特許第6242382号(P6242382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242382
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】ラクチド−ラクトン共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/82 20060101AFI20171127BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20171127BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C08G63/82
   C08G63/08ZBP
   C08L101/16
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-511172(P2015-511172)
(86)(22)【出願日】2014年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2014057531
(87)【国際公開番号】WO2014167966
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2017年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-84129(P2013-84129)
(32)【優先日】2013年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安孫子 淳
(72)【発明者】
【氏名】圓田 安美
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−132769(JP,A)
【文献】 特開2008−007608(JP,A)
【文献】 特開2005−220333(JP,A)
【文献】 特開2005−306999(JP,A)
【文献】 特表2005−517062(JP,A)
【文献】 特開昭56−049728(JP,A)
【文献】 特開昭55−149320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−63/91
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチドとラクトンとを、六価モリブデンの錯体であるモリブデン化合物を触媒として使用して、共重合させることを特徴とする、ラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記ラクトンはε−カプロラクトンである請求項1に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記六価モリブデンの錯体は、ジオキソモリブデン(VI)錯体又はポリオキソモリブデン塩である請求項に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記ジオキソモリブデン(VI)錯体は、ジオキソモリブデン(VI)アセチルアセトナト錯体、ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体、又はジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体から選択される請求項に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体は、下記の一般式(1)で表されるオキソモリブデン(VI)サレン錯体であり、
【化1】
式中、
1は、炭素数2〜7の二価の脂肪族炭化水素基であり、
2、R3、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、独立して、水素、炭素数が1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、シリル基、アリール基、メトキシメチル基、−Cl、−Br、又は−Iである、請求項に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記R1は−(CH22−、−(CH23−、−CH2CH(CH3)−、−CH2−C(CH32−CH2−、−(CH24−、1,2−シクロヘキシル基、1,3−シクロヘキシル基、1,4−シクロヘキシル基、1,2−シクロペンチル基、又は1,2−シクロヘプチル基であり、R2、R4、R7、R9は水素又は−CH3であり、R5及びR6は水素、−CH3、−CH2CH3、−C(CH33、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iであり、R3及びR8は水素、−CH3、−CH2CH3、−C(CH33、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iである、請求に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記ジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体は、下記構造式(6)で表されるジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体であり、
【化2】
式中、R1、R2、R3及びR4は独立して水素、−Cl、−Br、−I、−NO2、−OH、−COOH、炭素数が1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、O、NもしくはSから独立して選択されるヘテロ原子2個までを環構成員として有していてもよいアリール基、アリールオキシ基、アルコキシ基、アルカンスルホンアミド基、又はアミノ基から選択される請求項に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素、−Cl、−Br、−I、−OCH3、−OCH2CH3、−NO2、−OH、−COOH、−CH3、又は−CH2CH3である請求項に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記ポリオキソモリブデン塩は、[Mo3102- 、[Mo6204- 、[Mo7 246- 、[Mo8 264- 、及び[Mo10348- からなる群より選ばれた陰イオンと、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン及びアルカリ金属イオンからなる群より選ばれた陽イオンとの塩である請求項に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連分野の相互参照)
本願は、2013年4月12日に出願した特願2013-084129号明細書(その全体が参照により本明細書中に援用される)の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
(技術分野)
本発明は、ラクチド−ラクトン共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、生分解性又は生体適合性を有する合成高分子の研究及び開発が進められているが、かかる生分解性又は生体適合性を有する合成高分子は構成するモノマーの種類によって特性が大きく異なることが知られている。
【0004】
例えば、ラクチド(LA,2分子の乳酸が脱水縮合して出来た環状化合物)の単独重合体であるポリラクチドすなわちポリ乳酸は、1)生体内での分解吸収が早い、2)薬物の浸透性が低い、3)土中での生分解性が低い、4)親水性である、等の特性を有する。他方、ラクトンの一つであるε−カプロラクトン(CL)の単独重合体であるポリ(ε−カプロラクトン)は、1)生体内での分解吸収が遅い、2)薬物の浸透性が高い、3)土中での生分解性が高い、4)疎水性である等の特性を有する。
【0005】
従来より、2種類以上のモノマーを種々の反応条件で共重合させることにより、各モノマーの単独重合体の性質を併せ持つ共重合体や、単独重合体の中間的な性質を有する共重合体を製造できることが知られている。
【0006】
ラクチドとε−カプロラクトンとを従来の方法で共重合させると、反応系中における各モノマーの反応速度が異なるため、ラクチド及びε−カプロラクトンのうちの一方の重合が先に進み、その後、他方の重合が進み、共重合体内でポリ乳酸の部分とポリ(ε−カプロラクトン)の部分が偏在するブロック共重合体が生じることが知られていた。最近、共重合体内で各モノマーの分布が制御されたラクチド−ε−カプロラクトン共重合体の製造例が報告されている(特許文献1)。この文献では共重合体の製造における触媒として、所定のアルミニウム−サレン型錯体を用いている。
【0007】
他方、ε−カプロラクトン等のラクトンの単独重合体の製造方法において、触媒としてモリブデンの炭素化合物を用いることが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2010/110460A1
【特許文献2】特開平56-49728
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、アルミニウム−サレン型錯体(Al−salen)を触媒として用いてLA−CL共重合体が製造されているが、触媒に用いられるリガンドは合成に多工程を必要とし、調製が煩雑であり、費用も時間もかかる。また、Al−salen触媒の調製には発火性の禁水試薬を用いており、安全性の点でも問題がある。さらに、Al−salen触媒は保存性にも劣るので、使用時の調製が必要である。
【0010】
特許文献2では、ε−カプロラクトン等のラクトンの単独重合体の製造に、モリブデンの炭素化合物の触媒が用いられてはいるものの、構成モノマーとしてε−カプロラクトン等のラクトンしか記載されておらず、共重合体の製造は想定されていない。
【0011】
本発明の一つの目的は、共重合体内で各モノマーの分布が制御されたラクチド−ラクトン共重合体の簡便な製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、かかるラクチド−ラクトン共重合体の安全な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、所定のモリブデン化合物を触媒として使用して、ラクチド−ラクトン共重合体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0014】
項1.ラクチドとラクトンとを、モリブデン化合物を触媒として使用して、共重合させることを特徴とする、ラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0015】
項2.前記ラクトンはε−カプロラクトンである項1に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0016】
項3.前記モリブデン化合物は、モリブデンのキレート化合物、ポリオキソモリブデン塩、モリブデンのアルコキシド、モリブデンイオンと有機酸の塩類、又はモリブデンのカルボニル化合物から選択される項1又は2に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0017】
項4.前記モリブデン化合物は六価モリブデンの錯体である項1又は2に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0018】
項5.前記六価モリブデンの錯体は、ジオキソモリブデン(VI)錯体又はポリオキソモリブデン塩である項4に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0019】
項6.前記ジオキソモリブデン(VI)錯体は、ジオキソモリブデン(VI)アセチルアセトナト錯体、ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体、又はジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体から選択される項5に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0020】
項7.前記ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体は、下記の一般式(1)で表されるオキソモリブデン(VI)サレン錯体であり、
【0021】
【化1】
【0022】
式中、
1は、炭素数2〜7の二価の脂肪族炭化水素基であり、
2、R3、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、独立して、水素、炭素数が1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、シリル基、アリール基、メトキシメチル基、−Cl、−Br、又は−Iである、項6に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0023】
項8.前記R1は−(CH22−、−(CH23−、−CH2CH(CH3)−、−CH2−C(CH32−CH2−、−(CH24−、又は1,2−シクロヘキシル基、1,3−シクロヘキシル基、1,4−シクロヘキシル基、1,2−シクロペンチル基、1,2−シクロヘプチル基であり、R2、R4、R7、R9は水素又は−CH3であり、R5及びR6は水素、−CH3、−CH2CH3、−C(CH33、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iであり、R3及びR8は水素、−CH3、−CH2CH3、−C(CH33、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iである、項7に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0024】
項9.前記ジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体は、下記構造式(6)で表されるジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体であり、
【0025】
【化2】
【0026】
式中、R1、R2、R3及びR4は独立して水素、−Cl、−Br、−I、−NO2、−OH、−COOH、炭素数が1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、O、NもしくはSから独立して選択されるヘテロ原子2個までを環構成員として有していてもよいアリール基、アリールオキシ基、アルコキシ基、アルカンスルホンアミド基、又はアミノ基から選択される項6に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0027】
項10.前記R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素、−Cl、−Br、−I、−OCH3、−OCH2CH3、−NO2、−OH、−COOH、−CH3、又は−CH2CH3である項9に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【0028】
項11.前記ポリオキソモリブデン塩は、[Mo3102- 、[Mo6204- 、[Mo7 246- 、[Mo8 264- 、及び[Mo10348- からなる群より選ばれた陰イオンと、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン及びアルカリ金属イオンからなる群より選ばれた陽イオンとの塩である項5に記載のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明において、触媒のモリブデン化合物は簡単な工程により製造できるか、または市販のものを使用できる。また、モリブデンは生体の必須微量金属でもあり毒性が低いか又は無毒である。このため、簡便、安価、及び/又は安全にラクチド−ラクトン共重合体を製造することが可能である。また、ラクチド−ラクトン共重合体の分子量及び分子量分布並びに共重合体内の各モノマーの分布も容易に制御可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】(a)ε-CL/LA比が50/50の場合、(b)ε-CL/LA比が25/75の場合、(c)ε-CL/LA比が75/25の場合のNMRスペクトル。
図2】MoO2[(5-OMe)salad]2によりε-CL-LA共重合体を合成した場合の、経時的な反応率を示すグラフ。
図3】MoO2[(3-OMe)Di-Me-saltn](cis-α型) によりε-CL-LA共重合体を合成した場合の、経時的な反応率を示すグラフ。
図4】MoO2(acac) 2によりε-CL-LA共重合体を合成した場合の、経時的な反応率を示すグラフ。
図5】(NH4)8[Mo10O34] によりε-CL-LA共重合体を合成した場合の、経時的な反応率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書において、単数形(a, an, the)は、本明細書で別途明示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数と複数を含むものとする。
【0032】
本発明は、ラクチドとラクトンとを、モリブデン化合物を触媒として使用して、共重合させることを特徴とする、ラクチド−ラクトン共重合体の製造方法を提供する。
【0033】
モノマーであるラクチド及びラクトンは、市販品を用いてもよいし、公知の方法により合成してもよい。
【0034】
ラクチドは、LL−ラクチド、DD−ラクチド、DL−ラクチド(メソラクチド)、又は1若しくは複数のそれらの混合物のいずれであってもよく、特にLL−ラクチドが経済性、実用性等の点で好ましい。
【0035】
ラクトンは、非置換またはアルキル基等で置換されたラクトンであり、例えばδ−バレロラクトン(VL)、β−エチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン(CL)、α−メチル−ε−カプロラクトン、β−メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε−カプロラクトン、β,δ−ジメチル−ε−カプロラクトン、3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトン、エナントラクトン(7−ヘプタノリド)、及びドデカノラクトン(12−ドデカノリド)が挙げられる。より好ましくは、ラクトンはδ−バレロラクトン(VL)、ε−カプロラクトン(CL)、又は1若しくは複数のそれらの混合物である。特に好ましくは、ラクトンはε−カプロラクトン(CL)である。
【0036】
本発明のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法に使用される触媒は、モリブデン化合物である。
【0037】
一実施形態において、モリブデン化合物は、(i)モリブデンのキレート化合物、(ii)ポリオキソモリブデン塩、(iii)モリブデンのアルコキシド、(iv)モリブデンイオンと有機酸の塩類、及び(v)モリブデンのカルボニル化合物から選択される。
【0038】
モリブデンのキレート化合物は、モリブデンと、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、アセト酢酸エチル、サリチルアルデヒド、アセチルアセトンイミン、サリチルアルデヒドイミン等とのモリブデン金属キレート化合物である。モリブデンのキレート化合物は後述のジオキソモリブデン(VI)錯体も含む。
【0039】
ポリオキソモリブデン塩は、陰イオンであるポリオキソモリブデンイオン(ポリ酸)と、陽イオンとからなる塩であり、好ましくは[Mo3102- 、[Mo6204- 、[Mo7 246- 、[Mo8264- 、及び[Mo10348-からなる群より選ばれた陰イオンと、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン及びアルカリ金属イオンからなる群より選ばれた陽イオンとの塩である。
【0040】
モリブデンのアルコキシドは一般式Mo(OR)4で表され、Rはメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル基等の、アルコールからOHを除いた残基を示す。
【0041】
モリブデンイオンと有機酸の塩類の場合の有機酸の例は、カルボン酸、特にはナフテン酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸等であり、得られる塩はそれぞれナフテン酸モリブデン、クエン酸モリブデン、シュウ酸モリブデン、安息香酸モリブデン等となり、かかるモリブデンイオンと有機酸の塩類の製造方法は例えば特開平6-219990に記載されている。
【0042】
モリブデンのカルボニル化合物は、Mo(CO)6、(CO)5Mo(C55)、(C55)Mo(CO)3H等のカルボニル基を含むモリブデンの化合物である。
【0043】
別の実施形態において、上記モリブデン化合物は、六価モリブデンの錯体であり、好ましくは開環重合活性を有する六価モリブデンの錯体である。六価モリブデンは、開環メタセシス触媒等、触媒としての応用例が多く、安定で容易に入手可能である。六価モリブデンの錯体は、好ましくはジオキソモリブデン(VI)錯体又はポリオキソモリブデン塩である。
【0044】
ジオキソモリブデン(VI)錯体には、例えば開環重合触媒として公知のジオキソモリブデン(VI)アセチルアセトナト錯体(MoO2(acac)2)、及び2座配位子、3座配位子、4座配位子等の種々の配位のリガンドとMoO2(acac)2とを反応させて得られるジオキソモリブデン(VI)錯体が含まれる。MoO2(acac)2錯体自体も、2座配位子を有する錯体である。
【0045】
2座配位子を用いたジオキソモリブデン(VI)錯体及びその合成方法は、例えば特開2006-50064;A. Sakakura et al., Adv. Synth. Catal. 349, 1641-1646, 2007; A. Sakakura et al., 65, 2102-2109, 2009;M. Gomez et al., Eur. J. Inorg. Chem., 1071-1076, 2001に記載されている。
【0046】
3座配位子を用いたジオキソモリブデン(VI)錯体及びその合成方法は、例えばL. Casella,et al., Inorg. Chim. Acta,14,89-97, 1988; Y. Li,et al., Chem. Commun., 1551-1552, 2000;H. Zhang et al., Inorg. Chem. 45,1745-1753, 2006;Fr.Demande, Patent, 43, 2003に記載されている。
【0047】
4座配位子を用いたジオキソモリブデン(VI)錯体及びその合成方法は、例えばK.Yamanouchi et al., Inorg. Chim. Acta, 9, 161-164, 1974; W. E. Hill, et al., Inorg. Chim. Acta, 35, 35-41, 1979; Behzad Zeynizadeh et al., Bull. Chem. Soc. Jpn, 78, 307-315, 2005; E. Y. Tshuva et al., Organometallics, 20, 3017-3028, 2001;Y. Wong, et al., Dalton Trans, 39, 4602-4611, 2010に記載されている。
【0048】
一実施形態において、ジオキソモリブデン(VI)錯体は、ジオキソモリブデン(VI)アセチルアセトナト錯体(MoO2(acac)2)、ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体、ジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体、ジオキソモリブデン(VI)イミン錯体、又はジオキソモリブデン(VI)トロポロン錯体であり、好ましくはジオキソモリブデン(VI)アセチルアセトナト錯体、ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体、又はジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体である。なお、サレン(salen)とはN,N'-Bis(salicylidene)ethylene-1,2-diamine及びその同族体、およびそれらの誘導体であるシッフ塩基リガンドを指す。
ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体は、下記の一般式(1)で表される。
【0049】
【化3】
【0050】
式中、
1は、炭素数2〜7の二価の脂肪族炭化水素基であり、
2、R3、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は、独立して、水素(−H)、炭素数が1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、シリル基、アリール基、メトキシメチル基、−Cl、−Br、又は−Iである。
【0051】
炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基が挙げられる。
【0052】
アリール基としては、炭素数6〜18個のアリール基、特にフェニル基が挙げられる。
【0053】
好ましくは、R1は−(CH22−、−(CH23−、−CH2CH(CH3)−、−CH2−C(CH32−CH2−、−(CH24−、1,2−シクロヘキシル基、1,3−シクロヘキシル基、1,4−シクロヘキシル基、1,2−シクロペンチル基、又は1,2−シクロヘプチル基である。
【0054】
好ましくは、R2、R3、R4、R7、R8、R9は、独立して、水素、炭素数が1〜4のアルキル基、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iである。
【0055】
好ましくは、R5及びR6は、独立して、水素、炭素数が1〜4のアルキル基、フェニル基、トリイソプロピルシリル基、トリイソブチルシリル基、トリフェニルシリル基、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iである。
【0056】
好ましくは、R2及びR9、R3及びR8、R4及びR7、並びにR5及びR6はそれぞれ同一である。
【0057】
一実施形態では、R1は−(CH22−、−(CH23−、−CH2−C(CH32−CH2−、又は−(CH24−であり、R2、R4、R7、R9は水素又は−CH3であり、R5及びR6は水素、−CH3、−CH2CH3、−C(CH33、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iであり、R3及びR8は水素、−CH3、−CH2CH3、−C(CH33、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iである。
【0058】
好ましくは、ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体は下記の式(1a)で表される。
【0059】
式中、
3及びR8、並びにR5及びR6はそれぞれ同一であり、
1は−(CH22−、−(CH23−、−CH2−C(CH32−CH2−、又は−(CH24−であり、R5及びR6は水素、−CH3、−CH2CH3、−C(CH33、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iであり、R3及びR8は水素、−CH3、−CH2CH3、−C(CH33、−OCH3、−Cl、−Br、又は−Iである。
【0060】
ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体は、公知の方法により合成可能である。例えば、上記のK. Yamanouchi et al., Inorg. Chim. Acta, 9, 161-164, 1974又はW. E. Hill, et al., Inorg. Chim. Acta, 35, 35-41, 1979等の公知文献を参考にして、下記化学式のようにジアミン(2)とサリチルアルデヒド誘導体(3)からリガンド(4)を合成し、このリガンド(4)に対し一定量、限定しないが通常は1〜4当量のMoO2(acac)2を加え、所定の時間、上記の適切な溶媒中、0℃〜還流の温度範囲で、通常1〜数時間反応させ、ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体(5)を得る。ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体は、溶媒を適宜変更することで、cis-α及び/又はcis-βの立体異性体を生じるが、開環重合活性の高さの点でcis-αがより好ましい。生成した錯体の同定は、NMR等、公知の方法で行う。
【0061】
【化4】
【0062】
ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体(5)において、上記一般式(1)におけるR3及びR8、並びにR5及びR6はそれぞれ同一である。
【0063】
ジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体は、下記の一般式(6)で表される。
【0064】
【化5】
【0065】
式中、R1、R2、R3及びR4は独立して水素、−Cl、−Br、−I、−NO2、−OH、−COOH、炭素数が1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、O、NもしくはSから独立して選択されるヘテロ原子2個までを環構成員として有していてもよいアリール基、アリールオキシ基、アルコキシ基、アルカンスルホンアミド基、又はアミノ基から選択される。
【0066】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、又はペンチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基である。
【0067】
アリール基は好ましくは5員〜7員アリール基であり、アリールオキシ基は5員〜7員アリールオキシ基である。
【0068】
アルコキシ基は好ましくは、炭素数が1〜6、より好ましくは炭素数が1〜4のアルコキシ基であり、さらに好ましくはメトキシ基(−OCH3)又はエトキシ基(−OCH2CH3)である。
【0069】
アルカンスルホンアミド基は、好ましくはアルキル鎖が炭素原子1〜6個を有するアルカンスルホンアミド基である。
【0070】
一実施形態では、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素、−Cl、−Br、−I、−OCH3、−OCH2CH3、−NO2、−OH、−COOH、−CH3、又は−CH2CH3である。
【0071】
別の実施形態では、R1は水素、−CH3、又は−CH2CH3であり、R2は水素、−Cl、−Br、−I、−OCH3、−OCH2CH3、−NO2、−CH3、又は−CH2CH3であり、R3は水素、−CH3、又は−CH2CH3であり、R4は水素、−OCH3、−OCH2CH3、−CH3、又は−CH2CH3である。
【0072】
ジオキソモリブデン(VI)サリチルアルデヒド錯体は、イミン錯体等多くの錯体の反応中間体として合成されており(K. Yamanouchi et al., Inorg. Chim. Acta, 9, 83-86, 1974)、下記の反応式のように、モリブデン酸アンモニウム(7)とサリチルアルデヒド誘導体(8)をMethanol-H2O中、塩酸で中和することにより生じた沈殿をろ過することで得られる(生成物(6))。生成した錯体の同定はCHN元素分析等、公知の方法で行う。
【0073】
【化6】
【0074】
ジオキソモリブデン(VI)イミン錯体はMoO2[(3-OMe)salad]2錯体のエタノール溶液にアミンを加えて30分間還流することにより合成される。例えばK. Yamanouchi, et al., Inorg. Chim. Acta, 1974, 9, 83-86を参照されたい。ジオキソモリブデン(VI)トロポロン錯体はモリブデン酸アンモニウムの水溶液にトロポロンのエタノール溶液を加え、さらに硫酸を加えて酸性にした系で30分間撹拌することにより合成される。例えばW.P.Griffith, et al., Polyhedron, 6(5),891, 1987を参照されたい。
【0075】
ポリオキソモリブデン塩は、好ましくは[Mo3102- 、[Mo6204- 、[Mo7246- 、[Mo8264- 、及び[Mo10348- からなる群より選ばれた陰イオンと、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン及びアルカリ金属イオンからなる群より選ばれた陽イオンとの塩であり、いずれも公知であり、公知の方法により製造可能である。より好ましくは、ポリオキソモリブデン塩は上記陰イオンとアンモニウムイオンとの塩であり、特に好ましくはポリオキソモリブデン塩は(NH48[Mo1034]である。(NH48[Mo1034]はモリブデン酸アンモニウム(NH46Mo724・4H2Oを減圧下150℃で3時間加熱分解することにより得られる。例えばJ. E. Baez et al., Polymer, 46,12118-12129, 2005を参照されたい。
【0076】
上記のモリブデン化合物を触媒として用いて、ラクチドとラクトンとを共重合させる場合に、開始剤をさらに加えてもよい。開始剤が無くても雰囲気の水分を開始剤として共重合は起こるが、開始剤の添加により重合度、反応を制御することができる。開始剤としては、金属アルコキシド(例えば特開2001-2763参照)又はアルコールが挙げられ、アルコールとしては、特にラウリルアルコール等の高沸点の炭素数6以上の高級アルコールを含む脂肪族アルコール、シクロドデカノールなどの脂環式アルコール又はベンジルアルコール等の芳香族アルコール、並びに多価アルコールが挙げられる。
【0077】
上記のモリブデン化合物を触媒として用いて、ラクチドとラクトンとを共重合させる場合の重合の様式は特に限定されず、例えば溶液重合法、スラリー重合法、塊状(バルク)重合法のいずれを採用してもよい。この場合に用いられる有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類、クロロホルム、トリクロルエチレン等の塩素系炭化水素類、及びTHF等が挙げられる。
【0078】
重合に用いる触媒の量は、溶媒の種類、重合反応の行われる条件等によって異なるが、一般に原料モノマーの0.0005〜1.0モル%の範囲内であり、通常は0.001〜0.1モル%程度でも短時間に重合体を得ることができる。
【0079】
本発明に係る共重合体の製造方法を行う際の温度は、用いられる触媒やモノマーの種類又は量、または生成する重合体の分子量等に応じて適宜決定されるが、一般に反応温度は50℃〜200℃が好ましい。
【0080】
本発明に係る共重合体の製造方法における重合反応の反応時間も、用いられる触媒やモノマーの種類又は量、または生成する重合体の分子量等に応じて適宜決定されるが、一般に反応時間は数分〜数日、好ましくは5分〜3日であり、2日(48時間)以内に反応が終了するのが実用的である。
【0081】
本発明の製造方法で得られる共重合体は、いずれの共重合体をも含むが、中でもランダム共重合体が有利に得られる。尚本明細書において、「ランダム共重合体」とは、共重合体のうちの交互共重合体、周期共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体とは異なる、モノマーの仕込み組成(モル比)に応じて無秩序に各モノマーが配列される共重合体を意味する。
【0082】
例えばラクチド対ラクトンを1:1の割合で共重合させた場合には、理想ランダム共重合体に近い、換言するとラクチドの平均連鎖長(平均鎖長ともいう)及びラクトンの平均連鎖長がいずれも2に近い、ラクチドとラクトンとが重合体分子内でほぼ均質に分布するラクチド−ラクトン共重合体が有利に得られる。なお、本明細書において「ラクチドとラクトンとが重合体分子内でほぼ均質に分布する」とは、ラクチド−ラクトン共重合体において、ラクチドの平均連鎖長及びラクトンの平均連鎖長がいずれも1.0〜3.5であることを指す。これらの平均連鎖長は好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.7〜2.5。かかるラクチド−ラクトン共重合体では各モノマーの配列、並びに共重合体の分子量及び分子量分布が有利に制御されたものとなっている。なおランダム共重合体は、必ずしも厳密にベルヌーイ統計に従った共重合体である必要は無い。
【0083】
ここで、ラクトンを以下の説明ではε−カプロラクトンとすると、ラクチド及びε−カプロラクトンの平均連鎖長は、文献(J. Kasperczyk et al.,"Coodination polymerization of lactides, 4 The role of transesterification in the copolymerization of L,L-lactide and ε-caprolactone", Die Makromolekulare Chemie Volume 194, Issue 3, pages 913-925, March 1993)に開示の手法を用い、ラクチドの平均鎖長:LLAは下記式(A)より、またε−カプロラクトンの平均連鎖長:LCLは下記式(B)より、それぞれ算出される。
【0084】
【数1】
【0085】
【数2】
【0086】
式中、Cは共重合体中のε−カプロラクトンユニットを、LLは共重合体中のラクチドユニットを表し、[ ]内は、各三連子(triad)の13C NMR対応ピークの積分強度を表す。
【0087】
本発明のラクチド−ラクトン共重合体の製造方法によれば、得られる共重合体の分子量及び分子量分布並びに共重合体内の各モノマーの分布の制御が容易であり、得られたラクチド−ラクトン共重合体は生医学材料の用途に用いることが可能である。ラクチド−ラクトン共重合体の平均分子量は、開始剤の量で制御でき、通常数千〜数十万である。
【0088】
また、本発明の製造方法を実施するに際し、ラクチドとラクトンの仕込みモル比は適宜設定可能である。ラクチドとラクトンの仕込みモル比は、通常1:99〜99:1、より好ましくは10:90〜90:10、例えば25:75〜75:25であり、ラクチドとラクトンのモル比に応じた共重合体が有利に得られる。得られた共重合体中のラクチドとラクトンのモル比も、通常1:99〜99:1、より好ましくは10:90〜90:10、例えば25:75〜75:25である。例えばラクチドの使用量を多くする(ラクトンの使用量を少なくする)と、ポリラクチドの性質が優勢かつポリラクトンの性質の一部を有するラクチド−ラクトン共重合体であって、ラクチドとラクトンのモル比に応じたランダム共重合体が得られる。一方、ラクトンの使用量を多くする(ラクチドの使用量を少なくする)と、ポリラクトンの性質が優勢かつポリラクチドの性質の一部を有するラクチド−ラクトン共重合体であって、ラクチドとラクトンのモル比に応じたランダム共重合体が得られる。このように、ラクチドとラクトンのモル比を変更することにより、所望の特性を有する共重合体が有利に得られる。
【0089】
得られた重合体の特性は、以下の測定方法により評価される。ラクチドの反応率及びラクトンの反応率は、抜き取った重合溶液について1H−NMR測定を実施し、これにより得られたラクチド及びラクトンの残存量と、ラクチド及びラクトンの生成量(モノマー転化量)との比から算出される。また、共重合体中のラクチドとラクトンの含有比は、抜き取った重合溶液に含まれる共重合体について1H−NMR測定を実施し、その結果から算出される。数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、抜き取った重合溶液に含まれる共重合体についてのクロマトグラフィ、例えばゲル浸透クロマトグラフィ又はサイズ排除クロマトグラフィの結果から算出される。ラクチドの平均鎖長及びラクトンの平均鎖長は、抜き取った重合溶液に含まれる共重合体についての13C−NMR測定の結果を用いて、上記Die Makromolekulare Chemie Volume 194, Issue 3, pages 913-925, March 1993文献に基づいて、上記数式(A)及び(B)よりそれぞれ算出される。
【0090】
本明細書中に引用されているすべての特許出願および文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0091】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0092】
測定方法
以下の実施例において、別段明記がない限り、NMR、GPC及びDSCは以下の条件で行った。
【0093】
NMR
NMRはBRUKER DRX500 spectrometer (Bruker社製)を用いて測定した。溶媒には標準物質としてTMSを0.03vol%含むCDCl3, DMSO-d6を用いた。
【0094】
生成した重合体のNMRより、反応率、開始剤消費率、重合度を以下のように求めた(表1)。(ε−CL反応率)=(c+e)/(b+c+e)
(開始剤消費率)=a/(a+d)
(重合度)=(c+e)/e
【0095】
【表1】
【0096】
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)
GPCはポンプ(LC-10ADVP、株式会社島津製作所)及びRI検出器(RID-10A、株式会社島津製作所)を用い、カラムShodex GPC KF-804L(昭和電工株式会社製)でオーブン温度40℃、THF流速0.5ml/分にて測定した。ポリマー1.8mgに対してTHF0.5mlで試料を作成し、10μl注入して測定した。分子量Mn, Mw及び分子量比Mw/Mnはポリスチレンを標準物質として検量線を作成して計算した。
【0097】
示差走査熱量計(DSC)
DSCはDSC 2920(TA Instrument 社製)を用いてHeating rate10℃/minで−80〜200℃の範囲でガラス転移温度(Tg)を測定した。通常測定を行い放冷した後、再び測定しデータとした。
【0098】
以下の実施例において、すべての試薬(Chemicals)は東京化成工業株式会社及び和光純薬工業株式会社から得た。
実施例1 ジオキソモリブデンサレン錯体の製造
K. Yamanouchi et al., Inorg. Chim. Acta, 9, 161-164, 1974又はW. E. Hill et al., Inorg. Chim. Acta, 35, 35-41, 1979等を参考にして、下記の表2の反応式におけるようにジアミン(2)とサリチルアルデヒド誘導体(3)からリガンド(4)を合成した。
【0099】
すなわち、対応するサリチルアルデヒド誘導体(3)のエタノール溶液に、ジアミン(2)をジアミンに対しサリチルアルデヒド誘導体が2当量になるように加え、加熱還流下で2−5時間反応させた。反応終了後に氷冷し、生じた沈殿を濾過、エタノールで数回洗浄し、乾燥することによって、対応する表2のリガンド(4)を得た。表2中、略称SalenはR1=-CH2CH2-、SaltnはR1=-CH2CH2CH2-、Di-Me-saltnはR1=-CH2C(CH3)2CH2-、SaltetはR1=-(CH2)4-をそれぞれ表す。
【0100】
次に、このリガンドのアセトン溶液に、氷冷下3当量のMoO2(acac)2のアセトン溶液を加え、0℃で1時間反応させ、ろ過、アセトンで洗浄し、乾燥させ、表3のcis-αを主生成物とするジオキソモリブデン(VI)サレン錯体を得た(表3)。ジオキソモリブデン(VI)サレン錯体の生成は1H−NMR(500MHz、DMSO-d6)で確認した。表中、Meはメチル基(−CH3)を指す。
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
実施例2 ジオキソモリブデンサレン錯体の開環重合活性測定
実施例1で得られたジオキソモリブデンサレン錯体のうち、MoO2(3-OMe)salen、MoO2(3-OMe)saltn、MoO2(3-OMe)Di-Me-saltn、及びMoO2(3-OMe)saltetのcis-α立体異性型について、ε−カプロラクトン:開始剤:触媒=100:10:1(モル比)の条件で、開始剤としてベンジルアルコールを用いてトルエン還流下で1時間反応させてε−カプロラクトン(CL)の開環重合活性を調べたところ(ε−カプロラクトン110μl、ベンジルアルコール10μl、触媒0.1mmol、及びトルエン1mL)、表4のように、いずれの錯体の触媒活性も高かった。反応率及び重合度はCDCl3を溶媒に用いてNMRで測定した。
【0104】
さらに、触媒量を減らして、ε−カプロラクトン:開始剤:触媒=100:1:0.05(モル比)の条件で、開始剤としてシクロドデカノールを用いてメシチレン中110℃で20分反応したところ、表5の様にMoO2(3-OMe)Di-Me-saltnの活性が最も高いことが分かった。
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
実施例3 MoO2(X)Di-Me-saltnの触媒活性比較
ε−カプロラクトン:開始剤:触媒=100:1:0.05(モル比)の条件で、開始剤としてシクロドデカノールを用いてメシチレン中110℃で15分反応したところ、表6の様にMoO2(3-OMe)Di-Me-saltnの活性が最も高いことが分かった。
【0108】
反応率及び重合度はCDCl3を溶媒に用いてNMRで測定した。
【0109】
【表6】
【0110】
実施例4 ジオキソモリブデンサリチルアルデヒド錯体
K. Yamanouchi, S. Yamada, Inorg. Chim. Acta, 9, 83-86, 1974に記載された合成方法に従い、サリチルアルデヒド誘導体とモリブデン酸アンモニウムをMethanol-H2Oに溶解し、12M HCl 1mlをゆっくり加えた。その後、室温で4時間反応させ、生じた沈殿をろ過し、各種ジオキソモリブデンサリチルアルデヒド錯体を合成した(下記の化7の反応式、表7)。各錯体の合成方法は以下の通りである。また、同定は元素分析により行った。
【0111】
【化7】
【0112】
【表7】
【0113】
4-1 MoO2(salad)2の合成
Salicylaldehyde 2.2009g (18.02mmol)のMethanol溶液5mlに七モリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24・4H2O) 1.2392g (1.003mmol; salicylaldehyde: Mo = 2.5:1) の水溶液15 mlを加え、撹拌しながら12M HCl 1mlをゆっくりと加えた。そのまま室温で4時間反応させ、沈殿をろ過し、Methanolと水のそれぞれで洗浄した後に減圧下で乾燥し、2.4210g (6.540mmol)の黄色結晶を得た。(収率93.2%)
mp=250-267℃ (分解), Anal. Calcd For C14H10O6Mo: C, 45.4; H, 2.72. Found: C, 45.7, H, 2.80.
【0114】
4-2 MoO2[(3-OMe)salad]2の合成
o-vanillin 2.7393g (18.00mmol) のMethanol溶液5mlに七モリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24・4H2O) 1.2347g (0.999mmol)の水溶液15mlを加え、撹拌しながら12M HCl 1mlをゆっくりと加えた。そのまま室温で4時間反応させ、沈殿をろ過し、Methanolと水のそれぞれで洗浄した後に減圧下で乾燥し、2.8222g (6.560mmol)の黄色結晶を得た。(収率93.8%)
mp=160-227℃ (分解), Anal. Calcd For C16H14O8Mo: C, 44.7; H, 3.3. Found: C, 45, H, 3.3.
【0115】
4−3 MoO2[(3-Me)salad]2の合成
3-MethylSalicylaldehyde 1.2280g (9.019mmol)のMethanol溶液2.5mlに七モリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24・4H2O) 0.6181g (0.5000mmol)の水溶液7.5mLを加え、撹拌しながら12M HCl 0.5 mlをゆっくりと加えた。そのまま室温で4時間反応させ、沈殿をろ過し、Methanolと水のそれぞれで洗浄した後に減圧下で乾燥することで、1.2824g (3.220mmol)の黄色結晶を得た。(収率92.0%)
mp=265-285℃ (分解), Anal. Calcd For C16H14O6Mo: C, 48.3; H, 3.54. Found: C, 49.2, H, 4.0
【0116】
4−4 MoO2[(5-OMe)salad]2の合成
5-MethoxylSalicylaldehyde 1.3613g (8.950mmol)のMethanol溶液2.5mlに七モリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24・4H2O) 0.6183g (0.5002mmol)の水溶液7.5mlを加え、撹拌しながら12M HCl 0.5mlをゆっくりと加えた。そのまま室温で4時間反応させ、沈殿をろ過し、Methanolと水のそれぞれで洗浄した後に減圧下で乾燥することで、1.2032g (2.797mmol)の黄色結晶を得た。(収率79.9%)
mp=160-240℃ (分解), Anal. Calcd For C16H14O8Mo: C, 44.7; H, 3.3. Found: C, 43.4, H, 3.4
【0117】
4−5 MoO2[(5-Me)salad]2の合成
5-MethylSalicylaldehyde 1.2337g (9.061mmol)のMethanol溶液20mlに七モリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24・4H2O) 0.6234g (0.5044mmol)の水溶液5mlを加え、撹拌しながら12M HCl 0.5mlをゆっくりと加えた。そのまま室温で4時間反応させ、沈殿をろ過し、Methanolと水のそれぞれで洗浄した後に減圧下で乾燥することで、0.8222g (2.065mmol)の黄色結晶を得た。(収率58.5%)
mp=180-250℃ (分解), Anal. Calcd For C16H14O6Mo: C, 48.3; H, 3.54. Found: C, 45.5, H, 3.3
【0118】
4−6 MoO2[naphad]2の合成
2-Hydroxy-1-naphthaldehyde 1.5537g (9.024mmol)のMethanol溶液2.5mlに七モリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24・4H2O) 0.192g (0.5010mmol)の水溶液7.5mlを加え、撹拌しながら12M HCl 0.5mlをゆっくりと加えた。そのまま室温で4時間反応させ、沈殿をろ過し、Methanolと水のそれぞれで洗浄した後に減圧下で乾燥することで、0.9991g (2.1245mmol)の黄色結晶を得た。(収率60.7%)
【0119】
実施例5 ジオキソモリブデンサリチルアルデヒド錯体の開環重合活性測定
実施例4で得られたジオキソモリブデンサリチルアルデヒド錯体を、ε−カプロラクトン:開始剤:触媒=100:1:0.05(モル比)の条件で、開始剤としてシクロドデカノールを用いてメシチレン中80℃で反応させてε−カプロラクトン(CL)の開環重合活性を調べたところ、MoO2[(5-OMe)salad]2では15分程度で90%以上の反応が進行し、最も活性が高く、他の錯体も30分でほぼ反応が終了し、活性が高いことが示された(表8)。
【0120】
【表8】
【0121】
実施例6 モリブデン触媒のホモ重合及び共重合に対する触媒活性
MoO2[(5-OMe)salad]2を触媒として用い、ラクチド(LA)とε−カプロラクトン(CL)を種々の割合で加えて重合させた。[LA+CL]:[開始剤]:[触媒]=100:1:0.05(モル比)とし、溶媒はメシチレンとし、110℃で重合させた。反応率、生成したポリマーのモノマー比率はNMRにより測定した(表9)。生じたポリマーの分子量はGPCにて測定した。
【0122】
この結果、ラクチド(LA)のホモ重合の速度は非常に遅く、36時間でも反応率は14%であり(番号1)、MoO2[(5-OMe)salad]2でのラクチドのホモ重合は困難であるのに、驚くべきことに、LAとCLの共重合体ではほぼ仕込み比通りの共重合体が得られる(番号2-4)という予想外の結果が得られた。1H−NMRによりε-CL-ε-CL、LA-LAの2連子に由来するメチレンピーク以外にもε-CL-LA結合のメチレンピークが仕込み通りの積分比で見られた(図1(a)−(c))。番号2-4のいずれのDSCでも融点(Tm)が示されず、共重合がブロック共重合ではなくランダム共重合であることが確認された。
【0123】
【表9】
【0124】
実施例7 各種モリブデン触媒によるε-CL-LA共重合体の合成
MoO2[(5-OMe)salad]2、MoO2[(3-OMe)Di-Me-saltn](cis-α型)、MoO2(acac) 2、及び(NH4)8[Mo10O34]の4種類の触媒を用いて、ラクチドとε−カプロラクトンをモル比50/50で共重合させ、得られたε-CL-LA共重合体のランダム性について調べた。
【0125】
MoO2[(5-OMe)salad]2はK. Yamanouchi et al., Inorg. Chim. Acta, 1974,9, 83-86に記載の方法により、MoO2[(3-OMe)Di-Me-saltn]は実施例1の方法により、(NH4)8[Mo10O34]はJ. E. Baez et al., Polymer, 46,12118-12129, 2005に記載の方法により調製した。
【0126】
[LA+CL]:[開始剤]:[触媒]=100:1:0.05(モル比)とし、開始剤はシクロドデカノール、溶媒はメシチレンとし、110℃で重合させた。収率、ラクチド及びカプロラクトンの平均連鎖長LLA, LCL13C-NMRで測定し、分子量及び分子量比をGPCで測定し、示差走査熱量計(DSC)でガラス転移温度(Tg)を測定した(表10)。この結果、いずれの触媒を用いた場合も、平均鎖長LLA, LCLがともに2を下回り、また、DSCにおいて融点(Tm)を示さなかったことから、ほぼ理想的なランダム共重合体が生成したことが分かった。
【0127】
【表10】
【0128】
また、反応の進行を経時的にNMRで測定し、時間に対する反応率すなわちLAとCLの消費量を測定すると、LAとCLの重合速度は非常に近く、LAとCLがほぼ同時に消費されていることが確認された(図2−5)。
図1
図2
図3
図4
図5