(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハは、予め大面積で作られた後、チップ状にダイシング(切断分離)されてマウント工程に移される。そのダイシングに際して、半導体ウエハを固定するために用いられるのがダイシングフイルムである。
【0003】
ダイシングフイルムは、基本的には半導体ウエハを固定する粘着剤層とダイシングカッターの切り込みを受ける樹脂層(ダイシング用基体フイルム)とから構成されている。ダイシングフイルムに固定された半導体ウエハは、チップ状にダイシングされて、各チップ同士を分離するために、ダイシングフイルムがエキスパンドリング上で面方向に一様にエキスパンドされた後、各チップがピックアップされる。
【0004】
このようなダイシングフイルムとして、例えば、基材が少なくとも無延伸ポリプロピレン層を有し、該無延伸ポリプロピレン層上に粘着剤層が形成されてなるウェハ貼着用粘着シートが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、ダイシングフイルムとして、例えば、粘着テープの25℃での伸び率が200%以上であって、25℃で伸び率200%以上に伸ばした後、100℃に加熱することで伸び率が120%以下に収縮し、1号ダンベル形状(JIS K6251)で打ち抜いた前記収縮した粘着テープを、標線間距離40mm、引張速度1000mmm/minで、25℃において120%に伸ばしたときにかかる力が、2N以上であるウエハ加工用テープが提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2では、エキスパンド後のダイシングフイルムのラック収納・回収性について十分に検討されていない。上述のチップを形成する工程では、ダイシングフイルムをエキスパンドした状態で一部のチップをピックアップして、他のチップを残しておき、ダイシングフイルムを元の状態に戻してラックに収納して回収し、他の機会に用いる場合がある。このような用い方をする場合、ダイシングフイルムに用いられるダイシング用基体フイルムには、高い復元率を示すことが要求される。
【0007】
また、ダイシングフイルムには、エキスパンドされる際に、優れた拡張性を示すことが要求される。特許文献1及び2においては、ダイシングフイルムを形成するダイシング用基体フイルムの拡張性について十分に検討されておらず、ダイシングフイルムをエキスパンドした際に、全方向に均等に拡張され難いという問題がある。
【0008】
従って、優れた拡張性及びラック収納・回収性を示すダイシング用基体フイルムの開発が望まれており、それを用いたダイシングフイルムの開発が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
I.ダイシング用基体フイルム
本発明のダイシング用基体フイルムは、ポリプロピレン系樹脂を含有するダイシング用基体フイルムであって、上記ポリプロピレン系樹脂は、
13C−NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60〜85%であり、上記ダイシング用基体フイルムの引張弾性率が150MPa以上500MPa以下である。
【0015】
本発明のダイシング用基体フイルムが含有するポリプロピレン系樹脂は、
13C−NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率(mmmm分率)が60〜85%である。ポリプロピレン系樹脂のメソペンタッド分率が60%未満であると結晶性が低いため粘着性が高くなり過ぎ、チップをピックアップし難くなり、85%を超えると結晶性が高過ぎてエキスパンド時に伸び難く、全方向に均等に拡張し難い。上記ポリプロピレン系樹脂のメソペンタッド分率は、好ましくは60〜80%であり、より好ましくは60〜75%である。
【0016】
本発明において、メソペンタッド分率mmmmは、
13C−NMRを使用して測定され
るポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を示している。具体的には、プロピレン単位で5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるメチル基に由来する吸収強度(Pmmmm)のプロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度4(Pw)に対する比、すなわち〔(Pmmmm)/(Pw)〕として求められる値である。
【0017】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂は、メソペンタッド分率が上記範囲となるよう調整することができるものであれば、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンと他の1種以上のモノマーとの共重合体であってもよい。共重合体の場合、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよく、他のモノマーの共重合量に関係なく使用できるが、他のモノマーの共重合量が10wt%以下であるポリプロピレン系樹脂が望ましい。
【0018】
本発明で好ましく用いられるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体が挙げられるが、中でも、プロピレン単独重合体がより好ましい。また、これらの重合体をブレンドして用いてもよい。
【0019】
前述のαオレフィンの具体例としては、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、メチルエチル−1−ブテン、1−オクテン、メチル−1−ペンテン、エチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、プロピル−1−ヘプテン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等を挙げることができる。
【0020】
本発明で使用するポリプロピレン系樹脂のメソペンタッド分率を上述の範囲に調整する方法としては、樹脂成分として、メソペンタッド分率が上述の範囲であるポリプロピレン系樹脂を単独で用いる方法や、異なるメソペンタッド分率を示す2種以上のポリプロピレン系樹脂を任意の配合比率で混合して樹脂成分を調製し、当該樹脂成分のメソペンタッド分率を上述の範囲となるように調整する方法が挙げられる。
【0021】
本発明で使用するポリプロピレン系樹脂は、230℃、荷重21.18Nの条件で測定
したメルトフローレート(MFR)が0.5〜30g/10分、好ましくは0.5〜20g/10分、より好ましくは0.5〜10g/10分である。メルトフローレートが上記範囲のポリプロピレン系樹脂は、フイルムまたはシート用途として好適である。
【0022】
本発明のダイシング用基体フイルムを形成するための樹脂組成物は、上記樹脂成分の他に、更に帯電防止剤を含んでいてもよい。
【0023】
上記帯電防止剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の公知の界面活性剤を選択できるが、とりわけ持続性、耐久性の点から、ポリエーテルエステルアミド樹脂(以下「PEEA樹脂」と表記する)、親水性ポリオレフィン樹脂(以下「親水性PO樹脂」と表記する)等のノニオン系界面活性剤が好適である。
【0024】
上記PEEA樹脂は、親水性付与の主たるユニット成分であるポリエーテルエステルと、ポリアミドユニットとから構成されるポリマーであり、市販されているか、或いは公知の方法で容易に製造することができる。PEEA樹脂として、例えば、三洋化成工業(株
)のペレスタットNC6321等が例示される。また、特開昭64−45429号公報、特開平6−287547号公報等にその製法が記載されており、これによれば、例えば、主鎖中にエーテル基を有するポリジオール成分にジカルボン酸成分を反応させて末端エステルに変え、これにアミノカルボン酸又はラクタムを反応させて製造できる。PEEA樹脂は、上記いずれの層の樹脂とも相溶性が良く、ブリードアウトするような現象は一切ない。
【0025】
親水性PO樹脂としては、例えば、親水性ポリエチレン(以下「親水性PE樹脂」と表記する)又は親水性ポリプロピレン(以下「親水性PP樹脂」と表記する)が例示される。
【0026】
親水性PE樹脂又は親水性PP樹脂は、基本的にはポリエチレン鎖又はポリプロピレン鎖とポリオキシアルキレン鎖とがブロック結合したものであり、高い除電作用が発揮され静電気の蓄積をなくす。この結合は、エステル基、アミド基、エーテル基、ウレタン基等によって行われている。フイルム樹脂との相溶性の点から、この結合はエステル基又はエーテル基であるのが好ましい。親水性PP樹脂として、例えば、三洋化成工業(株)のペレスタット230等が例示される。
【0027】
親水性PE樹脂又は親水性PP樹脂におけるポリエチレン鎖又はポリプロピレン鎖の分子量は、例えば1200〜6000程度である。この分子量範囲であると、ポリオキシアルキレン鎖にポリエチレン又はポリプロピレンをブロック結合させる前段階の、ポリエチレン又はポリプロピレンの酸変性化が容易であるためである。
【0028】
また、親水性PE樹脂又は親水性PP樹脂におけるポリオキシアルキレン鎖の分子量は、耐熱性及び酸変性後のポリエチレン又はポリプロピレンとの反応性の点から、1000〜15000程度であるのが良い。なお、上記した分子量は、GPCを用いて測定した値である。
【0029】
親水性PE樹脂又は親水性PP樹脂は、例えば、上記した分子量を有するポリエチレン又はポリプロピレンを酸変性し、これにポリアルキレングリコールを反応させて製造することができる。より詳細については、例えば、特開2001−278985号公報、特開2003−48990号公報に記載されている。
【0030】
本発明のダイシング用基体フイルムが帯電防止剤を含む場合、帯電防止剤の含有量は、上記樹脂成分100重量部に対し10〜45重量部が好ましく、より好ましくは15〜30重量部である。かかる範囲であれば、ダイシング工程の後のエキスパンド工程において、エキスパンドリングと接して一様にエキスパンドされる場合の滑り性を損なうことなく有効に半導電性が付与されるため、発生する静電気をすばやく除電することができる。例えば、上記した範囲で帯電防止剤を含有させた本発明のダイシング用基体フイルムの表面抵抗率は、10
7〜10
12Ω/□程度となるため好ましい。
【0031】
本発明のダイシング用基体フイルムが後述するように多層である場合、上記帯電防止剤は、上述のメソペンタッド分率が60〜85%のポリプロピレン系樹脂を含有する層に含まれることが好ましい。本発明のダイシング用基体フイルムが多層である場合、上記ポリプロピレン系樹脂を含有する層は、ダイシング用基体フイルムの表面(粘着剤層が積層される側)に積層されるので、ダイシング用基体フイルムの表面が帯電することによるウエハの破損を抑制することができる。
【0032】
本発明のダイシング用基体フイルムには、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、さらにアンチブロッキング剤等を加えてもよい。アンチブロッキング剤を添加することによ
り、ダイシング用基体フイルムをロール状に巻き取った場合等のブロッキングが抑えられ好ましい。アンチブロッキング剤としては、無機系または有機系の微粒子を例示することができる。
【0033】
本発明のダイシング用基体フイルムが後述するように多層である場合、上記アンチブロッキング剤等を含む層は特に限定されず、上述のメソペンタッド分率が60〜85%のポリプロピレン系樹脂を含有する層、及び他の層に含まれていてもよい。
【0034】
本発明のダイシング用基体フイルムは、単層であっても多層であってもよい。本発明のダイシング用基体フイルムが単層である場合、当該ダイシング用基体フイルムは、上述のメソペンタッド分率が60〜85%のポリプロピレン系樹脂を含有する樹脂成分、及び必要に応じて帯電防止剤、アンチブロッキング剤等を含む樹脂組成物により形成される。
【0035】
ダイシング用基体フイルムが単層である場合、当該ダイシング用基体フイルムの厚みは、ダイシングブレードの切り込み深さよりも厚くし、且つ容易にロ−ル状に巻くことができる程度であれば良く、たとえば50〜300μmが好ましく、より好ましくは60〜250μm、更に好ましくは70〜200μmである。
【0036】
ダイシング用基体フイルムが多層である場合、上述のメソペンタッド分率が60〜85%のポリプロピレン系樹脂を含有する層が表面(粘着剤層が積層される側)に積層されており、且つ、ダイシング用基体フイルムの引張弾性率を150MPa以上500MPa以下とすることができれば、他の層に含まれる樹脂成分は特に限定されない。
【0037】
ダイシング用基体フイルムが多層である場合、積層数は特に限定されないが、上述のメソペンタッド分率が60〜85%のポリプロピレン系樹脂を含有する層と、他の層との2層構成が好ましい。
【0038】
ダイシング用基体フイルムが多層である場合、当該ダイシング用基体フイルムの総厚みは、ダイシングブレードの切り込み深さよりも厚くし、且つ容易にロ−ル状に巻くことができる程度であれば良く、たとえば50〜300μmが好ましく、より好ましくは60〜250μm、更に好ましくは70〜200μmである。また、その中でも、上記特定の範囲のメソペンタッド分率を示すポリプロピレン系樹脂を含有する層の厚みは、30〜200μmが好ましく、30〜150μmがより好ましい。
【0039】
本発明のダイシング用基体フイルムの引張弾性率は、150MPa以上である。引張弾性率が150MPa未満であると、ダイシング用基体フイルムの製造時に取り扱いが難しくなる。上記引張弾性率は、180MPa以上が好ましく、200MPa以上がより好ましい。また、本発明のダイシング用基体フイルムの引張弾性率は、500MPa以下である。引張弾性率が500MPaを超えると、ダイシングフイルムをエキスパンドする際の降伏点応力が低減されず、拡張性に優れたダイシングフイルムを得ることができない。上記引張弾性率は、400MPa以下が好ましく、300MPa以下がより好ましい。
【0040】
なお、本明細書において、引張弾性率は、幅25mm、長さ300mm、標線間距離250mmのサンプルを用い、株式会社島津製作所 オートグラフAG−X500N型により、23±2℃、55±5%Rhの環境下で引張速度25mm/minの条件で25mm
(引張率1%)引っ張り、引張率0.05%の際の応力、及び引張率0.25%の際の応力を求め、2点の移動距離と応力から最小二乗法により傾きを算出して、下記式により求められた値である。
(引張弾性率)=(傾き)×[(標線間距離)/(サンプルの断面積)]
【0041】
II.ダイシング用基体フイルムの製造方法
本発明のダイシング用基体フイルムは、
13C−NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60〜85%であるポリプロピレン系樹脂を含有する樹脂組成物を押出成形する工程を有し、上記ダイシング用基体フイルムの引張弾性率が150MPa以上500MPa以下である製造方法により製造することができる。このような製造方法も、本発明の一つである。
【0042】
上記ポリプロピレン系樹脂を含有する樹脂組成物を押出成形する工程は、具体的には、
13C−NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60〜85%であるポリプロピレン系樹脂を含有し、更に、必要に応じて上述の帯電防止剤、アンチブロッキング剤等を含む樹脂組成物を押出成形する工程である。
【0043】
樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂をドライブレンド又は溶融混練し、これに、必要に応じて帯電防止剤等の他の成分を加えて調製する。
【0044】
樹脂組成物を調製する際に用いられるポリプロピレン系樹脂としては、上述のダイシング用基体フイルムを調製する際に用いられるポリプロピレン系樹脂を用いることができる。樹脂成分として、メソペンタッド分率が上述の範囲であるポリプロピレン系樹脂を単独で用いる方法や、異なるメソペンタッド分率を示す2種以上のポリプロピレン系樹脂を任意の配合比率で混合して樹脂成分を調製し、当該樹脂成分のメソペンタッド分率を60〜85%に調整すると共に、得られるダイシング用基体フイルムの引張弾性率も150MPa以上500MPa以下となるように調整すればよい。
【0045】
上記樹脂組成物をスクリュー式押出機に供給し、180〜240℃でTダイからフイルム状に押出し、これを30〜70℃の冷却ロ−ルに通しながら冷却して実質的に無延伸で引き取ることが好ましい。或いは、上記樹脂組成物を一旦ペレットとして取得した後、上述の様に押出成形してもよい。
【0046】
なお、引き取りの際に実質的に無延伸とするのは、ダイシング後に行うフイルムの拡張を有効に行うためである。この実質的に無延伸とは、無延伸、或いは、ダイシングフイルムの拡張に悪影響を与えない程度の僅少の延伸を含む。通常、フイルム引き取りの際に、たるみの生じない程度の引っ張りであればよい。
【0047】
本発明のダイシング用基体フイルムが多層である場合は、上記押出成形は、上述のメソペンタッド分率が60〜85%のポリプロピレン系樹脂を含有する層を形成するための樹脂組成物と、他の層を形成するための樹脂組成物とをそれぞれ多層押出成形機に投入し、多層同時押出することにより行えばよい。
【0048】
III.ダイシングフイルム
上記により得られるダイシング用基体フイルムは、そのフイルム上に公知の粘着剤をコートして粘着剤層が形成され、さらに該粘着剤層上に離型フイルムが設けられて、ダイシングフイルムが製造される。
【0049】
粘着剤層で用いられる粘着剤成分としては、公知のものが用いられ、例えば、特開平5−211234号公報等に記載された粘着剤成分を用いることができる。なお、離型フイルムも公知のものが用いられる。
【0050】
この粘着剤層を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤が好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸エステルを主たる構成単量体単位とする単独重合体および共重合体から選ばれたアクリル系重合体、その他の官能性単量体との共重合体、およびこれら重合体
の混合物が用いられる。例えば、(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどが好ましく使用できる。アクリル系重合体の分子量は、1.0×10
5〜10.0×10
5であり、好ましくは、4.0×10
5〜8.0×10
5である。
【0051】
また、上記のような粘着剤層中に放射線重合性化合物を含ませることによって、ウエハを切断分離した後、該粘着剤層に放射線を照射することによって、粘着力を低下させることができる。このような放射線重合性化合物としては、たとえば、光照射によって三次元網状化しうる分子内に光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられる(例えば、特開昭60−196956号公報、特開昭60−223139号公報等)。
【0052】
具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレートなどが用いられる。
【0053】
さらに、放射線重合性化合物として、上記のようなアクリレート系化合物のほかに、ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、ポリエステル型またはポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有するアクリレートあるいはメタクリレートを反応させて得られる。このウレタンアクリレート系オリゴマーは、炭素−炭素二重結合を少なくとも1個以上有する放射線重合性化合物である。
【0054】
さらに、粘着剤層中には、上記のような粘着剤と放射線重合性化合物とに加えて、必要に応じ、放射線照射により着色する化合物(ロイコ染料等)、光散乱性無機化合物粉末、砥粒(粒径0.5〜100μm程度)、イソシアネート系硬化剤、UV開始剤等を含有させることもできる。
【0055】
ダイシングフイルムは、通常テープ状にカットされたロール巻き状態で取得される。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明を、実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0057】
下記の略語は次の意味を示す。
【0058】
・F−3900:ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 プライムTPO F−3900 メソペンタッド分率75%)
・E−2900:ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 プライムTPO E−2900 メソペンタッド分率75%)
・E−2710:ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 プライムTPO E−2710 メソペンタッド分率60%)
・PC412:ポリプロピレン系樹脂(サンアロマー社製 PC412 メソペンタッド分率95%)
【0059】
実施例1
F−3900をバレル温度180〜220℃の押出機に供給した。230℃のTダイスから押出し、設定温度50℃の引き取りロールにて冷却固化して、無延伸の状態で巻き取って、ダイシング用基体フイルムを調製した。
【0060】
得られたダイシング用基体フイルムの厚みは80μmであった。
【0061】
実施例2〜4及び比較例1
表1に記載の配合量にて実施例1と同様に処理してダイシング用基体フイルムを調製した。
【0062】
上述のようにして調製された実施例及び比較例のダイシング用基体フイルムを用いて、以下の評価を行った。
【0063】
<メソペンタッド分率測定>
用いるポリプロピレン系樹脂について、
13C−NMRを使用して測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を測定した。具体的には、プロピレン単位で5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるメチル基に由来する吸収強度(Pmmmm)を測定し、また、プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度4(Pw)を測定し、〔(Pmmmm)/(Pw)〕を求めて、メソペンタッド分率とした。
【0064】
<引張弾性率>
幅25mm、長さ300mm、標準間距離250mmに加工したサンプルを調製し、株式会社島津製作所製 オートグラフAG−X500N型により、23±2℃、55±5%Rhの環境下で引張速度25mm/minの条件で25mm(引張率1%)引っ張り、引
張率0.05%の際の応力、及び引張率0.25%の際の応力を求め、2点の移動距離と応力から最小二乗法により傾きを算出して、下記式により求めた。
(引張弾性率)=(傾き)×[(標線間距離)/(サンプルの断面積)]
【0065】
<拡張性測定>
先ず内径200mmのリング状枠を準備し、実施例及び比較例のダイシング用基体フイルムの全面に10×10mmのマス目を入れたサンプルを該リング状枠に挟んで固定し、このリング状枠を水平に固定した。次いで、このリング状枠の下中央位置に、外径150mmの円板を配置した。この円板を200mm/分の速度で40mm押し上げ、該サンプルを拡張した。最後に、この押し上げた状態で中央に位置しているマス目の縦方向と横方向の長さを測定し、原サンプルに対する各々の伸度(%)を求め、その伸度の比を算出した。
【0066】
<収縮性測定>
上述の拡張性測定により拡張したサンプルを60℃の温水に10秒間浸漬した。常温に戻した後に各々のサンプル長さを測定し、拡張前後の長さから、下記式に従って計算し、収縮率を算出した。なお、収縮率が90%を超えれば、ラック収納・回収性が十分なレベルであると判断している。
(収縮率)={[(エキスパンド後の長さ)−(収縮後の長さ)]/[(エキスパンド後の長さ)−(エキスパンド前の長さ)]}×100
【0067】
結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果から、実施例1〜4のダイシング用基体フイルムは、拡張性がMD方向とTD方向とで均等な値を示しており、全方向に均等に拡張することができていることが分かった。
【0070】
また、実施例1〜4のダイシング用基体フイルムは、復元率が高く、MD方向とTD方向とで均等となっており、収縮性に優れており、ラック収納・回収性に優れていることが分かった。
【0071】
これに対し、比較例1のダイシング用基体フイルムは、拡張性がMD方向とTD方向とでばらついており、全方向に均等に拡張することができていないことが分かった。
【0072】
また、比較例1のダイシング用基体フイルムは、復元率がMD方向とTD方向とでばらついており、特に、MD方向の復元率が低くなっており、収縮性に劣っており、ラック収納・回収性に劣ることが分かった。