(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242402
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】多汗症の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/713 20060101AFI20171127BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20171127BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20171127BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20171127BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20171127BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20171127BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20171127BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20171127BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20171127BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20171127BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20171127BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
A61K31/713ZNA
A61K31/7088
A61K48/00
A61P17/00
A61P43/00 111
A61K9/06
A61K9/12
A61K9/08
A61K9/70 401
A61K47/42
A61K47/34
C12N15/00 A
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-551659(P2015-551659)
(86)(22)【出願日】2013年12月13日
(65)【公表番号】特表2016-505617(P2016-505617A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】SE2013051508
(87)【国際公開番号】WO2014107124
(87)【国際公開日】20140710
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】61/748,592
(32)【優先日】2013年1月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515182141
【氏名又は名称】ハイドロス セラピューティクス インターナショナル アクチエボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ダール、ニクラス
【審査官】
小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第02/011690(WO,A1)
【文献】
Hepatology,2011年,Vol.54,No.5,p1790−1799
【文献】
Endocrinology,2010年,Vol.151,No.10,p4665−4677
【文献】
Journal of Biological Chemistry,2008年,Vol.283,No.16,p10357−10365
【文献】
Journal of Cell Biology,2008年,Vol.183,No.2,p297−311
【文献】
Journal of Medical Investigation,2009年,Vol.56,No.Suppl.1,p371−374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/713
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の発汗を抑制する組成物であって、
イノシトール1,4,5−三リン酸受容体タイプ2(ITPR2)メッセンジャーRNA(mRNA)を標的とする核酸分子と、
任意の製薬上許容される担体および/または賦形剤とを含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記組成物は、皮内注射またはイオントフォレーシスのためのものである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、全身投与のためのものである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、局所投与のためのものである請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記局所投与のための組成物は、クリーム、軟膏、スティック、エアロゾル、または液体である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、前記核酸分子の経皮送達のためのものである請求項1または4に記載の組成物。
【請求項7】
前記対象者は、ヒトである請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記核酸分子は、ITPR2mRNAのコード配列を標的とするRNA分子である請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記RNA分子は、ニ本鎖RNA分子である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記RNA分子は、分子干渉RNA(siRNA)分子である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記siRNA分子は、配列識別番号1〜3のいずれか一つの配列を有する請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記RNA分子は、配列識別番号4〜13のいずれか一つに記載されているITPR2mRNAの配列を標的とする請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
前記siRNA分子は、ホスホロチオエート骨格および2’−O−メチル置換基からなる群から選ばれる化学修飾を含有する請求項10または11に記載の組成物。
【請求項14】
前記製薬上許容される担体および/または賦形剤は、前記核酸分子の経皮送達を促進する化合物を含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記核酸の経皮送達を促進する化合物は、短い合成ペプチド、カチオン性リポソーム、脂質基質担体(lipid-based carriers)、ポリアミドアミン、遺伝子ベクター、または溶解性マイクロニードルである請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記対象者は、多汗症を患っている請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
対象者の発汗を抑制する薬剤の製造における請求項1、8〜13のいずれか1項で定義された通りの核酸分子の使用。
【請求項18】
対象者の発汗を抑制するために使用する組成物であって、前記対象者は発汗が正常または正常よりも少ない者であり、
請求項1、8〜13のいずれか1項で定義されている核酸分子を含み、
前記核酸分子は、発汗を抑制するのに効果的な量で存在することを特徴とする組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発汗を抑制または除去し、かつ多汗症等の発汗過多を治療するための方法、化合物および組成物に関する。特に、本発明は、イノシトール1,4,5−三リン酸受容体タイプ2(ITPR2)タンパク質の機能の低下、ならびに汗腺細胞の分泌部におけるITPR2メッセンジャーRNA(mRNA)および/またはITPR2タンパク質のレベルの低下により、治療対象者の汗腺機能を低下させることに関する。
【背景技術】
【0002】
発汗過多により、肉体的にも精神的にもかなりの不快感を引き起こすことがある。
【0003】
多汗症とは、予測できない過剰な汗をかく病状のことである。過度の発汗が手、足および腋窩で発生する場合、原発性多汗症または限局性多汗症と呼ばれる。一般人口の約2〜3%が原発性多汗症に罹っているが、この症状の患者で医師の診察を受けているのは40%に満たない。原発性多汗症の大部分の症例において、その原因を見つけることができない。多汗症の最も一般的な形態は掌蹠多汗症であり、手掌、足裏および腋窩から大量に発汗することを特徴とする。
【0004】
別の病状が原因で発汗過多が起こる場合、二次性多汗症と呼ばれる。発汗が体全体に及ぶ(すなわち、全身化する)こともあれば、ある領域に限定されることもある。
【0005】
発汗過多を防ぐには、注射によるボツリヌス毒素の投与またはイオントフォレーシス(iontophoresis)に加えて、塩化アルミニウム六水和物を含有する制汗剤も用いることができる。ただし、この制汗剤によって汗管がふさがれるため、皮膚炎を発症する可能性がある。内科療法としては、グリコピロレート等の抗コリン薬および三環系抗うつ薬が挙げられる。グリコピロレートおよび三環系抗うつ薬は、どちらもアセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのを阻害し、それに伴って視朦、便秘、口内乾燥、眩暈、頭痛、インポテンス、および排尿障害等の抗コリン作用の副作用をもたらす。発汗過多は、外科手術および交感神経遮断術により治療されることもある。
【0006】
イノシトール1,4,5−三リン酸受容体タイプ2(ITPR2)は、多くの組織で発現される細胞内Ca
2+放出チャネルである。哺乳類では、ITPRの少なくとも3つの型が判明し、それぞれタイプ1、タイプ2およびタイプ3に指定されている(Yule, 2010)。ITPR2チャネルは、3つの機能ドメインを有するホモ四量体構造またはヘテロ四量体構造である。3つの機能ドメインとは、すなわち、カルボキシル(COOH)末端側のCa
2+チャネル孔を含む膜貫通ドメイン、アミノ末端IP
3結合ドメイン、およびCa
2+チャネルとIP
3結合領域とを結ぶ大きな細胞質ドメインである。Ca
2+孔を含む短い膜貫通ドメインを除いて、ITPR2の主要な部分は細胞質に露出しており、いくつかのアクセサリータンパク質およびキナーゼの標的となる。
【0007】
3つのITPR2遺伝子のいずれかのダウンレギュレーション(down-regulation)または突然変異に関連するとして報告された特定のヒト表現型はない。さらに、ITPR2の標的破壊を含むマウスは、異常な表現型を示さない(Futatsugi, 2005)。しかし、タイプ2(ITPR2)およびタイプ3(ITPR3)の受容体遺伝子を両方とも欠損したマウスモデルは、唾液腺および膵腺の外分泌機能不全を起こす(Futatsugi, 2005)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、被験者の発汗を抑制または除去するために用いられる化合物および組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記化合物および上記組成物を用いて被験者の発汗を抑制または除去する方法を提供することを目的とする。上記被験者は、多汗症を患っている患者でもよい。また、上記被験者は、発汗が正常か、または正常よりも少ないが、もっと発汗を減らすことを望む個人でもよい。
【0009】
特に、好適な被験者とは多汗症患者である。多汗症は一般人口の約2〜3%が罹患している疾患である(James, 2005)。多汗症の最も一般的な形態は掌蹠多汗症であり、手掌、足裏および腋窩から大量に発汗することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、汗腺機能を調節し、それによって発汗を調節する経路において、ITPR2が重要な役割を担っているという予期せぬ知見に基づき、発汗を抑制または除去することである。汗腺内のITPR2機能を(部分的または完全に)阻害する、拮抗する、または低下させる分子または試薬ならば、単独でも、組み合わせでも、本発明において有用である。これには、例えば、ITPR2mRNAに対するsiRNA等のITPR2mRNAのレベルを低下させる分子および試薬;ITPR2タンパク質のレベルを低下させる分子および試薬;ITPR2カルシウムチャネル形成を低下させる分子および試薬;ならびにITPR2カルシウムチャネル機能を低下させる分子および試薬が含まれる。
【0011】
ITPR2タンパク質の間接的な妨害(perturbation)は、BCL−2由来またはITPR由来のペプチド(Distelhorst and Bootman, 2011)、タンパク質キナーゼC(Arguin et al., 2007)、GIT1およびGIT2等のタンパク質と相互作用するGタンパク質共役受容体キナーゼ(Zhang et al., 2009)によって媒介されることがある。
【0012】
本発明の主要な態様は、独立請求項に開示されている。好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、非機能性ITPR2に起因する発汗不足または無汗症を示す。ヨード・デンプン試験を行い、45℃の湿潤環境にさらされた後の健常者(左図)およびホモ接合性ITPR2ミスセンス突然変異p.G2498Sの患者(右図)の発汗を分析する。皮膚にヨード液を塗布し、乾燥させた後、該部位にデンプンをふりかける。汗があると、デンプン・ヨード混合物は紺青色になる(左図)。ホモ接合性ITPR2ミスセンス突然変異p.G2498Sの患者の場合、呈色反応は観測されない(右図)。
【
図2】
図2は、汗腺を含む正常な皮膚におけるITPR2の免疫染色を示す(枠で囲んだ部分)。エクリン汗腺のITPR2の発現は茶色の染色に相当し、主として汗腺の分泌(汗の産生)部におけるピラミッド状の「明細胞」(CC)に局在している(右図)。管腔のいわゆる「暗細胞」(DC)は染色していない。導管細胞(*)の管腔膜におけるITPR2染色も矢印で示されている。染色は、ポリクローナルウサギ抗ITPR2(polyclonal Rabbit anti-ITPR2)1:1000(ミリポア(Millipore))を用いて行う。
【
図3】
図3は、線維芽細胞における、siRNA(s7634、s7635およびs7636;アンビオン(Ambion))を用いたITPR2mRNAのダウンレギュレーションを示す。棒グラフは、非導入(non-induced)線維芽細胞(「C」で表された左の棒)と、s7634、s7635およびs7636をそれぞれ用いてsiRNAを導入した線維芽細胞とについて、β−2ミクログロブリンmRNAに標準化されたITPR2mRNAの相対的な発現を示している。非導入対照細胞のITPR2mRNAのレベルは、1(n=4)に設定されている。s7634(p=0.0006;n=4)、s7635(p=0.006;n=4)およびs7636(p=0.019;n=2)による導入後に、ITPR2のダウンレギュレーションが顕著であることが判明した。
【
図4】
図4は、実施例2に記載されているように、siRNA(s7635、アンビオン(Ambion))の局所投与によるヒトの発汗量(sweat production)のダウンレギュレーションを示す。A:棒グラフは、siRNAを投与しない場合(「C」;対照としての右前腕)と、siRNAを投与した場合(「siRNA」;左前腕)のそれぞれについて、両前腕の相対的な平均発汗量を示している。「**」はp<0.01(スチューデントのt検定)。この結果は、2人の成人被験者に対して、1日目、9日目および16日目に行われた6回の測定に基づいている。siRNAは、0日目、1日目および9日目に、左前腕に投与された。B:棒グラフは、1人の被験者の相対的な発汗量を示している。対照としての右腕(「C」)の平均発汗量と、「検査対象」としての左腕の4回の各測定値(1日目、9日目、16日目および23日目;「siRNA1、9、16、23」)とが示されている。さらに、検査対象の腕の4回の測定値の平均値も示されている(「Average」)。「***」はp<0.001(スチューデントのt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者およびその共同研究者は、ITPR2機能の相対的または絶対的な欠損を予測するITPR2遺伝子に遺伝性突然変異を有する個人を特定した。ITPR2対立遺伝子が両方とも変異している個人は、全身性無汗症(発汗欠如)を呈したが、他の症状は現れなかった(
図1)。本発明者らは、真皮および表皮において、ITPR2が主として汗腺の分泌部の側底細胞(basolateral cells)(「明細胞」)に発現することも立証した(
図2)。従って、汗腺におけるITPR2mRNAおよび/またはITPR2タンパク質のレベルもしくは機能のダウンレギュレーションにより、発汗量が減少することが期待される。
【0015】
ITPR2mRNAと相互作用する因子は、このmRNAのダウンレギュレーションを引き起こすことがある。ITPR2mRNAを特異的に標的とする低分子干渉RNA(siRNA)を用いて、これを説明する。すなわち、ITPR2mRNAを標的とする分子(例えば、核酸およびその誘導体)ならどれでもITPR2mRNAのレベルを低下させ、その結果、ITPR2タンパク質のレベルを低下させることになる。無汗症と関係があるITPR2突然変異を有するヒトから得た本発明者らの知見に基づけば、ITPR2mRNAまたはITPR2タンパク質のダウンレギュレーションを直接的または間接的に適用して、効率的に発汗量を減少させることができる。siRNAを用いると、ITPR2mRNAのダウンレギュレーションが可能であることを説明する。
【0016】
この方法は、標的発現を低減する手段として最近登場したものであり、その手法は、皮膚疾患および筋疾患を含む多様な障害における有望な治療の選択肢につながった(Leachman, 2010; Goemans, 2011; Burnet and Rossi, 2012)。すなわち、ITPR2mRNAに対するsiRNAの局所投与または全身投与を行うことにより、発汗量を減少させることができる。また、任意の阻害剤および拮抗剤を用いてITPR2mRNAまたはITPR2タンパク質のレベルを低下させることにより、汗腺機能および発汗に同様の影響を及ぼすことができる。さらに、汗腺は体温の調節に重要な役割を果たしている。従って、全身的にITPR2mRNAを阻害することで全身性発汗障害となり、体温を上げることができる。
【0017】
均質型(homogeneous)宿主RNAの分解を誘発することによる遺伝子サイレンシングにとって、外因性二本鎖(ds)RNAの送達は有効である。遺伝子サイレンシングは、dsRNAが分解されて低分子干渉RNA(siRNA)になることを含む。例えば、ホスホロチオエート骨格または2’−O−メチル置換基によってsiRNAを化学修飾すると、分解を防ぎ、代謝の安定性を向上させる(Burnet and Rossi, 2012)。本発明者らは、ITPR2mRNAをダウンレギュレートするために、それぞれ21のヌクレオチドからなる3つの異なる二本鎖RNAを用いた。オリゴヌクレオチドは、修飾された骨格を有し、ITPR2mRNAの非オーバーラップ(non-overlapping)コード配列と相補的な関係にある。修飾されたsiRNAは、単独で、ITPR2mRNAを4倍にまでダウンレギュレートすることが示された。これは、5’非翻訳領域(5’UTR)および3’非翻訳領域(3’UTR)を含む、ITPR2転写物のあらゆる部分が好適な標的配列になり得ることを示唆している。siRNAまたは核酸の誘導体を生体内に送達してITPR2mRNAおよびITPR2タンパク質のレベルを低下させるには、上記例のように、局所投与または全身投与を行えばよい(Leachman, 2010; Goemans, 2011; Burnett and Rossi, 2012)。薬剤の局所投与は、特に、表皮を通じた受動的または能動的な輸送によって表層の汗腺に到達させるのに適している。
【0018】
本発明の場合、siRNAまたはITPR2mRNAの拮抗剤/阻害剤の投与は、体臭防止剤(例えば、デオドラントスティック(deo-stick)、エアロゾルまたは液体)の使用と同様に行うことができ、またクリームや軟膏等によっても実現できる。短い合成ペプチドと混合した場合(Lin et al., 2012)、またはsiRNAと複合したカチオン性リポソームを用いた場合(Felgner et al., 1987; Gindy et al., 2012)、ITPR2mRNAに対するsiRNAの経皮送達を促進することができる。ITPR2mRNAに対するsiRNAの局所投与および送達を促進するさらに別の手段として、ポリアミドアミン等の異なる担体(Arote RB et al., 2012)、およびsiRNAを含む溶解性マイクロニードルを備えたパッチ(Lara MF et al., 2012)を用いることが挙げられる。siRNAは、例えば、LiおよびRossiが検討したような遺伝子ベクター(Methods Mol Biol. 2008; 433: 287-299)により細胞に導入することもできる。その結果、細胞内にsiRNAが生成される。
【0019】
ITPR2機能を低下させる別の手段として、ITPR2の孔形成能またはカルシウムチャネル機能を阻害することが挙げられる。孔形成能は、ITPR2の四量体集合を妨げる化合物を投与することより阻害される。
【0020】
ITPR2タンパク質のレベルを低下させる別の手段として、ITPR2遺伝子の転写をダウンレギュレートする、または完全に阻害することが挙げられる。これは、好ましくはITPR2遺伝子に特異的な、転写因子を阻害すること、細胞内シグナル伝達を阻害すること、エンハンサーエレメントを阻害すること、転写抑制因子を用いること、および/または転写活性化因子を軽減することによって行われてもよい。
【実施例】
【0021】
実施例1
ITPR2mRNAのインビトロダウンレギュレーション
図3は、ヒト初代線維芽細胞(human primary fibroblast cells)を用いた細胞組織培養系において、特定のsiRNAによる効率的なITPR2mRNAのダウンレギュレーションを示す。線維芽細胞は、修飾、脱塩およびHPLC精製が施された生体導入用(in vivo ready)dsRNAの存在下で培養された。その際、ITPR2のエクソン9〜10(s7634、アンビオン)、エクソン26(s7635、アンビオン)およびエクソン30(s7636、アンビオン)のそれぞれと相補的な関係にある21のヌクレオチドからなる複数のdsRNAが用いられた(表1)。48時間後、線維芽細胞培養物から全RNAを抽出した。非導入細胞を対照とした。定量的リアルタイムPCRによると、siRNAの導入後、ITPR2mRNAのレベルが3〜4倍も低下したことが示されている(
図3)。ITPR2の別の配列も、ITPR2mRNAの同様のノックダウン実験に適していることが予想された(表1)。
【0022】
実施例2
siRNA局所投与を用いたヒトの発汗量のダウンレギュレーション
本実施例は、イオントフォレーシスによるsiRNA(s7635、アンビオン)の局所投与後、ヒト被験者の発汗量が減少したことを示す。イオントフォレーシスおよびsiRNAの局所投与後の発汗量について、被験者の左前腕を測定し、同一被験者の右前腕の発汗量は、siRNAを投与しない場合の対照とした。
【0023】
実験は、36歳と54歳の2人の健康な成人のそれぞれに対して行われた。ウェスコー社製の3700型ウェブスター汗誘発装置(3700 Webster sweat inducer)およびマクロダクト汗収集システム(Macroduct sweat collecting system)を用いて、メーカーの推奨に従い、両前腕の発汗量が測定された。水50μlにsiRNA50μgを溶解した溶液を、0日目、1日目および9日目に、検査対象の左腕に投与し、3cm
2のアガロースプラグ(4%アガロース含有リン酸緩衝食塩水)および陰極を用いて覆った後、イオントフォレーシス(1.5mA、5分)を行った。次に、測定可能な量の汗を得るために、イオントフォレーシスにより、5分間、検査対象の左腕の同じ3cm
2の部位にピロカルピンを投与した。続いて、メーカーの推奨に従い、25分間、汗を収集した(マクロダクト汗収集システム)。同様に、対照としての右腕にも、25分間の汗収集を行う直前に、イオントフォレーシスにより、5分間、ピロカルピンを投与した。どちらの被験者も、1日目、9日目および16日目に発汗量を測定した(
図4A)。一方の被験者は、23日目にも発汗量を測定した(
図4B)。
図4Aにおいて、「C」で表される棒は、「対照」である右前腕の6回の測定値の平均値であり、1に設定されている。「siRNA」で表される棒は、siRNA投与後の左前腕の相対的な平均発汗量(検査対象の腕、6回の測定値)である。発汗量が60%近くも減少したことが確認される。「**」はp<0.01(スチューデントのt検定)。
【0024】
図4Bは、1人の被験者の相対的な発汗量を、「対照」としての右前腕の平均発汗量(1日目、9日目および16日目;「C」)と、検査対象である左前腕の各測定値(1日目、9日目、16日目および23日目)とともに示す。「Average」で表されているのは、検査対象の腕の4回の測定値の平均発汗量である。「***」はp<0.001(スチューデントのt検定)。発汗量の減少は、siRNA投与後1日目に確認され、9日目の最後のsiRNA投与後14日間維持されている。
【0025】
実施例3
ITPR2タンパク質のダウンレギュレーション
実施例2で開示された少なくとも1人の被験者に、ITPR2mRNAを標的にするsiRNA分子を投与する。次に、同一被験者の検査部位および対応する対照部位から皮膚生検を採取する。免疫組織化学法により、検査部位および対照部位から採取されたそれぞれの生検に含まれるITPR2タンパク質の量を定量化する。対照部位に比べて、検査部位の汗腺におけるITPR2タンパク質の量が著しく減少したことが判明した。
【0026】
任意で、検査部位および対照部位から採取された生検に含まれるITPR1タンパク質およびITPR3タンパク質の量も同様に測定する。検査部位から採取された生検と対照部位から採取された生検とでは、ITPR1およびITPR3の量に著しい違いがないことが判明した。
【0027】
配列
ITPR2mRNAノックダウンに有効なsiRNA(5’〜3’)およびmRNAノックダウンに用いるITPR2遺伝子の予測標的配列の例。
【0028】
【表1】
【0029】
本発明は、上述した好ましい実施形態に限定されない。さまざまな代替物、改良物および均等物が用いられてもよい。従って、上記実施形態は、添付の各請求項により規定された本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0030】
参考文献
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]