特許第6242532号(P6242532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6242532新規化合物、脂肪肝の予防又は治療剤、血中コレステロール低下剤及び血中コレステロール低下用食品組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6242532
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】新規化合物、脂肪肝の予防又は治療剤、血中コレステロール低下剤及び血中コレステロール低下用食品組成物
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/24 20060101AFI20171127BHJP
   A61K 31/664 20060101ALI20171127BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20171127BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20171127BHJP
   A23J 7/00 20060101ALI20171127BHJP
   A61K 8/68 20060101ALN20171127BHJP
   C11B 1/10 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   C07F9/24 Z
   A61K31/664
   A61P3/06
   A23L33/10
   A23J7/00
   !A61K8/68
   !C11B1/10
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-136784(P2017-136784)
(22)【出願日】2017年7月13日
【審査請求日】2017年7月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504146349
【氏名又は名称】佐々木食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千々松 武司
(72)【発明者】
【氏名】望月 聡
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕史
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/119781(WO,A1)
【文献】 特開2004−256456(JP,A)
【文献】 特開2009−024050(JP,A)
【文献】 特開平07−265089(JP,A)
【文献】 特開2005−002324(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/092878(WO,A1)
【文献】 望月聡 ほか,脂質代謝を中心とした二枚貝の生理作用に関する研究,科学研究費助成事業 研究成果報告書 [オンライン],2014年 6月11日,[検索日 2017.08.15], インターネット: <URL:https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23500931/23500931seika.pdf>
【文献】 千々松武司ほか,二枚貝,特にシジミの機能性因子に関する研究,New Food Industry,2013年,vol.55 no.8,pp.23-31
【文献】 Chijimatsu, Takeshi et al.,Lipid components prepared from a freshwater Clam(Corbicula fluminea) extract ameliorate hypercholesterolaemia in rats fed high-cholesterol diet,Food Chemistry,2013年,vol.136 no.,pp.328-334
【文献】 Bjorkbom, Anders et al.,Importance of the phosphocholine linkage on sphingomyelin molecular properties and interactions with cholesterol; a study with phosphate oxygen modified sphingomyelin-analogues,Biochimica et Biophysica Acta,2008年,vol.1778 vol.6,pp.1501-1507
【文献】 Kratzer, Bernd et al.,Efficient synthesis of sphingosine-1-phosphate, ceramide-1-phosphate, lysosphingomyelin, and sphingomyelin,European Journal of Organic Chemistry,1995年,vol.1995 no.6,pp.957-963
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
A23L
A61K
A61P
C11D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式
【化1】
(式中、
(i)R1は炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示し、
2は下記式
【化2】
で表わされるいずれかの基を示すか、或いは、
(ii)R1は下記式
【化3】
で表わされるいずれかの基を示し、R2は炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示すか、或いは、
(iii)R1は下記式
【化4】
で表わされるいずれかの基を示し、R2は下記式
【化5】
で表わされるいずれかの基を示す。)
で表わされる化合物。
【請求項2】
下記式
【化6】
で表わされる、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物を含む、脂肪肝の予防又は治療剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の化合物を含む、血中コレステロール低下剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の化合物を含む、血中コレステロール低下用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、脂肪肝の予防又は治療剤、血中コレステロール低下剤及び血中コレステロール低下用食品組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シジミは古くから味噌汁や佃煮として食されてきた一般的な和食材であると同時に、「肝臓に良い」、「黄疸によい」などの理由から民間療法として利用されてきた。更に、近年の健康志向の高まりからシジミ抽出物食品が栄養補助食品、健康補助食品やサプリメントとして流通している。
【0003】
特許文献1は、シジミ抽出物を含む血中コレステロール低下剤を開示している。
【0004】
非特許文献1は、シジミ抽出物中のコレステロール低下作用を有する分画を記載し、スフィンゴ脂質を含む分画にコレステロール低下作用があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-210990号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Food Chemistry, 136 (2013) 328-334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シジミ抽出物が血中コレステロール低下作用を有することは公知であるが、シジミ抽出物中には数多くの成分が存在し、血中コレステロール低下作用を有する物質は特定されていなかった。
【0008】
本発明は、血中コレステロール低下作用を有する新規化合物、該化合物を含む脂肪肝の予防又は治療剤、血中コレステロール低下剤及び血中コレステロール低下用食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、血中コレステロール低下作用に基づいてシジミ抽出物を分画し、血中コレステロール低下作用を有する新規化合物を見出した。該化合物は、血中コレステロール低下作用及び肝臓中性脂肪の低下作用を有し、脂肪肝の予防又は治療剤として有用である。
【0010】
本発明は、以下の新規化合物、脂肪肝の予防又は治療剤、血中コレステロール低下剤及び血中コレステロール低下用食品組成物を提供するものである。
項1. 下記式
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、Rは炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。Rは炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)で表わされる化合物。
項2. 下記式
【0013】
【化2】
【0014】
で表わされる、項1に記載の化合物。
項3. 項1又は2に記載の化合物を含む、脂肪肝の予防又は治療剤。
項4. 項1又は2に記載の化合物を含む、血中コレステロール低下剤。
項5. 項1又は2に記載の化合物を含む、血中コレステロール低下用食品組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の化合物は、血液、血清、血漿中の総コレステロール、遊離コレステロール、コレステロールエステル、LDL-コレステロール、さらに肝臓中性脂肪を低下させることができる。
【0016】
本発明によれば、血中コレステロール低下作用及び肝臓中性脂肪低下作用を有する化合物が提供される。この化合物は血中コレステロール低下用食品組成物あるいは脂肪肝の予防又は治療剤として摂取することで、血中コレステロールを低下させ、脂肪肝を予防又は治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】シジミ熱水抽出エキスの分画スキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、血中コレステロール低下作用を有する以下の式(I)の化合物を提供するものである。好ましい立体配置を式(IA)に示す。
【0019】
【化3】
【0020】
(式中、Rは炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。Rは炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
炭素数1〜24のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、ヘプタデシル、ステアリル、イソステアリル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコサニル、トリコサニル、テトラコサニルなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1〜24、好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数8〜20のアルキル基が挙げられる。
【0021】
炭素数1〜24のアルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、イソオクタデセニル、ノナデセニル、イコセニル、ヘンイコセニル、ドコセニル、トリコセニル、テトラコセニルなどの直鎖又は分岐を有する炭素数2〜24、好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数8〜20のアルケニル基が挙げられる。
【0022】
好ましいRとしては、以下のものが挙げられる:
【0023】
【化4】
【0024】
好ましいRとしては、以下のものが挙げられる:
【0025】
【化5】
【0026】
本発明のさらに好ましい化合物を以下に示す。
【0027】
【化6】
【0028】
本発明の化合物が1以上の不斉炭素を有する場合、各不斉炭素の立体配置はR体、S体、R体とS体の任意の割合の混合物(ラセミ体を含む)を包含する。したがって、本発明の化合物は、各種エナンチオマー及びジアステレオマーを含む。
【0029】
本発明の化合物は、例えば以下のスキーム1〜3のようにして合成することができる。スキーム4は、原料である化合物(4)の製造法を示す。
【0030】
【化7】
【0031】
(式中、R、Rは前記に定義されるとおりである。)
化合物(1)1モルに対し、酸クロライド(2)を1モルから過剰量使用し、必要に応じて塩基の存在下に溶媒中で反応させることにより、式(I)の化合物を得ることができる。反応温度は0〜100℃程度であり、反応時間は30分から12時間程度である。塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、DBUなどが挙げられる。溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。
【0032】
【化8】
【0033】
(式中、R、Rは前記に定義されるとおりである。)
化合物(3)1モルに対し、アンモニアを1モルから過剰量使用し、必要に応じて塩基の存在下に溶媒中で反応させることにより、式(I)の化合物を得ることができる。反応温度は室温から100℃程度であり、反応時間は30分から12時間程度である。塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、アンモニア、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、DBUなどが挙げられる。溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0034】
【化9】
【0035】
(式中、R、Rは前記に定義されるとおりである。)
化合物(4)1モルに対し、アンモニアを1モルから過剰量使用し、DICのようなカルボジイミド縮合剤を等モルから過剰量使用し、溶媒中で反応させることにより、式(I)の化合物を得ることができる。反応温度は0℃から100℃程度であり、反応時間は30分から12時間程度である。溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジンなどが挙げられる。
【0036】
【化10】
【0037】
(式中、R、Rは前記に定義されるとおりである。)
化合物(5)1モルに対し、化合物(6)を1モルから過剰量使用し、塩基の存在下に溶媒中で反応させ、さらにt−BuOOHと反応させることにより、式(I)の化合物を得ることができる。反応温度は−78℃から室温程度であり、反応時間は30分から12時間程度である。塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、DBU、DIPEAなどが挙げられる。溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0038】
本発明の脂肪肝の予防又は治療剤及び血中コレステロール低下用食品組成物は、製剤の形態が好ましい。製剤としては、具体的には錠剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル)、丸剤、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、顆粒剤、散剤、液剤、ドリンク剤、懸濁剤、乳濁剤などが挙げられる。
【0039】
本発明の脂肪肝の予防又は治療剤及びコレステロール低下用食品組成物は、本発明の化合物とともに製剤用の担体を含むことができる。このような担体としては、固形製剤の場合、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤などが挙げられ、液状製剤の場合、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤などが挙げられる。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、安定化剤等の製剤添加物を用いることもできる。カプセル剤の担体としては、ハードカプセルの場合には、カプセル皮膜としてゼラチンを挙げることができ、ソフトカプセルの場合には、カプセル用皮膜として、ゼラチン、多価アルコール(グリセリン、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等)等を挙げることができる。ソフトカプセルはさらに水を含んでいてもよい。賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、無水ケイ酸等が挙げられる。
【0040】
結合剤としては、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、α-デンプン液、ゼラチン液、D-マンニトール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0041】
崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。
【0042】
滑沢剤としては、精製タルク、ステアリン酸塩ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0043】
着色剤としては、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。
【0044】
矯味・矯臭剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0045】
緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0046】
安定剤としては、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0047】
本発明の食品組成物は、サプリメントの形態であってもよい。
【0048】
本発明において、食品としては、グミ、飲料、ドリンクゼリー、キャンデー、クッキー、ビスケットなどが挙げられる。
【0049】
本発明の化合物は、健常な成人1日当たり5ng〜1mg程度、好ましくは20ng〜0.5mg程度、より好ましくは100ng〜0.1mg程度摂取されることが望ましい。
【実施例】
【0050】
以下に参考例、実施例及び試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0051】
実施例1
特許文献1の実施例1の記載に従い2.5kgのシジミエキス粉末を得た。得られたシジミエキス粉末2.5kgを、図1のプロトコールに従い分画した。
【0052】
得られた分画のうち、フラクション1-2-7において、以下の構造式の化合物を単離した。
【0053】
【化11】
【0054】
上記化合物のマススペクトルの物性値を以下に示す。
C36H73N2O5P
Exact Mass: 644.5
Mol. Wt.: 644.9
(+)HR-FABMS C36H74N2O5P [M+H]+ 645.5339 Δ+0.4mmu
C36H73N2O5PNa [M+Na]+ 667.5165 Δ+1.1mmu
【0055】
上記化合物を含むフラクション1-2-7及びコントロールについて、非特許文献1の記載に従い、高コレステロール食を与えたラットについて、血清総コレステロールを測定した。コントロールはコレステロール0.5%、コール酸ナトリウム0.25%を含む高コレステロール食を自由摂食させたラットである。フラクション1-2-7は同様の高コレステロール食に0.23%添加した試験食を自由摂食させたラットである。結果を表1に示す。血清総コレステロール、LDL-コレステロール、遊離コレステロール、コレステロールエステル及び肝臓中性脂肪の測定は、常法に従い行った。
【0056】
【表1】
【0057】
本発明の化合物が、強力な血中コレステロール低下作用及び肝臓中性脂肪の低下作用を有することが明らかになった。
【要約】
【課題】血中コレステロール及び肝臓中性脂肪を低下させる新規化合物を提供する。
【解決手段】下記式
【化1】
(式中、Rは炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。Rは炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)で表わされる化合物。
【選択図】なし
図1