特許第6242602号(P6242602)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6242602スチレン系樹脂組成物、スチレン系樹脂フィルム、スチレン系積層シート及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242602
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物、スチレン系樹脂フィルム、スチレン系積層シート及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/04 20060101AFI20171127BHJP
   C08L 25/10 20060101ALI20171127BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20171127BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20171127BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C08L25/04
   C08L25/10
   C08L53/02
   B32B5/18
   B32B27/30 B
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-131041(P2013-131041)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-4015(P2015-4015A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】林 英樹
(72)【発明者】
【氏名】奥田 暢
(72)【発明者】
【氏名】松木 豊
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−202064(JP,A)
【文献】 特開2005−179389(JP,A)
【文献】 特開2003−292707(JP,A)
【文献】 特開2007−291264(JP,A)
【文献】 特開2008−248156(JP,A)
【文献】 特開2013−100431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状ポリスチレン及び多分岐状ポリスチレンを含有するスチレン系樹脂と、ハイインパクトポリスチレン及びスチレン−ブタジエン−スチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含むスチレン系樹脂組成物であって、
前記線状ポリスチレンと、前記多分岐状ポリスチレンとの質量比が99.5:0.5〜7129の範囲であり、
前記スチレン系樹脂中の脂肪族不飽和カルボン酸エステル単量体に基づく単量体単位の含有量が、0.5〜3.5質量%である、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪族不飽和カルボン酸エステルが、(メタ)アクリル酸ブチル及び/又は(メタ)アクリル酸エチルである、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物を少なくとも1方向に延伸して得られる、スチレン系樹脂フィルム。
【請求項4】
発泡ポリスチレンシートと、
該発泡ポリスチレンシートの少なくとも一方の面に積層された請求項3に記載のスチレン系樹脂フィルムと、
を備える、スチレン系積層シート。
【請求項5】
請求項4に記載のスチレン系積層シートから形成された、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物、スチレン系樹脂フィルム、スチレン系積層シート及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系の成形用積層シートとして、ポリスチレンフィルムと発泡ポリスチレン(以下、「PSP」と表記する)シートとの積層シートや、PSPシートとポリスチレンフィルムの中間層にハイインパクトポリスチレン(以下、「HIPS」と表記する)の接着樹脂層を配した積層シートなどが知られている。
【0003】
ポリスチレンフィルムは、一般的に脆い性質があるので、脆さをカバーするために、通常延伸して配向させた延伸フィルムとして用いられる。延伸フィルムは、高度に配向するほど、透明性、光沢、強度及び印刷性に優れる。一方、延伸フィルムは、成形時の温度におけるフィルムの伸びが小さくなり易く、積層シートにした場合に、簡単な浅絞り成形品はできても、深絞り成形品では成形時にフィルム切れが発生することがあり、四角型の比較的Rの小さいコーナーを有する成形品においては、金型通りにコーナーが出難い(型決まり性が悪い)ことがある。
【0004】
成形時のフィルム伸びを改良するために、ポリスチレンに多量のゴム成分(HIPS、スチレン−ブタジエンブロック共重合体等)を配合したフィルムは、タフネスもあり成形時の温度での伸びが大きいので成形性が良好で特に深絞りができることが知られている。しかし、多量のゴム成分の配合が光学特性を損なうので、該フィルムを積層して成形した容器は、透明性及び光沢性が不十分で美しい印刷容器に仕上げるのは難しい傾向がある。また、ゴム成分は熱酸化劣化しやすい性質から、分解してゲルなどを発生させるので、フィルムの品質や外観を悪化したり、印刷性を低下したり、製造設備を汚したりすることがある。
【0005】
これに対し、特許文献1及び2には、成形時のフィルム伸びを改良する方法として、ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルとの共重合体を特定の比率で混合した樹脂組成物を用いたポリスチレン系フィルムが開示されている。また、成形時のフィルム伸びを改良する方法として、特許文献3〜5には、多分岐状ポリスチレンを用いたスチレン系フィルムや、アクリル酸エステル単位を4質量%以上有する多分岐状ポリスチレンを用いたスチレン系フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−16690号公報
【特許文献2】特開平9−123322号公報
【特許文献3】特開2009−29949号公報
【特許文献4】特開2011−202064号公報
【特許文献5】特許第4423386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年主流となっている深絞り比の大きい容器では、成形時のフィルム伸びがまだ不十分なレベルである。また、フィルム伸びが改善できても、フィルムの厚み斑が大きくなったり、型決まり性が悪くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、成形適正範囲が広く、型決まり性に優れた成形品を作製できるスチレン系樹脂組成物、並びに、該スチレン系樹脂組成物を用いて形成されるスチレン系樹脂フィルム、スチレン系積層シート及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に関する。
[1] 線状ポリスチレン及び多分岐状ポリスチレンを含有するスチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂組成物であって、線状ポリスチレンと、多分岐状ポリスチレンとの質量比が99.5:0.5〜70:30の範囲であり、スチレン系樹脂中の脂肪族不飽和カルボン酸エステル単量体に基づく単量体単位の含有量が、0.5〜3.5質量%であるスチレン系樹脂組成物。
[2] 脂肪族不飽和カルボン酸エステルが、アクリル酸ブチル及び/又はアクリル酸エチルを含む[1]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[3] ハイインパクトポリスチレン及びスチレン−ブタジエン−スチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含有する、[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を少なくとも1方向に延伸して得られる、スチレン系樹脂フィルム。
[5] 厚みが0.3〜5.0mmである発泡ポリスチレンシートと、該発泡ポリスチレンシートの少なくとも一方の面に積層された[4]に記載のスチレン系樹脂フィルムと、を備える、スチレン系積層シート。
[6] [5]に記載のスチレン系積層シートから形成された成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形適正範囲が広く、型決まり性に優れた成形品を作製できるスチレン系樹脂組成物、並びに、該スチレン系樹脂組成物を用いて形成されるスチレン系樹脂フィルム、スチレン系積層シート及び成形体を提供することができる。また、スチレン系フィルムとして、特定の割合の分岐比率(線状ポリスチレンと多分岐状ポリスチレンの比率)を有し、且つ、脂肪族不飽和カルボン酸エステル単位を特定の比率で含有した樹脂組成物を用いることにより、ゲルなどによる品質悪化がなく、透明性、光沢、剛性に優れ、厚み斑の少ない、印刷用フィルムが得られ、PSPとの積層成形時に、深絞り成形品においても熱成形時にフィルム切れの発生がなく、しかも型決まり性に優れた成形体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】GPC−MALS法で測定された実施例1で用いたスチレン系樹脂のクロマトグラフである。
図2】GPC−MALS法で測定された比較例1で用いたスチレン系樹脂のクロマトグラフである。
図3】GPC−MALS法で測定されたスチレン系樹脂の絶対分子量に対する回転半径をプロットしたグラフである。
図4】成形性評価用金型の平面図である。
図5】成形性評価用金型の断面図である。
図6】成形性評価用金型の断面図である。
図7】成形適性範囲を示す升目区画図である。
図8】成形性評価用金型で成形した成形体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<スチレン系樹脂組成物>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、線状ポリスチレン及び多分岐状ポリスチレンを含有するスチレン系樹脂を含み、線状ポリスチレンと、多分岐状ポリスチレンとの質量比が99.5:0.5〜70:30の範囲であり、スチレン系樹脂中の脂肪族不飽和カルボン酸エステル単量体に基づく単量体単位の含有量が、0.5〜3.5質量%であることを特徴とする。
【0013】
上記スチレン系樹脂に含有される多分岐状ポリスチレンは分岐構造を有している。分岐の構造として、一般的には、ランダム分岐型構造、星形構造又はポンポン型構造がある。スチレン系樹脂に分岐を導入する方法として、有機過酸化物を用いる方法、多官能モノマーを用いる方法、イオン架橋による方法又は多分岐状マクロモノマーを用いる方法がある。これらのうち、多分岐状マクロモノマーを用いて、星形構造とポンポン型とが共存する分子構造を有すスチレン系樹脂は、ゲル化抑制、フィルムの押出し性、製膜性及び二次成形性(伸び及び厚みが均一)の観点から好ましい。このような多分岐状ポリスチレンを含有するスチレン系樹脂としては、DIC株式会社社の商品名「ハイブランチHP−100、ハイブランチHP−100F−1、ハイブランチHP−100F−2」がある。
【0014】
本実施形態に係る線状ポリスチレンと多分岐状ポリスチレンとの質量比は、GPC−MALS法により下記条件で測定される質量平均分子量から算出することができる。
【0015】
質量平均分子量は、高速液体クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、製品名「HLC−8120GPC」)を用い、カラム:TSKgel GMHHR−H(7.8mm I.D.×30cm)×2(東ソー株式会社製)、MALS検出器(DAWN HELEOS、Wyatt社製)、MALSレーザー波長:658nm、溶媒:THF、流速1.0mL/分、カラム温度:40℃、MALS温度:室温で測定することができる。
【0016】
GPC−MALS法で測定されるクロマトグラフの解析は、Wyatt社の解析ソフトASTRAにて行い、現れたピークを以下の手順にて分離することで、線状ポリスチレンと多分岐状ポリスチレンとの比率を求めることができる。
【0017】
ピーク分離方法の具体例として、後述する実施例1及び比較例1で用いたスチレン系樹脂のGPC−MALS法で測定されたクロマトグラフを用いて説明する。図1は、実施例1で用いたスチレン系樹脂のGPC−MALS法で測定されたクロマトグラフであり、図2は、比較例1で用いたスチレン系樹脂のGPC−MALS法で測定されたクロマトグラフである。
【0018】
クロマトグラフは、横軸が測定開始時からの流した溶媒量(リテンションタイム)を示し、縦軸がピーク強度を示す。溶媒量が少ない成分ピークほど高い分子量を有する。図1及び2中、破線で表されるP1は、スチレン系樹脂中の低分子量成分である線状ポリスチレンの基づく部分であり、クロマトグラフからP1を差し引いたP2は、高分子量成分である多分岐状ポリスチレンに基づく部分である。
【0019】
図2に示すように、多分岐状ポリスチレン部分のP2と線状ポリスチレン部分のP1の割合は、P2のピークトップから下ろした横軸との垂線を用い、P2の線対称部分の面積を多分岐状ポリスチレンの質量比とし、この部分を全体から差し引いた残りの部分の面積を線状ポリスチレンの質量比として求めることができる。図1のように、明確なトップピークがない場合は、溶出曲線の立ち上がりにおける変曲点を頂点とP2のピークトップと仮定して質量比を算出することができる。
【0020】
GPC−MALS法に測定したスチレン系樹脂の絶対分子量(Molar Mass)に対して回転半径(R.M.S.Radius)をプロットした傾きは、スチレン系樹脂の分岐の指標となる。回転半径は、ポリマー分子の重心からの距離の重み付き平均値をいう。分岐ポリマーの回転半径は、分子量の等しい直鎖ポリマーの回転半径より小さくなるため、プロットの傾きが小さいほど分岐が多い傾向となる。
【0021】
図3は、後述する実施例1、比較例1及び2で用いたスチレン系樹脂の絶対分子量に対する回転半径をプロットしたグラフである。分岐を含まない線状ポリスチレンのみの場合は、プロットの傾きは0.50を超え、スチレン系樹脂が多分岐状ポリスチレンを含んでいると、プロットの傾きは0.50以下の値を示す。したがって、プロットの傾きが0.50以下であれば、スチレン系樹脂が分岐状ポリスチレンを含有していることの指標となる。
【0022】
本実施形態に係るスチレン系樹脂において、上述したプロットから算出される傾きは好ましくは0.44〜0.50であり、より好ましくは0.45〜0.50である。
【0023】
スチレン系樹脂中の線状ポリスチレンと分岐状ポリスチレンとの質量比は、99.5:0.5〜70:30の範囲であり、95:5〜75:25の範囲が好ましい。分岐状ポリスチレンの質量比が0.5未満だと、深絞り成形する工程でフィルムが切れ易くなる。また、分岐状ポリスチレンの質量比が30を超えるとフィルムに製膜する工程でフィルムの厚み斑が大きくなったり、深絞り成形工程での型決まり性や成形品の偏肉が悪くなったりする。この原因は解明されていないが、分岐比率が多すぎるために、歪硬化性が強すぎて局部的な溶融ムラが発生する可能性があると、本発明者らは推測している。
【0024】
この質量比が99.5:0.5〜70:30の範囲であると延伸製膜しやすく、延伸製膜する際の安定性を向上させ、その後の、深絞り成形工程での型決まり性、フィルムの伸びの両立が可能となる。ここで、延伸製膜する際の安定性とは、ネッキングがなく、延伸開始位置が安定しており、実用上問題がない程度に厚さ斑が小さいことを意味する。一般的にRとして10%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下となる。
【0025】
GPC−MALS法により求められるスチレン系樹脂中の線状ポリスチレン(P1)の質量平均分子量は20万〜44.8万であることが好ましく、多分岐状ポリスチレン(P2)の質量平均分子量は100万〜1000万であることが好ましい。
【0026】
スチレン系樹脂は、スチレン系単量体、多分岐状マクロモノマー及び脂肪族不飽和カルボン酸エステルを共重合することで作製することができる。また、スチレン系樹脂は、スチレン系単量体及び多分岐状マクロモノマーを共重合して得られる共重合体と、スチレン系単量体及び脂肪族不飽和カルボン酸エステルを共重合して得られる共重合体とを混合したものであってもよい。さらに、スチレン系樹脂は、スチレン系単量体及び多分岐状マクロモノマーを共重合して得られる共重合体と、脂肪族不飽和カルボン酸エステル単量体に基づく単量体単位を有する他の共重合体とを混合したものであってもよい。スチレン系樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、線状ポリスチレン及び多分岐状ポリスチレンも、上述のスチレン系樹脂と同様に、スチレン系単量体のほか、不飽和カルボン酸エステルなどの単量体を含んだ共重合体であってもよい。
【0027】
スチレン系単量体としては、スチレン又はその誘導体を用いることができる。スチレン誘導体としては、例えば、メチルスチレン、α−メチルスチレン等のアルキル置換スチレン、ブロモスチレン、α−ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレンが挙げられる。
【0028】
多分岐状マクロモノマーとしては、複数の分岐を有し、かつ、スチレン系単量体と共重合可能な脂肪族不飽和結合を有するモノマーを用いることができる。多分岐状マクロモノマーは、例えば、特開2011−202064号公報に示される方法により得ることができる。
【0029】
多分岐状マクロモノマーとして、例えば、デンドリマー、ハイパーブランチポリマー、多分岐ポリエーテルポリオールに(メタ)アクリル基を導入したマクロモノマー、1分子中に活性メチレン基と、臭素、塩素、メチルスルホニルオキシ基又はトシルオキシ基等とを有するAB2型モノマーを求核置換反応させて得られる多分岐状の自己縮合型重縮合体を前駆体として、該重縮合体中に残存する未反応の活性メチレン基又はメチン基を、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン等と求核置換反応させることによって重合性二重結合を導入して得られる多分岐状マクロモノマー等を好適に用いることができる。
【0030】
多分岐状マクロモノマーの質量平均分子量は、特に限定されず、1000〜15000程度である。多分岐状マクロモノマーの質量平均分子量は、上述のGPC−MALS法により測定することができる。
【0031】
脂肪族不飽和カルボン酸エステルとして、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体が挙げられ、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸と炭素数1〜12のアルキルアルコールとのエステル類、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドとのエステル類、(メタ)アクリル酸と脂環式アルコールとのエステル類等が挙げられる。これらの内から少なくとも1種が選択される。なお、(メタ)アクリルとは、アクリル又はこれに対応するメタクリルを意味する。この中でも、(メタ)アクリル酸ブチル又は(メタ)アクリル酸エチルが好ましく、アクリル酸ブチル又はアクリル酸エチルが、フィルムの厚み斑、深絞り成形性の観点からより好ましい。
【0032】
スチレン系樹脂中の脂肪族不飽和カルボン酸エステル単位の含有量は、0.5〜3.5質量%であり、0.6〜3.3質量%であることが好ましく、0.9〜2.5質量%であることがより好ましい。0.5質量%より少ないと、深絞り性が不十分であり、3.5質量%より多いと、フィルムに製膜する工程でフィルムの厚み斑が大きくなったり、深絞り成形工程での型決まり性が悪くなったりする。
【0033】
脂肪族不飽和カルボン酸エステル単位の含有量は、核磁気共鳴分光法によりスチレン系樹脂を測定することで定量することができる。例えば、アクリル酸ブチルの場合、H−NMRスペクトルにおける6.5〜7.5ppmのスチレンのベンゼン環のピークと、0.8ppmのアクリル酸ブチルの末端メチル基のピークとの積分値の比から算出することができる。
【0034】
スチレン系樹脂の製造方法としては特に制限はなく、スチレン系単量体及び多分岐状マクロモノマーを重合する工程において、脂肪族不飽和カルボン酸エステルを共重合してもよい。また、スチレン系単量体及び多分岐状マクロモノマーを重合して作製された重合体に、脂肪族不飽和カルボン酸エステルを用いて作製した重合体を、ドライブレンドや混練により混合してスチレン系樹脂を調製することもできる。
【0035】
重合反応には公知慣用のスチレンの重合方法を使用することができ、特に限定されないが、塊状重合、懸濁重合又は溶液重合が好ましい。重合開始剤を使用せずに熱重合させることもできるが、慣用のラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。また、重合に必要な懸濁剤や乳化剤などのような重合助剤は、通常のポリスチレンの製造に使用される慣用のものを使用できる。
【0036】
目的とするスチレン系樹脂を1段の反応で効率よく製造できる点から、特開2005−053939号公報、特開2011−202064等に記載されている製造方法を採用することができる。例えば、スチレン系単量体、多分岐状マクロモノマー及び脂肪族不飽和カルボン酸エステルを含有するモノマー混合物を、溶液重合法又は溶融重合法(塊状重合法)を用いて反応させてもよい。
【0037】
スチレン系樹脂を合成する際、有機溶剤を添加せずに反応させることもできるが、少量の有機溶剤を添加して反応物の粘性を調整し、得られる重合体の分子量を制御することもできる。
【0038】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、アセトニトリル、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、シアノベンゼン、ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン等が挙げられる。
ラジカル重合開始剤としては、従来知られている有機過酸化物やアゾ化合物を用いることができる。有機過酸化物としては、例えば、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類及びシリルパーオキサイド類が挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)及び2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
スチレン系樹脂の分子量を調整するために、重合の際に連鎖移動剤を添加してもよい。
【0040】
スチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂の含有量は、スチレン系樹脂組成物の全質量を基準として50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが更に好ましい。スチレン系樹脂の含有量が50%未満の場合、フィルムの透明性、硬さ、印刷性などにおけるスチレン系樹脂フィルムの特徴が損なわれる恐れがある。
【0041】
スチレン系樹脂組成物には、延伸製膜する際の安定性、フィルムの滑り性(印刷工程や深絞り成形工程においてフィルムが滑らないと、フィルムの走行性が不良となりやすい)、フィルムの深絞り性などの特性を改善する目的で、ハイインパクトポリスチレン及びスチレン−ブタジエン−スチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合することができる。
【0042】
ハイインパクトポリスチレン又はスチレン−ブタジエン−スチレン系樹脂を配合する場合の配合量は、スチレン系樹脂100質量%に対して、0.5〜15質量%が好ましく、1.0〜10質量%がより好ましい。0.5質量%以上配合した場合、延伸の安定性や滑り性が改善され、15質量%以下の場合はフィルムの透明性、光沢、フィルムの腰(スティフネス)が保たれる。
【0043】
<スチレン系樹脂フィルム>
スチレン系樹脂組成物を少なくとも1方向に延伸して、スチレン系樹脂フィルムを得ることができる。
【0044】
延伸フィルムを製造する方法の代表的な例として、熱可塑性樹脂をスクリュー押出機等により溶融混錬し、Tダイによりシート状にした後、ロール延伸又はテンター延伸により一軸延伸する方法、ロール延伸に続いてテンター延伸することにより二軸延伸する方法、又は、インフレーション法により延伸する方法が挙げられる。この時の延伸倍率は縦及び横の少なくとも一方向で2〜20倍が好ましく、5〜10倍がより好ましい。
【0045】
少なくとも1方向に延伸する理由は、フィルムの平面性(偏肉低減、表面凹凸荒れの解消)を良くし、フィルムの強度をアップすることであり、印刷性及び積層性の2つの加工適性を飛躍的向上することができる。延伸したフィルムは、ラミネート加工でのフィルム切れ防止とフィルムシワ防止(平滑フィルムはシワが出ない)とに役立ち、印刷加工ではその仕上がり(インキの見当ズレ防止、インキの塗布ムラ防止)が良くなり、生産性の向上(フィルムの安定走行、フィルム切れ防止)に役立つ。
【0046】
スチレン系樹脂フィルムの厚みは、8〜80μmであることが好ましい。該フィルムの厚みが8μm未満の場合、薄すぎて印刷や積層、深絞り成形などの加工中に切れることが多くなる。
【0047】
スチレン系樹脂フィルムには、片面又は両面に文字や図などが印刷されていてもよい。印刷する方法は特に限定されず、例えば、クラビア印刷、フレキソ印刷等の多色印刷を用いることができる。
【0048】
<スチレン系積層シート>
本実施形態のスチレン系樹脂フィルムは、発泡ポリスチレンシートの少なくとも一方の面に積層することができる。本実施形態のスチレン系積層シートは、発泡ポリスチレンシートと、該発泡ポリスチレンシートの少なくとも一方の面に積層された上記スチレン系樹脂フィルムとを備えることを特徴とする。
【0049】
発泡ポリスチレンシート厚みは特に限定されず、0.3〜5.0mm程度である。
【0050】
積層シートを製造する方法は、一般的に知られている加熱によるラミネートの方法ならいずれの方法でも構わない。積層方法としては、例えば、熱ロールで圧着する熱ラミネート法、PSPの押出ラミネート法、シートとフィルムの間にHIPSを溶融押出して積層する押出サンドラミネート法等が挙げられる。
【0051】
<成形体>
上記スチレン系積層シートから成形体を形成することができる。本実施形態のスチレン系積層シートは、容器形状等に成形する熱成形法、例えば、真空成形法、圧空成形法などによって、所望形状及び所望寸法の容器、蓋付容器又は容器蓋に成形することができる。上記スチレン系積層シートから印刷フィルム層の厚みが薄い包装用容器が得られるので、CO排出の低減、省資源化などの環境負荷の低減に寄与しつつ、容器製造の低コスト化が図れるだけでなく、近年主流となっている深絞り比の大きい容器などにおいても、フィルムが破断することなく多種多様の容器を製造することが可能となる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。本発明はもとより、これらの実施例の範囲に限定されるべきものではない。
【0053】
(合成例)多分岐状マクロモノマーの合成
エトキシ化ペンタエリスリトール25.3gに、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.5gを加えて110℃に加熱し、3−エチル−3−オキセタンメタノール225gを滴化した後、120℃で3時間反応を行った。その後、反応液を室温に冷却し、多分岐ポリエーテルポリオールを得た。
【0054】
上記多分岐ポリエーテルポリオール25g、メタアクリル酸6.9g、トルエン75g、ヒドロキノン0.03g及びパラトルエンスルホン酸0.5gを加えた混合液を、7体積%の酸素含有窒素を吹き込みながら、加熱して反応を行った。反応終了後、室温まで冷却し、無水酢酸18g及びスルファミン酸2.9gを加え、60℃で10時間撹拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、5質量%水酸化ナトリウム水溶液、1質量%硫酸水溶液及び水の順で洗浄した有機層にメトキノン0.01gを加え、減圧下、7体積%酸素含有窒素を導入しながら溶媒を留去し、メタクリロイル基及びアセチル基を有する多分岐状マクロモノマーを得た。得られた多分岐状マクロモノマーの質量平均分子量は4200であった。
【0055】
(スチレン系樹脂の作製)
スチレン、上記多分岐状マクロモノマー及びアクリル酸ブチルの配合割合を変更したモノマー混合物を溶液重合法により重合してスチレン系樹脂PS−1〜4及び6〜11を作製した。また、PS−5は、PS−10を25質量部とPS−11を75質量部とを二軸押し出し機を用いて混練して作製した。溶液重合法は、特開2011−202064公報の実施例1に記載の方法に準じて行った。
【0056】
(線状ポリスチレンと多分岐状ポリスチレンとの質量比)
GPC−MALS法によりスチレン系樹脂の質量平均分子量を測定し、線状ポリスチレンと多分岐状ポリスチレンとの質量比を算出した。
【0057】
(脂肪族不飽和カルボン酸エステル単位の含有量)
スチレン系樹脂50mgをd−クロロホルム1mLに溶解させ、H−NMR及び13C−NMRスペクトルを測定し、脂肪族不飽和カルボン酸エステル単位の含有量を算出した。積算回数は、H−NMR:256回とし、13C−NMR:20000回とした。
【0058】
[スチレン系樹脂組成物の作製]
スチレン系樹脂100質量部に対し、ハイインパクトポリスチレン(HIPS−1)を0〜15質量部をブレンダーで混合し、表1に示す実施例及び表2に示す比較例のスチレン系樹脂組成物のペレットを作製した。また、作製したペレットを用い、スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度をASTM−D1525に準拠し、荷重1kg、昇温速度2℃/分の条件で測定し、MFR(メルトフローレイト)をASTM−D1238のG条件(200℃、5kg)で測定した。
【0059】
[スチレン系樹脂フィルムの作製]
スチレン系樹脂組成物のペレットを、下記に示すインフレーション成膜法又はテンター逐次2軸延伸成膜法で成膜して、スチレン系樹脂フィルムを得た。各フィルムの成膜条件(樹脂温度、延伸倍率)及びフィルム厚みを表1及び2に示す。
インフレーション成膜法:L/D=45の60mmφのスクリューを有するサーキュラーダイ付き押出機で押出したチューブをインフレーションして冷却し、所望のフィルムとして巻取る。
テンター逐次2軸延伸成膜法:L/D=32の65mmφのスクリューを有する押出機でTダイから押出したパリソンをロール加熱式縦延伸機で延伸した後テンターで横延伸して冷却したのちフィルムを巻取って所望のフィルムを得る。
【0060】
<評価>
(a)フィルムの偏肉
厚み計(テクロック社製、製品名「ダイヤルシックネスゲージSM−1201」)を用い、横方向1.0m×縦方向1.0mのサイズのフィルムサンプルを切り出し、縦横の両端及び中央部分の3箇所について、各方向に1cm間隔にて厚みを測定した。(最も厚い箇所と最も薄い個所との差)/平均厚みを偏肉と定義し(単位は%)、下記基準で評価した。
◎:10%未満
○:10%以上20%未満
△:20%以上50%未満
×:50%以上
【0061】
(b)フィルムのゲル数
サイズ0.5m×2.0mのフィルムの中に、偏向板で見られる大きさ0.2mmφ以上のゲル、分解物及び異物の数を測定した(n=3)。
◎:0〜15個
○:16〜30個
△:31〜60個
×:61個以上
【0062】
(c)印刷適性
グラビアロール印刷機(ロール幅80cm、ロール径10cm、スピード80m/分)を使用し、幅64cmのテスト用フィルムを3つのグラビアロール版(版深38μm、22μm、6μm、いずれも175線/インチの3種類)で3色印刷した。印刷インキは、サカタインクス(株)製のグラビアインキXGS−820藍800、XGS−810白120、XGS−820墨1000を使用した。印刷適性の評価は次の4項目(インキ跳び、外観の見栄え、見当ズレ、フィルム走行性)について行ない、下記の4項目の総合評価で判定した。
◎:インキ跳び、外観の見栄え、見当ズレ及びフィルム走行性がいずれも良好で非常にきれいな印刷状態である。
○:インキ跳び、外観の見栄え、見当ズレ及びフィルム走行性のうち1項目で、若干の不良があるが、実用上まったく問題がない。
△:インキ跳び、外観の見栄え、見当ズレ及びフィルム走行性のうち2項目以上で、若干の不良があるが、実用上問題がない。
×:インキ跳び、外観の見栄え、見当ズレ及びフィルム走行性で不良があり、実用上問題がある。
【0063】
[スチレン系積層シートの作製]
上記で印刷したフィルムについて、ラミネート加工と成形試験を行ない、それらの評価を実施した。先ずラミネートについては、厚み2.1mmのPSP(パールパッケージ(株)製#70、発泡密度0.11g/mL、幅630mm)との片面熱ラミネートを行ない、積層シートを得た。熱ラミネートは、熱圧着ローラー(ロール表面温度198℃の誘電加熱ロール、直径400mm、ロール幅1.3m、ロール速度10m/分)を装備した熱ラミネート機で行った。
【0064】
[成形体の作製]
上記積層シートについて、下記の方法で真空成形を行ない、成形性の評価を行った。
【0065】
(d)成形適性範囲(フィルム切れ、シワ、二次発泡の出ない領域)
真空成形機(シート幅630mm、加熱ゾーン2ゾーン、遠赤外線ヒーター輻射加熱方式)で、図1に平面図で示した成形性評価用金型(絞り比が0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、容器胴部の角度θが10、20、30度の各金型)を用い、真空成形試験(プラグアシスト無し)を行い、図8に示す成形体を作製した。成形温度範囲を4水準とり(押出サンドラミネートの時は230、240、250、260℃、熱ラミネート及び両面熱ラミネートの時は200、210、220、230℃)、成形時間5秒/1ゾーンで成形を行なったときのフィルム切れ、成形シワ、及びPSPの二次発泡が見られない型決まりの良い成形容器が得られる範囲の広さを判断した。
【0066】
成形試験は1条件につき、n=4ショットを成形し、その平均値(広さ)で表示した。なお、図5は、図4に示した成形性評価用金型の平面図におけるA−A’切断線での断面図をそれぞれ示したものであり、図6は、B−B’切断線での断面図をそれぞれ示したものである。上記絞り比は図5及び6に記載のLh/Lmで示され、また容器胴部の角度はθで示される。また、図7は成形範囲を示す説明図である。すなわち、上記絞り比と加熱ヒーター設定温度との関係をとったとき、フィルム切れ、成形シワ及びPSPの二次発泡が見られない型決まりの良い成形容器が得られる範囲を示し、この範囲を升目区画7の数で表わしており、升目区画数が多いほど成形範囲は広いことを意味する。升目区画数は、容器胴部の角度θが10、20、30度の3種類の合計で表す。
◎:区画数50〜60。成形温度・成形時間・深絞りいずれも広く最良である。
○:区画数40〜49。成形は良好であるが、成形範囲が適度な範囲。
△:区画数24〜39。成形適性範囲がやや狭くて成形しにくい。
×:区画数0〜23。フィルム切れ、二次発泡などで適性範囲が狭い。
【0067】
(e)深絞り性
上記の成形試験法で、最適条件(温度、時間)で得られる良好成形品の最大絞り比で表現するもので、最大どこまで深く絞れるかを深絞り性の目安にした。絞り比は図5から次式によって算出した値とする。
絞り比=型の深さ(Lh)÷型の長辺の長さ(Lm)
◎:0.6以上
○:0.5
△:0.4
×:0.3以下
【0068】
(f)型決まり性
成形型に対する成形型決まりの度合いを表わすもので、上記の成形試験で得た容器の特に厳しい底部分を肉眼観察した。対象サンプルは最も良い成形品を選んで調べた。
◎:型通りに成形されていて、金型表面の凹凸を転写してない。
○:ほぼ型通りに成形されている。
△:甘い成形になっている、又は、金型表面の凹凸が見られる。
×:型通りにならない。
【0069】
(g)成形品の偏肉
成形によってフィルム層が、コーナー部において成形前の元厚みに対して最大どこまで薄くなったかを比率で表した。この比率が大きいとフィルムが局部的に伸びて偏肉が大きいことを示し、全体が満遍なく伸びることが好ましい。
◎:0.31以上
○:0.26以上0.31未満
△:0.20超0.26未満
×:0.20以下
【0070】
(h)成形品のフィルム切れ
上記の成形試験で得た容器の外観検査で、フィルム切れの状況を表現した。フィルム切れが無いか少ないことが好ましい。温度4水準×絞り比5水準=20個中フィルム切れが何個あるかを示す。
◎:0個
○:1個
△:2〜5個
×:6個以上
(i)成形容器の外観の見栄え(透明性、光沢の良さ)
【0071】
上記の成形試験で、成形された容器の印刷が綺麗に出来ているかをフィルム外面から観察し、透明と光沢が優れていることが好ましい。これはフィルムの透明と光沢と同じ傾向を示すが、中には成形して透明や光沢が悪くなるのもあるので、それを確認するために観察する。印刷をフィルムの裏面に行ない、観察は表面から行なった。
◎:透明性及び光沢いずれも良く、成形容器の印刷仕上がりが優れる。
○:透明性も光沢も良い。
△:透明性はやや良いが光沢がない。
×:透明性が悪く光沢がない。
【0072】
(j)成形適性の総合評価
上記(a)〜(i)の9項目の総合判定を下記の基準で定める。
(a)〜(i)の判定結果を、◎:1点、○:2点、△:3点、×:4点とし、その総和が下記とする。
◎(実用上非常に優れたレベル):10点以下。且つ、各項目で△、×は無し。
○(実用上優れるレベル):11点〜13点。且つ、各項目で×は無し。
△(実用上問題のないレベル):14点〜20点。且つ、各項目で×は無し。
×(実用上問題のあるレベル):21点以上。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1より、実施例1〜13のスチレン系樹脂組成物は製膜性に優れ、作製したスチレン系樹脂フィルムは印刷性が良好であり、スチレン系積層シートは成形性に優れていることが確認できる。特に、実施例1、2及び5では、製膜性、印刷性及び成形性のバランスが非常に優れた結果となっている。
【0076】
これに対し、比較例1は、分岐比率の多いスチレン系樹脂組成物を用いているために、フィルムに製膜する工程でフィルムの厚み斑が大きく、深絞り成形工程での型決まり性及び成形品の偏肉も悪い。比較例2は、分岐比率の少ないスチレン系樹脂組成物を用いているために、深絞り成形する工程でフィルムが切れ易く、深絞り性が悪い。比較例3は、脂肪族不飽和カルボン酸エステル単位が多いスチレン系樹脂組成物を用いているために、フィルムに製膜する工程でフィルムの厚み斑が大きく、深絞り成形工程での型決まり性及び成形品の偏肉も悪い。比較例4は、脂肪族不飽和カルボン酸エステル単位を含まないスチレン系樹脂組成物を用いているため、深絞り成形する工程でフィルムが切れ易く、深絞り性が悪い。
【符号の説明】
【0077】
1…成形体、10…成形性が良好である範囲を表わす升目区画の1区画。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8