【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1による放射性物質の保管容器の構成を説明する。保管容器には、例えば、原子力発電所などで発生した除染廃液中の金属イオンを処理することで発生したカチオン樹脂やアニオン樹脂などの廃棄物スラッジを収納したり、炉内構造物などの放射化金属をセメント系材料で固形化したものを収納したりすることができる。商業用原子力発電所で運転廃棄物として発生する放射化金属は、Co−60(約4×10
14Bq/ton)などの放射性物質を含むと評価されている(日本原子力学会標準、余裕深度処分対象廃棄体の製作に関わる基本的要件:2009)。
【0023】
図1は、本実施例による放射性物質の保管容器の構成を示す模式図である。金属製の保管容器1は、高線量の放射性物質2などを収納し、内部に管状部3を備える。
【0024】
管状部3は、例えば配管で形成することができ、一端のみが保管容器1の外部へ開口しており、他端に底面を有する。管状部3の開口している一端は、保管容器1の外部へ突出しても突出しなくてもよいが、
図1では外部へ突出していない場合(管状部3の開口部8が保管容器1の外面に設けられている場合)を示している。管状部3の内部は、空洞であり、保管容器1の外部と連続していて、放射性物質2を収納しない。管状部3の横断面の形状は任意であり、例えば、円形、楕円形、多角形にすることができる。管状部3の大きさ(長さ方向の長さ、内部空間の横断面の面積、及び厚さなど)は、保管容器1の大きさや、保管容器1が収納する放射性物質2の量(見積量)に応じて、任意に定めることができる。また、管状部3は、保管容器1と同じ材料で形成するのが好ましいが、保管容器1と異なる材料で形成してもよい。
【0025】
管状部3は、水素ガスを選択的に透過させる性質を持つ水素透過膜4を備える。水素透過膜4は、保管容器1が放射性物質2を収納したときに、放射性物質2の最上面よりも低い位置に(放射性物質2の内部に位置するように)設けられる。すなわち、水素透過膜4は、保管容器1が放射性物質2を収納したときに、水素透過膜4の周囲の少なくとも一部が放射性物質2で囲まれるような位置に設けられる。詳細は
図4A〜
図4Cを用いて後述するが、水素透過膜4は、管状部3の側面の一部を構成してもよいし、管状部3の底面の少なくとも一部を構成してもよいし、管状部3の内部空間の横断面に沿って管状部3の内部に設けられてもよい。例えば、水素透過膜4が管状部3の側面の一部を構成する場合には、水素透過膜4の一方の面が放射性物質2に対向するように設けられる(
図1と
図4Aを参照)。水素透過膜4は、周囲の少なくとも一部が放射性物質2で囲まれており、放射性物質2に近接又は隣接しているので、放射性物質2の崩壊熱により加熱されて温度が高くなり、水素透過性能が向上する。
【0026】
保管容器1の内部では、水の放射線分解により、水素ガスが発生する。保管容器1の内部の水素ガスは、水素透過膜4を透過して管状部3の内部に流入し、管状部3の内部を流れて、管状部3の開口している一端(開口部8)から保管容器1の外部へ放出される。水素透過膜4は水素ガスのみを選択的に透過させるので、放射性物質2は、保管容器1の外部に流出しない。すなわち、保管容器1は、水素ガスのみを選択的に外部に放出する。水素透過膜4を透過して保管容器1の外部に放出された水素ガスは、大気中の空気と混じって希釈されて排出される。
【0027】
管状部3の内部に流入した水素ガスは、保管容器1の上部に向かって流れる。このため、管状部3の開口している一端は、保管容器1の上面に開口するのが好ましい。ただし、管状部3は、保管容器1の側面に開口してもよい。
【0028】
高線量の放射性物質2を収納した保管容器1において、水の放射線分解により発生する水素ガスの量は、保管容器1の形状と、廃棄物スラッジなどの種類、充填量、及び含水量とに依存する。代表的な条件では、年間1〜500L/年の水素ガスを発生する可能性があると評価されている。
【0029】
図2は、パラジウム合金膜の水素透過係数と温度の関係を示す図である。
図2に示す温度特性は、膜の種類がPd−5%Au、厚さが100μm、膜面積が12cm
2、膜温度が300℃での水素透過係数が1.2×10
−8mol・s
−1・m
−1・Pa
−0.5のパラジウム合金膜についての特性である。本実施例では、水素透過膜4としてこのパラジウム合金膜を用いた例を説明する。以下では、パラジウム合金膜の水素透過性能を評価する。
【0030】
一般に、水素透過膜の水素透過流量は、水素透過係数を用いて、式(1)により計算される。
J=φ・S/L×((P
1)
0.5−(P
2)
0.5) (1)
式(1)において、Jは水素透過流量(mol・s
−1)、φは水素透過係数(mol・m
−1・s
−1・Pa
−0.5)、Sは膜面積(m
2)、Lは膜の厚さ(m)、P
1は保管容器1の内部の水素分圧(MPa)、P
2は保管容器1の外部の水素分圧(MPa)を表す。なお、保管容器1の外部の水素濃度は大気条件でほとんどゼロと評価できるため、式(1)においてP
2=0とすることができる。
【0031】
図3は、本実施例による保管容器1(水素透過膜4として上記のパラジウム合金膜を用いている)において、式(1)を用いて求めた、保管容器1の内部から外部への水素透過流量N(L/年)と、保管容器1の内部の水素濃度(%)との関係を示す図である。
【0032】
図3からわかるように、保管容器1の内部の水素濃度が可燃限界濃度の4%であると、水素透過膜4の水素透過流量Nは5600L/年である。近年、水素透過係数は、水素濃度が低い領域において、理想の水素透過係数よりも1桁ほど小さい傾向にあることが知られている。この知見を考慮して水素透過膜4の水素透過性能を1/10とし、
図3から求めた値を1/10にして水素透過流量を見積もると、水素透過流量Nは560L/年である。この水素透過流量Nの値560L/年は、前述した保管容器1に廃棄物スラッジを収納した際の最大の水素発生速度500L/年を上回る。すなわち、本実施例による保管容器1では、内部で発生する量よりも多くの量の水素を外部へ排出することができ、保管容器1の内部の水素濃度を、常に可燃限界濃度の4%よりも低く保つことができる。
【0033】
図3には、比較例として、膜の種類がPd−5%Au、厚さが25μm、膜面積が12cm
2、膜温度が20℃のパラジウム合金膜について、式(1)を用いて求めた水素透過流量N(L/年)と水素濃度(%)との関係も示した。比較例では、温度が20℃の水素透過係数を、
図2のグラフを外挿して、3.0×10
−10mol・s
−1・m
−1・Pa
−0.5と求めた。
図3からわかるように、比較例の水素透過膜の水素透過流量Nは、保管容器の内部の水素濃度が可燃限界濃度の4%であると、560L/年である。比較例の場合も、本実施例の場合と同様に水素透過流量を1/10に見積もると、水素透過流量Nは56L/年であり、保管容器に廃棄物スラッジを収納した際の最大の水素発生速度500L/年を下回る。したがって、膜温度が20℃のパラジウム合金膜では、保管容器1の内部で発生する水素を十分に外部へ排出できない可能性がある。比較例では、膜の厚さを25μmとして、本実施例での厚さ(100μm)よりも薄くして水素ガスが透過しやすいようにしたが、それでも比較例の水素透過膜は、温度が低いため、本実施例の水素透過膜よりも水素透過流量Nが小さい。
【0034】
以上に示したように、水素透過膜4は、温度によって水素透過流量が大きく変化する。本実施例による放射性物質の保管容器では、放射性物質2の崩壊熱を利用し、水素透過膜4の温度を高く維持することで、水素透過膜4の水素透過流量を大きく維持することができる。また、水素透過膜4の温度を高く維持することで十分な水素透過流量が得られれば、水素透過膜4の厚さを厚くすることができる。水素透過膜4の厚さを厚くすることにより、水素透過膜4の機械的強度を向上し、水素透過膜4の破損を防止できる。
【0035】
また、式(1)より、水素透過膜4の厚さLや面積Sを変えると、水素透過膜4の水素透過流量を変えることができる。したがって、保管容器1の内部で発生する水素ガスの量(見積量)に合わせて、水素透過膜4の厚さや面積を適切な値に設定すると、保管容器1の内部の水素ガスを可燃限界濃度以下に抑制することが可能である。
【0036】
図4Aは、保管容器1の管状部3の構成を示す図であり、管状部3の縦断面図である。水素透過膜4は、管状部3の側面の一部を構成し、一方の面が放射性物質2に対向するように設けられる。管状部3の周方向に、1枚の水素透過膜4を設けてもよいし、複数枚の水素透過膜4を設けてもよい。管状部3の周方向に1枚の水素透過膜4を設ける場合には、水素透過膜4を、管状部3の周方向の全体に設けてもよく(
図1を参照)、周方向の一部に設けてもよい。また、管状部3の周方向に複数枚の水素透過膜4を設ける場合には、水素透過膜4を、管状部3の周方向に連続的に設けてもよく、不連続に設けてもよい。
【0037】
管状部3は、放射性物質2に接する開孔板5と、管状部3の内部空間に接する補強板6とを備えてもよい。開孔板5と補強板6は、水素透過膜4の支持部材であり、水素透過膜4を挟んで保持する。開孔板5は、管状部3の外周面を形成し、補強板6は、管状部3の内周面を形成し、開孔板5と補強板6との間に水素透過膜4が設置される。開孔板5は、開孔板5の一方の面と他方の面とを連通する複数の孔を有し、補強板6は、補強板6の一方の面と他方の面とを連通する複数の孔を有する。水素ガスは、これらの孔を通って、放射性物質2から水素透過膜4へ流れ、水素透過膜4を透過して管状部3の内部へ流れる。
【0038】
水素透過膜4を開孔板5と補強板6とで挟んで保持することにより、水素透過膜4の破損の可能性を極めて小さくすることができる。また、開孔板5を設けて放射性物質2と水素透過膜4との間に空間を形成することにより、水素透過膜4の劣化を防止したり、水素透過膜4の近傍で水素ガスの対流を起こして水素ガスの流れをよくしたりすることができる。
【0039】
開孔板5と補強板6は、同じ材料で形成することができ、例えば、金属のメッシュシート、パンチングメタル、又は多孔質セラミック層などを用いて形成することができる。開孔板5と補強板6が有する孔の大きさ(孔径)は、任意に定めることができる。ただし、開孔板5の孔の大きさは、放射性物質2が開孔板5の孔の中に入らないように、放射性物質2の大きさよりも小さいことが好ましい。開孔板5と補強板6の厚さは、任意に定めることができ、例えば、水素透過膜4を挟んで保持するときの強度を考慮して定めることができる。
【0040】
図4Bは、保管容器1の管状部3の別な構成を示す図であり、管状部3の縦断面図である。水素透過膜4は、管状部3の底面の一部を構成し、一方の面が放射性物質2に対向するように設けられる。水素透過膜4は、管状部3の底面の全体を構成してもよい。水素透過膜4を、開孔板5と補強板6とで挟んで保持してもよい。
図4Bには、一例として、水素透過膜4を、開孔板5と補強板6との間に設けた場合を示しており、水素透過膜4と開孔板5と補強板6とで、管状部3の底面を構成している。
【0041】
図4Cは、保管容器1の管状部3の別な構成を示す図であり、管状部3の縦断面図である。水素透過膜4は、管状部3の内部空間の横断面に沿って管状部3の内部に設けられる。水素透過膜4を、開孔板5と補強板6とで挟んで保持してもよい。
図4Cには、一例として、水素透過膜4を、開孔板5と補強板6との間に設けた場合を示している。
【0042】
図4A〜4Cに示すように、水素透過膜4は、保管容器1が放射性物質2を収納したときに、放射性物質2の最上面よりも低い位置に(放射性物質2の内部に位置するように)設けられる。すなわち、水素透過膜4は、保管容器1が放射性物質2を収納したときに、水素透過膜4の周囲の少なくとも一部が放射性物質2で囲まれるような位置に設けられる。水素透過膜4は、周囲の少なくとも一部が放射性物質2で囲まれており、放射性物質2に近接又は隣接しているので、放射性物質2の崩壊熱により加熱されて温度が高くなり、水素透過性能が向上する。
【0043】
本実施例では、水素透過膜4として、パラジウム合金膜を用いた場合を説明した。パラジウム合金膜以外にも、水素透過性のある白金、ニッケル、ニオブ、バナジウム、ジルコニウム、タングステン、チタン、及びルテニウムのうち、少なくともいずれか1種を含む合金膜や、ポリイミドを主成分として含む高分子膜、又は窒化ケイ素を主成分として含むセラミック膜を水素透過膜4として用いても、本実施例と同じ効果が期待できる。
【0044】
水素透過膜4により、保管容器1の内部と外部は仕切られており、放射性物質2が保管容器1の外部へ移行することはない。
【0045】
本実施例では、放射線分解によって水素が発生する場合を例に挙げて説明したが、原子力発電所で発生したアルミや亜鉛などの両性金属を含む雑固体廃棄物等の腐食によって水素が発生する場合にも、本発明は適用可能である。
【0046】
図5は、内部に複数個の管状部3を備える保管容器1の構成を示す模式図である。
図5に示すように、保管容器1は、内部に複数個の管状部3を備えることもできる。複数個の管状部3は、保管容器1から水素ガスを効率的に放出するために、保管容器1の内部に等間隔に配置するのが好ましい。また、管状部3における水素透過膜4の位置は、複数個の管状部3で同じでも異なってもよい。
【0047】
図6は、保管容器1の管状部3の構成を示す図であり、管状部3の縦断面図である。水素透過膜4は、管状部3の側面の一部を構成し、一方の面が放射性物質2に対向するように設けられる。
図6に示す保管容器1では、1つの管状部3の長さ方向に、複数枚の水素透過膜4が設けられている。水素透過膜4は、管状部3の長さ方向に連続的に設けてもよく、不連続に設けてもよい。
図6に示した例では、2枚の水素透過膜4が、管状部3の長さ方向に不連続に設けられている。
【0048】
図5や
図6に示す保管容器1は、保管容器1の内部の水素ガスを更に効率的に外部へ放出することができるという利点を持つ。
【実施例3】
【0053】
本発明の実施例3による放射性物質の保管容器の構成を説明する。本実施例の保管容器は、実施例1の保管容器と同様の構成を備えるが、管状部が相違する。以下では、実施例1との相違点を主に説明する。
【0054】
図8は、本実施例による放射性物質の保管容器の管状部の構成を示す図であり、管状部の縦断面図である。保管容器1は、内部に管状部23を備える。管状部23は、内部に水素再結合触媒層7を備える。水素再結合触媒層7は、水素再結合触媒が充填されており、水素ガスを酸素ガスと再結合させて水蒸気に変換する。水素透過膜4を透過した水素ガスは、水素再結合触媒層7により水蒸気に変換され、大気中の空気と混じって、管状部23の内部から保管容器1の外部へ排出される。
【0055】
水素再結合触媒層7は、水素透過膜4を透過した水素ガスを水蒸気に変換するため、管状部23の内部において、水素透過膜4と管状部23の開口部8との間に設置するのが好ましい。
図8に示した例では、水素再結合触媒層7は、管状部23の内部において、水素透過膜4の面のうち、放射性物質2に対向しない面(放射性物質2に対向する面と反対側の面)に対向する位置に設置されている。
【0056】
水素再結合触媒層7に充填される水素再結合触媒としては、酸化セリウム、又は酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの混合酸化物からなる担体と、この担体に担持されたパラジウムとから構成される触媒を例示することができる。
【0057】
図9は、本実施例による放射性物質の保管容器の管状部の別の構成を示す図であり、管状部の縦断面図である。保管容器1は、内部に管状部33を備える。管状部33は、内部に水素再結合触媒層7を備え、実施例2の保管容器(
図7)と同様に、両端が保管容器1の外部へ開口している(すなわち、管状部13は両端に開口部8を備える)。水素再結合触媒層7の構成と機能と設置位置は、
図8を用いた上記の説明と同様である。
【0058】
本実施例による放射性物質の保管容器1は、水素再結合という化学反応を利用して、水素透過膜4を透過した水素ガスを除去する。このため、本実施例による放射性物質の保管容器1は、実施例1と実施例2の保管容器1が持つ効果を有するとともに、水素透過膜4を透過した水素ガスを水蒸気に変換することで、より安全に放射性物質を収納、保管、移送、及び埋設処分することができる。
【0059】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成を追加・削除・置換することが可能である。