特許第6242305号(P6242305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242305
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ用スタッドピン
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/16 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   B60C11/16 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-152024(P2014-152024)
(22)【出願日】2014年7月25日
(65)【公開番号】特開2016-30449(P2016-30449A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 早智雄
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05458174(US,A)
【文献】 特開昭57−110812(JP,A)
【文献】 米国特許第04637767(US,A)
【文献】 実開昭58−127212(JP,U)
【文献】 実開昭49−084801(JP,U)
【文献】 特開平07−117418(JP,A)
【文献】 特開昭62−173306(JP,A)
【文献】 特公昭46−035486(JP,B1)
【文献】 実開昭50−096848(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤのトレッド部に形成されたスタッドピン孔に埋設されるスタッドピンであって、
前記トレッド部の踏面と前記スタッドピン孔の孔底とが対向する方向に軸線が延びるように、前記スタッドピン孔に埋設されるピン本体と、
前記ピン本体の周部から径方向外側へ突出しており、前記ピン本体の軸線方向に間隔を空けながら螺旋状に延在している突条と、
前記突条の頂部から径方向外側へ突出した少なくとも1個の突起と
を備えるスタッドピン。
【請求項2】
前記突起は、
前記突条の前記頂部上の突出開始位置から、前記突条が前記ピン本体の前記踏面側端部へ向かう延在方向に進むにつれて次第に突出する第1の部分と、
前記第1の部分から前記ピン本体の径方向に沿って延びて、前記突条の前記頂部上の突出終了位置に戻る第2の部分と
を備える、請求項1に記載のスタッドピン。
【請求項3】
前記突起は、複数備えられている、請求項1又は請求項2に記載のスタッドピン。
【請求項4】
前記複数の突起は、前記ピン本体の軸線周りに等角度間隔で設けられている、請求項3に記載のスタッドピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのトレッド部に形成されたスタッドピン孔に埋設されるスタッドピンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、氷雪路面での走行性能を向上させたタイヤとして、トレッド部にスタッドピンが埋設されたスタッダブルタイヤが知られている。スタッドピンは、トレッド部に形成されたスタッドピン孔に打ち込まれており、周囲がトレッド部の弾性力で締め付けられることでトレッド部に保持されている。
【0003】
このようなスタッダブルタイヤにおいては、スタッドピンは、走行時に路面入力を受けて、スタッドピン孔内で回転したり、変位してスタッドピン孔内を変形させたりして、そのためスタッドピン周りのトレッドゴムが損耗しやすい。そして、トレッドゴムの損耗が進行するにつれて、スタッドピンの周囲を締め付けるトレッドゴムの弾性力が弱まり、スタッドピンがスタッドピン孔から抜け落ちるという問題があった。
【0004】
特許文献1には、スタッドピンを、ケースとピン本体と複数の可動爪とで構成し、ケース内にピン本体を挿入したときに、ピン本体を可動爪に係合させて、可動爪をケースの貫通孔を通してトレッド部側に突出させると共に、可動爪を介したトレッド部からの反力によってケース及びピン本体をトレッド部に固定することが開示されている。また、特許文献2には、周部にねじ部が形成されたスタッドピンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−82309号公報
【特許文献2】実開昭49−84801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のスタッドピンによれば、スタッドピンが複数の部品から構成されることになり、部品点数の増大によりスタッドピンの組付作業が煩雑となる。特許文献2のスタッドピンによれば、図10に示されるように、スタッドピンの周部のねじ部は狭ピッチで径方向への変化が激しいために、所定のゴム硬度を有するトレッドゴムからなるスタッドピン孔の孔壁面をねじ部に追従させることが困難である。このため、特許文献2のスタッドピンによれば、ねじ部の孔壁面への係合が不十分となる。
【0007】
この発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、スタッドピンの組付作業性を損なうことなく、スタッドピンの耐抜け性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、空気入りタイヤのトレッド部に形成されたスタッドピン孔に埋設されるスタッドピンであって、前記トレッド部の踏面と前記スタッドピン孔の孔底とが対向する方向に軸線が延びるように、前記スタッドピン孔に埋設されるピン本体と、前記ピン本体の周部から径方向外側へ突出しており、前記ピン本体の軸線方向に間隔を空けながら螺旋状に延在している突条と、前記突条の頂部から径方向外側へ突出した少なくとも1個の突起とを備える、ことを特徴とする。
【0009】
本構成によれば、螺旋状の突条がピン本体の軸線方向に間隔を空けながら延在しているので、ピン本体の周部の径方向への突出の前記軸線方向における変化が緩やかとなる。この結果、スタッドピン孔の孔壁面をピン本体の周部と突条とに沿わせやすく、スタッドピン孔の孔壁面へ突条をしっかりと係合させることができる。
【0010】
しかも、スタッドピンを、突条が孔底側端部へ向かう延在方向に沿って回転させることで、スタッドピンのスタッドピン孔への埋設を容易に案内できる。したがって、スタッドピンのスタッドピン孔への組付作業性を損なうことなく、スタッドピンの耐抜け性を高めることができる。
【0011】
また、スタッドピン孔の孔壁面と突条との係合に加えて、突起と孔壁面との間に係合を構成できる。しかも、突起は、突条よりも径方向外側へさらに突出しているので、孔壁面によりしっかりと係合することになる。したがって、スタッドピンの耐抜け性をより高めることができる。
【0012】
前記突起は、前記突条の前記頂部上の突出開始位置から、前記突条が前記ピン本体の前記踏面側の端部へ向かう延在方向に進むにつれて次第に突出する第1の部分と、前記第1の部分から前記ピン本体の径方向に沿って延びて、前記突条の前記頂部上の突出終了位置に戻る第2の部分とを備える、ことが好ましい。
【0013】
本構成によれば、スタッドピンを、突条がピン本体の孔底側の端部へ向かう延在方向(埋設回転方向と称する)に沿って回転させながら、スタッドピン孔に埋設させるとき、突起は、突起の第1の部分からスタッドピン孔の孔壁面に埋設されることになる。突起の第1の部分は、突条の頂部から次第に突出しているので、スタッドピンのスタッドピン孔への埋設が妨げられることがない。
【0014】
一方、スタッドピンに踏面側への外力が作用したとき、螺旋状に延在する突条により、突条が踏面側の端部へ向かう延在方向(緩み回転方向と称する)に沿って、スタッドピンを回転させる力が生じることになる。しかしながら、スタッドピンを緩み回転方向に回転させる力は、突起の第2の部分により妨げられ、スタッドピンの緩み回転方向への回転が防止される。すなわち、突起の第2の部分は、第1の部分からピン本体の径方向に沿って延びているので、スタッドピンの緩み回転方向への回転に抗する返り部として作用し、これにより、スタッドピンの緩み回転方向への回転を防止できる。
【0015】
したがって、突起を設けながらも、スタッドピンのスタッドピン孔への組付作業性を損なうことなく、スタッドピンの耐抜け性を高めることができる。
【0016】
前記突起は、複数備えられている、ことが好ましい。
【0017】
本構成によれば、複数の突起により、スタッドピン孔の孔壁面との間に複数の返り部が構成されることになるので、スタッドピンの緩み回転方向への回転をさらに防止できる。
【0018】
前記複数の突起は、前記ピン本体の軸線周りに等角度間隔で設けられている、ことが好ましい。
【0019】
本構成によれば、突起をピン本体の周方向にバランス良く配置できるので、スタッドピンをスタッドピン孔へ安定して埋設できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るスタッドピンによれば、スタッドピンの組付作業性を損なうことなく、スタッドピンの耐抜け性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部に形成されたトレッドパターンを展開して示す平面図。
図2】トレッド部に形成されたスタッドピン孔の断面図。
図3】スタッドピンの斜視図。
図4】スタッドピンの側面図。
図5図4のV−V線に沿った断面図。
図6】スタッドピン孔にスタッドピンを埋設した状態を示す断面図。
図7A】スタッドピンに踏面側へ向けた外力が作用した状態を示す断面図。
図7B図7AのA−A線に沿った断面図。
図8A】スタッドピンに孔底側へ向けた外力が作用した状態を示す断面図。
図8B図8AのB−B線に沿った断面図。
図9】他の実施形態に係るスタッドピンの要部を拡大して示す、図5のIX−IX線に沿った断面図。
図10】従来例に係るスタッドピンをスタッドピン孔へ埋設した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ1のトレッド部2を展開して示す平面図である。図1に示されるように、トレッド部2には、タイヤ周方向にジグザグ状に延びる複数の主溝3と、タイヤ幅方向に延在する複数の横溝4と、が形成されており、これらの主溝3及び横溝4により、複数のブロック5が画定されている。スタッドピン10は、ブロック5の一部に形成されたスタッドピン孔20に埋設されている。
【0024】
図2は、スタッドピン孔20の軸線方向に沿った断面図であり、スタッドピン10が埋設されていない状態を示す。図2に示されるように、スタッドピン孔20は、トレッド部2の踏面に開口する踏面側円筒部21と、踏面側円筒部21の底部に隣接して設けられており、踏面側円筒部21よりも拡径された拡径部22とを、有している。
【0025】
スタッドピン孔20の拡径部22は、最外径部22aを挟んで、下側に位置する拡径部下部22bと、上側に位置する拡径部上部22cと、に区分されている。拡径部下部22bは、スタッドピン孔20の底部を形成している。拡径部上部22cは、最外径部22aから踏面側円筒部21の下端部に至るように、踏面側に向けて先細りに形成されている。
【0026】
図3は、スタッドピン10を頂部側から見た斜視図である。図3に示されるように、スタッドピン10は、ピン本体11と、ピン本体11の頂部側(図3中上端側)に設けられたチップ12と、ピン本体11の基端部側(図3中下端側)にピン本体11の外径よりも大きな外径を有するフランジ13と、を有している。加えて、スタッドピン10には、ピン本体11の周部に螺旋状に延在する突条14と、突条14の径方向外方の頂部から径方向外方へさらに突出した複数の突起15と、が設けられている。
【0027】
スタッドピン10は、スタッドピン孔20に埋設された状態にて、チップ12を踏面側から露出させつつ、ピン本体11、突条14、及び突起15がスタッドピン孔20の踏面側円筒部21に対応して位置すると共に、フランジ13がスタッドピン孔20の拡径部22に対応して位置するように、形成されている。
【0028】
ピン本体11は、軽い金属材料(例えば、アルミニウム合金)からなり、底部にフランジ13が一体に形成されている。チップ12は、路面に当接して氷雪を粉砕するように硬い金属材料(例えば、タングステン又は超硬合金)からなり、ピン本体11の頂部に、例えばロウ付けにより接合されている。突条14及び突起15は、ピン本体11に例えば転造又は鋳造により一体に形成されてもよく、若しくは別体に形成した突条14及び突起15が、例えばロウ付けによりピン本体11に接合されてもよい。
【0029】
図4は、スタッドピン10の側面図である。図4に示されるように、ピン本体11は、スタッドピン孔20に埋設されたとき、トレッド部2の踏面側に位置する踏面側端部11aと、スタッドピン孔20の孔底側に位置する孔底側端部11bと、を有している。ピン本体11は、略棒状の形態を呈し、踏面側端部11a側に位置する円柱部11cと、円柱部11cとフランジ13とを連結しており円柱部11cよりも縮径された縮径部11dと、を備えている。
【0030】
ピン本体11の外径D1は、スタッドピン孔20の踏面側円筒部21における孔径D2(図2参照)よりも大きく形成されており、好適には、6mm〜8.5mmの範囲に設定されている。同様に、フランジ13の外径D3は、スタッドピン孔20の拡径部22の最外径部における孔径D4(図2参照)よりも大きく形成されている。このように、スタッドピン10の各部の外径を、それぞれ対応するスタッドピン孔20の踏面側円筒部21及び拡径部22における孔径に対して大きく形成することで、この径の差を締め代として、スタッドピン10がスタッドピン孔20に弾性的に保持されるようになっている。
【0031】
突条14は、ピン本体11の周部から径方向外側に突出しており、ピン本体11の軸線方向Sに沿って間隔を空けながら螺旋状に延在している。突条14の、形成ピッチPは、突条14が軸線方向Sに間隔を空けて形成されるように設定されており、好適には、ピン本体11の円柱部11cの長さLに対して1/5〜1/3の範囲に設定されている。
【0032】
言い換えると、形成ピッチPは、スタッドピン10がスタッドピン孔20に埋設された状態にて、ピン本体11及び突条14の周囲にスタッドピン孔20の孔壁面が追従しやすいように設定されている。さらに言い換えると、形成ピッチPは、突条14が軸線方向Sに沿って密に集合することがないように又は隣接することがないように設定されている。
【0033】
スタッドピン10を突条14が踏面側端部11aに向かう延在方向に沿って回転させると、螺旋状の突条14により案内されてスタッドピン10はトレッド部2の踏面側に移動することになる。逆に、スタッドピン10を突条14が孔底側端部11bに向かう延在方向に沿って回転させると、スタッドピン10はトレッド部2の孔底側に移動することになる。ここで、突条14が踏面側端部11aに向かう延在方向に回転させるときの回転方向を緩み回転方向Rと称し、突条14が孔底側端部11bに向かう延在方向に回転させるときの回転方向を埋設回転方向Fと称して、以下説明する。
【0034】
図5は、図4のV−V線に沿った断面図であり、スタッドピン10の円柱部11cにおける、軸線方向Sに垂直な断面を示している。図5に示されるように、突条14の頂部位置における外径D5がピン本体11の外径D1の1.15〜1.2倍となるように、突条14のピン本体11の周部からの突出高さH2が設定されている。
【0035】
突起15は、ピン本体11の周りに、1周につき等角度間隔で4箇所に、各周に設けられている。各突起15は、突条14の径方向外側の頂部上の突出開始位置14aから、突条14の延在方向に沿って緩み回転方向Rに進むにつれて次第に突出する第1の部分15aと、第1の部分15aからピン本体11の径方向に沿って延びて、突条14の頂部上の突出終了位置14bに戻る第2の部分15bとを備えている。言い換えると、突起15の第1の部分15aと第2の部分15bとの間には、段部16が形成されている。
【0036】
好適には、突起15の周方向長さWは、ピン本体11の外径D1の1/6〜1/3の範囲に設定されている。突起15の周方向長さWが、ピン本体11の外径D1の1/6よりも小さい場合には突起15の孔壁面への係合が弱くなり、ピン本体11の外径D1の1/3よりも大きい場合にはスタッドピン10のスタッドピン孔20への組付作業性が悪化する。
【0037】
突起15のピン本体11の周部からの最大突出高さH1は、突条14のピン本体11の周部からの突出高さH2の約2倍に形成されている。
【0038】
第2の部分15bは、突条14の頂部に対して鋭角となるように形成されており、好適には、ピン本体11の周部における法線N1と第2の部分15bとの間の角度αは、3度〜7度の範囲に設定されている。このように形成された第2の部分15bによれば、スタッドピン10の緩み回転方向Rへの回転に抗する返り部を構成できる。しかも、第2の部分15bを突条14の頂部に対して鋭角となるように形成することで、第2の部分15bがスタッドピン孔20の孔壁面へよりしっかりと係合するようになり、スタッドピン10の緩み回転方向Rへの回転により抗しやすくなっている。
【0039】
図6は、スタッドピン10をスタッドピン孔20に埋設した状態を示す断面図である。スタッドピン10のピン本体11の周部に、突条14を軸線方向Sに間隔を空けながら螺旋状に延在するように設けたので、スタッドピン10のピン本体11の周部、突条14、及び突起15に、スタッドピン孔20の孔壁面が追従するようになっている。
【0040】
次に、このように構成した、スタッドピン10による作用を図7図8を参照して説明する。
【0041】
図7A中に白抜き矢印で示すように、スタッドピン孔20に埋設されたスタッドピン10に踏面側へ向かう外力Xを加えたとき、スタッドピン10の周部に形成された突条14及び複数の突起15により、スタッドピン10の踏面側への移動が防止されることになる。そして、前記踏面側へ向かう外力Xは、突条14が踏面側へ向かう延在方向に、螺旋状に形成された突条14によって向けられて、すなわち、スタッドピン10を緩み回転方向Rへ回転させる回転力XRに変換されることになる。
【0042】
このとき、図7AのA−A線における断面を示す図7Bにおいて、緩み回転方向Rへの回転力XRは、突起15の第2の部分15bとスタッドピン孔20の孔壁面との係合により妨げられるので、スタッドピン10の緩み回転方向Rへの回転が防止される。なお、突起15の第2の部分15bは、突条14の頂部に対して鋭角に形成されているので、第2の部分15bとスタッドピン孔20の孔壁面との間には、よりしっかりと係合部が構成されている。この結果、スタッドピン10は、緩み回転方向Rへ、より一層回転し難くなっている。
【0043】
一方、図8A中に白抜き矢印で示すように、スタッドピン孔20に埋設されたスタッドピン10に孔底側へ向かう外力Yを加えたとき、外力Yは、突条14が孔底側へ向かう延在方向に、螺旋状に形成された突条14によって向けられて、すなわち、スタッドピン10を埋設回転方向Fへ回転させる回転力YFに変換されることになる。
【0044】
このとき、図8AのB−B線における断面を示す図8Bにおいて、埋設回転方向Fへの回転力YFにより、スタッドピン10はスタッドピン孔20の孔底側へ押し付けられることになる。突起15は、埋設回転方向Fにおいては突条14の頂部から次第に突出する第1の部分15aが形成されているので、第1の部分15aによりスタッドピン10の埋設方向への回転が案内されるようになっている。
【0045】
以上説明した、スタッドピン10によれば、以下の効果を発揮できる。
【0046】
(1)螺旋状の突条14がピン本体11の軸線方向Sに間隔を空けながら延在しているので、軸線方向Sにおけるピン本体11の周部の径方向への突出の変化が緩やかとなる。この結果、スタッドピン孔20の孔壁面をピン本体11の周部と突条14とに沿わせやすく、スタッドピン孔20の孔壁面へ突条14をしっかりと係合させることができる。
【0047】
しかも、スタッドピン10を、突条14が孔底側端部11bへ向かう延在方向に沿って回転させることで、スタッドピン10のスタッドピン孔20への埋設を容易に案内できる。したがって、スタッドピン10のスタッドピン孔20への組付作業性を損なうことなく、スタッドピン10の耐抜け性を高めることができる。
【0048】
(2)スタッドピン孔20の孔壁面と突条14との係合に加えて、突起15と孔壁面との間に係合を構成できる。しかも、突起15は、突条14よりも径方向外側へさらに突出しているので、孔壁面によりしっかりと係合することになる。したがって、スタッドピン10の耐抜け性をより高めることができる。
【0049】
(3)スタッドピン10を、埋設回転方向Fに沿って回転させてスタッドピン孔20に埋設させるとき、突起15は、第1の部分15aからスタッドピン孔20の孔壁面に埋設されることになる。すなわち、突起15の第1の部分15aは、突条14の頂部上の突出開始位置14aから次第に突出しているので、スタッドピン10のスタッドピン孔20への埋設が妨げられることがない。
【0050】
一方、スタッドピン10に踏面側への外力が作用したとき、螺旋状に延在する突条14により、緩み回転方向Rにスタッドピン10を回転させる力が生じることになる。しかしながら、スタッドピン10を緩み回転方向Rへ回転させる力は、突起15の第2の部分15bにより妨げられ、スタッドピン10の緩み回転方向Rへの回転が防止される。
【0051】
すなわち、突起15の第2の部分15bは、第1の部分15aからピン本体11の径方向に沿って延びているので、スタッドピンの緩み回転方向への回転に抗する返り部として作用し、これにより、スタッドピン10の緩み回転方向Rへの回転を防止できる。言い換えれば、突起15の第2の部分15bとスタッドピン孔20の孔壁面との間にスタッドピン10の緩み回転方向Rへの回転に抗する係止部を構成できる。
【0052】
したがって、突起15を設けながらも、スタッドピン10のスタッドピン孔20への組付作業性を損なうことなく、スタッドピン10の耐抜け性を高めることができる。
【0053】
(4)複数の突起15をピン本体11の周方向に等角度間隔でバランス良く配置することで、スタッドピン10をスタッドピン孔20へ安定して埋設できる。
【0054】
なお、上記実施形態で説明した突起15に代えて、踏面側へ向けて傾斜した突起150を設けてもよい。すなわち、図5のIX−IX線に沿った断面図を示す図9において、突起150は、突条14の頂部から、踏面側に向けて傾斜するように設けられている。好適には、突起150と突条14の頂部の法線N2との間の角度βは、約30度に設定されている。これにより、スタッドピン10の踏面側への移動をさらに抑制することができる。
【0055】
また、突条14及び突起15を、ピン本体11の円柱部11cの周部のみならず、縮径部11dの周部に設けてもよく、及び/又はフランジ13の周部に設けてもよい。
【0056】
本発明は例示された実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変形が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0057】
次に、以上説明したスタッドピンの作用効果について検証試験を実施した。表1のように構成された本発明スタッドピンをトレッド部に埋設したスタッダブルタイヤ(実施例1)と、比較スタッドピンをトレッド部に埋設したスタッダブルタイヤ(比較例1)と、を作製した。
【0058】
本発明スタッドピンは、上記実施形態で説明されたスタッドピン10であり、すなわち、ピン本体11の周部に螺旋状の突条14と、突条14の頂部に複数の突起15と、を備えている。比較スタッドピンには、突条14も突起15も設けられていない。
【0059】
各スタッダブルタイヤを、評価用リムに装着すると共に、内圧210kPaの空気圧にて、乾燥路をスラローム走行にて150km走行した後に、スタッドピンの脱落有無を確認したところ表1に示す結果を得た。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示されるように、比較例1に係るスタッダブルタイヤは、スタッドピンの脱落が認められるが、実施例1に係るスタッダブルタイヤは、スタッドピンの脱落が認められない。
【符号の説明】
【0062】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 主溝
4 横溝
5 ブロック
10 スタッドピン
11 ピン本体
11a 踏面側端部
11b 孔底側端部
12 チップ
13 フランジ
14 突条
15 突起
20 スタッドピン孔
21 踏面側円筒部
22 拡径部
R 緩み回転方向
F 埋設回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10