(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係る固体酸化物形燃料電池の一実施形態について
図1〜
図3を参照しつつ説明する。固体酸化物形燃料電池は、空気等の酸化剤ガスと水素ガス等の燃料ガスとの供給を受けて発電を行う装置である。
図1に示される平板型の固体酸化物形燃料電池スタック100は、発電単位である板状の燃料電池単セル(以下、単に「単セル」ともいう)1が直列に複数配列されることによって形成される。なお、本発明における固体酸化物形燃料電池スタックは、複数の単セル1により形成される場合に限定されず、一つの単セル1により形成されてもよい。
【0016】
図2に示すように、単セル1を配列する際には、単セル1に枠板状に形成されたセパレータ51を接合し、このセパレータ51を介して単セル1が配列される。セパレータ51は、燃料ガス(
図1及び
図2において、燃料ガスをFGで示す)が流通する燃料ガス室31と酸化剤ガス(
図1及び
図2において、酸化剤ガスをOGで示す)が流通する酸化剤ガス室41とを気密に隔てるように、固体電解質層2に接合されている。また、単セル1と単セル1との間には集電体5が設けられ、集電体5により単セル1で発生した電流が外部回路へ取り出される。本実施形態では集電体5は、単セル1と単セル1との間のガスの混合を隔離するインターコネクタの役割も果たしている。集電体5は、空気極4に臨む側の表面にCrの拡散を抑制するコート層10が設けられている。コート層10は、接合層7により空気極4に接合されている。単セル1の配列方向の両端(
図2における上下方向)には、エンドプレート52及び53が設けられている。
【0017】
図1に示すように、単セル1の配列方向に、エンドプレート52及び53を貫くように、4つの柱状の固定部材12〜15が、単セル1に接合されたセパレータ51の横断面の略矩形における4つの角に、1つずつ設けられている。また、隣り合う固定部材12〜15と固定部材12〜15との間において、単セル1の配列方向に、中空柱状の燃料ガス導入管16、燃料ガス導出管17、酸化剤ガス導入管18、及び酸化剤ガス導出管19が設けられている。固体酸化物形燃料電池スタック100は、その他の機器等と共に、収納容器に収められることにより、発電が可能な固体酸化物形燃料電池を形成する(図示なし)。収納容器は、固体酸化物形燃料電池スタック100の発電性能を損なわない限りにおいて、従来公知の容器を用いることができる。
【0018】
図1に示すように、前記固体酸化物形燃料電池スタック100は、固定部材12〜15、燃料ガス導入管16、燃料ガス導出管17、酸化剤ガス導入管18、及び酸化剤ガス導出管19において、それぞれ、例えばナットのような締付部材を用いて、エンドプレート52及び53に押圧力を加えることによって、複数の単セル1が配列された構造体が一体化されている。燃料ガス導入管16、燃料ガス導出管17、酸化剤ガス導入管18、及び酸化剤ガス導出管19は、酸化剤ガス又は燃料ガスの導出入の機能に加えて、前記固定部材12〜15と同様に、複数の単セル1が配列された構造体を一体化する機能をも有する。固体酸化物形燃料電池の運転時には、
図2に示すように、酸化剤ガス導入管18から導入された酸化剤ガスが、酸化剤ガス室41に至り、酸化剤ガスが空気極4と接触した後の排酸化剤ガスが、酸化剤ガス導出管19から排出される。また、燃料ガス導入管16から導入された燃料ガスが、燃料ガス室31に至り、燃料ガスが燃料極3と接触した後の排燃料ガスが、燃料ガス導出管17から排出される。
【0019】
図3に示すように、単セル1は、平板状の固体電解質層2と、前記固体電解質層2の一方の面に形成された平板状の燃料極3と、前記固体電解質層2の他方の面に形成された平板状の空気極4とを備える。この実施形態の固体酸化物形燃料電池における単セル1は、方形板状体であるが、その形状は特に限定されず、円盤状体であってもよい。単セル1における空気極4及び燃料極3それぞれと集電体5とは電気的に接続されている。
【0020】
前記固体電解質層2は、固体酸化物形燃料電池の運転時に、空気極4に導入される酸化剤ガスをイオンとして移動させることができるイオン電導性を有する。固体電解質層2は、酸化剤ガスが燃料極3へと通過すること、及び燃料ガスが空気極4へと通過することを防止できるように緻密に形成される。固体電解質層2は、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、サマリア添加セリア(SDC)、及びガドリア添加セリア(GDC)等の少なくとも一種により形成されることができる。
【0021】
前記燃料極3は、固体電解質層2の空気極4が形成されている面とは反対側の面に形成されている。燃料極3は、燃料ガスと接触して燃料電池におけるアノードとして機能する限り、その構造及び材料等は特に限定されない。燃料極3は、多孔質構造を有し、燃料ガスが通過できるように形成されている。燃料極3を形成する材料としては、例えば、Ni及びFe等の金属とY及びSc等の希土類元素のうちの少なくとも一種により安定化されたジルコニア等のジルコニア系セラミック等が挙げられる。
【0022】
前記空気極4は、固体電解質層2の燃料極3が形成されている面とは反対側の面に形成されている。前記空気極4は、酸化剤ガスと接触して燃料電池におけるカソードとして機能する限り、その構造及び材料等は特に限定されない。空気極4は、多孔質構造を有し、酸化剤ガスが通過できるように形成されている。空気極4を形成する材料としては、例えば、金属、金属の酸化物、金属の複合酸化物等を挙げることができる。金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Ru等の金属及び2種以上の金属を含有する合金等が挙げられる。金属の酸化物としては、La、Sr、Ce、Co、Mn、Fe等の酸化物、例えば、La
2O
3、SrO、Ce
2O
3、Co
2O
3、MnO
2、FeO等が挙げられる。複合酸化物としては、La、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe、Mn等のうちの少なくとも1種を含有する複合酸化物、例えば、La
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物(LSC)、La
1−xSr
xFeO
3系複合酸化物(LSF)、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3系複合酸化物(LSCF)、La
1−xSr
xMnO
3系複合酸化物(LSM)、Pr
1−xBa
xCoO
3系複合酸化物(PBC)、Sm
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物(SSC)、LaNi
1−xFe
xO
3系複合酸化物(LNF)等が挙げられる。前記空気極4は、例えば前述した材料からなる複数の層により形成されてもよい。
【0023】
前記集電体5は、隣接する単セル1の間に設けられ、少なくとも単セル1で発生した電流を外部回路へ取り出す機能を有する。集電体5は、空気極4及び燃料極3それぞれと電気的に接続されている。集電体5の形状は特に限定されないが、本実施形態では
図3に示す集電体5は、両面に凹凸を有する略板状体である。集電体5は、単セル1に略平行に延在する板状部8と、板状部8から空気極4に向かって突出する集電部6と、板状部8から燃料極3に向かって突出する集電部6´とを有する。集電部6、6´は柱状体であり、複数の集電部6、6´が、板状部8の両面に行列状に配列されている。隣接する集電部6、6´の間に形成された空間が、酸化剤ガス室41又は燃料ガス室31となる。なお、集電部6、6´は板状部8と別体で設けられていてもよい。
【0024】
前記集電体5は、Crを含有し、導電性を有する材料により形成される。集電体5を形成する材料としては、例えば、ステンレス鋼、クロム基合金等を挙げることができる。ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼等を挙げることができる。この実施形態の集電体5は、単一の材料により形成されているが、板状部8と集電部6、6´とが異なる材料により形成されていてもよいし、さらに空気極4に向かって突出する集電部6と燃料極3に向かって突出する集電部6´とが異なる材料により形成されていてもよい。集電体5は、固体酸化物形燃料電池の運転中に、酸化剤ガス室41を形成している面が700℃程度の高温環境下で酸化雰囲気に曝される。そのため、集電体5に含まれるCrが酸化して、集電体5の表面にCrの酸化物被膜が形成される。
【0025】
集電体5は、その表面にCrの拡散を抑制するコート層を有する。集電体5が、コート層10を有していない場合には、高温及び酸化雰囲気下では、このCrの酸化物被膜からCrが拡散して空気極4に至り、空気極4を形成する物質と反応することにより空気極4の機能が低下することが知られている。集電体5における酸化剤ガスに曝されている表面では、高温及び酸化雰囲気下で集電体5の表面に形成されたCrの酸化物被膜から酸化剤ガス室41中にCrが蒸発して空気極4の外表面からCrが空気極4の内部に侵入する。また、集電体5と空気極4とが接合層7を介して接合されている箇所では、高温及び酸化雰囲気下で、Crの酸化物被膜からCrが蒸発して接合層7内の気孔を通って空気極4の内部に侵入する場合と、Crの酸化物被膜中のCrが接合層7を形成する物質と反応しながら空気極4へ向かって拡散する場合とがある。このように集電体5に含まれるCrが様々な経路を経て集電体5から空気極4へと移動する現象を、本発明では「Crの拡散」と称する。
【0026】
コート層10は、高温及び酸化雰囲気下でCrの酸化物被膜が形成される集電体5の表面に少なくとも設けられていればよく、集電体5の全表面にコート層10が設けられていてもよい。
図3に示す集電体5は、空気極4に臨む側の全面にコート層10が設けられている。すなわち、
図3に示す集電体5は、酸化剤ガスに曝される面に、コート層10が設けられている。
【0027】
コート層10と空気極4とは、接合層7により接合されている。具体的には、集電体5における集電部6の頂面の表面に設けられたコート層10と空気極4とが接合層7により接合されている。したがって、集電体5と空気極4とが電気的に接続されている接合部分は、空気極4、接合層7、コート層10、及び集電体5の順に積層及び接合されている。
【0028】
図4に示すように、コート層10のうち接合層7に接触している領域である接合領域23の平均厚みは、接合層7に接触していない領域である非接合領域25の平均厚みより小さい。接合領域23の平均厚みが、非接合領域25の平均厚みより小さいと、集電体5に含まれるCrによる空気極4の被毒を抑制しつつ、集電体5が空気極4から剥離するのを抑制することができる。
【0029】
図4に示すように、接合領域23は、接合層7とコート層10との界面である接合面21と、集電体5とコート層10との界面である集電面22と、接合面21の端縁上の点から集電面22までを最短距離で結ぶ線分の集合である仮想境界面26とにより囲まれる領域である。非接合領域25は、コート層10のうちの接合領域23以外の領域である。
図4に示すように、コート層10を表面に有する集電部6の頂面の全面が接合層7に接触しているので、接合面21はコート層10を表面に有する集電部6の頂面と同じである。コート層10を表面に有する集電部6は角柱体であるので、接合面21の端縁は角形である。接合面21の端縁上の任意の点を始点とし、集電面22上の点を終点として、始点から終点までを最短距離で結ぶ線分を想定するとき、
図4において、終点は角形の集電部6の頂面の端縁上にある。始点と終点とを最短距離で結ぶ線分を、始点が角形の接合面21の端縁を一周する分だけ集合すると、仮想境界面26は、底面が接合面21で上面が集電面22である錐台の側面を示す。
図4に示すように、集電体5を単セル1と集電体5との積層方向の任意の面で切断して得られた切断面において、接合領域23は、接合面21を示す線分と集電面22を示す線分と仮想境界面26を示す線分とにより囲まれる台形の領域として示される。非接合領域25は、集電面22を示す線分とコート層10の外表面24を示す線分と仮想境界面26を示す線分とにより囲まれる領域として示される。なお、集電部6が角柱体でなく角が面取り等されている場合であっても、単セル1と集電体5との積層方向の断面において、接合面を示す線分の両端それぞれから集電面を示す線分まで、最短距離となるように仮想線分を引き、接合領域と非接合領域とを決定することができる。集電部の形状に関わらず、同様の手法で各領域を決定できることは言うまでもない。
【0030】
コート層10は、その厚みが大きいほど、Crの空気極4への拡散を抑制することができる。したがって、コート層10における接合領域23及び非接合領域25のいずれも厚みが大きい方が、空気極4のCr被毒を抑制する点で好ましい。一方で、固体酸化物形燃料電池の運転時に、集電体5と空気極4との接合部分は700℃程度の高温環境下に曝されるので、コート層10の厚みが大きいほど、接合領域23の内部の熱応力が大きくなり、集電体5が空気極4から剥離し易くなると考えられる。したがって、コート層10の厚みを小さくすれば、接合領域23周辺に配置されている部材の熱膨張に対する接合領域23の追従性が向上することによりクラックの発生が抑制され、集電体5が空気極4から剥離し難くなると考えられるが、一方でコート層10による空気極4のCr被毒の抑制効果が低下してしまう。そこで、本発明の発明者は、コート層10全体の厚みを小さくするのではなく、コート層10における接合層7に接触する領域すなわち接合領域23のみ平均厚みを小さくし、非接合領域25の平均厚みは大きくすればよいと考えた。非接合領域25の平均厚みが大きいと、集電体5から酸化剤ガス室41中へのCrの拡散を抑制することができる。接合領域23の平均厚みが、非接合領域25の平均厚みより小さいと、接合領域23は非接合領域25よりCrの拡散を抑制する効果は劣るものの、接合領域23周辺に配置されている部材の熱膨張に対する接合領域23の追従性が向上することによりクラックの発生が抑制され、集電体5が空気極4から剥離するのを抑制することができる。本発明におけるコート層10は、平均厚みが小さい領域をコート層10全体でなく、接合領域23のみに限定しているので、集電体5に含まれるCrによる空気極4の被毒を抑制しつつ、集電体5が空気極4から剥離するのを抑制することができる。また、接合領域23は、非接合領域25より平均厚みが小さくても、接合領域23と空気極4との間に接合層7が介在しているので、集電体5から非接合領域25を介して酸化剤ガス室41中へCrが拡散して空気極4に至る速度よりCrの拡散速度が遅くなり、Crの拡散を抑制することができると考えられる。
【0031】
非接合領域25の平均厚みは、仮に集電体5の表面全体に非接合領域25と同じ平均厚みを有するコート層が設けられていた場合にCrの拡散を抑制することができ、その結果、空気極4の機能を維持できる程度の数値範囲にあるのが好ましい。非接合領域25の平均厚みは、コート層10を形成する物質及び気孔率等によって異なり、例えば、2μm〜20μmであるのが好ましい。接合領域23の平均厚みもまた、コート層10を形成する物質及び気孔率等によって異なり、少なくとも非接合領域25の平均厚みより小さく、非接合領域25の平均厚みの30%〜90%の平均厚みを有するのが好ましく、40%〜80%の平均厚みを有するのがより好ましい。接合領域23が非接合領域25の平均厚みの30%〜90%、特に40%〜80%の平均厚みを有すると、集電体5に含まれるCrによる空気極4の被毒を抑制して空気極4の機能を維持することができると共に、集電体5が空気極4から剥離するのを抑制することができる。
【0032】
前記コート層10の平均厚みは、以下のようにして求めることができる。まず、接合層7とコート層10と集電体5とを含む部分を、接合層7とコート層10と集電体5とが積層される積層方向の任意の面で切断する。得られた切断面におけるコート層10を含む部分についてSEM(走査型電子顕微鏡)等により画像を得る。得られた画像において、コート層10の厚みを少なくとも10箇所について測定する。測定点の間隔は少なくとも50μmとする。接合領域23の平均厚みは、次のように求める。集電体5は、複数の集電部6を有し、それぞれの頂面に接合領域23が形成されているので、接合領域23は複数箇所に分かれている。これらのうちの少なくとも3箇所の接合領域23それぞれにおいて、少なくとも10箇所の厚みを測定し、得られた値の算術平均を接合領域23の平均厚みとする。なお、各箇所の接合領域23の厚みは、集電面22上の任意の点と接合面21との最短距離を測定する。例えば、
図4に示す切断面において、接合領域23に含まれる集電面22を示す線分上の任意の点から接合面21に向かって、最短距離となる直線を引き、集電面22を示す線分上の点からこの直線と接合面21を示す線分との交点までの距離を接合領域23の厚みとして測定する。また、集電体5は、複数の集電部6を有し、隣接する集電部6の間に非接合領域25が形成されているので、非接合領域25は複数箇所に分かれている。これらのうちの少なくとも3箇所の非接合領域25それぞれにおいて、少なくとも10箇所の厚みを測定し、得られた値の算術平均を非接合領域25の平均厚みとする。なお、非接合領域25の厚みについても、集電面22上の任意の点と外表面24との最短距離を測定する。例えば、
図4に示す切断面において、非接合領域25に含まれる集電面22を示す線分上の任意の点から外表面24に向かって、最短距離となる直線を引き、集電面22を示す線分上の点からこの直線と外表面24を示す線分との交点までの距離を非接合領域25の厚みとして測定する。
【0033】
前記コート層10は、Crの拡散を抑制することができると共に導電性を有する限り、任意の材料により形成されることができる。前記コート層10は、Crと反応し難い元素、例えば、Mn、Co、Cu、及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む材料で形成されるのが好ましい。このような材料として、例えば、Mn、Co、Cu、及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含むスピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物、並びにZnO等を挙げることができる。スピネル型酸化物は、スピネル型の結晶構造を有する金属酸化物であり、例えば、CuMn
2O
4、MnCo
2O
4、CoMn
2O
4、MnFe
2O
4、ZnMn
2O
4、CuFe
2O
4、NiMn
2O
4、CoCr
2O
4等を挙げることができる。なお、スピネル型酸化物は、基本組成AB
2O
4の組成式で示される酸化物であるが、結晶中にAサイトとBサイトと称する陽イオンが配置される2つのサイトの元素の比率はスピネル型酸化物である限りズレが生じても構わない。ペロブスカイト型酸化物は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する金属酸化物であり、例えば、LSCF、LSC、LSF、LSM、及びLNF等を挙げることができる。これらの中でも、熱膨張率が比較的集電体5に近く、導電性に優れている点で、コート層10は、Mn、Co、Cu、及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含むスピネル型酸化物を含有するのが好ましく、前記スピネル型酸化物を主相として含有するのがより好ましく、前記スピネル型酸化物により形成されるのが特に好ましい。前記コート層10は、Crの拡散を抑制することができると共に導電性を有する限り、前述した金属元素からなる金属を含んでいてもよいし、また、スピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物以外の酸化物を含んでいてもよい。
【0034】
前記接合層7は、空気極4とコート層10とを接合することができると共に導電性を有する限り、任意の材料で形成されることができる。このような材料として、Ag等の金属、前記コート層10を形成する材料として挙げた材料である、スピネル型酸化物、ペロブスカイト型酸化物、ZnO等を挙げることができる。これらの中でも、Crの空気極4への拡散を抑制することができると共に、熱膨張率が比較的集電体5に近く、導電性に優れている点で、接合層7は、Mn、Co、Cu、及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含むスピネル型酸化物を含有するのが好ましく、前記スピネル型酸化物を主相として含有するのがより好ましく、前記スピネル型酸化物により形成されるのが特に好ましい。前記接合層7は、空気極4とコート層10とを接合することができると共に導電性を有する限り、前述した金属元素からなる金属を含んでいてもよいし、また、スピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物以外の酸化物を含んでいてもよい。接合層7とコート層10とは、同じ材料により形成されていてもよいし、異なる材料により形成されていてもよい。
【0035】
前記コート層10及び前記接合層7を形成する物質は、次のようにして特定することができる。まず、接合層7とコート層10と集電体5とを含む部分を、単セル1の積層方向の任意の面でFIB(集束イオンビーム)加工によって切断し、得られた切断面を周知のTEM−EDXにて分析し、コート層10及び接合層7それぞれに含まれる元素の定性及び定量を行う。コート層10及び接合層7それぞれに含まれる物質の結晶構造の同定は、電子線回折分析により得られた電子線回折チャートと電子線回折データベースとを対比することにより行う。
【0036】
前記固体酸化物形燃料電池スタック100は、コート層10における接合領域23の平均厚みが非接合領域25の平均厚みより小さいので、集電体5に含まれるCrによる空気極4の被毒を抑制しつつ、集電体5が空気極4から剥離するのを抑制することができる。
【0037】
次に、固体酸化物形燃料電池スタック100の製造方法の一例を以下に説明する。
【0038】
この実施形態の固体酸化物形燃料電池スタック100の製造方法は、コート層10の製造方法以外は、従来公知の固体酸化物形燃料電池スタックの製造方法を用いることができる。したがって、以下において、コート層10の製造方法を中心に説明する。
【0039】
単セル1は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、まず、前述した燃料極3の構成成分を有する原料粉末と造孔材である有機ビーズとブチラール樹脂と可塑剤と分散剤と溶剤とを混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをドクターブレード法等により支持体上に塗布して乾燥させることで、燃料極用グリーンシートを作製する。また、固体電解質層用グリーンシートを燃料極用グリーンシートと同様にして作製する。次いで、得られた燃料極用グリーンシートと得られた固体電解質層用グリーンシートとを積層し、これを焼結して、焼結積層体を作製する。次いで、前記焼結積層体における固体電解質層2の上に、前述した空気極4の構成成分を有する原料粉末により調製したペーストをスクリーン印刷等により塗布してペースト層を形成し、このペースト層を焼結して空気極4を形成する。このようにして、単セル1が製造される。
【0040】
集電体5は、前述した材料、例えば、フェライト系ステンレス鋼等のCrを含有すると共に導電性を有する材料からなる板材を、プレス又はエッチング等で加工して、適宜の形状に整形される。例えば、
図3に示すように、板状部8の両面に複数の柱状の集電部6、6´が行列状に配列された形状を有する集電体5を得る。
【0041】
次いで、集電体5における集電部6が設けられている側の表面にコート層10を形成する。コート層10の形成方法としては、ウェットコーティング法、ドライコーティング法等を採用することができる。
【0042】
ウェットコーティング法としては、スプレーコート、インクジェット、ディップコート、及びスクリーン印刷等を挙げることができる。ウェットコーティング法では、まず、コートペーストを準備する。コートペーストは、コート層10を形成する材料として例示したスピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物等の導電性粉末と溶剤とを含む。コートペーストは、必要に応じて、バインダー、及び他の添加剤等を含む。前記溶剤としては、エタノール、ブタノール、テルピネオール、アセトン、キシレン、トルエン、ビヒクル等を挙げることができる。前記バインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができる。前記他の添加剤としては、分散剤、可塑剤等を挙げることができる。
【0043】
ドライコーティング法としては、スパッタリング、化学気相成長法(CVD)、及び溶射等を挙げることができる。
【0044】
前記固体酸化物形燃料電池スタック100は、コート層10における接合領域23の平均厚みが、非接合領域25の平均厚みより小さい。接合領域23の平均厚みが非接合領域25の平均厚みより小さくなるようにコート層10を形成する方法として、次のいずれかの方法を採用することができる。例えば、ウェットコーティング法、ドライコーティング法等により集電体5の表面に一層目のコート層を形成した後に、接合領域23となる部分すなわち集電部6の頂面をマスキングした状態で、集電体5の表面に設けられた一層目のコート層の表面全体に、ウェットコーティング法、ドライコーティング法等により二層目のコート層を形成する方法を挙げることができる。なお、一層目のコート層を形成する際に接合領域23となる部分にマスキングをし、二層目のコート層10を形成する際にマスキングを外す方法を採用してもよい。また、ウェットコーティング法、ドライコーティング法等により集電体5の表面にコート層10を形成した後に、接合領域23となる部分すなわち集電部6の頂面に設けられたコート層10の一部を切削等で取り除くことにより、接合領域23となる部分の平均厚みを相対的に小さくすることができる。次いで、コート層10を形成する材料がコーティングされた集電体5を900℃〜1200℃で1〜3時間焼成することにより、非接合領域25となる部分より接合領域23となる部分の平均厚みが小さいコート層10が表面に設けられた集電体5が、製造される。
【0045】
並行して、接合層7を形成する接合ペーストを準備する。接合ペーストは、例えば、接合層7を形成する材料として例示したスピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物等の導電性粉末と溶剤とを含む。接合ペーストは、必要に応じて、コートペーストと同様に、バインダー、及び他の添加剤等を含んでもよい。
【0046】
次いで、接合ペーストを集電部6の頂面に設けられたコート層10の表面に塗布して、必要に応じて乾燥した後に、接合ペーストと単セル1における空気極4とが接触するように積層して積層体を形成する。このとき、接合ペーストを単セル1における空気極4に塗布して積層体を形成してもよい。
【0047】
次いで、積層体を所望により複数積層して固体酸化物形燃料電池スタック100を組み上げる。固体酸化物形燃料電池スタック100を積層体の積層方向に貫通している固定部材12〜15に取り付けられた締付部材により締め付けて、固体酸化物形燃料電池スタック100に積層方向の圧力をかけた状態で焼成することにより各部材同士を接合する。このようにして固体酸化物形燃料電池スタック100を製造する。
【0048】
この実施形態の固体酸化物形燃料電池スタック100の製造方法によると、接合領域23の平均厚みが非接合領域25の平均厚みより小さいコート層10を容易に製造することができる。したがって、この実施形態の固体酸化物形燃料電池スタック100の製造方法によると、集電体5に含まれるCrによる空気極4の被毒を抑制しつつ、集電体5が空気極4から剥離するのを抑制することができる固体酸化物形燃料電池スタック100を容易に製造することができる。
【0049】
この発明の固体酸化物形燃料電池スタックは、その他の機器等と共に収納容器に収められることにより、高電圧の出力が可能な電池として、各種用途に用いることができる。この電池は、例えば、家庭用の小型コージェネレーションシステムにおける発電源として、又は業務用の大型コージェネレーションシステムにおける発電源として、用いることができる。
【0050】
この発明の固体酸化物形燃料電池スタックは、前述した実施形態に限定されることはなく、この発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記固体酸化物形燃料電池スタック100における単セル1は方形板状体であるが、単セル1の形状は特に限定されず、例えば、以下に説明する
図5及び
図6に示す形状を有していてもよい。また、前記固体酸化物形燃料電池スタック100における集電体5は、板状部8の両面に複数の柱状の集電部6、6´が行列状に配列された形状を有するが、集電体5の形状は特に限定されず、例えば、以下に説明する
図5及び
図6に示す形状を有していてもよい。
【0051】
図5に示す固体酸化物形燃料電池スタック111は、単セル101が円筒状体であり、複数の単セル101が集電体105を介して直列に接続されて形成されている。単セル101は、円筒状の燃料極103の内部に燃料ガスが流通する燃料ガス通路128を有する。円筒状の燃料極103の外周面に固体電解質層102、空気極104がこの順に積層されて、円筒状体に形成されている。集電体105は、Crを含有し、導電性を有する材料により形成され、前述した実施形態の集電体5と同様の材料により形成される。集電体105は、少なくとも酸化剤ガスに曝される表面にコート層110が設けられていればよい。この実施形態においては、柱状の集電体105の全表面にコート層110が設けられている。集電体105の一方の面はコート層110及び接合層107を介して空気極104に電気的に接続されている。すなわち、集電体105に設けられたコート層110は、接合層107によって空気極104に接合されている。集電体105における空気極104が設けられている面とは反対側の面には柱状のインターコネクタ108が接合層107´を介して設けられている。インターコネクタ108は、導電性セラミックにより形成されているので、高温及び酸化雰囲気下においてもCrの拡散が生じない。したがって、インターコネクタ108の表面にはCrの拡散を防止するためのコート層が設けられていない。インターコネクタ108における集電体105が設けられている面とは反対側の面は燃料極103に電気的に接続され、インターコネクタ108の側面の一部は固体電解質層102に接続されている。
【0052】
コート層110は、接合層107に接触している領域である接合領域123と、接合層107に接触していない領域である非接合領域125と、接合層107´に接触している領域である第2接合領域123´とを有する。接合領域123の平均厚みは、非接合領域125の平均厚みより小さい。したがって、集電体105に含まれるCrによる空気極104の被毒を抑制しつつ、集電体105が空気極104から剥離するのを抑制することができる。接合領域123は、接合層107とコート層110との界面である接合面121と、集電体105とコート層110との界面である集電面122と、接合面121の端縁上の点から集電面122までを最短距離で結ぶ線分の集合である仮想境界面126とにより囲まれる領域である。非接合領域125は、集電面122と、仮想境界面126と、コート層110の外表面124と、接合層107´とコート層110との界面である第2接合面129の端縁上の点から集電面122までを最短距離で結ぶ線分の集合である仮想境界面126´とにより囲まれる領域である。第2接合領域123´は、第2接合面129と仮想境界面126´と集電面122とにより囲まれる領域である。第2接合領域123´は、非接合領域125と平均厚みが同じであってもよいが、接合領域123と同様に非接合領域125より平均厚みが小さいのが好ましい。第2接合領域123´の平均厚みが非接合領域125より小さいと、集電体105がインターコネクタ108から剥離するのを抑制することができる。
図5に示すように、集電体105を単セル101の積層方向の任意の面で切断して得られた切断面において、接合領域123は、接合面121を示す線分と集電面122を示す線分と仮想境界面126を示す線分とで囲まれる逆台形の領域として示される。非接合領域125は、集電面122を示す線分と仮想境界面126を示す線分とコート層110の外表面124を示す線分と仮想境界面126´を示す線分とにより囲まれる領域として示される。第2接合領域123´は、第2接合面129を示す線分と仮想境界面126´を示す線分と集電面122を示す線分とで囲まれる台形の領域として示される。
【0053】
図6に示す固体酸化物形燃料電池スタック211は、単セル201が扁平筒状体であり、複数の単セル201が集電体205を介して直列に接続されて形成されている。単セル201は扁平筒状の支持基板209を備え、支持基板209の内部に燃料ガスが流通する複数の燃料ガス通路228を有する。支持基板209は略平行に対向するように配置される2つの平坦面と、これらの平坦面の間に配置され、外側に膨出する2つの弧状面とを有する。支持基板209の平坦面における一方の面と2つの弧状面とを覆うように燃料極203及び固体電解質層202がこの順に積層され、平坦面の一方の面の固体電解質層202上に空気極204が積層されて単セル201が形成されている。集電体205は、Crを含有し、導電性を有する材料により形成され、前述した実施形態の集電体5と同様の材料により形成される。集電体205は、少なくとも酸化剤ガスに曝される表面全体にコート層210が設けられていればよい。この実施形態において集電体205は、集電体205の表面全体にコート層210が設けられている。集電体205は、幅方向中央部に膨出部を有する2枚の弾性変形可能な導電性板部材を有し、これらの導電性板部材の左右両側縁が互いに接合され、2枚の導電性板部材の間に中空空間227が形成されている。集電体205における一方の膨出部はコート層210及び接合層207を介して空気極204に電気的に接続されている。すなわち、集電体205に設けられたコート層210は、接合層207によって空気極204に接合されている。集電体205における他方の膨出部はコート層210及び接合層207´を介してインターコネクタ208に電気的に接合されている。インターコネクタ208は、導電性セラミックにより形成されているので、高温及び酸化雰囲気下においてもCrの拡散が生じない。したがって、インターコネクタ208の表面にはCrの拡散を防止するためのコート層が設けられていない。インターコネクタ208における集電体205が設けられている面とは反対側の面は支持基板209に電気的に接続され、インターコネクタ208の側面の一部は燃料極203及び固体電解質層102に接続されている。
【0054】
コート層210は、接合層207に接触している領域である接合領域223と、接合層207に接触していない領域である非接合領域225と、接合層207´に接触している領域である第2接合領域223´とを有する。接合領域223の平均厚みは、非接合領域225の平均厚みより小さい。したがって、集電体205に含まれるCrによる空気極204の被毒を抑制しつつ、集電体205が空気極204から剥離するのを抑制することができる。接合領域223は、接合層207とコート層210との界面である接合面221と、集電体205とコート層210との界面である集電面222と、接合面221の端縁上の点から集電面222までを最短距離で結ぶ線分の集合である仮想境界面226とにより囲まれる領域である。非接合領域225は、集電面222と、仮想境界面226と、コート層210の外表面224と、接合層207´とコート層210との界面である第2接合面229の端縁上の点から集電面222までを最短距離で結ぶ線分の集合である仮想境界面226´とにより囲まれる領域である。第2接合領域223´は、第2接合面229と仮想境界面226´と集電面222とにより囲まれる領域である。第2接合領域223´は、非接合領域225と平均厚みが同じであってもよいが、接合領域223と同様に非接合領域225より平均厚みが小さいのが好ましい。第2接合領域223´の平均厚みが非接合領域225より小さいと、集電体205がインターコネクタ208から剥離するのを抑制することができる。
図6に示すように、集電体205を単セル201の積層方向の任意の面で切断して得られた切断面において、接合領域223は、接合面221を示す線分と集電面222を示す線分と仮想境界面226を示す線分とで囲まれる長方形の領域として示される。非接合領域225は、集電面222を示す線分と仮想境界面226を示す線分とコート層210の外表面224を示す線分と仮想境界面226´を示す線分とにより囲まれる領域として示される。第2接合領域223´は、第2接合面229を示す線分と仮想境界面226´を示す線分と集電面222を示す線分とで囲まれる台形の領域として示される。
【実施例】
【0055】
[サンプルの作製]
<サンプル3>
コートペーストは、導電性粉末としてスピネル型結晶構造を有するMn
2CoO
4の粉末と溶剤とバインダーとを混合して得た。
接合ペーストは、導電性粉末としてスピネル型結晶構造を有するMnCo
2O
4の粉末と溶剤とバインダーとを混合して得た。
前述したように、従来公知の方法により、縦10mm、横10mm、厚み1mmの単セル1を作製した。なお、空気極4は、LSCFの粉末を含むペーストを固体電解質層2の表面に塗布した後に焼成することにより形成した。
集電体5は、フェライト系ステンレス鋼からなる縦20mm、横20mm、厚み2mmの板部材をエッチング加工して、板状部8の片面に角柱状の集電部6が行列状に所定の間隔で配列された形状に整形した。
【0056】
まず、集電体5の表面全体に、コートペーストをスプレーコートにより塗布することにより一層目のコート層を形成した。次いで、集電部6の頂面に設けられた一層目のコート層をマスキングした状態で、集電体5の表面に設けられた一層目のコート層の表面全体に、コートペーストをスプレーコートにより塗布し、1000℃で2時間焼成した。このようにして、集電体5における集電部6の頂面に設けられたコート層10(接合領域23となる部分)の平均厚みが、これ以外の部分(非接合領域25となる部分)に比べて小さくなるようにコート層10を形成した。
次いで、集電部6の頂面に設けられたコート層10の表面に、スクリーン印刷により接合ペーストを印刷した。これを、約100℃で乾燥し、接合ペーストが印刷された集電体5を得た。
【0057】
次いで、この接合ペーストと単セル1における空気極4とが接触するように積層して、燃料極3、固体電解質層2、空気極4、接合ペースト、コート層10、及び集電部6、板状部8がこの順に配置された積層体を形成した。この積層体を電気炉にて約900℃で1時間保持して焼成し、空気極4とコート層10とが接合層7で接合されたサンプル3を得た。
【0058】
<サンプル1、2、4〜15>
表1に示すように、コートペースト及び接合ペーストそれぞれに含まれる導電性粉末の種類、接合領域及び非接合領域それぞれの平均厚みを必要に応じて変更したこと以外は、実施例1と同様にしてサンプル1、2、4〜15を得た。
【0059】
[コート層の平均厚みの測定]
コート層10のうち、接合領域23及び非接合領域25それぞれの平均厚みは、前述したように求めた。まず、サンプルにおいて接合層7とコート層10と集電体5とを含む部分を、単セル1の積層方向の任意の面で切断し、得られた切断面をSEMにより画像撮影した。得られたSEM画像において、測定間隔を50μmとして、10箇所の測定点においてコート層10の厚みを測定した。
接合領域23の平均厚みに関しては、複数の集電部6のうちの3つの集電部6における接合領域23それぞれにおいて、10箇所の厚みを測定し、得られた値の算術平均を表1に示す「接合領域の平均厚み」とした。
非接合領域25の平均厚みに関しては、隣接する接合領域23同士の間にある複数の非接合領域25のうちの3箇所それぞれにおいて、10箇所の厚みを測定し、得られた値の算術平均を表1に示す「非接合領域の平均厚み」とした。
【0060】
[TEM分析]
サンプルにおける空気極4、接合層7、及びコート層10それぞれを形成する物質を、前述したようにTEMにより特定した。まず、FIB加工によって単セル1の積層方向の任意の面で切断して切断面を得た。得られた切断面をTEMに付属のEDXにて構成元素の定性、定量分析をし、電子線回折分析によって空気極4、接合層7、及びコート層10それぞれに主相として含まれる物質の結晶構造の同定を行った。結果を表1に示す。
【0061】
[剥離性の評価]
サンプルを電気炉に入れて、雰囲気温度を50℃〜800℃まで昇温させた後に、雰囲気温度を800℃から50℃まで降温させる熱サイクルを100回繰り返す熱サイクル試験を行った。
熱サイクル試験を行った後に、集電体5が単セル1から剥離するかどうか調べた。結果を表1に示す。表1では、剥離した場合を「×」、剥離しなかった場合を「○」で示した。
【0062】
[空気極のCr被毒の評価]
サンプルを電気炉に入れて、雰囲気温度を900℃にして300時間保持する加熱試験を行った。
加熱試験を行った後に、空気極4におけるCrの含有率を測定し、空気極4のCr被毒の状態を調べた。空気極4中のCrの含有率は、加熱試験後にサンプルから空気極を削り取り、削り取った空気極の粉末をICP質量分析装置(ICP−MASS)で分析することにより行った。結果を表1に示す。表1では、Crの含有率が100ppm以上であった場合を「×」、Crの含有率が100ppm未満であった場合を「○」で示した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、サンプル3、6、9、12、15は、剥離性の評価及び空気極4のCr被毒の評価の両方の評価結果が良好であった。サンプル3、6、9、12、15は、接合領域23の平均厚みが非接合領域25の平均厚みより小さいので、接合領域23周辺に配置されている部材の熱膨張に対する接合領域23の追従性が向上することによりクラックの発生が抑制され、集電体5が空気極4から剥離を抑制することができたと考えられる。また、サンプル3、6、9、12、15は、平均厚みが相対的に小さい領域が接合領域23のみであり、また、接合領域23と空気極4との間に接合層7が介在しているので、集電体5から非接合領域25を介して酸化剤ガス室41中へCrが拡散して空気極4に至る速度よりCrの拡散速度が遅くなるため、Crの拡散を抑制できたと考えられる。
【0065】
サンプル1、4、7、10、13は、空気極4のCr被毒の評価は良好であるが、剥離性の評価が劣っていた。サンプル1、4、7、10、13は、接合領域23及び非接合領域25のいずれも平均厚みが大きいので、Crの拡散を抑制することができる一方で、接合領域23の内部に発生する熱応力が大きくなり、集電体5が空気極4から剥離し易くなったと考えられる。
【0066】
サンプル2、5、8、11、14は、剥離性の評価は良好であるが、空気極4のCr被毒の評価は劣っていた。サンプル2、5、8、11、14のサンプルは、接合領域23及び非接合領域25のいずれも平均厚みが小さいので、接合領域23周辺に配置されている部材の熱膨張に対する接合領域23の追従性が向上することによりクラックの発生が抑制される一方で、Crの拡散を抑制する効果が低下してしまったと考えられる。
【0067】
以上から、コート層10における接合領域23の平均厚みが非接合領域25の平均厚みより小さいと、空気極4のCr被毒を抑制しつつ集電体5が空気極4から剥離するのを抑制することができることが分かる。