特許第6242604号(P6242604)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242604
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】鉱物繊維用水性バインダー
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/263 20060101AFI20171127BHJP
   D04H 1/587 20120101ALI20171127BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20171127BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20171127BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   D06M15/263
   D04H1/587
   C08L33/02
   C08K5/17
   C08K5/053
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-133317(P2013-133317)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2014-28939(P2014-28939A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2016年6月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-143561(P2012-143561)
(32)【優先日】2012年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 美有紀
(72)【発明者】
【氏名】藤田 政義
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−056415(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/085729(WO,A1)
【文献】 特開2009−144140(JP,A)
【文献】 特開2005−036204(JP,A)
【文献】 特開2006−089906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 − 15/715
D04H 1/00 − 18/04
C08K 5/053
C08K 5/17
C08L 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸(a)と、25℃における溶解度が2g以下/水100gで1個の不飽和基を有する、(a)以外の不飽和モノマー(b)を構成単位とする(共)重合体(A)、架橋剤(B)、並びに水を含有してなり、(a)と(b)の重量比[(a)/(b)]が、60/40〜99.9/0.1であって、(A)の重量平均分子量が20,000〜100,000であり、(A)中のカルボキシル基に対する、(B)中の1級アミノ基、2級アミノ基および水酸基の合計の当量比が0.2〜1.5である鉱物繊維用水性バインダー(X)。
【請求項2】
(A)が、0.1〜80g/10minのメルトフローレート(MFR)を有し、かつ下記の関係式[1]を満たす請求項1記載の水性バインダー。

log(MFR)≧ −3×10-5×(Mw)+2 [1]

[式中、MFRは(A)のメルトフローレート(単位:g/10min)、Mwは(A)の重量平均分子量を表す。]
【請求項3】
(b)が、炭素数5〜20の(メタ)アクリル酸エステルである請求項1または2記載の水性バインダー。
【請求項4】
(B)が、水酸基を有しないアミン化合物(B1)、水酸基を1個有するアミン化合物(B2)および水酸基を2個〜3個またはそれ以上有する化合物(B3)からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか記載の水性バインダー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の水性バインダーを付着させた鉱物繊維積層物を加熱、成形してなる鉱物繊維積層体。
【請求項6】
水性バインダーの固形分付着量が、鉱物繊維積層物の重量に基づいて0.4〜40%である請求項5記載の積層体。
【請求項7】
復元性試験における復元割合が85%以上である請求項5または6記載の積層体。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか記載の水性バインダーを付着させた鉱物繊維積層物を加熱、成形することを特徴とする鉱物繊維積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉱物繊維用水性バインダーに関する。より詳細には、耐熱性積層体用材料のガラス繊維等の鉱物繊維の接着性に優れ、ホルムアルデヒドを含有しない水性バインダー、およびそれを用いた鉱物繊維積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性を有する鉱物繊維積層体は、グラスウール、ロックウール等の鉱物繊維から構成され、バインダーを付着させた該鉱物繊維を機械的手段でマット状等に成形して製造され、建築物や各種装置の断熱材等として幅広く使用されている。該バインダーとしては、従来からフェノール化合物とホルムアルデヒドとの縮合物であるフェノール樹脂からなる水性バインダーが多く使用されてきたが、該バインダーは通常ホルムアルデヒドを含有し、これを用いた積層体からはホルムアルデヒドが環境中に放出されるという問題があることから、ホルムアルデヒドを含有しない改良バインダーが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−505538号公報
【特許文献2】特開平6−184285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のバインダーは、アミンと酸無水物の反応生成物からなるバインダーであるが、バインダーの接着性が十分ではなく、また得られる鉱物繊維積層体の復元性(鉱物繊維積層体を圧縮した後の該積層体の厚み等が元の状態にもどる性質)にも難があるという問題がある。
また、上記特許文献2のバインダーは、少なくとも2個の、カルボキシル基、酸無水物基またはそれらの塩を含有する多酸と、少なくとも2個のヒドロキシル基を含有するポリオールからなるバインダーであるが、リン含有促進剤および不揮発性塩基のような熱硬化後の強度に寄与しない成分を多量に含むため、バインダーの接着性に劣り、また得られる鉱物繊維積層体の復元性に難があるという問題がある。
本発明の目的は、上記課題を解決し、耐熱性積層体材料の鉱物繊維の接着性に優れ、復元性に優れた鉱物繊維積層体を与える水性バインダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果本発明に到達した。すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸(a)と、25℃における溶解度が2g以下/水100gで1個の不飽和基を有する、(a)以外の不飽和モノマー(b)を構成単位とする(共)重合体(A)、架橋剤(B)、並びに水を含有してなり、(A)の重量平均分子量が20,000〜100,000である鉱物繊維用水性バインダー(X)である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の鉱物繊維用水性バインダー(X)は、下記の効果を奏する。
(1)溶融粘度が低く、硬化反応前の流動性に優れる。
(2)該水性バインダーを付着させた鉱物繊維積層物を加熱、成形してなる積層体は、接着性、耐加水分解性に優れる。
(3)該積層体は圧縮後の復元性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[(共)重合体(A)]
本発明における(共)重合体(A)は、(メタ)アクリル酸(a)と、25℃における溶解度が2g以下/水100gで1個の不飽和基を有する、(a)以外の不飽和モノマー(b)を構成単位として含有する。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸および/またはメタアクリル酸を意味する。
(a)としては、アクリル酸、メタアクリル酸、およびこれらの混合物が挙げられ、鉱物繊維の接着性の観点から、アクリル酸が好ましい。
【0008】
(b)としては、(メタ)アクリロイル基含有化合物(b1)、ビニル基含有芳香環含有化合物(b2)、ビニル基含有脂肪族化合物(b3)、ビニリデン基含有化合物(b4)、ビニレン基含有化合物(b5)、およびアリル含有化合物(b6)等が挙げられ、これらのうち2種以上を併用してもよい。
【0009】
(メタ)アクリロイル基含有化合物(b1)としては、以下のもの、およびこれらの混合物等が挙げられる。
(b11)(メタ)アクリル酸エステル
(b11)としては、炭素数(以下、Cと略記)5以上かつ数平均分子量[以下、Mnと略記、測定は後述の測定条件でのゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]500以下、例えば(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルケニルエステル、および(メタ)アクリル酸ポリオキシプロピレンエステル;具体例としては、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸−エチル、−ブチル、−イソブチルおよび−2−エチルヘキシル、ポリプロピレングリコール(以下PPGと略記)(分子量134以上かつMn400以下)のモノ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0010】
(b12)C4〜24のN置換(メタ)アクリルアミド
(b12)としては、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、N−アルケニル置換(メタ)アクリルアミド、およびN−(ポリ)オキシプロピル置換(メタ)アクリルアミド;例えば、N,N−ジエチル−、N−t−ブチル−、N−2−エチルヘキシル−、N−オクチル−、N−ドデシル−、N−ラウリル−、N−セチル−、N−ステアリル−、N−オレイル−およびN,N−ジ(ポリ)オキシプロピル[(ポリ)オキシプロピル基はプロピレンオキシド(以下POと略記)1〜3モル付加](メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0011】
(b2)ビニル基含有芳香環含有化合物
(b2)としては、以下のもの、およびこれらの混合物等が挙げられる。
(b21)単環化合物
C8〜13の単環化合物;例えば、スチレン、α−およびβ−メチルスチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシスチレン、メトキシスチレン等が挙げられる。
(b22)多環化合物
C12〜15の多環化合物;例えば、ビニルナフタレン、ビニルナフトール等が挙げられる。
【0012】
(b3)ビニル基含有脂肪族化合物
(b3)としては、ビニル基を有する直鎖もしくは分岐型のものが挙げられ、これらのうちモノマーの疎水性および(a)との共重合性の観点から下記一般式(1)で示される化合物およびこれらの混合物が好ましい。
【0013】

CH2=CHR1 (1)

(1)式中、R1は下記一般式(2)(3)または(4)で示される基である。
−H (2)
−O−C(=O)R2 (3)
−X1 (4)

(3)中、R2はC2〜24のアルキル基を表し、該アルキル基としては、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
式(4)中、X1は、C1〜4のアルキル基、ハロゲン原子またはC1〜4のハロゲン化アルキル基を表し、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等;ハロゲン原子としては、F、Cl、Br等;ハロゲン化アルキル基としてはフッ化メチル基、臭化メチル基等が挙げられる。
【0014】
(b3)の具体例としては、例えば、プロピオン酸ビニル等の不飽和脂肪族化合物;エチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等のオレフィン;フッ化エチレン、フッ化プロペン、臭化エチレン、臭化プロペン等のハロゲン化ビニル化合物が挙げられる。
【0015】
(b4)ビニリデン基含有化合物
(b4)としては、ビニリデン基を有する直鎖もしくは分岐型のものが挙げられ、これらのうちモノマーの疎水性および(a)との共重合性の観点から下記一般式(5)で示される化合物およびこれらの混合物が好ましい。
【0016】

CH2=CR34 (5)

(5)中、R3、R4は下記一般式(6)、(7)、(8)または(9)で示される基であり、R3、R4は互いに同じでも異なっていてもよい。
【0017】

−(CH2n−C(=O)−O−R5(n=0または1) (6)
−O−C(=O)R6 (7)
−C(=O)NH−R7 (8)
−X2 (9)
【0018】
式中、R5、R6はC2〜24のアルキル基(エチル基、プロピル基等);R7はC1〜15のアルキル基(エチル基、プロピル基等);X2は、C1〜4のアルキル基、C6〜15のアリール基、ハロゲン原子またはC1〜4のハロゲン化アルキル基を表し、例えば前記X1のアルキル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基と同様の基が挙げられ、C6〜15のアリール基としては、フェニル基、アルキルベンジル基、アルキルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、アルコキシフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0019】
(b4)の具体例としては、イタコン酸ジアルキルエステル(イタコン酸ジエチル、イタコン酸エチルプロピル等)、オレフィン(イソブテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン等)、ハロゲン化ビニリデン化合物(1,1−ジクロロエチレン、1,1−ジブロモエチレン等)等が挙げられる。
【0020】
(b5)ビニレン基含有化合物
(b5)としては、ビニレン基を有する直鎖もしくは分岐型のものが挙げられ、これらのうちモノマーの疎水性および(a)との共重合性の観点から下記一般式(10)で示される化合物およびこれらの混合物が好ましい。
【0021】

8−CH=CH−R9 (10)

(10)中、R8、R9は前記一般式(6)、(7)、(8)または(9)で示される基であり、R8、R9は互いに同じでも異なってもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。
(b5)の具体例としては、マレイン酸アルキルエステル(マレイン酸ジエチル、マレイン酸エチルプロピル等)、オレフィン(2−ブテン、2−ペンテン等)、ハロゲン化ビニレン化合物(cis−およびtrans−ジクロロエチレン等)が挙げられる。
【0022】
(b6)アリル基含有化合物
(b6)としては、アリル基を有する直鎖もしくは分岐型のものが挙げられ、これらのうちモノマーの疎水性の観点から下記一般式(11)で示される化合物およびこれらの混合物が好ましい。
【0023】

CH2=CHCH210 (11)

(11)式中、R10は前記一般式(6)、(7)または(8)で示される基および下記一般式(12)で示される基である。
【0024】

−X3 (12)

(12)中、X3は、C1〜4のアルキル基、C6〜15の(ヒドロキシ)アリール基、ハロゲン原子またはC1〜4のハロゲン化アルキル基を表し、例えば前記X1のアルキル基、ハロゲン化アルキル基と同様の基;ハロゲン原子としては、Br等;C6〜15の(ヒドロキシ)アリール基としては、フェニル基、アルキルベンゼンアルキルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、アルコキシフェニル基、ナフチル基が挙げられる。
(b6)の具体例としては、例えば、アリルベンゼン、アリルフェノール、臭化アリルが挙げられる。
【0025】
これらの(b1)〜(b6)のうち、鉱物繊維の接着性の観点から好ましいのは(b1)、(b2)、さらに好ましいのは(b11)、(b12)、(b21)、とくに好ましいのはC5〜20の(メタ)アクリル酸エステル、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、最も好ましいのはメタクリル酸メチルである。
【0026】
本発明におけるMn[後述の(A)以外]のGPC測定条件は下記のとおりである。
<GPC測定条件>
[1]装置 :ゲルパーミエイションクロマトグラフィー
「HLC−8120GPC」、東ソー(株)製
[2]カラム :「TSKgel GMHXL」2本+「TSKgel
Multipore HXL−M 」、東ソー(株)製
[3]溶離液 :テトラヒドロフラン(THF)
[4]基準物質:標準ポリスチレン
(TSKstandard POLYSTYRENE)、
東ソー(株)製
[5]注入条件:サンプル濃度0.25%、カラム温度40℃
【0027】
(A)を構成するモノマーの重量比[(a)/(b)]は、鉱物繊維の接着性、バインダー硬化物の機械強度およびバインダーの流動性の観点から、好ましくは60/40〜99.9/0.1、さらに好ましくは80/20〜99.5/0.5、とくに好ましくは95/5〜99/1である。
【0028】
(A)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記(a)、(b)のモノマー以外の不飽和モノマー(x)をさらに構成単位とする(共)重合体としてもよい。
不飽和モノマー(x)としては、C3〜20の(a)以外の不飽和モノカルボン酸[クロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸、3−メチル−3−ブテン酸、3−ペンテン酸、4−および5−ヘキセン酸、ビニル酢酸]、不飽和ジカルボン酸のモノアルキル(C1〜8)エステル[C5〜16、例えばマレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、シトラコン酸モノアルキルエステル]、水酸基を有する不飽和ジカルボン酸モノエステル[C5〜20、例えばマレイン酸のジエチレングリコールモノエステル、フマル酸のジエチレングリコールモノエステル、イタコン酸ジエチレングリコールモノエステル]等〕、C4〜20(好ましくはC4〜16)の不飽和ジカルボン酸[マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等]、ヒドロキシアルキル(C1〜5)(メタ)クリレート、(メタ)アクリルアミド、アリルアミン、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0029】
(A)の重量平均分子量[以下Mwと略記。測定は後述のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]は、20,000〜100,000、好ましくは25,000〜90,000、さらに好ましくは30,000〜80,000である。Mwが20,000未満ではバインダー硬化物の強度が低下し、鉱物繊維の接着性が悪くなり、Mwが100,000を超えると、バインダーの溶融粘度が大で流動性が低下し、鉱物繊維積層体の復元性が悪くなる。
【0030】
本発明における(A)のMwのGPC測定条件は下記のとおりである。
<GPC測定条件>
[1]装置 :ゲルパーミエイションクロマトグラフィー
「HLC−8120GPC」、東ソー(株)製
[2]カラム :「TSKgel G6000PWxl」、「TSKgel
G3000PWxl」[いずれも東ソー(株)製]
を直列に連結。
[3]溶離液 :メタノール/水=30/70(容量比)に
0.5重量%の酢酸ナトリウムを溶解させたもの。
[4]基準物質:ポリエチレングリコール(以下PEGと略記)
[5]注入条件:サンプル濃度0.25%、カラム温度40℃
【0031】
(A)中のカルボキシル基の数は、少なくとも2個、鉱物繊維の接着性および鉱物繊維積層体の耐加水分解性の観点から好ましくは3〜2,000、さらに好ましくは5〜1,500、とくに好ましくは10〜1,000である。
【0032】
(共)重合体(A)は、公知の溶液重合法で製造することができ、生産性の観点から好ましいのは水溶液重合法である。
有機溶剤を使用する場合は、重合後脱溶剤して水に溶解させても、脱溶剤せずにそのまま用いてもいずれでもよい。該有機溶剤としては、水性溶剤(25℃での水への溶解度が10g以上/100g水)のものであり、メチルエチルケトン(以下MEKと略記)、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)等が挙げられ、生産性の観点から好ましいのはMEKである。
該(A)は、通常溶液(工業上の観点から好ましいのは水溶液)として得られ、溶液中の(A)の含有量(重量%)は、生産性および後工程の水性バインダー製造時のハンドリング性の観点から好ましくは5〜80%、さらに好ましくは10〜70%、とくに好ましくは20〜60%である。
【0033】
(A)製造時の重合温度は、生産性および(A)の分子量制御の観点から好ましくは0〜200℃、さらに好ましくは40〜150℃である。
重合時間は、製品中の残存モノマー含量の低減および生産性の観点から好ましくは1〜10時間、さらに好ましくは2〜8時間である。
重合反応の終点は残存モノマー量で確認できる。残存モノマー量はバインダーの鉱物繊維に対する接着力の観点から、(A)の重量に基づいて好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。残存モノマー量はガスクロマトグラフィー法により測定できる。
【0034】
(共)重合体(A)のメルトフローレート(MFR)(単位はg/10min、以下数値のみを示す。)は、バインダーの硬化前の流動性およびバインダー硬化物の機械強度の観点から好ましくは0.1〜80、さらに好ましくは0.5〜70、とくに好ましくは1.0〜60である。該MFRは、JIS K7210に準じて、測定温度170℃、荷重2.16kgの条件で測定される値であり、後述の実施例におけるMFRは該方法に従った。
【0035】
本発明における(A)は、前記のとおり20,000〜100,000のMwを有する。(A)のMwとMFRは、硬化前のバインダーの流動性および鉱物繊維の接着性の観点から好ましくは下記の関係式[1]を満たす。

log(MFR)≧ −3×10-5×(Mw)+2 [1]
【0036】
従来の水性バインダーは前記のとおりバインダーの接着性に劣り、また得られる鉱物繊維積層体の復元性に難があるという問題がある。本発明者らは、これは鉱物繊維積層物に付着させた水性バインダーが、その加熱、溶融時に鉱物繊維の交点に効率的に集まることなく交点以外の鉱物繊維上で硬化してしまう場合が多いことに起因するものと推定した。
そこで、バインダーが加熱、溶融時に鉱物繊維の交点に効率的に集まる支配因子はバインダーの溶融粘度にあるとの仮定に基づいて、種々の構成モノマーからなる数多くの(共)重合体を合成した結果、該(共)重合体を本発明における(a)および(b)から構成される(共)重合体(A)とすることにより前記発明の効果が奏されるということを本発明で初めて見出した。さらに、該(A)のMwとMFRの関係について調査、検討を重ねて上記関係式[1]を導出するに至り、(A)のうち、該関係式[1]を満たすものがより優れた発明の効果を奏することも見出したものである。
【0037】
(A)の酸価(単位はmgKOH/g、以下数値のみを示す)は、鉱物繊維の接着性および工業上の観点から好ましくは350〜800、さらに好ましくは500〜780、とくに好ましくは600〜770である。本発明における酸価は、JIS K0070に準じて測定される値である。後述の実施例における酸価は該方法に従った。
【0038】
[架橋剤(B)]
本発明における架橋剤(B)は、水酸基を有しないアミン化合物(B1)、水酸基を1個有するアミン化合物(B2)、水酸基を2個〜3個またはそれ以上有する化合物(B3)およびこれらの混合物が挙げられる。
【0039】
水酸基を有しないアミン化合物(B1)としては、C2以上かつMn2,000以下のポリ(2〜6価またはそれ以上)アミンで、脂肪族ポリアミン(B11)、脂環式ポリアミン(B12)、複素環式ポリアミン(B13)、芳香族ポリアミン(B14)およびポリアミドポリアミン(B15)が挙げられる。
【0040】
脂肪族ポリアミン(B11)としては、脂肪族ポリアミン〔C2〜6のアルキレンジアミン(C2〜10、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン(1,6−ヘキサンジアミン))、ポリアルキレン(C2〜6)ポリアミン[C4〜10、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン]〕等およびこれらのアルキル(C1〜4)置換体〔例えば、ジアルキル(C1〜3)アミノプロピルアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、メチルイミノビスプロピルアミン〕等、脂環または複素環含有脂肪族ポリアミン〔C5〜20、例えば、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン〕等、芳香環含有脂肪族アミン〔C6〜14、例えば、キシリレンジアミン、テトラクロル−p−キシリレンジアミン〕等が挙げられる。
【0041】
脂環式ポリアミン(B12)としては、C6〜20、例えば1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、4,4’−メチレンジシクロヘキサンジアミン(水添メチレンジアニリン)が挙げられる。
【0042】
複素環式ポリアミン(B13)としては、C4〜20、例えばピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、1,4−ジアミノエチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジンが挙げられる。
【0043】
芳香族ポリアミン(B14)としては、非置換芳香族ポリアミン[C6〜30、例えば、1,2−、1,3−および1,4−フェニレンジアミン、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジアミン、クルードジフェニルメタンジアミン(ポリフェニルポリメチレンポリアミン)]、核置換アルキル基〔メチル、エチル、n−およびi−プロピル、ブチル等のC1〜C4のアルキル基)を有する芳香族ポリアミン[C7〜30、例えば、2,4−および2,6−トリレンジアミン、クルードトリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ビス(o−トルイジン)、ジアニシジン]、イミノ基を有する芳香族ポリアミン[C7〜30、例えば、4,4’−ジ(メチルアミノ)ジフェニルメタン、1−メチル−2−メチルアミノ−4−アミノベンゼン]等が挙げられる。
【0044】
ポリアミドポリアミン(B15)としては、ジカルボン酸(ダイマー酸等)と過剰(アミノ基/カルボキシル基の当量比が2以上)のポリアミン(上記アルキレンジアミン、ポリアルキレンポリアミン等)との縮合により得られる低分子量(Mn100〜1,000)ポリアミドポリアミンが挙げられる。
【0045】
(B2)水酸基を1個有するアミン化合物
(B2)としては、C2以上かつMn1,000以下のもの、下記(B21)〜(B22)等が挙げられる。
(B21)モノアルカノールアミン
C2〜15、例えば、エタノールアミン、イソプロパノールアミン、6−アミノ−1−ヘキサノール;
(B22)前記(B1)のアルキレンオキサイド(以下AOと略記)(C2〜4)1モル付加物
C4以上かつMn1,000以下、例えば、エチレンジアミンのプロピレンオキサイド1モル付加物、1,4−フェニレンジアミンのエチレンオキサイド1モル付加物、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール。
【0046】
(B3)2個〜3個またはそれ以上の水酸基を有する化合物
(B3)としては、C4以上かつMn1,000以下のもの、下記(B31)〜(B34)等が挙げられる。
【0047】
(B31)ジアルカノールアミン
C4〜10、例えば、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン;
(B32)トリアルカノールアミン
C6〜15、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン;
(B33)前記(B2)のAO付加物(付加モル数は2〜20モル)
C6以上かつMn1,000以下、例えば、ジエチレントリアミンの2〜20モルAO付加物、テトラメチレンペンタミンの2〜20モルAO付加物;
【0048】
(B34)C2以上かつMn1,000以下のポリ(2価〜3価またはそれ以上)オール
例えば脂肪族ポリオール[C2〜12のもの、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−ヒドロキシメチル−2−メチル‐1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール];脂環式ポリオール[C5〜12のもの、例えば1,3−シクロペンタンジオール、1,4‐シクロヘキサンジオール];糖類[C6〜12のもの、例えばグルコース、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖];並びに、これらポリオールのAO(C2〜4)付加物等が挙げられる。
【0049】
これらの(B1)〜(B3)のうち、鉱物繊維の接着性、鉱物繊維積層体の耐加水分解性の観点から、好ましいのは(B1)、(B2)、さらに好ましいのは(B2)、とくに好ましいのは(B21)、最も好ましいのはイソプロパノールアミンである。
【0050】
[鉱物繊維用水性バインダー(X)]
本発明の鉱物繊維用水性バインダー(X)は、前記(共)重合体(A)、架橋剤(B)および水を含有してなり、(A)中のカルボキシル基に対する(B)中の1級アミノ基、2級アミノ基および水酸基の合計の当量比は、鉱物繊維の接着性、積層体の復元性の観点から好ましくは0.2〜1.5、さらに好ましくは0.3〜1.0、さらに好ましくは0.4以上0.8未満、とくに好ましくは0.5〜0.7である。
【0051】
該当量比は、(B)の1、2級アミン価を後述の測定方法で、また、(B)の水酸基価および(A)の酸価をJIS K−0070「化学製品の酸価、水酸基の試験方法」に準拠して測定した結果から下記の計算式を用いて求めることができる。
なお、以下において、各アミン価、水酸基価および酸価の単位はいずれもmgKOH/gで表される。

当量比=[(B)の水酸基価+(B)の1、2級アミン価]×[(B)の重量] /〔[(A)の酸価]×[(A)の重量]〕
【0052】
<(B)の1、2級アミン価測定方法>
(B)の[1]全アミン価(全A)、[2]3級アミン価(3A)を後述の方法で測定し、下記の計算式より、1、2級アミン価(12A)を求める。

(12A)=(全A)−(3A)

但し、(12A):1、2級アミン価を表す。
(全A) :全アミン価を表す。
(3A) :3級アミン価を表す。
【0053】
[1]全アミン価(全A)測定方法
全アミン価とは、試料1g中に含まれる1級、2級および3級アミンを中和するのに要する塩酸と等当量の水酸化カリウムのmg数をいう。ASTM D2074に準じ下記方法で測定する。
(1)試料を精秤する。(試料量:S1g)
(2)中性エタノール[ブロムクレゾールグリーン(BCG)中性]30mLを加え溶解する。
(3)0.2モル/Lエタノール性塩酸溶液(力価:f1)で滴定し、緑色から黄色に変わった点を終点とする。(滴定量:A1mL)
(4)次式から全アミン価(全A)を算出する。

全アミン価 (全A)=A1×f1×0.2×56.108/S1
【0054】
[2]3級アミン価(3A)測定方法
3級アミン価(3A)とは、試料1g中に含まれる3級アミンを中和するのに要する過塩素酸と等当量の水酸化カリウムのmg数をいう。ASTM D2073に準じ下記方法で測定する。
(1)試料を精秤する。(試料量:S3g)
(2)無水酢酸/酢酸混合溶液(9/1)20mLを加えて溶解し、室温で3時間静置する。
(3)酢酸30mLを加えて、電位差滴定装置にて0.1モル/L過塩素酸/酢酸溶液(力価:f3)で滴定する。(滴定量:A3mL)
(4)上記と同様にして空試験を行う。(滴定量:B1mL)
(5)次式から3級アミン価(3A)を算出する。

3級アミン価(3A)=(A3−B1)×f3×0.1×56.108/S3
【0055】
本発明の水性バインダー(X)中の(A)と(B)の合計含有量は、後述する鉱物繊維積層体の生産性および水性バインダー(X)の均一散布性の観点から好ましくは2〜80重量%、さらに好ましくは4〜70重量%、とくに好ましくは6〜50重量%である。
【0056】
本発明の水性バインダー(X)には、前記(A)、(B)および水の他に、さらに必要により硬化促進剤(C1)、撥水剤(C2)、シランカップリング剤(C3)および中和剤(C4)からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)を含有させてもよい。
【0057】
硬化促進剤(C1)としては、プロトン酸[リン酸化合物(リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アルキルホスフィン酸等)、カルボン酸、炭酸等]、およびその塩[金属(アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、2B族、4A族、4B族、5B族等)塩等]、金属(上記のもの)の、酸化物、塩化物、水酸化物およびアルコキシド、チタンラクテート、ジルコニルアセテート等の水溶性有機金属化合物等が挙げられ、これらは単独使用でも2種類以上併用してもいずれでもよい。
これらのうち硬化速度の観点から好ましいのはリン酸化合物およびその塩、チタンラクテート、ジルコニルアセート、さらに好ましいのはリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アルキルホスフィン酸、およびそれらの塩と、チタンラクテート、ジルコニルアセート、とくに好ましいのは次亜リン酸の塩である。
(C1)の含有量は、硬化性および鉱物繊維の接着性の観点から(A)と(B)の合計重量に基づいて、好ましくは0.1〜20%、さらに好ましくは0.3〜15%、とくに好ましくは0.5〜10%である。
【0058】
撥水剤(C2)としては、ワックスおよび重質オイルが挙げられる。ワックスとしては、動物由来ワックス[蜜ろう、ラノリンワックス、セラックワックス等]、植物由来ワックス[カルナバワックス、木ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス等]、鉱物由来ワックス[モンタンワックス、オゾケライト等]、石油由来ワックス[パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等]、合成ワックス[フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリカーボネートワックス、やし油脂肪酸エステル、牛脂脂肪酸エステル、ステアリン酸アミド、ジヘプタデシルケトン、硬化ひまし油等]が挙げられ、これらは単独使用でも2種類以上併用してもいずれでもよい。
重質オイルとしては、C15〜120のパラフィンあるいはナフテンで構成されているものが挙げられる。
【0059】
これらのうち撥水性の観点から好ましいのはパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、とくに好ましいのはパラフィンワックスである。
(C2)の含有量は、撥水性および鉱物繊維の接着性の観点から(A)と(B)の合計重量に基づいて、好ましくは0.1〜5%、さらに好ましくは0.3〜3%、とくに好ましくは0.5〜2%である。
【0060】
シランカップリング剤(C3)としては、アミノシランカップリング剤[γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等]、エポキシシランカップリング剤[γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等]が挙げられ、これらは単独使用でも2種類以上併用してもいずれでもよい。
(C3)の含有量は、鉱物繊維の接着性の観点から(A)と(B)の合計重量に基づいて、好ましくは0.1〜2%、さらに好ましくは0.2〜2%である。
【0061】
中和剤(C4)は、鉱物繊維から溶出するアルカリ成分を中和するために用いる。(C4)としては、無機酸のアンモニウム塩[硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、亜硫酸アンモニム、リン酸アンモニウム、亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、次亜硫酸アンモニウム、塩素酸塩アンモニウム、ペルオキソ二硫酸二アンモニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム等]が挙げられ、これらは単独使用でも2種類以上併用してもいずれでもよい。
(C4)の含有量は、鉱物繊維積層体の耐加水分解性および鉱物繊維の接着性の観点から(A)と(B)の合計重量に基づいて、好ましくは0.1〜5%、さらに好ましくは1〜3%である。
【0062】
本発明の水性バインダー(X)の製造方法としては、(共)重合体(A)、架橋剤(B)、水、および必要により加えられる添加剤(C)を混合、分散できる方法であれば、とくに限定されることはない。混合時間は通常30分〜3時間であり、水性バインダー(X)の均一混合は目視で確認することができる。
【0063】
本発明の水性バインダー(X)は、従来の、フェノール化合物とホルムアルデヒドとの縮合物であるフェノール樹脂からなるものではないことから、ホルムアルデヒドは含有しない。また、該水性バインダー(X)は、後述の方法で評価される鉱物繊維の接着性、鉱物繊維積層体の耐加水分解性、圧縮後の復元性において極めて優れている。
【0064】
本発明の水性バインダー(X)は、耐熱性積層体材料である鉱物繊維用のバインダーとして好適に用いられる。
鉱物繊維としては、ガラス繊維、スラグ繊維、岩綿、石綿、金属繊維等が挙げられる。
【0065】
[鉱物繊維積層体]
本発明の鉱物繊維積層体は、鉱物繊維に前記水性バインダー(X)を付着させ、これを積層して積層物とした後、これを加熱、成形するか、あるいは、該鉱物繊維またはそのストランド(繊維束)を積層して積層物とし、これに前記水性バインダー(X)を散布し付着させて、これを加熱、成形することにより得られる。
水性バインダー(X)の該鉱物繊維またはその積層物への付着方法としては、例えばエアスプレー法またはエアレススプレー法、パッディング法、含浸法、ロール塗布法、カーテンコーティング法、ビーターデポジション法、凝固法等の公知の方法が挙げられる。
【0066】
鉱物繊維積層体を構成する鉱物繊維(鉱物繊維積層物)の重量に基づく水性バインダー(X)の付着量(固形分)は、鉱物繊維の接着性、積層体表面の平滑性および積層体の柔軟性、圧縮に対する復元性の観点から好ましくは0.4〜40%、さらに好ましくは1〜20%、とくに好ましくは2〜15%である。
【0067】
本発明の鉱物繊維積層体の製造に際して、水性バインダー(X)は、通常、鉱物繊維に適当量付着させた後、加熱、乾燥して硬化させる。
加熱温度は、該積層体の復元性および該積層体の着色抑制、工業上の観点から好ましくは100〜400℃、さらに好ましくは200〜350℃である。
加熱時間は、反応率および該積層体の着色抑制の観点から好ましくは2〜90分、さらに好ましくは5〜40分である。
【0068】
本発明の水性バインダー(X)は、鉱物繊維の積層物に付着後、成形時の加熱で溶融するが、溶融粘度が低いために、該バインダー溶融物は硬化する前に鉱物繊維の交点に効率的に集まりやすく、該交点で重点的に硬化が進行するものと推定される。このため、接着性に優れ、しかも復元性に優れる積層体が得られるものと推定される。
【0069】
本発明の鉱物繊維積層体は、圧縮に対する復元性に優れる。該復元性は後述の復元性試験で評価することができ、本発明の鉱物繊維積層体の復元性試験における復元割合は、該積層体の機能(断熱性、保温性、吸音性等)維持の観点から好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0071】
[(共)重合体の製造]
反応組成および得られた(共)重合体の性状を表1に示す。なお、関係式[1]の満足性については、関係式[1]を満たすものを○、満たさないものを×とした。
【0072】
製造例1
オートクレーブに、溶媒として水176部、連鎖移動剤として1−チオグリセロール3.12部、硫酸鉄0.022部を仕込み、撹拌下窒素を通気してオートクレーブ内の窒素置換を行った(気相酸素濃度500ppm以下)。窒素を吹き込みながら、100℃に昇温した後、過酸化水素水(30重量%水溶液)7.88部を水33部に溶解した水溶液と、アクリル酸(a−1)180部とメタクリル酸メチル(b−1)3.3部を混合した溶液を別々に同時に3時間かけて滴下し、さらに100℃で2時間撹拌して重合させ、不揮発分が40%になるように水を加え、共重合体(A−1)の水溶液を得た。(A−1)はMw36,000、酸価770、MFR23g/10minであった。
【0073】
製造例2、3
製造例1において、表1に従った以外は製造例1と同様に行い、共重合体(A−2)、(A−3)の水溶液を得た。
【0074】
製造例4
オートクレーブに、溶媒として水100部、イソプロパノール70部を仕込み、撹拌下窒素を通気してオートクレーブ内の窒素置換を行った(気相酸素濃度500ppm以下)。窒素を吹き込みながら、80℃に昇温した後、過硫酸ナトリウム0.91部を水25部に溶解した水溶液、アクリル酸(a−1)101部、アクリル酸ブチル(b−4)83部を別々に同時に3時間かけて滴下し、さらに80℃で2時間撹拌して重合させた。窒素を吹き込みながら、88℃まで昇温し、イソプロパノールを留去させた後、圧力を15kPa以下、温度を50℃にしてイソプロパノールが0.5%以下になるまでさらにイソプロパノールを留去させ、不揮発分が40%になるように水を加え、(共)重合体(A−4)の水溶液を得た。(A−4)はMw94,000、酸価430、MFR1.1g/10minであった。
【0075】
製造例5〜7
製造例4において、表1に従った以外は製造例4と同様に行い、共重合体(A−5)〜(A−7)の水溶液を得た。
【0076】
比較製造例1
製造例1において、表1に従った以外は製造例1と同様に行い、重合体(比A−1)の水溶液を得た。
【0077】
比較製造例2〜4
製造例4において、表1に従った以外は製造例4と同様に行い、(共)重合体(比A−2)〜(比A−4)の水溶液を得た。
【0078】
【表1】
【0079】
表1における不飽和モノマー(b)の25℃における溶解度は以下の通りである。
メタクリル酸メチル (b−1):1.59g/水100g
スチレン (b−2):0.03g/水100g
t−ブチルアクリルアミド(b−3):0.70g/水100g
アクリル酸ブチル (b−4):0.16g/水100g
アクリル酸エチル (b−5):1.50g/水100g
【0080】
実施例1〜16、比較例1〜4
表2、3に示した配合組成(部)に従って水性バインダーを調製した。該バインダーを用いて下記の要領で鉱物繊維積層体の試験片を作成し、それぞれ後述の方法で評価した。
【0081】
<鉱物繊維積層体の作成>
[1]接着性評価用積層体(S−1)
タテ×ヨコ×厚みが30cm×30cm×1cm、密度が0.025g/cm3のガラ
ス繊維積層物を、離型処理したタテ×ヨコ×深さが30cm×30cm×5cmの平板金型内に載置した。次に、付着固形分重量が該積層物の重量に対して10%相当量となる水性バインダーをエアスプレーを使用して該積層物に均一噴霧した。該噴霧積層物を220℃の循風乾燥機で45分間熱処理(乾燥、硬化、以下同じ。)を行い、厚み約1cm、密度0.028g/cm3の積層体(S−1)を得た。同様にして積層体(S−1)を合計
2個作成した。
【0082】
[2]復元性評価用積層体(S−2)
タテ×ヨコ×厚みが30cm×30cm×1cm、密度が0.025g/cm3のガラ
ス繊維積層物を、離型処理したタテ×ヨコ×深さが30cm×30cm×5cmの平板金型内に載置した。次に、付着固形分量が該積層物の重量に対して10%相当量となる水性バインダーをエアスプレーを使用して該積層物に均一噴霧した。該噴霧積層物を5個作成し、前記平板金型内に厚さが約5cmとなるように積み重ねた。その後、220℃の循風乾燥機で45分間熱処理(乾燥、硬化)を行い、厚み約5cm、密度0.028g/cm3の積層体(S−2)を得た。同様にして積層体(S−2)を合計2個作成した。
【0083】
<鉱物繊維積層体の評価方法>
前記得られた積層体(S−1)、(S−2)について、下記の方法に従って性能評価した。結果を表2、3に示す。
(1)鉱物繊維積層体の接着性(接着性試験)
積層体(S−1)から、長さ×幅×厚みが10cm×1.5cm×1cmの試験片を5個切り出した。これらをオートグラフ[型番「AGS−500D」、(株)島津製作所製]を用いてJIS R3420「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して引張強さを測定し、試験片5個の平均値を下記の基準で接着性として評価した。
<評価基準>
☆:500N/m2以上
◎:450N/m2以上500N/m2未満
○:400N/m2以上450N/m2未満
△:300N/m2以上400N/m2未満
×:300N/m2未満
【0084】
(2)鉱物繊維積層体の圧縮後の復元性(復元性試験)
積層体(S−2)から、長さ×幅×厚みが5cm×5cm×5cmの試験片5個を切り出した。各試験片の厚みをノギスを用いて0.1mmの単位まで測定した。該試験片を積層体の厚みが元の厚みの1/3になるまで全面圧縮した状態で、温度40℃、湿度50%の雰囲気下で1日静置した。その後圧縮した状態を解除し、解除直後(5分後)の厚みを測定した。
下記の式から復元割合(%)を求め、試験片5個の平均値を下記の基準で評価した。

復元割合(%)=(圧縮後の試験片の厚み/圧縮前の試験片の厚み)×100

<評価基準>
☆:復元割合が95%以上
◎:復元割合が90%以上95%未満
○:復元割合が85%以上90%未満
△:復元割合が80%以上85%未満
×:復元割合が80%未満
【0085】
(3)耐加水分解性試験
積層体(S−1)、(S−2)を60℃、80%RHの恒温恒湿機内に7日間静置した。その後取り出し、25℃、45%RHで1日間乾燥した。乾燥後の積層体について前記(1)、(2)と同様に、接着性および復元性を評価した。
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
表2、3から、本発明の鉱物繊維用水性バインダーを用いて成形した鉱物繊維積層体は、比較例に比べて、鉱物繊維の接着性、該積層体の圧縮後の復元性に優れ、さらに耐加水分解性試験後の接着性、圧縮後の復元性にも優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の鉱物繊維用水性バインダー(X)は、耐熱性積層体材料である鉱物繊維(ガラス繊維等)を接着するのに好適であり、該水性バインダーを用いて成形した鉱物繊維積層体は、建築物や各種装置の断熱材、保温材および吸音材等として幅広い分野に適用できることから、極めて有用である。