特許第6242259号(P6242259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242259
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20171127BHJP
   H01T 13/38 20060101ALI20171127BHJP
   H01T 13/34 20060101ALI20171127BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   H01T13/20 B
   H01T13/38
   H01T13/34
   C04B35/111
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-59353(P2014-59353)
(22)【出願日】2014年3月22日
(65)【公開番号】特開2015-185286(P2015-185286A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】特許業務法人鳳国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】笠原 大輔
【審査官】 関 信之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−127286(JP,A)
【文献】 特開2002−246145(JP,A)
【文献】 実開平02−016594(JP,U)
【文献】 特開平02−152186(JP,A)
【文献】 米国特許第02189435(US,A)
【文献】 特開昭63−190753(JP,A)
【文献】 特許第3813708(JP,B2)
【文献】 特開2010−073684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
C04B 35/111
H01T 13/34
H01T 13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる第1の孔を有する第1部分と、前記第1の孔より大きな内径を有する第2の孔を有し、前記第1部分より後端側に配置された第2部分と、前記第1部分と前記第2の部分との間に形成された棚部と、を備える第1の絶縁部材と、
前記軸線方向に延びる貫通孔を有し前記第1の孔に配置された筒状部を備える第2の絶縁部材と、
前記筒状部の前記貫通孔に配置される棒状部を備える中心電極と、
を備えるスパークプラグであって、
前記第2の絶縁部材は、前記筒状部の後端側に配置され、前記筒状部より大きな外径を有する大径部を備え、
前記大径部は、前記第1の絶縁部材の前記棚部に直接または間接に支持され
前記第1の絶縁部材と前記第2の絶縁部材とのそれぞれはAlを含み、
前記第1の絶縁部材に含まれるAlの重量比率と、前記第2の絶縁部材に含まれるAlの重量比率とは、異なることを特徴とする、スパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグであって、
記第2の絶縁部材に含まれるAlの重量比率は、前記第1の絶縁部材に含まれるAlの重量比率より大きいことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項3】
軸線方向に延びる第1の孔を有する第1部分と、前記第1の孔より大きな内径を有する第2の孔を有し、前記第1部分より後端側に配置された第2部分と、前記第1部分と前記第2の部分との間に形成された棚部と、を備える第1の絶縁部材と、
前記軸線方向に延びる貫通孔を有し前記第1の孔に配置された筒状部を備える第2の絶縁部材と、
前記筒状部の前記貫通孔に配置される棒状部を備える中心電極と、
を備えるスパークプラグであって、
前記第2の絶縁部材は、前記筒状部の後端側に配置され、前記筒状部より大きな外径を有する大径部を備え、
前記大径部は、前記第1の絶縁部材の前記棚部に直接または間接に支持され
前記第1の絶縁部材は、Alを主成分とするセラミックスであり、
前記第2の絶縁部材は、AlN、ZrO、SiC、TiO、Yのうちのいずれかを主成分とするセラミックスであることを特徴とする、スパークプラグ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記中心電極は、前記筒状部より後端側に配置され、前記筒状部より大きな外径を有する頭部を備え、
前記第2の絶縁部材の前記大径部は、前記第1の絶縁部材の前記棚部と、前記中心電極の前記頭部と、によって挟まれていることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項5】
請求項に記載のスパークプラグであって、さらに、
前記第2の孔において、前記頭部と前記第2部分との間をシールするシール部材と、
を備える、スパークプラグ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記第2の絶縁部材の先端は、前記第1の絶縁部材の先端より先端側に位置し、
前記中心電極の先端は、前記第2の絶縁部材の先端より後端側に位置することを特徴とするスパークプラグ。
【請求項7】
請求項6に記載のスパークプラグであって、
前記第2の絶縁部材は、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgOのうちの少なくとも1個の特定化合物を含み、
前記第2の絶縁部材に含まれる前記特定化合物の合計の重量比率は、前記第1の絶縁部材に含まれる前記特定化合物の合計の重量比率より大きいことを特徴とするスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等において着火に用いられるスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
スパークプラグは、絶縁体によって互いに絶縁された中心電極と接地電極とに電圧が印加されることによって、中心電極の先端部と接地電極の先端部との間に形成されたギャップに、火花を発生させる。ここで、2つの電極の間を絶縁する絶縁体を、複数個の絶縁部材を組み合わせて構成する技術が知られている。例えば、特許文献1に記載の技術では、スパークプラグの絶縁体は、熱伝導性に優れた窒化アルミニウムを用いて形成された本体と、高温での耐電圧性に優れたアルミナ(Al)を用いて形成されたパイプ部材と、によって構成されている。このパイプ部材は、本体と、中心電極と、の隙間に配置されて、接着材(セメントとも呼ぶ)によって固定されている。これによって、スパークプラグの耐熱性と耐電圧性とが向上されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−152186号公報
【特許文献2】特開昭55−113290号公報
【特許文献3】特開2002−246145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、複数個の絶縁部材を固定する構造について、十分な工夫がなされているとは言えなかった。このために、スパークプラグの強度を十分に確保することができない可能性があった。
【0005】
本発明の目的は、2つの電極の間を絶縁する絶縁体として、複数個の絶縁部材を含むスパークプラグの強度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例または形態として実現することが可能である。
[形態1]
軸線方向に延びる第1の孔を有する第1部分と、前記第1の孔より大きな内径を有する第2の孔を有し、前記第1部分より後端側に配置された第2部分と、前記第1部分と前記第2の部分との間に形成された棚部と、を備える第1の絶縁部材と、
前記軸線方向に延びる貫通孔を有し前記第1の孔に配置された筒状部を備える第2の絶縁部材と、
前記筒状部の前記貫通孔に配置される棒状部を備える中心電極と、
を備えるスパークプラグであって、
前記第2の絶縁部材は、前記筒状部の後端側に配置され、前記筒状部より大きな外径を有する大径部を備え、
前記大径部は、前記第1の絶縁部材の前記棚部に直接または間接に支持され、
前記第1の絶縁部材と前記第2の絶縁部材とのそれぞれはAlを含み、
前記第1の絶縁部材に含まれるAlの重量比率と、前記第2の絶縁部材に含まれるAlの重量比率とは、異なることを特徴とする、スパークプラグ。
[形態2]
軸線方向に延びる第1の孔を有する第1部分と、前記第1の孔より大きな内径を有する第2の孔を有し、前記第1部分より後端側に配置された第2部分と、前記第1部分と前記第2の部分との間に形成された棚部と、を備える第1の絶縁部材と、
前記軸線方向に延びる貫通孔を有し前記第1の孔に配置された筒状部を備える第2の絶縁部材と、
前記筒状部の前記貫通孔に配置される棒状部を備える中心電極と、
を備えるスパークプラグであって、
前記第2の絶縁部材は、前記筒状部の後端側に配置され、前記筒状部より大きな外径を有する大径部を備え、
前記大径部は、前記第1の絶縁部材の前記棚部に直接または間接に支持され、
前記第1の絶縁部材は、Alを主成分とするセラミックスであり、
前記第2の絶縁部材は、AlN、ZrO、SiC、TiO、Yのうちのいずれかを主成分とするセラミックスであることを特徴とする、スパークプラグ。

【0007】
[適用例1] 軸線方向に延びる第1の孔を有する第1部分と、前記第1の孔より大きな内径を有する第2の孔を有し、前記第1部分より後端側に配置された第2部分と、前記第1部分と前記第2の部分との間に形成された棚部と、を備える第1の絶縁部材と、
前記軸線方向に延びる貫通孔を有し前記第1の孔に配置された筒状部を備える第2の絶縁部材と、
前記筒状部の前記貫通孔に配置される棒状部を備える中心電極と、
を備えるスパークプラグであって、
前記第2の絶縁部材は、前記筒状部の後端側に配置され、前記筒状部より大きな外径を有する大径部を備え、
前記大径部は、前記第1の絶縁部材の前記棚部に直接または間接に支持されていることを特徴とする、スパークプラグ。
【0008】
上記構成によれば、第2の絶縁部材の大径部は、第1の絶縁部材の棚部に支持されている。この結果、第2の絶縁部材を第1の絶縁部材に対して強固に固定することができる。したがって、スパークプラグの強度を向上することができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載のスパークプラグであって、
前記中心電極は、前記筒状部より後端側に配置され、前記筒状部より大きな外径を有する頭部を備え、
前記第2の絶縁部材の前記大径部は、前記第1の絶縁部材の前記棚部と、前記中心電極の前記頭部と、によって挟まれていることを特徴とするスパークプラグ。
【0010】
上記構成によれば、第2の絶縁部材の大径部は、第1の絶縁部材の棚部と、中心電極の頭部と、によって挟まれている。この結果、第2の絶縁部材を第1の絶縁部材に対してより強固に固定することができる。したがって、スパークプラグの強度をより向上することができる。
【0011】
[適用例3]適用例2に記載のスパークプラグであって、さらに、
前記第2の孔において、前記頭部と前記第2部分との間をシールするシール部材と、
を備える、スパークプラグ。
【0012】
上記構成によれば、前記頭部と前記第2部分との間をシールするシール部材によって、第2の絶縁部材を第1の絶縁部材に対してさらに強固に固定することができる。したがって、スパークプラグの強度をさらに向上することができる。
【0013】
[適用例4]適用例1から3のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記第1の絶縁部材と前記第2の絶縁部材とのそれぞれはAlを含み、
前記第1の絶縁部材に含まれるAlの重量比率と、前記第2の絶縁部材に含まれるAlの重量比率とは、異なることを特徴とするスパークプラグ。
【0014】
Al(アルミナ)の重量比率が低いほど成形性に優れるが、耐電圧性が劣る傾向にある。上記構成によれば、Alの重量比率が互いに異なる第1の絶縁部材と第2の絶縁部材を用いることで、スパークプラグの成形性と、耐電圧性と、を両立し得る。
【0015】
[適用例5]適用例1から4のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記第1の絶縁部材と前記第2の絶縁部材とのそれぞれはAlを含み、
前記第2の絶縁部材に含まれるAlの重量比率は、前記第1の絶縁部材に含まれるAlの重量比率以上であることを特徴とするスパークプラグ。
【0016】
上記構成によれば、中心電極により近いために第1の絶縁部材より高い耐電圧性が要求される第2の絶縁部材の耐電圧性を確保することができるとともに、第1の絶縁部材の成形性を確保できる。この結果、スパークプラグの作製の容易性と、耐電圧性と、をより効果的に両立することができる。
【0017】
[適用例6]適用例1から5のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記第2の絶縁部材の先端は、前記第1の絶縁部材の先端より先端側に位置し、
前記中心電極の先端は、前記第2の絶縁部材の先端より後端側に位置することを特徴とするスパークプラグ。
【0018】
一般的に、チャンネリングと呼ばれる火花による消耗に対する耐性(耐火花消耗性)が高い材料は、耐電圧性が悪い。上記構成によれば、中心電極の先端は、第2の絶縁部材の先端より後端側に位置している。このために、第2の絶縁部材には、中心電極の先端で発生する火花による消耗が発生しやく、第1の絶縁部材には、第2の絶縁部材より火花による消耗が発生し難い。上記構成によれば、高い耐火花消耗性が要求される第2の絶縁部材と、高い耐火花消耗性が要求されない第1の絶縁部材が、異なる部材で構成されているので、スパークプラグの耐火花消耗性と耐電圧性とを両立し得る。
【0019】
[適用例7]適用例6に記載のスパークプラグであって、
前記第2の絶縁部材は、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgOのうちの少なくとも1個の特定化合物を含み、
前記第2の絶縁部材に含まれる前記特定化合物の合計の重量比率は、前記第1の絶縁部材に含まれる前記特定化合物の合計の重量比率より大きいことを特徴とするスパークプラグ。
【0020】
La、SiO、TiO、Y、CaO、MgOの重量比率が高い材料ほど、表面抵抗が低下して耐火花消耗性が高くなる。上記構成によれば、第2の絶縁部材の耐火花消耗性を第1の絶縁部材より向上することができるので、スパークプラグの耐火花消耗性を向上することができる。
【0021】
[適用例8]適用例1から3、適用例6のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記第1の絶縁部材は、Alを主成分とするセラミックスであり、
前記第2の絶縁部材は、AlN、ZrO、SiC、TiO、Yのうちのいずれかを主成分とするセラミックスであることを特徴とするスパークプラグ。
【0022】
上記構成によれば、Alを主成分とするセラミックスを用いて形成された第1の絶縁部材の特性と、AlN、ZrO、SiC、TiO、Yのうちのいずれかを主成分とするセラミックスを用いて形成された第2の絶縁部材の特性と、によって、性能が適正化された絶縁体を有するスパークプラグを実現することができる。
【0023】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグやスパークプラグを用いた点火装置、そのスパークプラグを搭載する内燃機関や、そのスパークプラグを用いた点火装置を搭載する内燃機関等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態のスパークプラグ100を軸線が含まれる面で切断した断面図である。
図2図1の断面図の中心電極20の近傍を拡大した図である。
図3】比較サンプルA〜Cの断面図である。
図4】比較形態のスパークプラグの端部の構成を示す図。
図5】変形例の内側絶縁碍子の例を示す第1の図である。
図6】変形例の内側絶縁碍子の例を示す第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
A.第1実施形態:
A−1.スパークプラグの構成:
以下、本発明の実施の態様を実施形態に基づいて説明する。図1は、第1実施形態のスパークプラグ100を軸線が含まれる面で切断した断面図である。図1の一点破線は、スパークプラグ100の軸線CO(軸線COとも呼ぶ)を示している。軸線COと平行な方向(図1の上下方向)を軸線方向とも呼ぶ。軸線COを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、軸線COを中心とする円の周方向を、単に「周方向」とも呼ぶ。図1における下方向を先端方向FDと呼び、上方向を後端方向BDとも呼ぶ。図1における下側を、スパークプラグ100の先端側と呼び、図1における上側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。スパークプラグ100は、第1の絶縁部材としての外側絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、第2の絶縁部材としての内側絶縁碍子90と、を備える。
【0026】
外側絶縁碍子10は、詳細は後述するが、例えば、Al(アルミナ)を主成分とするセラミックスを用いて形成されている。外側絶縁碍子10は、軸線方向に沿って延び、外側絶縁碍子10を貫通する貫通孔12(軸孔)を有する略円筒形状の部材である。外側絶縁碍子10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、段部15と、脚長部13と、を備えている。後端側胴部18は、鍔部19より後端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19より先端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17より先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は、スパークプラグ100が内燃機関(図示せず)に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。段部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成されている。
【0027】
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成され、内燃機関のエンジンヘッド(図示省略)にスパークプラグ100を固定するための円筒状の金具である(図1)。主体金具50は、軸線COに沿って貫通する挿入孔59が形成されている。主体金具50は、外側絶縁碍子10の外周に配置される。すなわち、主体金具50の挿入孔59内に、外側絶縁碍子10が挿入・保持されている。外側絶縁碍子10の先端は、主体金具50の先端より先端側に突出している。外側絶縁碍子10の後端は、主体金具50の後端より後端側に突出している。
【0028】
主体金具50は、スパークプラグレンチが係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている。取付ネジ部52の呼び径は、例えば、M8(8mm(ミリメートル))、M10、M12、M14、M18のいずれかとされている。
【0029】
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、スパークプラグ100と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
【0030】
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、外側絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間に形成される環状の領域には、環状のリング部材6,7が配置されている。当該領域における2つのリング部材6,7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、外側絶縁碍子10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、外側絶縁碍子10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、リング部材6、7およびタルク9を介し、外側絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。金属製の環状の板パッキン8を介して、主体金具50の取付ネジ部52の内周に形成された段部56(金具側段部)によって、外側絶縁碍子10の段部15(絶縁碍子側段部)が押圧される。この結果、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と外側絶縁碍子10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。
【0031】
端子金具40は、軸線方向に延びる棒状の部材である。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、端子金具40の表面には、防食のための金属層(例えば、Ni層)がめっきなどによって形成されている。端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42(端子顎部)と、鍔部42より後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42より先端側の脚部43(端子脚部)と、を備えている。端子金具40のキャップ装着部41は、外側絶縁碍子10より後端側に露出している。端子金具40の脚部43は、外側絶縁碍子10の貫通孔12に挿入されている。キャップ装着部41には、高圧ケーブル(図示外)が接続されたプラグキャップが装着され、火花放電を発生するための高電圧が印加される。
【0032】
接地電極30は、接地電極本体31と、円柱状の接地電極チップ39と、を備えている。接地電極本体31は、断面が四角形の湾曲した棒状体である。接地電極本体31の後端部は、主体金具50の先端面に溶接によって接合されている。これによって、主体金具50と接地電極本体31とは、電気的に接続される。接地電極本体31の先端は、自由端である。接地電極チップ39は、接地電極本体31の先端近傍の中心電極20側を向いた面(後端側の面)に、溶接されている。接地電極チップ39の材料には、例えば、Pt(白金)または、Ptを主成分とする合金がなどが用いられる。本実施形態では、Pt−20Rh合金(20重量%のロジウムを含有した白金合金)が用いられている。
【0033】
内側絶縁碍子90は、詳細は後述するが、外側絶縁碍子10とは異なる材料を用いて形成されている。内側絶縁碍子90は、詳細は後述するが、略筒状の部材であり、外側絶縁碍子10の貫通孔12の内部の先端側の部分に配置されている。
【0034】
中心電極20は、詳細は後述するが、略棒状の中心電極本体25と、中心電極本体25の先端に接合された円柱状の中心電極チップ29と、を備えている(図1)。中心電極本体25の大部分は、詳細は後述する内側絶縁碍子90に挿入されている。中心電極チップ29と、上述した接地電極チップ39との間に、火花ギャップが形成される。
【0035】
外側絶縁碍子10の貫通孔12内において、端子金具40の先端(脚部43の先端)と中心電極20の後端(中心電極本体25の後端)との間には、火花発生時の電波ノイズを低減するための抵抗体70が配置されている。抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料と、を含む組成物で形成されている。貫通孔12内において、抵抗体70と中心電極20との隙間は、導電性のシール部材60によって埋められている。抵抗体70と端子金具40との隙間は、導電性のシール部材80によって埋められている。シール部材60、80は、例えば、B23−SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
【0036】
A−2. スパークプラグ100の中心電極20近傍の構成:
上記のスパークプラグ100の中心電極20近傍の構成について、さらに、詳細に説明する。図2は、図1の断面図の中心電極20の近傍を拡大した図である。外側絶縁碍子10の貫通孔12(図1)は、径R1の第1の孔121と、第1の孔121より後端側に位置し、径R1より大きな径R2(R1<R2)を有する第2の孔122と、を含んでいる(図2)。すなわち、外側絶縁碍子10は、第1の孔121を有する第1部分101と、第2の孔122を有し、第1部分より後端側に配置された第2部分102と、を備えている、と言うことができる。
【0037】
第1の孔121は、脚長部13の先端(外側絶縁碍子10の先端)から、先端側胴部17の先端側の部分までの部分に形成されている。第2の孔122は、先端側胴部17の先端側の部分から、後端側胴部18の後端(外側絶縁碍子10の後端)までの部分に形成されている。外側絶縁碍子10の貫通孔12は、第2の孔122の先端から第1の孔121の後端に向かって縮径している。この結果、外側絶縁碍子10の内部において、第1の孔121を有する第1部分と第2の孔122を有する第2部分との間に棚部16が形成されている。なお、脚長部13の外径は、後端側から先端側に向かって、後端径Rbから先端径Raまで縮径している。なお、図2の断面において脚長部13の内周面に沿った直線L1と、段部15の板パッキン8との接触面に沿った直線L2と、の交点をP1とし(図2の拡大図)、交点P1に対して軸線を挟んだ反対側に位置する同様の点をP2(図示省略)とする。脚長部13の後端径Rbは、点P1と点P2とを結ぶ線分の長さとする。後述する第2実施形態における脚長部13Dの後端径R2b(図4)についても同様である。
【0038】
内側絶縁碍子90は、軸線方向に延びる径R4の貫通孔911を有する筒状部91と、筒状部91の後端側に配置された鍔(つば)状の大径部92と、を備えている。筒状部91は、外側絶縁碍子10の第1の孔121内に配置されている。筒状部91の外径R3は、第1の孔121の径R1(第1部分101の内径R1)より僅かに(例えば、0.04〜0.06mm)小さい。すなわち、第1部分101の内周面と、筒状部91の外周面との間には、僅かな隙間(例えば、0.02〜0.03mmの隙間)が形成されている。筒状部91の軸線方向の長さは、第1の孔121の軸線方向の長さとほぼ等しい。このために、外側絶縁碍子10の先端(脚長部13の先端)と、筒状部91の先端と、の軸線方向の位置は、ほぼ一致している。
【0039】
大径部92の外径R5は、第2の孔122の径R2(第2部分102の内径R2)より小さく、第1部分101の内径R1より大きい。大径部92の先端側の部分の外径は、後端側から先端側に向かって縮径している。また、大径部92の後端側の部分の内径も、後端側から先端側に向かって縮径している。すなわち、大径部92は、先端側の縮径外面92aと、後端側の縮径内面92bと、を備えている。大径部92の縮径外面92aは、外側絶縁碍子10の棚部16と接している。この結果、内側絶縁碍子90の大径部92は、外側絶縁碍子10の棚部16によって支持されている。
【0040】
中心電極20は、上述したように、軸線方向に延びる棒状の中心電極本体25と、中心電極本体25の先端に接合された円柱状の中心電極チップ29と、を備えている(図2)。図2の例では、レーザー溶接を用いて電極チップ29と中心電極本体25とが接合されているので、中心電極20は、電極チップ29と中心電極本体25の先端との間に、レーザー溶接時に形成された溶融部26を備えている。
【0041】
中心電極チップ29の材料には、例えば、イリジウム(Ir)や、Irを主成分とする合金が用いられ、本実施形態では、Ir−11Ru−8Rh−1Ni合金(11重量%のルテニウムと、8重量%のロジウムと、1重量%のニッケルと、を含有したイリジウム合金)が用いられている。
【0042】
中心電極本体25は、電極母材22と、電極母材22の内部に埋設された芯部23と、を含む2層構造を有する。電極母材22は、例えば、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金、本実施例では、インコネル600(「INCONEL」は、登録商標))で形成されている。芯部23は、電極母材22を形成する合金よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金、本実施例では、銅で形成されている。図3以降の図面では、図の煩雑を避けるために、中心電極本体25の2層構造の図示は省略する。
【0043】
中心電極本体25は、軸線方向に沿って延びる棒状部251と、棒状部251の後端側に配置された鍔状部252と、鍔状部252の後端側に配置された柱状部253と、を備えている。棒状部251より後端側の部分、すなわち、鍔状部252と柱状部253との全体を、頭部とも呼ぶ。棒状部251は、内側絶縁碍子90の筒状部91の貫通孔911内に配置されている。棒状部251の棒状部251の外径R6は、貫通孔911の径R4(筒状部91の内径R4)より僅かに(例えば、0.04〜0.06mm)小さい。すなわち、筒状部91の内周面と、棒状部251の外周面との間には、僅かな隙間(例えば、0.02〜0.03mmの隙間)が形成されている。棒状部251の軸線方向の長さは、筒状部91の軸線方向の長さより長い。このために、棒状部251の先端は、内側絶縁碍子90の先端および外側絶縁碍子10の先端より、先端側に突出している。
【0044】
鍔状部252の外径R7は、棒状部251の外径R6より大きく、上述した内側絶縁碍子90の大径部92の外径R5と、ほぼ同じである。鍔状部252の先端側の部分の外径は、後端側から先端側に向かって縮径している。すなわち、鍔状部252は、先端側に縮径外面252aを備えている。鍔状部252の縮径外面252aと、大径部92の縮径内面92bとは、互いに接している。この結果、内側絶縁碍子90の大径部92は、外側絶縁碍子10の棚部16と、中心電極本体25の鍔状部252とによって挟まれている。柱状部253の外径R8は、鍔状部252の外径R7より小さい。
【0045】
図2に示すように、上述した抵抗体70と中心電極本体25との間をシールするシール部材60は、中心電極本体25の頭部(鍔状部252と柱状部253)の外周面と、外側絶縁碍子10の第2部分102の内周面と、の間もシールしている。さらに、シール部材60は、内側絶縁碍子90の大径部92と、外側絶縁碍子10の第2部分102の内周面と、の間もシールしている。
【0046】
ここで、外側絶縁碍子10と内側絶縁碍子90とを形成する材料について説明する。外側絶縁碍子10は、Alを主成分とするセラミックスを用いて形成されている。セラミックスの主成分は、当該セラミックスに含まれる成分(例えば、化合物や単体の金属)のうち、重量比率が最も高い成分である。Alを主成分とするセラミックスは、Alと、焼結助剤として用いられる成分(例えば、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgO)と、を含んでいる。なお、Alの重量比率が高いほど、成形性が悪くなるが、耐電圧性が高くなることが知られている。外側絶縁碍子10を形成する材料のAlの重量比率は、具体的には、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。
【0047】
内側絶縁碍子90は、外側絶縁碍子10とは異なるセラミックスを用いて形成されている。具体的には、内側絶縁碍子90は、外側絶縁碍子10を形成するセラミックスより成形性は劣るが、耐電圧性に優れたセラミックスを用いて形成される。より具体的には、外側絶縁碍子10は、Alを主成分とし、内側絶縁碍子90を形成するセラミックスよりAlの重量比率が高いセラミックスを用いて形成される。例えば、外側絶縁碍子10を形成する材料のAlの重量比率は、具体的には、90重量%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書では、Alを主成分とするセラミックスは、焼成助剤としての成分を含まないAl、すなわち、Alの重量比率が、100重量%であるセラミックスを含むものとする。
【0048】
絶縁碍子の全体を、耐電圧性に比較的優れ、成形性に比較的劣るセラミックスを用いて作製すると、耐電圧性は確保できるが、成形性を確保できず、生産性が悪化したり作製が不可能になる可能性がある。逆に、絶縁碍子の全体を、成形性に比較的優れ、耐電圧性に比較的劣るセラミックスを用いて作製すると、成形性は確保できるが、耐電圧性を確保できず、絶縁碍子の貫通破壊などが発生する可能性がある。ここで、中心電極本体25の近傍は、動作時に高温になる。また、中心電極本体25の近傍では、絶縁碍子の径方向の厚さが薄くなりがちである。このために、絶縁碍子のうち、中心電極本体25の近傍の部分、すなわち、絶縁碍子のうちの先端側、かつ、内周側の部分を形成する材料は、絶縁碍子の他の部分より高い耐電圧性が要求される。そこで、本実施形態では、絶縁碍子を、2つの部材、すなわち、外側絶縁碍子10と内側絶縁碍子90とによって構成し、上述したように、内側絶縁碍子90を、外側絶縁碍子10を形成するセラミックスより成形性は劣るが、耐電圧性に優れたセラミックスを用いて形成している。この結果、より高い耐電圧性が要求される内側絶縁碍子90の耐電圧性を確保することができるとともに、内側絶縁碍子90より体積が大きい外側絶縁碍子10の成形性を確保できる。この結果、スパークプラグ100の耐電圧性と成形性とを両立することができる。
【0049】
ここで、絶縁碍子を2つの部材を用いて構成すると、絶縁碍子の全体の強度が懸念され得る。本実施形態では、上述したように、内側絶縁碍子90の大径部92は、外側絶縁碍子10の棚部16に支持されている。この結果、内側絶縁碍子90を外側絶縁碍子10に対して強固に固定することができる。したがって、絶縁碍子の全体の強度、ひいては、スパークプラグ100の強度を向上することができる。
【0050】
さらに、内側絶縁碍子90の大径部92は、外側絶縁碍子10の棚部16と、中心電極20の中心電極本体25の頭部(鍔状部252と棒状部251)と、によって挟まれている。この結果、内側絶縁碍子90を外側絶縁碍子10に対してより強固に固定することができる。したがって、スパークプラグ100の強度をより向上することができる。
【0051】
さらに、中心電極本体25の頭部と、外側絶縁碍子10の第2部分102との間をシールするシール部材60が設けられている。この結果、シール部材によって、内側絶縁碍子90を外側絶縁碍子10に対してさらに強固に固定することができる。したがって、スパークプラグ100の強度をさらに向上することができる。
【0052】
さらに、上述したように、外側絶縁碍子10と内側絶縁碍子90とのそれぞれは、Alを含み、外側絶縁碍子10に含まれるAlの重量比率と、内側絶縁碍子90に含まれるAlの重量比率とは、異なっている。このように、Alの重量比率が互いに異なる外側絶縁碍子10と内側絶縁碍子90とを用いることで、スパークプラグ100の成形性と、耐電圧性と、を両立し得る。より具体的には、内側絶縁碍子90に含まれるAlの重量比率は、外側絶縁碍子10に含まれるAlの重量比率より大きい。この結果、外側絶縁碍子10より高い耐電圧性が要求される内側絶縁碍子90の耐電圧性を向上することができるとともに、内側絶縁碍子90より大きな外側絶縁碍子10の成形性を向上できる。この結果、スパークプラグ100の成形性(作製の容易性)と、耐電圧性と、をより効果的に両立することができる。
【0053】
A−3:第1評価試験
第1評価試験では、上記第1実施形態のスパークプラグ100の強度を確認するために、上記第1実施形態のスパークプラグ100のサンプル(評価サンプルとも呼ぶ)と、比較サンプルA〜Cの強度試験を実施した。
【0054】
試験に用いた評価サンプルの主な寸法は、以下の通りである。
外側絶縁碍子10の第1部分101の内径(第1の孔121の径)R1:2.54mm
外側絶縁碍子10の第2部分102の内径(第1の孔121の径)R2:4mm
内側絶縁碍子90の筒状部91の外径R3:2.5mm
内側絶縁碍子90の筒状部91の内径R4:1.5mm
内側絶縁碍子90の大径部92の外径R5:3.8mm
中心電極本体25の棒状部251の外径R6:1.46mm
中心電極本体25の鍔状部252の外径R7:3.8mm
中心電極本体25の柱状部253の外径R8:2.5mm
外側絶縁碍子10の脚長部13の後端径Rb:5.5mm
外側絶縁碍子10の脚長部13の先端径Ra:4mm
【0055】
比較サンプルA〜Cについて説明する。図3は、比較サンプルA〜Cの断面図である。図3(A)の比較サンプルAは、評価サンプルの内側絶縁碍子90に代えて、内側絶縁碍子90Aを備えている。内側絶縁碍子90Aは、鍔状の大径部92を備えていない筒状の部材である。内側絶縁碍子90Aは、軸線方向の長さが内側絶縁碍子90の半分であり、外径が2.8mm、内径が2.54mmである。比較サンプルAの外側絶縁碍子10Aの第1部分101Aには、中心電極本体25の棒状部251が挿入される孔121A(径1.5mm)と、孔121Aの先端側に位置し、内側絶縁碍子90Aが挿入される孔123A(2.84mm)とが形成されている。内側絶縁碍子90Aの外周面と、第1部分101Aの内周面との隙間は、耐熱性の無機接着材(東亞合成(株)のアロンセラミック)によって充填されている。これによって、内側絶縁碍子90Aが外側絶縁碍子10Aに対して固定されている。比較サンプルAの中心電極本体25は、評価サンプルの中心電極本体25と同じである。比較サンプルAの中心電極本体25の棒状部251の先端側の半分は、内側絶縁碍子90Aに挿入されている。比較サンプルAの他の構成は、評価サンプルの構成と同一であるので、その説明を省略する。
【0056】
図3(B)の比較サンプルBは、評価サンプルの内側絶縁碍子90に代えて、内側絶縁碍子90Bを備えている。内側絶縁碍子90Bは、評価サンプルの内側絶縁碍子90の大径部92を備えていない。内側絶縁碍子90Bは、評価サンプルの内側絶縁碍子90の筒状部91と同じ形状および寸法を有する筒状の部材である。内側絶縁碍子90Bの外周面と、外側絶縁碍子10の第1部分101の内周面との隙間は、上述した耐熱性の無機接着材によって充填されている。これによって、内側絶縁碍子90Bが外側絶縁碍子10に対して固定されている。比較サンプルBの他の構成は、評価サンプルの構成と同一であるので、その説明を省略する。
【0057】
図3(C)の比較サンプルCでは、絶縁碍子は、後端側絶縁碍子10Cと、先端側絶縁碍子90Cと、によって構成されている。すなわち、後端側絶縁碍子10Cは、評価サンプルの第1部分101の後端側の半分と、第2部分102に対応する部材である。先端側絶縁碍子90Cは、評価サンプルの第1部分101のうちの先端側の半分に対応する部材である。比較サンプルCは、内側絶縁碍子90を備えていないので、後端側絶縁碍子10Cの第1部分101Cの内径、および、先端側絶縁碍子90Cの内径は、中心電極本体25の棒状部251の外径より僅かに大きい値(1.5mm)とされている。後端側絶縁碍子10Cと、先端側絶縁碍子90Cとは、上述した耐熱性の無機接着材によって接着されている。これによって、先端側絶縁碍子90Cが後端側絶縁碍子10Cに対して固定されている。比較サンプルCの他の構成は、評価サンプルの構成と同一であるので、その説明を省略する。
【0058】
なお、評価サンプルの外側絶縁碍子10、および、比較サンプルの外側絶縁碍子10A、10、後端側絶縁碍子10Cの材料には、90重量%のAlと、10重量%の焼結助剤(SiO、CaO、MgO、BaO)と、から成るセラミックスを用いた。
【0059】
また、評価サンプルの内側絶縁碍子90、および、比較サンプルの内側絶縁碍子90A、90B、先端側絶縁碍子90Cの材料には、95重量%のAlと、5重量%の焼結助剤(SiO、CaO、MgO、BaO)と、から成るセラミックスを用いた。
【0060】
第1評価試験では、各種類のサンプルを3個ずつ準備して、JIS B8031:2006(内燃機関−スパークプラグ)の7.4に規定された耐衝撃試験が実施された。試験後に、絶縁碍子の異常を調べた。絶縁碍子に異常が無かったサンプルの評価を「○」とし、絶縁碍子に異常が見られたサンプルの評価を「×」とした。試験結果は、以下の表1に示すとおりであった。
【0061】
【表1】
【0062】
3個の評価サンプルの評価は、いずれも「○」であった。3個の比較サンプルAのうち、1個の評価は「○」であり、残りの2個の評価は「×」であった。3個の比較サンプルBのうち、1個の評価は「○」であり、残りの2個の評価は「×」であった。3個の比較サンプルCの評価は、いずれも「×」であった。評価が「×」の比較サンプルA、Bでは、無機接着材で接着されている部分において、外側絶縁碍子10A、10から内側絶縁碍子90A、90Bが剥離する異常が見られた。評価が「×」の比較サンプルCでは、無機接着材で接着されている部分において、後端側絶縁碍子10Cから先端側絶縁碍子90Cが剥離する異常が見られた。
【0063】
第1評価試験によって、実施形態のスパークプラグ100において、上述したように、内側絶縁碍子90を外側絶縁碍子10に対して強固に固定することができ、スパークプラグ100の強度を向上することができることが確認できた。
【0064】
A−4:第2評価試験
第2評価試験では、下の表2に示すように、8種類のサンプル1〜8を10個ずつ準備した。サンプル1は、比較形態のスパークプラグのサンプル(比較サンプル)である。サンプル2〜8は、第1実施形態のスパークプラグ100のサンプル(評価サンプル)である。評価サンプル2〜8の構成は、外側絶縁碍子10と内側絶縁碍子90を形成する材料を除いて、第1評価試験の評価サンプルと同じである。比較サンプル1では、評価サンプルの外側絶縁碍子10と内側絶縁碍子90とが、一体の絶縁碍子で形成されている。比較サンプル1の他の構成は、評価サンプルと同じである。
【0065】
比較サンプル1の絶縁碍子の材料には、90重量%のAlと、10重量%の焼結助剤(SiO、CaO、MgO、BaO)と、から成るセラミックスを用いた。
【0066】
また、評価サンプル2〜8の外側絶縁碍子10の材料には、比較サンプル1の絶縁碍子と同様に、90重量%のアルミナと、10重量%の焼結助剤(SiO、CaO、MgO、BaO)と、から成るセラミックスが用いられた。評価サンプル2〜8の内側絶縁碍子90の材料には、80〜100重量%のアルミナと、0〜20重量%の焼結助剤(SiO、CaO、MgO、BaO)と、から成るセラミックスが用いられた。具体的には、評価サンプル2〜8の内側絶縁碍子90に含まれるAlの重量%は、それぞれ、80%、85%、88%、90%、92%、95%、100%である。ここで、外側絶縁碍子10に含まれるAlの重量%(Wtaとする)と、内側絶縁碍子90に含まれるAlの重量%(Wtbとする)と、の差を、ΔWtとする(ΔWt=Wtb−Wta)。評価サンプル2〜8のAlの重量%の差ΔWtは、それぞれ、−10%、−5%、−2%、0%、5%、2%、10%である(表2)。
【0067】
第2評価試験では、各種類の10個ずつのサンプルを用いて、耐電圧試験が実施された。具体的には、JIS B8031:2006(内燃機関−スパークプラグ)の7.3に規定された耐電圧試験装置を用いて、段階的に印加する電圧を1kVずつ上げながら試験を行って、絶縁碍子の貫通破壊が生じる電圧の下限値(耐電圧値と呼ぶ)を調べた。そして、同種の10個のサンプルの耐電圧値の平均値Vaと、分散σと、を算出し、(Va−3σ)の値を、耐電圧性の評価値Ve(単位は、kV)として算出した。そして、評価サンプル2〜8のうち、評価値Veが、比較サンプル1の評価値Ve(=42kV)を超えるサンプルの評価を「○」とし、評価値Veが、比較サンプル1の評価値Ve以下であるサンプルの評価を「△」とした。試験結果は、以下の表2に示すとおりであった。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示すように、Alの重量%の差ΔWtが負の値である評価サンプル2〜4の評価は「△」であり、Alの重量%の差ΔWtが0である評価サンプル5と、Alの重量%の差ΔWtが正の値である評価サンプル6〜8の評価は「○」であった。
【0070】
第2評価試験によって、上述したように、内側絶縁碍子90に含まれるAlの重量比率が、外側絶縁碍子10に含まれるAlの重量比率以上であると、耐電圧性を向上できることが確認できた。なお、Alの重量%の差ΔWtが0である評価サンプル5が、比較サンプル1より耐電圧性に優れているのは、外側絶縁碍子10の内周面と外側絶縁碍子10の外周面との間に、隙間があることによると考えられる。
【0071】
なお、表2に示すように、評価サンプル2〜8では、Alの重量%の差ΔWtが大きいほど、換言すれば、内側絶縁碍子90に含まれるAlの重量%が、外側絶縁碍子10に含まれるAlの重量%と比較して大きいほど、耐電圧性に優れることが解った。
【0072】
B.第2実施形態:
B−1.スパークプラグの構成:
第2実施形態のスパークプラグは、第1実施形態のスパークプラグ100と異なり、プラズマジェットプラグと呼ばれるタイプのスパークプラグである。なお、プラズマジェットプラグは、第1実施形態のスパークプラグ100とは、先端部近傍の構成が異なる。図4は、第2実施形態のスパークプラグの先端部近傍を軸線が含まれる面で切断した断面図である。第2実施形態のスパークプラグの構成のうち、第1実施形態のスパークプラグ100と異なる構成については、符号の末尾に「D」を付し、第1実施例のスパークプラグ100と同じ構成については、第1実施形態のスパークプラグ100と同じ符号を付した。
【0073】
第2実施形態では、外側絶縁碍子10Dの脚長部13Dの軸方向の長さは、内側絶縁碍子90Dの軸方向の長さより短い。このために、内側絶縁碍子90Dの先端は、外側絶縁碍子10Dの先端より先端側に位置している。
【0074】
内側絶縁碍子90Dは、第1実施形態における内側絶縁碍子90と同様に、筒状部91Dと、大径部92と、を備えている。図4の例では、筒状部91Dの内径R24は、第1実施形態の筒状部91の内径4より小さい。その分だけ、筒状部91Dの径方向の長さ(厚さ)は、第1実施形態の筒状部91より厚い。
【0075】
さらに、中心電極20Dは、先端に中心電極チップを備えていない。中心電極20Dは、第1実施形態における中心電極本体25と同様に、棒状部251Dと、鍔状部252と、柱状部253と、を備えている。棒状部251Dの外径R26は、第1実施例の棒状部251の外径R6より小さい。棒状部251Dの先端(すなわち、中心電極20Dの先端)は、内側絶縁碍子90Dの先端より後端側に位置している。この結果、内側絶縁碍子90Dの筒状部91の内周面と、中心電極20Dの先端と、によって区画されるキャビティCVが、スパークプラグの先端に形成されている。
【0076】
主体金具50Dの先端は、筒状部91Dの先端(内側絶縁碍子90Dの先端)より先端側に位置している。主体金具50Dの先端には、円盤状の接地電極30Dが接合されている。接地電極30Dは、軸線CO上に開口するプラズマの噴出孔35Dを有している。接地電極30Dの後端面の軸方向の位置と、筒状部91Dの先端面の軸方向の位置とは、ほぼ一致している。また、噴出孔35Dの径と、筒状部91Dの内径とは、ほぼ一致している。第2実施形態のスパークプラグの火花ギャップGは、図4に示すように、中心電極20Dの先端(棒状部251Dの先端)と、接地電極30Dにおける噴出孔35Dが形成されている部分と、の間である。
【0077】
さらには、第2実施形態のスパークプラグは、抵抗体70(図1)を備えていない。このために、第2実施形態のスパークプラグでは、端子金具40Dの先端(脚部43Dの先端)と、中心電極20Dの後端(柱状部253の後端)と、の間が、シール部材60Dによってシールされている。
【0078】
第2実施形態のスパークプラグのその他の構成は、第1実施形態のスパークプラグ100と同じである。
【0079】
第2実施形態のスパークプラグ(プラズマジェットプラグ)は、以下のように動作する。図示しない点火装置によって高電圧が供給されることによって、火花ギャップGに火花放電が生じると、火花放電のエネルギーによって、キャビティCV内の気体が励起されて、キャビティCV内にプラズマが形成される。キャビティCV内に形成されたプラズマが膨張し、キャビティCV内の圧力が高まると、キャビティCV内のプラズマは、火柱状に、接地電極30Dに形成された噴出孔35Dから噴出される。噴出されたプラズマによって、内燃機関の燃焼室内の混合気が着火される。
【0080】
ここで、内側絶縁碍子90Dの筒状部91Dの内周面のうち、キャビティCVを区画している先端部分は、火花放電のエネルギーによって、溶融し、消耗する。この結果、筒状部91Dの内周面の先端部分には、チャンネリングと呼ばれる溝状の傷が発生する。このようなチャンネリングが過度に発生すると、筒状部91Dの欠けなどが発生して、スパークプラグが本来の性能を発揮できなくなる可能性がある。このために、内側絶縁碍子90Dの材料には、チャンネリングに対する耐性、すなわち、耐火花消耗性が求められる。
【0081】
ここで、Alなどの絶縁体を主成分とするセラミックスにおいて、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgOなどの特定化合物の添加量が増加するほど、セラミックスの表面抵抗が低下して、耐火花消耗性が向上する。一方、これらの特定化合物の添加量を増加するほど、セラミックスの抵抗が低下するので、耐電圧性が悪くなる。
【0082】
絶縁碍子の全体を耐電圧性に比較的優れ、耐火花消耗性に比較的劣るセラミックスを用いて作製すると、耐電圧性は確保できるが、耐火花消耗性が確保できず、スパークプラグの寿命が短くなる可能性がある。逆に、絶縁碍子の全体を耐火花消耗性に比較的優れ、耐電圧性に比較的劣るセラミックスを用いて作製すると、耐火花消耗性は確保できるが、耐電圧性が確保できず、絶縁碍子の貫通破壊などが発生する可能性がある。チャンネリングが発生する部分、すなわち、絶縁碍子のうちの先端側、かつ、内周側の部分を形成する材料は、絶縁碍子の他の部分より高い耐火花消耗性が要求される。そこで、本実施形態では、絶縁碍子を、2つの部材、すなわち、外側絶縁碍子10Dと内側絶縁碍子90Dとによって構成し、内側絶縁碍子90Dを、外側絶縁碍子10Dを形成するセラミックスより耐電圧性は劣るが、耐火花消耗性に優れたセラミックスを用いて形成している。
【0083】
具体的には、外側絶縁碍子10Dは、Alを主成分とし、添加物として、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgOのうちの1個の特定化合物を、所定量(例えば、3重量%)含んでいるセラミックスで形成されている。外側絶縁碍子10Dを形成する材料のAlの重量比率は、具体的には、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、95重量%以上であることが最も好ましい。
【0084】
また、内側絶縁碍子90Dは、Alを主成分とし、添加物として、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgOのうちの1個の特定化合物を、外側絶縁碍子10Dを形成する材料より多く含んでいるセラミックスで形成されている。すなわち、内側絶縁碍子90Dに含まれる特定化合物の重量%は、外側絶縁碍子10Dに含まれる特定化合物の重量%より大きい。この結果、スパークプラグの耐火花消耗性と耐電圧性とを両立することができる。
【0085】
また、第1実施形態と同様に、内側絶縁碍子90Dの大径部92は、外側絶縁碍子10Dの棚部16に支持されている。この結果、内側絶縁碍子90Dを外側絶縁碍子10Dに対して強固に固定することができる。さらに、第1実施形態と同様に、内側絶縁碍子90Dの大径部92は、外側絶縁碍子10Dの棚部16と、中心電極20Dの頭部(鍔状部252と棒状部251)と、によって挟まれている。この結果、内側絶縁碍子90Dを外側絶縁碍子10Dに対してより強固に固定することができる。さらに、第1実施形態と同様に、中心電極20Dの頭部と、外側絶縁碍子10Dの第2部分102との間をシールするシール部材60が設けられている。この結果、シール部材によって、内側絶縁碍子90Dを外側絶縁碍子10Dに対してさらに強固に固定することができる。したがって、スパークプラグ100の強度を向上することができる。
【0086】
B−2:評価試験
評価試験では、上記第2実施形態のスパークプラグのサンプルの耐火花消耗性の試験を実施した。
【0087】
試験に用いた評価サンプルの主な寸法は、以下の通りである。
外側絶縁碍子10Dの第1部分101Dの内径R21:2.54mm
外側絶縁碍子10Dの第2部分102の内径R22:4mm
内側絶縁碍子90Dの筒状部91Dの外径R23:2.5mm
内側絶縁碍子90Dの筒状部91Dの内径R4:0.8mm
内側絶縁碍子90Dの大径部92の外径R25:3.8mm
中心電極20Dの棒状部251Dの外径R26:0.76mm
中心電極20Dの鍔状部252の外径R27:3.8mm
中心電極20Dの柱状部253の外径R28:2.5mm
外側絶縁碍子10Dの脚長部13Dの後端径R2b:5.5mm
外側絶縁碍子10Dの脚長部13Dの先端径R2a:4mm
【0088】
また、評価サンプルの外側絶縁碍子10Dの材料には、97重量%のAlと、3重量%の特定化合物と、から成るセラミックスが用いられた。評価サンプルの内側絶縁碍子90Dの材料は、95〜99重量%のAlと、1〜5重量%の特定化合物と、から成るセラミックスを用いた。具体的には、下の表3に示すように、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgOの7種類の特定化合物について、それぞれ、5個ずつのサンプルが準備された。1種類の特定化合物についての5個のサンプルでは、当該特定化合物の重量%が、それぞれ、1%、2%、3%、4%、5%に変更され、これに応じて、Alの重量%を、99%、98%、97%、96%、95%に変更されている。
【0089】
ここで、外側絶縁碍子10Dに含まれる特定化合物の重量%(Wtcとする)と、内側絶縁碍子90Dに含まれる特定化合物の重量%(Wtdとする)と、の差を、ΔWt2とする(ΔWt2=Wtd−Wtc)。表3では、各サンプルの内側絶縁碍子90Dに含まれる特定化合物の重量%が、外側絶縁碍子10Dに含まれる特定化合物の重量%を基準に、ΔWt2の値を用いて示されている。
【0090】
評価試験では、各サンプルに対し、1.0MPaに加圧したチャンバー内で、1秒間に60回の火花放電を発生させる放電試験を300時間行った。放電試験後に各サンプルを解体し、内側絶縁碍子90Dの内周面のうち、キャビティCVを区画している部分の全周に亘ってチャンネリングの深さを測定した。チャンネリングの深さの測定には、非接触のレーザ式の形状測定器を用いた。各サンプルで測定されたチャンネリングのうち、最も深いチャンネリングの深さを、各サンプルのチャンネリング深さとして採用した。チャンネリング深さが、浅いほど、耐火花消耗性が優れていることを表す。試験結果は、以下の表3に示すとおりであった。
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示すように、特定化合物の重量%の差ΔWt2が負の値であるサンプルのチャンネリング深さは、特定化合物の種類に拘わらずに、特定化合物の重量%の差ΔWt2が0であるサンプルと比較して、深いことが解った。また、特定化合物の重量%の差ΔWt2が正の値であるサンプルのチャンネリング深さは、特定化合物の種類に拘わらずに、特定化合物の重量%の差ΔWt2が0であるサンプルと比較して、浅いことが解った。
【0093】
本評価試験によって、上述したように、内側絶縁碍子90Dに含まれる特定化合物の重量比率が、外側絶縁碍子10に含まれるAlの重量比率より大きいと、耐火花消耗性を向上できることが確認できた。
【0094】
なお、表3に示すように、同じ特定化合物を添加する場合には、特定化合物の重量%の差ΔWt2が大きいほど、換言すれば、内側絶縁碍子90Dに含まれる特定化合物の重量%が、外側絶縁碍子10Dに含まれる特定化合物の重量%と比較して大きいほど、耐火花消耗性に優れることが解った。
【0095】
なお、表3に示すように、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgOの7種類の特定化合物の中では、特定化合物の重量%の差ΔWt2が正である範囲において、SiCが最も耐火花消耗性を向上させることができることが解った。そして、TiOとLaが、SiCの次に耐火花消耗性を向上させることができ、SiO、Y、CaO、MgOが、TiOとLaの次に耐火花消耗性を向上させることが解った。
【0096】
C.変形例:
(1)図5は、変形例の内側絶縁碍子の例を示す第1の図である。図5(A)〜(C)の変形例について第2実施形態と異なる部分のみを説明する。図5(A)の内側絶縁碍子90Fの大径部92Fの外径は、中心電極の鍔状部252Dの外径より大きい。図5(B)の内側絶縁碍子90Gの大径部92Gの外径は、中心電極の鍔状部252Dの外径より小さい。このように、内側絶縁碍子の大径部の外径は、中心電極の鍔状部252Dの外径と異なっていても良い。
【0097】
図5(C)の内側絶縁碍子90Hの大径部92Hの外径は、中心電極の鍔状部252Hの外径より小さい。そして、中心電極の鍔状部252Hの先端側の縮径面には、環状の溝DPが形成されている。大径部92Hの後端側の部分は、中心電極の鍔状部252Hに形成された溝DPに嵌合している。この結果、内側絶縁碍子90Hと、中心電極とが、強固に固定される。
【0098】
図6は、変形例の内側絶縁碍子の例を示す第2の図である。図6(A)の内側絶縁碍子90Iの大径部92Iの外径は、中心電極の鍔状部252Dの外径より大きい。さらに、内側絶縁碍子90Iは、大径部92Iの後端から後端方向に向かって延びる環状の側壁部96Iを備えている。そして、中心電極の鍔状部252Dの先端側の部分は、大径部92Iの後端側の縮径面92Ibと、側壁部96Iの内周面96Iaと、によって区画される凹部に嵌合している。この結果、内側絶縁碍子90Hと、中心電極とが、強固に固定される。
【0099】
図6(B)の中心電極の頭部253Jは、鍔状部と柱状部とに別れていない。頭部253Jは、円柱形状を有しており、先端側が縮径している。図6(B)の内側絶縁碍子90Jの大径部92Jの外径は、図6(A)例と同様に、中心電極の頭部253Jの外径より大きい。さらに、内側絶縁碍子90Jは、図6(A)例と同様に、大径部92Jの後端から後端方向に向かって延びる環状の側壁部96Jを備えている。そして、中心電極の頭部253Jの先端側の部分は、図6(A)例と同様に、大径部92Jの後端側の縮径面92Jbと、側壁部96Iの内周面96Jaと、によって区画される凹部に嵌合している。この結果、内側絶縁碍子90Jと、中心電極とが、強固に固定される。
【0100】
このように、内側絶縁碍子の大径部の構成は、上記第1実施形態や第2実施形態の構成に限られず、様々な構成を取り得る。例えば、内側絶縁碍子の大径部は、周方向の全周に亘って鍔状に配置されているが、必ずしも周方向の全周に亘って配置されている必要はなく、周方向の一部が欠けていても良い。
【0101】
(2)上記第1実施形態および第2実施形態では、内側絶縁碍子は、Alを主成分とするセラミックスを用いて形成されているが、これに代えて、内側絶縁碍子は、他の化合物を主成分とするセラミックスを用いて形成されても良い。この結果、Alを主成分とするセラミックスを用いて形成された外側絶縁碍子の特性と、他の化合物を主成分とするセラミックスを用いて形成された内側絶縁碍子の特性と、によって、性能が適正化された絶縁碍子を有するスパークプラグを実現することができる。例えば、内側絶縁碍子は、AlN、ZrO、SiC、TiO、Yのうちのいずれかを主成分とするセラミックスを用いて形成されても良い。例えば、AlNを主成分とするセラミックスは、熱伝導性が、Alを主成分とするセラミックスより高い。このために、内側絶縁碍子をAlNを主成分とするセラミックスを用いて形成すると、高温になりやすいスパークプラグの先端部の熱引き性能を向上することができる。また、ZrOやSiCを主成分とするセラミックスは、表面抵抗が、Alを主成分とするセラミックスより低い。このために、内側絶縁碍子をZrOやSiCを主成分とするセラミックスを用いて形成すると、上述した第2実施形態と同様に、スパークプラグの耐火花消耗性を向上することができる。
【0102】
(3)上記第2実施形態のスパークプラグの内側絶縁碍子90Dは、上述したように、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgOのうちの1個の特定化合物を含んでいるが、La、SiO、SiC、TiO、Y、CaO、MgOのうちの2個以上の特定化合物を含んでもよい。この場合には、内側絶縁碍子90Dに含まれる当該2個以上の特定化合物の合計の重量比率が、外側絶縁碍子10Dに含まれる当該2個以上の特定化合物の合計の重量比率より大きいことが好ましい。こうすれば、第2実施形態と同様に、スパークプラグの耐火花消耗性を向上することができる。
【0103】
(4)上記第1実施形態において、内側絶縁碍子90の大径部92の縮径外面92aは、外側絶縁碍子10の棚部16に直接接している。すなわち、内側絶縁碍子90の大径部92は、外側絶縁碍子10の棚部16に、直接に支持されている。これに代えて、大径部92の縮径外面92aと、外側絶縁碍子10の棚部16との間には、無機接着材(いわゆるセメント)や、図1のシール部材60と同様の材料(例えば、B23−SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物)などが充填されても良い。すなわち、内側絶縁碍子90の大径部92は、外側絶縁碍子10の棚部16に、間接に支持されていても良い。第2実施形態においても同様である。
【0104】
(6)上記第1実施形態において、内側絶縁碍子90の内周面と中心電極本体25の棒状部251の外周面との間には、無機接着材が充填されても良い。同様に、外側絶縁碍子10の第1部分101の内周面と、内側絶縁碍子90の外周面との間には、無機接着材が充填されても良い。
【0105】
(7)上記第1実施形態において、中心電極本体25の頭部(鍔状部252と柱状部253)はなくても良い。この場合には、例えば、中心電極本体25の棒状部251の外周面が、内側絶縁碍子90の内周面と無機接着材によって接着されることによって、中心電極本体25が内側絶縁碍子90に固定される。そして、内側絶縁碍子90の大径部92は、外側絶縁碍子10の棚部16と、シール部材60と、によって挟まれる。この結果、内側絶縁碍子90は、外側絶縁碍子10に対して固定される。
【0106】
(8)上記各実施形態において、内側絶縁碍子と外側絶縁碍子と中心電極の構成を中心に説明してきたが、他の要素、例えば、主体金具50、端子金具40、接地電極30などの材質や寸法などは、様々に変更可能である。例えば、主体金具50の材質は、亜鉛やニッケルなどでめっきされた低炭素鋼でも良いし、これらのめっきがなされていない低炭素鋼でも良い。また、接地電極30は、ニッケル合金で形成された母材と、銅で形成された芯部と、を備える2層構造を備えても良い。また、接地電極30は、中心電極の先端部分と軸線方向と垂直な方向に対向して、軸線方向と垂直な方向の火花ギャップを形成しても良い。
【0107】
(9)上記第2実施形態の中心電極20は、チップを備えていない(図4)が、これに変えて、中心電極20の先端には、白金やイリジウムなどの貴金属、貴金属を主成分とする合金、タングステン(W)などで形成されたチップが配置されていてもよい。
【0108】
(10)上記第2実施形態では、接地電極30Dの後端面の軸方向の位置と、筒状部91Dの先端面の軸方向の位置とは、一致している(図4)が、接地電極30Dの後端面と、筒状部91Dの先端面と、間にはわずかな隙間(例えば、0.05mm〜0.2mm)が設けられていてもよい。
【0109】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0110】
5...ガスケット、6...リング部材、8...板パッキン、9...タルク、10、10A、10D...外側絶縁碍子、10A...外側絶縁碍子、10C...後端側絶縁碍子、13、13D...脚長部、15...段部、16...棚部、17...先端側胴部、18...後端側胴部、19...鍔部、20、20D...中心電極、22...電極母材、23...芯部、23...頭部、25...中心電極本体、26...溶融部、29...電極チップ、29...中心電極チップ、30、30D...接地電極、31...接地電極本体、35D...噴出孔、39...接地電極チップ、40、40D...端子金具、40D...端子金具、41...キャップ装着部、42...鍔部、43、43D...脚部、50、50D...主体金具、50D...主体金具、51...工具係合部、52...取付ネジ部、53...加締部、54...座部、56...段部、58...圧縮変形部、59...挿入孔、60、60D...シール部材、70...抵抗体、80...シール部材、90...内側絶縁碍子、90A、90B、90D、90F〜90J...内側絶縁碍子、90C...先端側絶縁碍子、91、91D...筒状部、92、92F〜92J...大径部、96I、96J...側壁部、100...スパークプラグ、101...第1部分、251、252D...棒状部、252、253D、252H...鍔状部、253、253J...柱状部
図1
図2
図3
図4
図5
図6