(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242566
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】電食防止装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/52 20060101AFI20171127BHJP
F16C 17/24 20060101ALI20171127BHJP
F16C 19/02 20060101ALI20171127BHJP
F16C 19/22 20060101ALI20171127BHJP
H02K 5/16 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
F16C19/52
F16C17/24
F16C19/02
F16C19/22
H02K5/16 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-39871(P2012-39871)
(22)【出願日】2012年2月27日
(65)【公開番号】特開2013-174326(P2013-174326A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年10月10日
【審判番号】不服2017-1761(P2017-1761/J1)
【審判請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】林 慎之
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼田 真孝
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泰士
【合議体】
【審判長】
中村 達之
【審判官】
滝谷 亮一
【審判官】
内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−54285(JP,U)
【文献】
特開2002−34205(JP,A)
【文献】
実開平1−127364(JP,U)
【文献】
特開2004−84730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C19/00-19/56
F16C33/30-33/66
F16C17/00-17/26
F16C33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによって回転する、水平方向に沿って配置された回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する軸受と、
前記回転軸の先端面に接合された、前記回転軸とは別体に構成された導電体と、
前記回転軸と前記導電体を介して電気的に接続された除電部材と、
前記除電部材を接地するアース線と、
前記除電部材を前記導電体の側に向かって付勢する付勢バネと、を備え、
前記導電体は球体状をなし、前記回転軸の先端面に形成されている円錐状の凹部に、溶接、ロウ付け、または接着され、
前記除電部材は円柱状をなし、一端面が前記導電体と接触し、他端面が前記付勢バネと接触し、周面が前記アース線と接触しており、
前記除電部材は、前記回転軸の前記先端面よりも、前記回転軸の軸方向において前記回転軸から遠ざかる側に位置する
ことを特徴とする電食防止装置。
【請求項2】
前記導電体は、前記回転軸とともに回転する該導電体の回転中心位置において、前記除電部材と点接触するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電食防止装置。
【請求項3】
前記回転軸の先端面と、該先端面と隣接する軸受との間には、回転軸の外周面から凸設する油切り手段が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電食防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによって回転する回転軸と、該回転軸を回転可能に支持する軸受と、該回転軸と電気的に接続された除電部材と、該除電部材を接地するアース線とを備え、回転軸に帯電した電荷を除去することで軸受が電食するのを防止する電食防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばターボ冷凍機などの電動モータによって回転する回転軸を備える回転機械では、まれにその回転軸が帯電し、その帯電した電荷が回転軸を支持する軸受に電流となって流れることで、軸受に電食が発生する場合があった。かかる軸受の電食を防止する技術として、特許文献1には、例えば転がり軸受を構成する転動体をセラミックスで構成するなどして回転軸と軸受とを絶縁し、軸受の電食を防止する技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、上述した特許文献1の転がり軸受は、転動体がセラミックス製であり、価格が高価であるとの問題がある。通常の鋼製の転動体からなる転がり軸受など、導電性材料によって形成される軸受の電食を防止する構成として、例えば
図6に示すような電食防止装置が考えられる。
【0004】
この
図6に示す電食防止装置100は、電動モータ102の回転軸103と、該回転軸103を回転可能に支持する軸受106a、106bとを備えるとともに、該モータ回転軸103の外周面103aと当接する除電部材112と、該除電部材112を接地するアース線114を備えている。そして、回転軸103が除電部材112を介してアース線114によってアースされることで、回転軸103に帯電した電荷を除去し、軸受106a、106bが電食するのを防止する。なお、図中の符号108は例えば羽根などの被回転体、符号104は被回転体8の軸110と電動モータ102の回転軸103とを連結する軸カップリング、符号116は除電部材112を付勢して回転軸103の外周面103aと当接させる付勢バネなどの付勢機構である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−16846号公報
【特許文献2】特許第4562271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した電食防止装置100にあっては、潤滑油が回転軸103を伝って除電部材112まで到達し、回転軸103と除電部材112との接触部が流体潤滑状態となる可能性がある。このように、回転軸103と除電部材112との接触部が流体潤滑状態となると、両者間に電流が流れなくなり、回転軸103に帯電した電荷をアース線114によって除去することができなくなってしまう。
【0007】
回転軸103と除電部材112との接触部が流体潤滑状態となるのを防止するためには、回転軸103の先端面103bに除電部材112を接触させることが有効と考えられる。接触部への油の浸入は、回転軸103と除電部材112とのすべり速度が速くなるほど発生し易くなるため、回転軸103の外周103aではなく、その先端面103bに除電部材112を接触させることで、回転軸103と除電部材112とのすべり速度を遅くすることができるからである。
【0008】
特許文献2には、回転軸の先端面に除電部材を接触させ、回転軸に帯電した電荷を該除電部材から除去する電食防止装置が開示されている。しかしながら、この特許文献2の電食防止装置では、除電部材と回転軸の先端面とが直に線接触しており、回転軸の先端面が摩耗してしまうため、定期的に回転軸を交換する必要があるとの問題がある。
【0009】
本発明は上述したような従来技術の課題に鑑みなされた発明であって、除電部材による回転軸の摩耗を防止でき、回転軸を交換する必要がない電食防止装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上述したような目的を達成するためになされた発明であって、
本発明の電食防止装置は、
電動モータによって回転する回転軸と、該回転軸を回転可能に支持する軸受と、該回転軸と電気的に接続された除電部材と、該除電部材を接地するアース線と、を備えた電食防止装置において、
前記除電部材は、前記回転軸の先端面に結合された導電体を介して、前記回転軸と電気的に接続されることを特徴とする。
【0011】
このように本発明の電食防止装置は、回転軸の先端面に結合された導電体を介して、除電部材と回転軸とを電気的に接続する構成であり、回転軸と除電部材とが直に接触しないため、回転軸の先端面が摩耗しない。また、仮に導電体が摩耗した場合であっても、導電体だけを交換すればよいため、回転軸を交換する必要はない。
【0012】
また、導電体を介して除電部材と回転軸とを電気的に接続する構成としたことで、導電体の材質を回転軸の材質と異ならせることができる。例えば、導電体に摩耗し難い高硬度の材質のものを採用することで、導電体自身の摩耗を抑制することもできる。
【0013】
また、長尺の棒状部材である回転軸の先端面に対して表面仕上げを行うのに比べ、導電体に対する方が表面仕上げを行い易い。よって、表面粗さの小さい導電体を用いることで、相手側である除電部材の摩耗を抑制することもできる。
【0014】
また上記発明において、
前記導電体は、前記回転軸とともに回転する該導電体の回転中心位置において、前記除電部材と点接触するように構成されていることが望ましい。
【0015】
このように、除電部材が導電体の回転中心位置と点接触するように構成されていれば、回転中心位置におけるすべり速度は0であるため、除電部材と導電体との接触部において殆ど摩耗が発生しない。
【0016】
この際、前記導電体が球体状をなし、前記回転軸の先端面と溶接、ロウ付け、または接着の何れかの方法によって接合することで、導電体がその回転中心位置において除電部材と点接触する上記発明を簡単に構成することができる。このような球体状の導電体としては、高硬度で寸法精度が高く、かつ表面粗さも小さい、転がり軸受用の転動球を好適に用いることができる。
【0017】
また上記発明において、
前記導電体は、前記回転軸の先端面の中心部に形成されているネジ穴に螺合されることで前記回転軸に連結されるボルト部材とすることができる。
【0018】
このように、導電体をボルト部材とし、該導電体と回転軸の先端面とを螺合により連結することで、導電体が摩耗した場合にその交換を容易に行うことができる。またこの際、除電部材と接触するボルト部材の頭部を球面状に加工することで、導電体がその回転中心位置において除電部材と点接触するように構成することも可能である。
【0019】
また上記発明において、
前記回転軸の先端面と、該先端面と隣接する軸受との間には、回転軸の外周面から凸設する油切り手段が形成されていることが望ましい。
【0020】
このような油切り手段が形成されていれば、潤滑油が回転軸を伝って除電部材に到達するのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回転軸の先端面に結合された導電体を介して、除電部材と回転軸とが電気的に接続するように構成されるため、除電部材による回転軸の摩耗を防止でき、回転軸を交換する必要がない電食防止装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の電食防止装置の全体構成を示した全体図である。
【
図3】本発明の別の実施形態の導電体を示した概略側面図である。
【
図4】本発明の油切り手段を示した概略側面図である。
【
図5】本発明の油切手段の別の実施形態を示した概略側面図である。
【
図6】従来の電食防止装置の全体構成を示した全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限り、本発明の範囲をそれにのみ限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0024】
図1は、本発明の電食防止装置の全体構成を示した全体図である。本発明の電食防止装置は、例えばターボ冷凍機などの電動モータによって回転する回転軸を備える回転機械に備えられる装置である。本発明の電食防止装置は、
図1に示したように、回転軸3、軸受6a,6b、除電部材12、アース線14、および導電体20などから構成されている。
【0025】
回転軸3は、金属などの導電性材料により形成された長尺の棒状部材である。回転軸3は、その基端が軸カップリング4を介して軸10と連結されており、電動モータ2によって回転するように構成されている。また、軸10には、例えば羽根などの被回転体8がその外周面10aに固定されている。
【0026】
軸受6a,6bは、例えば軸と軌道輪との間に玉やコロなどの転動体が配設された転がり軸受であり、上述した回転軸3を回転可能に支持している。軸受6a,6bは、金属などの導電性材料により形成され、その内部には潤滑性を高めるための潤滑油が封入されている。なお、本発明の軸受としては、すべり軸受や流体軸受なども採用可能であり、転がり軸受には限定されない。
【0027】
除電部材12は、例えばカーボンや銅などの導電性材料からなる円柱状の部材であって、後述する導電体20を介して、上述した回転軸3の先端面3bと電気的に接続されている。また、この除電部材12にはアース線14が接続されており、このアース線14によって除電部材12が接地されている。また、この除電部材12は、例えば付勢バネ16などからなる付勢機構によって、後述する導電体20の側に向かって付勢されている。
【0028】
また、回転軸3の先端面3bと軸受6bとの間には、後述する油切り手段30がその外周面3aから凸設している。なお、この油切り手段30は、軸受が複数ある場合には、最も先端面3bに近い位置にある(先端面3bに隣接する)軸受6bと先端面3bとの間に形成される。
【0029】
導電体20は、例えば金属などの導電性材料から形成された、回転軸3および除電部材12とは別体に構成された部材であり、回転軸3の先端面3bの中心部に結合される。この導電体20は、例えば
図2に示したような金属製の球体20aであり、回転軸3の先端面3bの中心部に形成されている接合用凹部3cに、例えば溶接、ロウ付け、または接着などの方法によって接合される。なお、接合用凹部10cが形成されていない先端面3bに球体20aを接合することも可能であるが、一般に回転軸3の先端面3bの中心部には、回転軸3の搬送および位置決め用としての凹部が形成されており、この凹部を接合用凹部3cとして用いるとよい。
【0030】
このように構成される本発明の電食防止装置1は、回転軸3の先端面3bに結合された導電体20を介して、除電部材12と回転軸3とを電気的に接続する構成であり、回転軸3と除電部材12とが直に接触していない。このため、回転軸10が回転しても、回転軸3の先端面3bが摩耗しないようになっている。また、仮に導電体20が摩耗した場合であっても、導電体20だけを交換すればよく、回転軸3を交換する必要はない。
【0031】
また、導電体20を介して除電部材12と回転軸3とを電気的に接続する構成としたことで、導電体20の材質を回転軸3の材質と異ならせることができる。例えば、導電体20に炭素鋼などの摩耗し難い高硬度の材質のものを採用することで、導電体自身の摩耗を抑制することもできる。
【0032】
また、長尺の棒状部材である回転軸3の先端面3bに対して表面仕上げを行うのに比べ、導電体20に対する方が表面仕上げを行い易い。よって、表面粗さの小さい導電体20を用いることで、相手側である除電部材12の摩耗を抑制することもできる。
【0033】
また、導電体20として
図2に示したような球体20aを用いることで、回転軸3とともに回転する導電体20(球体20a)の回転中心位置aにおいて、除電部材12と導電体20(球体20a)とが点接触するように構成される。このように、導電体20が、その回転中心位置aにおいて除電部材12と点接触するように構成されていれば、回転中心位置aにおけるすべり速度は0であるため、除電部材12と導電体20との接触部において殆ど摩耗が発生しないようにすることができる。また、このような球体状の導電体20としては、高硬度で寸法精度が高く、かつ表面粗さも小さい、転がり軸受用の転動球を好適に用いることができる。
【0034】
また、導電体20としては、
図3に示したような金属製のボルト部材20bを採用することもできる。このボルト部材20bは、回転軸10の先端面3bの中心部に形成されているネジ穴10dにその軸部22bが螺合されることで、先端面3bに連結されている。また、ボルト部材20bと先端面10bとが連結した状態において、先端面3bから突出するボルト部材20bの頭部24bと除電部材12とが接触することで、回転軸3と除電部材12とが電気的に接続される。
【0035】
このように、導電体20をボルト部材20bとし、このボルト部材20bと回転軸3の先端面3bとを螺合により連結する構成とすることで、導電体20(ボルト部材20b)が摩耗した場合にその交換を容易に行うことが可能となる。またこの際、除電部材12と接触するボルト部材20bの頭部24bを球面状に加工することで、除電部材12がボルト部材20bの回転中心位置aと点接触するように構成することもできる。
【0036】
また、
図1に示したように、本発明の電食防止装置1には、先端面3bと軸受6bとの間に、回転軸3の外周面3aから凸設した油切り手段30が形成されている。この油切り手段30としては、例えば
図4に示したような、回転軸3の外周面3aに嵌挿されて固定された環状の板状部材30aが挙げられる。また例えば、
図5に示したような、回転軸3の外周面3aに一体的に形成された段部30bも含まれる。
【0037】
このような油切り手段30が形成されていれば、軸受6bから漏れ出して回転軸3を伝って板状部材30aや段部30bに到達した潤滑油は、図中の矢印fに示したように、外周方向に流れた後に遠心力によって飛散する。すなわち、このような油切り手段30が形成されていれば、潤滑油が回転軸3を伝って除電部材12に到達するのを防ぐことができ、回転軸3と除電部材12との接触部が流体潤滑状態となって両者間に電流が流れなくなることを確実に防止できる。
【0038】
以上、本発明の好ましい形態について説明したが、本発明は上記の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えばターボ冷凍機などの電動モータによって回転する回転軸を備える回転機械において、その軸受の電食を防止することができる電食防止装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 電食防止装置
2 電動モータ
3 回転軸
3a 外周面
3b 先端面
3c 接合用凹部
3d ネジ穴
4 軸カップリング
6a,6b 軸受
8 被回転体
10 軸
12 除電部材
14 リード線
16 付勢バネ(付勢機構)
20 導電体
20a 球体
20b ボルト部材
30 油切り手段
30a 板状部材
30b 段部