特許第6242606号(P6242606)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242606
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】ベーン型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/344 20060101AFI20171127BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20171127BHJP
   F04C 29/12 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   F04C18/344 351E
   F04C18/344 351K
   F04C29/00 D
   F04C29/00 C
   F04C29/12 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-134474(P2013-134474)
(22)【出願日】2013年6月27日
(65)【公開番号】特開2015-10485(P2015-10485A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知靖
(72)【発明者】
【氏名】寺屋 孝則
(72)【発明者】
【氏名】大沢 仁
【審査官】 北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−184770(JP,A)
【文献】 特開平05−001663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/344
F04C 29/00
F04C 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、カム面が形成され、前記ハウジング内に設けられたシリンダと、前記シリンダの軸方向の両端を閉塞し、前記ハウジングに設けられた一対のサイドブロックと、前記一対のサイドブロックに回転自在に支持された駆動軸と、前記駆動軸に固装されて前記シリンダ内に回転可能に収容されるロータと、前記ロータに形成された複数のベーン溝と、前記ベーン溝に摺動自在に挿入され、先端が前記ベーン溝から出没して前記カム面を摺動する複数のベーンと、前記シリンダと前記一対のサイドブロックとにより閉塞された空間に、前記ロータと前記ベーンとによって形成される圧縮室と、前記一対のサイドブロックのうちのフロント側のサイドブロックに隣接して設けられ圧縮される前の流体が導入される吸入室と、前記フロント側のサイドブロックと前記駆動軸との間に設けられたシール部材と、前記シール部材よりも前記駆動軸の軸方向リア側に設けられ、前記吸入室と連通する低圧空間と、前記一対のサイドブロックのうちのリア側のサイドブロックと前記駆動軸の端部とによって画成された軸端部空間と、を備えたベーン型圧縮機において、
前記駆動軸に、前記低圧空間と前記軸端部空間とを連通する通路を設け、これにより前記軸端部空間の圧力を吸入圧相当の圧力にしたことを特徴とするベーン型圧縮機。
【請求項2】
前記駆動軸は、前記フロント側のサイドブロックを貫通して前記ハウジングの外部へ突出していることを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機。
【請求項3】
前記ベーン型圧縮機は、内周面が真円に形成された前記シリンダ、及び、前記シリンダの軸方向の一端側を閉塞するリア側のサイドブロックが一体に形成された第1のハウジング部材と、前記シリンダの軸方向の他端側を閉塞するフロント側のサイドブロックが形成された第2のハウジング部材とを組み合わせてハウジングが構成され、
前記一対のサイドブロックは、前記リア側のサイドブロックと前記フロント側のサイドブロックであることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のベーン型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーン型圧縮機に関し、特にロータ前後のクリアランスの配分を適正な状態に保つために有用な構造を備えたベーン型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置の冷凍サイクル等で用いられるベーン型圧縮機は、各種構成が存在するが(下記の特許公報参照)、例えば、図3の構成で代表されるように、ハウジング5内に形成されてカム面11が内周面に形成されたシリンダ12と、シリンダ12の軸方向の両端を閉塞する一対のサイドブロック(リア側のサイドブロック13、フロント側のサイドブロック21)と、この一対のサイドブロックに回転自在に支持された駆動軸2と、この駆動軸2に固装されてシリンダ内に回転可能に収容されたロータ3と、このロータ3の外周面から内部に向けて形成されたベーン溝8と、このベーン溝8に出没可能に収容されたベーン4とを有し、ベーン4をロータ3の回転による遠心力およびベーン溝8の底部に設けられた背圧室8aからの背圧によってシリンダ12の内周面(カム面11)に接触支持させ、シリンダ12と一対のサイドブロック13,21とにより閉塞された空間にロータ3とベーン4とによって圧縮室31を画成し、この圧縮室31に吸入される流体をロータ3の回転に伴って圧縮させるようにしている。
【0003】
このようなベーン型圧縮機においては、ロータ3のスムーズな回転を確保するために、また、圧縮効率の低下を防ぐために、ロータ3の軸方向の前後の端面とそれぞれのサイドブロック13.21との間に適切なクリアランスが形成されるよう、ロータ3の寸法が管理されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−050038号公報
【特許文献2】特開2007−064163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロータ3が固装されている駆動軸2の一端(前端)は、駆動源に直結させる必要から、或いは、駆動源の動力を伝達する動力伝達部材(プーリ、電磁クラッチ等)を固装する必要から、一方のサイドブロック(フロント側のサイドブロック21)を貫通させるようにしている。
【0006】
このため、駆動軸2の一端が一方のサイドブロック(フロント側のサイドブロック21)を貫通してハウジングの外部に突出している場合には、駆動軸2の一端側に大気圧が作用し、これに対して、駆動軸2の他端側(リア側のサイドブロック13に支持される側)に圧縮機内部の相対的に高い圧力が作用するため、駆動軸2は、軸方向の前後両側に作用する圧力差により、サイドブロックから突出している一端側(前側)へ付勢された状態となり、ロータ3の軸方向の位置は、駆動軸2が貫通しているサイドブロック側(フロント側のサイドブロック21側)へ接近し、ロータ3の前端と前側のフロント側のサイドブロック21との間のクリアランスは相対的に小さくなり、また、ロータ3の後端と後側のリア側のサイドブロック13との間のクリアランスは相対的に大きくなる。このため、クリアランスが大きくなる後側(リア側のサイドブロック13側)で、隣り合う圧縮室間でクリアランスを介して流体が漏流し(オイルシールが悪くなり)、圧縮効率が低下する不都合が生じる。
【0007】
図3の一点鎖線で示されるように、動力伝達部材として電磁クラッチ33が駆動軸2に設けられる場合には、ロータ3に動力が伝達される電磁クラッチ33の吸着時には、クラッチを構成する板バネのバネ力が駆動軸2を介してロータ3を後方(リア側のサイドブロック13側)へ付勢するように作用するため、ロータ3の軸方向の位置は、駆動軸2の軸方向の前後両側に作用する圧力差と電磁クラッチ33のバネ力とによって決まることになるが、一般的にベーン型圧縮機は、小型のものが多く、電磁クラッチのバネ力も駆動軸2の前後両端の圧力差を相殺するほど大きくないため、電磁クラッチ33が設けられていても、ロータ3の後側のクリアランス(ロータ3とリア側のサイドブロック13との間のクリアランス)がロータの前側のクリアランス(ロータ3とフロント側のサイドブロック21との間のクリアランス)よりも大きくなる状態を解消することができず、圧縮効率が低下する不都合は依然として生じている。
【0008】
そこで、従来においては、ロータの後側のクリアランスが許容範囲に収まるようにするために、ロータの軸方向前後のトータルのクリアランス(ロータ前後のクリアランスの和)が大きくなり過ぎないように管理する方法を採用しているが、管理工程の複雑化を招き、また、生産性が低下する等の不都合がある。
【0009】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、駆動軸の前後に作用する力をバランスさせることで、ロータの軸方向前後のクリアランスの配分を適正な状態に保持することが可能なベーン型圧縮機を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明に係るベーン型圧縮機は、ハウジングと、カム面が形成され、前記ハウジング内に設けられたシリンダと、前記シリンダの軸方向の両端を閉塞し、前記ハウジングに設けられた一対のサイドブロックと、前記一対のサイドブロックに回転自在に支持された駆動軸と、前記駆動軸に固装されて前記シリンダ内に回転可能に収容されるロータと、前記ロータに形成された複数のベーン溝と、前記ベーン溝に摺動自在に挿入され、先端が前記ベーン溝から出没して前記カム面を摺動する複数のベーンと、前記シリンダと前記一対のサイドブロックとにより閉塞された空間に、前記ロータと前記ベーンとによって形成される圧縮室と、前記一対のサイドブロックのうちのフロント側のサイドブロックに隣接して設けられ圧縮される前の流体が導入される吸入室と、前記フロント側のサイドブロックと前記駆動軸との間に設けられたシール部材と、前記シール部材よりも前記駆動軸の軸方向リア側に設けられ、前記吸入室と連通する低圧空間と、前記一対のサイドブロックのうちのリア側のサイドブロックと前記駆動軸の端部とによって画成された軸端部空間と、を備えたベーン型圧縮機において、前記駆動軸に、前記低圧空間と前記軸端部空間とを連通する通路を設け、これにより前記軸端部空間の圧力を吸入圧相当の圧力にしたことを特徴としている。
【0011】
したがって、駆動軸に低圧空間と軸端部空間とを連通する通路を設けたので、駆動軸の軸端部空間の圧力は吸入圧相当の圧力となり、駆動軸の両端部に作用する圧力差を小さくすることができる。このため、ロータの軸方向に作用する力をバランスさせることで、ロータの軸方向前後のクリアランス(ロータの一端面とこれに対峙するサイドブロックとの間のクリアランスと、ロータの軸方向の他端面とこれに対峙するサイドブロックとの間のクリアランス)の配分を適正なものとすることが可能となる。
【0012】
なお、上述したサイドブロックの構成は、特に、駆動軸がフロント側のサイドブロックを貫通して電動モータの軸に直結している電動圧縮機において、電動モータを収容する空間が相対的に低圧である場合や、駆動軸がフロント側のサイドブロックを貫通してハウジングの外部へ突出しているような場合において、駆動軸の低圧空間または外部に突出している側と圧縮機のハウジング内に配置される側との圧力差に起因するクリアランスの配分の偏りを調整するために有効な構成である。
【0013】
また、前記ハウジングは、内周面が真円に形成された前記シリンダ、及び、前記シリンダの軸方向の一端側を閉塞する第1のサイドブロックが一体に形成された第1のハウジング部材と、前記シリンダの軸方向の他端側を閉塞する第2のサイドブロックが形成された第2のハウジング部材とを組み合わせて構成し、前記一対のサイドブロックを、第1のサイドブロックと第2のサイドブロックとにより構成してもよい。
このような構成においては、例えば、第1のサイドブロックを前記リア側のサイドブロックに対応させ、第2のサイドブロックをフロント側のサイドブロックに対応させるようにするとよい。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように、本発明によれば、吸入室と連通する低圧空間と、リア側のサイドブロックと駆動軸の端部とによって画成された軸端部空間とを連通する通路を駆動軸に設けたので、駆動軸の前後に作用する力をバランスさせることで、ロータの軸方向前後のクリアランスの配分を適正な状態に保持することが可能となる。このため、ロータのスムーズな回転を確保しつつ、圧縮効率の低下を招くことがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明にかかるベーン型圧縮機を示す断面図である。
図2図2(a)は、図1で示すベーン型圧縮機のA−A線からリア側を見た図であり、また、図2(b)は、図1で示すベーン型圧縮機のB−B線からフロント側を見た図である。
図3図3は、従来のベーン型圧縮機を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のベーン型圧縮機について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1及び図2において、冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに適したベーン型圧縮機が示されている。このベーン型圧縮機1は、駆動軸2と、駆動軸2に固定されて当該駆動軸2の回動に伴い回転するロータ3と、このロータ3に取り付けられるベーン4と、駆動軸2を回転自在に支持すると共にロータ3及びベーン4を収容するハウジング5とを有して構成されている。なお、図1を横に見た場合、左側をフロント側、右側をリア側とする。
【0018】
ハウジング5は、第1のハウジング部材10と第2のハウジング部材20との2つの部材を組み合わせて構成されている。
第1のハウジング部材10は、ロータ3を収納すると共にカム面11が内周面に形成されたシリンダ12と、このシリンダ12の軸方向の一端側(リア側)を閉塞するように一体に形成されたリア側のサイドブロック13とから構成されている。シリンダ12の内周面(カム面11)は、断面が真円に形成され、軸方向の長さが後述するロータ3の軸方向の長さにほぼ等しく形成されている。
【0019】
第2のハウジング部材20は、シリンダ12の軸方向の他端側(フロント側)の端面に当接してこの他端側を閉塞するフロント側のサイドブロック21と、このフロント側のサイドブロック21に一体に形成されて駆動軸2の軸方向に延設され、前記シリンダ12及びリア側のサイドブロック13の外周面を包囲するように形成されたシェル22とを有して構成されている。
【0020】
そして、これら第1のハウジング部材10と第2のハウジング部材20とは、ボルト等の連結具6を介して軸方向に締結され、第1のハウジング部材10のリア側のサイドブロック13と第2のハウジング部材20のシェル22との間は、Oリング等のシール部材7が介在されて気密よくシールされている。
【0021】
また、第2のハウジング部材20には、フロント側のサイドブロック21からフロント側に延設されたボス部23が一体に形成されている。このボス部23には、駆動軸2に回転動力を伝えるプーリ32(一点鎖線で示す)が回転自在に外装され、このプーリ32から電磁クラッチ33を介して回転動力が駆動軸2に伝達されるようになっている。
【0022】
前記駆動軸2は、リア側のサイドブロック13とフロント側のサイドブロック21とにベアリング14,24を介して回転自在に支持されているもので、先端部が第2のハウジング部材20のフロント側のサイドブロック21を貫通してボス部23内に突出し、ボス部23との間に設けられたシール部材25によって該ボス部23との間が気密よくシールされている。
【0023】
このシール部材25よりも駆動軸2の軸方向リア側、この例では、シール部材25とベアリング24との間の駆動軸2の周囲(ボス部23内の駆動軸2が突出する空間のシール部材25よりリア側の部分)には、低圧空間26が形成されている。
また、リア側のサイドブロック13には、駆動軸2がベアリング14を介して挿入される軸受け孔13aの終端部に、このリア側のサイドブロック13と駆動軸2の端部とによって画成された軸端部空間15が設けられている。
【0024】
なお、電磁クラッチ33は、駆動軸2のハウジング部材20(フロント側のサイドブロック21)から突出した部分に、軸方向に取り付けられた板バネ34を介してクラッチ板35をプーリ32の摩擦面32aに対峙して固定し、プーリ32に内包された励磁コイル36への通電によりクラッチ板35をプーリ32に吸着させ、このプーリ32に与えられる走行用エンジンからの回転動力をクラッチ板35及び板バネ34を介して駆動軸2に伝達するそれ自体公知のものである。
このクラッチ板35のプーリ32への吸着により、駆動軸2には、板バネ34のバネ力によってリア側のサイドブロック13側(リア側)へ向かう付勢力が付勢される。
【0025】
前記ロータ3は、断面が真円状に形成され、その軸中心に設けられた挿通孔3aに前記駆動軸2が挿通され、互いの軸中心を一致させた状態で駆動軸2に固定されている。また、シリンダ12の軸中心とロータ3(駆動軸2)の軸中心とは、ロータ3の外周面とシリンダ12の内周面(カム面11)とが周方向の一箇所で当接するようにずらして設けられている(シリンダ12の内径とロータ3の外径との差の1/2だけずらして設けられている)。そして、シリンダ12とリア側のサイドブロック13及びフロント側のサイドブロック21とにより閉塞された空間には、シリンダ12の内周面とロータ3の外周面との間に圧縮空間30が画成されている。
【0026】
前記ロータ3の外周面には、複数のベーン溝8が形成され、それぞれのベーン溝8には、ベーン4が摺動自在に挿入されている。ベーン溝8は、ロータ3の外周面のみならずリア側のサイドブロック13及びフロント側のサイドブロック21と対峙する端面にも開口されており、底部には背圧室8aが形成されている。このベーン溝8は、周方向に等間隔に複数形成されているもので、この例では、180度位相が異なる2箇所に互いに平行となるように形成されており、ベーン4を含む平面と、ベーン4と平行をなし駆動軸2の軸心を含む平面とが所定の距離だけ離れた状態(オフセットされた状態)で形成されている。
【0027】
ベーン4は、駆動軸2の軸方向に沿った長さが前記ロータ3の軸方向の長さに等しく形成され、ベーン溝8への挿入方向(摺動方向)の長さは、ベーン溝8の同方向の長さに略等しく形成されている。このベーン4は、ベーン溝8の背圧室8aに供給される後述するオイルにより、ベーン溝8から突出されて先端部がシリンダ12の内周面(カム面11)に当接可能となっている。
【0028】
したがって、前記圧縮空間30は、ベーン溝8に摺動自在に挿入されたベーン4によって複数の圧縮室31に仕切られ、それぞれの圧縮室31の容積は、ロータ3の回転によって変化するようになっている。
【0029】
ところで、第2のハウジング部材20には、作動流体(冷媒ガス)を外部から吸入する吸入口27および外部へ吐出する吐出口28が形成され、フロント側のサイドブロック21には、前記吸入口27と連通し、フロント側のサイドブロックに隣接して設けられて圧縮される前の流体が導入される吸入室29とが形成されている。
【0030】
また、第1のハウジング部材10のシリンダ12には、ロータ3の外周面がシリンダ12の内周面と当接する部位(ラジアルシール部40)に対してロータ3の回転方向の前方側の近傍に、前記吸入室29に連通して前記圧縮室31に流体を吸入するための吸入ポート16が形成されている。
【0031】
さらに、第1のハウジング部材10には、ラジアルシール部40に対してロータ3の回転方向の後方側の近傍に、前記圧縮室で圧縮された流体を吐出するための吐出ポート17が設けられ、また、この吐出ポート17を介して吐出された流体を吐出口28に導く吐出室18が形成されている。
【0032】
吐出室18と吐出口28との間には図示しないオイル分離器が配置されており、第1のハウジング部材10のリア側のサイドブロック13の下部と第2のハウジング部材20のシェル22の下部との間には、オイル分離器によって流体から分離された高圧オイルを溜めるオイル室19が設けられている。
【0033】
なお、リア側のサイドブロック13のロータ3の端面と対峙する面には、駆動軸2がベアリング14を介して挿入される軸受け孔13aの開口周縁を凹ませて周方向に延設されたリア側のオイル導入溝41が形成されている。このリア側のオイル導入溝41は、ラジアルシール部40が設けられた角度位置から吐出ポート17が設けられた角度位置より手前までの所定の角度範囲(約270度の角度範囲)にかけて形成され、絞り部を有するオイル連通路42を介して前記オイル室19と接続されている。
【0034】
したがって、吐出圧が高くなると、オイル室19に貯留されている高圧オイルは、オイル連通路42を介してリア側のサイドブロック13に形成されたリア側のオイル導入溝41に供給され、このリア側のオイル導入溝41からベアリング14等の摺動部分やロータ3の背圧室8aに送り込まれるようになっている。この背圧室8aに送り込まれたオイルにより、ベーン4はシリンダ12の内周面(カム面11)に押し付けられ、安定した圧縮が確保されるようになっている。
【0035】
さらに、フロント側のサイドブロック21のロータ3の端面と対峙する面には、駆動軸2がベアリング24を介して挿入される軸受け孔21aの開口周縁を凹ませて周方向に延設されたフロント側のオイル導入溝43が形成されている。このフロント側のオイル導入溝43は、ラジアルシール部40が設けられた角度位置から吐出ポート17が設けられた角度位置より手前までの所定の角度範囲(約270度の角度範囲)にかけて形成され、ベーン4の先端部が吸入ポート16に差し掛かる位置から吐出ポート17に差し掛かる直前までの角度範囲にある場合にベーン溝8の底部(背圧室8a)と連通するようになっている。
【0036】
したがって、背圧室8aに送り込まれたオイルは、この背圧室8aがフロント側のオイル導入溝43と連通する行程でフロント側のオイル導入溝43に供給され、このフロント側のオイル導入溝43を介してベアリング等の摺動部分に送り込まれるようになっている。
なお、図2において、37は、連結具6を螺合するねじ穴である。
【0037】
そして、このような構成において、フロント側のハウジング部材には、吸入室29と低圧空間26とを連通する連通路51が設けられ、また、駆動軸2には、低圧空間26と軸端部空間15とを連通する通路52が設けられている。具体的には、連通路51は、吸入室29から低圧空間26にかけて駆動軸2に対して略垂直に穿設された通路によって構成され、駆動軸2に設けられた通路52は、駆動軸2の径方向に形成されて、一端が低圧空間26に開口し他端が駆動軸2の中心まで延設された径方向穴52aと、駆動軸2の中央を軸方向に形成されて、一端が径方向穴52aに連通し他端が軸端部空間15まで延設された軸方向穴52bとを有して構成されている。
【0038】
したがって、低圧空間26は、連通路51を介して吸入室29と連通しており、また、軸端部空間15は、低圧空間26と通路52を介して連通しているので、低圧空間26および軸端部空間15は、吸入圧相当の圧力に保たれている。
このため、電磁クラッチ33が設けられている場合において、駆動軸2に動力が伝達される電磁クラッチ33の吸着時には、ロータ3の軸方向の位置は、駆動軸2の前後両側に作用する圧力差と、電磁クラッチ33の板バネ34のバネ力と、が釣り合った位置となる。
【0039】
駆動軸2のフロント側は、フロント側のサイドブロック21を介してハウジング5の外部(大気中)に突出しているので、駆動軸2のフロント端には、板バネ34を介して大気圧が作用すると共に電磁クラッチ33の板バネ34のバネ力が作用している。これに対して、駆動軸2のリア端には吸入圧相当の圧力が作用するので、フロント側のサイドブロック21側への付勢力が小さくなっており、軸方向の前後に作用する圧力差を小さくすることが可能となる。このため、駆動軸2の前後に作用する力をバランスさせ、ロータ3の軸方向前後のクリアランスの配分を適正な状態に保持することが可能となる。
【0040】
なお、以上の構成においては、ベーン4が2枚の場合の圧縮機について説明したが、3枚以上のベーン型圧縮機においても、同様の構成を採用することが可能であり、また、2枚ベーンの構成においても、上述の例では、ベーン溝8(ベーン4)がオフセットして設けられた例を示したが、ベーン4を含む平面と、ベーン4と平行をなし駆動軸2の軸心を含む平面とを一致させる(オフセットを0にする)場合や、逆側にオフセットしている場合においても、同様の構成を採用してロータ3の軸方向前後のクリアランス配分を調整するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 ベーン型圧縮機
2 駆動軸
3 ロータ
4 ベーン
5 ハウジング
8 ベーン溝
8a 背圧室
10 第1のハウジング部材
11 カム面
12 シリンダ
13 リア側のサイドブロック
18 吐出室
20 第2のハウジング部材
21 フロント側のサイドブロック
29 吸入室
31 圧縮室
図1
図2
図3