少なくなっても多くなっても格子不整合度は増大し、結晶性の劣化が次第に進むと予想されたが、実際にはInNモル分率が多い領域でのみ、急激な表面平坦性の悪化が見出された。これは、過剰なIn元素を供給すると、成長表面に滞在する実質的なIn元素の濃度が高くなり、それが表面平坦性の悪化を引き起こしていると考えられる。
【0028】
次に、作製したAlInN結晶層102の結晶性をX線回折測定により行った。
図4〜
図6に、各々の成長条件で成膜した各サンプルのX線回折曲線を示す。各X線回折曲線の横軸は回転角度(2θ/ω)であり、縦軸はX線回折強度である。全てのサンプルにおいて、下地のアンドープGaN下地結晶層101の(0002)回折に起因する強いピーク(各曲線において下向きの矢印にて図示するピーク)が観測されるとともに、その高角度側に、AlInN結晶層102の(0002)回折に起因するピーク(各曲線において横向きの矢印にて図示する領域のピーク)が観測される。表面平坦性と結晶性が良好な場合には、AlInN結晶層102に起因するピーク(回折ピーク)の周辺に干渉フリンジが併せて観測される。
図4〜
図6において、明瞭なフリンジが観測されるサンプル(白丸にて図示)は、成長温度が800℃以上、かつIn/Al組成比が1以下の場合であり、
図3に示すRMS値の結果を裏付ける結果が得られる。
以上より、本発明の製造方法に従えば、成長速度が従来の3倍近い500nm/hで高品質AlInN単結晶薄膜の成長が可能になる。
【0029】
第2実施形態では、窒化物半導体多層膜反射鏡について例示する。
図7に断面構造を示す。サンプルはGaN結晶基板100、アンドープGaN下地結晶層103、および窒化物半導体多層膜反射鏡層104とを備えている。さらに、窒化物半導体多層膜反射鏡層104はAlInN結晶層202とGaN結晶層201とを交互に積層した構造を備えている。基板には第1実施形態のAlInN結晶層102の結晶成長の場合と同様のGaN結晶基板100を用いた。また、GaN結晶基板100上への各窒化物半導体層の成膜にはMOCVD法を用いた。
【0030】
成膜工程について説明する。まず、表面をGa面としたGaN結晶基板100を、MOCVD装置の反応炉内にセットした(窒化物半導体層を積層させたGaN結晶基板100を以下ではウエハと称する)。その後、反応炉内に水素とアンモニアとを流しながら昇温することで、GaN結晶基板100表面のサーマルクリーニングを行った。次に、基板温度を1050℃に変化させ、キャリアガスである水素と共に原料ガスであるTMGaとアンモニアとを流すことで、GaN結晶基板100上に高品質なアンドープGaN下地結晶層103を約500nm成長させた。
【0031】
次に、アンドープGaN下地結晶層103上に、約410nmを反射中心波長とする窒化物半導体多層膜反射鏡層104を形成する。まず、基板温度すなわち成長温度を815℃とし、キャリアガスである窒素と共に、原料ガスであるアンモニア、TMAl、およびTMInを反応炉内に供給する。この時のIn/Al組成比は0.6である。これにより、アンドープGaN下地結晶層103上にAlInN結晶層202を形成した。この時、原料到達時間は0.02秒とし、AlInN結晶層202の成長速度は約500nm/hとした。また、AlInN結晶層202におけるIn元素のモル分率は18%である。このAlInN結晶層202を約50nm成長した。すなわち、反射中心波長410nmに対する1/4波長光学膜厚の成長を行った。次に、基板温度を815℃に維持したまま、TMGaを反応炉内に供給することで、AlInN結晶層102上にGaN結晶層201を約10nm形成した。この後、TMGaの供給を一旦中止し結晶成長を中断する。その後、基板温度を1050℃まで昇温し、再度TMGaを供給してGaN結晶層を約30nm成長させた。このときのGaN結晶層の成長速度は1.2μm/hであった。これにより、反射中心波長410nmに対する1/4波長光学膜厚を有するGaN結晶層201が形成される。このAlInN結晶層202とGaN結晶層201とを交互に40.5ペア積層させて、窒化物半導体多層膜反射鏡層104をアンドープGaN下地結晶層103上に形成する。
【0032】
図8に窒化物半導体多層膜反射鏡層104の表面であるGaN結晶層201の表面AFM像(5×5μm
2の領域)を示す。明瞭な原子層ステップが確認され、かつRMS値が0.5nm以下の良好な表面平坦性が得られることが確認される。また、
図9に窒化物半導体多層膜反射鏡層104のX線回折曲線を示す。多層膜周期構造による鋭いサテライトピークが明瞭に観測される。これにより、良好な界面平坦性と高い周期性が実現されていることを確認することができる。
図10に窒化物半導体多層膜反射鏡層104の反射率スペクトルを示す。良好な界面平坦性を反映した反射中心波長410nmを中心とする高い反射率(99%)が実現されていることが確認される。
【0033】
一般的なAlInN結晶層の成長速度は200nm/h以下であり、この場合、窒化物半導体多層膜反射鏡を作製するには約20時間が必要であった。これに対して本発明によれば、500nm/h以上の速い成長速度においてAlInN結晶層202が形成できるため、約10時間で形成できる。さらに、AlInN結晶層の成長速度を700nm/hに増加させ、GaN結晶層の成長速度も従来技術の3μm/hに設定すれば、約5時間で形成可能であり、多層膜反射鏡の作製に必要なコストの観点から極めて高い効果を発揮する。
【0034】
また、このように作製した窒化物半導体多層膜反射鏡の上に、そのまま結晶成長を継続して、発光ダイオード構造や面発光レーザ構造を形成すれば、高効率で高出力な特性を有する発光素子が実現できる。
【0035】
第3実施形態では、窒化物半導体多層膜反射鏡を用いた面発光レーザを例示する。
図11に面発光レーザの断面構造を示す。図に示すように、窒化物半導体多層膜反射鏡層104と誘電体多層膜反射鏡層110との間に後述する七波長共振器の構造を形成する。
【0036】
面発光レーザの成膜工程について説明する。窒化物半導体多層膜反射鏡層104までは第2実施形態の場合と同様であるため説明は省略する。窒化物半導体多層膜反射鏡層104上に約1000nmのn型GaN結晶層105を成長する。n型不純物原料ガスにはSiH
4(シラン)を用いる。n型GaN結晶層105中には、n型不純物であるSi元素を1×10
19cm
−3の濃度でドーピングする。その後、n型GaN結晶層105上に、約3nmのGaInN量子井戸結晶層301と約6nmのGaNバリア結晶層302とを1ペアとして2.5ペア形成する。これをGaInN三重量子井戸活性層106とする。GaInN量子井戸結晶層301におけるIn元素のモル分率を約0.10とすることで405〜410nmの波長で発光する。その後、GaInN三重量子井戸活性層106の上層、すなわち、2.5ペア積層された最上層のGaInN量子井戸結晶層301上に、図示しないアンドープGaNバリア結晶層と、p型AlGaN電子ブロック結晶層と、p型GaN結晶層107とを、それぞれ約10nm、約20nm、約90nm成長する。p型不純物原料ガスにはCP
2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用いる。p型GaN結晶層107中には、p型不純物であるMg元素を2×10
19cm
−3の濃度でドーピングする。最後に、p型GaN結晶層107上に、p型GaNコンタクト結晶層108を約10nm成長する。p型GaNコンタクト結晶層108中には、p型不純物であるMg元素を2×10
20cm
−3の濃度でドーピングする。これにより、膜厚が約1.2μmの七波長共振器構造が窒化物半導体多層膜反射鏡層104上に形成される。
【0037】
次に、電流注入を行う為のp側、n側電極を以下に示すように形成する。まず、周知のフォトリソグラフィ及びドライエッチングプロセスにより、ウエハに50μm径のメサを形成する(不図示)。この時、メサ以外の部分は、n型GaN結晶層105の表面が露出するまでドライエッチングを行う。続いて、ウエハの全面に、蒸着又はスパッタリングにより、SiO
2膜109を約20nm堆積する。その際、リフトオフにより、メサの中央部においてSiO
2膜109を開口し10μm径の開口部を形成する。また、メサの外周部においてSiO
2膜109を開口し図示しないリング状の開口部を形成する。これにより、10μm径の開口部からはp型GaNコンタクト結晶層108が露出し、リング状開口部からはn型GaN結晶層105が露出する。次に、開口部において露出しているp型GaNコンタクト結晶層108上に、電流狭窄を兼ねるp側コンタクト電極として、ITO透明電極tCを約20nm成長する。更に、ITO透明電極tCの外周部に接触して、ワイヤボンディングの為のパッド部を有するTi/Al/Ti/Au電極を形成する。これにより、p側電極を形成する。一方、リング状の開口部より露出しているn型GaN結晶層105上に、n側電極としてTi/Al/Ti/Au電極を形成する。このp側、n側電極を形成することで、七波長共振器に対して電流注入が可能となる。
【0038】
最後に、ITO透明電極tC上に、約410nmを反射中心波長とする8ペアのSiO
2層401/ZrO
2層402の誘電体多層膜反射鏡層110を積層する。以上により、405乃至410nmの波長で発光する青紫色窒化物半導体面発光レーザが作製される。
【0039】
ここで、AlInN結晶は、窒化物半導体多元混晶および窒化物半導体3元混晶の一例である。アンドープGaN下地結晶層はGaN結晶の一例である。TMAl(トリメチルアルミニウム)、TMIn(トリメチルインジウム)、およびTMGa(トリメチルガリウム)はIII族元素を供給する原料ガスの一例であり、アンモニアはV族元素を供給する原料ガスの一例である。
【0040】
以上詳細に説明したように、本実施形態の成長条件によれば、MOCVD法により、GaN結晶基板100に積層されたアンドープGaN下地結晶層101、103上にAlInNの単結晶層102、202を成膜する際に、速い成長速度を維持しながら良好な結晶性を有するAlInNの単結晶層102、202を得ることができる。すなわち、原料到達時間を0.02秒として成長速度が500nm/h以上の高い成長速度を維持した上で、成長温度を800℃以上、In/Al組成比を1以下、そして、InNモル分率が10%以上20%未満となるような成長条件とすることにより、AlInNの単結晶層102、202を結晶性良く成膜することができる。高い成長速度により成膜時間を短縮しながら、良好な結晶性を有するAlInN結晶層102、202を低廉な製造コストで得ることができる。
【0041】
また、AlInN結晶層102、202におけるIn元素のモル分率が10%以上20%未満の範囲で、アンドープGaN下地結晶層101、103の上に成膜されるAlInN結晶層102、202は良好な表面平坦性が得られ良好な結晶性を有する結晶膜を製膜することができる。AlInN結晶層102、202は、GaN結晶層と略格子整合する18%からInNモル分率が高い場合には、成長表面に滞在する実質的なIn元素の濃度が高くなり表面平坦性の悪化を引き起こしていると考えられる。これに対して、Inモル分率が18%より低い場合には、成長表面でのIn元素の濃度が制限されることで表面平坦性が確保されているものと考えられる。
【0042】
また、第2実施形態の窒化物半導体多層膜反射鏡を作製する場合に、第1実施形態において見出した成長条件で結晶成長することにより、成膜時間を短縮しながら良好な結晶性を有するAlInN結晶層202を結晶成長することができる。高い成長速度でありながら良好な結晶性を有するAlInN結晶層202を成膜することができる。短時間の成膜時間で良好な結晶性による高い反射率を有する窒化物半導体多層膜反射鏡を低廉に作製することができる。
【0043】
窒化物半導体多層膜反射鏡の結晶成長を第1実施形態において見出した成長条件とすることにより、成膜時間を短縮しながら良好な結晶性を有するAlInN結晶層202を結晶成長することができる。短時間の成膜時間で良好な結晶性による高い発光効率を有する青紫色面発光レーザを低廉に作製することができる。
【0044】
また、第3実施形態の青紫色面発光レーザの作製する場合に、AlInN結晶層202/GaN結晶層201を40ペア積層することで作製される窒化物半導体多層膜反射鏡層104を、第1実施形態において見出した成長条件とすることにより、短時間で形成することができる。これにより、製造工数やコストを削減することが可能となる。更に、良好な界面平坦性および高い周期性を有して成膜することができる。速い成長速度でありながら良好な結晶性を有するAlInN結晶層202を成膜することができる。これにより、デバイスの性能を劣化させることなく、高効率高出力の青紫色面発光レーザを低廉に作製することができる。
【0045】
尚、本願に開示される技術は前記実施形態に限定されるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲内での種々の改良、変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、第1実施形態では、GaN結晶基板100として、サファイア基板上に低温堆積バッファ層を介してGaN結晶層を成膜する場合について説明したが、本願はこれに限定されるものではない。GaN結晶の自立基板や、SiC上にGaN結晶層を成膜した基板や、ZnO上にGaN結晶層を成膜した基板、AlN基板等を用いても良い。
また、窒化物半導体多元混晶としてAlInN結晶層102を例示して説明したが、本願はこれに限定されるものではない。Al元素やIn元素以外のIII族元素を含んだ多元混晶でもよく、例えばAlGaInN結晶層、AlInBN結晶層等の4元混晶や、AlGaInBN結晶層等の5元混晶であっても良い。
また、窒化物半導体多元混晶をMOCVD法により成膜する場合について説明したが、本願はこれに限定されるものではない。例えば、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MBE(分子線エピタキシー)法、スパッタリング法等で成膜しても良い。
また、窒化物半導体多元混晶の応用として、第3実施形態において青紫色面発光レーザを例示して説明したが、本願はこれに限定されるものではない。例えば、他の発光デバイスやGaN/AlInNヘテロ接合構造を用いたHEMT(高電子移動度トランジスタ)などのその他の電子デバイスにも応用することができる。
また、III族の原料ガスとして、TMAlやTMInを使用する場合について説明したが、本願はこれに限定されるものではない。例えば、TEAl(トリエチルアルミニウム)やTEIn(トリエチルインジウム)等を用いても良い。
また、N元素の原料ガスとしてアンモニアを使用して成膜する場合について説明したが、本願はこれに限定されるものではない。窒素ガスやその他の窒素化合物を使用することもできる。
また、GaN結晶としてアンドープのGaN下地結晶層101、103を使用する場合について説明したが、本願はこれに限定されるものではない。例えば、n型不純物やp型不純物がドーピングされていても良い。
また、窒化物半導体多元混晶を+c軸方向に配向させて成膜したが、これに限らず、a軸方向やm軸方向など、他の結晶軸に配向させて成膜しても良い。
また、本願の技術に係るAlInN結晶層以外の結晶層についての成長温度やその他の成長条件、またAlInN結晶層を含む各結晶層の成長膜厚、積層数・積層ペア数等は、本実施形態限定されるものではなく、種々の変更が可能であることは言うまでもない。