【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の強度−低温靱性バランスに優れたCu含有低合金鋼のうち、第1の形態は、質量%で、C:0.01〜0.08%、Si:0.10〜0.40%、Mn:0.80〜1.80%、Ni:0.80〜2.50%、Cr:0.50〜1.00%、Cu:0.80〜1.50%、Mo:0.20〜0.60%、Al:0.010〜0.050%、Nb:0.030〜0.080%、N:0.005〜0.020%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる化学組成を有し、0.2%耐力が525MPa以上で、かつVノッチシャルピー衝撃試験にて測定された延性脆性破面遷移温度(FATT)が−70℃以下を有することを特徴とする。
【0010】
他の形態の強度−低温靱性バランスに優れたCu含有低合金鋼の発明は、前記化学組成に、さらに、質量%で、Ca:0.010%以下を含有することを特徴とする。
【0011】
他の形態の強度−低温靱性バランスに優れたCu含有低合金鋼の発明は、前記形態の本発明において、−80℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが130J以上を有することを特徴とする。
【0012】
他の形態の強度−低温靱性バランスに優れたCu含有低合金鋼の発明は、前記形態の本発明において、調質後の境界角度を15°以上とした際の平均EBSD粒径が10μm以下であり、かつ最大EBSD粒径が120μm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の強度−低温靱性バランスに優れたCu含有低合金鋼の製造方法の発明のうち、第1の形態は、強度−低温靱性バランスに優れた前記Cu含有低合金鋼の発明の第1〜第3の形態のいずれかに記載したCu含有低合金鋼を製造する方法であって、850〜950℃の温度域に加熱して焼入れ処理を行い、その後、(A
C3変態点−80℃)以上、(A
C3変態点−10℃)以下の温度範囲に加熱して二相域焼入れ処理を行い、さらに560〜660℃にて焼戻し処理を行う調質処理を有することを特徴とする。
【0014】
他の形態の強度−低温靱性バランスに優れたCu含有低合金鋼の製造方法の発明は、前記形態の本発明において、前記調質処理が、板厚150mm〜500mmの厚肉部を有する大型構造用の鋼に適用されることを特徴とする。
【0015】
他の形態の強度−低温靱性バランスに優れたCu含有低合金鋼の製造方法の発明は、前記形態の本発明において、熱間鍛錬によって製造され、その後、前記調質処理が行われることを特徴とする。
【0016】
以下に、本発明で規定した内容について以下に説明する。なお、化学組成においては質量%で示されている。
【0017】
C:0.01〜0.08%
強度を確保するという観点からはCは必要な添加元素であるため0.01%を下限とする。しかし、0.08%を超える含有は強度の増加による靱性の低下、二相域焼入れ時の硬質相の析出、溶接性の低下が生じることから、0.08%を上限とする。なお、同様の理由で下限を0.02%、上限を0.05%とするのが望ましい。
【0018】
Si:0.10〜0.40%
Siは合金の溶解・精錬を行う際に脱酸元素として使用される。また、強度確保のために必要な元素であるため0.10%を下限とする。しかし、過剰な含有は靱性の低下や溶接性の低下を招くので0.40%を上限とする。
【0019】
Mn:0.80〜1.80%
MnはSiと同様に脱酸元素として有用な元素であり、焼入れ性の向上にも寄与する。その効果を発揮するためには、0.80%以上の含有量が必要である。しかし、過剰な含有は靱性の低下を招くので1.80%を上限とする。なお、同様の理由で下限を1.00%、上限を1.50%とするのが望ましい。
【0020】
Ni:0.80〜2.50%
Niは焼入れ性の向上による強度の確保、低温靱性の確保のために必要な元素であるため0.80%を下限とする。しかし、過剰な含有は残留γを安定化し、靱性の低下を招くので2.50%を上限とする。なお、同様の理由で下限を1.50%、上限を2.30%とするのが望ましい。
【0021】
Cr:0.50〜1.00%
Crは焼入れ性を確保し、強度と靭性を確保する上で重要な元素であるため、0.50%を下限とする。しかし、過剰の含有は焼入れ性を高め、靱性の低下、溶接割れ感受性が高くなることから、1.00%を上限とする。なお、同様の理由で下限を0.60%、上限を0.80%とするのが望ましい。
【0022】
Cu:0.80〜1.50%
Cuは時効処理の際に析出し、鋼の強度を向上させる。低炭素鋼においてはCu析出物による強度の確保は非常に重要である。また、耐食性を向上する上でも重要な元素であるため、0.80%を下限とする。しかし、過剰な含有は靱性の低下、熱間加工性の低下を招くため1.50%を上限とする。なお、同様の理由で下限を1.10、上限を1.30とするのが望ましい。
【0023】
Mo:0.20〜0.60%
Moは焼入れ性の向上に寄与し、強度と靱性を確保する上で重要な元素であるため、0.20%を下限とする。しかし、過剰な含有は靱性の低下、溶接性の低下を招くため0.60%を上限とする。
【0024】
Al:0.010〜0.050%
AlはNと結合してAlNとなり、結晶粒成長を抑制する。結晶粒径の微細化は靱性を向上させるために必須であり、Alの含有量は0.010%を下限とする。しかし、過剰な含有は粗大なAlNによる靱性の低下を招くため0.050%を上限とする。
なお、同様の理由で下限を0.010%超、上限を0.030%とするのが望ましい。
【0025】
Nb:0.030〜0.080%
Nbは炭窒化物として結晶粒成長を抑制し、結晶粒径の微細化のために重要な元素であるため、0.030%を下限とする。しかし、過剰な添加は炭窒化物の凝集粗大化を促進し、靱性の低下を招くため0.080%を上限とする。なお、同様の理由で下限を0.04%、上限を0.060%とするのが望ましい。
【0026】
N:0.005〜0.020%
NはAlNおよび炭窒化物として、結晶粒成長を抑制し、結晶粒径の微細化のために重要な元素であるため含有される。その作用を十分に得るため0.005%を下限とする。しかし、過剰な添加は多量のAlNや炭窒化物の析出および凝集粗大化を促進し、靱性の低下を招くため0.020%を上限とする。
【0027】
Ca:0.010%以下
Caは酸化物や硫化物を形成するため、脱酸、脱硫元素として所望により使用される。しかし、過剰な添加は靱性の低下を招くため、0.010%以下とする。なお、同様の理由で上限をさらに0.005%とするのが望ましい。なお、上記作用を得るために、Caを0.0005%以上含有するのが望ましい。Caを積極的に添加しない場合、0.0005%未満でCaを不可避不純物として含むものであってもよい。
【0028】
EBSD粒径:平均10μm以下でかつ最大120μm以下
EBSD(電子線後方散乱回折法)は各結晶の方位を測定する方法である。一般的に鋼の場合は15°以上の大角境界で囲まれた結晶粒径(EBSD粒径)が靱性と相関を持つことが報告されている。このEBSD粒径が細かいほど鋼の低温靱性が良好な結果となる。平均EBSD粒径が10μm以下でかつ最大EBSD粒径が120μm以下であることにより、強度−低温靱性バランスがより優れたCu含有低合金鋼が得られる。一方で、平均EBSD粒径が10μmとなるか、最大EBSD粒径が120μmを超える場合は、低温靱性の特性が低下するためこれらを上限値とするのが望ましい。
【0029】
調質条件
焼入れ処理の場合には少なくともA
C3変態点以上の温度に加熱する必要がある。また、焼入れ処理の加熱温度がA
C3変態点以上であっても、温度が低い場合には焼入れ性が確保できないため、下限温度を850℃とする。しかし、焼入れ処理温度の高温化は加熱時にγ粒径が粗大化し、その後の靱性の低下を招くため、上限を950℃とする。
なお、この焼入れ処理は、必要に応じて複数回繰り返すことができる。また、該焼入れに際しての加熱手段や冷却手段は、本発明としては特に限定されるものではなく、所望の加熱能および冷却能が得られる手段を適宜選択することが出来る。
【0030】
焼入れ処理を施された鋼材は、次いで(A
C3変態点−80℃)以上、(A
C3変態点−10℃)以下の温度範囲で加熱された後、冷却する二相域焼入れ処理が施される。該二相域焼入れに際しての加熱手段や冷却手段も、本発明としては特に限定されるものではなく、所望の加熱能および冷却能が得られる手段を適宜選択することが出来る。
この熱処理は本発明において最も重要なものである。
【0031】
上記二相焼入れ熱処理における加熱温度は、上記したように、(A
C3変態点−80℃)以上、(A
C3変態点−10℃)以下の温度範囲に規定する。加熱温度が、(A
C3変態点−80℃)未満では、γ相への変態量が不十分であり、高温焼戻しを受けるα相が多く、Cu析出物が粗大化するため、0.2%耐力を確保することが出来ない。また、その後の結晶粒径も細粒化されず、低温靱性の確保も難しい。一方で、(A
C3変態点−10℃)を超える高温とすると、γ相への変態量が過剰で、かつ結晶粒径が粗大となり、十分な低温靱性を確保することが出来ない。このような理由から、二相焼入れは(A
C3変態点−80℃)以上、(A
C3変態点−10℃)以下の温度範囲に規定する。
【0032】
上記二相域焼入れ処理に次いで、560〜660℃の温度範囲で焼戻し処理が施される。加熱温度が560℃未満では、Cu析出物の時効効果により0.2%耐力が増加し、靱性の低下を招く。また、低い焼戻し温度では、調質時の内部応力を緩和することができず、供用中の損傷の原因となる。一方で660℃を超えると、過時効となり、0.2%耐力が確保できない。したがって、焼戻し処理の温度範囲は560〜660℃とする。
【0033】
厚肉部
本願発明では、厚肉部を有する材料の製造に適用することができる。例えば、厚肉部の最大肉厚が150mm以上で、500mm以下のものが示される。
肉厚が150mm以上の材料では、調質圧延が難しく、本願発明による効果を顕著に得ることができる。一方、肉厚が500mmを超えると、焼入れおよび二相域焼入れの冷却過程で、冷却速度が低下し、強度の低下を招く。