特許第6242565号(P6242565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6242565電気透析法における廃棄物の流れからベタインを回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242565
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】電気透析法における廃棄物の流れからベタインを回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 227/40 20060101AFI20171127BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20171127BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 229/12 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 229/22 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C07C227/40
   B01D61/00
   B01D61/44 500
   B01D61/58
   B01D71/02
   B01D71/06
   C02F1/44 F
   C07C229/12
   C07C229/22
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-548598(P2011-548598)
(86)(22)【出願日】2010年2月3日
(65)【公表番号】特表2012-516862(P2012-516862A)
(43)【公表日】2012年7月26日
(86)【国際出願番号】EP2010000655
(87)【国際公開番号】WO2010089095
(87)【国際公開日】20100812
【審査請求日】2013年1月28日
【審判番号】不服2015-20736(P2015-20736/J1)
【審判請求日】2015年11月20日
(31)【優先権主張番号】09001502.5
(32)【優先日】2009年2月4日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/149,893
(32)【優先日】2009年2月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391003864
【氏名又は名称】ロンザ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LONZA LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】ビッカー、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】カラウカン、ミゲル
【合議体】
【審判長】 守安 智
【審判官】 齊藤 真由美
【審判官】 加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−199793(JP,A)
【文献】 特開2000−204067(JP,A)
【文献】 特表2005−530850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C227/40, C07C229/22,C07C229/12, B01D61/00-61/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベタイン製造方法における電気透析法(ED)の廃棄物の流れからベタインを回収するための方法であって、前記廃棄物の流れを、ナノ濾過膜であるKochmembranes Type TFC-SR-3, 膜面積7.9m2またはNittoDenkoのフラットシート膜タイプNTR-729HG S4F膜面積0.02m2を使用して、ナノ濾過で処理する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ベタインは、4−ブチロベタインおよびL−カルニチンからなる群より選択される方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記廃棄物の流れは塩を含む方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、前記回収されたベタインは、EDユニットに戻される方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法であって、回収ユニットにおいて適用される膜は、所望のベタインを保持し、塩の保持を最小化する方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、回収されたベタインは、第2のEDユニットに向けられる方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、圧駆動式の膜プロセスによるベタイン製造方法において、電気透析法における廃棄物の流れからベタインを回収する方法を開示する。
【0002】
ベタインの合成は、非常に頻繁に、反応混合物中に理論量の有機または無機塩の産生を伴う。通常、生成物は、蒸留、抽出、結晶化、電気透析または他の単位操作のような種々の生成方法により、塩からさらに分離される。各精製/分離方法は、必ず生成物のロス(損失)に悩まされる。
【0003】
電気透析(ED)は、液体混合物中の有機物を精製するために使用される膜テクノロジーである。EDは、混合物中の塩濃度を任意の方法で低減するために使用され、さらに、液体中に含まれる有機化合物を選択的に除去することができる。拡散現象および/または浸透圧により、廃棄物の流れに入ることによる生成物のロスは回避できない(EP 0163222 B2, 例えば1c, 82%の収率を開示している)。
【0004】
逆浸透法、ナノろ過、限外ろ過または精密ろ過のような圧駆動式の膜プロセスは、有機化合物を濃縮/保持するために使用され得る。塩は、使用される膜のタイプに依存して、部分的にのみ濃縮/保持され得る。
【0005】
当該分野の現在の状況は、いくつかの主要な不利益を被っている。例えば拡散および/または浸透圧による廃棄物の流れにおける生成物のロスは、EDプロセスの収率を低下させ、廃棄物の流れにおける有機物の輸送(全有機炭素、TOC)に貢献する。結果として、生成物が生分解性に乏しい場合、廃棄物の流れは、生物学的な廃棄物の流れの処理プラントにおいて往々にして適切に処理されず、産業的な製造のための莫大な費用を伴うさらなる焼却工程を必要とする。
【0006】
上記に概略を示した当該分野の状況の欠点は、本発明の方法により克服することができ、EDにおける廃棄物の流れは圧駆動式の膜プロセスにより処理され、回収されたベタインはEDユニットに戻されることにより、収率を改善することができる。
【0007】
本発明による4−ブチロベタインおよびL−カルニチンのようなベタインの製造は、EDを用いたそれらの精製を含む。EDの操作パラメータは、この精製工程の間に2つの目標を同時に達成するように制御される。1つ目は、ベタインの液体中に存在する塩化ナトリウム(NaCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)、テトラメチルアンモニウム等のような無機塩の低減である。2つ目の目標は、4−ヒドロキシ酪酸、(E)−4−ヒドロキシクロトン酸、トリメチルアミン等のような有機化合物の選択的な除去である。これらの目標を達成するために各EDの流れ(供給、希釈、濃縮および電解質)において調節されるべきEDパラメータは、pH、塩および有機化合物の濃度、導電性、温度等である。前記調節は、当業者の通常の能力の範囲内で行うことができる。EDに適用される膜は、高い程度の脱塩および4−ヒドロキシ酪酸または(E)−4−ヒドロキシクロトン酸のような望ましくない有機化合物の除去を可能にするべきであり、同時に、EDの濃縮物の流れへのベタイン化合物のロスを最小化すべきである。
【0008】
逆浸透法、ナノろ過、限外ろ過または精密ろ過のような圧駆動式のプロセスに適用される膜は、望ましいベタインを可能な限り高い程度で保持すべきであり、一方、塩および4−ヒドロキシ酪酸または(E)−4−ヒドロキシクロトン酸のような望ましくない有機化合物の塩の保持は、最小限にされるべきである。ベタイン化合物(例えば、4−ブチロベタインおよびL−カルニチン)と各有機化合物(例えば、4−ヒドロキシ酪酸または(E)−4−ヒドロキシクロトン酸)の構造の類似性により、驚くべきことに、ベタイン化合物に対する良好な保持の程度および有機化合物に対する実質的に低下した保持の程度が、それぞれ本発明の方法により達成され得る。混合物中の化合物の保持の程度におけるこのような相違は、それらの分離を可能にする。
【0009】
4−ブチロベタインおよびL−カルニチンのようなベタインおよび4−ヒドロキシ酪酸または(E)−4−ヒドロキシクロトン酸のような不純物の保持の程度は、それぞれ、操作パラメータ(温度、圧力、流れ、ろ過サイクルおよびろ過プロセスの間の濃縮因子)を調節して制御することができる。繰り返すが、前記調節は、当業者の通常の能力の範囲内で行うことができる。
【0010】
それ故、ベタインについて達成される保持の程度は、好ましくは1〜100%、より好ましくは50〜100%、さらにより好ましくは80〜100%、最も好ましくは100%である。一方、有機不純物について達成される保持の程度は、好ましくは30〜95%である。本発明の方法は、ベタインの混合物中に存在する不純物を分離することに関して、優れた程度の柔軟性を可能にする。上述したろ過パラメータの調節は、高い程度の分離が達成されるかどうかを決定する。これは、EDの廃棄物の流れにおける有機物の輸送(全有機炭素、TOC)の有意な減少を達成し、精製プロセス内のいくらかのEDの流れのリサイクルにより4−ヒドロキシ酪酸または(E)−4−ヒドロキシクロトン酸のような不純物が集積することを避けるために、鍵となる利点になり得る。
【0011】
本発明によると、塩の保持の程度は、好ましくは100%より低く、より好ましくは0〜50%の範囲であり、最も好ましくは0〜10%の範囲である。
【0012】
本発明による膜は、当該分野で通常使用されているものである。特に、高分子膜、セラミック膜および特別な有機溶媒を固定する高分子膜(special organic solvent stable polymer)(この場合、EDの廃棄物の流れには、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、芳香族または塩化物溶媒のような有機溶媒が含まれる)が含まれる。好ましくは、圧駆動式の膜プロセスは、逆浸透法、ナノろ過、限外ろ過または精密ろ過である。
【0013】
本発明による望ましい生成物は、ベタインである。
好ましくは、前記ベタインは、4−ブチロベタインおよびL−カルニチンからなる群より選択される。
本発明による生成物は、好ましくは、水によく溶ける。
【0014】
本発明は、図2に示すようにプロセスについても考慮しており、EDの廃棄物の流れを圧駆動式の膜プロセスで処理し、続いて第2のEDユニットに流すことにより、ベタインの収率を改善する。
【0015】
本発明は、EDを使用して、4−ブチロベタインおよびL−カルニチンのようなベタイン生成物の精製における収率を著しく増大させ、同時に、EDの廃棄物の流れにおける有機物の輸送(全有機炭素、TOC)を実質的に減少させることを達成する。この両方の側面は、4−ブチロベタインおよびL−カルニチンのようなベタインの生成の競合性に対して経済的に有意である。
【0016】
以下の実施例により、本発明をより詳細に説明する。
【0017】
比較例:小規模設備におけるED実験の装置および説明
ED処理を実施するために使用される装置は、10組の64cmのPES膜を有するスタックを備えたED小設備(ミニプラント)からなる。実験はバッチモード(batch-mode)で行ったが、連続操作モード(continuous operation mode)でも実施可能である。3つのポンプにより、濃縮液(廃水の流れ)、希釈液(生成物の流れ)および電解液(補助的な(service)流れ)を膜スタックに循環させる。これら3つの流れは、3つのロタメーターにより調節され、測定される。
【0018】
ED処理による副産物の選択的な除去およびプロセス収率の最大化を保証するため、濃縮液の流れおよび希釈液の流れにおいて、pHおよび温度が制御される。ED処理の間のpH、導電性、温度および上記3つの流れは、制御され、記録される。
【0019】
上述した装置は、液体反応混合物から脱塩し、4−ブチロベタインを精製するために使用した。最適化された条件下で得られた4−ブチロベタインの収率は、88%であった。
【0020】
上述した装置は、液体反応混合物から脱塩し、L−カルニチンを精製するためにも使用した。最適化された条件下で得られたL−カルニチンの収率は、88〜94%であった。
【0021】
実施例1:EDの廃棄物の流れからの4−ブチロベタイン(CAS-Nr. 407-64-7)の回収
商業的規模のED設備の廃棄物の流れを、ナノろ過パイロットプラントで処理した。商業的な4インチの渦巻き型膜モジュール(Kochmembranes Type TFC-SR-3, 膜面積7.9m2)を使用し、500kgの廃棄物の流れを126kgに濃縮した。初期の温度は23℃であり、実験の間は44℃に調節した。初期の圧力は14barであり、実験の間は30bar以下に調節した。サンプルを、保持液(濃縮物)および浸透液(廃水)から取り出した。ブチロベタインの濃度は、初期の2.6重量%から8.4重量%に上昇した。保持は、濃縮段階の過程の間に80〜100%であることが計算された。4−ヒドロキシ酪酸の保持は、濃縮段階の過程の間に30〜95%であることが計算された。塩化ナトリウムは、実験過程の間に膜に保持されなかった。
【0022】
ナノろ過実験の結果およびED設備のデータに基づいて、全マスバランスを計算した。ナノろ過プロセスをEDの廃棄物の流れの後処理として使用し、保持された生成物をEDにリサイクルした場合、4−ブチロベタインの全収率は、比較例に示した88%から98%に著しく上昇した。
【0023】
実施例2:EDの廃棄物の流れからのL−カルニチン(CAS-Nr. 541-15-1)の回収
実験室規模の上述したED設備の廃棄物の流れを、実験室規模のナノろ過パイロットプラントで処理した。0.02m2の膜面積を有するNittoDenkoのフラットシート膜タイプNTR-729HG S4Fを使用して、2.648 kgの廃棄物の流れを0.835 kgに濃縮した。実験の間、温度を23℃とした。圧力は32barとした。サンプルを、保持液(濃縮物)および浸透液(廃水)から取り出した。浸透液におけるL−カルニチンの濃度は、初期の1.3重量%から3.3重量%に上昇した。保持は、濃縮段階の過程の間に80〜100%であることが計算された。(E)−4−ヒドロキシクロトン酸の保持は、濃縮段階の過程の間に30〜95%であることが計算された。塩化ナトリウムは、実験過程の間に膜に保持されなかった。
【0024】
ナノろ過実験の結果およびED設備のデータに基づいて、全マスバランスを計算した。
ナノろ過プロセスをEDの廃棄物の流れの後処理として使用し、保持された生成物をED
にリサイクルした場合、L−カルニチンの全収率は、比較例に示した88%から98%に
著しく上昇した。
以下に、本願発明に実施態様を付記する。
1. ベタイン製造方法における電気透析法(ED)の廃棄物の流れからベタインを回収するための方法であって、前記廃棄物の流れを圧駆動式の膜プロセスで処理する方法。
2. 1に記載の方法であって、前記ベタインは、4−ブチロベタインおよびL−カルニチンからなる群より選択される方法。
3. 1または2に記載の方法であって、前記廃棄物の流れは塩を含む方法。
4. 1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、前記回収されたベタインは、EDユニットに戻される方法。
5. 1〜4のいずれか1項に記載の方法であって、回収ユニットにおいて適用される膜は、所望のベタインを可能な限り高い程度で保持し、塩の保持を最小化する方法。
6. 5に記載の方法であって、前記ベタインの保持は、1〜100%の範囲であり、より好ましくは50〜100%の範囲であり、さらにより好ましくは80〜100%の範囲であり、最も好ましくは100%である方法。
7. 5に記載の方法であって、前記塩の保持は、好ましくは100%未満、より好ましくは0〜50%の範囲、最も好ましくは0〜10%の範囲である方法。
8. 1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、前記膜は、高分子膜、セラミック膜、または特別な有機溶媒を固定する高分子膜である方法。
9. 1〜8のいずれか1項に記載の方法であって、回収されたベタインは、第2のEDユニットに向けられる方法。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、1つのEDおよび1つの回収ユニットを備えた本発明による方法を示す。
図2図2は、2つのEDおよび1つの回収ユニットを備えた本発明による方法を示す。
図1
図2