(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6242436
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】養豚糞尿混合排水処理方法及び循環型養豚糞尿混合排水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/56 20060101AFI20171127BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20171127BHJP
C02F 11/12 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
C02F1/56 KZAB
B01D21/01 102
C02F11/12 Z
B01D21/01 107Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-113877(P2016-113877)
(22)【出願日】2016年6月7日
【審査請求日】2016年6月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515039650
【氏名又は名称】有限会社日向栄進産業
(74)【代理人】
【識別番号】100177220
【弁理士】
【氏名又は名称】小木 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197734
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 公徳
(72)【発明者】
【氏名】恒吉 裕之
【審査官】
菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−088900(JP,A)
【文献】
特開2010−179248(JP,A)
【文献】
特開2005−118675(JP,A)
【文献】
特開昭60−048200(JP,A)
【文献】
特開2008−188544(JP,A)
【文献】
特開平11−076866(JP,A)
【文献】
特開平02−104225(JP,A)
【文献】
特開2003−033604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/56
B01D 21/01
C02F 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の凝集反応槽内において養豚糞尿混合排水に複数の凝集剤水溶液を同時に添加して攪拌し、微小フロックを形成する第1の凝集反応と粗大フロックを形成する第2の凝集反応とを前記同一の凝集反応槽内で略同時に行わせ、前記第1の凝集反応と前記第2の凝集反応が完了することで前記養豚糞尿混合排水の固体成分と液体成分とを固液分離処理して汚泥と清澄水とを生成する養豚糞尿混合排水処理方法であって、
前記養豚混合排水は、養豚場の畜舎から集水された養豚の糞尿が混合された排水の原水であり、固液分離処理が未実施であり、
前記複数の凝集剤水溶液を、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、硫酸カルシウムのうちの少なくともいずれか一つから選択された無機系凝集剤と、ポリアクリルアミドである有機系高分子凝集剤とで生成し、
前記第1の凝集反応において、前記微小フロックは前記無機系凝集剤の前記固体成分に対する凝集作用によって形成され、
前記第2の凝集反応において、前記粗大フロックは、前記有機系高分子凝集剤の前記固体成分に対する凝集作用、及び、前記有機系高分子凝集剤の前記微小フロックに対する凝集作用のそれぞれ異なる二つの凝集作用によって形成され、
前記第1の凝集反応における1つの凝集作用と、前記第2の凝集反応における異なる2つの凝集作用との3つの凝集作用が同時に進行する工程を含み、
前記養豚糞尿混合排水に、前記複数の凝集剤水溶液とともにpH調整剤水溶液を同時に添加し、
前記無機系凝集剤の水溶液及び前記pH調整剤水溶液が酸性であり、前記有機系高分子凝集剤の水溶液が中性であることを特徴とする養豚糞尿混合排水処理方法。
【請求項2】
前記pH調整剤は、少なくともクエン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の養豚糞尿混合排水処理方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の養豚糞尿混合排水処理方法により固液分離処理して生成された清澄水を畜舎の洗浄水として還流させることを特徴とする循環型養豚糞尿混合排水処理方法。
【請求項4】
養豚場の畜舎から集水された養豚の糞尿が混合された排水の原水であり、固液分離処理が未実施の養豚糞尿混合排水に複数の凝集剤水溶液を同時に添加して攪拌し、微小フロックを形成する第1の凝集反応と粗大フロックを形成する第2の凝集反応とを略同時に行い、前記第1の凝集反応と前記第2の凝集反応とを完了させ、前記養豚糞尿混合排水の固体成分と液体成分とを固液分離処理して、汚泥と清澄水とを生成する凝集反応槽と、
前記清澄水を浄化して浄化水を生成する浄化槽と、
前記浄化水を畜舎に還流させる還流手段と、
前記汚泥を脱水処理する脱水機と
を備え、
前記複数の凝集剤水溶液は、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、硫酸カルシウムの少なくともいずれか一つから選択された無機系凝集剤と、ポリアクリルアミドからなる有機系高分子凝集剤とで生成された水溶液であり、
前記凝集反応槽は、前記第1の凝集反応において、前記微小フロックは前記無機系凝集剤の前記固体成分に対する凝集作用によって形成され、前記第2の凝集反応において、前記粗大フロックは、前記有機系高分子凝集剤の前記固体成分に対する凝集作用、及び、前記有機系高分子凝集剤の前記微小フロックに対する凝集作用のそれぞれ異なる二つの凝集作用によって形成され、前記第1の凝集反応における1つの凝集作用と、前記第2の凝集反応における異なる2つの凝集作用との3つの凝集作用が同時に進行される反応槽であり、
前記養豚糞尿混合排水には、前記複数の凝集剤水溶液とともにpH調整剤水溶液が同時に添加されており、
前記無機系凝集剤の水溶液及び前記pH調整剤水溶液が酸性であり、前記有機系高分子凝集剤の水溶液が中性である
ことを特徴とする循環型養豚糞尿混合排水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養豚糞尿混合排水処理技術に関し、特に、凝集剤を用いて養豚糞尿混合排水中の固体成分と液体成分とを固液分離処理する養豚糞尿混合排水処理方法、及び、前記方法を用いて生成した清澄水を浄化して養豚畜舎に環流させる循環型養豚糞尿混合排水処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、畜舎からの排水は、家畜排せつ物法、水質汚濁防止法、悪臭防止法などの法律による規制を受けている。水質汚濁防止法では、健康項目(アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物等)、及び、生活環境項目(生物化学的酸素要求量(BOD)、浮遊物質量(SS)、大腸菌群数、窒素含有量、リン含有量等)について、排水基準値が定められている。現在では、畜産業については、一般排水基準よりも緩やかな暫定基準値となっている(例えば、硝酸性窒素は、一般基準値が100mg/Lであるのに対し、平成28年7月までの暫定基準値は、700mg/Lとなっている。)が、今後、一般基準値に近づけるために徐々に下げられるため、現在の処理方式では管理は困難になると予想される。このため、特に、飼育頭数が数百〜千頭程度の中小規模の養豚農家では、環境負荷物質濃度の高い糞尿混合排水が発生し、環境汚染対策に苦慮している。糞尿混合排水は、その殆ど(98%)が水分であるが、BOD濃度が6,000〜10,000mg/Lという非常に高い有機物濃度を持ち、処理のために大型の曝気処理設備が用いられている。
【0003】
このような水分を多く含む排水の処理技術として、メタン発酵処理があるが、メタン発酵はバイオガス化によりエネルギー回収が行える利点があるものの、分解後の排水の処理にコストが大きくかかるため、中小規模の養豚農家には適用が難しい。また、近年の口蹄疫などの家畜伝染病発生リスク軽減のため、糞尿を広域輸送し、大規模に処理を行うことも難しくなってきている。
【0004】
このような背景から、養豚農家では、生産性向上のため増頭しても現状のままでは糞尿処理設備の負荷増大による処理能力不足が予想される。一方、新たな糞尿処理施設を建設する資金の余裕も土地もないのが実情である。このため、既存の糞尿処理施設を利用しながら、より処理効率の高い処理装置や処理システムの開発が望まれている。
【0005】
ここで、従来技術として、特許文献1に「少なくとも3以上の槽を直列に配設してなる多槽式糞尿処理槽を設け、該多槽敷糞尿処理槽を構成するそれぞれの槽の間の溢流口に、糞尿混合汚水が自然硫化して次の槽に移動するように、下流側の槽ほど低くなるような段差をつけたことを特徴とする家畜の糞尿処理システム」(「請求項1」、
図1参照。)が記載されており、特許文献2には、「糞尿を混合させ嫌気処理する一次槽と、該一次槽で処理した糞尿を沈殿処理する二次槽と、該二次槽で沈殿処理した糞尿を固形物と液状物に分ける分離機と、前記液状物を蒸散化処理する尿蒸散化処理施設とを備えたことを特徴とする糞尿処理システム」(「請求項1」、第1図参照。)が記載されている。
【0006】
特許文献1に記載の家畜の糞尿処理システムは、上述したように多槽式糞尿処理槽を設けるものであり、「各槽の容量は、1日当たりの糞尿発生量を基準に、それぞれ第一槽6を5日分、第二槽7を4日分、第三槽8を3日分、第四槽9を2日分、第五槽10を1日分とする」(段落「0044」、
図1参照。)と記載されているように、広大な敷地を確保しなければならず、初期の設備投資が大きいことが予想され、また、糞尿の浄化処理に非常に時間がかかる。
【0007】
特許文献2に記載の糞尿処理システムについても、多数の処理槽・処理施設を設けるものであり、「糞尿混合一次槽2は、畜舎1の下部にあって、嫌気処理による糞尿混合を数ヵ月間にわたり行うものであり、ストッパー20を設けることにより、スカムの動きをなくし臭気の発生を防止する。揚水ポンプ3は、このような糞尿混合一次槽2において処理された糞尿の上澄みを取って二次槽4へ搬送するものである。また、一次槽2は、オーバーフローによる自然流下方式で糞尿の移動を行う。二次槽4は、糞尿混合一次槽2で処理した搬送されてきた上澄みを溜め、さらにここで沈澱処理するものであり、該処理後の上澄みの液状物を固液分離機6へ搬送するのが揚水ポンプ5である。固液分離機6は、例えばスクリーンを用いて液状物から固形物を分離するものであり、ここで固形分離された残渣は堆肥ハウス7へ搬送され、液状物は水量調整槽8へ搬送される。水量調整槽8は、貯留槽としての機能と沈澱槽としての機能を兼ね備え、ここから揚水ポンプ9により不純物の少ないすなわち固形物を除いた液状物が尿蒸散施設10の尿散布管16へ搬送される。この尿散布管16は、例えば多孔を有するパイプを用いたものであり、この多孔から液状物が尿蒸散施設10内の全域に散布される」(明細書第2頁第3欄第36行乃至第4欄第4行、第1図参照。)と記載されており、設備が大掛かりになり、設置費用や維持費も膨大になるものと思われる。また、「なお、糞尿混合一次槽2や二次槽4の底に堆積した沈澱物18は、適宜バキューム等により除去する」(明細書第2頁第4欄第9行乃至第11行)必要があり、この除去ための人手や経費がかかってしまう。
【0008】
上記の特許文献1、2に記載の糞尿処理システムは、「有機物分解能力を有する微生物資材」、あるいは、「特殊バクテリヤを含有する有機材」を糞尿処理に用いていることも、設備が大型化し、処理日数に時間が掛かる要因となっている。そこで、凝集剤を用いて懸濁液から固体成分と液体成分とを短時間に固液分離処理し、特許文献1、2に記載のような大規模な設備を必要としない固液分離処理技術の適用が考えられる。
【0009】
凝集剤を用いる固液分離処理技術としては、例えば、特許文献3には、「懸濁排水が流入する貯留槽と、該貯留槽に隔壁を介して連設された沈殿槽と、前記攪拌槽の下方に、移動自在に据付けられたスラリー用脱水器と、前記沈殿槽に隔壁を介して連設された清水槽と、前記攪拌槽内を曝気攪拌すると共に、脱水後の水を当該攪拌槽へ循環させるエアーポンプと、前記攪拌槽に流入した汚泥水中のスラッジを濾別して前記沈殿槽へ流出する第1のフィルタと、当該沈殿槽の上澄み水をさらに濾過して清水槽へ導出する第2のフィルタとから成り、前記貯留槽、沈殿槽及び清水槽の全てに無機系中性凝集剤を添加したことを特徴とする汚濁水浄化システム」(「請求項1」参照。)と記載されている。
【0010】
また、特許文献4には「少なくとも2種類の凝集剤を添加することによって原水中の不純物を除去する方法において、前記少なくとも2種類の凝集剤のうちの一部の凝集剤(A)は、原水の懸濁物質の濃度指標に応じて凝集条件を制御し、前記少なくとも2種類の凝集剤のうちの前記凝集剤(A)とは異なる凝集剤(B)は、前記懸濁物質の濃度指標とは異なる水質指標に応じて凝集条件を制御することを特徴とする不純物の凝集方法」(「請求項1」参照。)と記載されている。
【0011】
また、特許文献5には「原水を導入し凝集処理を行う凝集処理装置と、凝集槽に凝集剤を添加する凝集剤添加装置と、原水中の油分濃度を測定する油分測定装置と、油分測定装置の測定値から油分濃度に対応する必要凝集剤量を演算し、これにより凝集剤添加量を制御する制御装置と、凝集処理液を浮上分離する浮上分離装置とを備えていることを特徴とするオリノコ油含有エマルション排水処理装置」(「請求項1」参照。)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平07−327535号公報
【特許文献2】特公平07−061479号公報
【特許文献3】特開2014−087799号公報
【特許文献4】特開2008−264723号公報
【特許文献5】特開平09−225474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献3に記載の「汚濁水浄化システム」は、「一次沈殿槽11」、「二次沈殿槽12」、「清水槽13」の全てに「無機系中性凝集剤」を添加し、「一次沈殿槽11」と「二次沈殿槽12」の間、「二次沈殿槽12」と「清水槽13」との間には、それぞれ、「第1のフィルタF1」、「第2のフィルタF2」が設けられた構成であり、特許文献1、2に記載された「糞尿処理システム」に比べれば設備の小型化が図られているものと推量されるものの、3段階の凝集工程と2段階のフィルタ工程があり、さらなる処理工程の簡略化行う必要がある。また、特許文献3には、「無機系中性凝集剤」は、「工業系・河川工事等の土木工事分野において発生する懸濁排水」からの汚泥の分離浄化以外にも、「畜産のし尿処理」にも使用することができると記載されており(段落「0001」参照。)、また、「産業上の利用可能性」として、「「(3)農林水産分野」:畜産・酪農・養殖・園芸等の汚水処理・水質改善。汚染土壌の改良・農地基盤整備に伴う排水処理。」への採用が示唆されているが、「畜産のし尿処理」、「畜産・酪農等の汚水処理・水質改善」の具体的な実施例については、何ら記載されていない。
【0014】
また、特許文献4に記載の「不純物の凝集方法」では、「原水の懸濁物質の濃度指標」に応じて「無機系凝集剤」の「添加濃度とpH」を制御し、かつ、「原水の懸濁物質の濃度指標とは異なる水質指標」に応じて「有機系凝集剤」の「添加濃度」を制御する必要があるので、システムの構成が複雑になる。また、特許文献4には、養豚糞尿混合排水処理への適用については、記載も示唆もされていない。
【0015】
さらに、特許文献5に記載の「オリノコ油含有エマルション排水処理装置」の処理対象の「オリノコ油含有エマルション排水」は、養豚糞尿混合排水とは異質のものであるので、上記の特許文献5に記載された排水処理技術を養豚糞尿混合排水処理に適用することは容易ではないものと推量される。さらに、上記「オリノコ油含有エマルション排水処理装置」は、特許文献5の
図1に記載されているように、「反応槽1」に導入された「原水」に「無機凝集剤」を添加して凝集反応を行い、さらに「反応槽1の反応液」を「フロック生成槽2」に導入して、ここで添加された「高分子凝集剤」により「フロックが生成」される構成であり、「無機凝集剤」と「高分子凝集剤」は、別々の槽、つまり、別々の工程で投入されており、凝集剤投入工程の簡略化が望まれる。また、特許文献5の「オリノコ油含有エマルション排水処理装置」には、「油分測定装置9」を設け、「エマルション破壊を伴う溶剤抽出と赤外線吸収分析により現水中の油分を測定する」必要があり、構成が複雑である。
【0016】
そこで、本発明は、大規模養豚事業者のみならず小規模養豚事業者でも利用することができ、簡易で効率的に養豚糞尿混合排水の固体成分と液体成分とを固液分離処理することができる養豚糞尿混合排水処理方法を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、前記養豚糞尿混合排水処理方法において生成された清澄水を畜舎に環流する循環型養豚糞尿混合排水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明では、同一の凝集反応槽内において養豚糞尿混合排水に複数の凝集剤水溶液を同時に添加して攪拌し、微小フロックを形成する第1の凝集反応と粗大フロックを形成する第2の凝集反応とを前記同一の凝集反応槽内で略同時に行わせ、前記第1の凝集反応と前記第2の凝集反応が完了することで前記養豚糞尿混合排水の固体成分と液体成分とを固液分離処理して汚泥と清澄水とを生成する養豚糞尿混合排水処理方法であって、前記養豚混合排水は、養豚場の畜舎から集水された養豚の糞尿が混合された排水
の原水であり、固液分離処理が未実施であり、前記複数の凝集剤水溶液を、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、硫酸カルシウムのうちの少なくともいずれか一つから選択された無機系凝集剤と、ポリアクリルアミドである有機系高分子凝集剤とで生成し、前記第1の凝集反応において、前記微小フロックは前記無機系凝集剤の前記固体成分に対する凝集作用によって形成され、前記第2の凝集反応において、前記粗大フロックは、前記有機系高分子凝集剤の前記固体成分に対する凝集作用、及び、前記有機系高分子凝集剤の前記微小フロックに対する凝集作用のそれぞれ異なる二つの凝集作用によって形成され、前記第1の凝集反応における1つの凝集作用と、前記第2の凝集反応における異なる2つの凝集作用との3つの凝集作用が同時に進行する工程を含み、前記養豚糞尿混合排水に、前記複数の凝集剤水溶液とともにpH調整剤水溶液を同時に添加し、前記無機系凝集剤の水溶液及び前記pH調整剤水溶液が酸性であり、前記有機系高分子凝集剤の水溶液が中性であることを特徴とする。
【0024】
また、請求項
2の発明では、請求項1に記載の発明において、pH調整剤は、少なくともクエン酸を含むことを特徴とする。
【0025】
また、請求項
3の発明では、請求項1
又は請求項
2に記載の養豚糞尿混合排水処理方法により固液分離処理して生成された清澄水を畜舎の洗浄水として
還流させることを特徴とする。
【0026】
また、請求項4の発明では、循環型養豚糞尿混合排水処理システムであって、養豚場の畜舎から集水された養豚の糞尿が混合された排水
の原水であり、固液分離処理が未実施の養豚糞尿混合排水に複数の凝集剤水溶液を同時に添加して攪拌し、微小フロックを形成する第1の凝集反応と粗大フロックを形成する第2の凝集反応とを略同時に行い、前記第1の凝集反応と前記第2の凝集反応とを完了させ、前記養豚糞尿混合排水の固体成分と液体成分とを固液分離処理して、汚泥と清澄水とを生成する凝集反応槽と、前記清澄水を浄化して浄化水を生成する浄化槽と、前記浄化水を畜舎に還流させる還流手段と、前記汚泥を脱水処理する脱水機とを備え、前記複数の凝集剤水溶液は、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、硫酸カルシウムの少なくともいずれか一つから選択された無機系凝集剤と、ポリアクリルアミドからなる有機系高分子凝集剤とで生成された水溶液であり、前記凝集反応槽は、前記第1の凝集反応において、前記微小フロックは前記無機系凝集剤の前記固体成分に対する凝集作用によって形成され、前記第2の凝集反応において、前記粗大フロックは、前記有機系高分子凝集剤の前記固体成分に対する凝集作用、及び、前記有機系高分子凝集剤の前記微小フロックに対する凝集作用のそれぞれ異なる二つの凝集作用によって形成され、前記第1の凝集反応における1つの凝集作用と、前記第2の凝集反応における異なる2つの凝集作用との3つの凝集作用が同時に進行される反応槽であり、前記養豚糞尿混合排水は、前記複数の凝集剤水溶液とともにpH調整剤水溶液が同時に添加されており、前記無機系凝集剤の水溶液及び前記pH調整剤水溶液が酸性であり、前記有機系高分子凝集剤の水溶液が中性であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の養豚糞尿用混合排水処理方法によれば、一つの凝集反応工程で、養豚糞尿混合排水の固体成分と液体成分との固液分離処理を効率的に行うことができるので、排水処理工程の短縮化、排水処理システムの簡略化を実現することができ、排水処理の負担を大幅に軽減することができる。
【0028】
本発明の循環型養豚糞尿混合排水処理システムによれば、豚舎・飼育舎毎に糞尿の固液分離処理を行うことができるので、設備敷地を大幅に軽減することができ、小規模農場への利用が可能となる。
【0029】
本発明の循環型家畜糞尿混合排水処理システムによれば、凝集剤を一次処理で用いることにより、BOD(生物化学的酸素要求量)やSS(懸濁物質または浮遊物質)を大幅に低減することができ、その後の工程(浄化、濾過等)にかかる負荷を大きく軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態における循環型養豚糞尿混合排水処理システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、好適な実施形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、下記の実施形態は本発明を具現化した例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
(実施形態1)
まず、本実施形態1の養豚糞尿混合排水処理方法について説明する。養豚糞尿混合排水は、養豚場の畜舎から集水された養豚の糞尿が混合された排水であり、特段の固液分離処理を施していないので、「原水」と称されることもある。この養豚糞尿混合排水は、pH値が7(中性)近傍の安定したアルカリ性を示す排水であることに特徴がある。本願出願人は、養豚糞尿混合排水のこの特徴を利用して、一度の凝集反応工程で固体成分と液体成分との固液分離処理を行い、養豚糞尿混合排水処理を効率的に行うことができる方法を見いだしたのである。
【0033】
通常、排水や汚水等の被処理水の凝集処理を行う場合、例えば、特許文献4に記載されているように、被処理水の濃度指標に応じてpH調整を行う必要がある。これは、被処理水が中性を示すときに凝集剤の凝集作用効果が最も大きいためである。つまり、被処理水のpH値の変動が大きいほど、pHの調整度合いが大きくなるということである。例えば、被処理水がアルカリ性を示す場合と酸性を示す場合とでは、pH調整剤の成分を全く異なるものに変更する工程が必要となる。また、pH調整が自動制御されている場合は、その制御方法や制御手段が複雑になり、制御手段が大型化する問題がある。
【0034】
しかしながら、本願出願人は、上述したように、養豚糞尿混合排水はpH値が7近傍の安定したアルカリ性を示す排水であることに着目し、この排水を、凝集効果の大きい中性にするためには、複雑なpH調整方法・pH調整手段を用いることなく、ほぼ一定のpH値の酸性を示す無機系凝集剤の水溶液を添加すればよいことを見いだしたのである。
【0035】
そして、本実施形態においては、同一の凝集反応槽において、養豚糞尿混合排水の原水に、上記の無機系凝集剤の水溶液と、有機系高分子凝集剤の水溶液とを同時に添加して、攪拌手段による攪拌を行うことで、上記原水の固体成分と液体成分とを固液分離処理することを実現した。この固液分離処理の工程では、3つの凝集反応が同時に進行される。まず、無機系凝集剤の凝集作用で、原水の固体成分(コロイド粒子等)が凝集され微小フロックを形成する(請求項1の「第1の凝集反応」に対応する。)。そして、この微小フロックが、有機系高分子凝集剤の凝集作用で吸着・架橋されて粗大フロックが形成される。さらに、有機系高分子凝集剤の凝集作用で、原水の固体成分が凝集されて粗大フロックが形成される。この有機系高分子凝集剤の異なる2つの凝集作用による粗大フロックの形成が、請求項1に記載の「第2の凝集反応」に対応する。粗大フロックの形成が完了する、つまり、凝集反応が完了すると、原水中の固体成分と液体成分との固液分離処理が完了する。従来技術では、凝集反応槽において原水に凝集剤を添加して凝集反応させても、粗大フロックの形成が不十分であったため、最初の凝集反応槽の後に追加の凝集反応槽を設けて、被処理水にさらに別成分の凝集剤を添加して撹拌する等の追加の凝集反応工程を経て十分な粗大フロックを形成させて、固液分離処理を行う必要があったが、本発明においては、追加の凝集反応工程を設ける必要がなく、最初の凝集反応工程のみで、効率的に短時間での固液分離処理を行うことができる。ここで、「同時に添加」の「同時」には、多少の時間的ズレも含まれる。要するに、上述した3つの凝集反応が同時に進行されるようなタイミングで、無機系凝集剤水溶液と有機系高分子凝集剤水溶液とが原水に添加されればよい。
【0036】
無機系凝集剤としては、水溶液が酸性を示す硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸カルシウム(石膏)等が用いられ、有機系高分子凝集剤としては、水溶液が中性のポリアクリルアミド等が用いられる。上述したように、被処理水が中性であることが凝集作用効果が最も大きいので、無機系凝集剤水溶液とは別に、pH調整剤、例えば、水溶液が酸性を示すクエン酸を無機系凝集剤水溶液と有機系高分子凝集剤と同時に添加してもよい。前述したように、原水のpH値は7近傍で安定したアルカリ性を示すので、クエン酸の濃度は複雑な制御を行う必要はなく、所定範囲の濃度に設定すればよい。
【0037】
このようにして、固液分離処理されて生成された液体成分、つまり、清澄水は、さらに浄化槽で浄化され、畜舎の洗浄水等に使用するために環流される。なお、固体成分(つまり、凝集反応で形成された粗大フロック)は、水質基準値内でpH調整することで、ユーザの要求するシステム構成に応じて、浮上させることも、沈降させることも可能である。
【0038】
(実施形態2)
次に、本実施形態2の循環型養豚糞尿混合排水処理システムについて、
図1を参照しながら説明する。循環型養豚糞尿混合排水処理システム1は、上述した実施形態1の養豚糞尿混合排水処理方法を用いて、養豚畜舎において排出された養豚糞尿混合排水の固液分離処理を行い、この固液分離処理で生成された清澄水を浄化槽で浄化して養豚畜舎の洗浄水として環流させる構成をなすものである。
【0039】
養豚畜舎2から排出された養豚糞尿混合排水(原水)3は、原水貯留槽4に集水される。ここでは、凝集処理等の固液分離処理は行われておらず、養豚糞尿混合排水の原水が貯留される。但し、貯留期間は、従来に比べ格段に短い。この原水貯留槽4に貯留された原水3は、ポンプP1によって原水導入路5を介して凝集反応槽6に注入される。
【0040】
凝集反応槽6では、注入された原水3に、ポンプP2により凝集剤導入路8を介して凝集剤供給槽7から無機系凝集剤水溶液と有機系高分子凝集剤水溶液との混合溶液が添加され、モーターM1に連結された攪拌手段9によって攪拌される。この凝集反応槽6において、実施形態1で説明したように、無機系凝集剤の凝集作用と、有機系高分子凝集剤の凝集作用により、微少フロックの形成と粗大フロックの形成が同時に行われ、原水中の固体成分と液体成分との固液分離処理が行われる。
【0041】
固液分離処理されて生成された清澄水10は、ポンプP3で浄化槽11に送られて浄化され、再生循環水槽13で消毒剤12が添加され、ポンプP5によってフィルタF1で濾過されて、BOD、SSの水質基準をクリアした後、養豚畜舎2の洗浄水等に使用されるために環流される。この環流された浄化水は、養豚畜舎2で使用された後は、糞尿混合排水とともに集水されて原水貯留槽4に貯留される。
【0042】
従来の土木工事の排水処理技術では、粗大フロックの形成と、汚泥の集泥と、清澄水の排出を行うためには、凝集反応槽6の後の工程に追加の凝集反応槽が必要であったが、本発明では、粗大フロックの形成は凝集反応槽6で完了しているため、従来技術のような追加の凝集反応槽は不要である。なお、前述したように、ユーザの使用するシステムの構成に応じて、粗大フロックを、沈降させずに、浮上するように形成して取り出すこともできる。
【0043】
凝集反応槽6で形成された固形成分の汚泥(粗大フロック)14は、ポンプP4を介して脱水機15に送られ、脱水処理されて堆肥等の有用物として回収される。
【0044】
このようにして、本実施形態2の循環糞尿混合排水システム1が構成されている。なお、循環糞尿混合排水システム1を構成する個々の部品は、周知の従来技術で実現することができるので、特段の説明は省略する。本実施形態2の循環糞尿混合排水システム1は、構成が簡単で小規模の設備で構成することができるので、畜舎毎に設置することができる。
【0045】
表1に、原水3と、清澄水10の水質分析結果の一例を示す。表1に示すように、pHは、原水3が7.5で、清澄水10が7.7であり、排水処理を行っても、pH値は、中性7近傍のアルカリ性であることが分かる。なお、この原水3、清澄水10のpH値は、水質汚濁防止法の排水基準値(5.8〜8.6)の範囲内である。BODは、原水3が2900mg/l、清澄水10が1100mg/lであり、SSは、原水3が4300mg/l、清澄水10が580mg/lであり、水質が格段に浄化されていることが分かる。清澄水10は、さらに浄化、消毒剤添加、濾過されて、水質汚濁防止法の排水基準値(BOD;160mg/l、SS;200mg/l等。)をクリアするよう処理されるが、本発明では、一度の凝集反応工程で完全な固液分離処理を行うことで、清澄水10の水質を原水3に比して格段に向上することができたので、凝集反応工程以降にさらに凝集反応工程を追加する必要もなく、後段の処理工程の負担を軽減することができた。
【符号の説明】
【0047】
1 循環型養豚糞尿混合排水処理システム
2 養豚畜舎
3 養豚糞尿混合排水(原水)
4 原水貯留槽
5 原水導入路
6 凝集反応槽
7 凝集剤供給槽
8 凝集剤導入路
9 攪拌手段
10 清澄水
11 浄化槽
12 消毒剤
13 再生循環水槽
14 汚泥
15 脱水機
P1,P2,P3,P4,P5 ポンプ
M1 モーター
F1 フィルター
【要約】
【課題】大規模養豚事業者のみならず小規模養豚事業者でも利用することができ、簡易で効率的に養豚糞尿混合排水の固体成分と液体成分とを固液分離処理することができる養豚糞尿混合排水処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】同一の凝集反応槽内においてpH値7近傍のアルカリ性を示す養豚糞尿混合排水に複数の凝集剤水溶液を同時に添加して攪拌し、微小フロックを形成する第1の凝集反応と粗大フロックを形成する第2の凝集反応とを前記同一の凝集反応槽内で略同時に行わせ、前記第1の凝集反応と前記第2の凝集反応が完了することで前記養豚糞尿混合排水の固体成分と液体成分とを完全に固液分離処理して汚泥と清澄水とを生成することを特徴とする。
【選択図】
図1