【実施例1】
【0017】
図1は、サイフォン式水洗便器の縦断面図を示し、
図2は、サイフォン式水洗便器の平
面図を示す。
サイフォン式水洗便器1の便器本体2内には、鉢面3が形成され、この鉢面3に連続し
て底側へ落ち込む立ち面4が形成され、最も深い位置にトラップ入口5が開口されて、こ
のトラップ入口5から、後方側に向かって上傾する逆U字状のトラップ排水路6が形成さ
れており、トラップ排水路6の下流端には下向きの排水口7が形成され、この排水口7に
、円形状のゴムパッキン13を介し別体の排水ソケット8が接続されている。
【0018】
また、便器本体2の上面側には、鉢面3の外周にリム通水路9aを形成するリム9及び
洗浄段12が設けられており、また、便器本体2の後部上面側には洗浄水の分配器10が
配置されて、この分配器10の一方側の第1流出口10aから流出される洗浄水が第1吐
水口11aから吐水され、リム通水路9aを通り、鉢面3上に半時計回りの水平な旋回流
となって供給されるように構成されている。
また、分配器の他方側の第2流出口10bから流出された洗浄水は第2吐水口11bか
ら吐水され、立ち面4後部から連続して後方側へ湾曲凸面状に上傾した上傾面4aに沿っ
て流下され、直接トラップ入口5へ向かって洗浄水が供給されるように構成されている。
なお、上傾面4aは、凸状になっており、第2吐水口11bからの洗浄水がトラップ入口
5に向かって流れ落ちるため、水平な旋回流の勢いを便器後部で弱め、且つ、水平な旋回
流を排水方向に対して直角となる縦方向の旋回流にすることができ、これにより、水平な
旋回流の遠心力が小さくなって、汚物が広がらず、縦方向の旋回流により汚物を集めるこ
とができ、スムーズな洗浄水の排出ができるように構成されている。
【0019】
このように、鉢面3上を旋回して立ち面4内に流下する洗浄水と、上傾面4aに沿って
流下する洗浄水が、トラップ入口5に集められると、トラップ排水路6内の溜水面Wが上
昇し、洗浄水がトラップ排水路6内の頂部6aを超えて排水口7に流下し、排水ソケット
8に形成されている絞り部8aで絞られることで、トラップ排水路6内が満水状態となり
、このトラップ排水路6内が満水状態となった時の鉢面3側の溜水面Wとの水位差により
排水方向に引き込み力が生じて、このサイフォン作用により良好に汚物を洗浄水とともに
排出することができるものである。
【0020】
引き続きサイフォン式水洗便器の詳細を
図3〜
図12の断面図に従って説明する。
図3は、
図1のA−A線断面図であり、
図4は、
図1のB−B線断面図であり、
図5は
、
図1のC−C線断面図であり、
図6は、
図1のD−D線断面図であり、
図7は、
図1の
E−E線断面図である。
【0021】
図3および
図4に示すように、便器本体2内の前側の鉢面3の平面視幅方向中央部には、下方側へ凹ませて凹部3aが形成され、凹部3aの平面視幅方向両端には、凸状の凸部3bが連続して形成され洗浄段12に至っている。なお、凸部3bは凹部3aよりも曲率半径が
大きく設定されている。
凹部3aは、後方側(立ち面4側)へ向かって徐々に深さを増して傾斜しており、この凹部3aにより、鉢面3上での小便の跳ね返りを良好に防げるように構成されている。また、この凹部3aにより、鉢面3上の洗浄水の旋回が早期に止められ、洗浄水は凹部3aに沿って立ち面4側へ流れ込むこととなる。
【0022】
図1および
図5〜
図7に示す立ち面4は、下方側へ向かって垂直状あるいは溜水面W側へ膨らんだ凸面状に形成されており、立ち面4の全周が垂直状または溜水面W側へ膨らむ凸面状となっている。即ち、立ち面4は溜水面Wの外周に立ち上げられており、鉢面3上を旋回する洗浄水を早期にこの立ち面4に沿って流下させ、洗浄水を速くトラップ入口5に向かわせるように構成されており、この立ち面4により、汚物を外側へ広がることなく、速くトラップ入口5に集めることができる。
なお、立ち面4の上部には全周に亘って、立ち面4に向かって湾曲凸面状のアール部Rが形成され、便器後部の上傾面4aもアール部Rの一部となっている。
このアール部Rの曲率半径は上傾面4aが最も
大きくなっている。即ち、便器の後部では、第2吐水口11bからの洗浄水をトラップ入口5に向かって流れ落とすために曲率半径は
大きい方が良いからである。一方、便器の前部では、アール部Rの曲率半径は
小さいため、立ち面4内に落ちた旋回流が再び立ち面4を登り外側に広がるのを防いで、洗浄水を速くトラップ入口5に向かわせるようにしてある。
【0023】
立ち面4内の溜水面Wの平面視形状は、
図2に示すように、前後方向に長い略楕円形となっている。
なお、この溜水面Wの平面視形状において前方側の曲率半径R2が最も
小さく設定されており、この曲率半径R2が
小さい前方部の左右側の立ち面4で洗浄水を跳ね返して、洗浄水をトラップ入口5に向かわせるように構成されている。
また、溜水面Wの前後方向中央よりも前側に、平面視最大横幅を有するP点が存在するように設定されており、鉢面3から立ち面4に沿って溜水面Wに流れ落ちる洗浄水が、曲率半径R2が
小さい前方側の部分で跳ね返されて、P点以降は後方のトラップ入口5に近づくにつれて速度を増して集められるように構成されている。これにより、トラップ入口5に洗浄水および汚物が速く流れ込むこととなり、少ない洗浄水で汚物をトラップ入口5に集めてサイフォンを速く起動させることができる。
【0024】
なお、トラップ入口5の断面形状は、
図8(
図1のF−F線断面図である。)に示すよ
うに、上面および底面が略水平形状となっており、上方の角部は角ばっていて下方の角部
は丸く、全体として略D形状になっている。このトラップ入口5は、縦寸法よりも横幅寸
法が大きい形状に開口されたものであり、このトラップ入口5の縦寸法aは50mmとな
っており、横幅寸法bは77mmとなっている。
このように縦寸法よりも横幅寸法を大きくしたことにより、トラップ入口5内にスムー
ズに洗浄水および浮遊物等が流れ込むこととなり、早期にサイフォンを起動させることが
できるものとなる。
即ち、トラップ入口5では、流れ込む洗浄水の縦方向下部部位は、下側へもぐり込むこ
とで速度が遅くなり淀みができるため、縦寸法aは短いものとして横幅寸法bを広げれば
、その分、流れ込む洗浄水の速度の速い上部部位の面積が増えることとなるため、洗浄水
をスムーズにトラップ入口5へ淀みなく速く流れ込ませることができ、トラップ入口5で
整流化できるものである。さらに、横幅があるため、トラップ入口5での汚物の詰まりも
起こらないのである。なお、略D形の断面形状において上方の角部を角ばらせることは、
流れ込む洗浄水の速度の速い断面上部部位の面積を増やすこととなり、好ましい形状と言
える。
【0025】
なお、トラップ入口5の縦寸法aは50mm〜60mmの範囲に設定することが好まし
く、また、横幅寸法bは70mm〜85mmの範囲に設定することが好ましい。
また、トラップ入口5は
図8のような断面D形状に限定するものではなく、縦寸法より
も横幅寸法が大きい楕円形等の形状としても十分な効果が得られる。なお、断面楕円形よ
りも断面横長長方形のほうが効果が大であり、さらに断面横長長方形よりも断面略D形状
のほうが効果が大である。
また、このトラップ入口5の手前には、
図1に示すように、トラップ入口5へ向かって
下向きに延びる導入通路5aが設けられており、この導入通路5aの内周面に沿って洗浄
水がトラップ排水路6内に流れ込む際に、洗浄水が絞られて整流化され、洗浄水の流れが
スムーズなものとなる。
なお、トラップ入口5の前でしっかり整流化され、さらに、扁平形状のトラップ入口5
で整流化できるため、洗浄水がトラップ排水路6内に整流のまま流れ込み、トラップ排水
路の上昇管6Pの縦寸法を大きくしても乱流が起き難く、スムーズに洗浄水の排出ができ
る。
【0026】
また、
図7,
図8に示すように、トラップ入口5の手前にある導入通路5aの形状は、底面5bの両側にある立ち面5cとを繋ぐアール部が、断面方向の旋回流の流れが立ち面5cから底面5bに向かう便器正面から見て左側のアール部5dの曲率半径を、底面5bから立ち面5cに向かうアール部5eの曲率半径より
大きく設定してある。即ち、左側のアール部5dの方が右側のアール部5eより曲率半径が
大きく、緩やかな曲がり具合のアール面に形成されている。
なお、洗浄水は、鉢面3上で反時計回りの水平な旋回流を形成し、上傾面4aから流れる洗浄水により縦方向の旋回流になり導入通路5a内に流入する。この時、左側のアール部5dが緩やかな曲がり具合のアール面であるため、洗浄水は導入通路5a内にスムーズに流入する。導入通路5a内に流入した洗浄水は、曲率の大きい曲がり具合のきつい右側のアール部5eから、直線的に立ち上がっている右側の立ち面5cに衝突してトラップ排水路6の下流方向への流れに変化する。
このように導入通路5aによって、便器の鉢面3内で旋回していた流れを、トラップ排水路6下流方向の流れに変化させ整流化することができる。
【0027】
なお、アール部5d,5eは、管状の導入通路5aに限らず、特許文献1に示すような
管状ではない導入通路においても、導入通路5a底面の下降傾斜面に同様な形状を設ける
ことにより、同じ整流効果を得ることができる。
また、旋回流が時計回りの場合は、導入通路5aのアール部5d,5eの形状は左右逆
向きの形状となる。
【0028】
また、
図12は、
図1のK−K線断面構成図である。
図12に示すように、頂部6a手前のトラップ排水路6の断面形状は、横幅寸法bが7
7mmに設定されており、縦寸法cは62mmに設定されている。即ち、
図12において
、トラップ排水路6の内周の上面側中央部が上側へ膨らませて形成されており、この上側
へ膨らんだ部分により汚物が回転し易いため、頂部6a付近で汚物の詰まりが発生し難い
ものとなる。
このように上面側中央部を膨らませて汚物回転用空間6bを形成したことにより、汚物
回転用空間6b内で汚物が良好に回転して頂部6aを超えて排水口7に落下することがで
きるものとなり、硬く長い汚物でも詰まることなく排出できるものとなる。
【0029】
な
お、横幅寸法bは70mm〜85mmの範囲内に設定することが好ましい。
このように汚物が詰まらないようにして早期に排水ソケット8の絞り部8a(内径53mm)まで洗浄水を満水状態とさせて、早期にスムーズにサイフォンを起動させることができ、少ない水で良好に洗浄できるものとなる。
【0030】
また、
図9は、
図1のG−G線断面図を示す。
この
図9は、トラップ排水路6の頂部6aの断面形状を示すものであり、この頂部6a
の下面は水平形状となっており、横幅寸法bは、トラップ入口5の横幅寸法と同じ77m
mに設定されている。
即ち、このトラップ排水路6の頂部6aも下面は水平形状で横幅が広いものとなってお
り、トラップ排水路6内に押し込まれた洗浄水により、トラップ排水路6内の溜水面Wの
水位が頂部6aよりも僅かに上方へ上昇すると、横幅寸法bが広く下面は水平なために大
量の水が勢いよく排水口7に向かって流れ落ちることとなり、速くサイフォンを起動させ
ることができるのである。
なお、一般的には、この頂部6aの横幅寸法は50mm〜60mmであるが、この横幅
寸法bは75mm以上とするのが好ましい。
なお、
図1において上昇管6Pの断面の縦寸法は、トラップ入口5から頂部6aにかけ
て徐々に広がっていく形状となっているが、頂部6aでの縦寸法は汚物の回転には支障は
ないため、
図12のK−K線断面より狭くしても良い。
【0031】
なお、
図10は、
図1のI−I線断面図であり、また、
図11は、
図1のJ−J線断面
構成図であり、排水口7の部分を示しており、この排水口7の部分の排水路は円形状に形
成されて、下端側は内径が58mmの絞られた形状となっている。
【0032】
なお、
図2のような溜水面Wの平面視形状が前後方向に長い略楕円形や、
図6および図
7に示すような立ち面4の凸面状の形状や、
図8のような横幅の広い扁平なトラップ入口
5の形状や、
図12のような汚物回転用空間6bを形成させたトラップ排水路6の断面形
状等は、サイフォン式水洗便器に限らず、サイフォンゼット式水洗便器や、水道直結式の
ダイレクトバルブ式便器や、サイフォン作用が生じない洗い落とし式便器に採用すること
もでき、汚物および洗浄水がトラップ入口5に集まりやすく、少ない水で洗浄できる構造
を確保することができるものとなる。
【実施例2】
【0033】
次に、
図13〜
図18では、水洗便器における上昇管6Pの部分の変更例である第2実
施例を示す。
図13は、
図1におけるトラップ排水路6の上昇管6Pの拡大断面図であり、この
図1
3におけるL−L断面は
図14に示し、M−M断面は
図15に示し、N−N断面は
図16
に示し、O−O断面は
図17に示し、P−P断面は
図18に示す。
【0034】
即ち、
図14,
図15,
図16,
図17は、上昇管6Pにおける排水方向に対し直角の
断面形状を示している。また、
図18は、頂部6aの上流側近傍の排水方向に対し直角の
断面形状を示している。
【0035】
上昇管6Pの内周面には、底側の底面61と、底面61の左右において縦方向(上下方
向)に立ち上がる立ち面62,63と、立ち面62,63の上端の略山形状の上面64,
65,66が連続して形成されている。
上面64,65,66は、洗浄水の排水方向に対し直角方向の中央部に位置する上面中
央部64から左右に下向きに上面傾斜部65,66が立ち面62,63に向かって形成さ
れており、
図14では、上面傾斜部65,66はトラップ排水路6内に膨出した湾曲の傾
斜状に形成されている。また、
図15,
図16,
図17では、上面傾斜部65,66は略
直線状に傾斜して形成されている。
また、
図18では、左右の立ち面62,63の高さが、中間部から頂部6a近傍の間で
最大となるような形状となっており、この
図18に示す上昇管6Pの上昇端の面積が最大
の面積となるように設定されている。
なお、上昇管6Pの上流端であるトラップ入口5の排水方向に対する直角の断面は、前
記
図8に示したような断面形状となっており、トラップ排水路6の頂部6aの断面形状は
、
図9と同じ形状となっている。
【0036】
なお、上昇管6P内で上流側から下流側に向かって排水方向に流れる洗浄水は、
図13
内の矢印WSに沿って流れの速い水流となる。
即ち、トラップ入口5では、断面における縦方向の下側へ潜り込む洗浄水は流速が遅く
なり淀みが生じやすくなるが、トラップ入口5での断面における縦方向の上側では、水流
は潜らないために速い流速を維持して上昇管6P内に流入され、この速い水流は上昇管6
P内で頂部6aに向かって流れるため、上昇管6Pの中間部から下流側の頂部6aの手前
の上昇端に至る間では、断面における縦方向の下側、即ち底面61側の水流の速度が速く
、断面における縦方向の上側で水流が遅くなり淀みが生じやすくなる。そのため、上昇管
6P内全体として水流の速度を良好に維持して洗浄水が圧損なくスムーズに流れるように
、
図14〜
図18に示したような断面形状に設定したものである。
【0037】
前述したように、トラップ入口5では断面の縦方向中央より上側の洗浄水の流速が速い
ために、断面の縦方向中央より上側が下側より大きい面積となるように、
図8のような形
状に形成されて速い流速を確保しており、トラップ入口5から上昇管6Pの中間部にかけ
ては、断面の縦方向中央より上側の面積を広くして、下側の面積は絞って狭くしてある。
また、上昇管6Pの中間部から下流側の頂部6aの手前の上昇端にかけては、断面の縦
方向中央より下側の洗浄水の流速が速いために、断面の縦方向中央より下側が上側より大
きい面積となるように、断面の縦方向中央より下側の面積を広くして、上側の面積は絞っ
て狭くしてある(
図14,
図15,
図16,
図17,
図18参照)。
【0038】
このように、上昇管6P内における速い流れの水流WSの通る面積を広くして、逆に他
の部分の面積を絞り、淀みを無くしてスムーズに洗浄水が流れるように形成されている。
即ち、
図14〜
図18では、断面の縦方向中央より下側が上側より大きい面積となるよ
うに、上面中央部64から左右に下向きに上面傾斜部65,65を形成して、上側の面積
を狭めたのである。
また、この部分では底面61側は洗浄水の排水方向に対し直角方向に延びる略平坦面に
形成されて、この底面61に沿って早い水流が大量に流れるように設定したのである。
【0039】
また、
図18に示すように、上昇管6Pの上昇端では立ち面62,63の高さを高くし
て、この部分の面積を広げて汚物が回転しやすいように設定したものであり、この部分で
の汚物の詰まりを確実に防ぐことができるものとなる。
なお、
図18においても上面側は略山形状に絞ってあり、上面側での洗浄水の流速は高
まり、良好に汚物の詰まりを無くすることができるものである。