(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動電圧の半分の電圧をそれぞれ出力する第1の電圧源と第2の電圧源とを直列に接続し、前記第1の電圧源と前記第2の電圧源との接続点を接地してなる電源回路を有することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1に記載のインクジェットヘッド。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、最適な吐出特性が得られるインクジェットヘッドの実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、この実施形態では、シェアモードタイプのインクジェットヘッド100(
図1を参照)を用いたインクジェットプリンタ200(
図5を参照)を例示する。
【0009】
はじめに、インクジェットヘッド100(以下、ヘッド100と略称する)の構成について、
図1乃至
図3を用いて説明する。
図1は、ヘッド100の一部を分解して示す斜視図、
図2は、ヘッド100の前方部における横断面図、
図3は、ヘッド100の前方部における縦断面図である。
【0010】
ヘッド100は、ベース基板9を有する。ヘッド100は、ベース基板9の前方側の上面に第1の圧電部材1を接合し、この第1の圧電部材1の上に第2の圧電部材2を接合する。接合された第1の圧電部材1と第2の圧電部材2とは、
図2の矢印で示すように、板厚方向に沿って互いに相反する方向に分極する。
【0011】
ベース基板9は、誘電率が小さく、かつ圧電部材1,2との熱膨張率の差が小さい材料を用いて形成する。ベース基板9の材料としては、例えばアルミナ(Al203)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等がよい。一方、圧電部材1,2の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)等が用いられる。
【0012】
ヘッド100は、接合された圧電部材1,2の先端側から後端側に向けて、多数の長尺な溝3を設ける。各溝3は、間隔が一定でありかつ平行である。各溝3は、先端が開口し、後端が上方に傾斜する。
【0013】
ヘッド100は、各溝3の側壁及び底面に電極4を設ける。電極4は、ニッケル(Ni)と金(Au)との二層構造となっている。電極4は、例えばメッキ法によって各溝3内に均一に成膜される。電極4の形成方法は、メッキ法に限定されない。他に、スパッタ法や蒸着法等を用いることもできる。
【0014】
ヘッド100は、各溝3の後端から第2の圧電部材2の後部上面に向けて引出し電極10を設ける。引出し電極10は、前記電極4から延出する。
【0015】
ヘッド100は、天板6とオリフィスプレート7とを備える。天板6は、各溝3の上部を塞ぐ。オリフィスプレート7は、各溝3の先端を塞ぐ。ヘッド100は、天板6とオリフィスプレート7とで囲まれた各溝3によって、複数の圧力室15を形成する。圧力室15は、例えば深さが300μmで幅が80μmの形状を有し、169μmのピッチで平行に配列される。このような圧力室15は、インク室とも称される。
【0016】
天板6は、その内側後方に共通インク室5を備える。オリフィスプレート7は、各溝3と対向する位置にノズル8を穿設する。ノズル8は、対向する溝3つまりは圧力室15と連通する。ノズル8は、圧力室15側から反対側のインク吐出側に向けて先細りの形状をなす。ノズル8は、隣り合う3つの圧力室15に対応したものを1セットとし、溝3の高さ方向(
図2の紙面の上下方向)に一定の間隔でずれて形成される。
【0017】
ヘッド100は、ベース基板9の後方側の上面に、導電パターン13が形成されたプリント基板11を接合する。そしてヘッド100は、このプリント基板11に、後述するヘッド駆動回路101を実装したドライブIC12を搭載する。ドライブIC12は、導電パターン13に接続する。導電パターン13は、各引出し電極10とワイヤボンディングにより導線14で結合する。
【0018】
一般に、ヘッド100が有する圧力室15、電極4及びノズル8の組をチャネルと称する。すなわちヘッド100は、溝3の数nだけチャネルCh.1,Ch.2,…,Ch.nを有する。
【0019】
次に、上記の如く構成されたヘッド100の動作原理について、
図4を用いて説明する。
図4の(a)は、中央の圧力室15bと、この圧力室15bに隣接する両隣の圧力室15a,15cとの各壁面にそれぞれ配設された電極4の電位がいずれもグラウンド電位GNDである状態を示す。この状態では、圧力室15aと圧力室15bとで挟まれた隔壁16a及び圧力室15bと圧力室15cとで挟まれた隔壁16bは、いずれも何ら歪み作用を受けない。
【0020】
図4の(b)は、中央の圧力室15bの電極4に負極性の電圧−Vが印加され、両隣の圧力室15a,15cの電極4に正極性の電圧+Vが印加された状態を示す。この状態では、各隔壁16a,16bに対して、圧電部材1,2の分極方向と直交する方向に電圧Vの2倍の電界が作用する。この作用により、各隔壁16a,16bは、圧力室15bの容積を拡張するようにそれぞれ外側に変形する。
【0021】
図4の(c)は、中央の圧力室15bの電極4に正極性の電圧+Vが印加され、両隣の圧力室15a,15cの電極4に負極性の電圧−Vが印加された状態を示す。この状態では、各隔壁16a,16bに対して、
図4(b)のときとは逆の方向に電圧Vの2倍の電界が作用する。この作用により、各隔壁16a,16bは、圧力室15bの容積を収縮するようにそれぞれ内側に変形する。
【0022】
圧力室15bの容積が拡張または収縮された場合、圧力室15b内に圧力振動が発生する。この圧力振動により、圧力室15b内の圧力が高まり、圧力室15bに連通するノズル8からインク液滴が吐出される。
【0023】
このように、各圧力室15a,15b,15cを隔てる隔壁16a,16bは、当該隔壁16a,16bを壁面とする圧力室15bの内部に圧力振動を与えるためのアクチュエータとなる。つまり各圧力室15は、それぞれ隣接する圧力室15とアクチュエータを共有する。このため、ヘッド駆動回路101は、各圧力室15を個別に駆動することができない。ヘッド駆動回路101は、各圧力室15をn(nは2以上の整数)個おきに(n+1)個のグループに分割して駆動する。本実施形態では、ヘッド駆動回路101が、各圧力室15を2つおきに3つの組に分けて分割駆動する、いわゆる3分割駆動の場合を例示する。なお、3分割駆動はあくまでも一例であり、4分割駆動または5分割駆動などであってもよい。
【0024】
次に、インクジェットプリンタ200(以下、プリンタ200と略称する)の構成について、
図5,
図6a,
図6bを用いて説明する。
図5は、プリンタ200のハードウェア構成を示すブロック図、
図6a,
図6bは、プリンタ200に含まれるヘッド駆動回路101の構成を示す回路図である。
【0025】
プリンタ200は、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、操作パネル204、通信インターフェース205、搬送モータ206、モータ駆動回路207、ポンプ208、ポンプ駆動回路209及びヘッド100を備える。またプリンタ200は、アドレスバス,データバスなどのバスライン211を含む。そしてプリンタ200は、このバスライン211に、CPU201、ROM202、RAM203、操作パネル204、通信インターフェース205、モータ駆動回路207、ポンプ駆動回路209及びヘッド100の駆動回路101をそれぞれ直接あるいは入出力回路を介して接続する。
【0026】
CPU201は、コンピュータの中枢部分に相当する。CPU201は、オペレーティングシステムやアプリケーションプログラムに従って、プリンタ200としての各種の機能を実現するべく各部を制御する。
【0027】
ROM202は、上記コンピュータの主記憶部分に相当する。ROM202は、上記のオペレーティングシステムやアプリケーションプログラムを記憶する。ROM202は、CPU201が各部を制御するための処理を実行する上で必要なデータを記憶する場合もある。
【0028】
RAM203は、上記コンピュータの主記憶部分に相当する。RAM203は、CPU201が処理を実行する上で必要なデータを記憶する。またRAM203は、CPU201によって情報が適宜書き換えられるワークエリアとしても利用される。ワークエリアは、印刷データが展開される画像メモリを含む。
【0029】
操作パネル204は、操作部と表示部とを有する。操作部は、電源キー、用紙フィードキー、エラー解除キー等のファンクションキーを配置したものである。表示部は、プリンタ200の種々の状態を表示可能なものである。
【0030】
通信インターフェース205は、LAN(Local Area Network)等のネットワークを介して接続されるクライアント端末から印刷データを受信する。通信インターフェース205は、例えばプリンタ200にエラーが発生したとき、エラーを通知する信号をクライアント端末に送信する。
【0031】
モータ駆動回路207は、搬送モータ206の駆動を制御する。搬送モータ206は、印刷用紙などの記録媒体を搬送する搬送機構の駆動源として機能する。搬送モータ206が起動すると、搬送機構が記録媒体の搬送を開始する。搬送機構は、記録媒体をヘッド100による印刷位置まで搬送する。搬送機構は、印刷を終えた記録媒体を図示しない排出口からプリンタ200の外部に排出する。
【0032】
ポンプ駆動回路209は、ポンプ208の駆動を制御する。ポンプ208が駆動すると、図示しないインクタンク内のインクがヘッド100に供給される。
【0033】
ヘッド駆動回路101は、印刷データに基づきヘッド100のチャネル群102を駆動する。ヘッド駆動回路101は、
図6に示すように、充放電回路300と波形発生回路400と、電源回路とを含む。
なお、本実施の形態では、ヘッド駆動回路101が電源回路及び波形発生回路400を含むものとして説明を続けるが、これに限定されるものではない。電源回路及び波形発生回路400が物理的にインクジェットヘッド100と離れた位置にあっても、電源回路及び波形発生回路400はインクジェットヘッド100を構成する回路群であると定義する。
【0034】
充放電回路300は、充電目標とする駆動電圧E[V]の半分の直流電圧E/2[V]を出力する第1の電圧源301と、同じく直流電圧E/2[V]を出力する第2の電圧源302とを、直列に接続してなる電源回路に接続される。この電源回路は、第1の電圧源301の負極と第2の電圧源302の正極とを接続し、この接続点を零[V]のグラウンドに接地している。したがって、第1の電圧源301の正極に接続される電源ラインL1は、+E/2[V]の正電源ラインとなる。第2の電圧源302の負極に接続される電源ラインL2は、−E/2[V]の負電源ラインとなる。第1の電圧源301の負極と第2の電圧源302の正極との接続点に設損される電源ラインL3は、零[V]のグラウンドラインとなる。また充放電回路300は、電源ラインL4を介して+24[V]の基準電源VBGにも接続される。
【0035】
充放電回路300は、正電源ラインL1と負電源ラインL2との間に多数のスイッチ直列回路を接続する。詳しくは、充放電回路300は、スイッチ素子S12とスイッチ素子S11とのスイッチ直列回路、スイッチ素子S22とスイッチ素子S21とのスイッチ直列回路、…、スイッチ素子Sn2とスイッチ素子Sn1とのスイッチ直列回路を、正電源ラインL1と負電源ラインL2との間に接続する。
【0036】
また充放電回路300は、各スイッチ直列回路のスイッチ素子相互接続点とグラウンドラインL3との間に、それぞれスイッチ素子S13、スイッチ素子S23、…、スイッチ素子Sn3を接続する。さらに充放電回路300は、隣接するスイッチ直列回路のスイッチ素子相互接続点間に、圧電素子からなる静電容量性のアクチュエータZ1,Z2(不図示),…,Zm(m=n−1)を接続する。
【0037】
各スイッチ直列回路のスイッチ素子のうち、正電源ラインL1に接続されるスイッチ素子S12,S22,…,Sn2は、P型チャネルのMOSトランジスタである。各スイッチ直列回路のスイッチ素子のうち、負電源ラインL2に接続されるスイッチ素子S11,S21,…,Sn1は、N型チャネルのMOSトランジスタである。したがって充放電回路300は、正電源ラインL1と負電源ラインL2との間に、P型チャネルのMOSトランジスタのソース・ドレイン間とN型チャネルのMOSトランジスタのソース・ドレイン間との直列回路が多数接続される。
【0038】
スイッチ素子S13,S23,…,Sn3は、N型チャネルのMOSトランジスタである。したがって充放電回路300は、各スイッチ直列回路のスイッチ素子相互接続点とグラウンドラインL3との間に、それぞれN型チャネルのMOSトランジスタのソース・ドレイン間が接続される。
【0039】
P型チャネルのMOSトランジスタ(スイッチ素子S12,S22,…,Sn2)のバックゲートは、+24[V]の基準電源ラインL4に接続される。N型チャネルのMOSトランジスタ(スイッチ素子S11,S21,…,Sn1及びスイッチ素子S13,S23,…,Sn3)のバックゲートは、−E/2[V]の負電源ラインL2に接続される。P型チャネルのMOSトランジスタ(スイッチ素子S12,S22,…,Sn2)のゲート、及び、N型チャネルのMOSトランジスタ(スイッチ素子S11,S21,…,Sn1及びスイッチ素子S13,S23,…,Sn3)のゲートは、いずれも波形発生回路400に接続される。
【0040】
波形発生回路400は、各スイッチ素子S12,S22,…,Sn2、S13,S23,…,Sn3及びS11,S21,…,Sn1のオン,オフの切り替えを制御するための駆動波形を発生する。各スイッチ素子S12,S22,…,Sn2、S13,S23,…,Sn3及びS11,S21,…,Sn1は、波形発生回路400から出力される駆動波形によりオン,オフを切り替える。このオン,オフの切り替えにより、各アクチュエータZ1,Z2,…,Znが充電され、また放電される。
【0041】
ここに、アクチュエータZ1を挟んで相互に接続されるスイッチ素子S11,スイッチ素子S12及びスイッチ素子S13とスイッチ素子S21,スイッチ素子S22及びスイッチ素子S23とは、アクチュエータZ1に対する充放電用の通電路を形成する。また図示しないが、アクチュエータZ2を挟んで相互に接続されるスイッチ素子S21,スイッチ素子S22及びスイッチ素子S23とスイッチ素子S31,スイッチ素子S32及びスイッチ素子S33とは、アクチュエータZ2に対する充放電用の通電路を形成する。他のアクチュエータZ3〜Zmについても同様である。そこで説明の便宜上、以下では、アクチュエータZ1とこのアクチュエータZ1への通電路を形成する6つのスイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23とに着眼して、本実施形態の説明を続ける。
図6bは、
図6aに示したヘッド駆動回路101の変形例である。N型チャネルのMOSトランジスタであるスイッチ素子S13,S23,…,Sn3は、
図6bに示すようにP型チャネルのMOSトランジスタであるスイッチ素子S13’,S23’,…,Sn3’に代えることができる。N型チャネルのMOSトランジスタはゲート電圧Highでオンし、P型チャネルのMOSトランジスタはゲート電圧Lowでオンする。したがって、
図6bのようにスイッチ素子S13’,S23’,…,Sn3’にP型チャネルのMOSトランジスタを使う場合には、スイッチ素子S13’,S23’,…,Sn3’のゲートに与える論理レベルを
図6aのN型チャネルのMOSトランジスタであるスイッチ素子S13,S23,…,Sn3のゲートに与える論理レベルに対して反転させればよい。
また、図示しないが、スイッチ回路のインピーダンスを下げる目的で、
図6aのスイッチ素子S13,S23,…,Sn3としてN型チャネルのMOSトランジスタとP型チャネルのMOSトランジスタの並列回路を用いてもよい。この場合もN型チャネルのMOSトランジスタとP型チャネルのMOSトランジスタのゲートには互いに反転した論理レベルを与える。
【0042】
図7は、第1の実施形態における波形発生回路400の構成を示すブロック図である。波形発生回路400は、時間設定レジスタ401、セレクタ402、タイマ403、ステートカウンタ404及び駆動パターンメモリ405を備える。
【0043】
時間設定レジスタ401は、第1設定レジスタ4011、第2設定レジスタ4012、第3設定レジスタ4013、第4設定レジスタ4014、第5設定レジスタ4015、第6設定レジスタ4016及び第7設定レジスタ4017を含む。第1設定レジスタ4011には、時間T1aがセットされる。第2設定レジスタ4012には、時間(TD−T1a)がセットされる。第3設定レジスタ4013には、時間T2aがセットされる。第4設定レジスタ4014には、時間(TR−T2a)がセットされる。第5設定レジスタ4015には時間T3aがセットされる。第6設定レジスタ4016には、時間(TP−T3a)がセットされる。第7設定レジスタ4017には、時間T4aがセットされる。時間T1a、時間(TD−T1a)、時間T2a、時間(TR−T2a)、時間T3a、時間(TP−T3a)及び時間T4aについては後述する。
【0044】
セレクタ402は、ステートカウンタ404から出力されるステートデータSTに従い、第1〜第7設定レジスタ4011〜4017にそれぞれセットされた時間T1a、時間(TD−T1a)、時間T2a、時間(TR−T2a)、時間T3a、時間(TP−T3a)、時間T4aを順番に選択する。セレクタ402は、選択した時間をタイマ403にセットする。
【0045】
タイマ403は、セレクタ402によって設定された時間を計時する。そしてその時間を計時し終えると、タイマ403は、ステート更新信号SAをステートカウンタ404に出力する。
【0046】
ステートカウンタ404は、8進カウンタであり、初期状態では、ステートデータSTを“0”にリセットする。この状態で、プリンタ200から波形出力開始のトリガ信号が入力されると、ステートカウンタ404は、ステートデータSTを“1”だけカウントアップする。その後、タイマ403からステート更新信号SAが入力される毎に、ステートカウンタ404は、ステートデータSTを“1”ずつカウントアップする。そしてステートデータSTを上限値(8進カウンタのため““7”)までカウントすると、ステートカウンタ404は、その後のステート更新信号SAの入力によりステートデータSTを“0”にリセットする。ステートカウンタ404は、ステートデータST0〜ST7をセレクタ402と駆動パターンメモリ405とに出力する。
【0047】
駆動パターンメモリ405は、ステートデータST0〜ST7にそれぞれ対応付けて駆動パターンデータを記憶する。駆動パターンデータは、アクチュエータZ1への通電路を形成する6つのスイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23のオン,オフを制御するデータである。ステートカウンタ404からステートデータST0〜ST7が入力される毎に、駆動パターンメモリ405は、そのステートデータST0〜ST7に対応する駆動パターンデータに従い、各スイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23のオン,オフの切り替えを制御するための駆動波形を発生する。
【0048】
図8は、ステートデータST0〜ST7と駆動パターンデータとの対応関係を示す図である。ステートデータST0の初期状態のとき、スイッチ素子S23とスイッチ素子S13とはオンしており、スイッチ素子S21、スイッチ素子S22、スイッチ素子S11及びスイッチ素子S12はオフしている。
【0049】
この状態で、ステートカウンタ404に波形出力開始のトリガ信号が入力されて、ステートデータがST0からST1に更新されると(時点t0)、駆動パターンメモリ405から出力されるステートデータST1に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S13がオフし、スイッチ素子S12がオンする。このとき、
図11に示すように、第1の電圧源301→スイッチ素子S12→アクチュエータZ1→スイッチ素子S23→第1の電圧源301の閉回路が形成される。その結果、アクチュエータZ1は、電圧E/2[V]で順方向に通電されて充電される。
【0050】
このように充電前半では、正極性の第1の電圧源301を用いて、充電目標とする駆動電圧E[V]の半分の電圧E/2[V]で、アクチュエータZ1に半分までの電荷を充電する。電圧E/2[V]でアクチュエータZ1に半分までの電荷を充電することにより、充放電回路300は、充電時の損失を削減できる。
【0051】
ステートデータがST0からST1に更新されると、セレクタ402は、第1設定レジスタ4011を選択する。その結果、タイマ403は、時間T1aを計時する。そして時間T1aが計時されて、タイマ403がタイムアウトすると、ステートデータがST1からST2に更新される。
【0052】
ステートデータがST1からST2に更新されると(時点t1)、ステートデータST2に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S23がオフし、スイッチ素子S21がオンする。このとき、
図12に示すように、第1の電圧源301→スイッチ素子S12→アクチュエータZ1→スイッチ素子S21→第2の電圧源302→第1の電圧源301の閉回路が形成される。その結果、アクチュエータZ1は、電圧E[V]で順方向に通電されてさらに充電される。
【0053】
このように充電後半では、正極性の第1の電圧源301と負極性の第2の電圧源302とを用いて、充電目標とする駆動電圧E[V]でアクチュエータZ1に電荷を充電する。駆動電圧E[V]でアクチュエータZ1に電荷を充電することにより、アクチュエータZ1は完全に充電される。
【0054】
ステートデータがST1からST2に更新されると、セレクタ402は、第2設定レジスタ4012を選択する。その結果、タイマ403は、時間(TD−T1a)を計時する。そして時間(TD−T1a)が計時されて、タイマ403がタイムアウトすると、ステートデータがST2からST3に更新される。
【0055】
ステートデータがST2からST3に更新されると(時点t2)、ステートデータST3に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S21がオフし、スイッチ素子S23がオンする。このとき、
図13に示すように、アクチュエータZ1→スイッチ素子S12→第1の電圧源301→スイッチ素子S23→アクチュエータZ1の閉回路が形成される。その結果、アクチュエータZ1は放電する。
【0056】
このように放電前半では、アクチュエータZ1から正極性の第1の電圧源301に電荷を戻して、電圧源301を充電しつつ、アクチュエータZ1を放電する。電圧源301を充電しつつ、アクチュエータZ1を放電することにより、充放電回路300は、放電時の損失も削減できる。
【0057】
ステートデータがST2からST3に更新されると、セレクタ402は、第3設定レジスタ4013を選択する。その結果、タイマ403は、時間T2aを計時する。そして時間T2aが計時されて、タイマ403がタイムアウトすると、ステートデータがST3からST4に更新される。
【0058】
ステートデータがST3からST4に更新されると(時点t3)、ステートデータST4に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S12がオフし、スイッチ素子S13がオンする。このとき、
図14に示すように、アクチュエータZ1→スイッチ素子S13→スイッチ素子S23→アクチュエータZ1の閉回路が形成される。その結果、アクチュエータZ1は放電を続ける。
【0059】
このように放電後半では、アクチュエータZ1の端子間をループすることによって、アクチュエータZ1は、完全に放電する。
【0060】
以上の充電・放電動作により、ヘッド100は、圧力室の容積を拡張してインクを補充した後、圧力室の容積を元に戻す。この動作により圧力室に圧力振動が生じてノズルからインク滴が吐出する。吐出するタイミングは放電動作のときである。
【0061】
ステートデータがST3からST4に更新されると、セレクタ402は、第4設定レジスタ4014を選択する。その結果、タイマ403は、時間(TR−T2a)を計時する。そして時間(TR−T2a)が計時されて、タイマ403がタイムアウトすると、ステートデータがST4からST5に更新される。
【0062】
ステートデータがST4からST5に更新されると(時点t4)、ステートデータST5に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S23がオフし、スイッチ素子S22がオンする。このとき、図示しないが、第1の電圧源301→スイッチ素子S22→アクチュエータZ1→スイッチ素子S13→第1の電圧源301の閉回路が形成される。その結果、アクチュエータZ1は、E/2[V]で逆方向に通電されて充電される。
【0063】
このように逆充電前半では、正極性の第1の電圧源301を用いて、充電目標とする駆動電圧E[V]の半分の電圧E/2[V]でアクチュエータZ1に逆方向から半分までの電荷を充電する。電圧E/2[V]でアクチュエータZ1に逆方向から半分までの電荷を充電することにより、充放電回路300は、逆充電時の損失を削減できる。
【0064】
ステートデータがST4からST5に更新されると、セレクタ402は、第5設定レジスタ4015を選択する。その結果、タイマ403は、時間T3aを計時する。そして時間T3aが計時されて、タイマ403がタイムアウトすると、ステートデータがST5からST6に更新される。
【0065】
ステートデータがST5からST6に更新されると(時点t5)、ステートデータST6に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S13がオフし、スイッチ素子S11がオンする。このとき、図示しないが、第1の電圧源301→スイッチ素子S22→アクチュエータZ1→スイッチ素子S11→第2の電圧源302→第1の電圧源301の閉回路が形成される。その結果、アクチュエータZ1は、E[V]で逆方向に通電されてさらに充電される。
【0066】
このように逆充電後半では、正極性の第1の電圧源301と負極性の第2の電圧源302とを用いて、充電目標とする駆動電圧E[V]でアクチュエータZ1に逆方向から電荷を充電する。駆動電圧E[V]でアクチュエータZ1に逆方向から電荷を充電することにより、アクチュエータZ1は、完全に逆方向から充電される。
【0067】
ステートデータがST5〜ST6に更新されると、セレクタ402は、第6設定レジスタ4016を選択する。その結果、タイマ403は、時間(TP−T3a)を計時する。そして時間(TP−T3a)が計時されて、タイマ403がタイムアウトすると、ステートデータがST6からST7に更新される。
【0068】
ステートデータがST6からST7に更新されると(時点t6)、ステートデータST7に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S11がオフし、スイッチ素子S13がオンする。このとき、図示しないが、アクチュエータZ1→スイッチ素子S22→第1の電圧源301→スイッチ素子S13→アクチュエータZ1の閉回路が形成される。その結果、アクチュエータZ1は放電する。
【0069】
このように放電前半では、アクチュエータZ1から正極性の第1の電圧源301に電荷を戻して、電圧源301を充電しつつ、アクチュエータZ1を放電する。電圧源301を充電しつつ、アクチュエータZ1を放電することにより、充放電回路300は、放電時の損失も削減できる。
【0070】
ステートデータがST6からST7に更新されると、セレクタ402は、第7設定レジスタ4017を選択する。その結果、タイマ403は、時間T4aを計時する。そして時間T4aが計時されて、タイマ403がタイムアウトすると、ステートデータがST7からST0に戻る。
【0071】
ステートデータがST7からST0に戻ると(時点t7)、ステートデータST0に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S22がオフし、スイッチ素子S23がオンする。このとき、アクチュエータZ1→スイッチ素子S23→スイッチ素子S13→アクチュエータZ1の閉回路が形成される。その結果、アクチュエータZ1は放電を続ける。
【0072】
このように放電後半では、アクチュエータZ1の端子間をループすることによって、アクチュエータZ1は、完全に放電する。
【0073】
以上の逆充電・放電動作により、ヘッド100は、圧力室の容積を収縮した後、元に戻す。この動作により、圧力室の残留振動がキャンセルされる。
【0074】
以後、ステートカウンタ404に波形出力開始のトリガ信号が入力される毎に、波形発生回路400は、同様の動作を繰り返し実行する。
【0075】
図9は、
図8を用いて説明した駆動パターンデータにより、当該チャネルの電極に印加される波形(当該電極波形)と、隣接チャネルの電極に印加される波形(隣接電極波形)とを示す。当該チャネルは、アクチュエータZ1と当該アクチュエータZ1に隣接するアクチュエータZ2とで挟まれたチャネルである。隣接チャネルは、当該チャネルを挟んで隣接するチャネルである。
図10は、
図9に示す2つの波形(当該電極波形と隣接電極波形)により、アクチュエータZ1に印加される電圧の波形を示す。
【0076】
ステートカウンタ404に波形出力開始のトリガ信号が入力されて、ステートデータがST0からST1に更新されると(時点t0)、隣接チャネルの電極にE/2[V]の電圧が印加される。このとき、当該チャネルの電極はグラウンド電位GNDのままである。したがってアクチュエータZ1には、−E/2[V]の電圧が印加されて、当該チャネルの隔壁が圧力室の容積を拡張する方向に変形を始める。
【0077】
第1設定レジスタ4011に設定されている時間T1aが経過してステートデータがST2に更新されると(時点t1)、当該チャネルの電極に−E/2[V]の電圧が印加される。このとき、隣接チャネルの電極にはE/2[V]の電圧が印加されたままとなる。したがってアクチュエータZ1には、さらに−E/2[V]の電圧が印加されて、当該チャネルの隔壁が圧力室の容積をさらに拡張する方向に変形する。この拡張により、圧力室にインクが補充される。
【0078】
ステートデータがST1に更新されてから(時点t0)、ステートデータがST2に更新されるまで(時点t1)の時間T1aを前段の充電時間と称する。ステートデータがST2に更新されてから(時点t1)、アクチュエータZ1に印加される電圧が−E[V]に達するまで(時点t12)に要する時間T1bを後段の充電時間と称する。前段の充電時間T1aと後段の充電時間T1bとの合計時間T1は、アクチュエータZ1の静電容量への充電時間となる。
【0079】
ステートデータがST1に更新されてから(時点t0)、ステートデータがST3に更新されるまで(時点t2)の時間をTDと表す。この時間TDから合計時間T1を減じた時間は、順方向通電によりフル充電となったアクチュエータZ1が維持される時間である。
【0080】
第2設定レジスタ4012に設定されている時間(TD−T1a)が経過してステートデータがST3に更新されると(時点t2)、当該チャネルの電極の電位がグラウンド電位GNDに戻る。したがって、アクチュエータZ1に印加される電圧は、−E/2[V]まで上昇する。その結果、当該チャネルの隔壁が拡張変形前の状態に急速に復元し始める。
【0081】
第3設定レジスタ4013に設定されている時間T2aが経過してステートデータがST4に更新されると(時点t3)、隣接チャネルの電極の電位もグラウンド電位GNDに戻る。したがって、アクチュエータZ1に印加される電圧は、グラウンド電位GNDまで上昇する。その結果、当該チャネルの隔壁は変形作用を受けない状態まで復元される。この拡張から復元までの隔壁の変調に伴う圧力室内の圧力変化により、当該チャネルのノズルからインク滴が吐出される。
【0082】
ステートデータがST3に更新されてから(時点t2)、ステートデータがST4に更新されるまで(時点t3)の時間T2aを前段の放電時間と称する。ステートデータがST4に更新されてから(時点t3)、アクチュエータZ1の電位がグラウンド電位GNDに戻るまで(時点t34)に要する時間T2bを後段の放電時間と称する。前段の放電時間T2aと後段の放電時間T2bとの合計時間T2は、アクチュエータZ1の放電時間となる。
【0083】
ステートデータがST3に更新されてから(時点t2)、ステートデータがST5に更新されるまで(時点t4)の時間をTRと表す。この時間TRから合計時間T2を減じた時間は、放電が終わったアクチュエータZ1が維持される時間である。
【0084】
第4設定レジスタ4014に設定されている時間(TR−T2a)が経過してステートデータがST5に更新されると(時点t4)、当該チャネルの電極にE/2[V]の電圧が印加される。このとき、隣接チャネルの電極はグラウンド電位GNDのままである。したがってアクチュエータZ1には、E/2[V]の電圧が印加されて、当該チャネルの隔壁が圧力室の容積を収縮する方向に変形を始める。
【0085】
第5設定レジスタ4015に設定されている時間T3aが経過してステートデータがST6に更新されると(時点t5)、隣接チャネルの電極に−E/2[V]の電圧が印加される。このとき、当該チャネルの電極にはE/2[V]の電圧が印加されたままとなる。したがってアクチュエータZ1の電圧は、さらにE/2[V]増大して、当該チャネルの隔壁が圧力室の容積をさらに収縮する方向に変形する。
【0086】
ステートデータがST5に更新されてから(時点t4)、ステートデータがST6に更新されるまで(時点t5)の時間T3aを前段の逆充電時間(前段の収縮時間)と称する。ステートデータがST6に更新されてから(時点t5)、アクチュエータZ1に印加される電圧がE[V]に達するまで(時点t56)に要する時間T3bを後段の逆充電時間(後段の収縮時間)と称する。前段の逆充電時間T3aと後段の逆充電時間T3bとの合計時間T3は、アクチュエータZ1の静電容量への逆方向の充電時間となる。
【0087】
ステートデータがST5に更新されてから(時点t4)、ステートデータがST7に更新されるまで(時点t6)に要する時間をTPと表す。この時間TPから合計時間3を減じた時間は、逆方向通電によりフル充電となったアクチュエータZ1が維持される時間である。
【0088】
第6設定レジスタ4016に設定されている時間(TP−T3a)が経過してステートデータがST7に更新されると(時点t6)、隣接チャネルの電極の電位がグラウンド電位GNDに戻る。したがって、アクチュエータZ1に印加される電圧はE/2[V]まで下降する。その結果、当該チャネルの隔壁が収縮変形前の状態に復元し始める。
【0089】
第7設定レジスタ4017に設定されている時間T4aが経過してステートデータがST0に更新されると(時点t7)、当該チャネルの電極の電位もグラウンド電位GNDに戻る。したがって、アクチュエータZ1に印加される電圧がグラウンド電位GNDまで下降する。その結果、当該チャネルの隔壁は変形作用を受けない状態まで復元される。この収縮から復元までの隔壁の変調に伴う圧力室内の圧力変化により、当該チャネルに生じた圧力振動をキャンセルするダンピング作用が働く。
【0090】
ステートデータがST7に更新されてから(時点t6)、ステートデータがST0に更新されるまで(時点t7)の時間T4aを前段の逆放電時間(前段の復元時間)と称する。ステートデータがST0に更新されてから(時点t7)、アクチュエータZ1の電位がグラウンド電位GNDに戻るまで(時点t78)に要する時間T4bを後段の逆放電時間(後段の復元時間)と称する。前段の逆放電時間T4aと後段の逆放電時間T4bとの合計時間T4は、アクチュエータZ1の逆方向の放電時間となる。
前段時間、すなわち前段の充電時間T1a,前段の放電時間T2a,前段の逆充電時間T3a及び前段の逆放電時間T4aは、アクチュエータに±E/2[V]の大きさの中間電圧が与えられている時間であり、それはアクチュエータがスイッチ素子を介して第1の電圧源301へ接続されている時間である。
【0091】
一例としてのヘッド100は、1つのノズルからインク滴を吐出するのに必要な2つのアクチュエータの合計静電容量が700[pF]であり、圧力室の圧力伝搬時間が3.32[μs]である。このようなヘッド100は、圧力伝搬時間の半分の1.66[μs]を基本時間単位として、圧力室の容積を拡張し、続いて容積を復元する。圧力室の容積の拡張及び復元により、圧力室に補充されたインクがノズルから吐出される。インクが吐出された後、ヘッド100は、圧力室の容積の拡張及び復元によりダンピングを行う。ダンピングのためのパルス幅は、ヘッド100の減衰特性に合わせて定義される。通常、パルス幅は1.5〜2.0μs程度である。
【0092】
このようなヘッド100において、前段時間を共通とし、各前段時間T1a,T2a,T3a,T4aを適宜可変して、ヘッド100の駆動電力を測定したところ、
図15のグラフに示すような結果が得られた。このグラフから、各前段時間T1a,T2a,T3a,T4aを長めに設定すれば、駆動電力は理論値である50%に近づくことがわかる。つまり、消費電力を削減できることがわかる。逆に、各前段時間T1a,T2a,T3a,T4aを短めに設定した場合には、その分、消費電力の削減量が少なくなる。
【0093】
一方、各前段時間T1a,T2a,T3a,T4aは、インクの吐出特性という点から鑑みると、吐出への影響はそれぞれ異なる。特に、インク吐出に係る前段の放電時間T2aは、吐出への影響は大きい。具体的には、前段の放電時間T2aを長めに設定すると、インクの吐出速度が低下する。
【0094】
一方、インク補充に係る前段の充電時間T1aは、前段の放電時間T2aよりもインク吐出への影響は小さい。また、ダンピングに係る前段の逆充電時間T3a及び前段の逆放電時間T4aは、インク吐出の効率に直接は影響しない。ただし、前段の逆放電時間T4aを長めに設定すると、インク滴を吐出するための駆動周期が長くなり、駆動周波数が落ちる懸念がある。前段の逆充電時間T3aは、ダンピングに関係する。しかしダンピング時間は結局調整することになるので、他の前段の充電時間T1a,放電時間T2a,前段の逆放電時間T4aよりもその長さを長く設定しても影響はない。
【0095】
以上の点を考慮すると、前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aを長めに設定し、インク吐出に係る前段の放電時間T2aを短めに設定することで、消費電力を抑制しつつ、インクの吐出速度を高めることができ、安定した吐出効率を得ることができると言える。このような作用は、前段の放電時間T2aを前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aの半分以下に設定することで顕著となる。このとき、前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aのうち少なくとも1つを前段の放電時間T2aよりも長めに設定することで、消費電力削減の効果が得られる。前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aの全てを前段の放電時間T2aよりも長めに設定すれば消費電力削減効果は最大となる。
【0096】
以下、前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aを長めに設定し、前段の放電時間T2aを短めに設定することが効果的であることについて、検証を行う。検証は、
図16の等価回路モデルを用いて行う。等価回路モデルは、駆動波形に対する圧力室のインク圧力とインク流速とをシミュレーションするものである。等価回路モデルは、電圧源V1の両端電圧が駆動電圧を表し、インダクタL1の両端電圧が圧力室の圧力を表し、回路電流がインクの流速を表す。
【0097】
はじめに、
図17に示すように、充電時間、放電時間、逆充電時間及び逆放電時間を前段と後段とに分割しない従来の駆動波形W11について、圧力室の圧力W12とインクの流速W13とをシミュレーションする。この駆動波形W11の場合、インクが吐出される際の圧力室の最大圧力W12Pは、瞬時的に1つのピークとなり、十分な吐出速度を得られる。ただし、この波形W11の場合には、消費電力が大きいという問題がある。
【0098】
次に、
図18〜
図20に示すように、各前段時間T1a,T2a,T3a,T4aを有する駆動波形W21,W31,W41について、圧力室の圧力W22,W32,W42とインクの流速W23,W33,W43とをシミュレーションする。
【0099】
図18〜
図20において、前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aは、いずれも0.2μsで共通である。一方、前段の放電時間T2aについては、
図18のデータが0.3μsとした場合であり、
図19のデータが0.2μsとした場合であり、
図20のデータが0.1μとした場合である。圧力室を収縮して戻す、ダンピングの為の、後半のパルス幅とパルス位置は、圧力振動がそれぞれ最適にキャンセルされる条件に調整してある。
【0100】
各前段時間T1a,T2a,T3a,T4aを有する駆動波形W21,W31,W41の場合、インクが吐出される際の圧力室の最大圧力W22P,W32P,W42Pは、ピークが2つに分かれる。しかも、前段の放電時間T2aを他の前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aよりも長くした場合には(
図18を参照)、最大圧力W22Pは、
図17のときの最大圧力W12Pと比較して大きく低下する。また、前段の放電時間T2aを他の前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a前段の逆放電時間T4aと同じにした場合にも(
図19を参照)、最大圧力W32Pは、
図17のときの最大圧力W12Pと比較して低下する。このため、いずれの場合もインクの吐出速度が低下する。
【0101】
しかしながら、前段の放電時間T2aを0.1μsとした場合には(
図20を参照)、最大圧力W22Pは従来波形とほとんど変わらない。このため、インクの吐出速度は低下しない。しかも、前段の放電時間T2aが0.1μsであり、かつ前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aが0.2μsであるので、充電時間、放電時間、逆充電時間及び逆放電時間を前段と後段とに分割しない従来と比較して、消費電力を抑制できる効果を奏する。この効果は、前段の放電時間T2aを前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aのうち少なくとも1つよりも半分以下に設定することで顕著となる。また前段の放電時間T2aを前段の充電時間T1a,前段の逆充電時間T3a,前段の逆放電時間T4aの全てを前段の放電時間T2aよりも長めに設定すれば消費電力削減効果は最大となる。
【0102】
因みに、
図21は、上述したシミュレーションにおいて、横軸を前段の充電時間T2aとし、縦軸をインクが吐出される際の圧力室の最大圧力として両者の対応関係を示すグラフである。
【0103】
このように第1の実施形態の波形発生回路400は、アクチュエータを充電する際には、先ずアクチュエータに中間電圧E/2[V]を与えて充電し、続いて駆動電圧E[V]に至るまで充電するように、駆動波形を充放電回路300に出力する。続いてアクチュエータから放電する際には、波形発生回路400は、駆動電圧E[V]まで充電されたアクチュエータに中間電圧E/2[V]を与えて放電し、続いて電圧がゼロになるまで放電するように、駆動波形を充放電回路300に出力する。そして、ノズルからインクを吐出するタイミングでの駆動電圧E[V]まで充電されたアクチュエータに中間電圧E/2[V]を与えて放電する時間T2aは、他のタイミングでのアクチュエータに中間電圧E/2[V]を与えて充電する時間T1a,T3a及びアクチュエータに中間電圧E/2[V]を与えて放電する時間T4aよりも短く設定されている。
【0104】
このような波形発生回路400を有するヘッド100は、インクの十分な吐出速度を確保しつつ消費電力を削減できる効果を奏する。
【0105】
なお、本発明は、前記実施形態(第1の実施形態)に限定されるものではない。
前記実施形態では、前段の放電時間T2aを前段の充電時間T1a,逆充電時間T3a,逆放電時間T4aよりも短めに設定した。前段の放電時間T2aは、インクの吐出速度に関係する。前段の放電時間T2aを短めに設定すると、インクの吐出速度が上昇する。逆に、前段の放電時間T2aを長めに設定すると、インクの吐出速度が低下する。ひいては、インクの吐出体積も低下する。
【0106】
すなわち、前段の放電時間T2aを短めに設定したり長めに設定したりすることで、インクの吐出特性を可変調整できるインクジェットヘッドを提供できる。そこで次に、消費電力を抑制しつつ、インクの吐出特性を可変調整できるインクジェットヘッドの実施形態(第2乃至第4の実施形態)について、図面を用いて説明する。
【0107】
なお、第2乃至第4の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、波形発生回路400の構成である。その余の部分については第1の実施形態と共通なので同一符号を付し、その説明は省略する。
【0108】
[第2の実施形態]
図22は、第2の実施形態における波形発生回路500の構成を示すブロック図である。波形発生回路500は、各チャネルCh.1,Ch.2,…,Ch.nに対して共通の時間設定レジスタ501、印刷データレジスタ502及び時間調整値レジスタ503と、チャネルCh.1,Ch.2,…,Ch.n別の回路ユニット504と、信号線505とを備える。信号線505は、時間設定レジスタ501、印刷データレジスタ502及び時間調整値レジスタ503と、各回路ユニット504とを、電気的に接続する。
【0109】
各回路ユニット504は、それぞれ対応するチャネルに対して駆動波形を生成する回路群である。駆動波形は、チャネルに含まれるアクチュエータへの通電路を形成する6つのスイッチ素子のオン,オフを制御する波形である。各回路ユニット504は、同一の構成を有する。このため
図22では、チャネルCh.1に対する回路ユニット504だけその構成を具体的に示す。そして回路ユニット504が、スイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23に対して駆動波形を与える場合について説明する。他のチャネルCh.2,…,Ch.nに対する回路ユニット504の説明は重複するので、ここでは省略する。因みに本実施形態では、当該チャネルがインクを吐出する吐出チャネルであるとき、隣接チャネルは吐出チャネルでないものとする。
【0110】
時間設定レジスタ501は、第11設定レジスタ5011、第12設定レジスタ5012、第13設定レジスタ5013、第14設定レジスタ5014、第15設定レジスタ5015及び第16設定レジスタ5016を含む。第11設定レジスタ5011には、時間T1aがセットされる。第12設定レジスタ5012には、(時間TD−T1a)がセットされる。第13設定レジスタ5013には、時間T3aがセットされる。第14設定レジスタ5014には、時間(TP−T3a)がセットされる。第15設定レジスタ5015には、時間T4aがセットされる。第16設定レジスタ5016には、時間TRがセットされる。時間T1a、時間(TD−T1a)、時間T3a、時間(TP−T3a)、時間T4a、時間TRは、第1の実施形態において、
図8〜
図10を用いて説明した同一符号の時間と同じ意味を持つ。すなわち第2の実施形態の時間設定レジスタ501は、第1の実施形態の時間設定レジスタ401と比較して、時間T2aがセットされる第3設定レジスタ4013と、時間(TR−T2a)がセットされる第4設定レジスタ4014とを削除し、その代わりに、時間TRがセットされる第16設定レジスタ5016を追加した構成となっている。
【0111】
印刷データレジスタ502は、印刷データD1〜Dnの入力を受け付ける。印刷データD1〜Dnは、チャネルCh.1〜Ch.nに対して1対1で対応する。印刷データレジスタ502は、画像メモリから転送される印刷データD1〜Dnを記憶する。そして印刷データレジスタ502は、先入れ先出し(FIFO)方式により、印刷データD1〜Dnを、それぞれ対応するチャネルCh.1〜Ch.nの回路ユニット504に出力する。
【0112】
調整値レジスタ503は、時間調整値T2a(1)〜T2a(n)の入力を受け付ける。時間調整値T2a(1)〜T2a(n)は、いずれも第1の放電に際してアクチュエータに中間電圧E/2[V]を与える時間である。時間調整値T2a(1)〜T2a(n)は、チャネルCh.1〜Ch.nに対して1対1で対応する。時間調整値T2a(1)〜T2a(n)は、チャネルCh.1〜Ch.n毎に任意の値を設定可能である。調整値レジスタ503は、チャネルCh.1〜Ch.n毎に設定された時間調整値T2a(1)〜T2a(n)を記憶する。そして調整値レジスタ503は、時間調整値T2a(1)〜T2a(n)をそれぞれ対応するチャネルCh.1〜Ch.nの回路ユニット504に出力する。
【0113】
信号線505は、各回路ユニット504に、それぞれ時間設定レジスタ501の第11〜第16設定レジスタ5011〜5016と、印刷データレジスタ502と、調整値レジスタ503とを接続する。また信号線505は、各回路ユニット504に、波形出力開始のトリガ信号を印加する。
【0114】
各回路ユニット504は、それぞれ減算器5041、セレクタ5042、タイマ5043、ステートカウンタ5044、駆動パターンメモリ5045及びゲート回路5046を備える。ゲート回路5046は、6つのスイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23にそれぞれ対応した2入力ANDゲートまたはNANDゲートを含む。ゲート回路5046は、N型チャネルのMOSトランジスタからなり、負電源ラインL2に接続されるスイッチ素子S11及びS21と、N型チャネルのMOSトランジスタからなり、グラウンドラインL3に接続されるスイッチ素子S13及びS23に対しては、ANDゲートとなっている。ゲート回路5046は、P型チャネルのMOSトランジスタからなり、正電源ラインL1に接続されるスイッチ素子S12及びS22に対しては、NANDゲートとなっている。各ANDゲート及びNANDゲートの一方の入力には、印刷データレジスタ502から出力される印刷データD1が印加される。各ANDゲート及びNANDゲートの他方の入力には、駆動パターンメモリ5045からスイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23毎に発生する駆動波形が印加される。
【0115】
減算器5041は、第16設定レジスタ5016にセットされた時間TRから、時間調整値レジスタ503にセットされたチャネルCh.1に対する時間T2a(1)を減算する。減算器5041は、減算後の時間(TR−T2a(1))をセレクタ5042に出力する。
【0116】
セレクタ5042は、ステートカウンタ404から出力されるステートデータST0〜ST7に従い、第11設定レジスタ5011及び第12設定レジスタ5012にそれぞれセットされた時間T1a、時間(TD−T1a)、時間調整値レジスタ503にセットされた時間T2a(1)、減算器5041から出力される時間(TR−T2a(1))、第13設定レジスタ5013乃至第15設定レジスタ5015にそれぞれセットされた時間T3a、時間(TP−T3a)、時間T4aを順番に選択する。具体的には、セレクタ5042は、ステートデータST1が入力されると時間T1aを選択し、ステートデータST2が入力されると時間(TD−T1a)を選択し、ステートデータST3が入力されると時間T2a(1)を選択し、ステートデータST4が入力されると時間(TR−T2a(1))を選択し、ステートデータST5が入力されると時間T3aを選択し、ステートデータST6が入力されると時間(TP−T3a)を選択し、ステートデータST7が入力されると時間T4aを選択する。セレクタ5042は、選択した時間をタイマ403にセットする。
【0117】
タイマ5043は、セレクタ5042によって設定された時間を計時する。そしてその時間を計時し終えると、タイマ5043は、ステート更新信号SAをステートカウンタ5044に出力する。
【0118】
ステートカウンタ5044は、8進カウンタであり、初期状態では、ステートデータSTを“0”にリセットする。この状態で、波形出力開始のトリガ信号が入力されると、ステートカウンタ5044は、ステートデータSTを“1”だけカウントアップする。その後、タイマ5043からステート更新信号SAが入力される毎に、ステートカウンタ5044は、ステートデータSTを“1”ずつカウントアップする。そしてステートデータSTを上限値(8進カウンタのため“7”)までカウントすると、ステートカウンタ5044は、その後のステート更新信号SAの入力によりステートデータSTを“0”にリセットする。ステートカウンタ5044は、ステートデータST0〜ST7をセレクタ5042と駆動パターンメモリ5045とに出力する。
【0119】
駆動パターンメモリ5045は、ステートデータST0〜ST7にそれぞれ対応付けて駆動パターンデータを記憶する。駆動パターンデータは、6つのスイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23のオン,オフを制御するデータである。
【0120】
図23は、駆動パターンメモリ5045に記憶される駆動パターンデータの具体例を表す。
図23において、スイッチ素子S11及びS21の符号に付される“(−)”は、当該スイッチ素子S11及びS21が負電源ラインL2に接続されていることを表す。スイッチ素子S12及びS22の符号に付される“(+)”は、当該スイッチ素子S12及びS22が正電源ラインL1に接続されていることを表す。スイッチ素子S13及びS23の符号に付される“(0)”は、グラウンドラインL3に接続されていることを表す。
【0121】
ステートカウンタ5044からステートデータST0〜ST7が入力される毎に、そのステートデータST0〜ST7に対応する駆動パターンデータに従い、スイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23毎に駆動波形が駆動パターンメモリ5045から発生する。
【0122】
図23に示したステートデータST0〜ST7別の駆動パターンデータは、第1の実施形態の駆動パターンデータと一致する。また、回路ユニット504を構成するセレクタ5042、タイマ5043、ステートカウンタ5044及び駆動パターンメモリ5045は、第1の実施形態のセレクタ402、タイマ403、ステートカウンタ404及び駆動パターンメモリ405と同様に動作する。
【0123】
したがって、ステートデータがST0、ST1、ST2にそれぞれ更新されたときと、ステートデータがST5、ST6、ST7に更新されたときの波形発生回路500の動作は、第1の実施形態の波形発生回路400の動作と一致する。
【0124】
すなわち、ステートデータがST0の初期状態においては、スイッチ素子S23とスイッチ素子S13とがオンし、スイッチ素子S21、スイッチ素子S22、スイッチ素子S11及びスイッチ素子S12がオフする。ステートデータがST1に更新されると、スイッチ素子S13がオフし、スイッチ素子S12がオンする。その結果、アクチュエータZ1は、前段の充電時間T1aが計時されている間、電圧E/2[V]で順方向に通電されて充電される。続いてステートデータがST2に更新されると、スイッチ素子S23がオフし、スイッチ素子S21がオンする。その結果、アクチュエータZ1は、時間(TD−T1a)が計時されている間、電圧E[V]で順方向に通電されてさらに充電される。以上の動作により、チャネルCh.1の圧力室にインクが補充される。
【0125】
ステートデータがST3に更新されたときには、セレクタ5042は、時間調整値T2a(1)を選択する。その結果、タイマ5043は、時間T2a(1)を計時する。また、ステートデータST3に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S21がオフし、スイッチ素子S23がオンする。その結果、アクチュエータZ1は、時間T2a(1)が計時されている間、中間電圧E/2[V]が与えられた状態で放電する。
【0126】
時間T2a(1)が計時されて、ステートデータがST4に更新されると、セレクタ5042は、時間(TR−T2a(1))を選択する。その結果、タイマ5043は、時間(TR−T2a(1))を計時する。また、ステートデータST4に対応した駆動パターンデータの駆動波形により、スイッチ素子S12がオフし、スイッチ素子S13がオンする。その結果、アクチュエータZ1は電圧ゼロが与えられた状態となり、時間(TR−T2a(1))が計時されている間、放電を続ける。以上の動作により、ゲート回路5046に対してドット出力の印刷データD1が印加されている場合には、チャネルCh.1のノズルからインク滴が1滴吐出される。吐出するタイミングは放電動作のときである。
【0127】
したがって、時間T2a(1)は、第1の実施形態で説明した前段の放電時間として機能する。
【0128】
ステートデータがST5に更新されたときには、スイッチ素子S23がオフし、スイッチ素子S22がオンする。その結果、アクチュエータZ1は、前段の収縮時間T3aが計時されている間、E/2[V]で逆方向に通電されて充電される。続いて、ステートデータがST6に更新されると、スイッチ素子S13がオフし、スイッチ素子S11がオンする。その結果、アクチュエータZ1は、時間(TP−T3a)が計時されている間、E[V]で逆方向に通電されてさらに充電される。続いてステートデータがST7に更新されると、スイッチ素子S11がオフし、スイッチ素子S13がオンする。その結果、アクチュエータZ1は、前段の復元時間T4aの間、放電する。続いて、ステートデータがST0に戻ると、スイッチ素子S22がオフし、スイッチ素子S23がオンする。その結果、アクチュエータZ1は放電を続ける。以上の動作により、チャネルCh.1の圧力室の容積が拡張及び復元されてダンピングが行われる。
【0129】
第2の実施形態では、ノズルからインクを吐出するタイミングでの前段の放電時間T2a(1)とその後の放電時間(TR−T2a(1))とは、時間調整値レジスタ503にセットされる時間調整値T2a(1)に依存する。すなわち、時間調整値T2a(1)を短くすることで、前段の放電時間T2a(1)が短くなる。前段の放電時間T2a(1)が短くなると、ノズルから吐出されるインクの吐出速度が速くなり、インクの吐出体積も増加する。逆に、時間調整値T2a(1)を長くすることで、前段の放電時間T2a(1)が長くなる。前段の放電時間T2a(1)が長くなると、ノズルから吐出されるインクの吐出速度を遅くなり、インクの吐出体積も減少する。
【0130】
このように第2の実施形態によれば、消費電力を抑制しつつ、チャネルCh.1〜Ch.n毎にインクの吐出特性(吐出速度、吐出体積)を調整可能なインクジェットヘッドを提供することができる。
【0131】
[第3の実施形態]
図24は、第3の実施形態における波形発生回路600の構成を示すブロック図である。波形発生回路600は、各チャネルCh.1,Ch.2,…,Ch.nに対して共通の時間設定レジスタ601、印刷データレジスタ602、時間調整値レジスタ603、セレクタ604、タイマ605及びステートカウンタ606と、チャネルCh.1,Ch.2,…,Ch.n別の回路ユニット607と、信号線608とを備える。信号線608は、印刷データレジスタ602、時間調整値レジスタ603及びステートカウンタ606と、各回路ユニット607とを、電気的に接続する。
【0132】
各回路ユニット607は、それぞれ対応するチャネルに対して駆動波形を生成する回路群である。駆動波形は、チャネルに含まれるアクチュエータへの通電路を形成する6つのスイッチ素子のオン,オフを制御する波形である。各回路ユニット607は、同一の構成を有する。このため
図24では、チャネルCh.1に対する回路ユニット607だけその構成を具体的に示す。そして回路ユニット607が、スイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23に対して駆動波形を与える場合について説明する。他のチャネルCh.2,…,Ch.nに対する回路ユニット607の説明は重複するので、ここでは省略する。因みに本実施形態では、当該チャネルがインクを吐出する吐出チャネルであるとき、隣接チャネルは吐出チャネルでないものとする。
【0133】
時間設定レジスタ601は、第21設定レジスタ6011、第22設定レジスタ6012、第23設定レジスタ6013、第24設定レジスタ6014、第25設定レジスタ6015及び第26設定レジスタ6016を含む。第21設定レジスタ6011には、時間T1aがセットされる。第22設定レジスタ6012には、(時間TD−T1a)がセットされる。第23設定レジスタ6013には、時間TRがセットされる。第24設定レジスタ6014には、時間T3aがセットされる。第25設定レジスタ6015には、時間(TP−T3a)がセットされる。第26設定レジスタ6016には、時間T4aがセットされる。時間T1a、時間(TD−T1a)、時間TR、時間T3a、時間(TP−T3a)、時間T4aは、第1の実施形態において、
図8〜
図10を用いて説明した同一符号の時間と同じ意味を持つ。すなわち第3の実施形態の時間設定レジスタ601は、第1の実施形態の時間設定レジスタ401と比較して、時間T2aがセットされる第3設定レジスタ4013と、時間(TR−T2a)がセットされる第4設定レジスタ4014とを削除し、その代わりに、時間TRがセットされる第23設定レジスタ6013を追加した構成となっている。
【0134】
第2の実施形態と比較した場合、時間設定レジスタ601は、時間設定レジスタ501と同一構成である。また、印刷データレジスタ602及び時間調整値レジスタ603も、第2の実施形態の印刷データレジスタ502及び時間調整値レジスタ503と同一構成である。したがって、印刷データレジスタ602及び時間調整値レジスタ603の説明は省略する。
【0135】
セレクタ604は、ステートカウンタ606から出力されるステートデータps0〜ps6に従い、第21設定レジスタ6011乃至第26設定レジスタ6016にそれぞれセットされた時間T1a、時間(TD−T1a)、時間TR、時間T3a、時間(TP−T3a)、時間T4aを順番に選択する。具体的には、セレクタ604は、ステートデータps1が入力されると時間T1aを選択し、ステートデータps2が入力されると時間(TD−T1a)を選択し、ステートデータps3が入力されると時間TRを選択し、ステートデータps4が入力されると時間T3aを選択し、ステートデータps5が入力されると時間T4aを選択する。セレクタ604は、選択した時間をタイマ605にセットする。
【0136】
タイマ605は、セレクタ604によって設定された時間を計時する。そしてその時間を計時し終えると、タイマ605は、ステート更新信号SAをステートカウンタ606に出力する。
【0137】
ステートカウンタ606は、7進カウンタであり、初期状態では、ステートデータpsを“0”にリセットする。この状態で、波形出力開始のトリガ信号が入力されると、ステートカウンタ606は、ステートデータpsを“1”だけカウントアップする。その後、タイマ605からステート更新信号SAが入力される毎に、ステートカウンタ606は、ステートデータpsを“1”ずつカウントアップする。そしてステートデータpsを上限値(7進カウンタのため“6”)までカウントすると、ステートカウンタ606は、その後のステート更新信号SAの入力によりステートデータpsを“0”にリセットする。ステートカウンタ606は、ステートデータps0〜ps6をセレクタ604とチャネルCh.1〜Ch.n別の回路ユニット607とに出力する。
【0138】
各回路ユニット607は、それぞれステート検出器6071、ワンショットタイマ6072、駆動パターンメモリ6073及びゲート回路6074を備える。ゲート回路6074は、第2の実施形態のゲート回路5046と同一なので、ここでの説明は省略する。
【0139】
ステート検出器6071は、ステートカウンタ606から与えられるステートデータps0〜ps6の中からステートデータps3を検出する。ステート検出器6071は、ステートデータps3を検出すると、ワンショットタイマ6072にイネーブル信号enを出力する。
【0140】
ワンショットタイマ6072は、時間調整値レジスタ603から、チャネルCh.1に対する時間調整値T2a(1)を受け取る。そしてステート検出器6071からイネーブル信号enを受信する毎に、ワンショットタイマ6072は、時間調整値T2a(1)に相当する時間を計時し、計時し終えると、駆動パターンメモリ6073に調整終了信号aeを出力する。
【0141】
駆動パターンメモリ6073は、ステートデータps0〜ps6にそれぞれ対応付け、かつステートデータがps3の場合には調整終了信号aeの有無にも関連させて駆動パターンデータを記憶する。駆動パターンデータは、6つのスイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23のオン,オフを制御するデータである。
【0142】
図25は、駆動パターンメモリ6073に記憶される駆動パターンデータの具体例を表す。
図25において、スイッチ素子S11及びS21の符号に付される“(−)”は、当該スイッチ素子S11及びS21が負電源ラインL2に接続されていることを表す。スイッチ素子S12及びS22の符号に付される“(+)”は、当該スイッチ素子S12及びS22が正電源ラインL1に接続されていることを表す。スイッチ素子S13及びS23の符号に付される“(0)”は、グラウンドラインL3に接続されていることを表す。
【0143】
ステートカウンタ606からステートデータps0〜ps6が入力される毎に、そのステートデータps0〜ps6に対応し、かつステートデータがps3の場合には調整終了信号aeの有無にも関連させた駆動パターンデータに従い、スイッチ素子S11,S12,S13,S21,S22,S23毎に駆動波形が駆動パターンメモリ6073から発生する。
【0144】
すなわちステートデータがps0の初期状態においては、スイッチ素子S13とスイッチ素子S23とがオンし、スイッチ素子S11,S12,S21及びS22をオフする駆動波形が発生する。
【0145】
この状態で、ステートカウンタ606に波形出力開始のトリガ信号が入力されて、ステートデータがps1に更新されると、スイッチ素子S13がオフし、S12がオンする駆動波形が発生する。またセレクタ604は、第21設定レジスタ6011に設定された時間、すなわち前段の充電時間T1aを選択し、タイマ605にセットする。その結果、アクチュエータZ1は、前段の充電時間T1aが計時されている間、電圧E/2[V]で順方向に通電されて充電される。
【0146】
タイマ605が時間T1aを計時することで、ステートデータがps2に更新されると、スイッチ素子S23がオフし、スイッチ素子S21がオンする。またセレクタ604は、第22設定レジスタ6012に設定された時間(TD−T1a)を選択し、タイマ605にセットする。その結果、アクチュエータZ1は、時間(TD−T1a)が計時されている間、電圧E[V]で順方向に通電されて、さらに充電される。以上の動作により、チャネルCh.1の圧力室にインクが補充される。
【0147】
タイマ605が時間(TD−T1a)を計時することで、ステートデータがps3に更新されると、スイッチ素子S21がオフし、スイッチ素子S23がオンする。またセレクタ604は、第23設定レジスタ6013に設定された時間TRを選択し、タイマ605にセットする。さらに、ステート検出器6071がステートデータps3を検出することでワンショットタイマ6072が起動する。そしてワンショットタイマ6072が時間T2a(1)を計時すると、駆動パターンメモリ6073に調整終了信号aeが出力される。
【0148】
その結果、アクチュエータZ1は、先ず、時間T2a(1)が計時されている間、中間電圧E/2[V]が与えられた状態で放電する。そして時間T2a(1)が計時されて、駆動パターンメモリ6073に調整終了信号aeが入力されると、スイッチ素子S12がオフし、スイッチ素子S13がオンする。その結果、アクチュエータZ1には電圧ゼロが与えられた状態となり、時間(TR−T2a(1))が計時されている間、放電を続ける。以上の動作により、ゲート回路5046に対してドット出力の印刷データD1が印加されている場合には、チャネルCh.1のノズルからインク滴が1滴吐出される。吐出するタイミングは放電動作のときである。
【0149】
タイマ605が時間TRを計時することで、ステートデータがps4に更新されると、スイッチ素子S23がオフし、スイッチ素子S22がオンする。またセレクタ604は、第24設定レジスタ6014に設定された時間T3aを選択し、タイマ605にセットする。その結果、アクチュエータZ1は、第24設定レジスタ6014に設定された時間、すなわち前段の逆充電時間T3aが計時されている間、E/2[V]で逆方向に通電されて充電される。
【0150】
タイマ605が時間T3aを計時することで、ステートデータがps5に更新されると、スイッチ素子S13がオフし、スイッチ素子S11がオンする。またセレクタ604は、第25設定レジスタ6015に設定された時間(TP−T3a)を選択し、タイマ605にセットする。その結果、アクチュエータZ1は、時間(TP−T3a)が計時されている間、E[V]で逆方向に通電されて、さらに充電される。
【0151】
タイマ605が時間(TP−T3a)を計時することで、ステートデータがps6に更新されると、スイッチ素子S11がオフし、スイッチ素子S13がオンする。またセレクタ604は、第26設定レジスタ6016に設定された時間T4aを選択し、タイマ605にセットする。その結果、アクチュエータZ1は、第26設定レジスタ6016に設定された時間、すなわち前段の逆放電時間T4aの間、放電する。
【0152】
タイマ605が時間T4aを計時することで、ステートデータがps0に戻ると、スイッチ素子S22がオフし、スイッチ素子S23がオンする。その結果、アクチュエータZ1は放電を続ける。以上の動作により、チャネルCh.1の圧力室の容積が拡張及び復元されてダンピングが行われる。
【0153】
このように第3の実施形態においても、ノズルからインクを吐出するタイミングでの前段の放電時間T2a(1)とその後の放電時間(TR−T2a(1))とは、時間調整値レジスタ503にセットされる時間調整値T2a(1)に依存する。したがって、第2の実施形態と同様に、消費電力を抑制しつつ、チャネルCh.1〜Ch.n毎にインクの吐出特性を調整可能なインクジェットヘッドを提供することができる。
【0154】
しかも、波形発生回路600は、駆動波形のタイミングを生成するセレクタ604、タイマ605及びステートカウンタ606を、各チャネルCh.1〜Ch.nに対して共通とした。このため、回路ユニット607は第2の実施形態の回路ユニット504と比べて構成部品が少ないので、構成の簡略化、低コスト化等の効果を奏し得る。そしてこの効果は、チャネル数が多いインクジェットヘッドほど顕著なものとなる。
【0155】
前記第2及び第3の実施形態は、いずれもチャネルCh.1〜Ch.n毎にインクの吐出特性を調整する場合を例示した。吐出特性の調整は、チャネルCh.1〜Ch.n毎に行うものに限定されるものではない。全てのチャネルCh.1〜Ch.nに対して共通にインクの吐出特性を調整してもよい。また、複数のチャネルをまとめてグループ化し、グループ単位でインクの吐出特性を調整することで回路規模を削減し、低コスト化を図ることも可能である。
【0156】
以下では、グループ単位でインクの吐出特性を可変調整できるインクジェットヘッドの実施形態(第4、第5の実施形態)について説明する。
【0157】
[第4の実施形態]
図26は、第4の実施形態における波形発生回路700の構成を示すブロック図である。波形発生回路700は、グループ単位のチャネルCh.1〜k,Ch.k+1〜2k,…に対して共通の時間設定レジスタ701、印刷データレジスタ702及び時間調整値レジスタ703と、グループ単位のチャネルCh.1〜k,Ch.k+1〜2k,…別の回路ユニット704と、信号線705とを備える。信号線705は、時間設定レジスタ701、印刷データレジスタ702及び時間調整値レジスタ703と、各回路ユニット704とを、電気的に接続する。
【0158】
各回路ユニット704は、それぞれ同一グループに属する複数のチャネルに対して共通に駆動波形を生成する回路群である。駆動波形は、チャネルに含まれるアクチュエータへの通電路を形成する6つのスイッチ素子のオン,オフを制御する波形である。各回路ユニット704は、同一の構成を有する。このため
図26では、チャネルCh.1〜Ch.kの1グループに対する回路ユニット704だけその構成を具体的に示す。そして回路ユニット704が、各チャネルCh.1〜Ch.kのそれぞれ6つのスイッチ素子に対して駆動波形を与える場合について説明する。他のチャネルCh.k+1〜2k,…に対する回路ユニット704の説明は重複するので、ここでは省略する。因みに本実施形態では、当該チャネルがインクを吐出する吐出チャネルであるとき、隣接チャネルは吐出チャネルでないものとする。
【0159】
時間設定レジスタ701は、第31設定レジスタ7011、第32設定レジスタ7012、第33設定レジスタ7013、第34設定レジスタ7014、第35設定レジスタ7015及び第36設定レジスタ7016を含む。第31設定レジスタ7011には、時間T1aがセットされる。第32設定レジスタ7012には、(時間TD−T1a)がセットされる。第33設定レジスタ7013には、時間T3aがセットされる。第34設定レジスタ7014には、時間(TP−T3a)がセットされる。第35設定レジスタ7015には、時間T4aがセットされる。第36設定レジスタ7016には、時間TRがセットされる。時間T1a、時間(TD−T1a)、時間T3a、時間(TP−T3a)、時間T4a、時間TRは、第1の実施形態において、
図8〜
図10を用いて説明した同一符号の時間と同じ意味を持つ。すなわち第4の実施形態の時間設定レジスタ701は、第2の実施形態の時間設定レジスタ501と同じである。
【0160】
印刷データレジスタ702は、印刷データD1〜Dnの入力を受け付ける。印刷データD1〜Dnは、チャネルCh.1〜Ch.nに対して1対1で対応する。印刷データレジスタ702は、画像メモリから転送される印刷データD1〜Dnを記憶する。そして印刷データレジスタ702は、先入れ先出し(FIFO)方式により、印刷データD1〜Dnを、それぞれ対応するチャネルCh.1〜Ch.nが属する回路ユニット704に出力する。
【0161】
調整値レジスタ703は、時間調整値T2a(1)〜T2a(g)の入力を受け付ける。時間調整値T2a(1)〜T2a(g)は、いずれも第1の放電に際してアクチュエータを中間電圧E/2[V]まで放電するのに要する時間である。時間調整値T2a(1)〜T2a(g)は、複数のチャネルをまとめたグループに対して1対1で対応する。時間調整値T2a(1)〜T2a(g)は、グループ毎に任意の値を設定可能である。調整値レジスタ703は、グループ毎に設定された時間調整値T2a(1)〜T2a(g)を記憶する。そして調整値レジスタ703は、時間調整値T2a(1)〜T2a(g)をそれぞれ対応するグループの回路ユニット704に出力する。
【0162】
信号線705は、各回路ユニット704に、それぞれ時間設定レジスタ701の第31〜第36設定レジスタ7011〜7016と、印刷データレジスタ702と、調整値レジスタ703とを接続する。また信号線505は、各回路ユニット704に、波形出力開始のトリガ信号を印加する。
【0163】
各回路ユニット704は、それぞれ減算器7041、セレクタ7042、タイマ7043、ステートカウンタ7044、駆動パターンメモリ7045及びそのグループに属するチャネルCh.1〜Ch.k別のゲート回路7046-1、7046-2、…、7046-mを備える。各ゲート回路7046-1、7046-2、…、7046-kは、それぞれ6つのスイッチ素子にそれぞれ対応した2入力ANDゲートまたはNANDゲートを含む。ゲート回路7046-1、7046-2、…、7046-kは、N型チャネルのMOSトランジスタからなり、負電源ラインL2に接続されるスイッチ素子と、P型チャネルのMOSトランジスタからなり、グラウンドラインL3に接続されるスイッチ素子に対しては、ANDゲートとなっている。ゲート回路7046-1、7046-2、…、7046-kは、P型チャネルのMOSトランジスタからなり、正電源ラインL1に接続されるスイッチ素子に対しては、NANDゲートとなっている。各ゲート回路7046-1、7046-2、…、7046-kのANDゲート及びNANDゲートの一方の入力には、印刷データレジスタ702から出力される印刷データD1〜Dkが印加される。各ANDゲート及びNANDゲートの他方の入力には、駆動パターンメモリ5045からスイッチ素子毎に発生する駆動波形が印加される。
【0164】
減算器7041、セレクタ7042、タイマ7043、ステートカウンタ7044及び駆動パターンメモリ7045は、第2の実施形態の減算器5041、セレクタ5042、タイマ5043、ステートカウンタ5044及び駆動パターンメモリ5045と同一である。また、駆動パターンメモリ5045に記憶される駆動パターンデータも、
図23に示した第2の実施形態のものと同一である。
【0165】
したがって、ステートカウンタ7044に波形出力開始のトリガ信号が入力されて、ステートデータがST0からST1に更新されると、各チャネルCh.1〜Ch.kのアクチュエータZ1〜Zkは、前段の充電時間T1aが計時されている間、電圧E/2[V]で順方向に通電されて充電される。続いてステートデータがST2に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、時間(TD−T1a)が計時されている間、電圧E[V]で順方向に通電されてさらに充電される。以上の動作により、各チャネルCh.1〜Ch.kの圧力室にイクが補充される。
【0166】
続いて、ステートデータがST3に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、前段の放電時間T2a(1)が計時されている間、中間電圧E/2[V]が与えられた状態で放電する。そしてさらに、時間T2a(1)が計時されて、ステートデータがST4に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkには電圧ゼロが与えられた状態となり、時間(TR−T2a(1))が計時されている間、放電を続ける。以上の動作により、ゲート回路7046-1〜7046-kに対してドット出力の印刷データD1〜Dkが印加されているチャネルCh.1〜Ch.kのノズルからインク滴が1滴吐出される。吐出するタイミングは放電動作のときである。
【0167】
続いて、ステートデータがST5に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、前段の収縮時間T3aが計時されている間、E/2[V]で逆方向に通電されて充電される。続いて、ステートデータがST6に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、時間(TP−T3a)が計時されている間、E[V]で逆方向に通電されてさらに充電される。続いてステートデータがST7に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、アクチュエータZ1は、前段の復元時間T4aの間、中間電圧E/2[V]が与えられた状態で放電する。続いて、ステートデータがST0に戻ると、各アクチュエータZ1〜Zkは、放電を続ける。以上の動作により、各チャネルCh.1〜Ch.kの圧力室の容積が拡張及び復元されてダンピングが行われる。
【0168】
このように第4の実施形態によれば、消費電力を抑制しつつ、複数のチャネルをまとめたグループ単位にインクの吐出特性(吐出速度、吐出体積)を調整可能なインクジェットヘッドを提供することができる。
【0169】
[第5の実施形態]
図27は、第5の実施形態における波形発生回路800の構成を示すブロック図である。波形発生回路800は、グループ単位のチャネルCh.1〜k,Ch.k+1〜2k,…に対して共通の時間設定レジスタ801、印刷データレジスタ802、時間調整値レジスタ803、セレクタ804、タイマ805及びステートカウンタ806と、グループ単位のチャネルCh.1〜k,Ch.k+1〜2k,…別の回路ユニット807と、信号線808とを備える。信号線808は、印刷データレジスタ802、時間調整値レジスタ803及びステートカウンタ806と、各回路ユニット807とを、電気的に接続する。
【0170】
各回路ユニット807は、それぞれ同一グループに属する複数のチャネルに対して共通に駆動波形を生成する回路群である。駆動波形は、チャネルに含まれるアクチュエータへの通電路を形成する6つのスイッチ素子のオン,オフを制御する波形である。各回路ユニット807は、同一の構成を有する。このため
図27では、チャネルCh.1〜Ch.kの1グループに対する回路ユニット807だけその構成を具体的に示す。そして回路ユニット807が、各チャネルCh.1〜Ch.kのそれぞれ6つのスイッチ素子に対して駆動波形を与える場合について説明する。他のチャネルCh.k+1〜2k,…に対する回路ユニット807の説明は重複するので、ここでは省略する。因みに本実施形態では、当該チャネルがインクを吐出する吐出チャネルであるとき、隣接チャネルは吐出チャネルでない独立駆動を前提とする。
【0171】
時間設定レジスタ601は、第41設定レジスタ8011、第42設定レジスタ8012、第43設定レジスタ8013、第44設定レジスタ8014、第45設定レジスタ8015及び第46設定レジスタ8016を含む。第41設定レジスタ8011には、時間T1aがセットされる。第42設定レジスタ8012には、(時間TD−T1a)がセットされる。第43設定レジスタ8013には、時間TRがセットされる。第44設定レジスタ8014には、時間T3aがセットされる。第45設定レジスタ8015には、時間(TP−T3a)がセットされる。第46設定レジスタ8016には、時間T4aがセットされる。時間T1a、時間(TD−T1a)、時間TR、時間T3a、時間(TP−T3a)、時間T4aは、第1の実施形態において、
図8〜
図10を用いて説明した同一符号の時間と同じ意味を持つ。
【0172】
すなわち第5の実施形態の時間設定レジスタ801は、第3の実施形態の時間設定レジスタ601と同じである。また、セレクタ804、タイマ805及びステートカウンタ806も、第3の実施形態のセレクタ604、タイマ605及びステートカウンタ606度同一である。さらに、印刷データレジスタ802及び時間調整値レジスタ803は、第4の実施形態の印刷データレジスタ702及び時間調整値レジスタ703と同一構成である。したがって、印刷データレジスタ802、時間調整値レジスタ803、セレクタ804、タイマ805及びステートカウンタ806の説明は省略する。
【0173】
各回路ユニット807は、それぞれステート検出器8071、ワンショットタイマ8072、駆動パターンメモリ8073及びそのグループに属するチャネルCh.1〜Ch.k別のゲート回路8046-1、8046-2、…、8046-kを備える。各ゲート回路8046-1、8046-2、…、8046-kは、第4に実施形態のものと同一なので、ここでの説明は省略する。また、ステート検出器8071、ワンショットタイマ8072、駆動パターンメモリ8073は、第3の実施形態のステート検出器7071、ワンショットタイマ7072、駆動パターンメモリ7073と同一である。また、駆動パターンメモリ8073に記憶される駆動パターンデータも、
図25に示した第3の実施形態のものと同一である。
【0174】
したがって、ステートカウンタ806に波形出力開始のトリガ信号が入力されて、ステートデータがps0からps1に更新されると、各チャネルCh.1〜Ch.kのアクチュエータZ1〜Zkは、前段の充電時間T1aが計時されている間、電圧E/2[V]で順方向に通電されて充電される。続いて、ステートデータがps2に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、時間(TD−T1a)が計時されている間、電圧E[V]で順方向に通電されて、さらに充電される。以上の動作により、各チャネルCh.1〜Ch.kの圧力室にインクが補充される。
【0175】
続いて、ステートデータがps3に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、先ず、時間T2a(1)が計時されている間、中間電圧E/2[V]が与えられた状態で放電する。そして時間T2a(1)が計時されて、駆動パターンメモリ8073に調整終了信号aeが入力されると、各アクチュエータZ1〜Zkには電圧ゼロが与えられた状態となり、時間(TR−T2a(1))が計時されている間、放電を続ける。以上の動作により、ゲート回路7046-1〜7046-kに対してドット出力の印刷データD1〜Dkが印加されているチャネルCh.1〜Ch.kのノズルからインク滴が1滴吐出される。吐出するタイミングは放電動作のときである。
【0176】
続いて、ステートデータがps4に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、前段の収縮時間T3aが計時されている間、E/2[V]で逆方向に通電されて充電される。続いて、ステートデータがps5に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、時間(TP−T3a)が計時されている間、E[V]で逆方向に通電されて、さらに充電される。続いて、ステートデータがps6に更新されると、各アクチュエータZ1〜Zkは、前段の復元時間T4aの間、放電する。続いて、ステートデータがps0に戻ると、各アクチュエータZ1〜Zkは、放電を続ける。以上の動作により、各チャネルCh.1〜Ch.kの圧力室の容積が拡張及び復元されてダンピングが行われる。
【0177】
このように第5の実施形態においても、第4の実施形態と同様に、消費電力を抑制しつつ、複数のチャネルをまとめたグループ単位にインクの吐出特性(吐出速度、吐出体積)を調整可能なインクジェットヘッドを提供することができる。しかも、回路ユニット807は第4の実施形態の回路ユニット704と比べて構成部品が少ないので、構成の簡略化、低コスト化等の効果を奏し得る。そしてこの効果は、チャネル数が多いインクジェットヘッドほど顕著なものとなる。
【0178】
[変形例]
前記各実施形態は、シェアモードタイプのインクジェットヘッド100を例示したが、1つのノズルからインクを吐出させる際に1つのアクチュエータだけを動作させるタイプ、すなわちシェアモードタイプ以外のインクジェットヘッドに対しても、同様に適用することができる。この場合、例えば
図6において、アクチュエータZ1を1つのノズルからインクを吐出する際に動作するアクチュエータとみなせばよい。
【0179】
前記各実施形態では、負極性の電圧をアクチュエータに印加することによりインクの補充及び吐出を行い、正極性の電圧をアクチュエータに印加することによりダンピングを行ったが、インクの補充及び吐出のときとダンピングのときとで、アクチュエータに印加する電圧の極性を反転させてもよい。すなわち、正極性の電圧をアクチュエータに印加することによりインクの補充及び吐出を行い、負極性の電圧をアクチュエータに印加することによりダンピングを行うように構成することも可能である。
【0180】
前記各実施形態では、波形発生回路が時間設定レジスタを含むものとして説明したが、時間設定レジスタを波形発生回路の構成要件から除外してもよい。例えば第1の実施形態の場合、波形発生回路400は、セレクタ402とタイマ403とステートカウンタ404と駆動パターンメモリ405とで構成し、波形発生回路400の外部メモリに時間設定レジスタ401を設けて、セレクタ402がステートデータに応じた時間を設定レジスタ401から呼び出すように構成すればよい。
【0181】
この他、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]インクが充填される圧力室と、一連の充放電シーケンスによる充電または放電により前記圧力室の容積を変化させる静電容量性のアクチュエータと、前記圧力室の容積の変化に伴い、前記圧力室内のインクを吐出するノズルと、入力される駆動波形により前記アクチュエータを選択的に充電又は放電させる充放電回路と、前記アクチュエータを充電する際には、先ず前記アクチュエータに充電目標とする駆動電圧より低い中間電圧を与えて充電し、続いて前記駆動電圧を与えて充電し、前記アクチュエータから放電する際には、前記駆動電圧を与えて充電された前記アクチュエータに前記中間電圧を与えて放電し、続いて電圧ゼロを与えて放電するように前記駆動波形を前記充放電回路に出力する波形発生回路と、を具備し、前記ノズルからインクを吐出するタイミングで中間電圧を与える時間は、他のタイミングで中間電圧を与える時間よりも短いことを特徴とするインクジェットヘッド。
[2]インクが充填される圧力室と、一連の充放電シーケンスによる充電または放電により前記圧力室の容積を変化させる静電容量性のアクチュエータと、前記圧力室の容積の変化に伴い、前記圧力室内のインクを吐出するノズルと、入力される駆動波形により前記アクチュエータを選択的に充電又は放電させる充放電回路と、前記アクチュエータを充電する際には、先ず前記アクチュエータに充電目標とする駆動電圧より低い中間電圧を与えて充電し、続いて前記駆動電圧を与えて充電し、前記アクチュエータから放電する際には、前記駆動電圧を与えて充電された前記アクチュエータに前記中間電圧を与えて放電し、続いて電圧ゼロを与えて放電し、第1の充電、第1の放電、第2の充電、第2の放電の順に充放電を行うように前記駆動波形を前記充放電回路に出力する波形発生回路と、を具備し、前記インクの吐出は、前記第1の放電のタイミングで行われ、前記第1の充電に際して前記アクチュエータに前記中間電を与える時間をT1a、前記第1の放電に際して前記アクチュエータに前記中間電圧を与える時間をT2a、前記第2の充電に際して前記アクチュエータに前記中間電圧を与える時間をT3a、前記第2の放電に際して前記アクチュエータに前記中間電圧を与える時間をT4aとしたとき、T1a、T3a,T4aのうち少なくとも何れかはT2aよりも長いことを特徴とするインクジェットヘッド。
[3]前記T1a,T2a,T3a,T4aをそれぞれ設定する時間設定レジスタ、を具備し、少なくともT1a,T3a,T4aの各時間設定レジスタのうちいずれかの時間設定レジスタに設定される時間に対して、前記T2aの時間設定レジスタに設定される時間は、半分以下であることを特徴とする付記[2]記載のインクジェットヘッド。
[4]前記波形発生回路は、少なくとも前記各時間設定レジスタから設定時間を選択するセレクタと、このセレクタで選択された設定時間を計時するタイマと、このタイマで前記設定時間が計時される毎にステートデータを更新するステートカウンタと、を備え、前記ステートデータに応じた駆動波形を前記充放電回路に出力することを特徴とする付記[3]記載のインクジェットヘッド。
[5]前記駆動電圧の半分の電圧をそれぞれ出力する第1の電圧源と第2の電圧源とを直列に接続し、前記第1の電圧源と前記第2の電圧源との接続点を接地してなる電源回路を有することを特徴とする付記[1]乃至[4]のうちいずれか1に記載のインクジェットヘッド。
[6]インクが充填される圧力室と、一連の充放電シーケンスによる充電または放電により前記圧力室の容積を変化させる静電容量性のアクチュエータと、前記圧力室の容積の変化に伴い、前記圧力室内のインクを吐出するノズルと、入力される駆動波形により前記アクチュエータを選択的に充電又は放電させる充放電回路と、前記アクチュエータを充電する際には、先ず前記アクチュエータに充電目標とする駆動電圧より低い中間電圧を与えて充電し、続いて前記駆動電圧を与えて充電し、前記アクチュエータから放電する際には、前記駆動電圧を与えて充電された前記アクチュエータに前記中間電圧を与えて放電し、続いて電圧ゼロを与えて放電するように前記駆動波形を前記充放電回路に出力する波形発生回路と、前記ノズルからインクを吐出するタイミングでの前記駆動電圧まで充電された前記アクチュエータを前記中間電圧まで放電するのに要する時間を可変する調整部と、を具備したことを特徴とするインクジェットヘッド。
[7]前記調整部は、前記ノズルからインクを吐出するタイミングでの前記駆動電圧まで充電された前記アクチュエータを前記中間電圧まで放電するのに要する時間を、前記ノズル毎にまたは複数のノズルが属するグループ毎に調整することを特徴とする付記[6]記載のインクジェットヘッド。